(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、液体燃料においては、硫黄含有量をより低減させることが要求されている。その要求に対して、燃料油メーカーでは既に様々なクリーン燃料製造法を検討してきた。特にガソリンにおいては硫黄分10質量ppm以下の規制があるため、燃料油メーカーでは触媒の改良や設備の増設等の対応策を採ってきた。
一般に、ガソリンの主基材は流動接触分解装置(FCC)で生成する分解ガソリンである。したがって、ガソリン中の硫黄分を低減するためには、分解ガソリン中の硫黄分を低減することが重要である。
この分解ガソリン中の硫黄分はFCCの原料である重質油(一般的に減圧軽油または常圧蒸留残油)の硫黄分に左右され、FCC原料の硫黄分が高いほど、分解ガソリンの硫黄分が高くなることが知られている。従って、硫黄分が低いクリーンなガソリンを製造するためには、FCCの原料である重質油中の硫黄分をあらかじめ除去する必要がある。
FCCの原料を脱硫するための水素化精製処理(FCCの前処理)では、一般に脱メタル触媒と脱硫触媒の組み合わせから成る水素化精製用触媒を充填した固定床反応塔にて、水素気流中、高温高圧の反応条件で重質油を水素化精製する処理が行なわれる。重質油中の硫黄分は、この水素化精製条件が過酷になればなる程、より低下するのでクリーンなガソリンを製造するには好ましい。しかしながら、意図的に水素化反応条件を過酷にしたり、硫黄分が多い重質油を処理する為、必然的に反応条件が過酷になると、水素化精製触媒の寿命が短くなり、結果として装置を止めて新たに触媒を充填して水素化精製を再開させる必要がある。このような場合、製造されるガソリンのコストが高くなり、経済性に大きな悪影響を及ぼすことになる。
上述したように、重質油の水素化精製処理では脱メタル触媒と脱硫触媒とを積層して使用するのが一般的である。この理由として、脱硫触媒のメタル堆積による失活を防ぐ為に前段に脱メタル触媒が必要であると考えられる。非特許文献1〜3に脱メタル触媒の有効性を示した例が開示されている。
重質油の水素化精製触媒を劣化させる原因として、メタル堆積の他にコーク堆積がある。触媒上に堆積するコークの原因は原料の重質油に含まれるアスファルテン(ヘプタンのようなパラフィン不溶分)であると考えられ、水素化精製前に原料の溶剤脱れき(SDA)処理によりアスファルテンを除去しておくことが触媒寿命延長に有効であることが非特許文献4に開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明は、常圧残油および/または減圧軽油と溶剤脱れき油(DAO)との混合原料を水素化精製する際、水素化精製触媒の寿命を延長し、プロセスの経済性を高めた重質油の水素化精製方法に関する。
【0009】
本発明の水素化精製に用いられる原料となる重質油は、常圧残油および/または減圧軽油と、溶剤脱れき油(DAO)との混合原料である。
常圧残油とは、石油系の原油、オイルサンド由来の合成原油、ビチュメン改質油などを常圧蒸留塔にて蒸留した際のボトム分で、沸点343℃以上の留分を80質量%以上含んだ重質油である。
減圧軽油(VGO)とは、常圧残油を減圧下で蒸留した際の留出分で、沸点343〜550℃の留分を70質量%以上含んだ重質油である。
溶剤脱れき油(DAO)とは常圧残油を減圧下で蒸留した際のボトム分(沸点550℃以上の留分を70質量%以上含んだ重質油)を炭素数3〜6までの鎖状飽和炭化水素を溶剤として抽出した留分である。炭素数3〜6までの鎖状飽和炭化水素としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサンが挙げられる。特に、これら鎖状飽和炭化水素を少なくとも2種以上組み合わせると、水素化精製触媒の寿命が長くなる傾向にあるので好ましい。
【0010】
水素化精製の混合原料全体に対するDAOの割合は、30〜90容量%が好ましく、40〜80容量%が更に好ましい。30容量%未満の場合、水素化精製触媒の寿命への影響がなくなる傾向にあり、本発明の効果が少なくなる傾向にあるので好ましくない。一方、90容量%を超えると水素化精製触媒の寿命が短くなる傾向にあるので好ましくない。
【0011】
本発明における水素化精製触媒は、脱メタル触媒(前段)と脱硫触媒(後段)とを組み合わせて使用する。
脱メタル触媒は脱メタル機能と脱硫機能とを有し、相対的に脱メタル活性が高い触媒であり、水素化精製条件下で原料油中に含まれるニッケルやバナジウム等の金属分を吸着する機能を主に有する。脱メタル触媒は、例えば、アルミナやシリカアルミナを担体として活性金属にMoを主成分として、Ni、Co、Wなどの金属を組み合わせたものであり、メタル吸着量を大きくするために、平均細孔径が13〜20nm、細孔容積が0.7〜1.4cm
3/g、表面積70〜180m
2/gであることが好ましい。代表的には、Ni−Mo、およびNi−Co−Mo触媒が挙げられる。
【0012】
脱硫触媒は脱硫機能と脱メタル機能とを有し、相対的に脱硫活性が高い触媒であり、水素化精製条件下で原料油中に含まれる硫黄分および窒素分を除去する機能を主に有する。
脱硫触媒は、例えば、アルミナやシリカアルミナを担体として活性金属にMoを主成分として、Ni、Co、Wなどの金属を組み合わせたものであり、脱メタル触媒に比較して表面積が大きいのが特徴であり、平均細孔径が8〜12nm、細孔容積が0.4〜1.0cm
3/g、表面積180〜250m
2/gであることが好ましい。代表的には、Ni−Mo、Co−MoおよびNi−Co−Mo触媒が挙げられる。
【0013】
これら水素化精製触媒の形状は角柱上、円柱状、三つ葉型、四つ葉型、球状など、特に限定されること無く種々の形状を用いることが出来る。また、これら触媒の大きさも特に限定されないが、脱メタル触媒の粒径は1〜8mm程度が好適であり、脱硫触媒の粒径は0.8〜3.0mmが好適である。
【0014】
水素化精製触媒全体に対する脱メタル触媒の割合は30〜80容積%が好ましく、30〜60容積%が更に好ましい。脱メタル触媒が30容積%未満の場合、脱メタル活性が低くなり、脱硫活性が劣化しやすい傾向になるので好ましくない。また、80容積%を超えると使用する脱硫触媒が少なくなり、脱硫活性が低下し、その結果、生成油中の目的とする硫黄分を得る為に反応温度が上昇し触媒寿命が短くなる傾向にあるので好ましくない。
【0015】
脱メタル触媒と脱硫触媒は、同一の反応塔に積層して充填したり、別々の反応塔に充填して使用することが出来る。反応塔に対する原料油の流れに制限はなく、初めに脱メタル触媒層を通過した後、脱硫触媒層を通過すれば、アップフローでもダウンフローでも良い。
【0016】
水素化精製(脱メタルと脱硫)は、充填された触媒を予備硫化した後に行う。予備硫化はこれまでに石油精製で使用されてきた方法、例えば、硫化水素ガスやジメチルヂスルフィドなどの硫化剤を用いた硫化方法を採用することができる。
【0017】
水素化精製の液空間速度(LHSV)は0.1〜0.8h
−1が好ましく、0.15〜0.60h
−1がより好ましく、0.2〜0.5h
−1がさらに好ましい。0.1h
−1未満では重質油の処理量が低く、プロセスの経済性が低下するので好ましくない。また、0.8h
−1を超えると反応温度が高くなり、触媒寿命が短くなる傾向にあるので、結果として経済性が悪化するので好ましくない。
【0018】
水素化精製の水素/油比は3000〜8000scfb(1バレルあたりの標準立方フィート)が好ましく、3500〜6000scfbがより好ましく、4000〜5000scfbがさらに好ましい。3000scfb未満の場合、触媒の劣化が進行する傾向にあるので好ましくない。また、8000scfbを超えても触媒劣化への影響がなくなる傾向にあるので、好ましくない。
【0019】
水素化精製の反応圧力は10〜18MPaが好ましく、11〜17MPaがより好ましく、13〜16MPaがさらに好ましい。10MPa未満の場合、脱硫が進行しにくくなり、反応温度の上昇による触媒劣化が起こりやすくなるので好ましくない。一方、18MPaを越えると高価な耐圧性の反応塔が必要になり、かつ水素消費量が増加し、プロセスの経済性が悪化する傾向にあるので好ましくない。
【0020】
水素化精製の反応温度は350〜420℃が好ましく、370〜410℃がより好ましく、380〜400℃がさらに好ましい。350℃未満の場合、目的とする生成油の硫黄分が得られない傾向にあるのでので好ましくない。一方、420℃を越えるとコーキング反応が顕著になり反応塔内の差圧が発生する傾向にあるので好ましくない。
【0021】
水素化精製は、脱メタル反応と脱硫反応を上述した条件の下、同じ条件で行っても良く、また異なる条件で行うことができる。例えば、同一の反応塔に脱メタル触媒と脱硫触媒を充填する固定床装置の場合には同じ条件で水素化精製が行なわれる。また、反応塔を別々にし、前段の反応塔に脱メタル触媒を、後段の反応塔に脱硫触媒を充填する場合は、各々の反応条件を独立にして行うこともできる。
【0022】
本発明における脱メタル触媒の役割は重要である。通常は重質原料油からバナジウムやニッケルなどの金属分を除去することで後段の脱硫触媒をメタル失活から防ぐことが主目的なので、脱メタル触媒層で金属分を多く除去した方が好ましい。しかしながら、常圧残油および/または減圧軽油と、溶剤脱れき油とを混合した原料油を用いた場合、脱メタル触媒により原料油から金属分を極力除去するのではなく、脱メタル触媒層を通過した脱メタル油中の金属の含有量を30質量ppm以上45質量ppm以下の範囲に調整することにより、かつ脱メタル油中の硫黄分1.1質量%以上の範囲とすることにより、水素化精製触媒の寿命を長くすることができることを本発明者らにより見出されたものである。
したがって、本発明における常圧残油および/または減圧軽油と、溶剤脱れき油とを含む重質な原料油では、前段の脱メタル触媒層を通過して得られる脱メタル油中の金属分の含有量を30質量ppm以上とすることが必要であり、より好ましくは31質量ppm以上である。脱メタル油中の金属分が30質量ppm未満にまで脱メタルした場合、後段の水素化精製(水素化脱硫)による生成油中の硫黄分を一定にする運転において反応温度が上昇し、結果として触媒寿命が短くなる傾向にあるので好ましくない。一方、上限は45質量ppm以下とすることが必要であり、42質量ppm以下がより好ましい。脱メタル油中の金属分が45質量ppmを超える場合は、後段の水素化精製(水素化脱硫)による生成油中の硫黄分を一定にする運転において反応温度が上昇し、結果として触媒寿命が短くなる傾向にあるので好ましくない。
【0023】
また、前段の脱メタル触媒層を通過して得られる脱メタル油中の硫黄分は1.1質量%以上であり、更に1.2質量%以上であることがより好ましい。1.1質量%未満の場合、触媒劣化が進行し、触媒寿命が短くなる傾向にあるので好ましくない。一方、上限は、2.2質量%以下が好ましく、1.8質量%以下がより好ましく、1.6質量%以下がさらに好ましい。脱メタル油の硫黄分が2.2質量%を超える場合は、水素化精製による生成油中の硫黄分を一定にする運転において反応温度が上昇し、結果として触媒寿命が短くなる傾向にあるので好ましくない。
なお、ここで金属分とは蛍光X線分析により求めた値であり、硫黄分とはJIS K2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」に準拠して求めた値である。
【0024】
本発明の重質油の水素化精製方法では、常圧残油および/または減圧軽油と、溶剤脱れき油とを混合した原料油を用いる場合に、脱メタル触媒層を通過した脱メタル油中の金属の含有量を30質量ppm以上45質量ppm以下、硫黄分を1.1質量%以上の範囲に調整することにより、水素化精製触媒の寿命を延長し、硫黄分が十分に除去された生成油を得ることが出来る。脱メタル触媒および脱硫触媒で水素化精製された最終生成物の硫黄分は0.4質量%以下が好ましく、0.3質量%以下が更に好ましい。最終生成油の硫黄分が0.4質量%を超えるとFCCから得られる分解ガソリン中の硫黄分が上昇する傾向にあるので好ましくない。
【実施例】
【0025】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0026】
[予備硫化]
2つの反応塔を有する流通式固定床反応装置に、脱メタル触媒と脱硫触媒とを別々の反応塔に所定量充填し、混合ガス(水素:硫化水素=97:3容量%)を30L/時間の流速で流しながら、全圧15MPaにて反応塔を室温から10℃/分の速度で240℃まで加熱昇温した。次いで、240℃で4時間保持した後、再び340℃まで昇温した。340℃で24時間保持して、予備硫化を終了した。
【0027】
[触媒の安定化]
予備硫化終了後、340℃のまま中東系原油の常圧残油(沸点355℃+、硫黄分3.7質量%、金属分93質量ppm)を反応塔内に液空間速度0.2h
−1で導入した。その後すぐに、反応圧力を12.7MPaまで下げ、反応温度を5℃/hの速度で380℃まで昇温した。380℃のまま水素/油比5000scfbの条件下、30日間通油を継続し、触媒活性を安定化させた。
【0028】
(実施例1)
Ni−Mo系脱メタル触媒(平均細孔径15nm、表面積118m
2/g)35mlとNi−Mo系脱硫触媒(平均細孔径12nm、表面積210m
2/g)65mlとを別々の固定床反応塔に充填し、前述した条件にて、予備硫化を行った後、次いで触媒を安定化した。
触媒の安定化後、反応圧力、水素/油比、反応温度、液空間速度(LHSV)をそれぞれ12.7MPa、5000scfb、380℃、0.2h
−1に保ったまま、常圧残油とノルマルブタンの溶剤脱れき(SDA)から得られたDAOを30:70(容積比)で混合した原料油(硫黄分4.40質量%、金属分72質量ppm)に切り替えて最終生成油の硫黄分が0.28質量%になるように反応温度を調節しながら、水素化精製を90日間行った。この時の反応温度は、脱メタル触媒層および脱硫触媒層で同一とした。触媒寿命の指標として、この90日間の触媒劣化速度を求めた。その結果を表1に示す。また、脱メタル触媒層を通過した油(第1反応塔出口油)を約30日毎に採取し、その硫黄分および金属分(Ni+V)を測定した。その結果を表1に示す。
【0029】
(比較例1)
水素化精製の原料にDAOを混合しなかったこと以外は、実施例1と同様に予備硫化、触媒の安定化および水素化精製を行った。この時の触媒劣化速度、脱メタル触媒層を通過した油の硫黄分および金属分を表1に示す。
【0030】
(比較例2)
水素化精製時に脱メタル触媒層の温度を390℃一定にし、脱硫触媒層の温度のみ変化させたこと以外は、実施例1と同様に予備硫化、触媒の安定化および水素化精製を行った。この時の触媒劣化速度、脱メタル触媒層を通過した油の硫黄分および金属分を表1に示す。
【0031】
(実施例2)
水素化精製の原料油として、常圧残油の代わりに減圧軽油(VGO、沸点350℃+、硫黄分2.61質量%、金属分1質量ppm)を用い、VGOとDAOを20:80(容積比)で混合した原料油(硫黄分4.30質量%、金属分51質量ppm)を使用したこと以外は実施例1と同様に予備硫化、触媒の安定化および水素化精製を行った。この時の触媒劣化速度、脱メタル触媒層を通過した油の硫黄分および金属分を表1に示す。
【0032】
(比較例3)
水素化精製時に脱メタル触媒層の温度を385℃一定にしたこと以外は、実施例2と同様に予備硫化、触媒の安定化および水素化精製を行った。この時の触媒劣化速度、脱メタル触媒層を通過した油の硫黄分および金属分を表1に示す。
【0033】
(実施例3)
水素化精製の原料油として、VGO:DAO=10:90(容積比)で混合した原料油(硫黄分4.50質量%、金属分57質量ppm)を使用し、平均細孔径18nm、表面積106m
2/gのNi−Mo系脱メタル触媒を触媒全量の50容積%としたこと以外は、実施例2と同様に予備硫化、触媒の安定化および水素化精製を行った。この時の触媒劣化速度、脱メタル触媒層を通過した油の硫黄分および金属分を表1に示す。
【0034】
(比較例4)
水素化精製時に脱メタル触媒層の温度を385℃一定にしたこと以外は、実施例3と同様に予備硫化、触媒の安定化および水素化精製を行った。この時の触媒劣化速度、脱メタル触媒層を通過した油の硫黄分および金属分を表1に示す。
【0035】
(実施例4)
水素化精製時の圧力を15.0MPa、水素/油比を4000scfbにしたこと以外は実施例1と同様に予備硫化、触媒の安定化および水素化精製を行った。この時の原料油性状、触媒劣化速度、脱メタル触媒層を通過した油の硫黄分および金属分を表1に示す。
【0036】
(実施例5)
ノルマルブタン、ノルマルペンタン、ノルマルへキサンが40:40:20(容積比)で混合した溶剤による溶剤脱れきから得られたDAOを用いたこと以外は、実施例1と同様に予備硫化、触媒の安定化および水素化精製を行った。この時の触媒劣化速度、脱メタル触媒層を通過した油の硫黄分および金属分を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
常圧残油または減圧軽油(VGO)と溶剤脱れき油(VGO)とを混合した原料を脱メタル触媒と脱硫触媒との組み合わせから成る触媒で水素化精製する時、脱メタル触媒層を通過して得られた脱メタル油中の硫黄分が1.1質量%以上であり、かつ金属分が30質量ppm以上45質量ppm以下のときに限り、水素化精製触媒の劣化を抑制し、最終生成油中の硫黄分が0.4質量%以下となる重質油を製造することができる。