(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
動脈硬化の検査には、例えば、下肢血管の血流障害の検査と、動脈伸展性の検査とがある。これらの検査に用いられる血圧脈波検査装置は、血圧や脈波といった生体情報を計測して、動脈硬化度を導出することができる。以下、動脈硬化度について幾つかの例を挙げて説明する。なお、各指標の計測手法はここで説明するものだけに限定されず、様々な手法で計測することができる。
【0003】
下肢血管の血流障害の検査には、例えばABI(Ankle Brachial Index)が用いられる。
【0004】
ABIは、足首の収縮期血圧の値を上腕の収縮期血圧の値で除算して得られる値であり、API又はABPIと呼ばれることもある。ABIに類似した指標として、TBI(Toe Pressure Index)と呼ばれるものもある。TBIは、足趾(足の指)の収縮期血圧の値を上腕に収縮期血圧の値で除算して得られる値であり、TPI又はTBPIと呼ばれることもある。
【0005】
動脈伸展性の検査には、例えば、大動脈PWV(Pulse Wave Velocity)(例えば、非特許文献1参照)やbaPWV(brachial-ankle Pulse Wave Velocity:上腕−足首間PWV)(例えば、非特許文献2参照)、CAVI(Cardio-Ankle Vascular Index)(例えば、非特許文献3参照)等が用いられる。
【0006】
PWVとは、脈波伝播速度であり、血管上の異なる2点間の距離の値を2点での脈波の時間差の値で除算して得られる、速度の単位を持つ値である。脈波の計測には、例えば、空気伝導式、光電式、空気袋式、アモルファス式、トノメトリ式等、各種方式の脈波センサが用いられ得る。また、PWV計測の対象部位としては、弾性動脈である大動脈が採用されることがあり、大動脈で計測されたPWVを大動脈PWVという。大動脈PWVの計測方法としては、主に2つのものがある。
【0007】
一方の大動脈PWV計測方法では、例えば次の式(1)により大動脈PWVを求める。
PWV=(b+c−a)/ΔT ・・・(1)
ここで、ΔTは、頸動脈部での脈波立ち上がり部と大腿動脈部での脈波立ち上がり部との時間差であり、aは、胸骨上窩から頸動脈部までの距離であり、bは、胸骨上窩から臍部までの距離であり、cは、臍部から大腿動脈部までの距離である。
【0008】
他方の大動脈PWV計測方法では、例えば次の式(2)により大動脈PWVを求める。
PWV=D×1.3/(ΔT+Tc) ・・・(2)
ここで、ΔTは、頸動脈部での脈波立ち上がり部と大腿動脈部での脈波立ち上がり部との時間差であり、Tcは、心II音(大動脈弁閉鎖の際に生じる心音)の開始から頸動脈部での脈波の切痕部(ディクロティックノッチ)までの時間であり、Dは、心II音を計測する心音マイクが置かれた第II肋間胸骨右縁から大腿動脈部までの直線距離であり、1.3は解剖学的補正値である。
【0009】
baPWVは、例えば次の式(3)により求められる。
baPWV=(La−Lb)/Tba ・・・(3)
ここで、Tbaは、カフを用いてそれぞれ計測される、上腕での脈波立ち上がり部と足首での脈波立ち上がり部との時間差であり、Laは、大動脈弁口部から足首までの距離であり、Lbは、大動脈弁口部から上腕までの距離である。
【0010】
また、CAVIの計測では、上腕と足首(又は膝窩)とにカフを装着して血圧及び脈波の計測をすると共に、胸骨に心音マイクを装着して心音を計測する。CAVIは、例えば次の式(4)により求められる。
【数1】
ここで、Psは、上腕の収縮期血圧であり、Pdは、上腕の拡張期血圧であり、ρは血液密度であり、ΔPは、Ps−Pdである。また、PWVは、脈波伝播速度であり、例えば次の式(5)により求められる。
【数2】
ここで、Tbは、心II音の開始から上腕での脈波の切痕部までの時間であり、Tbaは、上腕での脈波立ち上がり部と足首での脈波立ち上がり部との時間差であり、Dは、心II音を計測する心音マイクが置かれた胸骨右縁第II肋間から大腿動脈部までの直線距離であり、1.3は解剖学的補正値であり、L2は、大腿動脈部から膝関節中央部までの直線距離であり、L3は、膝関節中央部から足首カフ装着中央部までの直線距離である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施の形態に係る血圧脈波検査装置の構成を示す図である。
【0020】
図1において、血圧脈波検査装置は、演算制御部10、表示部70、記録部75、保存部80、音声発生部85、入力/指示部90、上腕用計測制御部201、下肢用計測制御部202、心音計測部203、心電図計測部204及び脈波計測部205を、本体の筐体内に収容してなるものである。上腕用計測制御部201には、右上腕用カフ21R及び左上腕用カフ21Lがそれぞれホース21hを介して接続され、下肢用計測制御部202には、右足首用カフ22R及び左足首用カフ22Lがそれぞれホース22hを介して接続され、心音計測部203には心音マイク23が接続され、心電図計測部204には、四肢用心電電極部24a及び胸部用心電電極部24bが接続され、脈波計測部205には、アモルファス式脈波センサ25a、25bが接続されている。上腕用計測制御部201及び下肢用計測制御部202は、血圧脈波計測部200を構成する。
【0021】
演算制御部10は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、各種インタフェース等を有するコンピュータである。演算制御部10は、ROMに記憶された制御プログラムをCPUで実行することにより、以下説明する装置全体の動作を制御する。
【0022】
また、演算制御部10は、各種の生体情報の計測を行う上腕用計測制御部201、下肢用計測制御部202、心音計測部203、心電図計測部204及び脈波計測部205(以下「各生体情報計測部」という)を制御する。
【0023】
また、演算制御部10は、各生体情報計測部から供給された生体情報を受信する。そして、受信した生体情報を、画面に表示する必要があるときには表示用データに編集又は変換した上で表示部70に、レポート用の用紙に印字する必要があるときには印字用データに編集又は変換した上で記録部75に、出力する。また、演算制御部10は適宜、受信した生体情報を保存部80に保存したり、保存された生体情報を読み出したりする。
【0024】
また、導出部としての演算制御部10は、各生体情報計測部から受信した生体情報の波形分析を行う。波形分析では、波形における特徴部(区分点)の検出等を行う。特徴部としては、例えば、心II音の開始部、上腕での脈波の立ち上がり部、足首での脈波の立ち上がり部、上腕での脈波の切痕部、等が挙げられる。演算制御部10は、この分析結果と、受信した生体情報により示された数値(例えば血圧)とに基づいて、動脈硬化度の算出を行う。算出され得る動脈硬化度及びその算出式等については、既に説明したため、ここでは省略する。
【0025】
また、演算制御部10は、この動脈硬化度及び波形分析結果も、生体情報と同様に、画面に表示する必要があるときには表示用データに編集又は変換した上で表示部70に、レポート用の用紙に印字する必要があるときには印字用データに編集又は変換した上で記録部75に、出力する。また、演算制御部10は適宜、動脈硬化度及び分析結果を保存部80に保存したり、保存されたそれらの情報を読み出したりする。
【0026】
また、演算制御部10は、ユーザによる操作を支援するための音声ガイダンスが必要なときには、ガイダンス用データを音声発生部85に出力する。
【0027】
また、演算制御部10は、ユーザの操作による入力や指示の内容を入力/指示部90から受信し、受信内容に従って、各生体情報計測部や表示部70、記録部75、保存部80、音声発生部85の機能に関連する設定を行ったり、それぞれの動作の開始や停止を制御したりする。
【0028】
表示部70は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)等の表示画面を有する表示装置であり、演算制御部10から表示用データとして入力された生体情報、波形分析結果及び動脈硬化度を画面に表示する。
【0029】
記録部75は、給紙機構や印字用ヘッド等を主要構成として有し、演算制御部10から印字用データとして入力された生体情報、波形分析結果及び動脈硬化度を用紙に印字する。
【0030】
保存部80は、ハードディスクドライブや書き込み可能な光ディスクドライブ、不揮発性メモリ等により構成され、演算制御部10からの情報の保持が可能である。
【0031】
音声発生部85は、スピーカ等を主要構成として有し、演算制御部10から入力されたガイダンス用データ又は報知音出力指示信号に従って、ガイダンス音声又は報知音を生成する。
【0032】
入力/指示部90は、キーボードやマウス、ボタン、タッチパネル等から構成され、ユーザの操作による入力や指示を可能にする。ユーザによる入力や指示の内容は演算制御部10に通知される。
【0033】
脈波計測部205は、アモルファス式の脈波計測手段である。脈波計測部205は、被検者に適切に装着されたアモルファス式脈波センサ25a、25bにより検出された被検者の脈波信号を演算制御部10に供給することにより、脈波の計測を行う。脈波の計測は、生体情報取得装置の電源投入時に開始されてもよいし、演算制御部10からの脈波計測開始指示の受信時に開始されてもよい。脈波計測部205による脈波の計測は、演算制御部10で大動脈PWVを求める場合に好適に用いられ、この場合、アモルファス式脈波センサ25a、25bの一方は、被検者の頸動脈部に装着され、他方は、被検者の大腿動脈部又は膝部に装着される。
【0034】
心電図計測部204は、被検者に装着された四肢用心電電極部24a及び胸部用心電電極部24bにより検出された心電図信号を演算制御部10に供給することにより、心電図の計測を行う。四肢用心電電極部24aは、典型的には、右手首、左手首、右足首及び左足首にそれぞれ装着される4つの心電電極からなる。両足首用の心電電極に関しては、両足首への装着が右足首用カフ22R及び左足首用カフ22Lにより妨げられないように形成されていることが好ましい。また、胸部用心電電極部25bは、典型的には、胸部の6箇所にそれぞれ装着される6つの心電電極からなる。
【0035】
心音計測部203は、被検者に装着された心音マイク23により検出された心音信号を演算制御部10に供給することにより、心音の計測を行う。
【0036】
計測部及び圧力制御部としての血圧脈波計測部200は、本実施の形態では、上肢用計測制御部201と下肢用計測制御部202とを独立に設けてなるものであるが、上肢用計測制御部201と下肢用計測制御部202と一体化してなるものであってもよい。血圧脈波計測部200は、オシロメトリック式の血圧脈波計測手段であり、血圧計測手段及び脈波計測手段の両方の機能を有する。
【0037】
上腕用計測制御部201は、2つの圧力センサ211R、211Lを有する他に、ポンプ、排気弁、CPU、メモリ及びフィルタを有する。メモリには、ポンプ、排気弁、右上腕用カフ21R及び左上腕用カフ21Lによる血圧計測及び脈波計測を制御するプログラムと、この制御に関連する設定情報とが記憶されている。上腕用計測制御部201は、CPUによりプログラムを設定情報に従って実行する。上腕用計測制御部201は、ポンプ及び排気弁を用いて、ホース21hを介して右上腕用カフ21R及び左上腕用カフ21Lのゴム嚢21aR、21aLに空気を導入することにより右上腕用カフ21R及び左上腕用カフ21Lの加圧を行う一方、ゴム嚢21aR、21aLから空気を排出することにより、右上腕用カフ21R及び左上腕用カフ21Lの減圧を行う。右上腕用カフ21Rは、使用時に右上腕に巻回されるカフを指し、左上腕用カフ21Lは、使用時に左上腕に巻回されるカフを指す。
【0038】
また、上腕用計測制御部201は、カフ加圧後、右上腕用カフ21R及び左上腕用21Lのカフ圧を保持(つまり、ゴム嚢21aR、21aLに対する吸排気を行わない)しつつ、右上腕用カフ21R及び左上腕用21Lのカフ圧の振動を脈波信号として圧力センサ211R、211Lで検出し、検出した脈波信号を演算制御部10に供給することにより、脈波の計測を行う。上腕用計測制御部201は、脈波信号をフィルタにより濾波した上で演算制御部10に出力する。脈波信号は演算制御部10において特徴部検出のための波形分析に用いられるため、正確な波形分析を期すために、脈波の位相成分を崩すことなく濾波を行うことができるタイプのディジタルフィルタを用いることが好ましい。
【0039】
また、上腕用計測制御部201は、カフ減圧中又はカフ加圧中に、血圧の計測を行う。
【0040】
カフ減圧中の血圧計測の場合、上腕用計測制御部201は、右上腕用カフ21R及び左上腕用カフ21Lのカフ圧の振動を圧力センサ211R、211Lにより検出しながら、振動振幅の増大が最も顕著なカフ圧を収縮期血圧として検出すると共に、振動振幅の減少が最も顕著なカフ圧を拡張期血圧として検出して、検出した収縮期血圧及び拡張期血圧をそれぞれ示す血圧信号を演算制御部10に供給することにより、血圧の計測を行う。この場合において、上腕用計測制御部201は、右上腕用カフ21Rのみを用いた右側の血圧の計測と、左上腕用カフ21Lのみを用いた左側の血圧の計測とを別々に行うことができる。
【0041】
カフ加圧中の血圧計測の場合、上腕用計測制御部201は、右上腕用カフ21R及び左上腕用カフ21Lのカフ圧の振動を圧力センサ211R、211Lにより検出しながら、振動振幅の増大が最も顕著なカフ圧を拡張期血圧として検出すると共に、振動振幅の減少が最も顕著なカフ圧を収縮期血圧として検出して、検出した拡張期血圧及び収縮期血圧をそれぞれ示す血圧信号を演算制御部10に供給することにより、血圧の計測を行う。この場合において、上腕用計測制御部201は、右上腕用カフRのみを用いた右側の血圧の計測と、左上腕用カフ21Lのみを用いた左側の血圧の計測とを別々に行うことができる。
【0042】
なお、振動するカフ圧からの収縮期血圧及び拡張期血圧の検出は、上腕用計測制御部201の代わりに演算制御部10にて行うこともできる。
【0043】
下肢用計測制御部202は、2つの圧力センサ221R、221Lを有する他に、ポンプ、排気弁、CPU、メモリ及びフィルタを有する。メモリには、ポンプ、排気弁、右足首用カフ22R及び左足首用カフ22Lによる血圧計測及び脈波計測を制御するプログラムと、この制御に関連する設定情報とが記憶されている。下肢用計測制御部202は、CPUによりプログラムを設定情報に従って実行する。下肢用計測制御部202は、ポンプ及び排気弁を用いて、ホース22hを介して右足首用カフ22R及び左足首用カフ22Lのゴム嚢22aR、22aLに空気を導入することにより右足首用カフ22R及び左足首用カフ22Lの加圧を行う一方、ゴム嚢22aR、22aLから空気を排出することにより、右足首用カフ22R及び左足首用カフ22Lの減圧を行う。右足首用カフ22Rは、使用時に右足首に巻回されるカフを指し、左足首用カフ22Lは、使用時に左足首に巻回されるカフを指す。
【0044】
また、下肢用計測制御部202は、カフ加圧後、右足首用カフ22R及び左足首用22Lのカフ圧を保持(つまり、ゴム嚢22aR、22aLに対する吸排気を行わない)しつつ、右足首用カフ22R及び左足首用22Lのカフ圧の振動を脈波信号として圧力センサ221R、221Lで検出し、検出した脈波信号を演算制御部10に供給することにより、脈波の計測を行う。下肢用計測制御部202は、脈波信号をフィルタにより濾波した上で演算制御部10に出力する。脈波信号は演算制御部10において特徴部検出のための波形分析に用いられるため、正確な波形分析を期すために、脈波の位相成分を崩すことなく濾波を行うことができるタイプのディジタルフィルタを用いることが好ましい。
【0045】
また、下肢用計測制御部202は、カフ減圧中又はカフ加圧中に、血圧の計測を行う。
【0046】
カフ減圧中の血圧の計測の場合、下肢用計測制御部202は、右足首用カフ22R及び左足首用カフ22Lのカフ圧の振動を圧力センサ221R、221Lにより検出しながら、振動振幅の増大が最も顕著なカフ圧を収縮期血圧として検出すると共に、振動振幅の減少が最も顕著なカフ圧を拡張期血圧として検出して、検出した収縮期血圧及び拡張期血圧をそれぞれ示す血圧信号を演算制御部10に供給することにより、血圧の計測を行う。この場合において、下肢用計測制御部202は、右足首用カフ22Rのみを用いた右側の血圧の計測と、左足首用カフ22Lのみを用いた左側の血圧の計測とを別々に行うことができる。
【0047】
カフ加圧中の血圧の計測の場合、下肢用計測制御部202は、右足首用カフ22R及び左足首用カフ22Lのカフ圧の振動を圧力センサ221R、221Lにより検出しながら、振動振幅の増大が最も顕著なカフ圧を拡張期血圧として検出すると共に、振動振幅の減少が最も顕著なカフ圧を収縮期血圧として検出して、検出した拡張期血圧及び収縮期血圧をそれぞれ示す血圧信号を演算制御部10に供給することにより、血圧の計測を行う。この場合において、下肢用計測制御部202は、右足首用カフ22Rのみを用いた右側の血圧の計測と、左足首用カフ22Lのみを用いた左側の血圧の計測とを別々に行うことができる。
【0048】
なお、振動するカフ圧からの収縮期血圧及び拡張期血圧の検出は、下肢用計測制御部202の代わりに演算制御部10にて行うこともできる。
【0049】
次いで、上記構成を有する血圧脈波検査装置において実行される動脈硬化度算出処理について、
図2を用いて説明する。ここでは、CAVIを算出する処理の一例を挙げて説明するが、その算出手順は種々変更して実施してもよい。算出手順等を適宜変更することにより他の動脈硬化度の算出も可能である。
【0050】
動脈硬化度算出処理の事前準備として、まずユーザ(医師、検査技師等)は、被検者の識別情報や身長、血管長等の必要情報を入力/指示部90を用いて入力する。入力された必要情報は、演算制御部10により保存部80に取り込まれる。またユーザは、右上腕用カフ21R、左上腕用カフ21L、右足首用カフ22R、左足首用カフ22L、心音マイク23、四肢用心電電極部24a及び胸部用心電電極部24bをそれぞれ、仰臥位の被検者の所定位置に装着する。このとき各カフと被検者の心臓との高さが略同じとなるようにする。そして、被検者の安静状態を確認した後、ユーザは、入力/指示部90を用いて開始操作を行う。これによりその旨の指示信号が演算制御部10に入力され、演算制御部10は動脈硬化度算出処理の全体制御を開始する。初期状態では、各生体情報計測部はそれぞれの生体情報の計測を停止しているものとする。
【0051】
まず、ステップS100では、演算制御部10は、心電図計測のための動作を開始させる信号を心電図計測部204に出力し、これにより心電図計測部204は、被検者の心電図を計測し、その結果を示す心電図信号を生成する。これに並行して、演算制御部10は、心音計測のための動作を開始させる信号を心音計測部203に出力し、これに従って心音計測部203は、被検者の心音を計測し、その結果を示す心音信号を生成する。心音信号は、演算制御部10により保存部80に取り込まれる。さらに、これらに並行して、演算制御部10は、脈波計測のための動作を開始させる信号を上腕用計測制御部201及び下肢用計測制御部202に出力し、これに従って上腕用計測制御部201及び下肢用計測制御部202は脈波の計測を行い、それぞれの結果を示す脈波信号を生成する。生成された心電図信号、心音信号及び脈波信号は、演算制御部10により保存部80に取り込まれる。そして、演算制御部10は、保存部80に取り込まれた信号を読み出して、波形分析を行う。前述の通り、波形分析では、波形における特徴部、例えば、心II音の開始部、上腕での脈波の立ち上がり部、足首での脈波の立ち上がり部、上腕での脈波の切痕部等を検出する。なお、脈波計測には、
図3を参照して後述する一連の処理が含まれており、この一連の処理が完了すると、脈波計測は終了し波形分析も終了する(ステップS200)。
【0052】
そして、演算制御部10は、ステップS300において、ステップS200終了時のカフ圧の状態を変えずに一定期間(例えば10秒間)だけ待機した後、ステップS400に進む。
【0053】
ステップS400では、演算制御部10は、被検者の右半身(右上腕及び右足首)の血圧計測のための動作を開始させる信号を上腕用計測制御部201及び下肢用計測制御部202に出力し、これに従って上腕用計測制御部201及び下肢用計測制御部202は、右上腕用カフ21R及び右足首用カフ22Rをそれぞれ用いて血圧の計測を行う。
【0054】
具体的には、上腕用計測制御部201は右上腕用カフ21Rを、下肢用計測制御部202は右足首用カフ22Rを、測定対象の収縮期血圧よりも高い適当な所定値まで加圧する。カフ加圧が完了すると、上腕用計測制御部201は右上腕用カフ21Rを、下肢用計測制御部202は右足首用カフ22Rを、徐々に減圧する。カフ減圧中、上腕用計測制御部201は、右上腕の収縮期血圧及び拡張期血圧を計測し、下肢用計測制御部202は、右足首の収縮期血圧及び拡張期血圧を計測する。血圧計測後、右上腕用カフ21R及び右足首用カフ22Rのカフ圧が非加圧状態に相当する値に戻ると、上腕用計測制御部201及び下肢用計測制御部202は、計測したそれぞれの血圧値を示す血圧信号を演算制御部10に出力する。血圧信号は演算制御部10により保存部80に取り込まれる。なお、ここではカフ減圧中の血圧計測を例に挙げたが、代わりにカフ加圧中の血圧計測を行ってもよいし、カフ減圧中の血圧計測とカフ加圧中の血圧計測とを両方行ってもよい。
【0055】
ステップS500では、演算制御部10は、被検者の左半身(左上腕及び左足首)の血圧計測のための動作を開始させる信号を上腕用計測制御部201及び下肢用計測制御部202に出力し、これに従って上腕用計測制御部201及び下肢用計測制御部202は、左上腕用カフ21L及び左足首用カフ22Lをそれぞれ用いて血圧の計測を行う。なお、左側の血圧計測の具体的手順に関しては、上記右側の血圧計測の手順において加減圧の対象カフを右上腕及び右足首用のカフ21R、22Rから左上腕及び左足首用のカフ21L、22Lに替えることにより、右側血圧計測と同様に実現することができる。
【0056】
そして、ステップS600では、演算制御部10は、この分析結果と、受信した生体情報により示された数値、例えば血圧とに基づいて、CAVIの算出を行う。
【0057】
このようにして得られたCAVIは、必要に応じて、表示部70により画面に表示され又は記録部75により記録紙に印字される。
【0058】
ここで、上記ステップS100で実行される脈波計測のための一連の処理について、
図3を用いて説明する。
【0059】
まず、上腕用計測制御部201及び下肢用計測制御部202は、全てのカフ21R、21L、22R、22Lの加圧を同時に開始する(ステップS101)。全てのカフ21R、21L、22R、22Lの加圧は、カフ圧が一般的な拡張期血圧以下で、脈波計測に適した圧(ここでは50mmHg)に到達するまで継続され(ステップS102)、カフ圧が50mmHgに到達すると、上腕用計測制御部201及び下肢用計測制御部202は、左上腕用のカフ21Lを除くカフ21R、22R、22Lの加圧を停止し、それらのカフ圧を保持する(ステップS103)。左上腕用カフ21Lの加圧は継続される。
【0060】
そして、上腕用計測制御部201は、加圧中の左上腕用カフ21Lを用いて、拡張期血圧を計測し、そして収縮期血圧を計測する(ステップS104)。
【0061】
継続加圧は、血管が閉塞するよう計測された収縮期血圧と同圧もしくはそれ以上の圧となるようになるまで(ここでは収縮期血圧よりもカフ圧が20mmHgだけ高くなるまで)行われ(ステップS105)、その後、上腕用計測制御部201は、左上腕用カフ21Lの加圧を停止し、そのカフ圧を保持する(ステップS106)。
【0062】
このように、血圧の計測を行いながら加圧を継続するため、所望のカフ圧(ここでは収縮期血圧+20mmHgとしているが、収縮期血圧と同圧の場合や収縮期血圧+40mmHgの場合もある)で確実に加圧を停止させることができる。
【0063】
なお、血圧の計測は、前述したステップS400及びS500においても行われるが、ステップS104で行った血圧計測の結果も血圧信号として取り込み、これをCAVIの算出に活用してもよい。
【0064】
そして、ステップS107では、上腕用計測制御部201及び下肢用計測制御部202は、カフ圧がそれぞれ保持された状態にある全てのカフ21R、21L、22R、22Lを用いて、脈波の計測を行う。
【0065】
一定期間(例えば約20秒間)にわたって脈波の計測を行った後、上腕用計測制御部201及び下肢用計測制御部202は、全てのカフ21R、21L、22R、22Lの減圧を開始する(ステップS108)。これらのカフ圧が非加圧状態に相当する値まで戻ると(ステップS109)、上腕用計測制御部201及び下肢用計測制御部202は全てのカフ21R、21L、22R、22Lの減圧を停止する(ステップS110)。
【0066】
図2及び
図3を参照して説明した処理を行うと、例えば
図4に示すような計測結果が得られる。ここでは、左上腕用カフ21Lのカフ圧を140mmHgに保持した場合を例にとっている。
【0067】
左上腕以外の部位では、被検者の血管に全く作用せず血管を圧迫しない圧力(ここでは50mmHg)にカフ圧が保持されているため、計測した脈波の波形は一定の品質を有しているものの、脈波本来の波形を鮮鋭に反映したものではない。一方、左上腕では、被検者の血管を閉塞させる圧力(ここでは140mmHg)にカフ圧が保持されているため、計測した脈波の波形は脈波本来の波形を鮮鋭に反映した非常に良好な品質の波形となっている。例えば、領域aにある切痕部は鮮鋭に出現していないが、領域bにある切痕部は鮮鋭に出現している。これは、左上腕では末梢血管からの脈反射の影響を受けない状態で脈波計測が行われていることに起因する。
【0068】
したがって、本実施の形態によれば、切痕部のタイミングを正確に検出することができ、ひいては算出されるCAVIの信頼性を向上させることができる。
【0069】
また、血管を閉塞させるような収縮期血圧以上のカフ圧の下での脈波計測は、血管を圧迫しない拡張期血圧未満のカフ圧の下での脈波計測と異なり、身体への影響が大きい。このため、本実施の形態では、全ての部位でなく1箇所でのみ高圧を保持して脈波計測を行う。よって、身体への影響を最小限に抑えつつ、正確に特徴部を検出することができる。
【0070】
また、上腕への動脈は大静脈弓部で分岐したものであることから、左上腕でのみ高圧を保持して脈波の計測を行うことにより、大動脈弓部での脈波に非常に似た脈波の波形を得ることができ、切痕部等の特徴部を一段と正確に検出することができる。
【0071】
なお、本実施の形態では、一部のカフのみのカフ圧を高圧まで加圧させる目的は、脈波の切痕部、すなわちディクロティックノッチの正確な検出であるが、他の特徴部の正確な検出を目的としてもよい。例えば、脈波のパーカッションウェーブのピークとタイダルウェーブのピークとの正確な検出を目的とすることができる。
【0072】
また、上記ステップS100での脈波計測について、
図3を用いて具体的な手順の一例を説明したが、脈波計測手順は上記のものだけに限定されない。以下、
図5、
図6及び
図7を用いて3つの変形例について説明する。
【0073】
まず、
図5を用いて第1の変形例について説明する。この例では、カフ加圧中だけでなくカフ減圧中も血圧計測を行う。
図3に示す手順と対比すると、
図5の例は、ステップS108とステップS109との間にステップS111を追加した点で相違する。
【0074】
ステップS111では、上腕用計測制御部201は、減圧中の全てのカフ21R、21L、22R、22Lのうち左上腕用カフ21Lのみを用いて、収縮期血圧を計測し、そして拡張期血圧を計測する。ここでの計測結果を示す血圧信号は、演算制御部10により保存部80に取り込まれ、CAVIの算出に活用される。
【0075】
血圧の計測は、前述したステップS400、S500、S104において行われるが、上記第1の変形例では、ステップS111で行った血圧計測の結果も血圧信号として取り込むことができる。よって、血圧の計測精度を向上させることができ、算出されるCAVIの信頼性のさらなる向上につながる。
【0076】
続いて、
図6を用いて第2の変形例について説明する。
図3の例では左上腕用カフ21Lのみを高圧まで加圧したのに対し、この例では、左上腕用カフ21Lに加えて右上腕用カフ21Rを高圧まで加圧する。
図3よりも類似する
図5に示す手順と対比すると、
図6の例は、ステップS103、S104、S106、S111をステップS112、S113、S114、S115に置換した点で相違する。
【0077】
ステップS112では、上腕用計測制御部201及び下肢用計測制御部202は、カフ圧が50mmHgに到達すると、上腕用のカフ21R、21Lを除く下肢用のカフ22R、22Lの加圧を停止し、それらのカフ圧を保持する。上腕用のカフ21R、21Lの加圧は継続される。
【0078】
また、ステップS113では、上腕用計測制御部201は、加圧中の上腕用のカフ21R、21Lを用いて拡張期血圧及び収縮期血圧の計測を左右の上腕について同時に行う。
【0079】
また、ステップS114では、上腕用計測制御部201は、上腕用のカフ21R、21Lの加圧を停止し、そのカフ圧を保持する。
【0080】
このように、血圧の計測を行いながら加圧を継続するため、所望のカフ圧(ここでは収縮期血圧+20mmHg)で確実に加圧を停止させることができる。
【0081】
なお、血圧の計測は、前述したステップS400及びS500においても行われるが、ステップS113で行った血圧計測の結果も血圧信号として取り込み、これをCAVIの算出に活用してもよい。
【0082】
また、ステップS115では、上腕用計測制御部201は、減圧中の全てのカフ21R、21L、22R、22Lのうち上腕用のカフ21R、21Lのみを用いて、左右両腕の収縮期血圧を計測し、そして左右両腕の拡張期血圧を計測する。
【0083】
ステップS115での計測結果を示す血圧信号は、演算制御部10により保存部80に取り込まれ、CAVIの算出に活用される。
【0084】
血圧の計測は、前述したステップS400、S500、S113において行われるが、上記第2の変形例によれば、ステップS115で行った血圧計測の結果も血圧信号として取り込むことができる。しかもステップS115では左右両腕の血圧計測結果を得ることができる。よって、血圧の計測精度を一層向上させることができ、算出されるCAVIの信頼性のさらなる向上につながる。
【0085】
さらに、
図6に示す手順を
図2に示す手順に組み合わせて実施する場合は、
図2におけるステップS300において一定期間待機した後、上腕用計測制御部201を動作させず、下肢用のカフ22R、22Lを用いた血圧の計測を同時に行うよう下肢用計測制御部202を動作させてもよい。これにより、上半身の血圧計測と下半身の血圧計測とをそれぞれ同時に行うことができるため、被検者の身体への負荷を増大させることなく血圧計測の工程を減らすことができる。
【0086】
続いて、
図7を用いて第3の変形例について説明する。
図3の例では無条件に左上腕用カフ21Lを高圧まで加圧したのに対し、この例では、左上腕用カフ21Lを高圧まで加圧するための条件を適用する。すなわち、第3の変形例は、
図3に示す手順においてステップS103をステップS116、S117、S118、S119、S120に置換し、所定の条件を満たした場合にはステップS104、S105、S106、S107を実行し、所定の条件を満たさなかった場合にはステップS104、S105、S106、S107をスキップする。
【0087】
ステップS116では、上腕用計測制御部201及び下肢用計測制御部202は、カフ圧が50mmHgに到達すると、全てのカフ21R、21L、22R、22Lの加圧を停止し、それらのカフ圧を保持する。
【0088】
ステップS117では、上腕用計測制御部201及び下肢用計測制御部202は、カフ圧がそれぞれ保持された状態にある全てのカフ21R、21L、22R、22Lを用いて、脈波の計測を行う。一定期間(例えば約20秒間)にわたって脈波の計測を行った後、その測定結果を示す脈波信号が、演算制御部10により保存部80に取り込まれる。
【0089】
ステップS118では、演算制御部10は、前述したステップS100と同様の波形分析を行う。
【0090】
ステップS119では、演算制御部10は、上記波形分析において脈波の切痕部の検出が失敗したか否かを判断する。切痕部検出に失敗したという条件を満たした場合は、カフ圧をさらに加圧して脈波計測を行う必要があるため、左上腕用カフ21Lのみの加圧を再開する(ステップS120)。換言すれば、ステップS120では、ステップS116で行われた一次加圧に対する二次加圧が行われる。ステップS120の後は、
図3のステップS104に進む。
【0091】
一方、切痕部検出に成功した場合は、カフ圧をこれ以上加圧することにより身体への負荷を回避するため、
図3のステップS104、S105、S106、S107をスキップして、ステップS108に進む。
【0092】
このように、第3の変形例によれば、不必要な身体への負荷を回避することができる。
【0093】
以上、本発明の実施の形態について説明した。なお、以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されない。つまり、上記装置の構成及び使用時の動作についての説明は一例であり、本発明の範囲においてこれらの例に対する様々な変更や追加が可能であることは明らかである。