特許第5752178号(P5752178)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5752178
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】耐水性偏光膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20150702BHJP
【FI】
   G02B5/30
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-107969(P2013-107969)
(22)【出願日】2013年5月22日
(62)【分割の表示】特願2008-262337(P2008-262337)の分割
【原出願日】2008年10月9日
(65)【公開番号】特開2013-156665(P2013-156665A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2013年5月22日
(31)【優先権主張番号】特願2008-161200(P2008-161200)
(32)【優先日】2008年6月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094248
【弁理士】
【氏名又は名称】楠本 高義
(74)【代理人】
【識別番号】100129207
【弁理士】
【氏名又は名称】中越 貴宣
(74)【代理人】
【識別番号】100185454
【弁理士】
【氏名又は名称】三雲 悟志
(72)【発明者】
【氏名】梅本 徹
(72)【発明者】
【氏名】宮ザキ 順三
(72)【発明者】
【氏名】松田 祥一
(72)【発明者】
【氏名】中西 貞裕
【審査官】 吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/148757(WO,A1)
【文献】 特開2007−241269(JP,A)
【文献】 特開2005−135145(JP,A)
【文献】 特開2004−322569(JP,A)
【文献】 特開2007−307885(JP,A)
【文献】 特開2008−246739(JP,A)
【文献】 特開2009−093983(JP,A)
【文献】 特開2007−332505(JP,A)
【文献】 特開2007−290390(JP,A)
【文献】 特開2007−121458(JP,A)
【文献】 特開平11−021538(JP,A)
【文献】 特開平10−140061(JP,A)
【文献】 特開2000−265095(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/101849(WO,A1)
【文献】 特開2009−294566(JP,A)
【文献】 特開2007−126628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性基を有する有機色素から形成された超分子会合体を含む偏光膜の表面に、カチオン性ポリマーを含む液体を接触させることを特徴とする、耐水性偏光膜の製造方法。
【請求項2】
前記有機色素が、下記一般式(1)で表わされるアゾ化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の耐水性偏光膜の製造方法。
【化1】
(ただし、上記一般式(1)中、Qは置換もしくは非置換のフェニル基、または置換もしくは非置換のナフチル基を表わす。Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アセチル基、置換もしくは非置換のベンゾイル基、置換もしくは非置換のフェニル基を表わす。Mは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子のいずれかを表わす。)
【請求項3】
前記有機色素が、下記一般式(2)で表わされるアゾ化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の耐水性偏光膜の製造方法。
【化2】
(ただし、上記一般式(2)中、Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アセチル基、置換もしくは非置換のベンゾイル基、置換もしくは非置換のフェニル基を表わす。Xは水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、または−SOM基を表わす。Mは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子のいずれかを表わす。)
【請求項4】
前記カチオン性ポリマーが、アミノ基を有するポリマーまたは窒素原子を有する複素環ポリマーであることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の耐水性偏光膜の製造方法。
【請求項5】
前記カチオン性ポリマーが、ジアリルアミン塩酸塩重合体、ジアリルアミン塩酸塩・マレイン酸共重合体、アリルアミンアミド硫酸塩重合体、アリルアミン塩酸塩重合体のいずれかであることを特徴とする、請求項4に記載の耐水性偏光膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機色素を配向させた耐水性偏光膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スルホン酸基を含む有機色素(染料)を含む有機薄膜に、多価金属塩またはアミノ化合物塩(分子内に2個以上のアミノ基を有する化合物塩)を含む溶液を塗布して、耐水性有機薄膜を得る方法は既に知られている(例えば特許文献1)。アミノ化合物塩を含む溶液は、多価金属塩を含む溶液よりも毒性が低く、取り扱い性に優れている。しかしアミノ化合物塩を用いて得られる有機薄膜の耐水性は、多価金属塩を用いたものに比べてはるかに低く、偏光膜用途に必要な水準を満足しなかった。
【特許文献1】特開平11−21538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、アミノ化合物塩を用いて得られる有機薄膜の耐水性は、偏光膜用途に必要な水準を満足しなかった。本発明の目的は、アミノ化合物塩を用いて得られる有機薄膜の耐水性を高め、偏光膜用途に必要な水準を満足できるようにするための製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、アニオン性基を有する有機色素を含む偏光膜の耐水性を改善すべく鋭意検討した結果、上記の偏光膜の表面に、カチオン性ポリマーを含む液体を接触させることにより、耐水性が従来よりも格段に優れた偏光膜(耐水性偏光膜という)が得られることを見出した。
【0005】
本発明の製造方法により偏光膜の耐水性が向上する理由は、カチオン性ポリマーが偏光膜の内部に入り込んで、アニオン性基を有する有機色素と静電気的に結合し、不動化するためと考えられる。
【0006】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)本発明の耐水性偏光膜の製造方法は、アニオン性基を有する有機色素から形成された超分子会合体を含む偏光膜の表面に、カチオン性ポリマーを含む液体を接触させることを特徴とする。
(2)本発明の耐水性偏光膜の製造方法は、有機色素が、下記一般式(1)で表わされるアゾ化合物であることを特徴とする。
【化1】
上記一般式(1)において、Qは置換もしくは非置換のフェニル基、または置換もしくは非置換のナフチル基を表わす。Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アセチル基、置換もしくは非置換のベンゾイル基、置換もしくは非置換のフェニル基を表わす。Mは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子のいずれかを表わす。
(3)本発明の耐水性偏光膜の製造方法は、有機色素が、下記一般式(2)で表わされるアゾ化合物であることを特徴とする。
【化2】
上記一般式(2)において、Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アセチル基、置換もしくは非置換のベンゾイル基、置換もしくは非置換のフェニル基を表わす。Xは水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、または−SOM基を表わす。Mは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子のいずれかを表わす。
(4)本発明の耐水性偏光膜の製造方法は、カチオン性ポリマーが、アミノ基を有するポリマーまたは窒素原子を有する複素環ポリマーであることを特徴とする。
(5)本発明の耐水性偏光膜の製造方法は、カチオン性ポリマーが、ジアリルアミン塩酸塩重合体、ジアリルアミン塩酸塩・マレイン酸共重合体、アリルアミンアミド硫酸塩重合体、アリルアミン塩酸塩重合体のいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
アニオン性基を有する有機色素を含む偏光膜の表面に、カチオン性ポリマーを含む液体を接触させることにより、耐水性が従来よりも格段に優れた偏光膜を得ることができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[耐水性偏光膜の製造方法]
本発明の耐水性偏光膜の製造方法は、アニオン性基を有する有機色素を含む偏光膜の表面に、カチオン性ポリマーを含む液体を接触させる工程を含む。本発明の耐水性偏光膜の製造方法は、前記の工程を含むものであれば、特に制限はなく、任意の他の工程を含んでいてもよい。
【0009】
他の工程としては、例えば、偏光膜の表面にカチオン性ポリマーを含む液体を接触させた後、偏光膜表面に付着した余分のカチオン性ポリマーを含む液体を取り除くため、偏光膜表面を洗浄する工程、あるいは、偏光膜表面を乾燥する工程などが挙げられる。
【0010】
[耐水化処理前の偏光膜]
本発明に用いられる耐水化処理前の偏光膜は、アニオン性基を有する有機色素を含む。アニオン性基を有する有機色素の含有量は、偏光膜の総重量の好ましくは80重量%〜100重量%であり、さらに好ましくは90重量%〜100重量%である。
【0011】
本発明に用いられる耐水化処理前の偏光膜は、アニオン性基を有する有機色素を含むものであれば、特に制限はなく、任意の他の有機色素や添加剤を含んでいてもよい。そのような添加剤としては、界面活性剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、抗菌剤などが挙げられる。
【0012】
本発明に用いられる耐水化処理前の偏光膜は、例えば特開2007−61755公報に記載されているように、アニオン性基を有する有機色素と溶媒とを含むコーティング液を流延し、有機色素を配向させて得ることができる。
【0013】
[アニオン性基を有する有機色素]
本発明に用いられるアニオン性基を含む有機色素は、色素の分子中にアニオン性基を有するものである。アニオン性基としては、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、およびそれらの塩基などが挙げられる。有機色素が有するアニオン性基の個数(置換数)は、2〜4が好ましい。このような有機色素は、カチオン性ポリマーを含む液体を接触させる前(耐水化処理前)は、アニオン性基が親水性溶媒に対する溶解性を付与する置換基として作用するので、コーティング液を調製しやすい。一方、カチオン性ポリマーを含む液体を接触させた後(耐水化処理後)は、アニオン性基がカチオン性ポリマーとの架橋点として作用するので、優れた耐水性偏光膜が得られる。
【0014】
本発明に用いられるアニオン性基を含む有機色素として、例えば特開2007−126628号公報、特開2006−323377号公報に記載された有機色素を用いることができる。これらの公報に記載された有機色素は溶液状態で液晶性を示し、液晶状態で剪断応力を加えると、流動により配向させることができる。
【0015】
上記の有機色素は溶液中で超分子会合体を形成しており、これを含む溶液に剪断応力を加えて流動させると、超分子会合体の長軸方向が流動方向に配向する。
【0016】
上記の有機色素としては、下記一般式(1)で表わされるアゾ化合物が好ましく、下記一般式(2)で表わされるアゾ化合物がさらに好ましい。このようなアゾ化合物は、溶媒に溶解した状態で安定な液晶相(リオトロピック液晶性)を示し、配向性に優れる。さらに上記のアゾ化合物は、−SOM基を特定の位置に有することにより、−SOM基同士の立体障害が小さくなり、耐水化処理前後で分子の直線性が維持され、結果として、偏光度の高い偏光膜が得られる。
【化1】
【化2】
【0017】
上記の一般式(1)中、Qは置換もしくは非置換のフェニル基、または置換もしくは非置換のナフチル基を表わす。上記の一般式(1)および(2)中、Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アセチル基、置換もしくは非置換のベンゾイル基、置換もしくは非置換のフェニル基を表わす。上記の一般式(2)中、Xは水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、または−SOM基を表わす。
【0018】
上記の一般式(1)および(2)中、Mは、偏光膜の表面にカチオン性ポリマーを含む液体を接触させる前は、水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子のいずれかである。カチオン性ポリマーを含む液体を接触させた後は、Mは、その一部または全部がカチオン性ポリマーのカチオン種である。
【0019】
上記の一般式(1)および(2)で表わされるアゾ化合物は、例えば、アニリン誘導体とナフタレンスルホン酸誘導体を、常法により、ジアゾ化およびカップリング反応させモノアゾ化合物とした後、さらにジアゾ化し、アミノナフトールジスルホン酸誘導体とカップリング反応させて得ることができる。
【0020】
[カチオン性ポリマーを含む液体]
本発明に用いられるカチオン性ポリマーを含む液体は、カチオン性ポリマーを任意の溶媒に溶解または分散させたものである。上記のカチオン性ポリマーとは、カチオン性基を主鎖または側鎖に有する、分子量が数百以上の化合物をいう。
【0021】
上記のカチオン性ポリマーは、直鎖状、枝分かれ状、または架橋状のいずれであってもよく、その分子量は、好ましくは300以上であり、さらに好ましくは1,000〜1,000,000である。
【0022】
上記のカチオン性基としては、特に制限はないが、例えばアミノ基、イミノ基、アンモニウム基、および環の一部に窒素原子を有する基などが挙げられる。
【0023】
上記のカチオン性ポリマーとしては、例えばポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリエチレンイミン、ジシアンジアミドポリアルキレンポリアミン、ジアルキルアミンとエピクロロヒドリンの縮合物、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン、ポリビニルイミダゾール、ジアリルジメチルアンモニウム塩の縮合物などが挙げられる。本発明においては、上記のカチオン性ポリマーを一種で用いてもよいし、複数種混合して用いてもよい。またアルカリ土類金属塩などの多価金属塩と混合して用いてもよい。
【0024】
上記のカチオン性ポリマーはアミノ基を有するポリマー、または窒素原子を有する複素環ポリマーが好ましく、下記構造式(4)のジアリルアミン塩酸塩重合体、(5)のジアリルアミン塩酸塩・マレイン酸共重合体、または(6)のアリルアミンアミド硫酸塩重合体が、さらに好ましい。
【化4】
【化5】
【化6】
【0025】
カチオン性ポリマーを溶解または分散させるための溶媒としては、親水性溶媒が好ましい。親水性溶媒としては、好ましくは水、アルコール類、セロソルブ類、およびそれらの混合溶媒である。
【0026】
本発明に用いられるカチオン性ポリマーを含む液体中の、カチオン性ポリマーの濃度は、液体の総重量の、好ましくは10重量%〜50重量%であり、さらに好ましくは20重量%〜30重量%である。
【0027】
本発明に用いられるアニオン性基を有する有機色素を含む偏光膜の表面に、カチオン性ポリマーを含む液体を接触させる手段に特に制限はなく、偏光膜の表面にカチオン性ポリマーを含む液体を塗布してもよいし、偏光膜をカチオン性ポリマーを含む液体中に浸漬してもよい。
【0028】
[耐水化処理後の偏光膜(耐水性偏光膜)]
本発明の製造方法において、耐水性偏光膜は、アニオン性基を有する有機色素を含む偏光膜の表面に、カチオン性ポリマーを含む液体を接触させて得られる。本発明により得られる偏光膜は、例えば上記の一般式(1)または(2)で表わされるアゾ化合物を含む場合、式中のM(一価陽イオン)の一部または全部が、カチオン性ポリマーのカチオン種で置換されたものである。
【0029】
上記の耐水性偏光膜は、可視光領域(波長380nm〜780nm)の少なくとも一波長で、吸収二色性を示す。
【0030】
上記の耐水性偏光膜の視感度補正したY値から求めた偏光度は、95%以上であることが好ましい。
【0031】
上記の耐水性偏光膜の厚みは、特に制限はないが、好ましくは0.1μm〜10μmである。耐水性偏光膜の厚みが1μm未満である場合は、自立性を確保するために、耐水性偏光膜は支持体の上に形成されていてもよい。
【0032】
[耐水性偏光膜の用途]
本発明の製造方法により得られる耐水性偏光膜は、偏光素子として好適に用いられる。偏光素子は、液晶テレビ、コンピュータディスプレイ、携帯電話、デジタルカメラ、携帯情報端末、携帯ゲーム機、ビデオカメラ、カーナビゲーションなどの液晶パネルに使われる。
【実施例】
【0033】
[実施例1]
4−ニトロアニリンと8−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸とを常法(細田豊著「理論製造 染料化学 第5版」昭和43年7月15日技法堂発行、135ページ〜152ページ)により、ジアゾ化およびカップリング反応させて、モノアゾ化合物を得た。得られたモノアゾ化合物を同様に常法によりジアゾ化し、さらに1−アミノ−8−ナフトール−2,4−ジスルホン酸リチウム塩とカップリング反応させて粗生成物を得、これを塩化リチウムで塩析することにより下記の構造式(3)のアゾ化合物を得た。
【化3】
【0034】
上記構造式(3)のアゾ化合物をイオン交換水に溶解させ、アゾ化合物の濃度が20重量%のコーティング液を調製した。このコーティング液のpHは7.8であった。このコーティング液をポリスポイトで採取し、二枚のスライドガラスの間に挟んで、室温(23℃)にて偏光顕微鏡で観察したところ、ネマチック液晶相が観察された。
【0035】
このコーティング液を、ラビング処理およびコロナ処理の施されたノルボルネン系ポリマーフィルム(日本ゼオン社製 商品名「ゼオノア」)の表面に、バーコータ(BUSCHMAN社製 製品名「Mayer rot HS4」)を用いて塗布し、23℃の恒温室内で自然乾燥させて、偏光膜とノルボルネン系ポリマーフィルムの積層体を作製した。偏光膜の厚みは0.4μmであった。
【0036】
上記の偏光膜とノルボルネン系ポリマーフィルムの積層体を、ジアリルアミン塩酸塩重合体(日東紡社製 商品名「PAS−21CL」、平均分子量110,000)を25重量%含む水に30分間浸漬し、その後偏光膜の表面を水で洗って乾燥した。このようにして得られた耐水性偏光膜のイオン分布を、TOF−SIMSで調べたところ、ジアリルアミン塩酸塩重合体由来のイオン(C)は、上記耐水性偏光膜中に均一に分布しており、一方、リチウムイオン(Li)は検出されなかった。これにより、耐水性偏光膜中では、リチウムイオンが、ジアリルアミン塩酸塩重合体由来のイオンで置換されていることを確認した。
このようにして得られた耐水性偏光膜の、光学特性と耐水試験の評価結果を表1に示す。
【0037】
[実施例2]
ジアリルアミン塩酸塩重合体に代えて、ジアリルアミン塩酸塩・マレイン酸共重合体(日東紡社製 商品名「PAS−410」)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で耐水性偏光膜を作製した。得られた耐水性偏光膜の光学特性と耐水試験の評価結果を表1に示す。
【0038】
[実施例3]
ジアリルアミン塩酸塩重合体に代えて、アリルアミンアミド硫酸塩重合体(日東紡社製 商品名「PAA−SA」)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で耐水性偏光膜を作製した。得られた耐水性偏光膜の光学特性と耐水試験の評価結果を表1に示す。
【0039】
[実施例4]
ジアリルアミン塩酸塩重合体に代えて、アリルアミン塩酸塩重合体(日東紡社製 商品名「PAA−HCL−3L」)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で耐水性偏光膜を作製した。得られた耐水性偏光膜の光学特性と耐水試験の評価結果を表1に示す。
【0040】
[比較例1]
ジアリルアミン塩酸塩重合体に代えて、塩化バリウムを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で耐水性偏光膜を作製した。得られた耐水性偏光膜の光学特性と耐水試験の評価結果を表1に示す。
【0041】
[比較例2]
ジアリルアミン塩酸塩重合体に代えて、トリエチルアミン(分子量101)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で耐水性偏光膜を作製した。得られた耐水性偏光膜の光学特性と耐水試験の評価結果を表1に示す。
【0042】
[比較例3]
実施例1において、ジアリルアミン塩酸塩重合体を含む液体で耐水化処理を行なう前の偏光膜の光学特性と耐水試験の評価結果を表1に示す。
【表1】
【0043】
[評価]
(1)ジアリルアミン塩酸塩重合体PAS−21CLによる耐水化処理は最も効果が高い。
(2)ジアリルアミン塩酸塩・マレイン酸共重合体PAS−410、アリルアミンアミド硫酸塩重合体PAA−SA、アリルアミン塩酸塩重合体PAA−HCL−3Lによる耐水化処理の効果はほぼ等しい。
(3)塩化バリウムによる耐水化処理は効果がかなり低い。
(4)トリエチルアミンによる耐水化処理は効果がない。
【0044】
[測定方法]
[厚みの測定]
偏光膜の一部を剥離し、三次元非接触表面形状計測システム(菱化システム社製 製品名「Micromap MM5200」)を用いて段差を測定し、偏光膜の厚みを求めた。
【0045】
[液晶相の観察]
二枚のスライドガラスにコーティング液を少量挟み込み、顕微鏡用大型試料加熱冷却ステージ(ジャパンハイテック社製 製品名「10013L」)を備えた偏光顕微鏡(オリンパス社製 商品名「OPTIPHOT−POL」)を用いて観察した。
【0046】
[残存率・溶解率の測定]
耐水化処理後の偏光膜と基材の積層体(寸法1cm×2cm)を、ポリカップ容器に入った100mlの水に浸漬して3時間放置した後、水が均一になるように攪拌し、水の波長594nmにおける吸光度を分光器(VARIAN社製 製品名「CARY500i」)で測定した。得られた吸光度から、次式により残存率、溶解率を求めた。
・溶解率(%)=(A/A)×100
・残存率(%)=100−溶解率
ここで、Aは3時間放置した後の水の吸光度、Aは偏光膜が完全に溶解した水の吸光度である。
[耐水性偏光膜のイオン分布の測定]
耐水性偏光膜を、精密切断機(MEKONG社製)を用いて斜めに切削し、切削面をTOF−SIMS(ION−TOF社製「TOF−SIMS5」を用いて分析した。条件は、一次イオン加速電圧=25kvとした。