(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも2つの直動送り軸と、1つの回転送り軸とを有し、回転工具とワークを相対的に移動させてワークの貫通穴の裏側を加工する工作機械を用いた穴加工方法において、
前記回転工具は、中心軸線(Ot)に沿って延びるシャンク(32)と、該シャンク(32)の先端部において前記中心軸線(Ot)に対して略半径方向に突出し先端部に切刃を有した刃部(36)とを有して略L字形に形成されており、
前記刃部(36)は、すくい面を形成する上面(36b)と、該上面の反対側の下面(36c)とで形成されており、前記直動送り軸2軸と回転送り軸1軸の動作を複数回行うまたは同時3軸制御で行って、前記回転工具の中心軸線(Ot)と直交する方向の直動送り軸方向に見た前記貫通穴の開口部の高さ(Ho)が、前記刃部(36)の高さ(Hc)よりも高くなるまで前記回転送り軸を回転させ、前記回転工具の刃部(36)を前記貫通穴の裏側まで通し、
前記回転工具を回転させて前記貫通穴の裏側の加工を行うことを特徴とした穴加工方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の穴加工方法を実施するための工作機械の一例を示す側面図である。
【
図2A】本発明の穴加工方法で用いる回転工具の一例を示す側面図である。
【
図3A】本発明の穴加工方法により加工するワークの一例を示す平面図である。
【
図4A】
図2A、2Bに示した回転工具を用いて本発明の穴加工方法により
図3A〜
図3Cに示したワークに行う穴加工を説明するための図である。
【
図4B】
図2A、2Bに示した回転工具を用いて本発明の穴加工方法により
図3A〜
図3Cに示したワークに行う穴加工を説明するための図である。
【
図4C】
図2A、2Bに示した回転工具を用いて本発明の穴加工方法により
図3A〜
図3Cに示したワークに行う穴加工を説明するための図である。
【
図4D】
図2A、2Bに示した回転工具を用いて本発明の穴加工方法により
図3A〜
図3Cに示したワークに行う穴加工を説明するための図である。
【
図4E】
図2A、2Bに示した回転工具を用いて本発明の穴加工方法により
図3A〜
図3Cに示したワークに行う穴加工を説明するための図である。
【
図4F】工具をワークの貫通穴に導入する直前の状態を示す部分拡大図である。
【
図5A】本発明の穴加工方法を適用しない場合に用いられる
図2Aと同様の回転工具の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態を説明する。
図1を参照すると、本発明を適用する工作機械の一例が示されている。
図1において、本発明の好ましい実施の形態による工作機械10は、横形マシニングセンタを構成しており、工場の床面に固定された基台としてのベッド12、該ベッド12の後端側(
図1では右側)の上面で左右方向またはX軸方向(
図1では紙面に垂直な方向)に移動可能に設けられたコラム14、該コラム14の前面で上下方向またはY軸方向に移動可能に設けられたヘッドストック16、該ヘッドストック16に取り付けられ主軸20を回転可能に支持する主軸頭18、ベッド12の前方部分(
図1では左側)の上面で前後方向またはZ軸方向(
図1では左右方向)に移動可能に設けられロータリーワークヘッド24を介してワーク40を取り付けるテーブル22を具備している。
【0011】
ロータリーワークヘッド24は、上面がワーク40を固定するワーク面となっており、該ワーク面の反対側の底面において、テーブル22の上面に固定される。ロータリーワークヘッド24は、前記ワーク面を鉛直軸線周りのB軸方向に回転送りするためのB軸サーボモータ(図示せず)と、B軸方向の前記上面の回転位置を検知するロータリーエンコーダのような回転センサより成るB軸回転位置センサ(図示せず)とを有している。
【0012】
テーブル22は、ベッド12の上面において水平なZ軸方向(
図1の左右方向)に延設された一対のZ軸案内レール(図示せず)に沿って往復動可能に設けられており、ベッド12には、テーブル22をZ軸案内レールに沿って往復駆動するZ軸送り装置として、Z軸方向に延設されたボールねじ(図示せず)と、該ボールねじの一端に連結されたZ軸サーボモータ(図示せず)が設けられており、テーブル22には、前記ボールねじに係合するナット(図示せず)が取り付けられている。ベッド12には、また、テーブル22のZ軸方向の座標位置を測定するZ軸スケール(図示せず)が取り付けられている。
【0013】
コラム14は、ベッド12の上面において水平なX軸方向(
図1の紙面に垂直な方向)に延設された一対のX軸案内レール(図示せず)に沿って往復動可能に設けられており、ベッド12には、コラム14をX軸案内レールに沿って往復駆動するX軸送り装置として、X軸方向に延設されたボールねじ(図示せず)と、該ボールねじの一端に連結されたX軸サーボモータ(図示せず)が設けられており、コラム14には、前記ボールねじに係合するナット(図示せず)が取り付けられている。ベッド12には、更に、コラム14のX軸方向の座標位置を測定するX軸スケール(図示せず)が取り付けられている。
【0014】
ヘッドストック16はコラム14の前面においてY軸方向(
図1では上下方向)に延設された一対のY軸案内レールに沿って往復動可能に設けられている。コラム14には、ヘッドストック16をY軸案内レールに沿って往復駆動するY軸送り装置として、Y軸方向に延設されたボールねじ(図示せず)と、該ボールねじの一端に連結されたY軸サーボモータ(図示せず)が設けられており、ヘッドストック16には、前記ボールねじに係合するナット(図示せず)が取り付けられている。コラム14には、また、ヘッドストック16のY軸方向の座標位置を測定するY軸スケール(図示せず)が取り付けられている。
【0015】
ヘッドストック16には、また、主軸20をZ軸方向の回転軸線Oを中心に回転可能に支持する主軸頭18が取り付けられている。主軸頭18は、主軸20を回転駆動するスピンドルサーボモータ(図示せず)と、回転軸線O周りの主軸20の回転位置を検知するロータリーエンコーダのような回転センサより成る主軸回転位置センサ(図示せず)とを有している。
【0016】
X軸サーボモータ、Y軸サーボモータ、Z軸サーボモータおよびスピンドルサーボモータ、並びに、X軸スケール、Y軸スケール、Z軸スケール、B軸回転位置センサおよび主軸回転位置センサはNC装置26に接続されている。該NC装置26によって、夫々のサーボモータへ供給される電力(電流値)が制御される。
【0017】
図2A、2Bを参照すると、本実施形態で使用する工具30の一例が示されている。工具30は、中心軸線O
tに沿って延び主軸20の工具装着孔(図示せず)または工具ホルダ(図示せず)の工具装着孔に嵌合させるシャンク32、および、頸部34を介してシャンク32の先端部に結合されている刃部36を備えて、全体的に略L形に形成されている。刃部36は、すくい面を形成する上面36b、上面36bの反対側の下面36c、上面36bと下面36cとの間に延在し逃げ面を形成する先端面36d、上面36bと先端面36dとの間に形成された切刃36aを有している。刃部36の基端部において、頸部34と下面36cとの間は中心軸線O
tに対して斜めに傾斜した斜面によって切り欠かれた欠切部38となっている。欠切部38を形成する斜面は、例えば中心軸線略O
tに対して45°の角度で傾斜させることができる。
【0018】
図3A〜
図3Cを参照すると、本発明を適用して加工されるワーク40の一例が示されている。一例として、ワーク40は歯車ポンプのケーシングであって、平板状の底壁42および底壁42の外周に沿って延在する側壁44を備え、底壁42と側壁44とによって、歯車ポンプの歯車(図示せず)を受け入れる受容部50が画成され、側壁44の内側の円弧部44a、44bに歯車の歯先が内接するように形成される。底壁42には歯車ポンプの歯車の軸を通すための第1と第2の貫通穴46、48が、底壁42の受容部50側の内面から反対側の外面へ形成されている。第1と第2の貫通穴46、48の各々の中心軸線O
1、O
2は、底壁42の内面または外面に平行な方向に延びるワーク40の中心軸線Ac上に配置されている。
【0019】
特に、
図3Cを参照すると、第1と第2の貫通穴46(48)は、歯車の軸を回転支持するための軸受(図示せず)を受容する大径部46a(48a)と、歯車の軸を通すための小径部46b(48b)とを有し、大径部46a(48a)と小径部46b(48b)との間には逃げ部46cが形成されている。逃げ部46cには、シール部材(図示せず)を配置することができる。また、歯車ポンプの設計上は、大径部46a(48a)と小径部46b(48b)と円弧部44a(44b)との各々の中心軸線は一致しているが、既述したように、そのように加工、特に仕上げ加工することは難しかった。
【0020】
以下、本実施形態の作用を説明する。
先ず、ワーク40が、第1と第2の貫通穴46、48の中心軸線O
1、O
2が工作機械10のX−Z平面に平行となるように、ロータリーワークヘッド24に取り付けられ、荒加工によってワーク40の側壁44の内周面、底壁42の内面、第1と第2の貫通穴46、48の大径部46a、48aおよび小径部46b、48bが形成される。荒加工工程では、第1と第2の貫通穴46、48の大径部46a、48aを形成する際に、B軸を180°回転送りすることによってワーク40を反転し、ワーク40の外面から座ぐり加工によって大径部46a、48aが加工される。
【0021】
次いで、ロータリーワークヘッド24によってワーク40をB軸方向に回転送りし、ワーク40の底壁42の内面が主軸20先端部に取り付けられる工具30に対面し、かつ、第1と第2の貫通穴46、48の中心軸線O
1、O
2がZ軸に平行となるようにワーク40が配向される。この状態で、工具30が仕上げ加工用の例えばスクエアエンドミルに交換され、ワーク40の側壁44の内周面および底壁42の内面が仕上げ加工される。
【0022】
次いで、工具30が、仕上げ加工用の例えば中ぐり工具に交換され、小径部46b、48bの内周面が仕上げ加工される。このときの工具30は、工具の中心軸線O
tと切刃36aとの間の距離が、仕上げ加工された小径部46b、48bの半径に一致している。従って、小径部46b、48b加工用の工具30は、半径方向に少なくとも仕上げ加工代に相当する長さをもって、その中心軸線O
tを第1と第2の貫通穴46、48の中心軸線O
1、O
2に一致させることによって、容易に小径部46b、48bを通して刃部36を裏側(大径部側)に配置することができる。
【0023】
小径部46b、48bの内周面の仕上げ加工が完了すると、小径部46b、48b加工用の工具30が大径部46a、48aを仕上げ加工するための工具と交換される。この大径部46a、48a加工用の工具30は、工具の中心軸線O
tと切刃36aとの間の長さL
cが、仕上げ加工された大径部46a、48aの半径に一致している、つまり1/2D
1=L
c(D
1:大径部46a、48aの直径)である。
【0024】
また、大径部46a、48a加工用の工具30において、頸部34の直径をdとしたときに、長さL
cに工具30の半径を加えた長さ(刃部の長さ)が小径部46b、48bの直径D
2よりも大きい場合、つまり
D
2≦1/2d+L
c=1/2(d+D
1)…(1)
の場合には、該工具30をZ軸方向に配向した状態でワーク40に対してZ軸方向に移動させても、刃部36は小径部46b、48bを通過できない。従って、大径部46a、48aと小径部46b、48bの半径の差が大きくなると、工具30をワーク40に対してZ軸方向に相対移動させて刃部36を小径部46b、48bに通すためには、通常、
図5Bに示すように、頸部34の直径dを細くしなければならない。
【0025】
そうした場合でも、後述する本発明の穴加工方法によれば、小径部46b、48bと大径部46a、48aの直径が不等式(1)を満たす場合であっても、工具30の頸部34の直径dを細くすることなく、小径部46b、48bを通して刃部36を裏側に配置することが可能となる。以下、
図4A〜
図4Fを参照して、本実施形態の作用を更に説明する。なお、以下の説明では、第1の貫通穴46についてのみ説明するが、第2の貫通穴48についても同様であることは理解されよう。
【0026】
先ず、刃部36がX軸上において第2の貫通穴48側に配置されるように、工具30がその中心軸線O
t周りに割出し、回転位置決めされる。次いで、Z軸およびX軸方向に工具30とワーク40とを相対移動させて、工具30の刃部36が第1の貫通穴46の小径部46bの近接位置に配置される(
図4A)。次いで、第1の貫通穴46の中心軸線O
1が工具30の中心軸線O
tまたはZ軸に対して所定の角度θ(
図4F)となるまで、第2の貫通穴48が工具30に接近する方向に、ロータリーワークヘッド24によってワーク40をB軸方向に回転送りする。つまり、本発明による穴加工方法では、大径部と小径部とを有した複数の貫通穴が所定の軸線に沿って並設されているワークにおいて、小径部側から大径部を仕上げ加工する場合に、ワークを前記所定の軸線および回転工具の中心軸線に対して垂直な軸線を中心として、当該穴加工すべき貫通穴以外の貫通穴が工具に接近する方向に回転送りするようにしている。
【0027】
このように、工具30の刃部36を小径部46b内に導入するためにB軸方向にワーク40を回転送りする角度θは、第1の貫通穴46の小径部46bをX軸方向に見たときの開口高さH
oが刃部36の高さH
cよりも大きくなるような角度であって、第1の貫通穴46の中心軸線O
1方向の小径部46bの長さをL
oとしたときに、以下の不等式を満たす角度とすることができる。
H
c<H
o=D
2・sinθ−L
ocosθ…(2)
【0028】
ワーク40をB軸方向に回転送りした後、Z軸およびX軸方向に工具30とワーク40とを相対移動させて、工具30の刃部36を第1の貫通穴46の小径部46bに導入する(
図4B)。次いで、X軸、Z軸およびB軸を同時に制御することによって、工具30の刃部36を小径部46bから大径部46a内へ導入し(
図4C)、更に、頸部34が小径部46b内に挿通可能な配置(
図4D)に、工具30とワーク40とを相対移動させる。
図4C、4Dに示す工程では、工具30に欠切部38を形成することによって、刃部36の長さL
c(
図5参照)が比較的長い工具30を用いても、小径部46bから大径部46aへ刃部36を通すことが可能となる。
【0029】
更に、工具30の刃部36が大径部46aの外に配置され、中心軸線O
tと、第1の貫通穴46の中心軸線O
1が一致するように、X軸、Z軸およびB軸が同時に制御される(
図4E)。次いで、主軸20を所定の回転速度で回転させつつ、テーブル22をZ軸方向へ送ることによって、大径部46aの内周面が加工される。
【0030】
第2の貫通穴48の大径部48aについも、第1の貫通穴46の大径部46aと同様に仕上げ加工できるが、最初に工具30を中心軸線O
t周りに回転位置決めする際に、刃部36がX軸上において第1の貫通穴46側に配置されるように割り出される。本実施形態では、工具30をこのように割り出すことによって、工具30とワーク40の側壁44との干渉を避けて、ワーク40をB軸方向に大きく回転送り可能となり、不等式(2)を満たすθの範囲を大きくすることができる。
【0031】
このように、本実施形態による穴加工方法によれば、ワーク40をB軸方向に180°回転させることなく、工具30から見てワーク40の底壁42の反対側の表面に大径部46a、48aを形成することが可能である。もちろん、ワーク40をB軸方向に180°回転して、底壁42の外面を工具30に対面させることによって、大径部46a、48aを簡単に仕上げ加工することはできるが、そのようにして大径部46a、48aを仕上げ加工すると、大径部46a、48aの中心軸線と小径部46b、48bの中心軸線との位置ズレ、特にB軸の鉛直軸線に垂直なX軸方向の位置ズレが大きくなる。つまり、B軸を180°回転して大径部46a、48aの仕上げ加工を行うと、X軸方向の加工誤差が倍加してしまう。これに対して本実施形態によれば、ワーク40をB軸方向に180°回転させることなく、底壁42の内面側から大径部46a、48aを仕上げ加工するために、大径部46a、48aの中心軸線と小径部46b、48bの中心軸線と円弧部44a、44bの中心軸線のズレを最小限とすることができる。