(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
現在、原子力発電所および火力発電所等においては、冷却水として利用するために多量の海水を取水している。
この海水の取水口よりくらげ等の浮遊異物が流入するのを防止するため、取水口の手前に、例えばトラベルスクリーンを配置し、海水面上または海水中の異物を、輪転移動するスクリーンに捕獲し、これをスクリーンとともに地上まで引き上げて回収している。
回収した異物はくらげが主であり、廃棄物として処理されたりしている。
【0003】
しかし、くらげが大量発生したり、潮の流れによって大量のくらげが流入したりした場合などには、スクリーンが容易に目詰まりし、取水が阻害される。
また、大量のくらげを廃棄物として処理しなくてはならないため、環境に与える影響も考慮しなくてはならず、処理費用が嵩むことも問題であった。
【0004】
これに対し、くらげ等の侵入経路となる取水面を、該取水面に沿った方向に展開する網(又は網目状の材料)で完全に覆うと、くらげの侵入は防止することができるものの、実際には、くらげによってこの網が塞がり、プラントへの取水が妨げられ、延いてはプラントの停止に至ることになる。
これは、最も避けるべき状況である。
【0005】
かような問題を解消するに、例えば、特許文献1には、海の表層域に展開する縦網と、三角形状の底網とを有し、該縦網と底網との間に開口部を設けた装置が記載されている。
この装置によれば、取水口に到達するくらげ等の異物を大幅に減らすことができる。
また、特許文献2には、捕獲したくらげを海水中に貯留して死滅させ、そのまま海水に溶けるようにする洋上処理システムが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、広い取水巾を有する取水口に対して、くらげ等の異物を効率よく回収することのできる異物洋上処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた。
その結果、洋上に取水面に沿った方向に展開する網(以下、横網と称する)を設けても取水が持続可能なシステムに関する知見を得た。
すなわち、異物流入を防止する装置を、間隔をあけて複数配置し、該間隔を覆う横網を設置することにより、まず、横網によりくらげ等を高い回収率で回収することができることを見出した。
また、異物により横網が塞がった場合でも海流により異物流入防止装置の方へと異物を追いやり、該装置により異物が効率よく回収でき、さらに、該装置の設置箇所から取水可能であることを見出した。
【0010】
本発明は、上記の知見に基づくものであり、その要旨構成は、以下の通りである。
(1)海から冷却水用の海水を取水口に導くカーテンウォール内プールの海面上に浮かべた、異物の受け入れ口となる回収台船と、
該回収台船を頂点として、入り側の海底に向かって三角形状に展開する底網と、
該底網を形造る三角形の頂点から延びる二辺と対応して、海面上を前記回収台船から延びる二本のフロート鎖に吊り下げ固定した、海の表層域に展開する縦網と、
前記底網と前記縦網の少なくとも部分との間に展開する側網と、
を備えた、取水口への異物流入防止装置を、間隔をあけて複数設置し、
隣接する前記異物流入防止装置間の前記間隔を覆う横網を配置することを特徴とする、異物洋上処理システム。
【0011】
(2) 前記横網の展開長さL(m)は、当該横網の設置線を延長した、洋上のライン全体の長さをZ(m)とし、有効取水断面の取水量をQ(m
3/s)、横網の高さをh(m)とするとき、
0<L≦Z−Q/(0.2×h)
を満たす、上記(1)に記載の異物洋上処理システム。
【0012】
(3)前記洋上処理システムの少なくとも一方の端部側の縦網の海底側に開口部を設けた、上記(1)又は(2)に記載の異物洋上処理システム。
【0013】
(4)前記底網の下部に気泡噴出用のバブリング管を配設した、上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の異物洋上処理システム。
【発明の効果】
【0014】
本発明の洋上処理システムによれば、広い取水巾を有する取水口に対して、異物の高い回収率を達成することができる。従って、プラントへの異物流入が減少し、取水量の不足によるプラントの制限運転状態を回避することができ、廃棄物量も減少する。
また、本発明の洋上処理システムによれば、プラントへの安定した取水が可能となる。
さらに、本発明の洋上システムは、複雑な機構を必要とせず、また、装置の設置台数もすくなくすることができるため、コストの増大を抑えることができ、省エネルギー、省スペースも達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に本発明の異物洋上処理システム1を海上に設置した様子を示す。
図示例で、洋上には、冷却用の海水を矢印の方向に吸引する取水口2が設置されている。
図示例で、洋上の沖合いには鋼管杭3が設けられ、鋼管杭3にはカーテンウォール4が設置されている。
また、
図1に示すように、本発明の異物洋上処理システム1は、カーテンウォール内プールP(カーテンウォール4と取水口2との間の領域)の海水入り側に向けて、間隔をあけて複数、図示例では2台設置した異物流入防止装置5と、隣接する異物流入防止装置5間の間隔を覆う横網6とを有する。
横網6は、海水面から海底まで展開している。
【0017】
ここで、
図2は、異物流入防止装置5を示す斜視図であり、
図3は、
図1のI−I断面図である。以下、
図2、
図3を用いて、異物流入防止装置について説明する。
図2、3に示すように、異物流入防止装置5は、くらげ等の異物の受け入れ口となる回収台船7を、カーテンウォール内プールPの取水口2寄りの海上に配置する。
そして、図示例では、鋼管杭3の2箇所から回収台船7に向かって縦網8a、8bを2つ設けており、また、縦網8a、8bによって形成される三角形内において海底から回収台船7に向かって底網9が設けられている。
【0018】
一方、海上においては、この底網9を形造る三角形の頂点(回収台船7)から延びる二辺7aおよび7bと対応して、回収台船7から二本のフロート鎖10aおよび10bを鋼管杭3に向かって延ばし、図示例では、それぞれの先端を鋼管杭3に固定する。
ここで、フロート鎖10aおよび10bとは、多数のフロートをロープによって連結したものである。
上記縦網8a、8bは、フロート鎖10aおよび10bに吊り下げ固定し、海の表層域に展開する。縦網は、具体的には海面下1〜4mの範囲に展開している。
加えて、底網9と縦網8a、8bの少なくとも回収台船を起点とする部分が、三角形状の側網11a、11bによって連結されている。
縦網8a、8b、底網10及び、側網11a、11bはつながって1つの袋状の網を形成している。
また、
図3に示す例では、カーテンウォール4は、鋼管杭3の沖合い側において海面から約10mの深さにかけて設けられている。
以下、本発明の作用効果について説明する。
【0019】
さて、冷却に供する海水は、鋼管杭3側から取水口2側へと導かれ、この海水の流れに乗って、くらげ等の異物12が入り込んでくる。
このとき、本発明の異物洋上処理システムによれば、鋼管杭3側からカーテンウォール内プールPへと導かれて入り込んだくらげ等の異物は、海水面から海底まで展開する横網で捕獲することができる。
また、異物流入防止装置の底網、側網、縦網によって、くらげ等の異物が回収台船7に収斂するように案内され、この回収台船によってもくらげを捕獲することができる。
ここで、通常、カーテンウォール4を海水が通る際に乱流が発生し、海底付近に浮遊するくらげ12は海面下の表層域まで上昇し、カーテンウォール4の下からカーテンウォール内プールPに入り込んだくらげ12は、その大半(約80%)が海面付近を浮遊してくる。
ところが、一部のくらげ(約20%)は海底付近からカーテンウォール4付近で上昇せずに海中を浮遊する。
本発明では、異物流入防止装置5の縦網8a、8bにより、海面に浮上してくるくらげを誘導し、一方で、底網9により海底付近を直進して侵入してくるくらげを誘導することができるため、くらげを効率良く回収することができる。
また、くらげの侵入が適度に分散されるため、このような異物によって網が目詰まりするのを防止することができ、メンテナンスコストを削減することができる。
このように、本発明では、横網を海水面から海底まで展開し、しかも、縦網の少なくとも一部を側網を介して底網とつなげているため、海の様々な深さに侵入してくる異物も回収台船7にて回収することができ、異物の回収率を高めることができる。
また、横網の配置により、異物流入防止装置の設置台数を少なくすることができるため、コストの増大を抑制し、省エネルギー、省スペースを達成することもできる。
【0020】
次に、取水について説明する。
横網により、異物が捕獲されると、この異物により、横網が塞がれていくため横網設置箇所からの取水量は減少していく。
しかし、横網が塞がれると、
図1の矢印で示す向きの海水の流れが生じる。すなわち、横網が塞がるまでは、海水は横網の網目(隙間)を通過して取水口へと流れることができるが、この網目がくらげ等で塞がれると取水口へと流れ出るための経路がなくなるため、
図1に示すように、取水口への流れの経路を失った海水は、その流体としての性質(粘性)によって、異物流入防止装置側へと流れていくのである。この流速は、異物により横網が塞がれるほど速くなっていく。
これにより、海水及び異物が異物流入防止装置の方へと流れていくことになる。すなわち、本発明の横網は、異物による閉塞時には、海流及び異物を異物流入防止装置の方へと導く誘導体として作用するのである。
異物流入防止装置へと誘導されたくらげ等の異物は、底網によって海底から海水面の回収台船へと案内される。従って、異物を回収台船で回収しつつも、異物流入防止装置を設置した領域の海底側から海水を取水することができる。
また、横網が塞がって、横網を設置した領域からの取水量が減少するにつれて、上述した流速が加速するため、異物流入防止装置側での取水量が増大することになる。
これにより、横網が異物により塞がった場合にあっても、プラントの安定した取水量を確保することができる。
また、同様に、横網が塞がると異物流入防止装置の方へくらげが誘導されるため、該装置によるくらげの回収率も向上することになる。
なお、横網が閉塞することで増大する流体抵抗に起因する沈下力によって横網が沈まないように、浮力を与えることが好ましい。
【0021】
ここで、
図1及び
図4に示すように、横網設置ラインを延長した、洋上のライン全体Sのうち、横網の両外側の部分をA、Bとし、そのラインに沿った長さをa、b(m)とする。
このとき、横網の両側の部分A、B(有効取水断面)における流速は0.2m/s以下とすることが好ましい。有効取水断面での流速が大きくなりすぎると、くらげ以外の魚等の遊泳動物の侵入防止が困難となり、漁業資源への悪影響を及ぼすおそれが生じてしまうからである。
一方で、コストを低減するためには、異物流入装置の設置台数が少なくて済むように、横網の展開長さLは大きい方がよい。
従って、有効取水断面の取水量をQ(m
3/s)とし、横網の高さをh(m)すると、
Q/{(a+b)×h}≦0.2
を満たすことが好ましい。
すなわち、
図4に示すように、横網の取水面に沿った方向への展開長さ(隣接する異物流入防止装置間の間隔)をL(m)とし、横網設置線を延長した、洋上のライン全体の長さをZ(m)とするとき、
0<L≦Z−Q/(0.2×h)
を満たすことが好ましい。
具体的には、くらげのみを回収するには、Lを例えば40m以下とすることが好ましい。
なお、Lの大きさは、取水量Q、横網の両外側の部分の長さa、b、横網の高さhを適切に選定することによって適宜設定することができる。
【0022】
また、洋上処理システムの少なくとも一方の端部側の縦網の海底側には、
図2、3に示すように、開口部13を設けることが好ましい。
回収限界を超える量のくらげが入り込んだ場合など、異物流入防止装置の海底側の部分が異物等により塞がる事態となっても、上記した海水の流れにより、異物洋上処理システムの外側から取水を続けることができるからである。
すなわち、開口部を余剰のくらげを逃がすバイパスとして機能させることができる。
【0023】
さらに、異物流入防止装置の海底側が異物によって塞がる事態を避けるために、
図2に示すように、底網9の底部に気泡噴出用のバブリング管14を配設し、バブリング管14から空気を噴射して気泡を海面上へ浮上させる過程において、くらげなどの異物を上昇させて、底網9に沿って回収台船7までの案内をより確実に行うこともできる。
【0024】
くらげ回収台船7 により回収されたくらげは、サクションパイプ15によって吸引され、フィッシュポンプ16により、洋上くらげ貯留層17に生きたまま移送され、この貯留層17で海水中に貯留される。
貯留層17は、通常、カーテンウォール内プールPの取水口付近の海水の流れのある位置に設置される。
洋上くらげ貯留槽17には、槽内の水質を監視する水質監視センサ17aが備えられ、槽内の水質が所定の排水基準を満たすように常時監視している。
また、洋上くらげ貯留槽17には、槽内に貯留されているくらげの量を監視する槽内くらげ量監視センサ17bが備えられ、槽内に貯留されているくらげが処理可能な量を超えないように監視している。
回収されたくらげを洋上くらげ貯留槽17に移送できない場合には、陸上くらげ回収容器18によりくらげを陸上で回収する。
これにより、洋上くらげ貯留槽17で処理できる限界を超えてくらげが来襲した場合に、回収されたくらげを緊急避難的に陸上くらげ回収容器18で回収し、所定の廃棄物処理によって処理することができる。
吸引されたくらげを洋上貯留層17に移送するか、陸上くらげ回収容器18に移送するかは、弁19によって切り替えることができる。
なお、吸引されたくらげを洋上くらげ貯留槽に投入する際の水切りを水切りセパレータ20で行い、吸引されたくらげを陸上くらげ回収容器に投入する際の分離をセパレータ21で行うことができる。
【実施例】
【0025】
本発明の効果を確かめるため、発明例として
図1に示す異物洋上処理システムの場合と、比較例として
図5に示す、横網を有しない異物洋上処理システムの場合とで、くらげの回収率を求める実験を行った。
【0026】
実験は、CFD(Computational Fluid Dynamics)解析によるシミュレーションにより、以下のようにして行った。
すなわち、くらげの遊泳力は3cm/s程度であり、カーテンウォール内プールにおける海水の流速は少なくとも5cm/s以上であるため、くらげの流れは、海水の流れと見立てて解析することができる。
そこで、擬似くらげ(100Wの熱源)を上流側に、海水面から海底まで等間隔に配置し、上流側に設置した熱量に対する異物洋上処理システムを通過した熱量の割合を、くらげの回収率として算出した。
なお、解析領域には、取水ポンプの動力のみ作用するものとしてシミュレーションを行った。
また、発明例は、横網の展開長さL= 40 mである。
発明例については、横網が閉塞する前と、横網が閉塞時との双方の場合で評価した。
評価結果を表1に示す。
なお、表1において、2台の異物流入防止装置を「1号」、「2号」と称している。
【0027】
【表1】
【0028】
表1に示すように、本発明にかかる洋上処理システムによれば、まず、横網が閉塞する前においては、横網による回収率が非常に高く、これにより、従来の洋上処理システムより、システム全体としてのくらげの回収率が大幅に高くなることがわかる。
さらに、横網閉塞時においては、横網自体による回収が見込まれないものの、上述の通り、横網による異物の誘導効果が作用し、異物流入防止装置によるくらげの回収率が、比較例より格段に高くなり、結果として、システム全体としての回収率が、比較例より大幅に高くなっていることがわかる。
【0029】
また、発明例の洋上処理システムについては、実機により、プラントの可動状態を評価する試験を行ったが、取水量不足によりプラントが制限運転状態となることはなかった。