(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
中耳炎(耳感染症)は、健康上の重要なことを示唆する、よく見られる問題である。これは、先進国の子どもが難聴になる最も一般的な原因で、未就学児の最大80%に影響していた時期もある。上気道感染症に次いで、子どもの外来患者に抗菌剤を用いることの最も多い適応症であり、子どもが小児科に行く最も多い理由でもある。米国では、中耳炎の処置や外科治療にかかる年間コストが、50億ドルであると推定される。
【0003】
中耳炎は、中耳と乳突洞に影響する炎症・感染プロセスである。急性感染後、中耳腔内で滲出液が滲出することが多く、これは滲出性中耳炎(MEE)として知られている。MEEが遷延化すると、聴覚消失や滲出液を伴う反復性中耳炎(OME)に至る場合がある。OMEは、肉眼でわかる中耳感染の徴候がなく、滲出性中耳炎が3か月以上継続して認められる状態と定義されている。ただし、滲出液が存在することで細菌の増殖に適した環境ができるため、反復性の耳感染症はOMEの後で起こることが多い。
【0004】
中耳は通常、粘液を出す。しかしながら、細菌、ウイルス、アレルギーなどの炎症性の刺激によって、粘液が過剰に作られ、その粘度が増し、あるいは粘液の排出障害が生じることがある。このような変化がゆえに中耳内に粘液が溜まり、MEEになる。MEEは、特に子どもで、長引くことで難聴や反復性の耳感染症につながる場合がある。成人でもOMEや反復性のMEEを発症することはあるが、たいていは耳管の機能と位置が良くなっているため、子どもよりも影響されにくい。成人と小児のどちらの集団に対しても、一般的な治療の選択肢には、耳チューブの留置あるいは、解像度を上げて細かく観察することが含まれる。
【0005】
臨床的に重要なこれらの内容が示すことを考慮すると、中耳の内容物を正確に見極めることが、すべての患者で耳の検査時に重要かつ不可欠な決定であることがわかる。中耳流動体の有無は、通常、オトスコープ検査と鼓膜聴力検査という既存の技術で診断される。しかしながら、これらの検査はどちらも、診断精度の点で限界があり、施術者の経験に左右される。これが、別の技術について検討する十分な理由となっている。たとえば、鼓膜聴力検査は、外耳道内の空気圧を変化させて得られる鼓膜のコンプライアンスを測定するものであり、中耳腔を実際に測定しているわけではない。このため、外耳道に挿入される鼓膜聴力検査プローブで密閉状態を作る必要があるが、これを小さな子どもで実現するのは困難である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
別途定義しないかぎり、本明細書で用いる技術用語はいずれも、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されているものと同じ意味を持つ。
【0011】
本発明の文脈において、「光」という用語は、紫外線、可視光線、赤外線など、全波長スペクトルにわたる電磁放射をいうことができる。
【0012】
本明細書で使用する場合、「治療対象体」という用語は、ヒトおよび非ヒト動物(たとえば、非ヒト霊長類、ヒツジ、ウシなど)を含むがこれらに限定されるものではない、動物をいうことができる。一般に、「患者」および「治療対象体」という用語は、本明細書では治療対象となるヒトを指して同義に用いられる。
【0013】
本発明は主に、耳鼻咽喉科の分野に関し、特に、治療対象体の中耳内に液体が存在するかどうかを決定するための装置および方法に関する。本発明は、大半の医師の診察室、救急診療部、クリニックで見られる従来のオトスコープの診断機能を高めるための装置10(
図1)および方法12(
図4)を提供する。本発明は、コヒーレント光線などの光線(たとえば、低出力レーザー)を鼓膜に照射でき、鼓膜と中耳腔に関連して得られる反射率のパターンが、治療対象体の中耳内に異常な流動体があるかどうか示すという発見に、少なくともある程度は基づいている。この発見をもとにして、本発明は、膨大な数の施設環境で、異なる施術者ら(たとえば、小児科医、救急医、耳鼻科医、上級看護師など)によって行われる身体検査に不可欠の項目であるオトスコープ検査の診断精度を大幅に高めている。
【0014】
中耳内における流動体の存在を決定するための既存の技術には、使いやすさと精度の点で限界がある。本発明は、医療の施術者であれば、ほぼすべての患者に比較的容易にオトスコープ検査を行うことができるという前提に基づいている。本発明は、中耳内の液体の存在に関して重要な情報を与える従来のオトスコープ検査に対し、単純でコスト効率が良く、容易に解釈できるように付加するものである。詳細については後述するように、本発明では、装置、試験、人員、コンピューターによる解釈を追加する必要がないため、コストの削減につながる。
【0015】
本発明が関わる比較解剖学論および生理学論を読み手が理解する一助とするために、ヒトの耳14の断面を示す概略図を
図2に示す。耳14には、外耳、中耳、内耳という3つの要素がある。3つとも聞くことに関与するが、内耳だけはバランスもつかさどっている。外耳は、耳介すなわち耳たぶと、外耳道とで構成される。どちらの構造体も、音波を鼓膜に伝え、鼓膜が振動できるようにする。また、耳介は、鼓膜が傷つかないように守る役目も果たす。
【0016】
中耳は、頭蓋の側頭骨内にある、空気が満ちた空間である。この空間内では、上咽頭および鼻部に通じる耳管によって、空気圧が外界と同じに保たれる。鼓膜の隣には、3つの小さな骨すなわち小骨がある。ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨が、鎖のように鼓膜に連結され、この膜を振動させる音波を、これら3つの骨の機械的な振動に変換する。アブミ骨は卵円窓に嵌まりこんでいて、卵円窓が内耳とつながっている。
【0017】
内耳は、聞くこととバランスという2つの機能を持つ。内耳は、液体で満たされた管が密集したもので、頭蓋の側頭骨内にある。骨管には、細胞膜で裏打ちされた一組の管も含まれる。この骨管は骨迷路と呼ばれ、外リンパ液で満たされているのに対し、膜迷路管は内リンパで満たされている。ここが、聞くことをつかさどる細胞(すなわち、コルチ器の有毛細胞)の存在する場所である。骨迷路自体は、次の3つの部分、すなわち、(1)聞くことをつかさどる蝸牛と、(2)バランスに関連した機能を持つ三半規管と、(3)これら2つの構造体を連結する前庭と、にわけられる。前庭は、バランスと平衡に関連するさらに2つの構造体である、球形嚢と卵形嚢とを含む。内耳の最後に残った構造体が、正円窓および第8脳神経(脳神経VIII)であり、これは、前庭神経と蝸牛神経とで構成される。
【0018】
本発明の一態様は、治療対象体の中耳内に液体(たとえば、異常な流動体など)が存在するかどうかを決定するための装置(
図1)を含む。装置10は、細長いプローブ16と、この細長いプローブに内蔵された第1の光源18とを備える。細長いプローブ16は、略T形で、耳14(耳道など)を検査するための遠位端20を含む。細長いプローブ16は、互いに逆方向に延在するプローブ部分24とアイピース26とを支える、握り部分22をさらに含む。細長いプローブ16の遠位端20は、装置10の使用時に鼓膜から所望の距離(たとえば、約5〜10mmなど)をあけて配置できる先端28も含む。
【0019】
本発明のもうひとつの態様では、装置10は、
図1に示すような改変されたオトスコープを有する。オトスコープは通常、持ち手と頭部とからなる。頭部には、光源と、一般に8ジオプトリー前後で低倍率の単純な拡大レンズとを内蔵することができる。オトスコープの遠位すなわち前側の端に、使い捨てのプラスチック製スペキュラを取り付けるための部分がある。本発明の一例では、装置10は、改変されたオープンタイプのオトスコープを有する。オープンタイプのオトスコープは、レンズとスペキュラとの間に囲いがないこと以外は、従来の(クローズドタイプの)オトスコープと似ている。オープンタイプのオトスコープは、(たとえば、オトスコープで見ながら耳垢を取り除く目的で)耳14の中に器具を挿入するために、耳鼻咽喉科で用いられることが多い。オープンタイプのオトスコープは、たとえばWelch Allyn(Skaneateles, NY)から市販されている。ここでのオトスコープが、任意に、従来の(すなわち、レンズとスペキュラとの間に囲いがある)クローズドタイプのオトスコープを含み得ることは、自明であろう。
【0020】
図3Aに示すように、装置10は、光線30(
図5B)を、治療対象体の中耳と連関する鼓膜を通り抜けて伝えるように構成された第1の光源18を含むように改変されている。装置10(
図3A)は、この装置に内蔵され、第2の光源32を追加でまたは任意に含んでもよい。この第2の光源32は、光を、細長いプローブ16の遠位端20を通り抜けて伝えることで、治療対象体の鼓膜に光を照射するように構成されている。本発明の一例では、第2の光源32は、白熱電灯を備えてもよい。第2の光源32は、装置10の使用時に第2の光源の強度を調節(弱めるなど)できるようにする、ダイマースイッチ(図示せず)に、作動的に接続されていてもよい。
【0021】
第1の光源18および/または第2の光源32は、同一または異なる1つまたは複数の電源(図示せず)と電気的に通じた状態であってもよい。たとえば、第1の光源18および第2の光源32は、装置10に内蔵された1個の電池と電気的に通じた状態であってもよい。詳細については後述するように、このような構成が可能なのは、第1の光源18が動作にわずかな電力しか必要としないためである。第1の光源18と第2の光源32にエネルギーを供給するのに、外部電池および/または電源出力などの電力源を使用してもよいことは、自明であろう。
【0022】
第1の光源18は、光線30の低出力光源(たとえば、ANSI Class IIIRの装置など)(
図5B)であってもよい。たとえば、第1の光源18(
図3A)は、約10mW未満の電力で動作可能である。別の例では、第1の光源18は、約5mW未満の電力で動作可能である。さらに別の例では、第1の光源18は、約1mWを超えるが約5mW未満の電力で動作可能である。好都合なことに、第1の光源18が低出力で動作するため、鼓膜に穴をあけたり鼓膜を破ったりすることなく、光線30(
図5B)を、鼓膜を通り抜けて伝えることができる。これは、高出力のコヒーレント光線(たとえば、レーザーなど)を用いて鼓膜に穴をあけ、小さな切開創を作る、鼓膜切開術の際に用いられるオトスコープとは異なる。
【0023】
第1の光源18(
図3A)は、光の光線30(
図5B)を伝えるように構成される。たとえば、第1の光源18(
図3A)は、可視スペクトル域に1つまたは複数の波長を有する平行光線または収束光線30(
図5B)を伝えるように構成されたレーザーであってもよい。本発明の一例では、第1の光源18(
図3A)は、波長約532nmのコヒーレント光線30(
図5B)を伝えるように構成される。本発明の別の例では、第1の光源18(
図3A)は、波長約635nmのコヒーレント光線30(
図5B)を伝えるように構成される。第1の光源18(
図3A)として、発光ダイオード(LED)、レーザー、レーザーダイオードなど、多岐にわたる既知の電気機械的装置を使用してもよい。たとえば、第1の光源18は、波長約532nmまたは約635nmのコヒーレント光線30(
図5B)を伝えるように構成された低出力レーザーダイオードを含んでもよい。
【0024】
第1の光源18(たとえば、レーザーダイオードなど)(
図3A)を、装置10の握り部分22に収容してもよいことは、自明であろう。この場合、光線30(
図5B)は、第1の光源18から装置10を通って遠位端20および/または先端28まで延在する1本または複数本の光ファイバ34(たとえば、1本以上の光ケーブルまたは1本以上の光導体など)(
図3B)を介して、伝播可能である。図示はしていないが、本発明の装置10に、その特定の機能を最適化するための構成要素および特徴を追加で含んでもよいことも、自明であろう。たとえば、装置10は、反射光の視認性を低減するための交差偏光板、視野からの反射光を排除するように構成された遮蔽機構および/または視認性とコントラストを改善するためのカラーフィルターを含んでもよい。
【0025】
本発明のもうひとつの態様は、治療対象体の中耳内に液体(たとえば、異常な流動体など)が存在するかどうかを決めるための方法12(
図4)を含む。本発明の一例では、方法12は、治療対象体のMEEの存在の有無を決めるのに使用できる。急性の耳感染後、中耳腔内で滲出液が滲出することが多く、これはMEEとして知られている。MEEが遷延化すると、発話および学習の遅れと再発性OMEに至る、伝音難聴という健康上の深刻な問題を引き起こす。このため、正しい診断が何にも増して重要である。最も普通に用いられる診断方法は、オトスコープ検査と鼓膜聴力検査を含む。しかしながら、これらの方法では、かぎられた精度しか得られないことが示されており、施術者の経験に左右されるため、誤診の頻発、抗菌薬の不必要な使用、難聴の長期化につながる。後述するように、本発明は、医療の施術者が、MEEなど中耳内の異常な流動体を検出することで、患者を正しく診断して治療するための単純で効果的な手段を提供する。
【0026】
この方法の工程36は、
図1に示す上述の装置と同一または同様に構成された装置10を準備することを含む。たとえば、装置10は、遠位端20と、握り部分22と、光線30を伝えるように構成された第1の光源18と、光を、遠位端を通り抜けて伝えるように構成された第2の光源32とを有する、改変されたオープンタイプのオトスコープを備えてもよい。第1の光源18は、波長約532nmまたは約635nmのコヒーレント光線30を伝えるように構成された低出力(たとえば、約5mW未満など)ダイオード(たとえば、レーザーダイオードなど)を備えてもよい。
【0027】
次に、装置10を、
図5Aに示すように位置決めすることができる。たとえば、装置10の遠位端20を耳道に挿入した後、先端28が鼓膜に隣接するまで前進させればよい。この先端28については、医療の施術者によって決定される所望の距離をあけて、鼓膜に隣接して位置決めすればよい。たとえば、先端28は、鼓膜から約5〜10mmのところに位置決め可能である。遠位端20の位置決め時、第2の光源32(たとえば、白熱電灯源など)を任意に作動させ、耳道と鼓膜に光を照射してもよい。
【0028】
装置10の遠位端20を治療対象体の耳道内で適宜位置決めしたら、工程38(
図5B)で第1の光源18を作動させる。まだ第2の光源32を作動させていない場合は、これも工程38で作動させることができる。第1の光源18は、装置10上に配置されたコントローラー(図示せず)(たとえば、ボタンなど)によって作動させればよい。コントローラーを作動させると、第1の光源18に、光線30を、鼓膜を通り抜けてはいるが鼓膜に穴をあけずに(穿孔せずに)伝えさせることができる。光線30は、鼓膜を通過すると反射して鼓膜に戻り、鼓膜に関連した反射率パターン44を作り出す。これは、実質的な集束反射率パターン(
図6A)のこともあれば、実質的な拡散反射率パターン(
図6B)のこともある。
【0029】
鼓膜に関連した反射率パターンとは、鼓膜を通り抜けて放射される光の拡散反射(たとえば、中耳腔内の何かかで反射するなど)だけではなく、鼓膜で反射する光のことを意味することがある。鼓膜での内部反射が、反射率パターンのみならず、鼓膜表面での反射を左右する要因となり得ることは、自明であろう。
図6A〜
図6Bに示すように、反射率パターン44は、少なくとも2つの領域を含む。反射率パターン44の第1の領域46は、入射光の一部すなわち、鼓膜の外面で反射する光線30の点光線で画定される。第2の領域48は、入射光の残りの部分すなわち、中耳内の後壁および/または液体で鼓膜に戻る方向に反射し、鼓膜を通り抜けて放射される光線30の点光線に対応する。第3の領域50は、鼓膜のうち、光線30のどの部分も透過せず、反射もしない部分を含む。
【0030】
あるいは、反射率パターン44は、鼓膜の外面と内面(および関連の組織)のみならず、中耳腔(および中耳腔内に存在するすべての組織および液体)で反射する、すべての光の合成光を含む、観察されるパターンであるといえる。鼓膜を通り抜けて戻ってくる光はすべて、その後、装置10のユーザーによって観察される。
【0031】
光線30によって作られる反射率パターン44の性質を理解するには、光と、これを伝える物質の物理的な性質を理解することが重要である。基本的に、ヒトの中耳は太鼓に似ている。薄く、一部が半透明の鼓膜は、ほとんどが気腔で、かつ後面を持つ空洞部に張られている。異常な状態では、気腔が滲出液で満たされるようになる。滲出液は、粘度と透明度の点で特徴にばらつきがある。それにもかかわらず、その液体の光散乱特性は、空気の場合とは実質的に異なる。空気は通常、非散乱媒体とみなされる。中耳内に存在する液体は、強く前方散乱するが、かなり広い角度にわたる散乱も相当に含む。この作用は、霧の中でのヘッドライトの輝き方に似ている。
【0032】
健康な耳では、光路は、2つの組織と、合計3つの境界とからなる。耳道に放射された光は、鼓膜の外面に衝突した後、この薄い膜を通過して中耳腔に入る。基本的に何も変わらない中耳の気腔を通過する際、光は中耳の不規則な表面で反射し、わずかに広がった反射率パターン44すなわち反射光プロファイルで戻ってくる。これによって、鼓膜の表面に、実質的な集束反射率パターン(たとえば、点に似ているなど)が作られる(
図7A)。本明細書で使用する場合、「集束反射率パターン」という用語は、中耳内の空気の屈折率が低いため実質的に集中したおよび/または狭い、鼓膜を通り抜けた光の放射を意味することができる。すなわち、(空気の存在下でも一定量が中耳の後面で反射することはあるが)正常な中耳内の空気は、鼓膜を通過する光線30に対する影響がほとんど無いほど、屈折率が低い。
【0033】
異常な中耳、すなわち液体で満たされた中耳では、鼓膜および周辺の組織は、大部分が何も変わらないままである。しかしながら、液体の存在が、中耳の光学的効果を大きく変えてしまう。液体(と、粒子状物質や細菌など、液体中に存在するあらゆる散乱物質)が、液体のない中耳内の空気より大きく光線を広げるため、鼓膜で実質的な拡散反射率パターンが作られる(
図6B)。本明細書で使用する場合、「拡散反射率パターン」という用語は、空気に比して中耳内の液体の光学特性が大きく異なる(たとえば、屈折率が異なるが、液体とこれに関連する粒子の散乱機能も異なる)ことを利用して、実質的に広く散乱されるおよび/または分散される、鼓膜を通り抜けた光の放射をいうことができる。このように、実質的な拡散反射率パターンは、観察される反射率パターンに関して、反射光が実質的な集束反射率パターンとは実質的に異なるようなものである(たとえば、実質的な拡散パターンのほうが、観察される光が多いなど)(
図7B)。
【0034】
また、鼓膜から中耳の組織までの距離は、光の散乱を、光線30の最初の光路に対して垂直または実質的に逆行させることすらできるような、十分なものであればよい。光が鼓膜に戻ると、この光線はかなり広がり、鼓膜を実質的に完全に照射できることもある。
【0035】
上述したように、(異常な流動体の存在下で)実質的な拡散反射率パターンを作り出す光は、(正常な中耳で)実質的な集束反射率パターンを作り出す光と比べて、屈折率が高い。観察者の目には(工程40)、異常な流動体が存在する場合に、「白熱光」で鼓膜全体に光が当たっているように見える。これは、光線30の大部分が変化しないように見え、鼓膜上で実質的な集束反射率パターン(たとえば、点に似ているなど)に見える中耳内の空気の場合とは著しい差である。
【0036】
工程42では、中耳内に異常な流動体があるかどうかを決める。実質的な拡散反射率パターン(
図6B)は、中耳内に異常な流動体が存在することを示す。たとえば、実質的な拡散反射率パターンの存在によって、治療対象体にMEEがあることが示され得る。あるいは、実質的な集束反射率パターン(
図6A)によって、中耳内に正常な流動体(すなわち、空気)があると示されうる。このように、本発明は、中耳炎を診断するための単純で効果的な方法12を提供する。方法12を用いると、抗菌剤を不必要に使用し、抗菌剤に対する細菌の耐性が増し、さらには進行した疾患の治療に伴うコストがかさんで経済的なコストの増加が加速することになりかねない、偽陰性の診断の回数が減ることで、大幅にコストが削減される。
【0037】
以下の実施例によって、本発明を説明する。この実施例は、本発明の潜在的な用途の範囲を限定することを意図したものではない。
【実施例】
【0038】
装置設計
初期の装置設計は、レーザーダイオードモジュールを追加し、既存のオープンタイプのオトスコープ(Welch Allyn, Skaneateles Falls, NY)に実装することを中心としていた。本発明の目的で、オープンタイプのオトスコープは、厳密に焦点を合わせた光線の位置決めと調節を容易に可能にする。レーザーダイオードモジュールを固定するために、単純なマウントを構築し、光源付近でオトスコープに取り付ける。
【0039】
この設計では、同一のプロトタイプで異なる波長(色)を試験できるように、レーザーダイオードモジュールを適宜交換できるようにした。また、マウントは、スペキュラの開口部を通して光線の焦点を合わせ、鼓膜表面に照射するように、レーザーダイオードモジュールを正確かつ安定して位置決めできるようにした。このプロトタイプの目的で、レーザーダイオードモジュールを両面テープでマウントに取り付け、外部のバッテリー電源で動力を供給した。オトスコープ白熱球用の電力は、もとの装置に内蔵された別の電源から得た。
【0040】
装置の試験
許可を得て、耳、中耳、側頭骨、中頭蓋窩底、耳管、周辺の構造体(Cleveland Clinic Anatomy Lab)を含むex vivoでの死体標本を入手した。Cleveland Clinic Head and Neck Institute Resident Training Temporal Bone Lab(Crile Building)で実験を行った。側頭骨切開装置に標本を固定し、経中頭蓋窩法で中耳腔にアクセスした。このアクセスは、合成の滲出液代用物を出し入れするのに必要であった。
【0041】
中耳の滲出液は主に、大きな糖タンパク質であるムチンで構成される。MEEまたはムチンの合成代用物は入手できない。このため、本発明者らは、概念証明試験のために滲出液の合成代用物を作製した。Surgilube(Fougera, Melville, NY)を水と混合し、色、堅牢性、視認性の特性が本来のMEEに近い液体を作製した。MEEの色は透明から淡い黄色までの範囲におよぶことがあるため、食品用の着色料を加えて、淡い黄色の滲出液代用物も作製した。この滲出液を中耳内に入れた後、鼓膜を破損したり鼓膜に穴をあけたりすることなく、中耳腔よりも上の経中頭蓋窩を経由する方法で取り出した。
【0042】
この実験設定で、本発明者らは、3通りの波長のレーザーダイオードが鼓膜に対しておよぼす影響を調べた。得やすさ、大きさ、可視スペクトルの範囲、無理のないコストが理由で、緑色(532nm)、赤色(635nm)、青色/紫外(405nm)のレーザー色を選択した。他の色(黄色、青色など)は、いずれもコスト高であった(>$100)か、この用途では実用的ではない大きなモジュールを使用するものであった。中耳での3通りの実験結果を、液体が存在しない、透明の液体が存在する、黄緑色の液体が存在するとして評価した。カメラを使って目に見える資料を作成し、結果を
図8に示す。
【0043】
装置のレンズを通して写真画像を得た。レーザーを使っている間、オトスコープのバックグラウンド照明を落として、レーザーパターンを評価しやすくした。上述したように、装置のモジュールプラットホームからスペキュラを通して鼓膜までレーザーを伝播させた。
図8に示すように、これらの結果から、以下のものを含むいくつかの重要な初見が得られる。
【0044】
(1)滲出液なし、透明の滲出液、黄色の滲出液がある状態を区別するには、レーザーで補助することなく、オトスコープ検査だけでは不十分であることがわかる。
(2)緑色(532nm)レーザーを使った可視化では、仮定したとおりの視覚上の効果が得られる。鼓膜が光っていることから滲出液の存在が証明され、滲出液が存在しないと、レーザーは点のように見える。この効果は、どちらのタイプの滲出液でも証明された。
(3)赤色(605nm)レーザーでは、緑色レーザーと似たような結果が得られた。
(4)青色(405nm)レーザーでは、透明の滲出液の状態に対しては予想した結果が得られたが、黄色の滲出液では何も光らなかった(おそらく、デジタル(およびフィルム)カメラのほうが、人間の目よりもUV領域に対する感度がかなり高いためであろう)。
(5)カメラによって結果を目で確認できる形の資料にすることができるが、デジタルカメラよりも人間の目のほうが感受性が高いことで、実際には
図8に示す画像よりもはっきりとした結果が得られる。
【0045】
本発明に関する上記の説明から、当業者であれば、改善、変更、改変に気づくであろう。このような改善、変更、改変は当業者の技能の範囲内であり、添付の特許請求の範囲に包含されることを想定している。