(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5752270
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】タングステンコンデンサの陽極及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/052 20060101AFI20150702BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20150702BHJP
C22C 27/04 20060101ALI20150702BHJP
C22C 1/04 20060101ALI20150702BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20150702BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
H01G9/05 K
H01G9/24 C
C22C27/04 101
C22C1/04 D
B22F1/00 P
B22F3/10 A
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-550152(P2013-550152)
(86)(22)【出願日】2012年8月30日
(86)【国際出願番号】JP2012071941
(87)【国際公開番号】WO2013094252
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2015年2月24日
(31)【優先権主張番号】特願2011-276857(P2011-276857)
(32)【優先日】2011年12月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081086
【弁理士】
【氏名又は名称】大家 邦久
(74)【代理人】
【識別番号】100121050
【弁理士】
【氏名又は名称】林 篤史
(72)【発明者】
【氏名】内藤 一美
【審査官】
田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/132141(WO,A1)
【文献】
特開2003−213302(JP,A)
【文献】
特開平08−162372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/052
B22F 1/00
B22F 3/10
C22C 1/04
C22C 27/04
H01G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン粉を密度8g/cm3以上の成形体に成形し、前記成形体を前記密度の1.15倍以上の密度に焼結して、平均細孔直径が0.3μm以下のタングステン焼結体を得ることを特徴とするコンデンサの陽極の製造方法。
【請求項2】
平均粒径0.5μm以下のタングステン粉を1480℃以上の温度で造粒して造粒粉とし、前記造粒粉を密度8g/cm3以上の成形体に成形する請求項1に記載の陽極の製造方法。
【請求項3】
表面の一部に、ケイ化タングステン、窒化タングステン、炭化タングステン、及びホウ化タングステンから選択される少なくとも1つを含有するタングステン粉を使用する請求項1または2に記載の陽極の製造方法。
【請求項4】
元素の含有量として、ケイ素が0.05〜7質量%、窒素が0.01〜1質量%、炭素が0.001〜0.1質量%及びホウ素が0.001〜0.1質量%の少なくとも1つの範囲を満たすタングステン粉を使用する請求項3に記載の陽極の製造方法。
【請求項5】
リン元素の含有量が1〜500質量ppmであるタングステン粉を使用する請求項1または2に記載の陽極の製造方法。
【請求項6】
酸素含有量が0.05〜8質量%であるタングステン粉を使用する請求項1または2に記載の陽極の製造方法。
【請求項7】
タングステン焼結体の密度を9.2〜14g/cm3に焼結する請求項1〜6のいずれかに記載の陽極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン焼結体からなるコンデンサの陽極及びその製造方法に関する。さらに詳しく言えば、ESR(等価直列抵抗)が低く良好な特性を有する電解コンデンサを製作できる特定の平均細孔径を有するタングステン焼結体、その焼結体の製造方法、及びその焼結体からなる陽極を用いた電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やパーソナルコンピュータ等の電子機器の形状の小型化、高速化、軽量化に伴い、これらの電子機器に使用されるコンデンサは、より小型で軽く、より大きな容量、より低いESRが求められている。
電解コンデンサは、導電体(陽極体)を一方の電極とし、その電極の表層に形成した誘電体層とその上に設けられた他方の電極(半導体層)とで構成される。
このようなコンデンサとしては、陽極酸化が可能なタンタルなどの弁作用金属粉末の焼結体からなるコンデンサの陽極体を陽極酸化して、その表面にこれらの金属酸化物からなる誘電体層を形成した電解コンデンサが提案されている。
弁作用金属としてタングステンを用い、タングステン粉の焼結体を陽極体とする電解コンデンサは、同一粒径のタンタル粉を用いた同体積の陽極体、同化成電圧で得られる電解コンデンサに比較して、大きな容量を得ることができるが、漏れ電流(LC)が大きく電解コンデンサとして実用に供されなかった。このことを改良するために、タングステンと他の金属との合金を用いたコンデンサが検討されているが漏れ電流は幾分改良されるものの十分ではなかった(特開2004−349658号公報(US6876083):特許文献1)。
【0003】
特許文献2(特開2003−272959号公報)には、WO
3、W
2N、WN
2から選択される誘電体層が形成されたタングステン箔の電極を用いたコンデンサが開示されているが、前記漏れ電流について解決したものではない。
また、特許文献3(国際公開第2004/055843号パンフレット(US7154743))には、タンタル、ニオブ、チタン、タングステンから選択される陽極を用いた電解コンデンサを開示しているが、明細書中にタングステンを用いた具体例の記載はない。
【0004】
弁作用金属焼結体を陽極とする電解コンデンサの他方の電極である半導体層は、一般に二酸化マンガンなどの無機半導体やドーパントをドープした導電性高分子などの有機半導体により構成できるが、特に低いESRを得るために、誘電体層を有する陽極体上で重合を行い導電性高分子層を形成して半導体層とする方法が実施されている。前記重合は、化学重合法、外部電極により給電する電解重合法、陽極体への通電手法による電解重合法、またはそれらの組み合わせにより行なわれている。これらの内、電解重合では、誘電体層を形成した個々の陽極体ごとに通電電流を制限して電解重合を行うことにより再現性良く安定した導電性高分子層を形成することが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−349658号公報
【特許文献2】特開2003−272959号公報
【特許文献3】国際公開第2004/055843号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体層が陽極体の細孔を埋め尽くすと、細孔奥深くに充電された電荷を焼結体外表面まで運ぶ経路が最短になり、電気抵抗は最小になる。ただし、小さい細孔は、細孔の入り口で閉塞しやすい(細孔内部は空洞になりやすい)ので、細孔内を埋め尽くせるのはある程度の大きさの細孔に限られる。そのため、低ESRを得ようとすると高容量は期待できず、高容量を得ようとすると低ESRは期待できなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、コンデンサの陽極として、タングステン粉の焼結体を用いると、細かい細孔を有する陽極であっても、それを用いたコンデンサのESRが低下しないことを見出した。特に高容量を得るため、前記陽極の平均細孔直径を0.3μm以下にしても、得られる固体電解コンデンサはESR特性が良好であることを確認して、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下に示すコンデンサ用タングステン焼結体、その製造方法、及び前記タングステン焼結体を用いた電解コンデンサに関する。
[1]平均細孔直径が0.3μm以下のタングステン焼結体からなるコンデンサの陽極。
[2]タングステン粉を密度8g/cm
3以上の成形体に成形し、前記成形体を前記密度の1.15倍以上の密度に焼結して、平均細孔直径が0.3μm以下のタングステン焼結体を得ることを特徴とするコンデンサの陽極の製造方法。
[3]平均粒径0.5μm以下のタングステン粉を1480℃以上の温度で造粒して造粒粉とし、前記造粒粉を密度8g/cm
3以上の成形体に成形する前項2に記載の陽極の製造方法。
[4]表面の一部に、ケイ化タングステン、窒化タングステン、炭化タングステン、及びホウ化タングステンから選択される少なくとも1つを含有するタングステン粉を使用する前項2または3に記載の陽極の製造方法。
[5]元素の含有量として、ケイ素が0.05〜7質量%、窒素が0.01〜1質量%、炭素が0.001〜0.1質量%及びホウ素が0.001〜0.1質量%の少なくとも1つの範囲を満たすタングステン粉を使用する前項4に記載の陽極の製造方法。
[6]リン元素の含有量が1〜500質量ppmであるタングステン粉を使用する前項2または3に記載の陽極の製造方法。
[7]酸素含有量が0.05〜8質量%であるタングステン粉を使用する前項2または3に記載の陽極の製造方法。
[8]タングステン焼結体の密度を9.2〜14g/cm
3に焼結する前項2〜7のいずれかに記載の陽極の製造方法。
[9]前項1に記載の陽極を一方の電極とし、対電極との間に介在する誘電体とから構成された電解コンデンサ。
【発明の効果】
【0009】
平均細孔直径が0.3μm以下の本発明によるタングステン焼結体を陽極とする電解コンデンサは、従来のタンタルコンデンサ等に比べ、高容量であっても良好なESR特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で使用するタングステン焼結体の原料となるタングステン粉(すなわち、未加工のタングステン粉。以下、「一次粉」ということがある。)は、平均粒径の下限が約0.5μmまでのものが市販されている。タングステン粉の粒径が小さいほど細孔の小さな焼結体(陽極)を作製できる。市販品よりもさらに粒径の小さいタングステン粉は、例えば、三酸化タングステン粉を水素雰囲気下で粉砕して、あるいはタングステン酸やハロゲン化タングステンを水素やナトリウム等の還元剤を使用し、還元条件を適宜選択することによって得ることができる。
また、タングステン含有鉱物から直接または複数の工程を経て、還元条件を選択することによっても得ることもできる。
【0011】
本発明では、原料となるタングステン粉は、造粒されたものであってもよい(以下、造粒されたタングステン粉を単に「造粒粉」ということがある。)。造粒粉は、流動性が良好で成形等の操作がしやすいので好ましい。
前述の造粒粉は、例えばニオブ粉について特開2003−213302号公報(WO02/092864)に開示されている方法と同様の方法により細孔分布を調整されたものでもよい。
【0012】
例えば、造粒粉は、1次粉に水等の液体や液状樹脂等の少なくとも1種を加えて適当な大きさの顆粒状とした後に、減圧下に加熱し、焼結して得ることもできる。取扱いのし易い造粒された顆粒が得られる減圧条件(例えば、水素等の非酸化性ガス雰囲気中、10kPa以下)や高温放置条件(例えば、1100〜2600℃,0.1〜100時間)は、予備実験により求めることができる。造粒後に顆粒同士の凝集がなければ、解砕の必要はない。
このような造粒粉は、ふるいで分級して粒径を揃えることができる。平均粒径が好ましくは50〜200μm、より好ましくは100〜200μmの範囲であれば、成形機のホッパーから金型にスムーズに流れるために好都合である。
【0013】
一次粉の平均1次粒子径を0.1〜1μm、好ましくは0.1〜0.3μmの範囲にしておくと、特にその造粒粉から作製した電解コンデンサの容量を大きくすることができ好ましい。
このような造粒粉を得る場合、例えば、前記1次粒子径を調整して、造粒粉の比表面積(BET法による)が、好ましくは0.2〜20m
2/g、より好ましくは1.5〜20m
2/gになるようにすると、電解コンデンサの容量をより大きくすることができ好ましい。
【0014】
本発明では、得られるコンデンサの漏れ電流特性等の改善のために、タングステン材料(一次粉、造粒粉および焼結体を含む)に、後述するいくつかの不純物を含有させておいてもよい。
例えば、ケイ素含有量が特定の範囲となるよう表面の一部をケイ化タングステンとしたタングステン粉が好ましく用いられる。表面の一部をケイ化タングステンとしたタングステン粉は、例えばタングステン粉に0.05〜7質量%のケイ素粉を混合し、減圧下で加熱して1100〜2600℃で反応させることにより、あるいは水素気流中でタングステンを粉砕後、さらに、ケイ素粉を混合した後、減圧下で1100〜2600℃の温度にて加熱して反応させることにより調製することができる。
【0015】
タングステン粉としては、さらに、表面の一部に、窒化タングステン、炭化タングステン、及びホウ化タングステンから選択される少なくとも1つを有するものも好ましく用いられる。
【0016】
各種タングステン粉の表面の一部を窒化する方法の一例として、該粉を減圧下に350〜1500℃に置き窒素ガスを数分から数時間通じる方法がある。窒化は、タングステン粉をケイ化するときの高温処理時に行ってもよいし、先に窒化を行ってからケイ化を行ってもよい。さらに1次粉のとき、造粒粉作製後、あるいは焼結体作成後に窒化を行ってもよい。このように、窒化の時期に限定はないが、好ましくは、工程の早い段階で窒素元素の含有量を0.01〜1質量%にしておくとよい。窒化により、粉体を空気中で取り扱う際、必要以上の酸化を防ぐことができる。
なお、前記窒素元素の含有量には、タングステンと結合している窒素以外に,タングステンと化学結合していない窒素(例えば、固溶している窒素)も含まれる。
【0017】
タングステン粉の表面の一部を炭化する方法の一例としては、該粉を炭素電極を使用した減圧高温炉中で300〜1500℃に数分から数時間置く方法がある。温度と時間を選択することにより、炭素元素の含有量が0.001〜0.5質量%になるように炭化することが好ましい。炭化の時期は、前述した窒化の時期と同様である。炭素電極炉で窒素を所定条件で通じると、炭化と窒化が同時に起こり、表面の一部を窒化及び炭化したタングステン粉を作製することも可能である。
【0018】
タングステン粉の表面の一部をホウ化する方法の一例として、該粉を造粒するときにホウ素元素やホウ素元素を有する化合物をホウ素源として置き、造粒する方法がある。ホウ素元素の含有量が0.001〜0.1質量%になるようにホウ化するのが好ましい。ホウ化の時期は、前述した窒化の時期と同様である。窒化した粉を炭素電極炉に入れ、ホウ素源を置き造粒を行うと、表面の一部をケイ化、窒化、炭化、ホウ化したタングステン粉を作製することも可能である。
【0019】
本発明で使用するタングステン粉の酸素元素の含有量は、0.05〜8質量%であることが好ましく、0.08〜1質量%であることがより好ましい。
酸素元素の含有量を0.05〜8質量%にする方法としては、表面の少なくとも一部がケイ化されたタングステン粉、さらに、表面の一部を窒化、炭化、ホウ化の少なくとも1つを行ったタングステン粉の表面を酸化する方法がある。具体的には各粉の1次粉作製時や造粒粉作製時の減圧高温炉からの取り出し時に、酸素を含有した窒素ガスを投入する。この時、減圧高温炉からの取り出し温度が280℃未満であると窒化よりも酸化が優先して起こる。徐々にガスを投入することにより所定の酸素含有量にすることができる。前もって各タングステン粉を所定の酸素含有量にしておくことにより、該粉を使用して後々の電解コンデンサの陽極を作製する工程中での不規則な過度の酸化劣化を緩和することができる。この工程で窒化をしない場合には、窒素ガスの代わりにアルゴンやヘリウムガス等の不活性ガスを使用してもよい。
【0020】
タングステン粉はリン元素の含有量が1〜500質量ppmであることが好ましい。
タングステン粉、さらには、表面の一部を窒化、炭化、ホウ化、酸化の少なくとも1つを行ったタングステン粉に、リン元素を1〜500質量ppm含有させる方法の1例として、各粉の1次粉作製時や造粒粉作製時に、減圧高温炉中にリンやリン化合物をリン化源として置いてリンを含有する粉を作製する方法がある。リン化源の量を調整するなどして、前述の含有量となるようにリンを含有させると、陽極体を作製したときの陽極体の物理的破壊強度が増加する場合があるので好ましい。
【0021】
本発明においては、上記のタングステン粉を密度(Dg)8g/cm
3以上の成形体に成形し、前記成形体を前記密度(Dg)の1.15倍以上の密度(Ds)に焼結して、平均細孔直径が0.3μm以下、好ましくは0.1〜0.3μmの焼結体とする。
具体的には、平均細孔直径0.1〜0.3μmを有するタングステン焼結体は、例えば、タングステン粉として平均粒径0.5μm以下の1次粉を使用し、これを1480℃以上の温度で加熱造粒して造粒粉(好ましくは、平均粒径50〜200μm)とし、この造粒粉を、例えば一定質量の粉体を金型に取り、金型の1対向面を押して密度(Dg)8g/cm
3以上の成形体に成形した後に、前記成形体を焼結する。焼結の際、焼結体の密度(Ds)が、成形体の密度(Dg)の1.15倍以上となるように焼結して焼結体を得ることにより本発明のコンデンサの陽極を作製することができる。さらに高容量を得ることができるコンデンサの陽極とするために、前記焼結体の密度(Ds)を、好ましくは9.2〜14g/cm
3、より好ましくは9.2〜11g/cm
3となるように焼結するとよい。焼結体の密度は、より高温または長時間の焼結により高くすることができ、より低温または短時間の焼結により低くすることができる。焼結体を得る場合の焼結温度や時間は、含まれる不純物などによっても異なるので、予備実験により決定することが好ましいが、通常、1480〜2600℃、10分〜100時間の範囲内である。
【0022】
焼結体の密度(Ds)を高くするか、または平均粒径のより小さい1次粉を使用すると、平均細孔径はより小さくなり、逆に、焼結体の密度(Ds)を低くするか、または平均粒径のより大きい1次粉を使用すると、平均細孔径はより大きくなる。予備実験により平均細孔径を前記範囲に調整することができる。
【0023】
本発明では、上記の方法で製造された焼結体を一方の電極(陽極)とし、対電極(陰極)との間に介在する誘電体とから電解コンデンサを作製する。
【実施例】
【0024】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、下記の記載により本発明は何ら限定されるものではない。
[各種測定機器と測定条件]
粒子径、細孔分布、容量及びESRは以下の方法で測定した。
粒子径は、マイクロトラック社製HRA9320−X100を用い、粒度分布をレーザー回折散乱法で測定し、その累積体積%が、50体積%に相当する粒径値(D
50;μm)を平均粒径とした。なお、一次粉は、通常、分散性が良いので、本測定法で測定される2次粒子径をほぼ1次粒子径とみなすことができる。
細孔分布は、NOVA2200E(SYSMEX社)を用いて測定した。平均細孔径は、細孔の累積体積%が50%に相当する細孔径とした。
容量とESRは、アジレント製LCRメーターを用いて測定した。容量は、室温、120Hz、バイアス2.5V値であり、ESRは、室温、100kHzの値である。
【0025】
実施例1〜12、比較例1〜9:
[焼結体の作製]
酸化タングステン粉を還元するときの水素濃度を調節して表1に平均粒径を示す各種タングステン1次粉を得た。各一次粉それぞれを数グループに分け、各500gに0.5質量%となるように平均粒径1μmの珪素粉を混合後、10
-2Paに減圧下、表1に併記した造粒温度で30分放置し、室温に戻してハンマーミルで解砕後分級し、20〜180μmの粒径の造粒粉を得た。この各造粒粉を各々さらに複数グループに小分けし、精研製成形器TAP−2Rを使用し、ワイヤーを0.29mmφのタンタル線として表1に併記した成形密度(Dg)で、大きさ1.05×1.65×4.63mmの成形体(1.05×1.65面にリード線が8.0mm植立されている)を約20000個作製した。次いで、各成形体を複数グループに分け、10
-2Paに減圧下、30分焼結し、表1にDs/Dg値を併記した焼結体の密度(Ds)の焼結体を各例200個得た。なお、焼結体の密度(Ds)は、焼結温度(1500℃以上)により調整した。作製した各例焼結体の平均細孔直径を表1に併記した。
【0026】
[固体電解コンデンサの作製]
各例の焼結体をWO2010/107011号公報(US2012/014036 A1)の実施例1に記載した冶具を用いて化成及び電解重合を行った。化成は0.1質量%の硝酸水溶液で室温10時間、焼結体に10Vの電圧を印加して10時間行い、水洗後エタノール洗浄して乾燥し誘電体層を形成した。電解重合により導電性高分子からなる半導体層を次のようにして形成した。3質量%のトルエンスルホン酸鉄水溶液に化成した焼結体を浸漬後乾燥する処理を5回行い1日放置した。次に、この焼結体を20質量%エチレンジオキシチオフェンエタノール溶液に浸漬した。その後、別途用意した電界重合液(0.4質量%エチレンジオキシチオフェン及び0.6質量%アントラキノンスルホン酸を含む、水30質量部とエチレングリコール70質量部からなる溶液)が入ったステンレス(SUS303)製容器に、化成処理済の焼結体を所定位置まで浸漬し、20℃、10μAで45分間電解重合した。次に、液から引き上げ後、水洗、エタノール洗浄、乾燥をした。さらに、前記化成液中、室温で15分間、後化成を行い、水洗、エタノール洗浄、乾燥を行った。前記した20質量%エチレンジオキシチオフェンエタノール溶液に浸漬、電解重合、後化成の工程をさらに9回(合計10回)繰り返し行った。電解重合の電流値は2回目10μA、3回目30μA、4回目〜10回目50μAとした。このようにして形成した半導体層の所定部分にカーボン層と銀ペースト層を順次積層し電極層を形成しコンデンサ素子を作製した。別途用意した日立電線(株)製銅合金C151SH(厚さ0.1mm、錫が5μm表面メッキされている。)の端子用フレームに陽極リード線を所定長さに切断した前記コンデンサ素子を2個、方向を揃えて隙間なく配置して公知方法に従って接続後、トランスファー成形で松下電工(株)(現パナソニック電工(株))製樹脂CV3400SEを使用して封止し、150℃5時間キュワー後125℃、3V、20時間エージングして大きさ7.3×4.3×1.9mmのチップ状固体電解コンデンサを作製した。各例で得たコンデンサの内64個を任意に取り出し、容量(μF)及びESR(mΩ)を測定した。結果(各64個の平均値)を表2に示した。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
参考例1〜3:
フッ化タンタル酸カリを還元する時のナトリウム濃度を調節して平均粒径0.5μm、0.3μm、0.2μmの3種類のタンタル1次粉を作製し、次いで、1320℃で実施例1と同様にして造粒粉を3種得た。これらの粉から成形密度5.6g/cm
3の成形体を実施例と同様にして作製し、さらに、この成形体を1355℃以上で焼結して、表3に示す平均細孔径を有する各焼結体を得た。引き続き、化成をリン酸水溶液65℃で、重合後の後化成をリン酸水溶液65℃で行った以外は実施例1と同様にしてチップ状タンタル固体電解コンデンサを作製した。表3に各参考例で作製されたコンデンサ64個の平均値を示した。
【0030】
【表3】
【0031】
表1及び表2と表3とを比較することにより、タンタル焼結体を陽極体としたコンデンサでは、平均細孔直径が小さくなるほど容量は大きくなるが、ESRは大きくなってしまうのに対して、本発明のタングステン焼結体を陽極体としたコンデンサでは、平均細孔直径が小さく高容量となっても、ESRは低くなることがわかる。また、本発明のタングステン焼結体を用いた電解コンデンサの容量は、タンタルコンデンサよりも遙かに大きいことがわかる。