(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5752282
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】カバーを持つ工具交換装置
(51)【国際特許分類】
B23Q 3/155 20060101AFI20150702BHJP
B23Q 3/157 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
B23Q3/155 G
B23Q3/157 C
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-2014(P2014-2014)
(22)【出願日】2014年1月8日
(65)【公開番号】特開2015-128811(P2015-128811A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2015年1月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】室田 真弘
(72)【発明者】
【氏名】李 光輝
(72)【発明者】
【氏名】五十部 学
【審査官】
山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−305663(JP,A)
【文献】
実開昭63−186538(JP,U)
【文献】
特開平8−118181(JP,A)
【文献】
特開2005−28460(JP,A)
【文献】
特開2005−52948(JP,A)
【文献】
特開平6−739(JP,A)
【文献】
実開平7−24539(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/155−3/157,11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を保持するためのグリップが複数設けられたタレットを備え、
前記タレットを旋回させて、所望の工具を割り出して工具交換を行う工具交換装置であって、
前記タレットの正面を覆う正面カバーと、
外部に外側背面部を備え、前記タレットの背面を覆う背面カバーと、
前記タレットを旋回動作させるための駆動源と、
前記外側背面部上に設けられ、前記駆動源からの力を伝達し、前記タレットを旋回させるタレット機構部と、を備え、
前記背面カバーの前記外側背面部には、前記タレット機構部よりも上方である領域に、前記背面カバーを正面視した場合の左右方向の位置で前記タレット機構部と重なる位置から、前記タレット機構部と重ならない外部位置に向かって流れる形状の流路を形成する凸部または凹部の少なくとも一方を有することを特徴とする工具交換装置。
【請求項2】
前記凸部または凹部の断面形状は、半円型、三角形、四角形のいずれかの形状であることを特徴とする請求項1に記載の工具交換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具交換装置に関し、特にタレット内部への異物の侵入を防ぐカバーを持つ工具交換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸に取り付けられる工具を自動的に交換する工具交換装置が従来から用いられている。この工具交換装置には、作業に必要な複数の工具が予めセットされており、工作機械の主軸に取り付ける工具を、加工状態に応じて指定された工具に自動的に交換するように構成されている。
このような、工具を自動的に交換する自動工具交換装置を備えた工作機械として、特許文献1〜5に開示されているような、工具を把持する複数のグリップを有するタレットを具備するものがある。
【0003】
ワークを加工する際に、切粉や切削液がタレットの内部に侵入することを防止するため、タレットにカバーを設けることが従来から行われている。
図11は、従来技術の、カバーを持つ工作機械の概略側面図であり、1は工作機械、2は主軸であり、主軸2の先端部には図示しない工具が取り付けられる。また、主軸2には、Z軸ボールネジを介してZ軸モータ3が接続されており、Z軸モータ3により主軸2は上下に駆動可能とされている。さらに、工具を交換するための部材としてタレット6を備えている。
【0004】
主軸2には、タレットカム4とカムフォロワ5とが備えられており、タレットカム4とカムフォロワ5によって、タレット6の角度を変更可能である。また、タレット6は、タレット機構部604とタレット内側機構部606を備えており、タレット機構部604とタレット内側機構部606によって、タレット6を回転させることができる。
【0005】
また、タレット内側機構部606に切粉や切削液が侵入して悪影響を及ぼすことを防止するために、タレット6の正面側に正面カバー601、背面側に背面カバー602を備えている。さらに、背面カバーには、錘状部605と、さらにその背後に外側背面603を有している。
ここで、主軸2にタレットカム4を設けているため、主軸2を直上下に移動する際に、タレットカム4に従うカムフォロワ5によって、タレット6に揺動動作が付与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−99766号公報
【特許文献2】特開平5−38651号公報
【特許文献3】特開平6−739号公報
【特許文献4】特許第3990441号公報
【特許文献5】特開2006−123116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜5に開示されている技術は、複数の工具が装着されたタレットを有し、該タレットを割り出して主軸に装着された工具を交換するため、高速かつ的確に工具の交換を行うことができる。しかしながら、タレットにおいて、タレット前面側とタレットベースとの間は単に間を開けて結合しているのみであるため、加工中に発生する切粉や切削液が、タレットの各部に影響を与えるおそれがあった。
【0008】
また、
図11に示された従来技術においても、ワークを加工する際に発生した切粉や、加工の際に使用した切削液が、
図12における矢印Bとして示されているように、背面カバー602において外側背面603に沿って落ちて、タレット機構部604に侵入することがある。さらに、タレット6が揺動動作をするときに、背面カバー602の錘状部605の上側(A部)に溜まった切粉や切削液が同様にタレット機構部604に侵入するおそれがある。
このように、従来技術における背面カバーは、タレット機構部604への切粉や切削液の侵入を十分に防ぐことができないおそれがあった。
【0009】
そこで本発明は、工作機械の工具交換装置において、タレット機構部への切粉や切削液の侵入を防ぐカバーを持つ工具交換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の請求項1に係る発明では、工具を保持するためのグリップが複数設けられたタレットを備え、前記タレットを旋回させて、所望の工具を割り出して工具交換を行う工具交換装置であって、前記タレットの正面を覆う正面カバーと、外部に外側背面部を備え、前記タレットの背面を覆う背面カバーと、前記タレットを旋回動作させるための駆動源と、
前記外側背面部上に設けられ、前記駆動源からの力を伝達し、前記タレットを旋回させるタレット機構部と、を備え、前記背面カバーの前記外側背面部には、前記タレット機構部
よりも上方である領域に、
前記背面カバーを正面視した場合の左右方向の位置で前記タレット機構部と重なる位置から、前記タレット機構部と重ならない外部位置に向かって流れる形状の流路を形成する凸部または凹部の少なくとも一方を有することを特徴とする工具交換装置が提供される。
【0011】
請求項1に係る発明では、タレットの背面カバーに、
背面カバーを正面視したときに、背面カバーの左右方向中央部から左右方向外側に向かって流れる形状の流路を形成する凸部または凹部の少なくとも一方を備えることにより、タレットの背面カバーに付着した切粉や切削液が、
外側に向かう流路に沿って落下しやすくなり、切粉や切削液が背面カバーの外側背面を流れてタレット機構部に侵入することを防ぐことが可能となる。
また、工具交換時にタレットを揺動動作させる方式の工作機械においては、ワークを加工する際に発生する切粉や、使用した切削液が背面カバーの上側に溜まった場合にも、工具交換時の揺動動作により切粉や切削液が流路に沿って誘導されて落ちるため、タレット機構部への切粉や切削液の侵入を抑えることができる。
【0012】
請求項
2に係る発明では、前記凸部または凹部の断面形状は、半円型、三角形、四角形のいずれかの形状であることを特徴とする請求項
1に記載の工具交換装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、工作機械の工具交換装置において、タレット機構部への切粉や切削液の侵入を防ぐカバーを持つ工具交換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態における背面カバーの概略図である。
【
図2】第1の実施形態の変形例における背面カバーの概略図である。
【
図3】第1の実施形態の変形例における背面カバーの概略図である。
【
図4】第1の実施形態の変形例における背面カバーの概略図である。
【
図5】第1の実施形態の変形例における背面カバーの概略図である。
【
図6】第1の実施形態の変形例における背面カバーの概略図である。
【
図7】第1の実施形態における凸部の断面形状の他の例を示した図である。
【
図8】第2の実施形態における背面カバーの概略図である。
【
図9】第2の実施形態の変形例における背面カバーの概略図である。
【
図10】第2の実施形態における凹部の断面形状の他の例を示した図である。
【
図11】従来技術のカバーを持つ工作機械の概略側面図である。
【
図12】従来技術のカバーを持つ工作機械における背面カバーを示した図である。
【0015】
(第1の実施形態)
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態における背面カバー602の概略図である。背面カバー602の上部に、凸部607が設けられている。凸部607は、断面が半円形に構成されており、中央部が高く、両端部が低くなるように配置され、全体でへの字形状となるように設けられている。これにより、切粉や切削液は
図1に矢印C,Dで示されたように、背面カバー602と凸部607とによって形成された流路に沿って落ちるため、タレット機構部604への切粉や切削液の侵入を防ぐことが可能となる。また、工具交換時にタレット6が揺動動作する方式の工作機械においては、切粉や切削液が背面カバー602の外側の錘状部605の上側に溜まった場合にも、タレット6の揺動動作の際に、溜まった切粉や切削液が
図1の矢印C,Dに示された流路に沿って落ちるため、タレット機構部604への切粉や切削液の侵入を防ぐことが可能となる。
【0016】
図1には、凸部として断面が半円形の形状の凸部607を全体でへの字形状となるように形成した例を示したが、この形状のみに限られたものではない。以下、図面に基づいて変形例について説明する。
図2は、断面が半円形の形状の凸部608を、中央部が高く、両端部が低くなるように配置し、全体が曲線状に曲がっている例を示している。本変形例においても、切粉や切削液は中央部から外側に向かって落ちるため、タレット機構部604への切粉や切削液の侵入を防ぐことが可能となる。
【0017】
図3は、さらに別の変形例を示しており、断面が四角形状の凸部609を、上辺を水平に配置し、左右を外側が低くなるように配置され、全体で台形状となるように設けられている。本変形例においても、切粉や切削液は上辺に溜まった後に、左右において外側に向かって落ちるため、タレット機構部604への切粉や切削液の侵入を防ぐことが可能となる。
【0018】
図4は、さらに別の変形例を示しており、凸部610を上部において、中央部が高く、端部が低くなるように配置し、全体が曲線状に曲がった形状とされており、端部からタレット機構部604の左右に鉛直方向に凸部610が設けられている。本変形例においては、切粉や切削液は中央部から外側に向かって落ちた後、タレット機構部604の左右に設けられた凸部610によって、背面カバー602に沿って落下するため、タレット機構部604への切粉や切削液の侵入をより防ぐことが可能となる。また、
図4に示された例のさらなる変形例として、
図5に示されているように、上部に設けられている凸部611と左右に設けられている凸部611を別体として設けるようにすることもできる。
【0019】
図6は、
図4に示された例のさらなる変形例を示している。
図6に示された例では、
図4に示された例の凸部610に加えて、背面カバー602の錘状部605にも凸部612が設けられている。本変形例においては、錘状部605に落下した切粉や切削液は、凸部612によって形成された流路によって、凸部610に誘導され、その後中央部から外側に向かって落ちるため、タレット機構部604への切粉や切削液の侵入を防ぐことが可能となる。
【0020】
図2及び
図3においては、凸部の断面が半円形状と四角形状であったが、凸部の断面はこれに限られたものではない。
図7には、凸部の断面形状のその他の例が示されており、
図7(a)、
図7(f)は四角形状が突出した形状、
図7(b)、
図7(c)は三角形が突出した形状、
図7(d)、
図7(g)は台形が突出した形状、
図7(e)、
図7(h)は半円が突出した形状とされている。これらの
図7に示されているような種々の形状を用いても、いずれも本実施形態や変形例に示したように、タレット機構部604への切粉や切削液の侵入を防ぐことが可能となる。
【0021】
(第2の実施形態)
図8は、本実施形態における背面カバー602の概略図である。背面カバー602の上部に、凹部613が設けられている。凹部613は、断面が半円形に構成されており、中央部が高く、両端部が低くなるように配置され、全体でへの字形状となるように設けられている。これにより、切粉や切削液は
図8に矢印E,Fで示されたように、背面カバー602と凹部613とによって形成された流路に沿って落ちるため、タレット機構部604への切粉や切削液の侵入を防ぐことが可能となる。また、工具交換時にタレット6が揺動動作する方式の工作機械においては、切粉や切削液が背面カバー602の外側の錘状部605の上側に溜まった場合にも、タレット6の揺動動作の際に、溜まった切粉や切削液が
図8の矢印E,Fに示された流路に沿って落ちるため、タレット機構部604への切粉や切削液の侵入を防ぐことが可能となる。
【0022】
図9は、変形例を示しており、凹部614を上部において、中央部が高く、端部が低くなるように配置し、全体でへの字形状となるように設けられており、端部からタレット機構部604の左右に別体で鉛直方向に凹部614が設けられている。さらに、背面カバー602の錘状部605にも凹部615が設けられている。本変形例においては、錘状部605に落下した切粉や切削液は、凹部615によって形成された流路によって、凹部614に誘導され、その後中央部から外側に向かって落ちるため、タレット機構部604への切粉や切削液の侵入を防ぐことが可能となる。さらに、上部の凹部と左右の凹部を一体としたり、錘状部605における凹部をなくしたりと適宜変形することも可能である。
【0023】
図8及び
図9においては、凹部の断面が半円形状であったが、凹部の断面はこれに限られたものではない。
図10には、凹部の断面形状のその他の例が示されており、
図10(a)は三角形が突出した形状、
図10(b)四角形状が突出した形状、
図10(c)は半円が突出した形状、
図10(d)は台形が突出した形状とされている。これらの
図10に示されているような種々の形状を用いても、いずれも本実施形態や変形例に示したように、タレット機構部604への切粉や切削液の侵入を防ぐことが可能となる。
【0024】
なお、これらの実施形態と変形例においては、流路を形成する凸部または凹部を、外側背面の上部または上部と左右部に設けた例で説明したが、上部に他の部材が設けられている場合などは、左右部のみに流路を形成する凸部または凹部を設けるだけでも、タレット機構部604への切粉や切削液の侵入を防止することが可能である。
【0025】
また、これらの実施形態と変形例においては、流路を形成する部材として、凸部と凹部のいずれかのみを用いているが、凸部と凹部を混在させて用いるようにすることも可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 工作機械
2 主軸
3 Z軸モータ
4 タレットカム
5 カムフォロワ
6 タレット
601 正面カバー
602 背面カバー
603 外側背面
604 タレット機構部
605 錘状部
606 内側機構部
607,608,609,610,611,612 凸部
613,614,615 凹部