特許第5752285号(P5752285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5752285
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】流電陽極
(51)【国際特許分類】
   C23F 13/00 20060101AFI20150702BHJP
【FI】
   C23F13/00 P
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-32824(P2014-32824)
(22)【出願日】2014年2月24日
【審査請求日】2014年2月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】500337473
【氏名又は名称】株式会社ソフテム
(73)【特許権者】
【識別番号】514046840
【氏名又は名称】辰美産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 清美
【審査官】 阿川 寛樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−242161(JP,A)
【文献】 実開平08−000502(JP,U)
【文献】 特開2010−047814(JP,A)
【文献】 実開平05−010466(JP,U)
【文献】 特表2006−501859(JP,A)
【文献】 特開2009−221569(JP,A)
【文献】 特開昭61−006286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 13/00− 13/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極材を円形の底面を有する半球状とし、前記陽極材の前記底面に鋼板を固定したことを特徴とする流電陽極。
【請求項2】
前記鋼板における、前記陽極材とは反対側に、絶縁性のクッション材を貼り合わせたことを特徴とする請求項1に記載の流電陽極。
【請求項3】
前記鋼板に磁気吸着装置を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の流電陽極。
【請求項4】
前記陽極材の半球状の側面を突出させ、底面側を被防食材に密着させて取り付け可能であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の流電陽極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋・海岸部等に構築された鋼構造物の海水による腐食を防止する目的で適用されている、流電陽極に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、海洋・海岸部に構築された鋼構造物(以下、被防食体という。)の電気防食には、ほぼ100%、アルミニウム(Al)又はその合金製の陽極を用いた流電陽極方式が採用されている。被防食体に流電陽極を設置すると、流電陽極から発生した防食電流が海水を通じて被防食体に流れ、被防食体の電位が防食電位よりも卑に維持される。
【0003】
従来の流電陽極は、欧米の船舶バラストタンク防食用の陽極形状を踏襲して、台形断面の柱状型の陽極の両端部から取り付け(溶接)用の芯金(SS400等)が突出した構造である。例えば図1に、従来の流電陽極100の一例を示す。符号101はAlの陽極材、符号102はSS400の芯金、符号103は芯金の取り付け(溶接)部である。取り付けは、水中で直接アークを飛ばして行う溶接(以下、水中溶接という。)で行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
従来の流電陽極は、ほぼ100%、Alの鋳造により製造されている。金型からの抜き取りを容易にするため、抜き勾配を設ける必要があるので、Al陽極の形状は必然的に台形断面(A<B)の柱状型(H,A,B<L)にならざるを得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−140087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の流電陽極は、台形断面の柱状型で、縦(H)・横(A,B)・長さ(L)の寸法が異なるため、防食電流の供給に伴う溶解・消耗が不均一である。図3に、設置時の(a)及び(b)から中間時の(c)及び(d)を経て、最終時の(e)及び(f)に至る形状変化を例示する。通電に伴う陽極の消耗は各方向でバラバラであり、溶解・消耗に伴い陽極形状は所謂ナマコ型(ソーセージ型)にならざるを得ない。
【0007】
従来の流電陽極は、被防食体から10〜20cm突出して取り付けられる。流電陽極を被防食体から離隔して取り付けるのは、通電時の防食電流の分布を考慮したものであるが、この程度の離隔距離は、通電直後から進行する陽・陰極分極によって電位差(起電力)が低減するため、電流分布を改善する効果はほとんどない。それにもかかわらず、潮流や漂流物の衝突によって取り付け部(水中溶接部)に加わる力は、片持ち梁と同様の原理のため、突出長さ分増幅される。
【0008】
防食電流の分布で考慮すべきポイントは、被防食体からの離隔距離よりも、通電に伴う陽・陰極分極による起電力の低減と、陽極寸法(表面積)低減による陽極の接水抵抗の増加である。陽極の表面積が低減すれば、防食電流が陽極から海水に流れる経路の断面積が低減するので、陽極の接水抵抗(陽極と海水の境界部における電気抵抗)が増加する。
【0009】
従来の流電陽極の消耗は通電に伴って電流が出やすい角部から進行し、陽極の断面形状は徐々に円型に近い状態に近づく。しかし、設置時の陽極形状が柱状型であるために、消耗状態は両端部と中間部では異なり、表面と裏面(被防食体側)でも異なるので、陽極全体の消耗は不均一になり、所謂ナマコ型になるのが避けられない。長期間にわたる電気防食において陽極の形状が変化すると、消耗が進んだ状態でも必要な防食電流を得るための設計が難しくなる。
【0010】
従来の流電陽極は、鋳造時に内部に芯金を鋳込むため、鋳型の両端部は、芯金の両端部を収容できるように駒の形状が複雑になる。また、芯金はAl陽極材と同時に鋳込む必要があるため、芯金の余熱処理を始めとして多くの手数が掛かり、鋳造作業を煩雑にしている。このため、流電陽極の製造価格が高価になる。
【0011】
従来の流電陽極は、被防食体に水中溶接で取り付けることを前提として造られている。芯金両端の取り付け部を、取り付け部ごとに左右それぞれ15cm(合計では60cm)溶接することになっている。しかし、30〜100kg前後の陽極を保持するには、溶接部の強度からみても過大な溶接長である。また、水中溶接は、被防食体の強度にも影響し、特に、高張力鋼である鋼矢板や中炭素鋼である鋼管杭に強度低下を誘発している。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、表面が均一に消耗して陽極設計が容易になり、製造作業を大幅に簡素化することが可能な流電陽極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、海洋・海岸部等に構築された鋼構造物の電気防食で用いられている従来の流電陽極が、台形断面の柱状型であることから発生する種々の問題(取り付け形態、消耗状態、潮流の影響で加わる応力、漂流物の衝突による衝撃等)を根本的に解決するものである。
【0014】
第1の発明に係る流電陽極は、陽極材を円形の底面を有する半球状とし、前記陽極材の前記底面に鋼板を固定したことを特徴とする。
【0015】
第2の発明に係る流電陽極は、第1の発明において、前記鋼板における、前記陽極材とは反対側に、絶縁性のクッション材を貼り合わせたことを特徴とする。
【0016】
第3の発明に係る流電陽極は、第1又は第2の発明において、前記鋼板に磁気吸着装置を設けたことを特徴とする。
【0017】
第4の発明に係る流電陽極は、第1〜第3のいずれかの発明において、前記陽極材の半球状の側面を突出させ、底面側を被防食材に密着させて取り付け可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明によれば、陽極材を縦・横・高さの比率が均等な半球型とし、底面を鋼板で覆うことにより、陽極材は底面を除き中心部から外表面までの距離が同一になり、通電に伴う消耗が全周囲にわたり均一になる。半球型構造を採用することにより、容積が最大(有効電気量が多い)で面積が最小(発生電流の調整が容易)の陽極製作が可能になり、被防食体の機能に合致した理想的な陽極設計が可能になる。
【0019】
陽極材の内部に芯金を鋳込むことを廃止して、陽極材の底面に支持鋼板を取り付けることにより、陽極材の鋳造に必要な金型の構造を簡素化すると共に、鋳造作業が容易になる。従来型の流電陽極において芯金と陽極材の熱収縮率の相違により鋳造時に生じる変形(反り等)の発生を防止できる。
【0020】
第2の発明によれば、鋼板の表面に絶縁性のクッション材を貼り付けることにより、被防食体の凹凸や曲率を効果的に吸収して空隙をなくすことができる。被防食体に密着して設置する構造とすることにより、従来型の流電陽極が包含していた、潮力や漂流物の衝突時に芯金溶接部に加わる応力等の影響を最小限にすることができる。
【0021】
第3の発明によれば、従来の水中溶接に代えて磁気吸着工法を採用することにより、被防食体に流電陽極を取り付ける作業に要する時間を低減して、工期を大幅に短縮することができる。水中溶接のように電力を水中に持ち込む必要がないので、安全性が大幅に向上する。潜水士の溶接技能の格差による取り付け品質のバラツキを防止できる。水中溶接で問題となっていた、溶接時の急冷に伴う鋼構造物の強度低下を誘発する危険性が皆無になる。
【0022】
第4の発明によれば、潮流により側面部に加わる応力や、流木等の漂流物が衝突したときの衝撃を、半球状の表面の曲率により効果的に分散させ、低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来の流電陽極の一例を示す(a)平面図、(b)正面図、(c)端面図である。
図2】本発明の流電陽極の実施例を示す(a)平面図、(b)側面図である。
図3】従来の流電陽極の消耗に伴う形状変化を例示する図であり、設置時の(a)端面図と(b)正面図、中間時の(c)端面図と(d)正面図、最終時の(e)端面図と(f)正面図である。
図4】実施例に係る流電陽極の消耗に伴う形状変化を例示する図であり、(a)設置時、(b)中間時、(c)最終時の側面図である。
図5】実施例に係る流電陽極を(a)凹凸のある被防食体、(b)曲率のある被防食体に設置した状況を示す側面図である。
図6】実施例に係る流電陽極に潮力が作用する状況を示す(a)平面図、(b)側面図である。
図7】実施例に係る流電陽極に漂流物が作用する状況を示す(a)平面図、(b)側面図である。
図8】実施例に係る流電陽極を磁気吸着装置により被防食体に設置した状況を示す(a)平面図、(b)側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図2に、本発明の流電陽極の一例を示す。流電陽極10は、円形の底面を有する半球状の陽極材11を有する。陽極材11の材料は、従来の流電陽極と同様に、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム又はこれらの1種以上を含む合金等である。
【0025】
半球型の流電陽極(図2参照)と従来型(台形断面柱状)の流電陽極(図1参照)とは、流電陽極の性能に相違点は少ないが、機能面では大きな格差がある。すなわち、従来型の流電陽極は、製造面での利便性を追求して形状が決定されていたが、半球型の流電陽極は、流電陽極としての機能面から追及した形状を採用している。
【0026】
水中で防食電流を供給する流電陽極に望まれる機能は、均一で安定した消耗機能と、設置時の自己形状保持機能である。流電陽極に均一で安定した消耗機能を付与するためには、通電に伴う消耗が全面で均一になる形状を採用する必要がある。ところが、従来の流電陽極は製作時の鋳造作業の利便性を追求したのみで、実用面での溶解状況(形状)はほとんど考慮されず、欧米の陽極形状を模倣して製造が容易な台形断面の柱状型を採用した。このため、先述の種々の問題が提起される原因となっている。
【0027】
これらの問題を解決するために、流電陽極の溶解特性を徹底的に追求した結果、全周を均一に溶解させるためには球状型が最も適していることを確認した。しかし、球状型にすると、軍用の機雷のように浮力を持たせて、海底から係留する以外に、海中に設置する方法がない。実用に適した設置形態を模索した結果、球状型を中心部から半分に裁断した半球型を採用し、底面を取り付け基盤として絶縁して用いることにより、底面は消耗させず、表面を全周囲均一に溶解させることが可能な形状を見出した。
【0028】
陽極材を縦・横・高さの比率(半径)が均等な半球型とすることにより、陽極材は底面を除き中心部から外表面までの距離が同一になり、通電に伴う消耗が全周囲にわたり均一になる。半球型構造を採用することにより、容積が最大(有効電気量が多い)で面積が最小(発生電流の調整が容易)の陽極製作が可能になり、被防食体の機能に合致した理想的な陽極設計が可能になる。
【0029】
被防食体に対する取り付け基盤として陽極材11の底面には鋼板12を取り付けた。鋼板12は従来の芯金の機能を代行するが、鋳造後にボルト、ネジ、タッピング、コーチスクリュウ等の固定手段13を用いて固定する方式を採用した。陽極材の内部に芯金を鋳込むことを廃止して、陽極材の底面に支持鋼板を取り付けることにより、陽極材の鋳造に必要な金型の構造を簡素化すると共に、鋳造作業が容易になる。また、芯金と陽極材の熱収縮率の相違により鋳造時に生じる変形(反り等)の発生を防止できる。
【0030】
陽極材11と鋼板12の間には、耐水性の接着剤、シーリング材、樹脂などを塗布することができる。陽極材11と鋼板12の間に耐水性材料を充填し、隙間からの海水の侵入を阻止して、通電に伴う底面の溶解・消耗を確実に防止することができる。図4に、被防食体20に流電陽極10を設置して、設置時の(a)から中間時の(b)を経て、最終時の(c)に至る形状変化を例示する。半球状の陽極材11は、半球状を維持しながら溶解することが分かる。陽極材の消耗状況は、陽極材の直径を計測するだけで確認することができる。
【0031】
鋼板12の表面には、被防食体の凹凸や曲率を吸収して流電陽極との間に空隙を生じさせないように、絶縁性のクッション材14を貼り合わせた。クッション材14は、例えば発泡ポリエチレン等の発泡樹脂からなり、耐水性の接着剤を用いて鋼板12に貼り付けることができる。図5(a)には凹凸のある被防食体21に流電陽極10を設置した状況を示し、図5(b)には曲率のある被防食体22に流電陽極10を設置した状況を示す。図5(b)は凸面に流電陽極10を設置した例であるが、凹面であってもよいのは言うまでもない。
【0032】
半球型の流電陽極を被防食体に密着させて取り付けることにより、潮流によって陽極の側面部に加わる応力と漂流物の衝突による衝撃を分散させ、低減させることができる。図6には、流電陽極10の周囲で潮流31が分流する状況を示す。どの方向からの潮流31であっても、分流32が多方面に分かれて分散することが分かる。図7には、流電陽極10に衝突する漂流物41が飛跳する状況を示す。漂流物41が流電陽極10に衝突しても、飛跳した漂流物42は速やかに流電陽極10から離れていく。戦車の砲塔の形状と同様の原理(被弾経被)により外力を分散し、影響を低減させることができる。
【0033】
半球型の流電陽極を被防食体に取り付ける手段は、磁気吸着工法が好ましい。磁気吸着工法を採用することにより、被防食体に流電陽極を取り付ける作業に要する工期を大幅に短縮すると共に、作業の安全性を大幅に向上させることができる。水中溶接のように電力を水中に持ち込む必要がないので、安全性が大幅に向上する。潜水士の溶接技能の格差による取り付け品質のバラツキを防止できる。水中溶接で問題となっていた、溶接時の急冷に伴う鋼構造物の強度低下を誘発する危険性が皆無になる。
【0034】
半球型の流電陽極に磁気吸着工法を適用する場合、図8に示すように、磁気吸着装置15は半球状の陽極材11の底面側に取り付けることが好ましい。磁気吸着装置15は、例えばリング状の永久磁石を鋼製のヨークに装着した構成である。鋼板にヨークが収容される開口部を設けてもよいし、鋼板にヨークを一体化し手形成することも可能である。
磁気吸着装置が鋼板の厚さの範囲内で収容できない場合は、陽極材の底面側に磁気吸着装置を収容する凹部を形成することもできる。この凹部は、陽極材の鋳造時に金型により形成してもよく、鋳造後の加工により形成してもよい。
【0035】
磁気吸着装置に用いる磁石は、永久磁石が好ましく、中でも、Nd−Fe−B系永久磁石(ネオジム磁石)、Sm−Co系永久磁石(サマリウムコバルト磁石)などの希土類永久磁石が好ましい。図8では、半球の底面の中心の1箇所のみに磁気吸着装置を設けた例を示すが、流電陽極の2箇所以上に磁気吸着装置を設けてもよい。
【0036】
流電陽極の製造方法においては、半球状の陽極材を鋳造する工程の後、鋼板(支持板)、クッション材、磁気吸着装置を適宜の順序で取り付ける工程を行うことが好ましい。
【0037】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
陽極材の形状は、厳密に半球状である場合に限らず、略半球状であればよい。例えば、側面の高さと底面の半径が若干異なってもよく、底面部が平面でなくてもよい。
陽極材の底面部に設ける支持板は、鋼板が好ましいが、他の材料、例えば金属板、セラミック板などであってもよい。
流電陽極の底部を被防食体に密着させるための構造は、絶縁性のクッション材に限らず、水中セメントやポリマー等の充填剤により空隙を埋めることも可能である。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
口径750mmと1000mmの鋼管杭を用いて構築された揚油桟橋の電気防食のため、65kgの半球状Al陽極を設計した。設計上の初期の発生電流は2.0A、寿命は20年である。永久磁石を用いた磁気吸着工法によりAl陽極を鋼管杭に固定した。Al陽極の底面に取り付けた鋼板の上下部に磁気吸着装置を設ける2点支持方式を採用して安全性を倍増した。対象施設に溶接や穴あけ加工などの物理的な加工を施すことなく、陽極を安全で確実に取り付けることができた。陽極を設置した桟橋は、設置直後から良好な防食電位を維持している。
【0039】
(実施例2)
荷揚げ用の鋼矢板岸壁の電気防食のため、30kgの半球状Al陽極を設計した。設計上の初期の発生電流は1.0A、寿命は10年である。永久磁石を用いた磁気吸着工法によりAl陽極を鋼矢板に固定した。Al陽極の底面に取り付けた鋼板に磁気吸着装置を設けることで、対象施設に溶接や穴あけ加工などの物理的な加工を施すことなく、陽極を安全で確実に取り付けることができた。従来の水中溶接工法と比較して、1/3以下の工期で作業を終了することができた。
【0040】
(実施例3)
口径600mmの鋼管杭を用いて構築された製品出荷桟橋の電気防食のため、30kgの半球状Al陽極を設計した。設計上の初期の発生電流は1.0A、寿命は10年である。永久磁石を用いた磁気吸着工法によりAl陽極を鋼管杭に固定した。Al陽極の底面に取り付けた鋼板の中央部に磁気吸着装置を設ける1点支持方式を採用したので、磁気吸着装置の数量を半減して低コスト化できた上に、水中での作業時間も大幅に低減(1/3以下に)することができた。
【符号の説明】
【0041】
10 流電陽極、11 陽極材、12 鋼板、13 固定手段、14 クッション材、15 磁気吸着装置、20 被防食体、21 凹凸のある被防食体、22 曲率のある被防食体、31 潮流、32 分流、41 漂流物、42 飛跳した漂流物、100 従来の流電陽極、101 陽極材、102 芯金、103 取付部
【要約】
【課題】海洋・海岸部等に構築された鋼構造物の電気防食で用いられている従来の流電陽極が、台形断面の柱状型であることから発生する種々の問題(取り付け形態、消耗状態、潮流の影響で加わる応力、漂流物の衝突による衝撃等)を解決する。
【解決手段】第1に、流電陽極10は、陽極材11を円形の底面を有する半球状とし、陽極材11の底面に鋼板12を固定したことを特徴とする。第2に、流電陽極10は、鋼板12における、陽極材11とは反対側に、絶縁性のクッション材14を貼り合わせたことを特徴とする。第3に、流電陽極10は、鋼板12に磁気吸着装置15を設けたことを特徴とする。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8