(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(SOFC)の構造体を示す。このSOFCは、長手方向(x軸方向)を有する平板状の支持基板10の上下面(互いに平行な両側の主面(平面))のそれぞれに、電気的に直列に接続された複数(本例では、4つ)の同形の発電素子部Aが長手方向において所定の間隔をおいて配置された、所謂「横縞型」と呼ばれる構成を有する。本明細書では、特に説明がない限りにおいて形状等の寸法の値は、後述する「還元処理」が施された後の常温での値である。
【0013】
このSOFCの全体を上方からみた形状は、例えば、長手方向の辺の長さが50〜500mmで長手方向に直交する幅方向(y軸方向)の長さが10〜100mmの長方形である。このSOFCの全体の厚さは、1〜5mmである。このSOFCの全体は、厚さ方向の中心を通り且つ支持基板10の主面に平行な面に対して上下対称の形状を有する。以下、
図1に加えて、このSOFCの
図1に示す2−2線に対応する部分断面図である
図2を参照しながら、このSOFCの詳細について説明する。
図2は、代表的な1組の隣り合う発電素子部A,Aのそれぞれの構成(の一部)、並びに、発電素子部A,A間の構成を示す部分断面図である。その他の組の隣り合う発電素子部A,A間の構成も、
図2に示す構成と同様である。
【0014】
支持基板10は、電子伝導性を有さない多孔質の材料からなる平板状の焼成体である。後述する
図6に示すように、支持基板10の内部には、長手方向に延びる複数(本例では、6本)の燃料ガス流路11(貫通孔)が幅方向において所定の間隔をおいて形成されている。本例では、支持基板10の上下面における複数の発電素子部Aに対応する位置に、凹部12がそれぞれ形成されている。各凹部12は、支持基板10の材料からなる底壁と、全周に亘って支持基板10の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。より正確には、後述する
図3に示すように、各凹部12の側壁の全周には、その側壁の周方向に沿って、凹部と凸部とが交互に繰り返す凹凸が形成されている。各凹部12の長さ(x軸方向の寸法)は5〜50mmであり、幅(y軸方向の寸法)は2〜95mmであり、深さ(z軸方向の寸法)は0.03〜1.5mmである。
【0015】
支持基板10は、MgO(酸化マグネシウム)と、第1酸化物セラミックスと、を含んで構成される。なお、支持基板10が第1酸化物セラミックスを含んでいるのは、MgO単独の熱膨張係数(約14ppm/K)が、通常の電極材料の熱膨張係数(10〜13ppm/K)と比べて大きいことに起因して、支持基板10の等価熱膨張係数を通常の電極材料の熱膨張係数に近づけるため、である。従って、第1酸化物セラミックスとしては、熱膨張係数が通常の電極材料の熱膨張係数(10〜13ppm/K)と比べて小さいものが好適である。具体的には、「第1酸化物セラミックス」としては、Y
2O
3(イットリア)、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)等が好適である。支持基板10は、「遷移金属酸化物又は遷移金属」を含んでいてもよい。「遷移金属酸化物又は遷移金属」としては、NiO(酸化ニッケル)又はNi(ニッケル)が好適である。遷移金属は、燃料ガスの改質反応を促す触媒(炭化水素系のガスの改質触媒)として機能し得る。
【0016】
このように、支持基板10が「遷移金属酸化物又は遷移金属」を含むことによって、改質前の残存ガス成分を含んだガスが多孔質の支持基板10の内部の多数の気孔を介して燃料ガス流路11から燃料極に供給される過程において、上記触媒作用によって改質前の残存ガス成分の改質を促すことができる。加えて、支持基板10が絶縁性の酸化物セラミックスを含むことによって、支持基板10の絶縁性を確保することができる。この結果、隣り合う燃料極間における絶縁性が確保され得る。
【0017】
支持基板10の厚さは、1〜5mmである。支持基板10全体の気孔率は15〜55%である。なお、気孔率の値は、後述する還元処理後の値である(他の気孔率の値についても同様)。なお、気孔率の測定は,樹脂埋めしたサンプル(還元処理後)の断面を研磨し、同断面についてのSEM(走査型電子顕微鏡)による画像(2次電子像)を解析することによって行われた。具体的には、「断面の総面積」に対する「断面上にて樹脂埋めされた領域に対応する部分の面積の総和」の割合が、その断面の「気孔率」であると定義された。SEMの加速電圧は5kV、SEMの倍率は5000倍、又は7500倍に設定された。気孔率の測定は、サンプルの任意の10箇所の断面について行われ、それらの平均値が気孔率の値として採用された。
【0018】
以下、この構造体の形状が上下対称となっていることを考慮し、説明の簡便化のため、支持基板10の上面側の構成についてのみ説明していく。支持基板10の下面側の構成についても同様である。
【0019】
図2及び
図3に示すように、支持基板10の上面(上側の主面)に形成された各凹部12には、燃料極集電部21の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極集電部21は直方体状を呈している。より正確には、
図3に示すように、各燃料極集電部21の側面の全周には、側面の周方向に沿って、凹部と凸部とが交互に繰り返す凹凸が形成されている。各燃料極集電部21の(凹凸が形成された)側面は、対応する凹部12の(凹凸が形成された)側壁と、全周に亘って隙間なく密着している。各燃料極集電部21の底面は、凹部12内で支持基板10と隙間なく密着している。この凹凸については、後に詳述する。
【0020】
各燃料極集電部21の上面(外側面)には、凹部21aが形成されている。各凹部21aは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、全周に亘って燃料極集電部21の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と、幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。
【0021】
各凹部21aには、燃料極活性部22の全体が埋設(充填)されている。従って、各燃料極活性部22は直方体状を呈している。燃料極集電部21と燃料極活性部22とにより燃料極20が構成される。燃料極20(燃料極集電部21+燃料極活性部22)は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。各燃料極活性部22の4つの側面と底面とは、凹部21a内で燃料極集電部21と接触している。
【0022】
各燃料極集電部21の上面(外側面)における凹部21aを除いた部分には、凹部21bが形成されている。各凹部21bは、燃料極集電部21の材料からなる底壁と、全周に亘って燃料極集電部21の材料からなる周方向に閉じた側壁(長手方向に沿う2つの側壁と、幅方向に沿う2つの側壁)と、で画定された直方体状の窪みである。
【0023】
各凹部21bには、インターコネクタ30が埋設(充填)されている。従って、各インターコネクタ30は直方体状を呈している。インターコネクタ30は、電子伝導性を有する緻密な材料からなる焼成体である。各インターコネクタ30の4つの側面と底面とは、凹部21b内で燃料極集電部21と接触している。
【0024】
燃料極20(燃料極集電部21及び燃料極活性部22)の上面(外側面)と、インターコネクタ30の上面(外側面)と、支持基板10の主面とにより、1つの平面(凹部12が形成されていない場合の支持基板10の主面と同じ平面)が構成されている。即ち、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の主面との間で、段差が形成されていない。
【0025】
燃料極集電部21は、NiO(酸化ニッケル)と、第2酸化物セラミックスと、を含んで構成される。なお、燃料極集電部21が第2酸化物セラミックスを含んでいるのは、NiO単独の熱膨張係数(約14ppm/K)が、通常の電極材料の熱膨張係数(10〜13ppm/K)と比べて大きいことに起因して、燃料極集電部21の等価熱膨張係数を通常の電極材料の熱膨張係数に近づけるため、である。従って、第2酸化物セラミックスとしては、熱膨張係数が通常の電極材料の熱膨張係数(10〜13ppm/K)と比べて小さいものが好適である。具体的には、「第2酸化物セラミックス」としては、Y
2O
3(イットリア)、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)等が好適である。燃料極集電部21の厚さ(即ち、凹部12の深さ)は、50〜500μmである。燃料極集電部21の気孔率は15〜55%である。
【0026】
燃料極活性部22は、電子伝導性を有する物質と、酸素イオン伝導性を有する物質と、を含んで構成される。「電子伝導性を有する物質」としては、NiO(酸化ニッケル)が好適である。「酸素イオン伝導性を有する物質」としては、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)等が好適である。燃料極活性部22の厚さは、5〜30μmである。燃料極活性部22の気孔率は15〜55%である。
【0027】
なお、燃料極集電部21内、並びに、燃料極活性部22内のNiOは、後述する還元処理によってNiに変化して、電子伝導性を獲得する。燃料極活性部22における「気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合」は、燃料極集電部21における「気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合」よりも大きい。
【0028】
インターコネクタ30は、例えば、LaCrO
3(ランタンクロマイト)から構成され得る。或いは、(Sr,La)TiO
3(ストロンチウムチタネート)から構成されてもよい。インターコネクタ30の厚さは、10〜100μmである。
【0029】
燃料極20及びインターコネクタ30がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタ30が形成されたそれぞれの部分の長手方向中央部を除いた全面は、固体電解質膜40により覆われている。固体電解質膜40は、イオン伝導性を有する緻密な材料からなる焼成体である。固体電解質膜40は、例えば、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、LSGM(ランタンガレート)から構成されてもよい。固体電解質膜40の厚さは、3〜50μmである。
【0030】
即ち、燃料極20がそれぞれの凹部12に埋設された状態の支持基板10における長手方向に延びる外周面の全面は、インターコネクタ30と固体電解質膜40とからなる緻密層により覆われている。この緻密層は、緻密層の内側の空間を流れる燃料ガスと緻密層の外側の空間を流れる空気との混合を防止するガスシール機能を発揮する。なお、本願において「緻密」とは、「ガスが通過しない程度に高密度であること」を指し、具体的には、「気孔率が10%以下であること」を指す。
【0031】
なお、
図2に示すように、本例では、固体電解質膜40が、燃料極20の上面、インターコネクタ30の上面における長手方向の両側端部、及び支持基板10の主面を覆っている。ここで、上述したように、燃料極20の上面とインターコネクタ30の上面と支持基板10の主面との間で段差が形成されていない。従って、固体電解質膜40が平坦化されている。この結果、固体電解質膜40に段差が形成される場合に比して、応力集中に起因する固体電解質膜40でのクラックの発生が抑制され得、固体電解質膜40が有するガスシール機能の低下が抑制され得る。
【0032】
固体電解質膜40における各燃料極活性部22と接している箇所の上面には、反応防止膜50を介して空気極60が形成されている。反応防止膜50は、緻密な材料からなる焼成体であり、空気極60は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。反応防止膜50及び空気極60を上方からみた形状は、燃料極活性部22と略同一の長方形である。
【0033】
反応防止膜50は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O
2(ガドリニウムドープセリア)から構成され得る。反応防止膜50の厚さは、3〜50μmである。空気極60は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O
3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSF=(La,Sr)FeO
3(ランタンストロンチウムフェライト)、LNF=La(Ni,Fe)O
3(ランタンニッケルフェライト)、LSC=(La,Sr)CoO
3(ランタンストロンチウムコバルタイト)等から構成されてもよい。また、空気極60は、LSCFからなる第1層(内側層)とLSCからなる第2層(外側層)との2層によって構成されてもよい。空気極60の厚さは、10〜100μmである。
【0034】
なお、反応防止膜50が介装されるのは、SOFC作製時又は作動中のSOFC内において固体電解質膜40内のYSZと空気極60内のSrとが反応して固体電解質膜40と空気極60との境界部分に電気抵抗が大きい反応層が形成される現象の発生を抑制するためである。
【0035】
ここで、燃料極20と、固体電解質膜40と、反応防止膜50と、空気極60とが積層されてなる積層体が、「発電素子部A」に対応する(
図2を参照)。即ち、支持基板10の上面には、複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが、長手方向において所定の間隔をおいて配置されている。
【0036】
各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(
図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(
図2では、右側の)発電素子部Aのインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極60、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の上面に、空気極集電膜70が形成されている。空気極集電膜70は、電子伝導性を有する多孔質の材料からなる焼成体である。空気極集電膜70を上方からみた形状は、長方形である。
【0037】
空気極集電膜70は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O
3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、LSC=(La,Sr)CoO
3(ランタンストロンチウムコバルタイト)から構成されてもよい。或いは、Ag(銀)、Ag−Pd(銀パラジウム合金)から構成されてもよい。空気極集電膜70の厚さは、50〜500μmである。
【0038】
このように各空気極集電膜70が形成されることにより、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、一方の(
図2では、左側の)発電素子部Aの空気極60と、他方の(
図2では、右側の)発電素子部Aの燃料極20(特に、燃料極集電部21)とが、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」を介して電気的に接続される。この結果、支持基板10の上面に配置されている複数(本例では、4つ)の発電素子部Aが電気的に直列に接続される。ここで、電子伝導性を有する「空気極集電膜70及びインターコネクタ30」が、「電気的接続部」に対応する。
【0039】
なお、インターコネクタ30は、前記「電気的接続部」における「緻密な材料で構成された第1部分」に対応し、気孔率は10%以下である。空気極集電膜70は、前記「電気的接続部」における「多孔質の材料で構成された第2部分」に対応し、気孔率は20〜60%である。
【0040】
以上、説明した「横縞型」のSOFCに対して、
図4に示すように、支持基板10の燃料ガス流路11内に改質後の燃料ガス(水素ガス等)を流すとともに、支持基板10の上下面(特に、各空気極集電膜70)を「酸素を含むガス」(空気等)に曝す(或いは、支持基板10の上下面に沿って酸素を含むガスを流す)ことにより、固体電解質膜40の両側面間に生じる酸素分圧差によって起電力が発生する。更に、この構造体を外部の負荷に接続すると、下記(1)、(2)式に示す化学反応が起こり、電流が流れる(発電状態)。
(1/2)・O
2+2e
−→O
2− (於:空気極60) …(1)
H
2+O
2−→H
2O+2e
− (於:燃料極20) …(2)
【0041】
発電状態においては、
図5に示すように、各組の隣り合う発電素子部A,Aについて、電流が、矢印で示すように流れる。この結果、
図4に示すように、このSOFC全体から(具体的には、
図4において最も手前側の発電素子部Aのインターコネクタ30と最も奥側の発電素子部Aの空気極60とを介して)電力が取り出される。
【0042】
(製造方法)
次に、
図1に示した「横縞型」のSOFCの製造方法の一例について
図6〜
図14を参照しながら簡単に説明する。
図6〜
図14において、各部材の符号の末尾の「g」は、その部材が「焼成前」であることを表す。
【0043】
先ず、
図6に示す形状を有する支持基板の成形体10gが作製される。この支持基板の成形体10gは、例えば、支持基板10の材料(例えば、MgOとY
2O
3)の粉末にバインダー、造孔材、分散材等が添加されて得られるスラリーを用いて、押し出し成形、切削等の手法を利用して作製され得る。なお、
図6では示されていないが、実際には、支持基板の成形体10gの主面に形成された各凹部12の側壁の全周には、その側壁の周方向に沿って上述した凹凸が形成されている。以下、
図6に示す7−7線に対応する部分断面を表す
図7〜
図14を参照しながら説明を続ける。
【0044】
図7に示すように、支持基板の成形体10gが作製されると、次に、
図8に示すように、支持基板の成形体10gの上下面に形成された各凹部12に、燃料極集電部の成形体21gがそれぞれ埋設・形成される。この段階で、燃料極集電部の成形体21gの側面が凹部12の(凹凸が形成された)側壁と全周に亘って隙間なく密着することによって、燃料極集電部の成形体21gの側面の全周に、側面の周方向に沿って、上述した凹凸が形成される。
【0045】
次いで、
図9に示すように、各燃料極集電部の成形体21gの外側面に形成された各凹部に、燃料極活性部の成形体22gがそれぞれ埋設・形成される。各燃料極集電部の成形体21g、及び各燃料極活性部22gは、例えば、燃料極20の材料(例えば、NiとY
2O
3)の粉末にバインダー、造孔材、分散材等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して埋設・形成される。
【0046】
続いて、
図10に示すように、各燃料極集電部の成形体21gの外側面における「燃料極活性部の成形体22gが埋設された部分を除いた部分」に形成された各凹部に、インターコネクタの成形体30gがそれぞれ埋設・形成される。各インターコネクタの成形体30gは、例えば、インターコネクタ30の材料(例えば、LaCrO
3)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して埋設・形成される。
【0047】
次に、
図11に示すように、複数の燃料極の成形体(21g+22g)及び複数のインターコネクタの成形体30gがそれぞれ埋設・形成された状態の支持基板の成形体10gにおける長手方向に延びる外周面において複数のインターコネクタの成形体30gが形成されたそれぞれの部分の長手方向中央部を除いた全面に、固体電解質膜の成形膜40gが形成される。固体電解質膜の成形膜40gは、例えば、固体電解質膜40の材料(例えば、YSZ)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法、ディッピング法等を利用して形成される。
【0048】
次に、
図12に示すように、固体電解質膜の成形体40gにおける各燃料極の成形体22gと接している箇所の外側面に、反応防止膜の成形膜50gが形成される。各反応防止膜の成形膜50gは、例えば、反応防止膜50の材料(例えば、GDC)の粉末にバインダー等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0049】
そして、このように種々の成形膜が形成された状態の支持基板の成形体10gが、空気中にて1500℃で3時間焼成される。これにより、
図1に示したSOFCにおいて空気極60及び空気極集電膜70が形成されていない状態の構造体が得られる。
【0050】
次に、
図13に示すように、各反応防止膜50の外側面に、空気極の成形膜60gが形成される。各空気極の成形膜60gは、例えば、空気極60の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー、造孔材、分散材等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0051】
次に、
図14に示すように、各組の隣り合う発電素子部について、一方の発電素子部の空気極の成形膜60gと、他方の発電素子部のインターコネクタ30とを跨ぐように、空気極の成形膜60g、固体電解質膜40、及び、インターコネクタ30の外側面に、空気極集電膜の成形膜70gが形成される。各空気極集電膜の成形膜70gは、例えば、空気極集電膜70の材料(例えば、LSCF)の粉末にバインダー、造孔材、分散材等が添加されて得られるスラリーを用いて、印刷法等を利用して形成される。
【0052】
そして、このように成形膜60g、70gが形成された状態の支持基板10が、空気中にて1050℃で3時間焼成される。これにより、
図1に示したSOFCが得られる。なお、この時点では、酸素含有雰囲気での焼成により、燃料極20(集電部21+活性部22)中のNi成分が、NiOとなっている。従って、燃料極20(集電部21+活性部22)の電子伝導性を獲得するため、その後、支持基板10側から還元性の燃料ガスが流され、NiOが800〜1000℃で1〜10時間に亘って還元処理される。なお、この還元処理は発電時に行われてもよい。以上、
図1に示したSOFCの製造方法の一例について説明した。
【0053】
(燃料極集電部の側面の凹凸)
次に、上記実施形態に係るSOFCの燃料極集電部21の側面の特徴について説明する。
図3、及び、「
図3に示す燃料極集電部21の側面の一部を拡大して示す
図15」に示すように、燃料極集電部21の側面の全周において、前記側面の周方向に沿って、凹部と凸部とが交互に繰り返す凹凸が形成されている。なお、上述したように、この燃料極集電部21の側面の凹凸は、上述した燃料極集電部の成形体21g(焼成前)の形成の段階で既に形成されている。
【0054】
各凸部の頂部、及び、各凹部の底部はそれぞれ、円弧状を呈している。各凸部の頂部の円弧半径R1、各凹部の底部の円弧半径R2、隣接する凸部(又は凹部)間のピッチP、並びに、凹凸の高低差(燃料極集電部21の側面の周方向に沿う方向に垂直な方向における、凸部の最頂部と凹部の最底部との距離)Hについては後述する。
【0055】
(作用・効果)
上記実施形態では、燃料極集電部21の側面の全周において、前記側面の周方向に沿って凹凸が形成されている。これにより、「発明の概要」の欄で記載した「燃料極の縁部に残留する応力」が分散されて、応力の集中が抑制され易くなる。この結果、燃料極集電部21の縁部にて剥離が発生し難くなる。なお、上記実施形態にて燃料極集電部21の側面に凹凸が形成される一方で燃料極活性部22の側面には凹凸が形成されていないのは、燃料集電部21が空気極活性部22より厚いので、燃料極集電部21の剥離が特に問題になり易いことに基づく。
【0056】
(凹部及び凸部の円弧半径の割合)
上述の還元処理後における
図1に示したSOFCでは、通常の環境下で稼働される場合には、燃料極集電部21の側面(凹凸が形成された面)にクラックが発生しない。しかしながら、SOFCが熱応力的に過酷な環境下で稼働されると、上記側面にクラックが発生する場合があった。本発明者は、係るクラックの発生が、「凹部の底部の円弧半径R2」に対する「凸部の頂部の円弧半径R1」の割合(R1/R2)(以下、「円弧半径割合R1/R2」と呼ぶ)と強い相関があることを見出した。以下、このことを確認した試験Aについて説明する。
【0057】
(試験A)
試験Aでは、
図1に示したSOFCについて、燃料極集電部の材質、及び、燃料極集電部の側面に形成された凹凸の高低差H、凸部の頂部の円弧半径R1、凹部の底部の円弧半径R2、円弧半径割合R1/R2の組み合わせが異なる複数のサンプルが作製された。具体的には、表1に示すように、10種類の水準(組み合わせ)が準備された。各水準に対して10個のサンプル(N=10)が作製された。表1に記載された各値は、上述の還元処理後の値(N=10の平均値)である。
【0059】
各サンプル(
図1〜
図3に示すSOFC)にて、上述した還元処理後にて、燃料極活性部22の厚さは5〜30μmとされ、燃料極集電部21の厚さは50〜500μmとされた。凹凸のピッチPは0.2〜2mmとされ、高低差Hは0.05〜1mmとされた。燃料極活性部22の気孔率は35〜45%とされ、燃料極集電部21の気孔率は35〜45%とされた。各層の気孔率の調整は、スラリー内の粉末の粒径、造孔材の添加量等を調整することによってなされた。燃料極20(活性部21+集電部22の2層)の共焼成温度は、1400〜1500℃の範囲内で調整された。共焼成時間は、1〜10時間の範囲内で調整された。還元処理温度は、800〜1000℃の範囲内で調整された。還元処理時間は、1〜10時間の範囲内で調整された。
【0060】
そして、上記還元処理後の各サンプルについて、「燃料極20に還元性の燃料ガスを流通させながら、雰囲気温度を常温から750℃まで2時間で上げた後に750℃から常温まで4時間で下げるパターン」を10回繰り返す熱サイクル試験を行った。そして、各サンプルについて、燃料極集電部21の側面(凹凸が形成された面)におけるクラックの発生の有無が確認された。この確認は、目視、並びに、顕微鏡を使用した観察によってなされた。この結果は表1に示すとおりである。
【0061】
表1から理解できるように、熱応力的に過酷な上記熱サイクル試験を行った後では、円弧半径割合R1/R2が0.4未満、又は、2.5より大きいと、理由は不明であるが、燃料極集電部21の側面(凹凸が形成された面)にクラックが発生し易い。一方、円弧半径割合R1/R2が0.4〜2.5の範囲内であると、前記クラックが発生し難い、ということができる。
【0062】
なお、本発明者は、通常の条件・環境下(例えば、常温から750℃まで4時間で上げた後に750℃から常温まで12時間で下げるパターン)にて上記実施形態が使用される場合、円弧半径割合R1/R2が0.4〜2.5の範囲外であっても、燃料極集電部21の側面(凹凸が形成された面)にクラックが発生しないことを別途確認している。
【0063】
(凹凸の高低差)
本発明者は、
図1に示したSOFCが熱応力的に過酷な環境下で稼働される場合に発生する上記クラックの発生が、「凹凸の高低差H」(
図15を参照)とも強い相関があることを見出した。以下、このことを確認した試験Bについて説明する。
【0064】
(試験B)
試験Bでは、
図1に示したSOFCについて、燃料極集電部の材質、及び、燃料極集電部の側面に形成された凹凸の凸部の頂部の円弧半径R1、凹部の底部の円弧半径R2、高低差Hの組み合わせが異なる複数のサンプルが作製された。具体的には、表2に示すように、10種類の水準(組み合わせ)が準備された。各水準に対して10個のサンプル(N=10)が作製された。表2に記載された各値は、上述の還元処理後の値(N=10の平均値)である。
【0066】
各サンプル(
図1〜
図3に示すSOFC)にて、上述の還元処理後にて、燃料極活性部22の厚さは5〜30μmとされ、燃料極集電部21の厚さは50〜500μmとされた。凹凸のピッチPは0.2〜2mmとされ、円弧半径割合R1/R2は0.4〜2.5とされた。燃料極活性部22の気孔率は35〜45%とされ、燃料極集電部21の気孔率は35〜45%とされた。燃料極20(活性部21+集電部22の2層)の共焼成温度、共焼成時間、還元処理温度、及び、還元処理時間は、上記試験Aのときと同じとされた。
【0067】
そして、上記還元処理後の各サンプルについて、上記試験Aのときと同様、「燃料極20に還元性の燃料ガスを流通させながら、雰囲気温度を常温から750℃まで2時間で上げた後に750℃から常温まで4時間で下げるパターン」を20回繰り返す熱サイクル試験を行った。そして、各サンプルについて、燃料極集電部21の側面(凹凸が形成された面)におけるクラックの発生の有無が確認された。この確認は、目視、並びに、顕微鏡を使用した観察によってなされた。この結果は表2に示すとおりである。
【0068】
表2から理解できるように、熱応力的に過酷な上記熱サイクル試験を行った後では、凹凸の高低差Hが0.05mm未満、又は、1mmより大きいと、理由は不明であるが、燃料極集電部21の側面(凹凸が形成された面)にクラックが発生し易い。一方、高低差Hが0.05〜1mmの範囲内であると、前記クラックが発生し難い、ということができる。
【0069】
なお、本発明者は、通常の条件・環境下(例えば、常温から750℃まで4時間で上げた後に750℃から常温まで12時間で下げるパターン)にて上記実施形態が使用される場合、凹凸の高低差Hが0.05〜1mmの範囲外であっても、燃料極集電部21の側面(凹凸が形成された面)にクラックが発生しないことを別途確認している。
【0070】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、
図3に示すように、燃料極集電部21の側面の全周に凹凸が形成されているが、
図16に示すように、燃料極集電部21の側面の一部にのみ凹凸が形成されていてもよい。また、
図3、及び
図16に示す例では、燃料極活性部22の側面には燃料極集電部21の側面に形成された凹凸と同じ又は類似の形状の凹凸が形成されていないが、形成されていてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、
図1に示すように、燃料極20が燃料極集電部21と燃料極活性部22の2層からなり、燃料極集電部21の側面の全周に凹凸が形成されているが、
図17、及び
図18に示すように、燃料20が1層のみからなり、燃料極20(=1層)そのものの側面の全周に凹凸が形成されていてもよい。同様に、
図19に示すように、燃料極20(=1層)そのものの側面の一部にのみ凹凸が形成されていてもよい。
【0072】
なお、上述した試験A、Bが上述した
図16〜
図19に示すそれぞれの態様について行われた場合においても、上述した表1、2に示した結果と同じ結果が得られることを別途確認している。
【解決手段】この燃料電池では、平板状の支持基板の主面に形成された複数の凹部12のそれぞれに、対応する燃料極集電部21が埋設される。各燃料極集電部21の上面に形成された凹部21aに対応する燃料極活性部22が埋設される。各燃料極集電部21の側面の全周、及び、各凹部12の側壁の全周に亘って、周方向に沿って凹凸が形成されている。各燃料極集電部21の側面は、対応する凹部12の側壁と、全周に亘って隙間なく密着している。各凸部の頂部、及び、各凹部の底部がそれぞれ円弧状を呈する。「凹部の底部の円弧半径」に対する「凸部の頂部の円弧半径」の割合が0.4〜2.5であり、凸部の最頂部と凹部の最底部との間の高低差が0.05〜1mmである。