【実施例】
【0038】
<実施例1>細菌の単離および同定
(1)細菌の単離
BDF−Bを資化してバクテリアセルロースを生産する細菌を単離した。具体的には、
図1に示す手順により、まず、リンゴおよびプルーンを分離源として、ヘストリン−シュラム(Hestrin−Schramm)標準培地(組成;bacto pepton 0.5%(w/v)、yeast extract 0.5%(w/v)、Na
2HPO
4 0.27%(w/v)、クエン酸 0.115%(w/v)、グルコース 2%(w/v);HS培地)においてグルコースの代わりに2%(w/v)の試薬グリセロール(試薬特級;和光純薬株式会社)を含む培地(HS/グリセロール培地)を用いて集積培養を行った。これを、セルロース染色試薬を含むHS/グリセロール培地に植菌して30℃でプレート培養し、バクテリアセルロースを生産する菌株を15種選択した。続いて、これらの菌株を2%(w/v)の試薬グリセロール(試薬特級;和光純薬株式会社)を含むLB培地(組成;トリプトン 1%(w/v)、yeast extract 0.5%(w/v)、塩化ナトリウム 0.5%(w/v))に植菌して30℃で静置培養し、ゲル状膜を生成させた。ゲル状膜の乾燥重量(以下、「乾燥膜重量」という。)を測定して、乾燥膜重量が大きい菌株を、グリセロールを資化し、かつバクテリアセルロース生産能が高い菌として8種選択した。次に、BDF−Bを含むLB培地に植菌して30℃でプレート培養し、さらに、HS培地に植菌して30℃で静置培養することによりゲル状膜を生成させた。このうち乾燥膜重量が大きい菌株を選択して、グリセロールを含むLB培地またはHS/グリセロール培地にてプレート培養した後、HS培地で静置培養する操作を繰り返し行い、BDF−B資化性を有し、かつバクテリアセルロース生産能が高い菌株を1種選定し、これをSIID9587株とした。
【0039】
(2)細菌の同定
本実施例1(1)のSIID9587株について、常法に従ってシークエンスを行い、全長16S rDNAの塩基配列(1367bp;配列番号1)を決定した。続いて、株式会社テクノスルガ・ラボにおいて16S rDNA塩基配列解析および菌学的性状試験を行った。
【0040】
[2−1]16S rDNA塩基配列解析
16S rDNA塩基配列解析は、ソフトウェアとしてアポロン2.0(テクノスルガ・ラボ社)を、データベースとしてアポロンDB−BA 6.0(テクノスルガ・ラボ社)および国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)を用いて行った。アポロンDB−BA6.0に対する相同性検索の結果、SIID9587株の16S rDNA塩基配列(配列番号1)は、Gluconacetobacter属の16S rDNA塩基配列に対し高い相同性を示し、G.intermedius TF2株(アクセッション番号Y14694)の16S rDNA塩基配列に対し、相同率99.8%の最も高い相同性を示した。また、GenBank/DDBJ/EMBLに対する相同性検索の結果においても、SIID9587株の16S rDNA塩基配列(配列番号1)は、Gluconacetobacter属の16S rDNA塩基配列に対し高い相同性を示し、基準株では、G.intermedius TF2株(アクセッション番号NR_026435)の16S rDNA塩基配列に対し、相同率99.8%の高い相同性を示した。なお、アクセッション番号Y14694の配列とアクセッション番号NR_026435の配列とは、同一である。SIID9587株とG.intermedius TF2株(アクセッション番号Y14694、NR_026435)の16S rDNA塩基配列比較の結果を
図2−1および
図2−2に示す。
図2−1および
図2−2に示すように、両者の間には4塩基の相違点があった。また、アポロンDB−BA6.0に対する相同性検索において、相同性が高かった上位15株の16S rDNA塩基配列に基づく簡易分子系統解析の結果、SIID9587株は、Gluconacetobacter属の種で形成されるクラスター内に含まれた。
【0041】
[2−2]菌学的性状試験
菌学的性状試験の結果を
図3に示す。
図3に示すように、SIID9587株は、5%酢酸含有培地で生育しない点で、既知のG.intermediusとは性状が異なり、他の性状は一致した(BRENNERら、Bergey’s manual of Systematic Bacteriology.Vol.Two.The Proteobacteria,Part C TheAlpha−,Beta−,Delta−,and Epsilonproteobacteria.2005.Springer.p72−77)。
【0042】
以上の本実施例1(2)[2−1]および[2−2]の結果から、SIID9587株は、Gluconacetobacter intermediusに帰属することが明らかになった。一方、SIID9587株とGluconacetobacter intermediusの基準株であるG.intermedius TF2株との間には、16S rDNA塩基配列および菌学的性状において上記のとおり相違点が存在することから、SIID9587株は、G.intermediusの新規の菌株であることが明らかになった。そこで、この菌株を、平成24年(2012年)12月21日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NITE−IPOD;〒292−0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に受託番号NITE BP−01495として寄託した。以下、このGluconacetobacter intermedius SIID9587株(受託番号NITE BP−01495)をNEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)という。
【0043】
(3)生産物の確認
NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)の前培養を行い、菌体を増殖させた。続いて、前培養を行って得られた培養液(前培養液)をHS培地(炭素源;グルコース)に加えて、30℃で約8日間静置培養することにより本培養を行い、培地表面にゲル状膜を生成させた。ゲル状膜について、常法に従い赤外分光法(IR)のスペクトルおよびX線回折プロファイルを得て解析を行った。その結果、ゲル状膜はI型の結晶構造を持つセルロースであることが明らかになった。また、常法に従い、走査型電子顕微鏡画像を得て解析を行った結果、ゲル状膜では、ナノオーダーの幅のセルロース繊維(セルロースナノファイバー)がネットワーク構造を形成していることが明らかとなった。これらの結果から、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)はセルロースを生産することが確認された。
【0044】
<実施例2>通気撹拌培養による生産物の評価
(1)通気撹拌培養による生産物の調製
BDF−Bを中和処理し、さらにオートクレーブ処理を行うことにより、前処理したBDF−Bを得た。
【0045】
2%(w/v)のCMC(化学用;和光純薬株式会社)を含むHS培地において、炭素源としてグルコースの代わりに試薬グリセロール(試薬特級;和光純薬株式会社)を添加したもの、および、グルコースの代わりに前処理したBDF−Bを濃度が2%(w/v)となるように添加したものを調製して、それぞれをグリセロール本培養培地およびBDF−B本培養培地とした。そして、まずNEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)の前培養を行い、菌体を増殖させた。次に、前培養液を5Lのグリセロール本培養培地およびBDF−B本培養培地にそれぞれ植菌して、ファーメンターを用いて、通気量 7〜10L/分、回転数200〜800rpm、温度30℃の条件下で通気撹拌培養を4日間行うことにより本培養を行った。本培養を行って得られた培養液(本培養液)に1%(w/v)NaOH水溶液を加えて60℃、80rpmで4〜5時間振とうすることにより菌体を溶解した。これを遠心分離に供した後、上清を除去して沈殿物を回収することにより、水溶性の菌体成分を除去した。そこに超純水を加えて遠心分離を行った後、上清を除去する操作を、湿潤状態で沈殿物のpHが7以下となるまで繰り返し行うことにより生産物を精製し、これを撹拌培養BC液とした。
【0046】
(2)静置培養によるバクテリアセルロースの調製
実施例1(3)に記載の方法によりゲル状膜を得て、約1cm×1cmの大きさに裁断した。続いて、1%(w/v)NaOH水溶液を加えて60℃、80strokes/分で4〜5時間振とうした後、20℃で一晩振とうした。金網を用いて濾過することにより液体を除去してゲル状膜を回収した。そこに、超純水を加えて、20℃で一晩振とうする操作を、pHが7以下になるまで繰り返し行うことにより精製した後、ミキサーを用いて数分間懸濁処理し、これをミキサー処理静置培養BC液とした。
【0047】
(3)解析
シリコン板の上に、本実施例2(1)の撹拌培養BC液および本実施例2(2)のミキサー処理静置培養BC液をそれぞれ滴下して乾燥させた後、赤外分光光度計(FT/IR−4200;日本分光株式会社)に供して、積算回数32回、分解能2cm
−1または 4cm
−1で測定を行い、IRスペクトルを得た。その結果を
図4に示す。
図4に示すように、BDF−B本培養培地およびグリセロール本培養培地を用いて得られた撹拌培養BC液のIRスペクトルは、ミキサー処理静置培養BC液のIRスペクトルと同様の形状であった。この結果から、BDF−Bや試薬グリセロールを炭素源としてNEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を撹拌培養することにより得られた生産物は、セルロースであることが確認された。
【0048】
<実施例3>バクテリアセルロースの水中での分散性
(1)バクテリアセルロースを含む水の外観
実施例2(1)のBDF−B本培養培地を用いた撹拌培養BC液および実施例2(2)のミキサー処理静置培養BC液を用意した。また、市販のパルプ由来セルロースナノファイバーを水に添加して分散させ、これをパルプ由来CNF液とした。撹拌培養BC液、ミキサー処理静置培養BC液およびパルプ由来CNF液を1日静置した後、外観を観察した。その結果を
図5に示す。
【0049】
図5に示すように、パルプ由来CNF液ではセルロースの沈殿が観察された。また、ミキサー処理静置培養BC液では、塊状のバクテリアセルロースが観察され、バクテリアセルロースの分散状態が不均一であった。これに対して、撹拌培養BC液では沈殿や塊状のバクテリアセルロースは観察されず、バクテリアセルロースが均一に分散している様子が観察された。これらの結果から、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を撹拌培養することにより得られたバクテリアセルロースは、パルプ由来セルロースナノファイバーやNEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を静置培養することにより得られたバクテリアセルロースと比較して分散性が高く、水などの液体中に均一に分散することが明らかになった。
【0050】
(2)バクテリアセルロースを含む水の光の透過率
[2−1]静置培養のバクテリアセルロースおよびパルプ由来セルロースとの比較
実施例2(1)に記載の方法において、本培養としてファーメンターに代えて羽根付きフラスコを用いて150rpm、温度30℃の条件下で3日間旋回培養を行って撹拌培養BC液を調製し、これをサンプルA(グリセロール本培養培地を用いたもの)およびサンプルB(BDF−B本培養培地を用いたもの)とした。また、実施例2(1)のBDF−B本培養培地を用いた撹拌培養BC液をサンプルC、グリセロール本培養培地を用いた撹拌培養BC液をサンプルDとした。また、実施例2(2)のミキサー処理静置培養BC液および実施例3(1)のパルプ由来CNF液をそれぞれ用意した。これらのセルロースの終濃度を0.1±0.006%(w/w)となるように調製した後、セルに1mLずつ加えて、分光光度計(U−2001形ダブルビーム分光光度計;株式会社日立製作所)に供して波長500nmの光の透過率を測定した。セルにはポリスチレン製ディスポーザブルキュベット(セミミクロ、光路長10mm、光路幅4mm)を使用し、リファレンスには超純水を使用した。その結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すように、サンプルA、B、CおよびDの透過率は、それぞれ74.75%、70.53%、63.82%および49.66%であり、ミキサー処理静置培養BC液の19.19%およびパルプ由来CNF液の12.72%と比較して顕著に大きく、概ね40%以上80%以下の範囲であった。
【0053】
[2−2]培地中のCMCの有無における比較
実施例2(1)に記載の方法において、2%(w/v)のCMCを含むHS培地とCMCを含まないHS培地とをそれぞれ用いて撹拌培養BC液を得た。ただし、炭素源としてグルコースの代わりに糖蜜を用いた。また、糖蜜を炭素源とした場合は、本培養3日目で培地中の炭素源がほとんどなくなったため、本培養の日数は、4日間に代えて3日間とした。続いて、本実施例3(2)[2−1]に記載の方法により、バクテリアセルロースを含む水の光の透過率を測定した。その結果を下記の表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2に示すように、CMCを含むHS培地を用いた場合の透過率は57%であったのに対して、CMCを含まないHS培地を用いた場合の透過率は18%であった。
【0056】
以上の本実施例3(2)[2−1]および[2−2]の結果から、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)をCMCを含む培地で撹拌培養することにより得られたバクテリアセルロースを、終濃度0.1±0.006%(w/w)で含む水の波長500nmの光の透過率は、40%以上80%以下であることが明らかになった。すなわち、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)をCMCを含む培地で撹拌培養することにより、液体中での分散性が顕著に高く、液体中に均一に分散するバクテリアセルロースが得られることが明らかになった。
【0057】
<実施例4>炭素源が異なる場合の透過率およびバクテリアセルロースの生産速度の比較
実施例2(1)に記載の方法により撹拌培養BC液を得た。ただし、炭素源としてグルコースの代わりに糖蜜および試薬グリセロールを用いた。また、糖蜜を炭素源とした場合は、本培養の日数は4日間に代えて3日間とした。続いて、実施例3(2)[2−1]に記載の方法により、バクテリアセルロースを含む水の光の透過率を測定した。また、撹拌培養BC液を乾燥させてバクテリアセルロースの絶乾重量を測定し、測定結果に基づいて培地1L当たりのバクテリアセルロースの濃度を算出して、これをバクテリアセルロースの生産量(BC生産量;g/L)とした。また、BC生産量を本培養の日数で除した値を算出し、これをバクテリアセルロースの生産速度(BC生産速度;g/L/日)とした。その結果を
図6に示す。
【0058】
図6の表および左側の棒グラフに示すように、糖蜜を炭素源として用いた場合の透過率は57%であり、試薬グリセロールを炭素源として用いた場合の57%と同じ値であった。この結果から、糖蜜を炭素源としてNEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を培養することにより、試薬グリセロールを炭素源とした場合と同様に、終濃度0.1±0.006%(w/w)でバクテリアセルロースを含む水の波長500nmの光の透過率が顕著に高いバクテリアセルロースが得られることが明らかになった。すなわち、糖蜜を炭素源としてNEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を培養することにより、分散性が高く、液体中に均一に分散するバクテリアセルロースが得られることが示された。
【0059】
また、
図6の表および右側の棒グラフに示すように、糖蜜を炭素源として用いた場合のBC生産速度は1.48g/L/日であり、試薬グリセロールを炭素源として用いた場合の0.95g/L/日よりも約1.5倍大きかった。この結果から、糖蜜を炭素源としてNEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を培養することにより、分散性が高いバクテリアセルロースを短期間で大量に得られることが明らかになった。
【0060】
<実施例5>細菌が異なる場合の透過率およびバクテリアセルロース生産速度の比較
実施例2(1)に記載の方法により撹拌培養BC液を得た。ただし、炭素源としてグルコースの代わりに糖蜜を用いた。また、細菌としてNEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)ならびに既知のバクテリアセルロース生産菌であるGluconacetobacter hansenii ATCC23769株、Gluconacetobacter xylinus ATCC53582株、Gluconacetobacter xylinus ATCC700178(BPR2001)株、Gluconacetobacter xylinus JCM10150株、Gluconacetobacter intermedius DSM11804株およびGluconacetobacter xylinus KCCM40274株を、それぞれ用いた。また、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を用いた場合は、本培養3日目で培地中の炭素源がほとんどなくなったため、本培養の日数は4日間に代えて3日間とした。一方、DSM11804株を用いた場合は、本培養4日目でも培地中の炭素源の減少の程度が小さかったため、本培養の日数は4日間に代えて5日間とした。続いて、実施例3(2)[2−1]に記載の方法により、バクテリアセルロースを含む水の光の透過率を測定した。また、実施例4に記載の方法により、BC生産量(g/L)およびBC生産速度(g/L/日)を算出し、透過率およびBC生産速度については、数値を棒グラフに表した。その結果を
図7に示す。
【0061】
図7の表および左側の棒グラフに示すように、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を用いた場合の透過率は57%であったのに対して、G.hansenii ATCC23769株、G.xylinus ATCC53582株、G.xylinus ATCC700178(BPR2001)株、G.xylinus JCM10150株、G.intermedius DSM11804株およびG.xylinus KCCM40274株を用いた場合の透過率は、それぞれ、20%、33%、29%、27%、9%および13%であった。この結果から、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を培養して得られたバクテリアセルロースを終濃度0.1±0.006%(w/w)で含む水の波長500nmの光の透過率は、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)以外を培養して得られたバクテリアセルロースを含む水の当該透過率と比較して顕著に大きく、35%以上であることが明らかになった。すなわち、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を培養することにより、分散性が高く、液体中に均一に分散するバクテリアセルロースが得ることができることが示された。
【0062】
また、
図6の表および右側の棒グラフに示すように、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を用いた場合のBC生産速度は1.48g/L/日であったのに対して、G.hansenii ATCC23769株、G.xylinus ATCC53582株、G.xylinus ATCC700178(BPR2001)株、G.xylinus JCM10150株、G.intermedius DSM11804株およびG.xylinus KCCM40274株を用いた場合のBC生産速度は、それぞれ、1.05g/L/日、1.03g/L/日、1.11g/L/日、1.10g/L/日、0.42g/L/日および0.43g/L/日であった。すなわち、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を用いた場合のBC生産速度は、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)以外を用いた場合のBC生産速度と比較して顕著に大きかった。この結果から、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を培養することにより、分散性が高いバクテリアセルロースを短期間で大量に得ることができることが示された。
【0063】
<実施例6>バクテリアセルロースの分子量
実施例3(2)のサンプルA、B、CおよびDならびにパルプ由来CNF液を試料として用意した。これらの試料を凍結乾燥し、57〜59%水酸化テトラブチルホスホニウム水溶液に加えて35℃で静置して溶解させた後、水酸化テトラブチルホスホニウムの濃度が40〜42%(w/w)、試料の濃度が0.2%(w/w)となるように水を加えた。続いて、遠心分離を行うことにより不純物を沈殿させて、上清を回収した。この上清を、下記の条件下でゲル浸透クロマトグラフィーに供してクロマトグラムのピークトップの保持容量を測定した。同上清を同条件下で3回測定した。その結果を表3に示すとともに、任意に選択したクロマトグラムを
図8に示す。
【0064】
ゲル浸透クロマトグラフィーの条件
機器;高速液体クロマトグラフ(株式会社島津製作所)
カラム;粒子径9μmのメタクリレートポリマーを充填した内径6.0mmおよび長さ15cmのカラム(TSKgel super AWM−H;東ソー社)
ガードカラム;内径4.6mm、長さ3.5cm(TSK guardcolum super AW−H;東ソー社)
カラム温度;35℃
送液速度;0.07mL/分
サンプル注入量;10μL
溶離液;40〜42%(w/w)水酸化テトラブチルホスホニウム水溶液
溶離液におけるバクテリアセルロースの終濃度;0.2%(w/w)
対照サンプル;分子量85.3×10
4のプルラン(Shodex standard P−82)
【0065】
【表3】
【0066】
表3および
図8に示すように、サンプルA、B、CおよびDのピークトップの保持容量は平均で見るとそれぞれ2.79mL、2.81mL、2.82mLおよび2.76mLであり、パルプ由来CNF液の3.04mLおよびプルランの3.24mLと比較して小さかった。この結果から、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を撹拌培養することにより得られたバクテリアセルロースの平均分子量は、パルプ由来のセルロースよりも大きく、プルラン換算で85.3×10
4よりも大きいことが示された。また、表3に示すように、サンプルA、B、CおよびDのピークトップの保持容量は、2.737〜2.849mLの範囲であったことから、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を撹拌培養することにより得られたバクテリアセルロースを上記の条件下でゲル浸透クロマトグラフィーに供した場合は、クロマトグラムのピークトップの保持容量が2.5mL以上3.0mL未満となることが示された。
【0067】
<実施例7>バクテリアセルロースの形態
(1)繊維幅の測定
実施例2(1)のグリセロール本培養培地を用いた撹拌培養BC液および実施例2(2)のミキサー処理静置培養BC液を用意した。これらのセルロース濃度を約0.001%(w/w)に調製した後、ホルムバール被覆した銅グリッド上に10μLずつ滴下して風乾させた。続いて、5%(w/v)酢酸ガドリニウム水溶液を5μL滴下し、10秒後に余分な液をろ紙で除去することによりネガティブ染色した。透過型電子顕微鏡を用いて、加速電圧80kV、観察倍率30,000倍で観察し、観察画像に基づいてセルロース繊維の幅を測定した。その結果を
図9に示す。
【0068】
図9に示すように、セルロース繊維の幅は撹拌培養BC液では17±8nmであり、ミキサー処理静置培養BC液の55±22nmと比較して顕著に小さく、かつ、標準偏差も小さかった。この結果から、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を撹拌培養することにより得られたバクテリアセルロースは、細く、繊維間で幅のばらつきが小さい均一な繊維であることが明らかになった。
【0069】
(2)繊維幅の均一性および凝集状態の確認
実施例2(1)のBDF−B本培養培地を用いた撹拌培養BC液および実施例3(1)のパルプ由来CNF液を用意した。これらのセルロース濃度を約0.01%(w/w)に調製した後、ホルムバール被覆した銅グリッド上にスプレーしてドライヤーを用いて乾燥させる操作を10回繰り返し行った。続いて、5%(w/v)酢酸ガドリニウム水溶液を5μL滴下し、余分な液をろ紙で除去した。さらに、5μLの超純水を滴下した後、余分な液をろ紙で除去する一連の操作を2回繰り返し行った後、風乾することによりネガティブ染色した。透過型電子顕微鏡を用いて、加速電圧80kV、観察倍率10,000倍で観察した。その結果を
図10に示す。また、偏光顕微鏡を用いてクロスニコルで観察した。その結果を
図11に示す。
【0070】
図10に示すように、撹拌培養BC液では、ナノスケールで同等の幅のセルロース繊維が多数観察されたのに対し、パルプ由来CNF液では、様々な幅のセルロース繊維が観察され、大きいものでは繊維幅が約500nm以上のものが観察された。この結果から、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を撹拌培養することにより得られたバクテリアセルロースは、ナノスケールで均一な幅の繊維であることが再度確認された。
【0071】
また、
図11に示すように、パルプ由来CNF液では、矢印で示すように比較的太い繊維が明確に観察されたのに対して、撹拌培養BC液では、点線で囲んだ部分にぼんやりと像が観察された。この結果から、パルプ由来のセルロースでは、サブマイクロファイバーやマイクロファイバーなどの比較的太い繊維が存在しているのに対して、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)を撹拌培養することにより得られたバクテリアセルロースは、ナノスケールで細い繊維が均一に分散していることが明らかになった。
【0072】
<実施例8>バクテリアセルロース生産能の評価
(1)静置培養での生産能
LB培地において、炭素源としてグルコースの代わりに前処理したBDF−Bおよび試薬グリセロールを添加したものを調製し、LB/BDF−B培地およびLB/グリセロール培地とした。NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)、Gluconacetobacter xylinus ATCC53582株、Gluconacetobacter hansenii ATCC23769株およびGluconacetobacter xylinus ATCC700178(BPR2001)株をLB/グリセロール培地およびLB/BDF−B培地に植菌して、30℃で7日間静置培養することによりゲル状膜を生成させた。これに1%(w/v)NaOH水溶液を加え、オートクレーブ処理する操作をゲル状膜が白色になるまで繰り返した。その後、水を加えてオートクレーブ処理する操作をpHが7以下になるまで繰り返して、精製を行った。精製後に、乾燥させることにより得られたバクテリアセルロースの絶乾重量を測定した。その結果を
図12に示す。
【0073】
図12に示すように、G.hansenii ATCC23769株は、LB/グリセロール培地およびLB/BDF−B培地のいずれにおいてもバクテリアセルロースの重量が小さかった。また、G.xylinus ATCC53582株およびG.xylinus ATCC700178(BPR2001)株は、LB/グリセロール培地では比較的バクテリアセルロースの重量が大きかったものの、LB/BDF−B培地ではバクテリアセルロースの生産が認められなかった。これに対して、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)はLB/グリセロール培地およびLB/BDF−B培地のいずれにおいてもバクテリアセルロースの重量が同等に大きかった。これらの結果から、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)は試薬グリセロールのみならずBDF−Bを炭素源としても静置培養により効率的にバクテリアセルロースを生産できることが示された。BDF−Bを炭素源としてバクテリアセルロースを生産できるという特徴は、他の比較した株にはない特徴であって、副産物を利用できるという実用面でも有利であり、かつ生産コスト低減にも大きく貢献するものである。
【0074】
(2)撹拌培養での生産能
10mLのHS培地にNEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)、ATCC53582株およびATCC23769株を植菌し、30℃で3日間静置培養することにより前々培養を行った。続いて、前々培養を行って得られた培養液を10mLのHS培地に植菌し、30℃で3日間静置培養することにより前培養を行った。次に、羽根付き三角フラスコに実施例2(1)のグリセロール本培養培地およびBDF−B本培養培地を100mL入れて、各菌株につき同じ菌体数に相当する量の前培養液を植菌し、150rpm、30℃の条件下で3日間振とう培養することにより本培養を行った。続いて、本培養液中のバクテリアセルロースを実施例2(1)に記載の方法により精製した。ただし、60℃、80rpmで4〜5時間振とうした後、さらに20℃で一晩振とうした。精製したバクテリアセルロースは乾燥させて絶乾重量を測定した。その結果を
図13に示す。
【0075】
図13に示すように、G.xylinus ATCC53582株は、グリセロール本培養培地およびBDF−B本培養培地のいずれにおいても、バクテリアセルロースの生産が認められなかった。また、G.hansenii ATCC23769株は、グリセロール本培養培地ではバクテリアセルロースの絶乾重量が比較的大きかったものの、BDF−B本培養培地ではバクテリアセルロースの生産が認められなかった。これに対して、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)は、グリセロール本培養培地およびBDF−B本培養培地のいずれにおいても、バクテリアセルロースの絶乾重量が大きかった。この結果から、NEDO−01株(G.intermedius SIID9587株)は、試薬グリセロールのみならずBDF−Bを炭素源として、静置培養のみならず撹拌培養によっても、効率的にバクテリアセルロースを生産することができることが示された。