特許第5752354号(P5752354)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5752354
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】回路保護デバイス
(51)【国際特許分類】
   H02H 7/00 20060101AFI20150702BHJP
   H01C 7/02 20060101ALI20150702BHJP
   H02H 3/08 20060101ALI20150702BHJP
   H02H 9/02 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   H02H7/00 L
   H01C7/02
   H02H3/08 T
   H02H9/02 B
   H02H9/02 D
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2009-505148(P2009-505148)
(86)(22)【出願日】2008年3月11日
(86)【国際出願番号】JP2008054394
(87)【国際公開番号】WO2008114650
(87)【国際公開日】20080925
【審査請求日】2011年3月4日
【審判番号】不服2013-25267(P2013-25267/J1)
【審判請求日】2013年12月24日
(31)【優先権主張番号】特願2007-68813(P2007-68813)
(32)【優先日】2007年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227995
【氏名又は名称】タイコエレクトロニクスジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100068526
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭生
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克彰
【合議体】
【審判長】 堀川 一郎
【審判官】 矢島 伸一
【審判官】 藤井 昇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−67710(JP,A)
【文献】 特表平11−512557(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H7/00
H01C7/02
H02H3/08
H02H9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに電気的に直列に接続された回路保護デバイスおよび電気要素を有して成ることを特徴とする直流電気回路であって、この回路保護デバイスは、
バイメタルスイッチおよびPTC素子を有して成り、
バイメタルスイッチとPTC素子とは、電気的に並列に接続され、
PTC素子は、前記電気要素の抵抗値の1.1倍以下の動作後抵抗値を有することを特徴とする電気回路。
【請求項2】
PTC素子は、電気要素の抵抗値の0.9倍以下の動作後抵抗値を有することを特徴とする請求項1に記載の電気回路。
【請求項3】
PTC素子は、電気要素の抵抗値の0.4倍以下の動作後抵抗値を有することを特徴とする請求項2に記載の電気回路。
【請求項4】
PTC素子は、電気要素の抵抗値の3分の2以下の基準抵抗値を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電気回路。
【請求項5】
PTC素子は、バイメタルスイッチの抵抗値の少なくとも10倍の動作後抵抗値を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電気回路。
【請求項6】
PTC素子は、バイメタルスイッチの抵抗値の少なくとも100倍の動作後抵抗値を有することを特徴とする請求項5のいずれかに記載の電気回路。
【請求項7】
PTC素子は、ポリマーPTC素子である請求項1〜6のいずれかに記載の電気回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路保護デバイス(または回路保護素子)、詳しくは、バイメタルスイッチおよびPTC素子を有して成る回路保護デバイスならびにそのような保護デバイスを有する電気回路(または電気装置)に関する。そのような回路保護デバイスは、例えば、電気自動車、コードレスクリーナー、電動工具、無線基地局等において用いられる種々の高電圧もしくは高電流のバッテリーを使用する電気回路において保護素子として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
種々の電気回路において、定格電圧より大きい電圧が印加された場合および/または定格電流より大きい電流が流れた場合、回路に組み込まれた電気・電子装置および/または電気・電子部品を保護するために回路保護デバイスが回路に組み込まれている。
【0003】
そのような回路保護デバイスとして、バイメタルスイッチとPTC素子とを並列に接続して用いることが提案されている(下記特許文献参照)。そのような回路保護デバイスでは、通常の運転条件では、即ち、定格電圧以下の電圧および定格電流以下の電流の条件下では、回路を流れる電流は、その実質的に全てがバイメタルスイッチの接触状態にある接点間を流れ、例えば過電流条件となった時に、バイメタルスイッチのバイメタル部分が高温となってその接点が離間して開き、電流がPTC素子に分流する。その結果、PTC素子は過電流によって高温・高抵抗状態にトリップしてPTC素子を流れる電流を実質的に遮断する。この時、PTC素子の高温がバイメタル部分を高温に維持し、それによってバイメタルスイッチが開いた状態を維持する、即ち、バイメタルスイッチのラッチ状態を維持する。このような回路保護デバイスでは、電流を切り替える必要がないので、バイメタルスイッチの接点でアークが生じないと言われている。
【特許文献1】特表平11−512598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、上述の回路保護デバイスについて検討を重ねた結果、単にPTC素子をバイメタルスイッチに対して並列に接続した回路保護デバイスでは、バイメタルスイッチの接点でアークが発生して、最悪の場合では、接点が溶着することがあることに気付いた。このような溶着が発生すると、回路保護デバイスとして機能せず、回路に組み込まれた電気・電子装置および/または電気・電子部品を保護することができない。従って、本発明が解決しようとする課題は、回路を保護できる可能性を一層向上させた、上述の回路保護デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、バイメタルスイッチおよびPTC素子を有して成る回路保護デバイスであって、
バイメタルスイッチとPTC素子とは、電気的に並列に接続され、
PTC素子は、回路保護デバイスを組み込むべき電気回路の定格電圧および定格電流に基づいて式(1):
定格電圧/定格電流=固有抵抗値 (1)
によって算出される回路の固有抵抗値の1.1倍以下の動作後抵抗値を有することを特徴とする回路保護デバイスを提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の回路保護デバイスを電気回路に組み込む場合、バイメタルスイッチの接点間に溶着部が形成されるのを一層抑制できる。その結果、回路保護デバイスによる回路保護機能が更に向上する。従って、本発明の回路保護デバイスを組み込んだ電気回路をも、本発明は提供する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、所定の電気装置(または部品)BおよびバイメタルスイッチCが組み込まれている所定の電気回路Aを示す。
図2図2は、本発明の回路保護デバイスを組み込んだ電気回路を示す。
図3図3は、本発明の回路保護デバイスのより具体的な形態の例を模式的側面図で示す。
図4図4は、本発明の回路保護デバイスのより具体的な形態の例を模式的側面図で示す。
図5図5は、実施例1にて測定した電流および電圧の波形を示す。
図6図6は、実施例2にて測定した電流および電圧の波形を示す。
図7図7は、実施例3にて測定した電流および電圧の波形を示す。
【符号の説明】
【0008】
1…回路保護デバイス、2…PTC素子、3…回路、4…バイメタルスイッチ、
6…電気要素、10,10’…リード、12…PTC素子、
16…バイメタルスイッチ、18,18’…接点、20…端子部分、
22…電極層、23…PTC要素、24…電極層、26,26’…絶縁層、
30…空間。
【発明を実施するための形態】
【0009】
バイメタルスイッチの接点間で溶着が生じることについて検討した結果、次のような考え方が可能であるとの結論に到った。但し、上述および後述の本発明は、発明者が実験的に確認した事実に基づくものである。従って、この考え方は、本発明を説明できる考え方の1つであり、この考え方の適否は、本発明の概念を不当に制限するものではない。
【0010】
バイメタルスイッチの接点が開く動作は、マクロ的には瞬間的な動作であるが、ミクロ的に見ると接点が離間する微小時間において徐々に離間する動作であると考えることができ、その微小時間の最初においては接点間で異常電流が流れ、その微小時間の最後においては接点間で電流が遮断されている。換言すれば、その微小時間の最初においては接点間の抵抗値が実質的にゼロの状態であり、その微小時間の最後においては接点間の抵抗値が無限大に増加している。従って、この微小時間内において、電流が流れ、抵抗値が大きく増加するので、接点間において電力が消費されることになる。
【0011】
他方、バイメタルスイッチの接点が溶着する現象は、過剰電圧および/または過剰電流が作用する結果として接点の温度が上昇することによって生じると考えることが可能である。従って、接点間で消費されるエネルギーが大量になると、溶着が生じる危険が増加することになる。
【0012】
そこで、発明者は、エネルギーの尺度として電力があることに鑑み、接点間における溶着の発生の有無は、上述の微小時間において接点間で消費される電力、特にその最大値を尺度として判断できるであろうとの考えに到った。この接点間での消費電力およびその最大値は、図1の回路を参照して、以下に説明するように算出される。
【0013】
図1において所定の回路Aを考える。通常、そのような回路には、意図する機能を発現するために、所定の電気装置(または部品)Bが組み込まれており、それは所定の抵抗値Rfを有する。また、回路に異常電圧が印加されるおよび/または異常電流が流れる場合に、回路を開くことができるように、バイメタルスイッチCが組み込まれている。そして、そのような回路には所定の電圧Eが印加されるようになっている。
【0014】
このように所定の回路は、電気装置Bに所定の電圧が印加され、また、所定の電流が流れるように構成されている。そのような電圧および電流は、それぞれ定格電圧Vrおよび定格電流Irと呼ばれている。この定格電圧および定格電流は、回路に電圧Vrを印加すると、電流Irが流れ、従って、その回路は、Vr/Irの抵抗値を有することを意味する。
【0015】
従って、Vr/Ir=Rfである場合、定格電圧および定格電流がそれぞれVrおよびIrであると呼ばれる回路は、図1において、E=Vrであり、抵抗値(Rf)としてVr/Irの抵抗値を有する電気装置が組み込まれている回路に相当する。即ち、図1に示す回路Aは、定格電圧および定格電流がそれぞれVrおよびIrである回路(但し、E=Vr、I=Ir)と等価であり、このような回路の固有抵抗値は、Vr/Irである。
【0016】
図1の回路において、回路には電圧Eが印加され、電気装置は抵抗値Rfを有し、バイメタルスイッチは接点間抵抗としてRbを有するものとする。また、電気装置に印加される電圧をVfとし、バイメタルスイッチの接点間の電圧をVbとする。
【0017】
この場合、回路Aを流れる電流をIとし、回路全体を考慮すると、
I=E/(Rf+Rb)
となる。
【0018】
バイメタルスイッチの接点間において消費される電力をPとすると、
P=I×Vbとなる。
【0019】
ここで、Vb=E−Vfであるので、
P=I×(E−Vf)
となる。
【0020】
尚、Vf=I×Rfであるので、
P=I×(E−I×Rf)=IE−I×Rf
となる。
【0021】
Iの関数として表された消費電力PをIで微分すると、
P’=E−2I×Rf
となる。
【0022】
消費電力が最大になる時、P’が0となるので、
P’=E−2I×Rf=0
となり、この時の電流値IをImaxとすると、
Imax=E/(2Rf)=(1/2)×(E/Rf)
となる。
【0023】
この時のVbをVmaxとすると、
Vmax=E−Vf=E−Imax×Rf
=E−[E/(2Rf)]×Rf=E/2
となる。
【0024】
ここで、E/Rfは、Rbがゼロの時に回路を流れる電流値に等しい。Rbがゼロになることは有り得ないが、Rfとの比較においてRbを実質的に無視できる場合、即ち、バイメタルスイッチの接点が十分に接触して閉じた状態にある場合は、Rf>>Rbとなるので、Rbが実質的にゼロであると仮定しても差し支えない。このような状態は、回路Aに電圧Eとして定格電圧Vrが印加され、定格電流Irが流れている状態であると考えることができる。
【0025】
従って、バイメタルスイッチの接点間の消費電力が最大になる時、
Imax=E/(2Rf)=(1/2)×(Vr/Rf)=(1/2)×Ir
Vmax=E/2=(1/2)×Vr
【0026】
従って、接点間の消費電力が最大になる時は、接点間を流れる電流は、定格電流の半分、即ち、Ir/2の電流値となり、また、接点間に印加される電圧は、定格電圧の半分、即ち、Vr/2の電圧値となる。
【0027】
要するに、回路保護デバイスとして所定の回路に直列に組み込まれたバイメタルスイッチの接点間の消費電力が最大になる時の電圧および電流は、その回路の定格電圧および定格電流のそれぞれ半分の値となる。従って、この時の接点間の抵抗値は(Vr/2)÷(Ir/2)=Vr/Ir=定格電圧/定格電流となる。換言すれば、この抵抗値は、回路の固有抵抗値である。
【0028】
この抵抗値付近では、接点間の消費電力が最大となり、その結果、接点間でアークが発生して接点が溶着する可能性が高まると推定されるため、この抵抗値(=Vr/Ir)を「アーク抵抗値」とも仮に呼ぶ。但し、本明細書において用いる用語「アーク抵抗値」は単に便宜的に用いるものであって、接点間におけるアークの発生と何等かの相関関係があるであろうと推定されるが、接点間でアークが発生する場合に、接点間の抵抗値がこのアーク抵抗値になっているであろうと必ずしも推定できるものではない点に留意すべきである。
【0029】
発明者は、更に検討を重ね、バイメタルスイッチに対して電気的に並列に接続するPTC素子の抵抗値がアーク抵抗値以下である場合、バイメタルスイッチの接点間で溶着が生じる可能性が低減されることを実験的に見出した。尚、ここで言及する「PTC素子の抵抗値」とは、PTC素子がバイメタルスイッチと並列に接続された後のPTC素子の(電気)抵抗値である。そのような「PTC素子の抵抗値」は、市販のPTC素子をバイメタルスイッチと接続するためにハンダを用いる場合、ハンダ接続による熱のために接続後のPTC素子は既に1回トリップした後(即ち、熱的にトリップした後)の状態にあり、そのような状態にあるPTC素子の抵抗値を本明細書では「PTC素子の抵抗値」と呼び、この抵抗値は、当該技術分野では「動作後抵抗値」とも呼ばれる。尚、PTC素子をバイメタルスイッチと接続するために電気溶接を用いる場合、PTC素子にはトリップするほどの熱が伝わらない場合が有り得る。そのような場合には、PTC素子に過電流が初めて流れてPTC素子が最初にトリップし(即ち、電気的にトリップし)、その後の抵抗値が上述の「動作後抵抗値」に相当する。従って、本発明において、「動作後抵抗値」は、市販のPTC素子が熱的または電気的に初めてトリップした後の抵抗値を意味する。ハンダ接続前のPTC素子(即ち、市販のPTC素子そのもの)は、そのような抵抗値よりも小さい抵抗値を有する(この小さい抵抗値は、当該分野では「基準抵抗値」とも呼ばれる)。
【0030】
先に説明したように、バイメタルスイッチとPTC素子が並列に接続された回路保護デバイスを所定の回路に組み込む場合、バイメタルスイッチが開くときに、バイメタルスイッチを経て流れていた電流をPTC素子に分流させることができる。例えば、PTC素子の抵抗値が回路の固有抵抗値(またはアーク抵抗値)の1.1倍以下である場合、好ましくは1.0倍以下である場合、より好ましくは0.9倍以下である場合、最も好ましくは0.4倍以下である場合、特に0.3倍以下である場合、より特に0.2倍以下、例えば0.15倍以下である場合、接点間における消費電力が最大となる時に、PTC素子が存在しない場合に接点間を流れるであろう電流の半分をPTC素子の方に分流できる。その結果、接点間でアークが発生する可能性は低減する。最も好ましい態様では、PTC素子の抵抗値が回路の固有抵抗値(またはアーク抵抗値)の0.2倍以下、例えば0.15倍以下である。尚、本発明の回路保護デバイスにおいて、PTC素子の基準抵抗値は、固有抵抗値(またはアーク抵抗値)の5分の4以下であるのが好ましく、3分の2以下であるのがより好ましく、例えば2分の1以下である。
【0031】
逆に、PTC素子の抵抗値が、回路のアーク抵抗値より大きい場合、例えば2倍である場合には、PTC素子を組み込んだにもかかわらず、アークが発生を十分に抑制することができず、溶着する場合がある。
【0032】
本発明の回路保護デバイスに於いて、回路保護デバイスに用いるバイメタルスイッチは、バイメタルを用いたスイッチであり、周知のものを使用できる。バイメタルスイッチを流れる電流が所定の電流値を越えて過剰になる時に、生じる熱の作用によって、相互に接触している接点が離間するように構成されているスイッチである。
【0033】
そのようなバイメタルスイッチの中でも、本発明の回路保護デバイスに用いるのが特に好ましいものは、例えば接点の材料として白金、金、銀、銅、カーボン、ニッケル、錫、鉛、およびこれらの金属の合金(例えば錫−鉛合金)を用いているものを挙げることができる。中でも、銀を接点の材料として用いたバイメタルスイッチが特に好ましい。尚、バイメタルスイッチの接点間の間隙が比較的狭いもの、好ましくは0.5〜4mmのもの、特に2mm以下のもの、より好ましくは0.7〜2mmのもの、特に好ましくは0.8〜1.5mmのもの、例えば1mm程度のものに本発明の回路保護デバイスを好適に使用できる。
【0034】
本発明の回路保護デバイスに於いて、バイメタルスイッチに対して並列に接続されるPTC素子は、回路保護デバイスとして自体用いられている常套のPTC素子であればよく、導電性要素がセラミックでできていても、あるいはポリマー材料でできていてもよい。特に好ましいPTC素子は、ポリマーPTC素子と呼ばれるものであり、ポリマー材料(例えばポリエチレン、ポリビニリデンフルオライド等)中に導電性フィラー(例えばカーボン、ニッケル、ニッケル−コバルトフィラー)が分散している導電性ポリマー要素を有して成るPTC素子を好適に使用できる。
【0035】
本発明の回路保護デバイスを所定の回路に組み込んで意図した機能を正常に果たす場合、回路を流れる電流はその実質的に全部がバイメタルスイッチを通過する。従って、本発明の回路保護デバイスにおいて、PTC素子の抵抗値は、バイメタルスイッチが本来有する電気抵抗値(通常は0.5〜20ミリオーム)の少なくとも10倍、好ましくは少なくとも50倍、より好ましくは少なくとも100倍、特に好ましくは少なくとも300倍の抵抗値を有する。
【0036】
図2に本発明の回路保護デバイス1を組み込んだ回路3を示す。回路3は、所定の電気要素(例えば電気/電子装置または部品等)6を有し、それに対して直列に回路保護デバイス1が接続されている。電気要素6は、1つの抵抗記号で示しているが、これは、1つの電気要素、または回路3に含まれる複数の電気要素の集合体を意味する。そのような電気要素の抵抗値はRfで示され、これは、回路3の固有抵抗値であり、具体的には回路3の定格電圧Vr/定格電流Irによって算出されるものである。尚、図2において、後述の実施例にて説明する測定のために、電流計Aおよび電圧計Vを組み込んだ状態で示す。
【0037】
本発明の回路保護デバイス1は、PTC素子2およびバイメタルスイッチ4を有して成り、これらが電気的に並列に接続されているか、あるいは電気的に並列に接続されていない場合には、そのように接続できるように構成されている。そして、PTC素子2の抵抗値は、回路3の固有抵抗値Rfの例えば1倍以下、好ましくは半分以下、より好ましくは3分の1以下、例えば4分の1以下、特に8分の1以下である。そして、バイメタルスイッチ4の本来の抵抗値の例えば少なくとも10倍、好ましくは少なくとも100倍の抵抗値をPTC素子12は有する。
【0038】
本発明の回路保護デバイス10のより具体的な形態の例を図3および図4にて模式的側面図で示す。
【0039】
図3は、電気回路(電気回路のリード10および10’のみを図示)に組み込まれた、PTC素子12およびバイメタルスイッチ16を有する本発明の回路保護デバイスにおいて、バイメタルスイッチが作動して接点が開く前および後の様子(それぞれ図3(a)および図3(b))を示す。リード10および10’は、それぞれ端部に端子部分20および20’を有する。端子部分20は、バイメタルスイッチの端子部分17に接続されている。電気回路が正常に作動して適切な電流が流れている場合、即ち、バイメタルスイッチ16を介して電流が流れている場合、図3(a)に示すように、端子部分20’はバイメタルスイッチ16の接点18と接触した状態にある。この場合、実質的に全て(あるいは大部分)の電流は、リード10からバイメタル16を経てリード10’へと流れる。
【0040】
図示した態様において、PTC素子12は、PTC要素23およびその両側に配置した電極層22および24を有して成り、PTC素子12とリードとの間には絶縁層26が存在する。PTC要素およびその両側の電極層については、周知のPTC要素に採用されているものと同様であってよく、電極層は、その外側表面にリードを有してもよい。この場合、図示するPTC要素23の代えて、PCT要素がその両側に位置する電極層(好ましくは金属箔電極)と一体となってPTC素子を形成し、また、図示する電極層22および24の代えて、上述の外側表面に位置するリードを形成し、これらのリード10および10‘に接続される。このように、PTC素子12とバイメタルスイッチ16とを電気回路に組み込むことによって、これらが電気的に並列の関係で接続された電気回路を構成する。尚、図示した態様では、バイメタルスイッチ16とリード10’との間に別の絶縁層26’が配置されている。
【0041】
電気回路に異常電流が流れてバイメタルスイッチ16の温度が上昇すると、図3(b)に示すように、接点18とリードの端子部分20’との接触状態が解除される。この時、電気回路を流れている電流は、瞬間的に、リード10からPTC素子の電極層22に流れ、その後、PTC要素23および電極層24を経てリード10’に分流する。この場合、PTC素子の動作後抵抗値が回路の固有抵抗値の1.1倍以下であると、バイメタルスイッチが開いた瞬間に、異常電流の比較的大きい割合をPTC素子の方に分流できるので、バイメタルスイッチの接点付近でのアークの発生、溶着の発生等の可能性が大幅に軽減される。その後、PTC素子はトリップ状態となり、電流の流れを実質的に遮断する。
【0042】
尚、図3において、本発明の回路保護デバイスを包囲する破線は、回路保護デバイスを包囲する要素、例えばケーシング、ハウジング等を意味する。本発明の保護デバイスは、そのような要素を更に有するのが好ましく、異常電流によって生じたバイメタルスイッチおよびPTC素子からの熱の発散を防止し、バイメタルスイッチのラッチ状態を保持するのに有用である。また、図示した態様では、PTC素子12とバイメタルスイッチ16とが比較的狭い空間30を隔てた隣接状態にあるので、異常電流によってPTC素子がトリップした時の熱の影響をバイメタルスイッチに及ぼし易いのでバイメタルスイッチのラッチ状態を保持するのに有利である。
【0043】
図4に、更に別の態様の本発明の回路保護デバイス(但し、バイメタルスイッチが作動する前の状態)を示す。この態様では、バイメタルスイッチ16とPTC素子とが離間した状態にある。バイメタルスイッチ16とPTC素子12との間にリード10’ならびに絶縁層26および26’が存在し、その結果、図3の態様と比較すると、PTC素子12とバイメタルスイッチ16とがより離れているので、バイメタルスイッチが先に説明した熱の影響を受けにくいが、バイメタル素子とPTC素子を、単純に重ね合わせた構造であるため、生産性の点で有利である。
【実施例1】
【0044】
下記の市販のPTC素子、バイメタルスイッチおよび電気要素(抵抗器、抵抗値Rf=2.67Ωを)用いて図2に示す回路保護デバイスを組み込んだ回路を構成した。
PTC素子:タイコエレクトロニクスレイケム社製、商品名:RXE010、基準抵抗値:2.6Ω、動作後抵抗値:4.21Ω
バイメタルスイッチ:センサータ・テクノロジーズ社製、商品名:サーマルプロテクタ9700K21−215、接点間隔:1mm、バイメタルスイッチの抵抗値:11.6mΩ
【0045】
バイメタルスイッチの最大接点定格の2倍のDC48V/18A印加して、その時の電流(バイメタルスイッチを流れる電流値)および電圧(バイメタルスイッチの両端の電圧、即ち、バイメタルスイッチにおける降下電圧)の波形を、図2に示す回路に組み込んだ電流計Aおよび電圧計Vによって測定した。測定した電流および電圧の波形を図5に示す(但し、振動する波形を平滑化して示す)。図5のグラフにおいて、縦軸は電圧または電流値であり、それぞれの一目盛り(両端矢印の長さ)当たり、5Aおよび10Vであり、横軸は、時間であり、一目盛りは40msである。
【0046】
図5から、バイメタルスイッチの接点開放動作開始時(時刻=0)から約146ms経過した後に、接点開放動作前の電流値・電圧値に戻っていたことが分かる。従って、本実施例では、回路保護デバイスはその機能を発揮しなかった。尚、バイメタルスイッチを調べたところ、接点にて溶着していた。
【実施例2】
【0047】
使用した市販のPTC素子を下記の他のPTC素子に変更した以外は、実施例1を繰り返した。
【0048】
PTC素子:タイコエレクトロニクスレイケム社製、商品名:RXE025、基準抵抗値:1.5Ω、動作後抵抗値:2.31Ω)
測定した電流および電圧の波形を図6に示す。図6のグラフにおいて、縦軸は電圧または電流値であり、それぞれの一目盛り(両端矢印の長さ)当たり、5Aおよび10Vであり、横軸は時間であり、一目盛りは100μsである。
【0049】
図6から、バイメタル素子に通電される電流が瞬時に低減され、言い換えればPTC素子に転流されていることが分かる。従って、本実施例では、回路保護デバイスはその機能を発揮した
【実施例3】
【0050】
使用した市販のPTC素子を下記の他のPTC素子に変更した以外は、実施例1を繰り返した:
PTC素子:タイコエレクトロニクスレイケム社製、商品名:RXE040、基準抵抗値:0.67Ω、動作後抵抗値:1.02Ω)
測定した電流および電圧の波形を図7に示す。図7のグラフにおいて、縦軸は電圧または電流値であり、それぞれの一目盛り(両端矢印の長さ)当たり、5Aおよび10Vであり、横軸は時間であり、一目盛りは100μsである。
【0051】
図7から、バイメタル素子に通電される電流が瞬時に低減され、言い換えればPTC素子に転流されていることが分かる。従って、本実施例では、回路保護デバイスはその機能を発揮した。
【実施例4】
【0052】
使用した市販のPTC素子を下記の他のPTC素子に変更し、定格電圧/電流を48VDC/20A(従って固有抵抗値を2.4Ω)とした以外は、実施例1を繰り返した:
PTC素子:タイコエレクトロニクスレイケム社製、商品名:RXE135、基準抵抗値:0.18Ω、動作後抵抗値:0.3Ω)
【0053】
本実施例においても、実施例3と同様の電流および電圧の測定結果が得られた。従って、本実施例では、回路保護デバイスはその機能を発揮した。
【実施例5】
【0054】
使用した市販のPTC素子を下記の他のPTC素子に変更した以外は、実施例1を繰り返した:
PTC素子:タイコエレクトロニクスレイケム社製、商品名:RXE020、基準抵抗値:1.8Ω、動作後抵抗値:2.82Ω)
【0055】
本実施例においても、実施例3と同様の電流および電圧の測定結果が得られた。従って、本実施例では、回路保護デバイスはその機能を発揮した。
【0056】
上記実施例の結果を以下の表1にまとめる:
【0057】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の回路保護デバイスは、バイメタルスイッチの接点付近におけるアークの発生および溶着の発生の可能性を低減できる。
【0059】
当業者に知られているように、バイメタルスイッチは、熱に基づいて接点が開くように作用するスイッチであり、感熱材料であるバイメタル素子と少なくとも1対の機械的接点とを有して成る。従って、当業者であれば、上述の記載に基づいて、本発明の回路保護デバイスにおいて、バイメタルスイッチに代えて、他の機械的接点開閉器、例えばリレー(特に電磁式リレー)を用いることができることが理解できよう。
【0060】
従って、最も広い概念において、本発明は、機械的接点開閉器(例えばリレー、バイメタルスイッチ等)およびPTC素子を有して成る回路保護デバイスをも提供し、このデバイスは、
機械的接点開閉器とPTC素子とは、電気的に並列に接続され、
PTC素子は、回路保護デバイスを組み込むべき電気回路の定格電圧および定格電流に基づいて式(1):
定格電圧/定格電流=固有抵抗値 (1)
によって算出される回路の固有抵抗値の1.1倍以下の動作後抵抗値を有することを特徴とする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7