特許第5752355号(P5752355)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5752355トランスジェニック(Tg)非ヒト動物における体液性免疫応答を向上させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5752355
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】トランスジェニック(Tg)非ヒト動物における体液性免疫応答を向上させる方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20150702BHJP
   A01K 67/027 20060101ALN20150702BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   !A01K67/027
【請求項の数】21
【全頁数】74
(21)【出願番号】特願2009-537748(P2009-537748)
(86)(22)【出願日】2007年11月23日
(65)【公表番号】特表2010-510773(P2010-510773A)
(43)【公表日】2010年4月8日
(86)【国際出願番号】IB2007054770
(87)【国際公開番号】WO2008062383
(87)【国際公開日】20080529
【審査請求日】2010年11月22日
【審判番号】不服2014-6612(P2014-6612/J1)
【審判請求日】2014年4月10日
(31)【優先権主張番号】P0600870
(32)【優先日】2006年11月24日
(33)【優先権主張国】HU
(31)【優先権主張番号】P0700534
(32)【優先日】2007年8月14日
(33)【優先権主張国】HU
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509144225
【氏名又は名称】ナショナル アグリカルチュラル リサーチ アンド イノベーション センター
(73)【特許権者】
【識別番号】509144236
【氏名又は名称】エトヴェシュ ロラーンド ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】ジュジャンナ・ボーツェ
(72)【発明者】
【氏名】イムレ・カーチュコヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ユディット・サーベナック
(72)【発明者】
【氏名】ラスロ・ヒリピ
(72)【発明者】
【氏名】バラージュ・ベンダー
【合議体】
【審判長】 鈴木 恵理子
【審判官】 飯室 里美
【審判官】 高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平3−173899(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/087811(WO,A2)
【文献】 2nd European Veterinary Immunology Workshop : Program and Bool of Abstracts、2006.9、p.47、PS3−04
【文献】 FEBS Journal、2005、Vol.272、No.Suppl.1、p.288
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00
A01K67/027
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/WPIX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスジェニック(Tg)非ヒト動物において、同一種の非トランスジェニック対照動物に比べて、抗原に対する体液性免疫応答を向上させる方法であって、
向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を前記非ヒト動物に導入し、前記抗原を前記動物に投与することを含み、
前記遺伝子構築物がFcRnタンパク質のα鎖をコードする核酸配列の発現を提供し、
前記体液性免疫応答の向上が、抗原特異的なB細胞のクローンの増殖の向上を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
体液性免疫応答の向上が、抗原による免疫感作時の免疫グロブリン産生レベルを向上させることを含み、前記免疫グロブリンに特異的な親和性を有するFcRnが前記免疫感作時に前記動物によって産生される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
体液性免疫応答の向上が、好中球の二次リンパ器官への流入を刺激することを含む、請求項1から2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
体液性免疫応答の向上が、樹状細胞及びマクロファージの少なくともいずれかの二次リンパ器官への流入を刺激することを含む、請求項1から2のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
二次リンパ器官が脾臓を含む、請求項3から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
抗原が弱免疫原である、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
Tg非ヒト動物が哺乳動物である、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
哺乳動物がげっ歯類である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
げっ歯類がマウスである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
哺乳動物がウサギである、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物がウシ、ブタ、ラクダ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ロバ及びウマからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
哺乳動物が、モノクローナル抗体産生に有用な系統及びモノクローナル抗体産生により適するように遺伝子的に改変された系統のいずれかから得られる、請求項7から10のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
哺乳動物が、ポリクローナル抗体産生に有用な系統又はポリクローナル抗体産生により適するように遺伝子的に改変された系統から得られる、請求項7から11のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
体液性免疫応答の向上が、抗原による免疫感作時の免疫グロブリン産生レベルを向上させることを含み、前記免疫グロブリンがIgGである、請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
体液性免疫応答の向上が、抗原による免疫感作時の免疫グロブリン産生レベルを向上させることを含み、前記免疫グロブリンがIgMである、請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
Tg非ヒト動物がヒト又はヒト化免疫グロブリンの産生のために形質転換されている、請求項1から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
FcRnタンパク質のα鎖をコードする核酸配列が突然変異している、請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
突然変異によりFcRnタンパク質のアルブミン結合部位の機能が失われる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
核酸配列がキメラFcRnタンパク質をコードする、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
向上したFcRn活性が、FcRnをコードする核酸配列の一個より大の機能的コピーを動物のゲノムに組み込むことにより提供される、請求項1から19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
遺伝子構築物がBACクローン#128E04のウシのインサート及びBACクローン#262E02のウサギのインサートのいずれかを含む、請求項1から20のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫学分野に関する。より詳細には、本発明は、同一種の非トランスジェニック対照動物に比べて、抗原に対して向上した体液性免疫応答を発現することができるトランスジェニック(Tg)非ヒト動物の作製方法であって、向上したMHCクラスI関連新生児型Fc受容体(FcRn)活性を提供する遺伝子構築物を前記非ヒト動物に導入することを含む作製方法を提供する。本発明はまた、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を含むTg非ヒト動物及びこれら動物の非治療的方法における使用を提供する。本発明はまた、治療用遺伝子構築物及び治療方法を提供する。更に本発明は免疫グロブリンの製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
抗原応答に際しては、Bリンパ球は形質細胞となり、抗原による攻撃から約1〜2週間でピークに達する特異的体液性免疫反応に至る。抗原との2度目の遭遇の際には、該抗原に対する親和性が向上した抗体が分泌され、特異的血清抗体価のピークが上昇し、更に血清中の抗体レベルは持続性のあるものとなる。特異的血清抗体レベルの維持には、形質細胞による継続的なIg分泌が必要であると共に、これらの早期排出を防ぐ必要がある。IgM、IgA及びIgEが比較的早く体内から排出されるのに対して、IgGの血清中の半減期は長い。1958年、Brambellは母性IgGの輸送を仲介する可飽和受容体系(saturable receptor system)について述べ(非特許文献1)、更に、IgGを異化作用から保護することによりその寿命を全血漿タンパク質の中で最も長いものとする、同様又は同一の受容体が存在することを予測した(非特許文献2)。結局、このBrambell受容体(FcRB)は、出産前及び/又は新生児期におけるIgGの伝達を仲介する(この場合はFcRn(新生児型Fc受容体)と称される)と共に、IgGの異化作用からの保護も仲介することが示された(非特許文献3)。
【0003】
FcRnは、新生児の腸を介して母体から新生児に母性免疫グロブリンを伝達する受容体として、げっ歯類で初めて同定された(非特許文献4及び5)。SimisterとMostovによる新生児ラットの腸に関する初期の記載(非特許文献6)以来、種々の研究により、各種起源の細胞内及び細胞間でのIgG輸送の調節においてFcRnが中心的役割を果たしていることが示された(非特許文献7〜13)。FcRnはまた、血清中最も量の多い2種の可溶性タンパク質であるIgGとアルブミンが分解されないようにし、これらの半減期を延ばす役割もする(非特許文献14〜16)。このメカニズムは、血管の内側を覆う内皮細胞により主に仲介されていると当初考えられていたが(非特許文献17)、最近の知見から、このプロセスは他の細胞においても進行することが示唆されている(非特許文献18及び19)。これらの細胞内において、FcRnは主に初期/リサイクルエンドソーム中に存在し、ここで、液相エンドサイトーシスにより取込まれたIgGとアルブミンに遭遇する。エンドソームの酸性環境により相互作用が促進される。結合したIgGとアルブミンは再度表面に戻され細胞から放出されるが、結合しなかったリガンドは下流に送られリソソームにより分解される(非特許文献20及び21)。より最近のデータは、IgGにより仲介されるファゴサイトーシスにおいてFcRnが主要な役割を果たすという新たな概念を支持するものである(非特許文献22)。
【0004】
この機能性FcRn分子は、MHCクラスI様のα鎖(又は重鎖)とベータ2−ミクログロブリン(β2m;別名:軽鎖)から構成されるヘテロダイマーであり(非特許文献6)結合部位は異なるものの(非特許文献23及び6)pH依存的に(非特許文献20及び24)IgGとアルブミンに結合する。
【0005】
FcRnは各種哺乳動物種からクローン化されており、例えばラット(非特許文献6)、マウス(非特許文献25)、ヒト(非特許文献26)、ウシ(非特許文献27)、フクロネズミ(非特許文献28)、ヒツジ(非特許文献29)、ブタ(非特許文献30及び31)、ラクダとイヌ(非特許文献32)からクローン化されている。より最近になって、本発明者らはウサギのFcRnα鎖をクローン化し特性評価した。FcRnによって実現される機能の殆どはマウスの場合において記述されてきたが、他の哺乳動物を用いた研究から、IgGの異化におけるFcRnの役割は研究対象としたいずれの哺乳動物においても極めて重要であることが示唆されている(例えば、げっ歯類、ヒト、霊長類(非特許文献33)、ブタ(非特許文献34)、ウシ(非特許文献35))。
【0006】
最近、2種の異なるモデルマウスにおいて、ウシFcRnα鎖(bFcRn)を過剰発現させることにより、これら動物のマウスIgGの半減期が顕著に延びたことが示され(非特許文献36及び19)、これは、bFcRnがマウスβ2m(mβ2m)と機能的複合体を形成すること、そしてこの機能的複合体がマウス及びヒトIgGに結合することを示している。本発明者らはまた、bFcRnをトランスジェニック(Tg)マウスに過剰発現させることにより(非特許文献36)、免疫感作時にこれら動物が抗原特異的IgG、IgM産生レベルを顕著に向上させることができることを見出した。
【0007】
本願の優先日より先の出願ではあるが本願優先日後に公開された特許文献1はモノクローナル抗体の調製について開示しており、これはFcRnの遺伝子をコードする核酸を抗体産生細胞にトランスフェクトするものである。この遺伝子改変細胞はFcRnを発現し抗体産生が向上する。この著者らは、トランスジェニック動物の作製とその動物そのものの提供のいずれにおいてもそれを可能とする開示はしていないが、血中抗体レベルをアップレギュレートするために、FcRnをコードする核酸の少なくとも一の(追加の)コピーを有する非ヒト動物の各種利点について言及している。しかしながら、この教示は明らかに理論上のものでしかなく、またインビボ(例えば、マウスの腹水)でのモノクローナル抗体産生に着目した記述に基づいている。従って、免疫応答の向上という点でのFcRn過剰発現の利点については示されてはいなかった。
【0008】
依然として本技術分野においては、診断用、研究用及び治療用免疫グロブリンを大量且つ高品質で提供するための改良が必要であることは明らかである。この必要性を満たすために、本発明は、抗原接種に対し応答した結果、大幅に向上した特異的体液性免疫反応レベルを示すトランスジェニック動物を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2007/061292号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Brambell F.W.R.(1958)The passive immunity of the young mammal.Biological Reviews 33,488−531.
【非特許文献2】Brambell F.W.R.,Hemmings W.A.and Morris I.G.(1964) A theoretical model of gammaglobulin catabolism.Nature 203, 1352−1355.
【非特許文献3】Junghans R.P.(1997)Finally! The Brambell receptor (FcRB).Mediator of transmission of immunity and protection from catabolism for IgG.Immunol Res 16,29−57.
【非特許文献4】Rodewald R.(1976) pH−dependent binding of immunoglobulins to intestinal cells of the neonatal rat. J Cell Biol 71, 666−9.
【非特許文献5】Simister N. E. and Rees A. R. (1985) Isolation and characterization of an Fc receptor from neonatal rat small intestine. Eur J Immunol 15, 733−8.
【非特許文献6】Simister N. E. and Mostov K. E. (1989) An Fc receptor structurally related to MHC class I antigens. Nature 337, 184−7.
【非特許文献7】Antohe F., Radulescu L., Gafencu A., Ghetie V. and Simionescu M. (2001) Expression of functionally active FcRn and the differentiated bidirectional transport of IgG in human placental endothelial cells. Hum Immunol 62, 93−105.
【非特許文献8】Claypool S. M., Dickinson B. L., Wagner J. S., Johansen F. E., Venu N., Borawski J. A., Lencer W. I. and Blumberg R. S. (2004) Bidirectional transepithelial IgG transport by a strongly polarized basolateral membrane Fcgamma−receptor. Mol Biol Cell 15, 1746−59.
【非特許文献9】Dickinson B. L., Badizadegan K., Wu Z., Ahouse J. C., Zhu X., Simister N. E., Blumberg R. S. and Lencer W. I. (1999) Bidirectional FcRn−dependent IgG transport in a polarized human intestinal epithelial cell line. J Clin Invest 104, 903−11.
【非特許文献10】Kobayashi N., Suzuki Y., Tsuge T., Okumura K., Ra C. and Tomino Y. (2002) FcRn−mediated transcytosis of immunoglobulin G in human renal proximal tubular epithelial cells. Am J Physiol Renal Physiol 282, F358−65.
【非特許文献11】McCarthy K. M., Yoong Y. and Simister N. E. (2000) Bidirectional transcytosis of IgG by the rat neonatal Fc receptor expressed in a rat kidney cell line: a system to study protein transport across epithelia. J Cell Sci 113, 1277−85.
【非特許文献12】Ober R. J., Martinez C., Lai X., Zhou J. and Ward E. S. (2004) Exocytosis of IgG as mediated by the receptor, FcRn: an analysis at the single−molecule level. Proc Natl Acad Sci U S A 101, 11076−81.
【非特許文献13】Spiekermann G. M., Finn P. W., Ward E. S., Dumont J., Dickinson B. L., Blumberg R. S. and Lencer W. I. (2002) Receptor−mediated immunoglobulin G transport across mucosal barriers in adult life: functional expression of FcRn in the mammalian lung. J Exp Med 196, 303−10.
【非特許文献14】Ghetie V., Hubbard J. G., Kim J. K., Tsen M. F., Lee Y. and Ward E. S. (1996) Abnormally short serum half−lives of IgG in beta 2−microglobulin−deficient mice. Eur J Immunol 26, 690−6.
【非特許文献15】Israel E. J., Wilsker D. F., Hayes K. C., Schoenfeld D. and Simister N. E. (1996) Increased clearance of IgG in mice that lack beta 2−microglobulin: possible protective role of FcRn. Immunology 89, 573−8.
【非特許文献16】Junghans R. P. and Anderson C. L. (1996) The protection receptor for IgG catabolism is the beta2−microglobulin−containing neonatal intestinal transport receptor. Proc Natl Acad Sci U S A 93, 5512−6.
【非特許文献17】Borvak J., Richardson J., Medesan C., Antohe F., Radu C., Simionescu M., Ghetie V. and Ward E. S. (1998) Functional expression of the MHC class I−related receptor, FcRn, in endothelial cells of mice. Int Immunol 10, 1289−98.
【非特許文献18】Akilesh S., Christianson G. J., Roopenian D. C. and Shaw A. S. (2007) Neonatal FcR Expression in Bone Marrow−Derived Cells Functions to Protect Serum IgG from Catabolism. J Immunol 179, 4580−8.
【非特許文献19】Lu W., Zhao Z., Zhao Y., Yu S., Zhao Y., Fan B., Kacskovics I., Hammarstrom L. and Li N. (2007) Over−expression of the bovine FcRn in the mammary gland results in increased IgG levels in both milk and serum of transgenic mice. Immunology 122, 401−8.
【非特許文献20】Anderson C. L., Chaudhury C., Kim J., Bronson C. L., Wani M. A. and Mohanty S. (2006) Perspective − FcRn transports albumin: relevance to immunology and medicine. Trends Immunol 27, 343−8.
【非特許文献21】Roopenian D. C. and Akilesh S. (2007) FcRn: the neonatal Fc receptor comes of age. Nat Rev Immunol 7, 715−25.
【非特許文献22】Vidarsson G., Stemerding A. M., Stapleton N. M., Spliethoff S. E., Janssen H., Rebers F. E., de Haas M. and van de Winkel J. G. (2006) FcRn: an IgG receptor on phagocytes with a novel role in phagocytosis. Blood 108, 3573−9.
【非特許文献23】Chaudhury C., Mehnaz S., Robinson J. M., Hayton W. L., Pearl D. K., Roopenian D. C. and Anderson C. L. (2003) The Major Histocompatibility Complex−related Fc Receptor for IgG (FcRn) Binds Albumin and Prolongs Its Lifespan. The Journal of Experimental Medicine 197, 315−322.
【非特許文献24】Chaudhury C., Brooks C. L., Carter D. C., Robinson J. M. and Anderson C. L. (2006) Albumin binding to FcRn: distinct from the FcRn−IgG interaction. Biochemistry 45, 4983−90.
【非特許文献25】Ahouse J. J., Hagerman C. L., Mittal P., Gilbert D. J., Copeland N. G., Jenkins N. A. and Simister N. E. (1993) Mouse MHC class I−like Fc receptor encoded outside the MHC. J Immunol 151, 6076−88.
【非特許文献26】Story C. M., Mikulska J. E. and Simister N. E. (1994) A major histocompatibility complex class I−like Fc receptor cloned from human placenta: possible role in transfer of immunoglobulin G from mother to fetus. J Exp Med 180, 2377−81.
【非特許文献27】Kacskovics I., Wu Z., Simister N. E., Frenyo L. V. and Hammarstrom L. (2000) Cloning and characterization of the bovine MHC class I−like Fc receptor. J Immunol 164, 1889−97.
【非特許文献28】Adamski F. M., King A. T. and Demmer J. (2000) Expression of the Fc receptor in the mammary gland during lactation in the marsupial Trichosurus vulpecula (brushtail possum). Mol Immunol 37, 435−44.
【非特許文献29】Mayer B., Zolnai A., Frenyo L. V., Jancsik V., Szentirmay Z., Hammarstrom L. and Kacskovics I. (2002) Redistribution of the sheep neonatal Fc receptor in the mammary gland around the time of parturition in ewes and its localization in the small intestine of neonatal lambs. Immunology 107, 288−96.
【非特許文献30】Schnulle P. M. and Hurley W. L. (2003) Sequence and expression of the FcRn in the porcine mammary gland. Vet Immunol Immunopathol 91, 227−31.
【非特許文献31】Zhao Y., Kacskovics I., Zhao Z. and Hammarstrom L. (2003) Presence of the di−leucine motif in the cytoplasmic tail of the pig FcRn alpha chain. Vet Immunol Immunopathol 96, 229−33.
【非特許文献32】Kacskovics I., Mayer B., Kis Z., Frenyo L. V., Zhao Y., Muyldermans S. and Hammarstrom L. (2006b) Cloning and characterization of the dromedary (Camelus dromedarius) neonatal Fc receptor (drFcRn). Dev Comp Immunol 30, 1203−15.
【非特許文献33】Ghetie V. and Ward E. S. (2002) Transcytosis and catabolism of antibody. Immunol Res 25, 97−113.
【非特許文献34】Harmsen M. M., Van Solt C. B., Fijten H. P. and Van Setten M. C. (2005) Prolonged in vivo residence times of llama single−domain antibody fragments in pigs by binding to porcine immunoglobulins. Vaccine 23, 4926−34.
【非特許文献35】Kacskovics I., Kis Z., Mayer B., West A. P., Jr., Tiangco N. E., Tilahun M., Cervenak L., Bjorkman P. J., Goldsby R. A., Szenci O. and Hammarstrom L. (2006a) FcRn mediates elongated serum half−life of human IgG in cattle. Int Immunol 18, 525−36.
【非特許文献36】Bender B., Bodrogi L., Mayer B., Schneider Z., Zhao Y., Hammarstrom L., Eggen A., Kacskovics I. and Bosze Z. (2007) Position independent and copy−number−related expression of the bovine neonatal Fc receptor alpha−chain in transgenic mice carrying a 102 kb BAC genomic fragment. Transgenic Res 16, 613−27.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
驚くべきことに、(ウシFCGRT遺伝子にコードされている)ウシFcRnα鎖をコピー数依存的に過剰発現させたBACTgマウスにおいて、ウシFcRnα鎖がマウスβ2mと機能的複合体を形成して体外から投与されたマウス及びヒトのIgGの半減期を顕著に向上させただけではなく、免疫感作時にこれらトランスジェニック動物がその野生型コントロールに比べて大幅に向上した体液性免疫応答を示したことが見出された。抗原特異的抗体の大部分はIgGであったが、IgM価もまた二次免疫応答時に上昇した。考えうる理由について分析したところ、本発明者らは、bFcRnトランスジェニックマウスがその野生型コントロールに比べて、免疫感作時に抗原特異的B細胞と樹状細胞の数が大幅に増加していること、二次リンパ器官に好中球が大量に流入していることを見出した。また、野生型コントロールにおいても顕著なものではないにせよ同様の変化が見られたことは注目に値する。以上より、bFcRnTg動物における抗原特異的IgGとIgMレベルの上昇は、IgGの保護が改善されたということのみによるのではなく、抗原特異的なB細胞のクローンの増殖が盛んになり、その野生型コントロールに比べて免疫グロブリンの合成がより安定的に行われたことの結果でもあることが示された。これらの結果は免疫応答におけるFcRnの新たな役割を指摘している。本発明は、通常の動物には見られない、FcRnを顕著に過剰発現させた状態が、免疫感作時の免疫応答に対して大きな効果を有し、これにより各種抗原に対する種々の抗体を産生するのに特に有用である系が形成されることを初めて開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って本発明は、同一種の非トランスジェニック対照動物に比べて、抗原に対して向上した体液性免疫応答を発現することができるトランスジェニック(Tg)非ヒト動物の作製方法であって、向上したMHCクラスI関連新生児型Fc受容体(FcRn)活性を提供する遺伝子構築物を前記非ヒト動物に導入することを含む方法を提供する。
【0013】
本発明は他のアスペクトにおいて、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を含むTg非ヒト動物であって、
前記動物がFVB/Nマウスである場合には、前記遺伝子構築物はバクテリア人工染色体(BAC)クローン#128E04のウシのインサートの全部は含まず、
前記FcRnがヒトFcRn(hFcRn)である場合には、前記遺伝子構築物は10kbの5’フランキング配列と10kbの3’フランキング配列とを有する完全hFcRn遺伝子を含む33kbのヒトコスミドクローンと;サイトメガロウィルス(CMV)エンハンサーとトリβ−アクチンプロモーターとを有し、且つクローン化されたhFcRnα鎖を有するベクターEと;ヒト由来BACライブラリーから取得した完全hFcRn遺伝子を含む34kbXhoI断片のいずれでもなく、
前記FcRnがウシFcRn(bFcRn)である場合には、前記遺伝子構築物はbFcRnのα鎖をコードする配列を含む、pBC1−bFcRnのNotI−SalI断片と;bFcRnの軽鎖をコードする、pBC1−bb2mのNotI−SalI断片のいずれでもなく、
前記FcRnがネズミ科のFcRn(mFcRn)である場合には、前記遺伝子構築物はIFABP−mFcRnとIFABP−mb2mのいずれでもない、Tg非ヒト動物を提供する。
【0014】
本発明はその更なるアスペクトにおいて、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を含むTg非ヒト動物の非治療的方法における使用であって、目的の抗原に対する向上した体液性免疫応答を前記動物に発現させるステップを含む使用を提供する。
【0015】
本発明は更に他のアスペクトにおいて、免疫グロブリンの製造を可能とする確立された任意のプロトコールに従って、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を含むTg動物を使用するステップを含む、免疫グロブリンを製造する方法を提供する。
【0016】
好ましい実施形態においては、本発明は、体液性免疫応答の前記向上が、抗原による免疫感作時の免疫グロブリン産生レベルを向上させることを含み、前記免疫グロブリンに特異的な親和性を有するFcRnが前記免疫感作時に前記動物によって産生される、方法、使用又は動物を提供する。
【0017】
好ましい実施形態においては、本発明は、体液性免疫応答の前記向上が抗原特異的なB細胞のクローンの増殖の向上を含む方法、使用又は動物を提供する。
【0018】
好ましい実施形態においては、本発明は、体液性免疫応答の前記向上が好中球の二次リンパ器官への流入を刺激することを含む方法、使用又は動物を提供する。
【0019】
好ましい実施形態においては、本発明は、体液性免疫応答の前記向上が樹状細胞及び/又はマクロファージの二次リンパ器官への流入を刺激することを含む方法、使用又は動物を提供する。
【0020】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記二次リンパ器官が脾臓を含む方法、使用又は動物を提供する。
【0021】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記抗原が弱免疫原である方法、使用又は動物を提供する。
【0022】
本発明は他のアスペクトにおいて、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を含むTg動物を使用することを含む免疫グロブリン製造方法であって、前記Tg動物が、同一種の非トランスジェニック対照動物に比べてより少ない抗原接種回数でこれと同一レベルの体液性免疫応答を発現するように、適用されるプロトコールを調整する少なくとも一のステップを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0023】
本発明は更に他のアスペクトにおいて、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を含むTg動物を使用することを含む免疫グロブリン製造方法であって、前記Tg動物が、同一種の非トランスジェニック対照動物に比べてより早くこれと同一レベルの体液性免疫応答を発現するように、適用されるプロトコールを調整する少なくとも一のステップを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0024】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記動物が哺乳動物である方法、使用又は動物を提供する。
【0025】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記動物がげっ歯類である方法、使用又は動物を提供する。
【0026】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記げっ歯類がマウスである方法、使用又は動物を提供する。
【0027】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記哺乳動物がウサギである方法、使用又は動物を提供する。
【0028】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記哺乳動物がウシ、ブタ、ラクダ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ロバ及びウマから成る群から選択される方法、使用又は動物を提供する。
【0029】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記トランスジェニック哺乳動物が、モノクローナル抗体産生に有用な系統又はモノクローナル抗体産生により適するように遺伝子的に改変された系統から得られる方法、使用又は動物を提供する。
【0030】
本発明は他のアスペクトにおいて、本発明に係る動物から得られる細胞から作製されるか、又は本発明に係る方法若しくは使用に従って作製される若しくは使用される動物から得られる細胞から作製されることを特徴とするハイブリドーマ細胞株を提供する。
【0031】
本発明は他のアスペクトにおいて、本発明に係る方法、使用又は動物により産生されることを特徴とするモノクローナル抗体を提供する。
【0032】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記トランスジェニック動物が、ポリクローナル抗体産生に有用な系統又はポリクローナル抗体産生により適するように遺伝子的に改変された系統から得られる方法、使用又は動物を提供する。
【0033】
本発明は他のアスペクトにおいて、本発明に係る方法、使用又は動物により産生されることを特徴とするポリクローナル抗体を提供する。
【0034】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記免疫グロブリンがIgGである方法、使用又は動物を提供する。
【0035】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記免疫グロブリンがIgMである方法、使用又は動物を提供する。
【0036】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記動物がヒト又はヒト化免疫グロブリンの産生のために形質転換されている方法、使用又は動物を提供する。
【0037】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記遺伝子構築物がFcRnタンパク質のα鎖をコードする核酸配列の発現を提供する方法、使用又は動物を提供する。
【0038】
好ましい実施形態においては、本発明は、FcRnタンパク質のα鎖をコードする前記核酸配列が突然変異している方法、使用又は動物を提供する。
【0039】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記突然変異により前記FcRnタンパク質のアルブミン結合部位の機能が失われる方法、使用又は動物を提供する。
【0040】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記核酸配列がキメラFcRnタンパク質をコードする方法、使用又は動物を提供する。
【0041】
本発明は他のアスペクトにおいて、本発明に係るTg動物又は本発明に係る方法によって得られるTg動物から得られる動物繁殖材料であって、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を含むことを特徴とする動物繁殖材料を提供する。
【0042】
好ましい実施形態においては、本発明は、精子、精原細胞、卵子、卵巣組織、胚及び体細胞クローニング用組織サンプルから成る群から選択される動物繁殖材料を提供する。
【0043】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記向上したFcRn活性が、前記FcRnをコードする核酸配列の一個より大の機能的コピーを前記動物のゲノムに組み込むことにより提供される方法、使用又は動物を提供する。
【0044】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記遺伝子構築物がBACクローン#128E04のウシのインサート又はBACクローン#262E02のウサギのインサートを含む方法、使用又は動物を提供する。
【0045】
本発明は他のアスペクトにおいて、アルブミンの製造を可能とする確立された任意のプロトコールに従って、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を含むTg動物を使用するステップを含む、アルブミンの製造方法を提供する。
【0046】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記遺伝子構築物がFcRnタンパク質のα鎖をコードする核酸配列の発現を提供し、前記FcRnタンパク質の免疫グロブリン結合活性が除かれている方法を提供する。
【0047】
本発明は他のアスペクトにおいて、体液性免疫応答を向上させる必要のある患者の遺伝子治療に使用する遺伝子構築物であって、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を提供する。
【0048】
本発明は他のアスペクトにおいて、体液性免疫応答を向上させる必要のある患者を治療する方法であって、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を前記患者に導入することを含む方法を提供する。
【0049】
本発明は他のアスペクトにおいて、天然の免疫グロブリン産生により内因的にもたらされるか又は治療手段により外因的にもたらされる血清免疫グロブリンレベルを上昇させる必要のある患者の遺伝子治療に使用する遺伝子構築物であって、前記遺伝子構築物は向上したFcRn活性を提供し、前記FcRnは、前記患者によって産生されるか又は前記患者に投与される免疫グロブリンに特異的な親和性を有することを特徴とする遺伝子構築物を提供する。
【0050】
本発明は他のアスペクトにおいて、血清免疫グロブリンレベルを上昇させる必要のある患者を治療する方法であって、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を前記患者に導入することを含み、前記FcRnは、前記患者により産生されるか又は前記患者に投与される免疫グロブリンに特異的な親和性を有することを特徴とする方法を提供する。
【0051】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記患者がヒトである遺伝子治療のための遺伝子構築物又は方法を提供する。
【0052】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記遺伝子構築物が前記FcRnタンパク質のα鎖をコードする核酸配列の発現を提供する、遺伝子治療のための遺伝子構築物又は方法を提供する。
【0053】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記向上したFcRn活性が、前記FcRnをコードする核酸配列の一個より大の機能的コピーを前記患者のゲノムに組み込むことにより提供される、遺伝子治療のための遺伝子構築物又は方法を提供する。
【0054】
好ましい実施形態においては、本発明は、FcRnタンパク質のα鎖をコードする前記核酸配列が突然変異している、遺伝子治療のための遺伝子構築物又は方法を提供する。
【0055】
好ましい実施形態においては、本発明は、前記突然変異により前記FcRnタンパク質のアルブミン結合部位の機能が失われる、遺伝子治療のための遺伝子構築物又は方法を提供する。
【0056】
本発明は他のアスペクトにおいて、免疫応答の変化に関する条件について試験するのに有用なモデル動物の体液性免疫応答を向上させる方法であって、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を前記動物に導入するステップを含む方法。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】128E04ウシBACトランスジーンの構造及び特徴。A:bFCGRTと5種の推定タンパク質コード遺伝子(FLT3LG、LOC539196、LOC522073、LOC511234及びLOC511235)の相対位置に関する128E04BACゲノム断片の模式図。B:PCRで検出した組み込みトランスジーンのインタクトネス。I:トランスジェニック系統#9由来ゲノムDNAテンプレート;II:トランスジェニック系統#14由来ゲノムDNAテンプレート;III:トランスジェニック系統#19由来ゲノムDNAテンプレート;IV:コントロールBAC128E04ゲノムDNAテンプレート。スロット:MM:1kbラダー、1:BAC128E04 5’末端特異的PCR(以下同様)、2:FLT3LG、3:LOC539196、4:FCGRT、5:LOC522073、6:LOC511234、7:LOC511235、8:BAC128E04 3’末端。尚、LOC511234、LOC511235及び3’末端特異的断片はトランスジェニック系統#9のゲノムDNAからは増幅されなかった。
図2】トランスジェニック系統#14及び#19由来の線維芽細胞のメタフェーズスプレッド。FISH解析により、bFCGRTを有する蛍光ラベルBAC128E04クローンが、#14と#19マウスそれぞれの線維芽細胞の全く異なる染色体セグメントにハイブリダイズしていることが示され、このことはトランスジェニックマウス系統#14と#19の表現型が組み込み部位依存的であるという可能性を排除するものである。
図3】定量的リアルタイムPCRを用いてTgマウス(系統#14と#19)のbFcRnコピー数の絶対数を決定するための、β−アクチンとbFcRnα鎖(bFCGRT)それぞれの場合のCt対logコピー数(Q)の標準曲線。Ctは、定量的リアルタイムPCRにおいて蛍光強度が閾値を超えるときのサイクルである。蛍光性5kヌクレアーゼ技術(fluorogenic 5k nuclease technology)(TaqMan(Leeら、1993))とABI Prism7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems Foster City CA、USA)を用いて検出を行った。
図4】トランスジーンのコピー数に依存的なbFcRn特異的mRNA発現。A:トランスジェニック系統#9(1、4、7、10)、#14(2、5、8、11)、#19(3、6、9、12)それぞれのヘミ接合体組織サンプルを用いたRT−PCR。スロット:MW:1kbラダー;1〜3:肺;4〜6:肝臓;7〜9:新生児の腸;10〜12:乳腺。B:肝臓トータルRNAサンプルにおけるbFcRnα鎖mRNAの発現を検出するノザン分析。スロット:1:野生型マウス;2:ウシ;3及び4:系統#14のヘミ接合体及びホモ接合体マウス(それぞれbFcRnトランスジーンのコピーが2個の場合と4個の場合に対応する);5及び6:系統#19のヘミ接合体及びホモ接合体マウス(それぞれbFcRnトランスジーンのコピーが5個の場合と10個の場合に対応する)。C:ノザン分析により検出した、トランスジーンのコピー数に依存的なbFcRn発現の定量的評価。カラムは光学密度(平均)を表し、エラーバーは平均の標準誤差を表す。統計的有意性は次のように示す::p<0.05;**:p<0.01。
図5】野生型マウスとTgマウスの肺における、bFcRnのコピー数に依存的なタンパク質レベル。アフィニティー精製済みウサギ抗血清を用いた、全細胞タンパク質(30μg/レーン)のウェスタンブロット(B4:bFcRnα鎖が安定的にトランスフェクトされたMAC−T細胞株抽出物(Kacskovicsら、2006a);WT:野生型マウス;TG2:ヘミ接合体マウス、系統#14;TG5:ヘミ接合体マウス、系統#19)。キロダルトン単位の分子量マーカーを左に示す。bFcRnがトランスフェクトされたポジティブコントロール細胞抽出物の場合(B4)と同様に、bFcRnα鎖特異的アフィニティー精製済み血清(Mayerら、2002)が、約40kDaのバンドとしてトランスジェニック肺組織サンプルに検出された。第2のバンド(破線矢印で示される)は受容体の非グリコシル化体の量があまり多くないことを示すと考えられる。TG2(トランスジーンのコピー数:2)とTG5(トランスジーンのコピー数:5)におけるリコンビナントFcRnα鎖の量の比較から、コピー数依存的発現はmRNAレベルのみならずタンパク質レベルにおいても明らかに見られることが分かる。
図6】bFcRnTg(bFcRnを4コピー有する系統#14(ホモ接合体))とwtマウスにおける、マウスIgG(A)及びヒトIgG(B)の薬物動態。(一次薬物動態パラメーターの幾何平均に基づいてシミュレートされた)モデル化データと、3〜5匹の動物(若年同腹子)において観察された平均血清抗体濃度(μg/mL)とを、マウスIgG(10mg/BWkg)とヒトIgG(10及び20mg/BWkg)注射後の時間の関数としてプロットした。挿入図は注射されたIgGの半減期を示し、この半減期は、ツーコンパートメントモデルを採用したWinNonLinプロフェッショナルソフトウェアを用いて算出した。Tg動物におけるIgGの半減期は野生型マウスに比べて有意に長かった。サンプルは2連でアッセイした。エラーバーは平均の標準誤差(SEM)を表す。統計的有意性は次のように示す::p<0.05;**:p<0.01。
図7】bFcRnの過剰発現の結果、その性質を損なわせることなしに、Tgマウスにおける免疫応答が安定的に増強される。Tg、wtマウスの腹腔内に先ずOVA+CFAで免疫感作し、次いで14日後にOVA+IFAを接種した。連続的にサンプリングした血清について、OVA特異的IgMとIgGを分析した。Tgマウスの場合、IgM価は一次免疫応答時のIgMレベルよりも二次免疫応答時に高く、また、wtマウスに比べ有意に高かった。有意なレベルの差がTgとwtマウス間に見られた(A)。二次免疫応答時にTgマウスでは、OVA特異的IgG価はwt動物のそれの約3倍になった。有意なレベルの差がTg、wtマウス間に見られた(B)。免疫感作後32日で、OVA特異的IgGアイソタイプの力価を分析した。Tgマウスは、有意に高い力価のIgGアイソタイプ(IgG3を除く)を産生したが、それらの間の比はwtマウスの場合に比べて相違がなかったことから、bFcRnの過剰発現により、Tgマウスの体内環境を攪乱することなくOVA特異的IgGの産生量が向上したことが示される(C)。トータルIgG産生量はOVA特異的IgG価を反映するものであり、Tgマウスはそのwt兄弟に比べて有意に多い量のIgGを産生した。特筆すべきは、Tgマウスが免疫感作前でもより高いIgGレベルを示したことである(D)。各値は平均±SEMで表される。尚、:p<0.05;**:p<0.01;***:p<0.001;ns:p>0.05である。 FITC−OVA免疫複合体の取込み効率をFACSにより分析した(E)。黒色破線はP388細胞の自己蛍光を示し、灰色線は非免疫複合体化OVA−FITCの取込みを示し、黒色線はwt血清から調製したOVA−FITC免疫複合体の取込みを示し、灰色に塗られた領域はTg血清から調製されたOVA−FITC免疫複合体の取込みを示す。本発明者らは、血清を2.5μL用いた場合には、OVA−FITCの取込みに比べて食作用は向上しないことを見出した(2.5μL)。しかしながら、Tgマウス由来の血清を10μL用いた場合には著しい向上が見られた。一方、wtマウス由来の血清の場合、同量では食作用の向上はなかった(10μL)。最後に、Tg、wtマウスそれぞれの血清を40μL用いた場合にはいずれの場合も、非免疫複合体化OVA−FITCに比べて食作用の向上がみられた(40μL)。
図8】Tg及びwtマウスは、FITC−デキストランを用いた免疫感作に対して同様な応答を示す。Tg(系統#14)とwtマウスに対してFITC−デキストランを腹腔内に免疫感作し、続いて2週間後にこれと同様にして接種した。本発明者らは、一次感作時のFITC特異的IgMについてはTg、wt動物間で差がないことを観察した。免疫感作の経過中、免疫応答について分析したところ、本発明者らは、二次免疫感作後にはTg及びwtマウスの双方においてIgM産生が向上されたことを見出した。
図9】OVA+CFAで免疫感作し、その14日後にOVA+IFAを接種したマウス(各群3匹の雄性マウス)に由来する、25日目に回収された脾臓細胞。Tgマウスの脾臓においては、wtマウスと比較しOVA特異的IgM産生細胞数が2倍になり、またOVA特異的IgG細胞数が3倍超となった(A)。OVAによる免疫感作後25日で、wtとTgマウスの双方で脾臓重量(B)と細胞数(C)が増加したが、脾臓サイズと細胞数はwtマウスに比べTgマウスにおいて顕著な増加が見られた。各値は平均±SDで表される(:p<0.05;***:p<0.01;p>0.001)。
図10】正常又はOVA免疫感作済み(免疫感作後25日)wt、Tgマウスの脾臓の細胞内分布解析。本発明者らは、免疫感作後における、CD45R/B220を有する細胞(Bリンパ球)とI−A/I−E(MHCクラスII)抗原の割合が有意に減少したことを見出した(p<0.05)。CD3マーカーを有する細胞(Tリンパ球)に関しては、wtとTgマウスのいずれの場合も差がないか或いはそれ程急激ではない減少が見られた。このヒストグラムは、CD45R/B220を有する細胞(Bリンパ球)、CD3を有する細胞(Tリンパ球)及びI−A/I−E(MHCクラスII)抗原のパーセンテージ(平均±SD)(破線の領域)とアイソタイプ特異的コントロール(黒色線)を示す。実施した2回の実験のうち典型的な1回の実験について示す(各群n=3マウス)。
図11】免疫感作によりもたらされた好中球の脾臓への著しい流入。免疫感作後25日で脾臓に遊走する細胞を更に特性評価するために、本発明者らは、二重標識技法を用いてフローサイトメトリーによりこれら細胞を分析した。本発明者らは、免疫感作後、CD11bhighとGr−1high抗原を有する細胞がwtマウスにおいて約5倍に、Tgマウスにおいては9倍に増加したことを見出した(A)。本発明者らはまた、CD11bとMHCクラスII抗原を有する細胞(マクロファージ、樹状細胞)の割合、(B)CD11b抗原とCD11c抗原を有する細胞(樹状細胞)の割合(C−ゲートセル(gated cells))は、Tgマウスにおいてそのwtコントロールよりも有意に上昇していることを見出した。密度をプロットしたグラフは、実施した2回の実験のうち典型的な1回の実験のものを示す(各群n=3マウス)。棒グラフの値は平均±SDで表される(:p<0.05;**:p<0.01)。
図12】bFcRn特異的RT−PCRを用いた、腹膜細胞由来の好中球とマクロファージにおけるbFcRnの発現分析。Tgマウスのサンプルを用いたbFcRn特異的アンプリコンの増幅に成功した。ラベル:M1:BenchTop100bpDNAラダー(Promega);1:wtマウス由来未精製腹膜細胞;2:Tgマウス由来未精製腹膜細胞;3:フローサイトメトリーにより分析されたTgマウス由来の精製好中球(CD11bhigh、Gr−1high)、マクロファージと樹状細胞(CD11bhigh、Gr−1low);4:bFcRnα鎖のcDNAを含むプラスミドを用いた増幅。矢印はbFcRnに特異的な548bpのDNAバンドを示す。密度をプロットしたグラフは、実施した2回の実験のうち典型的な1回の実験について示す。
図13】脾臓におけるOVA−FITC含有細胞の存在量。OVA免疫感作(免疫感作後56日の)トランスジェニックマウス(ホモ接合体#14)と未免疫感作トランスジェニックマウスとに対し、OVA−FITCで腹腔内処理した。この処置から5時間後に脾臓細胞をフローサイトメトリーで分析したところ、本発明者らは、OVA免疫感作マウスの脾臓中に15.1±1.4%のOVA−FITC陽性細胞が存在していることを見出したが、一方、未免疫感作マウスにおいてはOVA−FITC陽性細胞数は多くは見られなかった(2.1±0.3%)。共焦点像は、OVA免疫感作マウスと未免疫感作マウスの脾臓に由来する細胞を示す。この細胞の核はDRAQ5赤色蛍光細胞透過性DNAプローブで染色されており、FITC−OVAは明るいスポットとして見ることができる(A)。FITC陽性細胞のうち、OVA免疫感作マウスでは61.2±5.4%がB220陽性であり(Bリンパ球)、18.5±0.6%がCD11bhigh、Gr−1high(好中球)であり、13.5±2.1%がCD11b、CD11c陽性(樹状)細胞であった(B)。OVA−FITCは多葉の核を有する典型的な好中球に取込まれる一方で、大きな球形の核とその周縁に薄く細胞質を有する細胞、恐らくはBリンパ球の表面にOVA−FITCは検出される(C)。密度をプロットしたグラフとヒストグラムは典型的な1回の実験について示し(各群n=3マウス)、データは細胞のパーセンテージで示す(平均±SD)。スケールバーは10μmである。
図14】HIV−P2−FcRnトランスジェニックファウンダーマウスのRT−PCR解析。A:P2プロモーター用に設計されたプライマーを用いたRT−PCR、予想される断片サイズ:579bp、B:ウシFcRnエキソン4用に設計したプライマーを用いたRT−PCR、予想される断片サイズ:161bp。サンプル:1.HIV−P2−FcRnマウスの肺;2.HIV−P2−FcRnマウスの肝臓;3.HIV−P2−FcRnマウスの腸;4.HIV−P2−FcRnマウスの脾臓;5.HIV−P2−FcRnマウスのゲノムDNA;6.ウシゲノムDNA;7.対照マウスゲノムDNA;8.ウシ肝臓cDNA;9.対照マウスcDNA;10.ネガティブコントロール。
図15】bFcRnの過剰発現はアルブミン代謝に大きく影響する。FcRn欠損(FcRn KO)のwt、ホモ接合性#14及び#19(それぞれ4コピーと10コピーのbFcRnを発現)の血清アルブミンレベル。本発明者らがアルブミンレベルについて比較したところ、KOとWTマウス間(p<0.01)、WTとTG4又はTG10マウス間(p<0.001)に有意差が見られた。
図16】FcRn−/−(KO)マウスとFcRn−/−ウシFcRnトランスジェニック(KO bFcRn)マウスにおけるウサギIgGのクリアランス。A.bFcRn/mFcRn−/−の遺伝子型を有するF2マウス(長方形で示される)を同定するために行った多重PCR。F2マウスは、bFcRn/mFcRnXmFcRn−/−neoの親系統を交配させて得られたF1マウスを交配させることにより作製した。プライマーについては実施例12で述べる。予想される断片サイズはbFcRn:610bp;neo:345bp;mFcRn:278bpである。スロット:1.bFcRn、neo、mFcRn;2.bFcRn、neo、mFcRn;3.bFcRn、neo、mFcRn;4.bFcRn、neo、mFcRn;5.bFcRn、neo、mFcRn;6.bFcRn、neo、mFcRn;7.bFcRn、neo、mFcRn;8.bFcRn、neo、mFcRn;9.bFcRn、neo、mFcRn;10.bFcRn、neo、mFcRn;11.bFcRn、neo、mFcRn;12.bFcRn、neo、mFcRn;13.ウシゲノムDNA;14.bFcRn、neo、mFcRn;15.ネガティブコントロール。B.FcRn−/−(KO)マウスとFcRn−/−ウシFcRnトランスジェニック(KO bFcRn)マウスにおけるウサギIgGの薬物動態。ウサギIgGはFcRn−/−マウスでは素早く排出された(半減期:15時間)が、bFcRn/FcRn−/−では保護されていた(半減期:67時間)。これらのマウスにウサギIgGを150μg静脈内注射した。3マウス/群を処理した。得られたデータは2種の別々の実験に相当する。データには、平均値と、平均の標準誤差(SEM)を表すエラーバーとを示す。
図17】bFcRnトランスジェニックウサギのPCR解析。ウシFCGRT4番エキソン検出用に設計したプライマーを用いて行ったPCR。予想されるサイズは160bpである。サンプル:1.38/JTウサギゲノムDNA;2.ウシゲノムDNA;3.FVB/nマウスゲノムDNA;4.ブランクコントロール;MM:1kbラダー。
図18】262E02ウサギBACの特性評価。ウサギ遺伝子の存在の評価に用いたプライマーとPCR条件については実施例15の表7に述べる。
【発明を実施するための形態】
【0058】
本発明はその第1のアスペクトにおいて、同一種の非トランスジェニック対照動物に比べて、抗原に対して向上した体液性免疫応答を発現することができるTg非ヒト動物の作製方法であって、向上したMHCクラスI関連新生児型Fc受容体(FcRn)活性を提供する遺伝子構築物を前記非ヒト動物に導入することを含む作製方法を提供する。
【0059】
本発明はその第2のアスペクトにおいて、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を含むTg非ヒト動物を提供する。これに関し、FcRnトランスジーンを有するTg動物について論じている最先端の開示の幾つかに言及しておく必要がある。しかしながら、これらの開示内容はいずれもアクシデンタルアンティシペーション(accidental anticipation)とみなされるべきものである。以下、これらについて述べる。
【0060】
Benderらは(Benderら、2004)は、ウシFcRnのインビボでの機能と転写制御について研究するために、ウシBACクローン#128E04を用いてウシFcRnタンパク質のα鎖をコードする遺伝子をFVB/Nマウスに導入することにより作製したTg動物を開示した。この刊行物には、本明細書に開示されるトランスジェニック動物の具体的な特徴は開示されていない。しかしながら、検討されてはいないもののこれらの特徴は確かに存在していたであろうと考えられる。従って、この開示内容はアクシデンタルアンティシペーションとみなされるべきことは明らかである。
【0061】
US2006/0031954とPetkovaらは(Petkovaら、2006)は、FcRnがホモ接合破壊されており且つヒトFcRn(hFcRn)トランスジーンを含むTgノックアウトマウスを開示している。この付加により、外因的に投与されたヒトIgGの半減期が有意に向上すると共に内因性発現レベルと同程度のhFcRn発現がもたらされる。彼らまた、何ら具体的な事項を付け加えることなく、内因性の場合よりも実質的に高いレベルでFcRnを発現することは有用となり得ると述べている。強力な発現ベクターを用いることによって、その発現レベルが内因性の発現レベルの10〜100倍にまで上昇し得ることが推測される。これらの開示は、Tg動物を得るための数種の異なる構築物について教示している。第1の例は、10kbの5’フランキング配列と10kbの3’フランキング配列とを有する完全hFcRn遺伝子を含む33kbヒトコスミドクローンを用いた例である。この著者らはこのTg動物を「ゲノムhFcRnトランスジェニック系統32」と称した。第2の例は、「cDNAトランスジェニック系統276」が有する遺伝子構築物であり、これはCMVエンハンサーとトリβ−アクチンプロモーターとを有するベクターEにクローン化されたhFcRnα鎖を含む。第3の例は、彼らの作製したトランスジェニック動物が有する遺伝子構築物であり、これはGenome Systems、Inc.から入手したヒト由来細菌人工染色体(BAC)ライブラリーから得た完全hFcRn遺伝子を含む34kbXhoI断片を含む。著者らは、直接的な遺伝子操作(C57BL/6JマウスやBXSB/MpJマウス等を用いる)又は従来の交配(例えば、MRL/MpJ系統とNZM2410系統を用いる)のいずれかにより数種のTgマウス系統を作製したと考えられ、従って、全ての動物を正確に列挙することは殆ど不可能である。従ってこれらのTg動物については、それらが有する遺伝子構築物に基づきディスクレームする。
【0062】
Luらは、乳腺特異的調節エレメントを有する構築物を用いることにより作製したbFcRnをその乳腺に有するTgマウスを開示した(Luら、2006)。bFcRnのコピー数が1〜15の範囲内でそれぞれ異なり且つウシβ2mのコピー数が1〜10の範囲である幾つかのマウス系統が確立された。発現について検討がなされ、血清IgGレベルのばらつきについて文献報告されている。しかしながらこの系は、腺房の乳腺上皮細胞において限定されたbFcRn発現を泌乳時に提供するだけであり、泌乳乳腺におけるIgG輸送の研究に用いられた。これらの動物は免疫応答の分析には用いられていない。これらのTgマウスを作製するために用いる構築物は、ヤギベータ−カゼインプロモーターにより目的の挿入遺伝子の転写が調節される2種の発現ベクターであり、一方は重(α)鎖(pBC1−bFcRn)をコードする配列を含み、他方はウシFcRnの軽鎖(pBC1−bβ2m)をコードしている。Tg動物に挿入されている遺伝子構築物は、NotIとSalIの各酵素を用いて消化し得られる断片、即ち、16.9キロベース(kb)重鎖と16.1kb軽鎖であり、これらは互いに等濃度でKunming Whiteマウスの受精卵にマイクロインジェクションされた。
【0063】
Yoshidaら(Yoshidaら、2006)は、腸上皮での抗菌免疫の仲介におけるマウスFcRn(mFcRn)の役割について研究を行った。彼らは、組織特異的腸脂肪酸結合タンパク質遺伝子プロモーター(IFABP)によりmFcRnとmβ2mが特異的に腸上皮細胞において発現させられるFcRnTgマウス系統を確立し、IFABP−mFcRnTg/mβ2mTgマウスとした。これらのマウスにおいては、FcRnトランスジーンの発現が基質によって制限されないようにβ2mも過剰発現するようにしている。ここで再度、このTg動物をFcRn−/−マウス、そしてBALB/c又はC57BL/6(CD45.2+)と更に戻し交配した。
【0064】
上述の刊行物についてその研究上の性質のため、上述のものと同様又は異なる遺伝子構築物を用いて各著者らが他のトランスジェニック系統数種を作製していたという可能性もあるが、これらについては前記刊行物中に明確に開示されてはいない。これらの動物もまた、アクシデンタルアンティシペーションとみなされることは明らかであり、従って、既に述べたものと僅かに異なる遺伝子構築物を有する可能性のある、例えば「トランスジェニック系統X」についての言及はいずれも、この議論に含まれることを意図している。
【0065】
従って、上述のアクシデンタルアンティシペーションを回避するために、本発明に係るTg動物に関して次のディスクレームを行う。即ち、
前記動物がFVB/Nマウスである場合には、前記遺伝子構築物はバクテリア人工染色体(BAC)クローン#128E04のウシのインサートの全部は含まず、
前記FcRnがヒトFcRn(hFcRn)である場合には、前記遺伝子構築物は10kbの5’フランキング配列と10kbの3’フランキング配列とを有する完全hFcRn遺伝子を含む33kbのヒトコスミドクローンと;サイトメガロウィルス(CMV)エンハンサーとトリβ−アクチンプロモーターとを有し、且つクローン化されたhFcRnα鎖を有するベクターEと;ヒト由来BACライブラリーから取得した完全hFcRn遺伝子を含む34kbXhoI断片のいずれでもなく、
前記FcRnがウシFcRn(bFcRn)である場合には、前記遺伝子構築物はbFcRnのα鎖をコードする配列を含む、pBC1−bFcRnのNotI−SalI断片と;bFcRnの軽鎖をコードする、pBC1−bb2mのNotI−SalI断片のいずれでもなく、
前記FcRnがネズミ科のFcRn(mFcRn)である場合には、前記遺伝子構築物はIFABP−mFcRnとIFABP−mb2mのいずれでもない。
【0066】
本明細書において「非ヒト動物」という用語は、脊椎動物に属する動物を包含し、好ましくは哺乳動物である。本発明を適用可能な動物は、免疫グロブリン又はその機能的等価物を産生できるかどうかという機能上の基準に基づいて選択することができる。好ましい実施形態においては、本発明の動物として、マウス、ラット、その他のげっ歯類、ウサギ、ブタ、ラクダ科動物、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ロバ及びウマ等を挙げることができるが、これらに限定されない。更により好ましい実施形態においては、動物はマウス、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ及びウシである。また、本技術分野において免疫グロブリン(モノクローナル抗体又はポリクローナル抗血清)を製造するために一般に使用される任意の動物を使用することは本発明の範囲内である。
【0067】
本明細書において「同一種の対照動物」又は「同一種の非トランスジェニック対照動物」という表現は、本発明のTg動物の作製に関わる手続に付されなかった動物を記述するために用いられる。しかしながら、この同一種の対照動物もまた、全抗体製造プロセス、及びポリクローナル又はモノクローナル抗体の製造に必要な手続(例えば、初回免疫や必要に応じて行われる一回又は複数回の追加免疫)において本発明のTg動物と同様に処理される。
【0068】
本明細書において「免疫グロブリン」という用語は、抗体として機能する免疫グロブリンスーパーファミリーにおける糖タンパク質を意味する。本明細書中、「抗体」と「免疫グロブリン」という用語は相互交換可能に使用される。抗体とは、適応免疫系の主要なエフェクターの内の一種を構成するホストタンパク質である。その有用性は、診断用及び研究用試薬としてこれまで広く利用されてきたし、現在も利用され続けている。抗体はまた、疾病治療のための臨床医の医療設備の中でも重要な治療道具となってきている。抗体は分析、精製及び濃縮に用いられ、生理学的応答を仲介又は調節する。抗原に対する高親和性結合能と特異性とが、種々の科学及び医学専門領域において抗体が広く用いられている要因となっている。抗原−抗体相互作用は、抗体の本来的な生物学的機能と研究用及び治療用試薬としての使用において重要である。
【0069】
構造的には、抗体は(タンパク質電気泳動のγ画分の)グロブリンである。哺乳動物では5種類の抗体が存在する(即ち、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM(ここでIgは免疫グロブリンの略であり、本明細書中では抗体を表すためにも用いられる))。これらは重鎖定常部における相違に基づいて分類される。各免疫グロブリンクラスは生物学的性質が異なり、種々の抗原に対処するように進化してきた。IgAは粘液を含む各種領域(例えば消化管、呼吸管又は尿生殖路)に存在することができ、粘膜領域における病原体のコロニー形成を防ぐ。IgDは主にB細胞上の抗原受容体として機能する。IgEはアレルゲンと結合し肥満細胞からのヒスタミン放出を引き起こし(アレルギーの根底にあるメカニズム)、またヘルミンス(ぜん虫)に対する防御を提供する。IgMはB細胞表面に発現すると共に、B細胞が仲介する免疫の初期段階において病原体を除去する分泌型としても発現する。IgGは進入病原体に対する抗体免疫の大部分を担う。
【0070】
本発明の好ましい実施形態においては、産生される免疫グロブリンはIgGであるが、次に述べるように、本発明の範囲はIgGアイソタイプ(クラス)又は各種の修飾を施されることもあるIgGに限定されるものではない。
【0071】
IgGは、各種哺乳動物における遺伝子重複に基づいて種々の型、即ちサブクラスに分類することができる。げっ歯類、ヒト、家畜化された反芻動物、ウマ、ブタ、ラクダ科動物及びモルモットではIgGのサブクラスが多数あり、各サブクラスが異なる生物学的特徴を有している。例えば、ヒトIgG1とIgG3はFcγR1に高い親和性を有するので食細胞に結合する。従って、IgG1とIgG3は特に、(a)小さなIgG−Ag複合体を除去すること、(b)B細胞の成長と抗体産生を正方向又は負方向に刺激すること、において重要となる可能性がある。IgG3は補体の強力なアクチベーターであり、IgG1は優先的に胎盤を通過して輸送される主な血清IgGである(Janeway Jr.ら、2001)。サブクラスの多様性は哺乳動物において顕著であることは良く知られている。ウサギはIgGの遺伝子を1種だけ有するのに対して、マウスとヒトは4種のIgGを発現し、ウマでは7種である。ウシは3種のIgGを有し、ブタには5種の推定IgGサブクラス遺伝子が存在する。あまり良く研究されていない哺乳動物の免疫グロブリンサブクラスにおいても同様に、生物学的機能や相対的発現量の相違が見られると考えられる(Butler、2006)。
【0072】
本発明は、IgGサブタイプのいずれか一種以上の産生を向上させるために用いることができ、このIgGサブタイプは特に限定されない。しかしながら、レシピエント動物により産生されるある種のIgGアイソタイプが、特定の外因性FcRnα鎖を含むFcRnタンパク質に対して、これとは別の外因性FcRnα鎖を含むFcRnタンパク質に対してよりも強く結合するようにさせることができる。特定のIgGサブタイプに対して最適な結合能と活性を有する特定のFcRnα鎖トランスジーンを選択しこれを用いることにより、得られる抗血清中の該特定のIgGサブタイプの量又は割合を増大させることは本発明の範囲内である。
【0073】
本発明の他の好ましい実施形態においては、産生される免疫グロブリンはIgMである。IgMは血漿中の免疫グロブリン全体の約10%を占め、複雑な抗原性を有する細胞膜抗原、感染性微生物、可溶性抗原に対して産生される初期の抗体の主要成分を成す。構造に関しては、IgMはインビボにおいて五量体構造を有する。IgMの五量体構造を構成する5個のサブユニットはIgGと同様に4本の鎖から成る構造である。IgGの構造との主な相違点の一つとして、IgMはμ重鎖を有することを特徴とする。更に、μ鎖の定常部にはγ鎖よりもドメインが1個多く、またIgMはJ鎖と呼ばれるポリペプチド鎖を有するという点においても異なる。J鎖はIgGには存在せず、IgMが抗体産生細胞から分泌される前に行われるμ鎖の重合を促進させると考えられている。本技術分野においては、天然物と機能的に等価なIgMを組み換え技術により製造するための様々な試みがなされている(例えば、US2007154469参照)。異種の又は改変した免疫グロブリン遺伝子を動物に導入することによってIgM産生量を高めようとするアプローチとは異なり、本発明は、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を含むTg動物を提供し、該動物の抗原に対する応答時の内因性IgM産生量を向上させるという別の解決策を提供する。
【0074】
本明細書において「体液性免疫応答」という用語は、分子及び生物に応答して抗体が産生されて、これら分子及び生物が最終的に中和及び/又は排除される生体内のプロセスを意味する。抗体応答の特異性は、単一の特異性を有する抗原に結合する膜結合性受容体を通してT及び/又はB細胞により仲介される。適切な抗原に結合し、他の各種活性化シグナルを受け取った後、Bリンパ球が分裂し記憶B細胞を生成すると共に最終的に抗体分泌型形質細胞クローンに分化する。各クローンは、抗原受容体により認識された抗原エピトープと同一の抗原エピトープを認識する抗体を産生する。その後、記憶Bリンパ球は、それらに特異的な抗原によって活性化されるまで休止状態になる。これらのリンパ球は細胞性記憶を有し、特異的抗原に再度曝露された際の抗体応答が増強される。
【0075】
体液性免疫応答に関連して「向上した」という用語は、同一種の対照動物がある種の抗原に接触したときに該抗原に対する免疫応答により産生される抗体に比べて、ある種の抗原に対する免疫応答により産生される抗体の産生レベル及び多クローン性が顕著に高いこと、前記免疫応答の発現が顕著に早いこと、又はある種の抗原に応答した免疫応答がより安定的であることを意味する。
【0076】
本明細書において「免疫感作」という用語は、自身に対する免疫系が強化されるように設計されている剤(多くの場合アジュバントと併用される)に個体を曝露するプロセスを意味する。この剤を「免疫原」又は「抗原」という。免疫感作は予防接種、ワクチン接種と同じであり、これらも免疫感作と同様に生の感染剤を使用している。初回免疫感作プロセスに加えて、この剤を周期的に繰り返し注射することにより免疫感作の効果が向上することが見出されており、これを「追加」免疫感作という。
【0077】
免疫感作に関連して免疫グロブリンの「向上したレベル」という表現は、免疫応答の強度によって測定される(例えば、得られる最大抗体価に基づいて測定される)、同一種の対照動物における特定の免疫グロブリンの血清レベルよりも顕著に高い同一免疫グロブリンの血清濃度を意味する。通常、この向上したレベルとは、少なくとも50%以上であり、好ましくは75%以上、より好ましくは100%以上、更により好ましくは150%以上である。
【0078】
免疫感作の結果は抗原の性質に大きく依存する。免疫応答を誘導することができれば如何なる物質も免疫原性があるということができ、免疫原と称されることは広く受け入れられている。免疫原と抗原との間には運用上明らかな相違点がある。抗原は特異的な抗体と結合できる任意の物質と定義される。従って、抗原はいずれも特異的な抗体を誘導する能力を有してはいるが、抗原によっては抗体誘導のために免疫原に結合していることを必要とするものもある。このことは、免疫原は全て抗原であるが、抗原は必ずしも免疫原性があるとはならないことを意味している。実験免疫学で最もよく用いられる抗原はタンパク質であり、タンパク質に対する抗体は実験生物学及び実験医学において極めて有用である。しかしながら、精製タンパク質は常に高い免疫原性を有しているとは限らず、免疫応答を惹起するためにはアジュバントと組み合わせて投与する必要がある。炭水化物、核酸その他の分子はいずれも潜在的な抗原ではあるが、タンパク質キャリアに結合させた場合にのみ免疫応答を誘導するということも多い。従って、タンパク質抗原の免疫原性がほぼ全ての免疫応答の結果を決定することになる。抗原の投与経路は、得られる免疫応答の強度とタイプに影響を与える。最も一般的な体内への抗原導入経路は、皮下、皮内、筋肉内、静脈内若しくは腹腔内注射又は輸送による組織への注入である。経口投与により抗原は胃腸管に送達され、経鼻投与又は吸引の場合には呼吸管に送達される。
【0079】
抗体は殆ど全ての生体分子を抗原として認識することができ、この生体分子としては例えば、単なる中間代謝産物や糖、脂質、オータコイド、ホルモンのほか、各種高分子(複合炭水化物やリン脂質、核酸、タンパク質)がある。このうち高分子のみがBリンパ球を刺激し体液性免疫応答を開始させることができる。ジニトロフェノール等の小さな化学物質が抗体に結合することもあり得るがそれ単独ではB細胞を活性化させることはできない(即ち、免疫原性がない)。このような小さな化学物質に対して特異的な抗体を生成させるために、免疫学者は通常これらの物質を高分子に結合させてから免疫感作を行う。この場合、この小さな化学物質を「ハプテン」と呼び、高分子はキャリアと呼ぶ。ハプテン−キャリア複合体は、遊離のハプテンとは異なり、免疫原として作用することができる(AbbasとLichtman、2003)。同様の又は更に別の免疫感作プロトコールが本技術分野において広く知られているが、適切なストラテジーの選択は本発明を実施する当業者によって容易に行うことができよう。
【0080】
初回免疫応答後は、通常、導入された免疫原/抗原に対して産生された特異的抗体のレベルとトータル免疫グロブリンレベルとのいずれもが僅かな顕著でない上昇しか示さない。免疫応答の強度は免疫原の投与量に依存する。ある閾量未満では、大部分のタンパク質は全く免疫応答を誘導しない。閾量以上になると、抗原投与量の上昇に伴ってブロードなプラトーレベルに達するまで徐々に上昇し、次いで非常に高い抗原投与量で減少に転じる。一般に、二次及びそれに続く免疫応答はより低い抗原投与量で生じ、より高いプラトー値を達成する。これは免疫学的記憶のサインである。このことが、特異的抗体の力価を顕著に向上させるために追加免疫感作が通常必要となる理由である。追加免疫感作の回数は幾つかの要因によって異なり、例えば、抗原の免疫原性や免疫学的アジュバントの種類、免疫感作経路、スケジュールによって異なる(Stills、2005)。
【0081】
大抵の抗原は非常に複雑であるため、非常に多くのリンパ球によって認識されるエピトープを多数提示している。各リンパ球は活性化されて増殖し形質細胞に分化する。そして、得られる抗体応答はポリクローナル抗体(PAb)である。適応免疫応答の重要な特徴は免疫学的記憶である。免疫学的記憶は、一次免疫応答を誘導する初回或いは一次免疫感作の結果として得られる。
【0082】
多くのタンパク質は、単独で投与した場合には免疫原性に乏しいか又は免疫原性を示さない。タンパク質抗原に対する強い適応免疫応答を得るためには、常に、アジュバントとして知られる混合物と共に抗原を注入する必要がある。アジュバントは、これと混合された物質の免疫原性を向上させる任意の物質である。アジュバントは、免疫原と安定した結合を形成しないという点でタンパク質キャリアと異なる。応答の誘導が弱い又は応答を誘導しない免疫原であっても、これをアジュバントと併用してプライミングすることにより、アジュバントを必須とする免疫原をアジュバント非存在下に追加投与することで実質的な免疫応答が得られる(Janeway Jr.ら、2001;LeenaarsとHendriksen、2005;Lipmanら、2005;McCulloughとSummerfield、2005;SchunkとMacallum、2005;Stills、2005)。
【0083】
各免疫感作に対する応答は次第に強くなり、二次応答、三次応答、それ以後の応答と強度が次第に上昇する。増強された免疫状態を達成するために抗原接種を繰り返し行うことは高度免疫感作として知られている。臨床的技法及び免疫化学的技法に用いられる抗体の多くは、適切な動物(げっ歯類、ウサギ、ヤギ、ロバ、ヒツジ等)に適切な抗原の懸濁物を高度免疫感作させて作られるポリクローナル抗体である。抗体産生ピーク時に血清を回収することにより、本法により特異的免疫グロブリンG(IgG)濃度が約1〜10mg/mLの血清を得ることができる。モノクローナル抗体(mAb)は十分に特性評価された低免疫原性源であると共に非常に有効なツールであることが示されているものの、ポリクローナル抗体には依然として利用価値がある。病原体に対する応答時に自然免疫系がmAbではなくポリクローナルを用いていることから分かるように、ポリクローナル抗体も受動免疫治療に好ましい場合が多い。ポリクローナル抗体の利点としては、免疫複合体形成によりそれらの能力が高められることがあること、種々の病原体株により引き起こされる感染症又は成功裏に治療を行うために多数のエピトープを中和する必要のある感染症に対抗できること、が挙げられる。一般に、ポリクローナル抗体は比較的調製し易く、調製費用もかなり廉価であることから免疫化学的技法においても有利である。また、ポリクローナル抗体は様々な種(ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ロバ、トリ等)に産生させることができるので、実験設計における多くのオプションを使用者に与える。しかしながら、ポリクローナル調製物中の特異的抗体の量がトータル抗体タンパク質のごく一部に過ぎない場合もある。そのため、抗体製造における第1の目的は、力価と親和性が高い抗血清を得ることである。
【0084】
本技術分野において広く用いられている高度免疫感作プロトコールでは、高IgGレベルの維持には定期的な追加免疫感作が必要である。これは、IgG代謝研究のごく初期段階において既に示されているように(AndersenとBjorneboe、1964)、通常の動物では免疫グロブリンの異化作用が上昇するからである。これに対して、本発明は免疫グロブリン産生が安定的に向上されたレベルを達成する、より効率的なプロトコールを提供するものであり、これは、追加の免疫感作を全く行わない又は回数のより少ない免疫感作でも、高IgGレベルを比較的長期間維持させるものである。
【0085】
ポリクローナル抗体の製造では、免疫学的結果や動物に与える痛みや苦痛等、動物実験の結果に影響し得ると考えられる重要なステップを多く認めることができる。抗体を誘導させるための抗原が免疫原性に乏しい場合、効果的な免疫応答を誘導する刺激剤が免疫系に必要である。アジュバントはこの目的のために使用することができ、免疫応答をより強い細胞性又は体液性応答に向かわせる。100種類を超えるアジュバントが報告されているが、ポリクローナル抗体の製造に通常使用されるアジュバントはごく僅かしかない(例えばフロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント、アルミニウム塩、Quil A、Iscoms、Montanide、TiterMax(登録商標)、RIBI(登録商標))。FCAは、ほぼ全ての種類の抗原と用いて高抗体価を誘導できることから、ポリクローナル抗体の産生によく使用される。しかしながら、FCA、TiterMax、RIBI等のアジュバントを注射した後、重大な副作用が見られたことを報告している研究者も多い。病理学的変化の重篤度はアジュバントのみならず用いた抗原の種類にも依存する。更には、これらに代わるアジュバントは効果的な抗体応答を誘導しない場合が多い。注射量がまた、生じた病変部の程度に影響することが分かっている(LeenaarsとHendriksen、2005)。これらに基づき本発明は、最適な免疫応答を得つつ動物の痛みや苦痛を軽減させることから、経済的価値を超えて動物福祉という観点からも非常に有益なものとなる、免疫感作回数をより少なくすることができる効率的プロトコールを提供する。
【0086】
従って本発明は、ポリクローナル免疫グロブリンの製造を可能とする確立された任意の免疫感作プロトコールに従って、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を含むTg動物を使用することを含む、ポリクローナル免疫グロブリンの製造方法を提供する。トランスジェニック動物は好ましくは、ポリクローナル抗体産生に有用な系統又はポリクローナル抗体産生により適するように遺伝子的に改変された系統から得られる。
【0087】
更に好ましい実施形態においては、本発明は、本発明に係る方法、使用又は動物により産生されるポリクローナル抗体を提供する。本発明に従って産生される抗体は、粗製又は部分精製済み抗体含有血清調製物を標準的な分子生物学的技法により分析することにより、本発明に従って産生されていない調製物と明確に区別することができる。これは例えば、分析対象である血清中の小ゲノムDNA断片におけるFcRn重鎖のコピー数又は種特異性を判定し、知られた同一種の非トランスジェニック対照動物から得られる対照血清サンプルと比較することにより行うことができる(EmanuelとPestka、1993;LinとFloros、2000;SandfordとPare、1997)。
【0088】
PAbとは対照的に、モノクローナル抗体(MAb)は単一のBリンパ球クローンにより産生される抗体である。1970年代半ば、KohlerとMilsteinは所望の特異性を有するモノクローナル抗体の調製技法を考案してノーベル賞を受賞した(KohlerとMilstein、1975)。MAb分野で蓄積された数十年に亘る実践と経験とにより、当業者はモノクローナル抗体の製造におけるあらゆる側面において十分に習熟している。特定の抗原に特異的なモノクローナル抗体を製造するために、マウス、ラット又はウサギを該抗原で免疫し、該動物の脾臓細胞やリンパ節リンパ球、他の抹消血リンパ球、他の組織のリンパ球としてB細胞を得ることができる。ホスト哺乳動物に対して追加の免疫感作を行い、所望の抗原に特異的なB細胞集団を増加させることができると共に抗原特異性を向上させることもできる。これらのB細胞は単離後、適切な不死化細胞株と融合される。ミエローマ様細胞はミエローマ様ではない細胞に比べてより効率的に融合する傾向があると共に安定なハイブリッドを生じることから、ミエローマ株はB細胞の融合パートナーとして最適である。不死化細胞は、ミエローマ細胞等の形質細胞腫細胞又はリンパ芽球様細胞であり、これは抗体産生細胞であると同時に悪性化している。ハイブリドーマの上清をスクリーニングし、所望の抗原結合性を有する最適なハイブリドーマを選択する。選択したハイブリドーマをクローニングし凍結保存する。
【0089】
このコンテキストにおいては、モノクローナル抗体に関し、動物とは任意の非ヒト動物を意味し、例えばウサギ、マウス、ラット、ヤギ、ヒツジ、モルモット、ブタ、ウシが挙げられるが、これらに限定されない。本発明では更に、リンパ系細胞株を産生するために用いられる数種のトランスジェニック動物を含む。
【0090】
従来の又は古典的な技法の他に、組み換え技術の使用によりポリクローナル、モノクローナル抗体製造の新時代の幕が開け、これにより現在では抗体を設計することが可能となっている(抗体を機能的サイズにしたり、ヒト化抗体を製造するなど)(Lonberg、2005;Peterson、2005)。
【0091】
従って本発明は、モノクローナル免疫グロブリンの製造を可能とする確立された任意の免疫感作プロトコールに従って、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を含むTg動物を使用することを含む、モノクローナル免疫グロブリンの製造方法を提供する。トランスジェニック哺乳動物は、モノクローナル抗体産生に有用な系統又はモノクローナル抗体産生により適するように遺伝子的に改変された系統から得ることが好ましい。
【0092】
更に好ましい実施形態においては、本発明は、現在の技術水準のプロトコールに従って本発明に係る動物から得られる細胞から産生されるか、又は本発明に係る方法若しくは使用に従って作製される若しくは使用される動物から得られる細胞から産生されるハイブリドーマ細胞株を提供する。モノクローナル抗体はまた、本発明の方法、使用又は動物により産生される。
【0093】
本明細書において「トランスジェニック動物」という表現に含まれる「トランスジェニック」という用語は、通常行われる交雑又は交配では得られない遺伝子又は他の核酸配列を含む動物を意味する。「遺伝子」という用語は、mRNA、機能性RNA又は特定のタンパク質を発現する、調節配列を含む核酸断片を意味する。「ネイティブ遺伝子」という用語は、天然に存在する遺伝子を意味する。「トランスジーン」という用語は、形質転換によりゲノムに導入され安定に維持される遺伝子を意味する。このコンテキストにおいて「形質転換」という用語は、本明細書中、外来DNAを細胞に導入するという意味で広義に用いられる。この用語はまた、マイクロインジェクションやトランスフェクション、インフェクション、トランスダクション、ドナー細胞とアクセプター細胞の融合など、外来DNAを細胞に導入する他の機能的に等価な方法をも包含することを意図している。トランスジーンは例えば、形質転換されるべき特定の動物の遺伝子と相同又は非相同な遺伝子である。更にトランスジーンは、非ネイティブ生物に挿入されたネイティブ遺伝子、即ちキメラ遺伝子も含む。「内因性遺伝子」という用語は、ある生物のゲノム中において本来あるべき部位に位置しているネイティブ遺伝子を意味する。
【0094】
トランスジーンのレシピエント動物への導入は、通常、目的のトランスジーンを有する遺伝子構築物を用いることによって行われる。本明細書において「遺伝子構築物」という用語は、レシピエント細胞へ導入された時に発現する核酸配列を有する人工的に作られたリコンビナントDNAを含むことを意図している。遺伝子構築物はコード配列と調節配列を含むことができる。「コード配列」という用語は、特定のアミノ酸配列をコードし且つ非コード配列は含まないDNA又はRNA配列を意味する。「調節配列」という用語は、コード配列の上流(5’非コード配列)、内部又は下流(3’非コード配列)に位置し、その転写、RNAプロセシング又は安定化、該コード配列の翻訳に影響を与えるヌクレオチド配列を意味する。調節配列としては例えば、エンハンサーやプロモーター、翻訳リーダー配列、イントロン、ポリアデニル化シグナル配列がある。これらには、天然の配列、合成された配列のほか、合成配列と天然配列の組み合わせた配列も含まれる。本発明に有用な調節配列としては、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、発生段階特異的プロモーター、誘導性プロモーター、ウィルスプロモーターを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0095】
「プロモーター」という用語は、RNAポリメラーゼと適切な転写に必要な他の因子とが認識する部位を与えることによりコード配列の発現を制御する、通常コード配列の上流(5’)に存在するヌクレオチド配列を意味する。「プロモーター」という用語は、TATAボックスと、発現制御のための調節因子が付加される転写開始部位を特定する他の配列とから通常構成される短いDNA配列であるミニマムプロモーターを含む。「プロモーター」はまた、コード配列又は機能性RNAの発現を制御可能な調節エレメントがプラスされたミニマムプロモーターを含むヌクレオチド配列も意味する。この種のプロモーター配列は、近位及びより遠位の上流エレメントから成り、後者のエレメントをエンハンサーという。従って「エンハンサー」とは、プロモーター活性を刺激することができるDNA配列であり、プロモーターが本来有しているエレメントか、又はプロモーターのレベル或いは組織特異性を向上させるために挿入された異種エレメントのいずれであってもよい。エンハンサーはいずれの方向(正常方向又は逆方向)にも作用することができ、プロモーターの上流と下流のいずれにおいても機能することができる。エンハンサー及び他の上流プロモーターエレメントはいずれも、これらの作用を仲介する配列特異的DNA性結合タンパク質に結合する。プロモーターは、その全体がネイティブ遺伝子由来であってもよいし、天然に存在する各種プロモーターに由来する種々のエレメントから構成されていてもよいし、更には合成DNAセグメントから構成されていてもよい。プロモーターはまた、生理学的状態又は発生状態に対応して転写開始の有効性をコントロールするタンパク質因子の結合に関わるDNA配列を含んでいてもよい。転写制御はまた、各種化学物質、ホルモン、誘導因子等の存在に依存して行われてもよい。当業者であれば、特定用途に最も適した調節配列の選択及び作製は容易に行うことができよう。
【0096】
トランスジェニック技術は、科学研究に広く用いられており数種のプロトコールが確立されている。本発明は、本発明のTg動物が作製される限りにおいては、ある特定の変更を選択することで何ら限定されるものではない。従来のトランスジェニック技法の問題点に関し、本技術分野において幾つかの報告がなされているが、トランスジーンの発現レベルは種間で異なり(Palmiterら、1984)、同一種内でも動物によって異なることがあり(Dobieら、1996;Sutherlandら、2000)、特にゲノム断片ではなくcDNAを用いた場合にはこうした現象が顕著に見られる。トランスジーンの発現の多様性はホストゲノムへの組み込み位置によるものであり、トランスジーンの発現を不安定なものとする(Opsahlら、2003)。プラスミドを用いたトランスジーンのマイクロインジェクションの問題点は、YAC(酵母人工染色体)やBAC(細菌人工染色体)、PAC(P1ファージ人工染色体)等のサブメガベースのDNAを収容するクローニングシステムを用いることによって克服することができる。これらの技法はTgマウスの作製において十分に確立されている((GiraldoとMontoliu、2001)参照)。当業者であれば、現在の技術水準と本明細書に記載の教示に基づいて、本発明のTg動物の作製及び特性評価に必要なステップを実施することができよう。
【0097】
好ましい実施形態においては、本発明に係る遺伝子構築物は、ウシBACクローン#128E04のインサートを含む。BACクローン#128E04は、高級ホルスタイン雄牛の雄性胎児の生殖隆起由来DNAから作製されたウシBACライブラリーのクローンである(INRAウシBACライブラリーより取得)(Eggenら、2001)。クローン#128E04のインサートは、2007年8月11日現在のNCBI Map Viewer、ボスタウラス(ウシ)Build 3.1(Btau 3.1)に示される、ウシゲノムの第18番染色体のスクレオチドポジション53543852〜53652024のセグメントとして定義される。
【0098】
好ましい実施形態においては、本発明に係る遺伝子構築物は、ウサギBACクローン#262E02のインサートを含む。BACクローン#262E02はウサギBACライブラリーから単離された(Rogel−Gaillardら、2001)。BACライブラリーはpBeloBACllベクター中に構築され、この高分子量DNAはニュージーランドウサギの白血球細胞から調製された。ウサギBACライブラリーは、家畜のためのINRAリソースセンターにより取扱われており公的に入手可能である。
【0099】
本発明のTg動物における特定の変更は、それがFcRn活性を有するタンパク質のα鎖をコードする遺伝子を過剰発現させるものである限り、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書において「過剰発現」という用語は、ある種における着目した遺伝子のコピー数が2である場合に予想されるよりも高い発現レベルを意味する。過剰発現は、発現レベルが向上した結果生じるFcRn機能の変化が、野生型動物における基本の発現レベルと比較することにより検出可能である限り、生化学的プロセスの内の幾つかのレベル、例えば転写レベルや翻訳レベル、翻訳後の修飾レベルで評価することができる。例えば、本発明の幾つかの実施例で示されるように、着目する遺伝子によってコードされるタンパク質の発現量が上昇すれば、FcRn活性を有するタンパク質のα鎖の合成量が上昇したことになる。
【0100】
過剰発現は、分子生物学分野の当業者によく知られた数種の手段により達成することができる。目的遺伝子を過剰発現させる方法としては、例えば、該遺伝子のコピー数を増加させる、プロモーター領域の結合強度を上げる、エンハンサーエレメントをアップレギュレートする、又は反対にリプレッサーエレメントを阻害又はブロックすることなどが挙げられる。
【0101】
本発明の好ましい実施形態においては、過剰発現は組み込み部位に依存せずに組み込みコピー数に依存する。しかしながら当業者であれば、トランスジーンの発現を抑制する入手可能な遺伝的エレメントを使用することが有利となる又は必要となる時期を決めることができよう。誘導性調節エレメントの例としては、目的遺伝子の微妙な発現調節を可能とする、組織や器官、発生段階等に依存的な調節エレメントのほか、先行技術に多数報告されていると共に当業者により自由に使用され得るものであり、これらを用いて本発明を実施することができる。
【0102】
本発明の更に好ましい実施形態においては、過剰発現は、目的遺伝子の一個より大の機能的コピーを本発明のTg動物のゲノムに組み込むことにより達成される。好ましくは、FcRnα鎖遺伝子を含むDNA断片を動物から単離する。このような大きなDNA断片は、非ヒト動物のゲノムDNAから調製されるコスミド、YAC、BAC等のライブラリーをスクリーニングすることにより単離することができる。YACクローンは最大2メガベースまでのDNA断片を保持することができ、BACクローンはこれより小さいサイズのDNA断片(約150〜250kb)を保持することができる。ソースとなる動物は如何なる種のものでもよく、例えば、市販のポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の製造に重要な役割を果たしている動物(マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ブタ、ロバ、ウマ等)とすることができる。トランスジーンのソースの選択が限定されないことは明らかであり、本発明に係る方法に用いる遺伝子として適しているかどうかを、当業者であれば、本明細書に与える教示に基づき判断することができる。
【0103】
レシピエント動物へのトランスジーンの導入手続及びTg動物の選択手続は当業者によく知られている。簡潔に記載すれば、FcRnα鎖遺伝子を有するトランスジェニックベクターを一個又は複数個のレシピエント細胞に導入し、次いで、ランダムインテグレーション又はターゲットインテグレーションによりこの一個又は複数個のレシピエント細胞のゲノムに組み込む。ランダムインテグレーションの場合には、標準的なトランスジェニック技術によりFcRn遺伝子座を含むトランスジェニックベクターを動物のレシピエント細胞に導入することができる。例えば、トランスジェニックベクターを受精卵母細胞の前核に直接注入することができる。トランスジェニックベクターはまた、卵母細胞との受精前に精子をトランスジェニックベクターとコインキュベーションすることにより導入することもできる。トランスジェニック動物は受精卵から発生させることができる。
【0104】
トランスジェニックベクターを導入する別の方法はレンチウィルスによる遺伝子組み換えである。この最近開発された方法−トランスジーンのサイズという観点からは制約があるが−は、マウスやラット、ブタ等のあらゆる種のTg動物の作製において非常に効率的であることが示され、遺伝子治療ストラテジーの発展において特に有望なツールである(Pfeifer、2006)。トランスジェニックベクターを導入する更に別の方法は、胚性幹細胞をトランスフェクトした後、この遺伝子的に改変された胚性幹細胞を発生途中の胚に注入することによるものである。最終的に、Tg動物の少なくとも一部の体細胞のゲノム中にFcRnトランスジーンが組み込まれた胚からキメラTg動物が作製される。ターゲットインテグレーションの場合には、トランスジェニックベクターを適切な動物レシピエント細胞、例えば胚性幹細胞又は既に分化した体細胞に導入することができる。
【0105】
特定の実施形態においては、トランスジーンの組み込みを行った結果、相同組み換えによって対応する内因性FcRnα鎖遺伝子座が失われることがある。或いは、ネイティブFcRn遺伝子座がトランスジーンの導入とは独立してノックアウトされることもある。例えば、ノックアウトされた遺伝子型の親を用いて古典的な交雑と交配を実施することにより所望の動物が得ることができる。しかしながら、内因性FcRn遺伝子座の置換は本発明の目的を達成するためには必須ではない。当業者であれば、内因性遺伝子の存在が免疫グロブリン産生量の向上に不利益をもたらすか否かを判断することができよう。しかしながら、FcRn活性を有するタンパク質のα鎖をコードする遺伝子を過剰発現させるために、該遺伝子のコピーが多数挿入されている場合、通常環境下では、そのような置換に関するストラテジーの必要性はないと考えられる。
【0106】
内因性FcRnα鎖由来のFcRnよりも外因性FcRnα鎖由来のFcRnに対してより強く結合する特異的IgGアイソタイプを増加させる必要がある場合には、内因性FcRnを欠損(ノックアウト)させる及び/又はこれを外因性FcRnα鎖と置換することが好ましい。重要な例として、ヒト免疫グロブリン遺伝子の重鎖と軽鎖をコードするヒト染色体DNAを保持したTg動物におけるヒトIgGの過剰生産が挙げられる。ウシFcRnα鎖等を過剰発現する動物においてホストFcRnα鎖を欠損させることは、外因性FcRnα鎖との結合が弱く動物体内からの排出が早いホストIgGを引換えにして、ヒトIgGを増加させるのに有効であると予測できる。同様の例としては、ある種のホストIgGアイソタイプが他のIgGアイソタイプと引換えに良好に増加する場合が挙げられる。
【0107】
細胞を選択した後、除核済み核移植単位細胞(例えば卵母細胞)と融合させることができる。融合は、本技術分野において十分に確立された従来技法に従って行う(例えばCibelliら、1998参照)。また、母細胞の除核と核移植は、注入ピペットを用いたマイクロサージェリーにより行うことができる(例えば、Wakayamaら、1998参照)。次いで、得られた卵細胞を適切な培地中で培養し、Tg動物作製のための同調させたレシピエントに移植する。或いは、遺伝子的に改変された胚性幹細胞を選択し、発生途中の胚に注入することもできる(この胚は後にキメラ動物となる)。
【0108】
本発明の好ましい実施形態は、Tg動物がトランスジーンのコピーを複数有している場合である。理論的には、本発明のTg動物に導入されるトランスジーンのコピー数に関し考えられる限定はない。当業者であれば、FcRn活性を有するタンパク質のα鎖をコードする遺伝子の過剰発現が、本発明の有利な効果が得られる一方で細胞の恒常性と機能性を損ないかねない極めて集中的な遺伝子発現とはならない、相対的に高いFcRn発現であるかどうかを容易に判定できよう。本明細書に示す実施例においては、完全bFcRn遺伝子を最大10コピー有する動物の各種Tg系統間に表現型の変化は観察されなかった(Benderら、2007)。更にLuらは(Luら、2007)は、乳腺特異的プロモーターの下流にbFcRnのcDNAを最大15コピー有するが顕著な表現型変化を伴わないTg系統についてのデータを示した。
【0109】
本明細書において「FcRn活性」という用語は、インビボで生じる一連のイベントを示すのに用いられる。現在の技術水準に関する記載において既に述べたように、FcRnは、新生児の腸を介して母体から新生児に母性免疫グロブリンを伝達する受容体としてげっ歯類で初めて同定され、その後、種々の研究により、各種起源の細胞内及び細胞間でのIgG輸送の調節においてFcRnが中心的役割を果たしていることが示された。本明細書のコンテキストにおいては、「FcRn活性」という用語は主にIgGが分解されないようにすることを意味する。従って、本明細書においてFcRnの活性はIgG−Fc結合能とIgG分解保護能と定義される。
【0110】
更に、本明細書で初めて開示されるように、本明細書中に用いられる「FcRn活性」という用語はまた、FcRnの体液性免疫応答向上能、より詳細には、IgMとIgGの合成促進をもたらす抗原特異的クローン性B細胞増殖促進能も意味する。
【0111】
FcRn活性は、例えば、そのメカニズムが血管の内側を覆う内皮細胞により主に仲介されていると考えられている、IgG保護プロセスの一以上のステップで判定することができる。これらの細胞内において、FcRnは主に初期/リサイクルエンドソーム中に存在し、ここで液相エンドサイトーシスにより取込まれたIgGと遭遇する。エンドソーム内の酸性環境により相互作用が促進され、結合したIgGとアルブミンは再度表面に戻され細胞から放出されるが、結合しなかったリガンドは下流に送られリソソームによる分解を受ける。
【0112】
しかしながら、これらのステップの幾つかは、その用語の一般的な意味とは離れてモデル化及び定義をすることができる。
【0113】
着目するIgGのFcRnに対する結合能、又はIgG定常部若しくはそのFc断片を含む分子のFcRnに対する結合能は種々のインビトロアッセイにより評価することができる。WO97/34631に種々の方法が詳細に開示されているが、この内容の全体を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0114】
IgG−FcRn間の結合を判定するための方法としては、例えば、約pH6でIgG−Fcをインビボで結合する機能を保持している、β2mとFcRnとの単離複合体を利用するインビトロアッセイがあり、結合したIgG−FcはpHが約7.2にシフトすると解離する。pHに関して本明細書中に用いられる「約」という用語は、その値から±0.2のpH値を意味する。FcRn/β2m複合体は、マイクロタイターウェルやフィルター、メンブラン、カラム、ビーズ等の固体支持体に結合させる。固体支持体によく用いられている材料は、ナイロン、ポリスチレン、ポリプロピレン、アガロースである。一般に、分子成分の接触は、通常適切に緩衝化された水溶液中に各成分を添加し、これら成分を互いに所定時間反応させることにより行われる。アッセイの構成によっては、異なる成分の添加と添加の間に洗浄工程が必要となる場合もある。これらの成分は、各成分間で生じる結合の判定に役立ち、競争的結合アッセイや直接的結合アッセイ、サンドウィッチアッセイ等の幾つかのよく知られたアッセイフォーマットに従って設定することができる。必要な結合工程が全て終了した後、本技術分野で通常用いられる技法、例えば放射性シグナル、酵素的シグナル、蛍光シグナル又は他のよく知られたシグナルを検出することにより検出を行う。測定されたシグナルは、比例的(例えば直接的結合アッセイの場合)又は競争的なものである。
【0115】
IgG−FcRn間結合を判定するための一般化された方法を、目的のIgGに結合する理想のFcRnヘテロダイマーを形成する、適切なFcRnα鎖及び/又はβ2m対を同定するために好適に適用することができる。この場合、様々な種に由来するFcRnα鎖又は突然変異の結果もたらされるFcRnα鎖と、目的のIgGに高親和性で結合するβ2mとが試験に用いられる。先ず、FcRnと結合することが知られているIgG(例えば、bFcRnに対するヒトIgG)を結合に適した条件下で用いる。この初期設定に続き元のFcRnα鎖を、異なる種のFcRnα鎖又はインビトロにおける突然変異誘発により生成されるFcRnα鎖で置換し、対象となるIgGへの結合性についてアッセイする実験を行う。得られた複合体の結合親和性を元の結合複合体と比較することにより、最適のFcRnα鎖を同定することができる。同様の方法を用いることにより、所定のFcRnα鎖と対を形成すべき最適と考えられるβ2mを見出すことができる。これに加えて又はこれに代えて、複数対のFcRnα鎖−β2m組合せ物を同時に試験するハイスループット技法を用いることができる。インビボにおけるIgG−Fc結合能を保持しているFcRn−β2m単離複合体は、各タンパク質をコードする設計された核酸を用いてインビトロ合成により製造することが好ましい。各タンパク質は別々に合成した後、共存させ複合体を生成させることができる。各タンパク質をコードするDNAセグメントは、組み換えベクター中、該ベクターのタンパク質発現を可能とする位置に導入することできる。例えば、制限エンドヌクレアーゼを用いた遺伝子工学によるこのようなDNAセグメントの操作技法は、本開示内容と参考文献((Ausubelら、1998)等)とから当業者にはよく知られている。当業者は、すぐ上に述べたインビトロでの方法に適する複合体の生成に使用することができる別の方法が存在することを認識している。或いは、適切な細胞源から内因性複合体成分を単離することもできる。
【0116】
目的のIgGのFcRnに対する親和性は、先に記載されているように(Karlssonら、1991;Popovら、1996)、例えばBIAcore2000(BIAcore Inc.)を用いた表面プラズモン共鳴(SPR)測定により測定することができる。この方法においては、FcRn分子をBIAcoreセンサーチップ(例えばCM5チップ(ファルマシアより入手))に結合させ、固定化したFcRnに対するIgGの結合性を一定の流速で測定し、BIA評価2.1ソフトウェア(BIA evaluation 2.1 software)を用いてセンサーグラムを得、これに基づきFcRnに対する、目的のIgG、定常部又はその断片の結合率と解離率を算出することができる。
【0117】
また、目的のIgG又はその断片のFcRnに対する相対的親和性は、競争的結合アッセイ等によっても測定することができる。目的のIgGを、FcRnが固定化された96ウェルプレートの各ウェルに量を変えて添加する。次いで、各ウェルに放射線ラベルした目的のIgGを一定量添加する。結合が見られた画分の放射能パーセントを野生型IgGの量に対してプロットすることで、その相対的親和性を曲線の傾きから算出することができる。更に、目的のIgG又はその断片のFcRnに対する親和性は、飽和度の研究(saturation study)及びスキャッチャード解析その他の手段(例えば、非線形回帰(曲線適合)計算)によって測定可能である。
【0118】
目的のIgG又はその断片がFcRnによって細胞内を横断的に運搬されることは、放射線ラベルIgG又はその断片とFcRn発現細胞とを用い、細胞単層の一方の側と他方の側における放射活性を比較するインビトロトランスファーアッセイにより測定することができる。
【0119】
インビボにおいてIgGを保護していることに基づきFcRnを同定する他のアッセイは、細胞培養アッセイである。FcRnを機能的に発現している培養物中の哺乳動物細胞は、既に存在している哺乳動物細胞から生じている細胞であるか又はこれから同定される細胞である。このアッセイでの使用に適した細胞はIgGを異化することができる細胞であり、これら細胞内のFcRnの発現によりこの異化作用が低減されるものである。インビボアッセイのコンテキストにおいて言及されるFcRnの機能的発現とは、FcRnα鎖−β2m複合体が目的のIgGに結合し、結合したIgGを分解から保護することを意味する。適切なFcRnα鎖を同定するためには、目的のIgGを種々のFcRnα鎖を発現している一連の細胞に接触させる。細胞は、正常な細胞機能に適切であり且つそれに資する条件下でインキュベートした後、IgG異化作用についてアッセイを行う。FcRnを発現していない対照細胞におけるIgG異化作用と比較してFcRn発現細胞におけるIgG異化作用の実質的な減少は、対象のFcRnα鎖がIgGを保護していることの指標となる。このアッセイはIgGへの結合、取込み、保護を介してFcRnの機能を検出する。本技術分野で知られた細胞株、そして免疫感作時に抗体を産生して選択される種の初代細胞もまた、細胞培養アッセイに用いることができる。このアッセイは、IgGへの結合に優れた細胞外部分と、免疫感作に用いられる種に特異的な膜貫通細胞質性セグメントとから構成されたハイブリッドFcRnα鎖分子の試験に重要である。
【0120】
現在の技術水準に関する記載において既に触れたように、FcRnは、MHCクラスI様α鎖とβ2−ミクログロブリン(β2m)から構成されるヘテロダイマー分子である。FcRnα鎖(認められているシンボル:FCGRT、認められている名称:Fc受容体、IgG、α鎖トランスポーター、Fc断片免疫グロブリンG受容体;新生児型Fc受容体、FcRnアルファ鎖)はその特異的な性質を分子に付与し、一方でβ2mは幾つかの異なるタンパク質複合体に遍在する成分である。当業者には明らかではあるが、本発明の方法を実施するためには、このヘテロダイマーの両サブユニットが十分量存在している必要がある。上述のように、免疫グロブリンの産生レベルを向上させる本発明の決定的な特徴は、FcRn分子のα鎖をコードする遺伝子を過剰発現させることである。しかしながら、機能性FcRnを生産するためには、他方の鎖であるβ2mが等モル量必要であることは明らかである。従って、本発明の実施に当たり、β2mの細胞内利用性について当業者は考慮しなくてはならない。Tg動物に対して行われた遺伝子的改変に基づくFcRnヘテロダイマーの期待されるレベルと、実際に測定されるFcRn活性との間の相関関係は、β2mの供給が不十分であることに起因する種々の問題の指標となる。これら両因子の評価方法は、当業者に利用可能であると共に本明細書にも記載されている。また必要に応じて、当業者であれば現在のトランスジェニック手法等を利用することによりβ2mレベルを上昇させることができる。特定の実施形態においては、同一又は異なる遺伝子構築物から及び/又はこれによって、FcRnα鎖とβ2−ミクログロブリン鎖の双方を同時に過剰発現するTg動物を提供することにより本発明を更に向上させることができる。
【0121】
FcRn活性について上で述べたセクションから明らかなように、ヘテロダイマーの組成はその活性を左右する重要な因子となり得る。従って本発明は、本発明に係るTg動物の免疫グロブリン血清レベルを上昇させるために、α鎖とβ2mの所望の組合せを提供することができる。FcRnの結合特性及び特異的親和性については上で詳述したが、FcRnヘテロダイマーのこれらの性質はまたそのサブユニットの組成によっても決定される。先行技術の記載で述べたように、ウシFcRnとヒトIgG間の結合強度はヒトFcRnとヒトIgG間よりも高い。従って、Tg動物のネイティブなFcRn分子よりも良好な結合特性を有するFcRn分子を提供することは本発明の重要なアスペクトである。特に、この目的は、本発明のTg動物における免疫グロブリン産生に最善と考えられる、FcRnのα鎖とβ2mの組み合わせを試験選択することにより達成することができる。これは、異種又は同一種由来のβ2m又は適切なα鎖を導入することにより達成することができる。当業者であれば、本明細書に詳述される結合特性の判定を行った後、本発明のTg動物に必要な変更を加えることができよう。従って、本明細書において本発明のTg動物に言及する場合、FcRn活性を有するタンパク質のα鎖をコードする遺伝子を含むだけでなく、必要に応じて、FcRn活性を有するタンパク質のα鎖をコードする遺伝子に加えβ2−ミクログロブリンをコードする遺伝子も含む動物を意味することが意図されている。
【0122】
また、β2mをコードする遺伝子構築物を非ヒト動物に導入することによりFcRn活性を向上させることも本発明の範囲内である。当業者であれば、この活性向上を達成するのに必要な条件を決定することができよう。FcRnのα鎖に関して述べたことはいずれも、β2−ミクログロブリン(β2m)の改変に適宜変更して適用される。
【0123】
また、改変の結果、上述した活性に関する要件を満たす機能性FcRn分子が得られる限り、α鎖又はβ2mの突然変異体を用いることも本発明の範囲内である。突然変異技術は分子生物学の当業者によく知られている。しかしながら、適切なFcRnタンパク質を決定するためには、活性に関する要件に代えて、突然変異体とネイティブタンパク質間に構造的相同性を確立し、これを利用することができる。ここで構造的相同性は、本発明に係るトランスジーンの特性評価のための利用可能な特徴ではあるが、これに限定されるものではないことを強調しておく。このFcRnタンパク質のα鎖は、本発明の教示に従って用いられるウシFcRnタンパク質の配列と約60%以上の配列同一性を有する。本明細書において「配列同一性」、「相同性」、「バリアント」という用語は相互交換可能に用いられる。あるアミノ酸が他のものと相同であるという場合には、対象となるあるアミノ酸配列の他の配列に対する配列同一性が少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、更により好ましくは少なくとも90%、また更により好ましくは少なくとも95%であることを意味する。配列が例えば少なくとも60%同一であるかどうかを決定するためには、EMBLのFastDBプログラム又はSWISSPROTデータベースを用いることができる。本技術分野でよく知られた他のアルゴリズムとそのコンピュータ化された形態もまた、この相同性の決定に用いることができる。
【0124】
特定の実施形態においては、FcRnタンパク質α鎖の突然変異体は機能性アルブミン結合部位を欠失している。上述したように、FcRnは免疫グロブリンとアルブミンのための独立した2箇所の結合部位を有する。アルブミンは、血清中のタンパク質量の3分の2を構成する67kDの分子である。アルブミンは、脂肪酸や胆汁酸、エイコサノイド、ビタミン、ホルモン、イオン、毒素、薬物等、非常に多種類の分子を輸送する。また、アルブミンは血液のコロイド浸透圧の大部分に預かり、血清の主なpH緩衝タンパク質である。通常の条件では、トータルIgGレベルは10〜15mg/mL(Manzら、2005)であり、アルブミンレベルは40〜48mg/mL(BeersとBerkow、1999)である。血漿の全コロイド浸透圧の約75%がアルブミン画分によりもたらされ、25%がグロブリン(大部分はIgG)によるものである(Guyton、1991)。IgGとアルブミンの分子量比の簡単な計算によれば(コロイド浸透圧を用いて計算)、IgGの分子量はアルブミンのほぼ3倍(150〜160kDaに対して67kDa)であるので、血漿膠質浸透圧(血清中のタンパク質画分に起因する圧力)に関して、IgG3単位による上昇がアルブミン1単位による上昇に相当する。従って、より多くの抗原特異的IgGを産生させるのにFcRnの過剰発現は有効となり得るが、あまりよくない状態、特にアルブミンレベルが正常レベルより高くなることを伴う状態に至る場合もある。FcRnが異なる2箇所でIgGとアルブミンに結合すること(Andersenら、2006;Chaudhuryら、2006)、そして最近の研究により、FcRnα鎖のアルブミン結合部位を突然変異により欠失させたことが、インビトロでのIgG結合性を失うには至らなかったことが示されたことから(Andersenら、2006)、これら2種のリガンド間には競争がないと結論付けることができる。
【0125】
競争作用を失わせた場合であっても、本発明に係るTg動物に存在するFcRnのコピー数によっては、動物に問題を引き起こし得るほど高いレベルにまで血清アルブミンレベルが上昇することがある。従って、アルブミン結合部位が非機能性とされたFcRn突然変異を有する動物であれば、本発明に従って有用な抗体をより良好に産生するよう機能することができる。アルブミン結合部位の機能を失わせる特定の突然変異の種類は、当業者であれば容易に決めることができると共に、必要な分子生物学的ステップ及びその他のステップを行うことによって、過度の実験的負荷を伴うことなしに本発明に係るTg動物を作製することができよう。
【0126】
本明細書において既に触れたように、本発明に係る動物の健康状態全般は、本発明を経済的に実行可能な方法で実施する上で非常に重要である。本明細書に示すTg動物は、病的症状を呈することなく一年以上生存した。
【0127】
本発明の他の実施形態においては、本発明に係る方法は、FcRn活性を有するタンパク質であって、Tg動物のFcRnタンパク質の内因性細胞内ドメインと外来性細胞外ドメインとが組み合わされたキメラα鎖を含むタンパク質を有するTg動物を用いる。細胞外ドメイン成分は上述のように選択される。この実施形態においてキメラα鎖は、トランスジーンによってコードされるタンパク質が、その細胞内シグナル伝達性がレシピエント動物のものと一致しないことに起因し正しく機能しないという状態を克服する助けとなることができる。これによりFcRnヘテロダイマーが機能を失うこともあるが、外来受容体の優れた免疫グロブリン結合能はこのようなキメラ体の利用を有意義なものとしている。当業者であれば、本実施形態のキメラ受容体を作製するために、現在の技術水準である遺伝子工学的手法を容易に適用することができよう。
【0128】
本発明の他の好ましい実施形態においては、本発明のTg動物は、ヒト又はヒト化された免疫グロブリンを産生させるために既にトランスジェニックされた動物から作製される。本技術分野は、Tg動物にヒト又はヒト化免疫グロブリンを産生させる重要性を認識しており、最近、様々な種でこのような動物が作られている。インビボにおけるヒトの治療のための低免疫原性mAbの産生を目的とした一技術は、ヒト抗体遺伝子配列レパートリーを発現するTgマウスを使用している。将来的には、この技術をげっ歯類の範疇を越え拡張させてTg家畜(ウシやウサギ等)に、ヒト配列からのポリクローナル血清(Lonberg、2005)を直接産生させることが可能となろう。US2006117395は、その内因性抗体の不活化及び発現抑制をもたらし外因性抗体(好ましくはヒト抗体)を発現させる遺伝子改変を含むTgウシの作製について記載している。これは、ウシIgM重鎖の発現抑制(任意的にウシIg軽鎖の発現抑制)と、更に非ウシ抗体(好ましくはヒト抗体)を発現させる人工染色体の導入とにより行われる。US20070033661は、非ヒトトランスジェニック動物における免疫グロブリンの発現を向上させる他のアプローチを開示しており、これはB細胞特異的プロモーターによって特に該動物のB細胞中において発現が駆動されるアポトーシス阻害剤を過剰発現させることによりB細胞の生存率を向上させるアプローチである。WO0212437は、種々のヒト化免疫グロブリンを産生させるために、遺伝子再構成と遺伝子変換が可能な一以上のヒト化免疫グロブリン遺伝子座をTg非ヒト動物中に含むように遺伝子操作されたTg非ヒト動物から産生されるヒト化抗体を開示している。最近になって、ヒト化抗体レパートリーを発現するTgウサギが報告された(Thoreyら、2006)。
【0129】
本発明は、免疫グロブリン産生向上という著しい利益をこれらTg動物に提供する。例えば、本発明において概説された手続に従いFcRnトランスジーンの選択及び導入を行うことにより、レシピエント動物によって産生される免疫グロブリン(内因性免疫グロブリン又はトランスジェニック技術により産生されたヒト若しくはヒト化抗体)にとって最も有効なFcRn結合パートナーを用いることができ、これらTg動物における免疫グロブリン産生の最適化を確実に行うことができる。従って本発明は、出発点で既にヒト又はヒト化免疫グロブリンを産生するTg動物を用いて、FcRnα鎖の一以上のコピーを導入し且つ本発明の利点を提供することを意図している。或いは、ヒト化免疫グロブリン産生Tg動物と、本発明に従って作製された動物とを交配させることにより、本発明によって提供される有利な表現型を有する二重トランスジェニック動物を作製することができる。
【0130】
本発明は他のアスペクトにおいて、動物の血清中における向上したレベルの免疫グロブリンを産生させる方法であって、上述のTg動物を提供することと、免疫グロブリン産生のための確立された任意の免疫感作プロトコールに従って該動物を使用することとを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0131】
本発明の更なるアスペクトにおいては、免疫応答の向上は、抗原特異的クローン性B細胞の増殖促進を含む。B細胞のクローンの増殖と免疫グロブリン合成を介した免疫応答の調節におけるFcRnの役割については、本明細書において初めて報告される。これは驚くべき予想外の知見である。機能性FcRnを欠損させた動物における体液性免疫状態について記述した研究の大部分と、β2mノックアウトマウスに関する初期の研究又はFcRnα鎖ノックアウト動物に関するより最近の研究においては、IgG合成障害が示されず、IgGの低血清レベルはこれら動物におけるIgG保護障害によるものとされた(JunghansとAnderson、1996;Roopenianら、2003)。しかしながら他の研究により、β2mを欠損した動物においてIgG合成が低下したと報告されたものの、その明確な説明をするには至っていなかった(Ghetieら、1996;Israelら、1995)。
【0132】
本明細書に示されるように、wt動物に比べTgマウスでは、OVA免疫感作後25日でOVA特異的IgM分泌細胞数が2倍になると共にOVA特異的IgG分泌細胞数が3倍になった。抗原特異的なB細胞クローンの増殖促進は、細胞数とは別に観察されたように、Tgマウスの脾臓がwtマウスのそれと比較し著しく大きいという知見によって一部説明することができる。より増強された免疫反応は、その細胞性免疫学的プロファイルにより更に支持されるものであり、このプロファイルによれば、Tg、wtマウスにおける免疫感作後の細胞成分の割合に同様の変化が観察されたが、Tgマウスの示した変化は極めて急激なものであった。両グループにおいて、中程度ではあるが意義深いCD11b+/CD11c+/MHCIIの上昇に伴いB220、CD3発現細胞が減少し、CD11bhigh/Gr−1highを有する細胞の流入の程度が非常に大きくなったことから、二次免疫応答で脾臓に流入した主たる細胞集団は好中球と、そしてこれより程度は小さいが、マクロファージ及び/又は樹状細胞であったことが示唆される。従って本発明の他のアスペクトにおいては、免疫応答の向上は、好中球、マクロファージ及び/又は樹状細胞の二次リンパ器官への流入を刺激することを含む。
【0133】
抹消リンパ器官又は二次リンパ器官は、適応免疫応答が開始されリンパ球が維持される部位である。これはリンパ節、脾臓及び粘膜リンパ系器官である。従って好ましい実施形態においては、二次リンパ器官は脾臓及びリンパ節である。
【0134】
FcRnの発現は単球、マクロファージ及び樹状細胞において観察されるものの(Sachsら、2006;Stirlingら、2005;Zhuら、2001)、これら細胞におけるその機能については依然としてはっきりしておらず、免疫グロブリンの合成に直接的な影響を及ぼすFcRnの抗原提示における役割についても依然明確ではない。一方、より最近の研究により、FcRnが多形核白血球と単球におけるIgG仲介食作用において主要な役割を果たすことが明らかになった(Vidarssonら、2006)。Tgマウスの腹膜由来の好中球とマクロファージにbFcRnの発現が検出されたことから、これらの細胞においてFcRnを過剰発現させることにより、(免疫複合体としての)抗原の食作用向上、更には抗原提示の向上もが仲介され、これにより抗原特異的なIgMとIgGを産生するより多くの形質細胞を二次リンパ器官中に得ることができる、という仮説を立てることができる。仮にこの理論が正しければ、この向上はIgGが産生された時点で明らかとなるが、それ以前の段階では明らかとはならない。実際にIgM価の上昇は、主に二次免疫応答において、OVA特異的IgGの生成後にはじめて見られる。しかしながら、脾臓の細胞性免疫学的プロファイルの解析から、免疫感作後の脾臓に流入した主たる細胞種は好中球であることが示された。他の最近の報告によれば(Malettoら、2006)、特異的免疫応答が生じIgG−抗原免疫複合体が形成された時点でのリンパ器官において、抗原を有する主な細胞集団を好中球が構成しているとのことである。また、二次リンパ器官の好中球は主にTNFαを発現しており、確立される二次免疫応答の質に寄与していることが示された。この知見は、本発明者らのwt、TgマウスにおいてCD11bhighとGr−1highを有する細胞の著しい流入が見られたことに対する妥当な説明を与える。TgマウスがOVA特異的IgGを遥かに多く産生しこれらの細胞においてFcRnが過剰発現していたことを考慮すると、Tgマウスにおいてより多くのこれら細胞が脾臓に流入したこと、抗原特異的なB細胞クローンの増殖がより促進されたこと、その結果として、野生型コントロールに比べより安定的な抗体応答が得られることも説明することができる。
【0135】
本発明の重要なアスペクトにおいては、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を含むTg動物を、同一種の非トランスジェニック対照動物と比べてより少ない抗原接種回数でこれと同一レベルの体液性免疫応答が発現される非治療的方法において用いることができる。本発明の特徴は、一度に大量の抗血清が必要な場合や(時に高価な抗原を用いて)大多数の動物に並行して免疫感作を行う場合に非常に有利である。追加免疫注射を一回省略することができただけでも、コスト削減には重要である。
【0136】
本発明の他の重要なアスペクトにおいては、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を含むTg動物を、同一種の非トランスジェニック対照動物と比べてより早くこれと同一レベルの体液性免疫応答が発現される非治療的方法に用いることができる。当業者であれば、本発明に係る動物を用いる場合に適切な免疫感作プロトコールに従うこと、そして産生された抗体の適切な回収時期を決めることは容易であろう。ヤギやヒツジその他大きな動物等の抗体産生用動物を繰り返し用いる場合には、本発明のこの特徴は抗血清の回収サイクル時間を改善させるに至り、その商業的意味は明白である。プロトコールの最後でウサギ等の動物を殺す場合には、商業的利益が更に大きくなる。即ち、顧客から供給される抗原に対するカスタムメイドの抗血清を提供することに特化している抗体製造業者は、依頼された抗血清をより早く提供することができるので、科学的発展が加速し競争が激化している今日において顧客が望まれるポジションに位置することが可能となる。
【0137】
本発明は他のアスペクトにおいて、アルブミンの製造を可能とする確立された任意のプロトコールに従って、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を含むTg動物を使用することを含むアルブミン製造方法を提供する。上述したように、FcRnは免疫グロブリンとアルブミンのための独立した2箇所の結合部位を有する。この場合、2種のリガンド間で競争はないものの、当業者であれば、アルブミンの産生向上を望む場合には本発明に係るTg動物が有用であることは容易に認識されよう。しかしながら、アルブミンレベルが高すぎると動物の健康状態に悪影響を及ぼすことがある。従って、本発明に係る動物をアルブミン産生のために用いる場合には、特に、動物中における機能性FcRn遺伝子のコピー数について注意が必要である。
【0138】
関連の実施形態においては、Tg動物によって保持される遺伝子構築物は、突然変異されたFcRnタンパク質α鎖であって、免疫グロブリン結合部位が除去されたα鎖をコードする遺伝子を過剰発現させる。従って、非機能性免疫グロブリン結合部位を含む突然変異されたFcRnを有するTg動物は、本発明に従ってより良好に機能しより多くのアルブミンを産生することができる。免疫グロブリン結合部位の機能を失わせる特定の突然変異の種類は、当業者であれば容易に決めることができると共に、必要な分子生物学的ステップ及びその他のステップを行うことによって、過度の実験的負荷を伴うことなしに本発明に係るTg動物を作製することができよう。
【0139】
本発明は更なるアスペクトにおいて、本発明に係るTg動物又は本発明に係る方法によって得られるTg動物から得られる動物繁殖材料であって、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を含む動物繁殖材料を提供する。本明細書において「動物繁殖材料」という用語は、実質的に自身と同一の遺伝子組成を有する他の動物を当業者が作製することを可能とする動物に由来する任意の生物材料を意味する。動物繁殖材料は好ましくは、精子、精原細胞、卵子、卵巣組織、胚及び体細胞クローニング用組織サンプルから成る群から選択される。
【0140】
本発明は他のアスペクトにおいて、免疫応答の変化に関する条件について試験するのに有用なモデル動物の体液性免疫応答を向上させる方法であって、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を前記動物に導入するステップを含むことを特徴とする方法を提供する。好ましい実施形態においては、提供されるTg動物は自己免疫疾患用モデル動物に適している。本明細書での記載に基づけば、向上したFcRn活性を有する動物は向上した全体的な血清免疫グロブリンレベルを有しており、自己免疫状態に至る病態をより高レベルで及び/又は長期に亘って保持していることは明らかである。この種の動物は、自己免疫状態を治療するための化合物の試験又はそれに関連する他の目的のために有用である。
【0141】
当業者であれば、本発明がその利点により、本発明の精神を維持しつつ更なる応用に適用されるべき対象となることが理解されよう。従って本発明は、目的とする抗原に対する体液性免疫応答を向上させる必要のある患者の遺伝子治療に使用する遺伝子構築物であって、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を提供する。
【0142】
関連の実施形態において本発明は、免疫応答を向上させる必要のある患者を治療する方法であって、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を前記患者に導入することを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0143】
FcRn活性の向上について、血清中の免疫グロブリンの維持に非常に有利であることが本明細書全体を通して示されている。ネイティブな免疫グロブリン産生レベルが正常状態よりも実質的に低く重篤な疾患に至るIgGサブクラス欠損症、分類不能型免疫不全症(CVID)、X連鎖無ガンマグロブリン血症、など数種の疾患及び不全がある。治療計画は通常、天然の欠損症においてそれらのレベルを増大させるために、大量の治療用免疫グロブリンを様々な量で投与することを含む。本発明の精神においては、本発明の遺伝子構築物を用いる遺伝子治療により、外因性免疫グロブリンの投与の必要性を小さくすることができ、また治療頻度の減少につながり且つネイティブに産生された免疫グロブリンの保持期間が長くなる。
【0144】
当業者であれば、本発明がその利点により、本発明の精神を維持しつつ更なる応用に適用されるべき対象となることが理解されよう。従って本発明は、天然の免疫グロブリン産生により内因的に生成されるか又は治療手段により外因的に生成される血清免疫グロブリンレベルを上昇させる必要のある患者の遺伝子治療に使用する遺伝子構築物であって、前記遺伝子構築物は向上したFcRn活性を提供し、前記FcRnは、前記患者によって産生されるか又は前記患者に投与される免疫グロブリンに特異的な親和性を有することを特徴とする遺伝子構築物を提供する。
【0145】
関連の実施形態においては、本発明は、血清免疫グロブリンレベルを上昇させる必要のある患者を治療する方法であって、向上したFcRn活性を提供する遺伝子構築物を前記患者に導入することを含み、前記FcRnは、前記患者により産生されるか又は前記患者に投与される免疫グロブリンに特異的な親和性を有することを特徴とする方法を提供する。
【0146】
好ましい実施形態においては、本発明に係る遺伝子構築物又は方法はヒトである患者に対して用いられる。
【0147】
他の実施形態においては、本発明に係る遺伝子構築物又は方法は、FcRnタンパク質のα鎖をコードする遺伝子を過剰発現させる。更に好ましい実施形態においては、FcRnのα鎖をコードする遺伝子は、該遺伝子の一個より大の機能的コピーを前記患者のゲノムに組み込むことにより過剰発現される。
【0148】
他の実施形態においては、本発明に係る遺伝子構築物又は方法は、FcRnタンパク質のα鎖をコードする遺伝子を内皮細胞にのみ過剰発現させる。遺伝子組み換えのための適切なベクターを作製するために当業者が用いることができるヒト(Cowanら、1998)又は他の動物種(Haoら、2006)の内皮特異的プロモーターが数種存在する。
【0149】
非ヒトTg動物に関して上で行った検討事項はいずれも、ヒトに対する本発明の遺伝子治療アプローチを適宜変更する際にも適用可能である。
【実施例】
【0150】
実施例1−bFcRnα鎖遺伝子(bFCGRT)を有するBACクローンの単離及び特性評価
bFCGRTを有するBACクローンの単離
雄性成体(2才)ボスタウラスジャージーのリンパ球由来DNAを用いて作製されたウシBACライブラリーから90αBACを単離した(ドイツヒトゲノムプロジェクトのリソースセンター/プライマリーデータベース(RZDP)、マックスプランク分子遺伝学研究所、ベルリン、ドイツから取得;http://www.rzdp.de/)。bFcRnα鎖mRNA(206〜425bp;GenBank AF139106)特異的プライマーを用いたPCRスクリーニングによりbFCGRT陽性BACクローンを同定すると共にこれをPCR増幅した(BFcIS:5’−CAGTACCACTTCACCGCCGTGT−3’(SEQ.ID.NO.1);BFcIas:5’−CTTGGAGCGCTTCGAGGAAGAG−3’(SEQ.ID.NO.2)]。次のステップとして、bFCGRTのDNA配列を、この遺伝子のエキソン部分にアニールするプライマーを用いて決定した(Kacskovicsら、2000)。bFCGRT上流のフランキング領域を分析するために、BACのDNAをBamHIで消化し、消化後のDNAをアガロースゲル上で分離した。α1ドメイン由来のDNA断片をプローブとして用いてサザンブロットを行うことにより9kb長の陽性バンドを検出した。次いで、この9kb長のBamHI断片をpGEM−11zf(+)ベクターにサブクローン化した。更にサブクローニングプロセスを行うことにより、エキソン1〜エキソン3と2kbのプロモーターセグメントとを同一ベクター内に得た。続いて、ABI Prism BigDye Terminator Cycle sequencing Ready Reaction Kit(ABI、373A−Stretch、Perkin Elmer)(Cybergene Company)(フディンゲ、スウェーデン)を用いてインサートの配列を完全に決定した。
【0151】
bFCGRT特異的プライマー:FcRnF:5’−CGGCCACCTCTATCACATTT−3’(SEQ.ID.NO.3)及びFcRnR:5’−TGCATTGACCACACTTGGTT−3’(SEQ.ID.NO.4)(GenBank NW 929385)を用いて、ウシBACライブラリー(Eggenら、2001)から189HO2BACと128E04BACを単離した。単離したBACクローンのインサートサイズは、これらクローンをNotI制限エンドヌクレアーゼで消化することにより分析した。Expand Long Template PCR System(Roche)を用いて、インサート中のbFCGRTの5’、3’ボーダー領域のサイズを決定した。2セットのプライマーを設計し、pBAC−アッパープライマー(5’−ACCTCTTTCTCCGCACCCGACATAG、SEQ.ID.NO.5、U80929 11380−11404)とbFcRn−アンチセンスプライマー(GTTCAAGTCCAAAGGCAGGCTATCT、SEQ.ID.NO.6)を用いて5’オーバーハング領域を増幅し、他方、bFcRn−センス(CCTTTACCCACACCCACTCCCCACA、SEQ.ID.NO.7)とpBAC−ローワー(AGAAGTTCGTGCCGCCGCCGTAGTA、SEQ.ID.NO:8、U80929、3801−3777)(アンチセンスプライマー)を用いてbFCGRTの3’オーバーハング領域を増幅した。
【0152】
bFCGRTの特性評価
bFCGRTの転写開始点の上流領域約1800bpとbFCGRT遺伝子全体の配列を決定し、NCBIに寄託されたウシゲノム配列とBLASTプログラムを用いて比較した。配列を決定した断片について、RepeatMaskerプログラム(Smitら、1996〜2004)(http:repeatmasker.org)を用い散在反復配列と低複雑度DNA配列に基づいてスクリーニングした。RepeatMaskerによってスクリーニングされる散在反復配列データベースは、反復データベースに基づいている(Repbase Update;(Jurkaら、2005))。得られたデータはNCBIに寄託されたウシ配列とよく一致しており、第1イントロンに属する2002〜2287bp間に285bp長のギャップを有するものの、最初の3477bp(未配列決定2.5kb領域まで)はクローンNW 929385(ボスタウラス染色体18ゲノムコンティグ)と99%の同一性を示す。分析された配列の第2の部分は、同一のゲノムコンティグと99%の同一性を示す1780bp(未配列決定2.5kbセグメント以後)を含んでいた。この断片もまた、イントロン6に属する167bp長のギャップ(1203〜1370bp)を有している。2個の未同定セグメントは反復配列(単純反復)を含んでおり、このことは相同性がないことを説明している。これらのアラインメントに基づいて欠失部分のサイズを計算したところ2556bpであった。従ってこの配列は、648611〜656426bpの間でウシゲノムコンティグNW 929385と高い相同性を示すことが分かった。
【0153】
また、入手可能なbFcRnα鎖cDNA配列を(ESTデータベース(NCBI)から取得した配列及び参照配列と共に)bFCGRTゲノム配列にアラインメントすることにより転写開始部位を分析した。ウシ、ヒト、ラット、マウスの各FCGRTのゲノム構成について、NCBI Map Viewerを用いて比較した(データは示さず)。
【0154】
bFCGRT陽性BACクローンの特性評価
ウシ新生児型Fc受容体α鎖遺伝子(bFCGRT)とそのゲノム環境を含む、3種のBACクローン90α、189HO2及び128E04を単離した。NotIによる消化後、BACベクター由来のゲノムインサートをパルスフィールドゲル電気泳動で分析したところ、クローン189HO2、クローン128E04及びクローン90αがそれぞれ、約130kbサイズのウシゲノムインサート、約100kbサイズのウシゲノムインサート、約90kbサイズのウシゲノムインサートを含むことが示された。
【0155】
次いで、bFCGRT遺伝子のボーダー領域のサイズを長距離PCRで決定した。得られたデータから、90αBACと189HO2BACが、それぞれ8.5kbと14kbの5’、3’フランキング領域を含んでおり(これはそのサイズに対応している)、組込み部位に依存しないbFCGRT遺伝子の組織特異的発現を確実に行わせる調節エレメントの全てを有しているとは限らないという可能性が示された。2個のプライマーセットを用いたクローン128HO2のPCR増幅からは産物は何ら得られなかった。Expand Long Template PCR Systemは安定的な増幅方法であり、ファージDNAから最長25kbのアンプリコンを生成することから、本発明者らは、このクローンのbFCGRTの5’、3’双方のボーダー領域は25kbよりも長いという結論に至り、128E04BACをマイクロインジェクション用に選択した。
【0156】
ウシゲノムリソース(ウェブサイト:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/genome/guide/cow/)の最近のデータと128E04BACの5’、3’末端配列を用いて、本発明者らは、bFCGRTボーダー領域の正確なサイズとゲノムコンテキストを決定することができた:5’調節領域は44kbまで伸長しており、3’は50kb長である。データから、128E04BACは5種の推定タンパク質コード遺伝子(FLT3LG、LOC539196、LOC522073、LOC511234、LOC511235)とbFCGRTを含んでいることが示された(図1A)。
【0157】
実施例2−ウシBAC128E04を有するトランスジェニックマウスの作製と遺伝子タイピング
マイクロインジェクション用BACクローン128E04からの102kbゲノムインンサートの調製及びウシBAC128E04を有するトランスジェニックマウスの作製
Schedlら(Schedlら、1996)によって公開されたプロトコールを一部変更してマイクロインジェクション用BAC(クローン128E04)DNAの調製を行った。精製したBAC(極低コピープラスミド用Qiagen plasmid purificationにて)をNotI(Fermentas)で消化して目的のインサートを遊離し、プレパラティブパルスフィールド1%アガロースゲルで単離した。このインサートを含むゲルスライスをLMP(低融点)ゲルと混合し、Gelase(Epicentre)で消化した。Microcon YM50(Millipore)カラムを用いて、アガロースからインサートを分離した。このインサートを、マイクロインジェクションに適切なバッファー(10mM Tris−HCl、pH7.5、0.1mM EDTA、pH8.0、100mM NaCl(0,03mMスペルミン/0,07mMスペルミジン(SIGMA)含有又は不含))中に溶出させた。DNAの濃度は、マイクロインジェクションバッファー(10mM Tris−HCl、pH7.5、0.1mM EDTA、100mM NaCl)を用いて0.4ng/μLに調整し、受精したFVB/Nマウス卵母細胞に注入した。レシピエントは10週齢のCD1雌性とした。実験動物は、Charles Rivers Laboratories Hungary Ltd.(ブダペスト)から得た。
【0158】
トランスジェニックマウスの特性評価
マウス中にbFCGRTが存在するかどうかを検出するために、胚移植により生誕した同腹子と、ファウンダーのG1、G2子孫の尾部バイオプシーによりゲノムDNAを単離し、PCR増幅を2回行うことによりスクリーニングした。2種のプライマーペアは、90αBACクローンのbFCGRT配列に基づき設計した。第1のプライマーペアは、センスとしてのbFcSuf:5’−CTCCTTTGTCTTGGGCACTT−3’(SEQ.ID.NO.9)と、アンチセンスとしてのBFcL5’−GCCGCGGATCCCTTCCCTCTG−3’(SEQ.ID.NO.10)から成り、これらは600bpの産物(1275〜1894bp)を与え、一方、第2のプライマーペアは、センスとしてのFcrnfpr/in5’−AAAGTTTCTCGAGAGAGGCAGAGAC−3’(SEQ.ID.NO.11)と、アンチセンスとしてのFcrnrpr/in5’−TAGTTACAGAGCCTGGATAGGCTGA−3’(SEQ.ID.NO.12)であり、これらは410bpの産物(1698〜2108bp)を与えた。形質転換実験の結果は表1に示す。
【0159】
【表1】
【0160】
表1に示すように、合計41匹のパブ(pub)が生誕し、bFCGRTの有無について尾部DNAを遺伝子タイピングした。6匹のファウンダーから3種の独立したTg系統を確立した。これら系統の内の2系統である#14と#19は、第1世代においてトランスジーンの遺伝はメンデルの法則に従うパターンを示した(それぞれ合計30匹又は34匹の同腹子のうち、17匹又は12匹がトランスジーンを有していた)。一方、第3の系統である#9はファウンダー動物においてある程度のモザイク現象を示した。Tgマウスは、その同腹子と重量及び健康状態全般において区別がつかなかった。
【0161】
長距離トランスジーン完全性の解析
ウシゲノムマップ(GenBank Map Viewer Build 3.1(Btau3.1に基づく)ウシ染色体18;53543852〜53652024bp間の領域)に基づいて、導入したBACに局在する5種の推定タンパク質コード遺伝子用とBAC128E04の5’、3’末端用に設計した特異的プライマーペアを用い、3種のTg系統におけるトランスジーンの完全性について評価した。プライマー配列及び条件は表2に示す。
【0162】
【表2】
【0163】
BAC128EOHの5’末端配列とBAC128EOHの3’末端配列をA.Eggen(Inra、Jouy−en−Josas、フランス)より得た。プライマーペアはいずれも、128E04BAC及びウシゲノムDNAと同一のPCR産物を与え、系統#9DNA以外ではインタクトなBACの組み込みが示された。系統#9では、LOC511234、LOC522235及びBAC128E04の3’末端特異的PCRにおいてPCR産物が得られなかった(図1B)。従ってこのTg系統では、組み込まれたBACトランスジーンの3’末端から推定30kb長の断片が欠失したと結論付けることができる。大きなトランスジーンにおいて、5’、3’両末端からゲノム断片が欠失することはよく見られる現象である(Raguzら、1998)。しかしながら、場合によってはBACDNAの欠失部分に存在していた可能性もある特性評価されていない調節エレメントが存在しないことにより、bFCGRTの発現が影響を受けるという可能性を排除するために、系統#9に対する更なる研究は行わなかった。
【0164】
トランスジーンの染色体位置
両トランスジェニック系統のマウス染色体の同一セグメントにウシBAC128E04クローンが偶発的に組み込まれてトランスジェニックマウス系統#14と#19の表現型がトランスジーンの組み込み部位における(一以上の)未同定遺伝子の挿入突然変異の影響を受けるという可能性を排除するために、蛍光インシチュハイブリダイゼーション(FISH)により128E04トランスジーンのゲノムへの組み込みを可視化させた。128E04BACDNAを、ニックトランスレーションによりビオチン−14−dATP(BioNick標識化キット、インビトロジェン、USA)で標識した。次いで、低張処理とメタノール:酢酸(3:1)固定とを含む標準的なプロトコールに従い、分裂期染色体をビンブラスチン処理済み線維芽細胞から得た。この線維芽細胞は、13.5日齢のホモ接合体である#14胚と#19胚のそれぞれから単離したものである。
【0165】
先の記載(Hayesら、1992)に従って効率的にFISHを行った。ビオチン化プローブを変性し、変性染色体スプレッドに37℃で一晩ハイブリダイズさせた。ヤギに産生させた抗ビオチン抗体(Vector Laboratories Inc、バーリンゲーム、CA)で染色体のハイブリダイゼーション部位を増幅し、フルオレセイン結合ウサギ抗ヤギIgG(Nordic Immunological Laboratories、ティルブルフ、オランダ)と共に更にインキュベーションすることにより可視化した。ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI;Vector Laboratories、バーリンゲーム、CA)で染色体調製物を対比染色し、Nikon Eclipse E600落射蛍光顕微鏡(ニコンインスツルメンツ;川崎、日本)で観察した。蛍光イメージはCohu 4910 CCDカメラ(Cohu、Inc.;サンディエゴ、CA、USA)で撮像し、アップルマッキントッシュG4コンピューターに接続されたMacProbe 4.3 FISH ソフトウェア(Applied Imaging;ニューカッスルアポンタイン、UK)を用いてデジタル化した。
【0166】
FISH解析の結果から、蛍光標識BAC128E04がマウス系統#14及び#19それぞれの全く異なる染色体セグメントにハイブリダイズしていることが示された。これは、表現型が組み込み部位依存的であるという可能性を排除するものである。染色体中に見られる1個のスポットは、複数のコピー(系統#14では2、系統#19では5)の組み込みトランスジーンがタンデムリピートを形成している可能性が非常に高いことを示す(図2)。
【0167】
実施例3−ウシFCGRT(bFCGRT)遺伝子のコピー数のFcRn発現量に対する影響
リアルタイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応によるトランスジーンのコピー数の決定
リアルタイムPCRは、Tg動物におけるトランスジーンのコピー数と接合性を決定する定量的且つ精確な方法である(Tessonら、2002)。128E04BACトランスジーンのコピー数は、次のようにして、bFCGRTと内部標準マウスβ−アクチン遺伝子の絶対定量法により決定した。
【0168】
128E04BACトランスジーンのコピー数は、ABI Prism 7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems、Foster City、CA)を用いてTaqMan法により決定した。プライマーとプローブのオリゴヌクレオチド配列は、デフォルトパラメーターを用いてPrimer Express v2.0プログラム(Applied Biosystems)により設計した(プライマーとプローブは表3に示す)。従来のフェノール/クロロホルム法を用いると共にクロロホルム抽出ステップを行うことにより、ヘミ接合性動物の尾部サンプルからDNAを抽出した。
【0169】
【表3】
【0170】
各サンプルにおけるマウスβ−アクチン遺伝子とbFCGRT遺伝子を、検量線を用いた絶対定量法により定量した。最大32倍希釈の5点を使用した標準曲線は、各プライマーセットで高い線形性を示した。PCRによる定量の線形性と効率について定量前に評価した。各サンプルは2連にして行った(図3)。
【0171】
各細胞中2コピーの内因性β−アクチン遺伝子を、DNA濃度を決定する内部標準として用いた。マウスゲノムDNAを用いて、β−アクチン遺伝子の検量線を作成した。bFCGRT遺伝子の絶対定量は、マウスゲノムDNAを添加した128E04BACの段階希釈物を用いて作製した標準曲線に基づき行った。bFCGRT遺伝子のコピー数は、標準曲線を用い次の計算に基づいて決定した。即ち、DNA量を正確に測定しこれからサンプル中の2倍体ゲノム数を決定し、bFCGRT遺伝子の検量線から系統#14と#19由来のヘミ接合性動物のDNAサンプル中のコピー数を決定した。これらの計算を行った後、Tgマウス系統#14及び#19のヘミ接合性動物それぞれにおけるbFCGRT遺伝子のコピー数を2及び5であると決定した(表4)。
【0172】
【0173】
逆転写酵素PCRとノザン分析による、転写レベルでのコピー数決定
RNAzol(登録商標)B(TEL−TEST INC)を用いて、6週齢雌性の肝臓、肺及び乳腺と新生児の腸からトータルRNAを抽出した。モロニーマウス白血病ウィルス(M−MLV)の逆転写酵素と、製造業者(Acces RT−PCR System;Promega)により推奨されている(dT)17−アダプタープライマーとを用いて2μgのRNAを逆転写した。プライマーペア:B7 5’−GGCGACGAGCACCACTAC−3’(SEQ.ID.NO.35)及びB8 5’−GATTCCCGGAGGTCWCACA−3’(SEQ.ID.NO.36)(ここで、WはA又はTのいずれかになり得る)を用いてPCRを行うことにより、367bp長のbFCGRT特異的アンプリコン(914〜1280bp、(Kacskovicsら、2000))を得た。増幅セグメントは1%アガロースゲル電気泳動により分離しエチジウムブロミドで染色した。
【0174】
反芻動物のFcRn転写産物は多数の上皮細胞に検出されると共に(Kacskovicsら、2006b;Mayerら、2004;Mayerら、2002)血管内皮細胞においても検出された(Kacskovicsら、2006a)ことから、bFcRnα鎖の発現は、泌乳Tg雌性成体の肺、肝臓及び乳腺と、新生児の腸についてRT−PCRを用い解析した。ウシFcRnα鎖のmRNAは、系統#9、#14、#19由来ヘミ接合性動物の、選択したいずれの組織においても発現していた(図4A)。
【0175】
トランスジーン発現量のコピー数依存性について評価すると共に内因性ウシFcRnα鎖のmRNA量とこの発現量を比較するために、系統#14及び#19のそれぞれとウシに由来する肝臓RNAサンプルを、ノザンブロットを用いて分析した。トータルRNAを若年成体雌性マウスの肝臓から単離し、5μgのトータルRNAを1%アガロース/2.2Mホルムアルデヒドゲルでサイズ分画し、Hybond N+メンブラン(Amersham)に移した。次いで、上述のB7及びB8プライマーを用いてPCRにより合成した32P標識cDNAプローブをハイブリダイズさせた。18SRNAシグナルを内部標準として用いて、ゲル中のRNAローディング量を評価した。得られたシグナルは、PhosphorImager(登録商標)を用いて評価すると共にSTORM(登録商標)(Molecular Dynamics)で定量した。コピー数が2、4、5及び10のTgマウス間におけるbFcRnmRNA特異的シグナル密度の比較をスチューデントのT検定により行った。
【0176】
結果から、系統#19におけるトランスジーンmRNA発現レベルがより高いことが分かる。BACトランスジーンを2コピー有する系統#14ヘミ接合性Tgマウスの肝臓でのmRNA発現レベルは、ウシの肝臓におけるレベルの90%に達していた(図4B)。
【0177】
両Tg系統に由来する2又は3匹のヘミ及びホモ接合体動物のシグナル強度の統計的評価と定量分析とから、Tgマウスの肝臓におけるウシFcRnα鎖のmRNA量はそのトランスジーンのコピー数と厳密に相関しており、その差はp<0.05確率水準で有意であることが示された(図4C)。トランスジーンのコピー数が2であるTgマウスの肝臓でのFcRnα鎖mRNA発現レベルがウシの肝臓でのmRNAレベルと同等であるという事実と共にこの結果は、128E04BACは、コピー数依存的ではあるが位置依存的ではないbFCGRT発現を保証するのに必要な調節エレメントを全て有することを示している。
【0178】
トランスジェニックマウスの肺におけるbFcRnα鎖タンパク質の検出
ウシFcRnα鎖のタンパク質レベルでの発現をウェスタン分析により検討した。タンパク質抽出物をポリアクリルアミド変性トリスグリシンゲルで分離し、アフィニティー精製済みウサギ抗血清を用いてブロットをプローブした(この抗血清は、高度に保存された173〜186のbFcRnα鎖アミノ酸残基に、KLHとコンジュゲートさせるためのN末端Cysを加えたペプチドCLEWKEPPSMRLKARに対して産生されたものである(Mayerら、2002))。結合したbFcRnα鎖抗体は、ホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ抗ウサギ抗体と、基質としてルミノール系溶液とを用いた向上した化学発光により検出した。bFcRnα鎖が安定にトランスフェクトされたウシ乳房上皮細胞株(B4)をポジティブコントロールとして用いた(Kacskovicsら、2006a)。
【0179】
両Tg系統由来のヘミ接合性肺サンプル中に40kDのタンパク質(これは、bFcRnα鎖の知られた分子量(Kacskovicsら、2000)と一致している)が検出されたが、ネガティブコントロールとして用いた野生型には見られなかった(図5)。トランスジェニックFcRnα鎖の分子量は、bFcRnが安定的にトランスフェクトされたB4ウシ乳房上皮細胞株(Kacskovicsら、2006a)により産生される組み換えタンパク質と適合していた。更にこのデータから、5コピーのbFcRnトランスジーンを発現している#19マウス由来のサンプルは、2コピーのトランスジーンを発現している系統#14マウスで検出されたbFcRnタンパク質よりも遥かに多いbFcRnタンパク質を産生することをノザンブロット分析の結果が示していることが確認された(図5)。
【0180】
これらのデータから102kb長のBACクローンは、bFcRnα鎖を生理的レベルで再現可能且つ組織特異的に発現するのに必要な遺伝的調節エレメントの全てを有していることが示され(図4A)、このことは、マウスにおけるウシトランスジーンの挙動が、時期を問わず、ウシ組織中の当該遺伝子の発現パターンと同等であるとみなすことができることを強調している。
【0181】
実施例4−ウシBACトランスジェニックマウスにおけるマウスIgG及びヒトIgGの半減期を分析するインビボ研究
TgマウスにおけるbFcRnα鎖の発現を分析すると共にウシFcRnα鎖とマウスβ2mが機能的受容体を形成し得るかどうかを試験するために、マウスIgGとヒトIgGのクリアランスについて分析した。後者については既に調べられており、最近になってウシFcRnがウシIgGに対するよりもヒトIgGに対して遥かによく結合すること(Kacskovicsら、2006a)が示された。
【0182】
プレブリード後、年齢、体重及び性別(雄性)が一致するホモ接合体#14と対照マウス(各群3〜5匹)の静脈内に、抗OVAマウスIgG1(mAb、Sigma)を10mg/kg体重(BWkg)、ヒトIgG(Octapharma(ストックホルム、スウェーデン)より譲り受けた静注用Gammonativ)を10mg/BWkg又は20mg/BWkgでそれぞれ50mg/mL生理溶液を用いてマイクロインジェクションし、続く216時間で定期的に血液サンプル(50μL/回)を後眼窩静脈叢(retroorbital plexus)から採取した。捕捉試薬としてOVA(Sigma)を用い且つ検出試薬としてHRPコンジュゲートアフィニティー精製済みポリクローナルヤギ抗マウスIgG(γ鎖特異的)(Southern Biotech Associates Inc.、バーミンガム、AL、USA)用いる定量的ELISAにより、実験過程における抗OVAマウスIgG1血漿濃度を評価した。先に記載の定量的ELISAアッセイ(Kacskovicsら、2006a)によりヒトIgG血清濃度を決定した。捕捉試薬として卵白アルブミン(Sigma)を用い且つ検出試薬としてHRPコンジュゲートアフィニティー精製済みポリクローナルヤギ抗マウスIgG(γ鎖特異的)(Southern Biotech Associates Inc.、バーミンガム、AL、USA)を用いる定量的ELISAにより、実験過程における抗卵白アルブミンマウスIgG1血漿濃度を評価した。TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン;Sigma)を基質として用いることによりペルオキシダーゼコンジュゲート抗体を検出した。サンプルは2連でアッセイした。Ig濃度は参照標準に基づいて得られる。
【0183】
最初の10日間におけるマウスの平均IgG濃度の分析は、WinNonLinプロフェッショナルバージョン4.1(Pharsight、Mountain View、CA)を用いたツーコンパートメントモデルにデータを適合させることにより行った。
【0184】
マウスIgGのクリアランス曲線は二相性であり、相1(アルファ相)は血管内と血管外の各コンパートメント間の平衡を表し、相2(ベータ相)は緩やかな排出を表す。216時間までの相1及び2の数学的モデル化により、FcRn仲介IgG薬物動態の一般的なスキーム(Loboら、2004)との良好な相関関係が示された。従って本発明者らは、このタイムフレームにおけるmIgGのアルファ及びベータ相の半減期を算出した。推定されるアルファ相の半減期は、wt及びTgマウスにおいていずれも約5時間であった。これに対して、ツーコンパートメントモデル化解析に基づけば、wt動物で125.4±3.2時間(平均±SEM)、Tg動物で165.1±7.8時間であり、ベータ相の半減期には有意差があった(p<0.05)(表5;図6A)。
【0185】
hIgGの場合もmIgGのクリアランスデータと同様に、本研究により得られたデータの216時間までの相1及び2の数学的モデル化によって、FcRn仲介IgG薬物動態の一般的なスキームとの良好な相関関係が示された。従って本発明者らは、このタイムフレームにおけるhIgGのアルファ及びベータ相の半減期を算出した。ツーコンパートメントモデル化解析に基づくと、アルファ相は野生型マウスとトランスジェニックマウスの双方において約10時間であり、グラム当たり10マイクログラムとした実験とグラム当たり20マイクログラムとした実験との間で差がなかった。ベータ相の場合には、wtマウスとTgマウス間に有意差が見られた(p<0.05)。算出されたベータ相は、wt及びTgマウスのそれぞれにおいて、グラム当たり10マイクログラムを注射した場合には106±3.6時間と171.5±16.2時間であり、グラム当たり20マイクログラムを注射した場合には108.2±3.7時間と181±7.7時間であった(表5;図6B)。予想されたように曲線下面積(AUC)値は顕著に異なり、グラム当たり20マイクログラムを注射した実験では、グラム当たり10マイクログラムとした実験に比べ約2倍の値を示した。一方、グラム当たり10μg又は20μgのhIgGを注射した場合においては、アルファ半減期とベータ半減期のいずれについても顕著な相違は見られなかった。
【0186】
本発明者らは、これらの実験(グラム当たり10マイクログラムのIgGを注射した実験)においてmIgGのクリアランスデータとhIgGのそれとを比較することにより、hIgGはwtマウスから有意に(p<0.05)早く排出されたことを見出した(ヒトIgG/マウスIgGが106時間/125.5時間)。しかしながらTg動物においては、マウスIgGとヒトIgGの各クリアランスデータに差はなかった(表5)。
【0187】
【表5】
【0188】
結論として、BACトランスジェニックマウスにおけるこれらのIgGクリアランス研究によって、β2mの主立った欠損はなくウシFcRnα鎖が機能的複合体をマウスβ2mと形成していることが確認された。TgマウスではmIgG1のクリアランスは著しく低減され、このことは、投与された抗体の保護に利用可能なマウスFcRnとハイブリッドFcRnの量が、インビボにおけるクリアランスからの保護の程度に寄与していることを示している。更に、Tg動物においてはマウスIgGとヒトIgGとのクリアランスデータに差がなく、これはハイブリッドbFcRnα鎖mβ2m受容体がhIgG1も保護することができることを示している。
【0189】
実施例5−卵白アルブミンによる免疫感作
ホモ接合体#14とヘミ接合体#19(それぞれ4又は5コピーのbFCGRTをコード)及び年齢、性別(雄性)が一致したwtマウス(各群5匹)の腹腔内に、250μgの卵白アルブミン(OVA、Sigma−Aldrich、ブダペスト、ハンガリー)と完全フロイントアジュバント(CFA)を用いて免疫感作し、14日後に250μgのOVAと不完全フロイントアジュバント(IFA、Sigma−Aldrich、ブダペスト、ハンガリー)を接種した。
【0190】
実験手続はいずれも、アグリカルチュラルバイオテクノロジーセンター(ゲデレー、ハンガリー)の動物ケア・倫理委員会(Animal Care and Ethics Committee)による認可を受けたものである。
【0191】
抗原特異的IgM及びIgGの力価
bFcRn過剰発現によるIgGの保護以外の免疫学的重要性を明らかにするために、wtとTg(#14及び#19)マウスを免疫感作し2週間後にOVAを接種して、その血清中の抗OVAIgMと抗OVAIgGそれぞれの力価を測定した。56日間、後眼窩静脈叢から血液サンプル(50μL/回)を採取した。OVA、FITC特異的IgM、IgGについて血清をアッセイした。捕捉試薬としてOVA、FITC−アルブミン(Sigma−Aldrich、ブダペスト、ハンガリー)を用いると共に検出試薬としてHRPコンジュゲートアフィニティー精製済みポリクローナルヤギ抗マウスIgM及びヤギ抗マウスIgG(μ鎖、γ鎖特異的)(Southern Biotech Associates Inc.、バーミンガム、AL、USA)を用いる定量的ELISAにより、実験過程における抗−OVA、抗−FITCマウスIgM、IgGの血漿濃度を評価した。基質としてTMB(Sigma−Aldrich、ブダペスト、ハンガリー)を用いることによりペルオキシダーゼコンジュゲート抗体を検出した。各血清試験サンプルの段階希釈物を測定に用いた。Ig濃度は、用量反応曲線の直線部分から内挿される450nmでの吸光度に基づいて示される。サンプルは2連でアッセイした。スチューデントの両側t検定を用いて、処理群の平均値の統計的有意性を評価した。p≦0.05であれば、各値は有意に異なると考えられる。
【0192】
結果から、一次免疫応答時にはwt動物とTg動物間に差がないが、追加免疫感作後はOVA−特異的IgM、IgGの力価が著しく異なることが示された。二次抗体応答時のIgM価は、一次免疫応答時と比べてIgMピークが僅かに低い、wt動物に典型的な曲線を示した。一方、Tgマウスの場合、IgM価は一次免疫応答時よりも二次免疫応答時に高く、wtマウスと比較し有意に高かった(図7A)。IgG価に関しては、二次免疫応答においては、TgマウスのOVA−特異的IgG価はwtマウスのそれの約3倍であった(図7B)。
【0193】
IgGサブクラスプロファイル
次に、OVA−特異的血清免疫グロブリンのIgGサブクラスプロファイルを決定した。免疫感作後32日目に、wtマウスとTgマウス(#14)由来の血清をOVA特異的IgGアイソタイプについてアッセイした。捕捉試薬としてOVAを用いると共に検出試薬としてHRP−コンジュゲートアフィニティー精製済みポリクローナルヤギ抗−マウスIgG1、IgG2a、IgG2b及びIgG3(Southern Biotech Associates Inc.、バーミンガム、AL、USA)を用いる定量的ELISAにより、抗−OVAIgGアイソタイプの血漿濃度を評価した。基質としてTMBを用いることによりペルオキシダーゼ−コンジュゲート抗体を検出した。各血清試験サンプルの段階希釈物を測定に用いた。Ig濃度は、用量反応曲線の直線部分から内挿される450nmでの吸光度に基づいて示される。サンプルは2連でアッセイした。
【0194】
OVA−CFAとOVA−IFAで順次免疫感作した動物は、抗−OVA抗体IgG1サブクラスを主に産生することが見出された。データから、Tgマウスにより産生されたIgG1、IgG2a及びIgG2bのOVA−特異的力価は有意に高いことが示された。IgG3産生量については、Tgマウスはwtマウスよりも僅かに高かったものの、結果の標準偏差が大きくその差は有意ではなかった。またこのデータから、OVA特異的IgGアイソタイプの間の比がwtマウスのそれと同様であることが示された(図7C)。このことは、量が異なるほかは、TgマウスでのbFcRn発現はOVA−特異的免疫応答に対して変化をもたらさなかったことを示す。
【0195】
トータルIgGレベル
捕捉試薬として未標識アフィニティー精製済みヤギ抗−マウスポリクローナル抗体(ヤギ抗−マウスIgG(H+L);Southern Biotechnology Associates、Inc.、バーミンガム、AL、USA)を用いると共に検出試薬としてホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲートアフィニティー精製済みポリクローナルヤギ抗−マウスIgG(γ鎖特異的;Southern Biotechnology Associates、Inc.、バーミンガム、AL、USA)を用いる定量的ELISAにより、実験過程におけるマウスIgGの血漿濃度を評価した。基質としてTMB(Sigma)を用いることによりペルオキシダーゼコンジュゲート抗体を検出した。サンプルは2連でアッセイした。
【0196】
トータルIgGレベルの分析から、免疫感作前でもTgマウス(#14)IgG産生量がwtマウスに比べて有意に高いことが示された(wtマウス、Tgマウスのそれぞれにおいて2.4±0.4mg/mL、4.8±0.5mg/mL(平均±SEM、p<0.01))。免疫感作後、トータルIgGレベルは常時上昇し、そのレベルはwt動物、Tg動物それぞれにおいて28日目、36日目でピークに達した。特筆すべきことに、本発明者らは、IgGの最大レベルが両動物間で顕著且つ有意に異なることを見出した。即ち、wt、Tgマウスにおいてそれぞれ14.8±2.6mg/mL(平均±SEM)、39.9±2.7mg/mL(p<0.001)であった(図7D)。
【0197】
ファゴサイトーシスアッセイ
Tgマウスにおいて産生されるOVA特異的IgGの機能的インタクトネスを評価するために、OVA免疫感作後35日で回収したTg、wtマウス血清とOVA−FITCとを血清の量を変えてインキュベートすることによりOVA−抗OVA抗体複合体を調製し、マウスマクロファージ細胞株P388D1を用いてファゴサイトーシスアッセイを行った。FITCによるOVAのラベリングは、製造業者の取扱説明書(Molecular Probes、Eugene、OR)に従った手続きにより行った。P388D1細胞株のマウスマクロファージは、5%ウシ胎児血清(Sigma− Aldrich、ブダペスト、ハンガリー)と10μM 2−メルカプトエタノール(Sigma−Aldrich、ブダペスト、ハンガリー)とを添加したRPMI1640培地(Sigma−Aldrich、ブダペスト、ハンガリー)中、37℃で増殖させた。24ウェル細胞培養プレート中、2×10細胞/ウェルを15ngホルボールミリステートアセテート(PMA、30ng/mL、Sigma−Aldrich、ブダペスト、ハンガリー)にて37℃で60分間処理した。OVA−抗OVA抗体複合体を調製するために、OVAで免疫感作したTg、wtマウス(免疫感作後35日)由来の血清2.5μL、10μL、40μLとOVA−FITC(1μg/μL)50μgとを37℃で60分間プレインキュベートした。OVA−抗OVA抗体複合体をPMA処理P388D1細胞と37℃で90分間インキュベートすることによりファゴサイトーシスさせた。よく洗浄して未結合タンパク質を除去した後、フローサイトメトリー(FACS)により細胞を分析した。細胞外FITC−標識OVAの消光にはトリパンブルーを用いた。
【0198】
免疫複合体の取込み効率についてFACSで分析した。Tg、wtマウスいずれの場合においてもその血清を2.5μL用いた場合には、非オプソニン化OVA−FITCの取込みに比べ向上したファゴサイトーシスは見られなかった。しかしながら、血清を10μL用いた場合には、Tgマウスの血清では有意な向上が見られたが、wtマウスの血清では見られなかった。最後に、Tg、wtマウスそれぞれの血清を40μL用いた場合にはいずれにおいても、非オプソニン化抗原の取込みに比べてファゴサイトーシスが上昇した(図7E)。これらのデータから、Tgマウス血清が免疫感作35日目でOVA特異的抗体含有量が非常に高いことと、それが機能的にインタクトであることが示された。
【0199】
実施例6−Tg、wtマウスは、FITC−デキストランによる免疫感作に対し同様に応答する
主にIgMを産生する免疫応答を分析するために、Tg、wtマウスの腹腔内にFITC−デキストランを免疫感作し、2週間後に再度同様にして接種した。FITC−デキストランは、典型的なT細胞非依存性II型抗原(デキストラン)(Mondら、1995)とハプテン(FITC)とのコンジュゲートであり、血清中には主にFITC特異的IgMが見られ、FITC特異的IgGは殆ど見られなかった。FITC特異的免疫応答に関しTg、wt動物間で差はなかった。免疫感作過程における免疫応答を分析したところ、Tg、wtマウスのいずれにおいても二次免疫感作後にIgM産生の上昇が見られた(図8)。
【0200】
実施例7−OVA特異的IgM、IgG産生細胞に対するbFcRn過剰発現の影響
ELISPOTアッセイによるOVA特異的B細胞の分析
TgマウスにおけるOVA特異的IgMの力価上昇から、bFcRn過剰発現は、より多くのIgGを保護することに寄与するだけではなくB細胞クローンの増殖という点で免疫応答に変化をもたらすことが示唆された。この観察結果を検証するために、先ず、ELISPOTアッセイを用いてOVA特異的B細胞を分析することにより、免疫感作後25日での脾臓中における抗−OVAIgM、抗−OVAIgG分泌形質細胞数を分析した。ホモ接合体#14とwtマウス(各群3匹)の腹腔内にOVA250μgとCFAを免疫感作し、14日後にOVA250μgとIFAを接種した。初回免疫感作後25日でこれらの動物を殺しその脾臓細胞をOVA特異的IgM、IgG細胞について分析した。ELISPOTでは、MultiScreen−HTSプレート(Millipore、ベッドフォード、MA)を、5μg/mLのOVA含有PBS溶液で3時間室温にて被覆した。次いで、このプレートをPBSで6回洗浄し、5%FCSとメルカプトエタノール(50μM)とを含有するRPMI培地で30分間室温にてブロッキングした。脾臓細胞の段階希釈物(5×10細胞/ウェルから開始)を各ウェルに添加した。このプレートを5%CO条件下37℃で一晩インキュベートし、PBS−Tweenで6回洗浄した。続いて、ホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ抗−マウスIgG(γ重鎖特異的;1:4000倍希釈物;Southern Biotechnology)を各ウェルに添加した。室温にて1時間インキュベートした後、プレートをPBS−Tweenで6回洗浄した。次いで、プレートを色原体基質である3−アミノ−9−エチルカルバゾール(AEC;Sigma)とHの存在下に室温にてインキュベートした。反応は水洗することにより停止させた。ウェル当たりのスポット形成ユニット(SFU)をImmunoScan ELIspotリーダー(Cellular Technology Ltd.、USA)でカウントし、ImmunoSpotソフトウェア ver.3.2(Cellular Technology Ltd.、USA)で評価した。
【0201】
結果から示されるように脾臓において、OVA特異的IgM産生細胞数は2倍になっており(p<0.05)、OVA特異的IgG産生細胞数は3倍超となっていた(p<0.001)(図9A)。
【0202】
免疫感作によりもたらされる脾臓への好中球の大量流入
OVAによる免疫感作により、脾臓重量の増加(図9B)とその細胞数の増加(図9C)が見られ、また抹消リンパ節の拡大が観察された。この現象はwt、Tgマウスのいずれにも見られたが、脾臓のサイズはTg動物ではwtコントロールの2倍になっていた(p<0.001)。
【0203】
続いて本発明者らは、フローサイトメトリーにより脾臓における細胞種分布の特性化を行った。FACSを行うため脾臓細胞を単離し、先ず、抗−CD32/CD16(クローン2.4G2)と30分間インキュベートした。次いで、染色バッファー(0.1%BSAと0.1%アジ化ナトリウムとを含有するPBS)中、この細胞をフルオロクロムコンジュゲート特異的Abと4℃で50分間インキュベートした後、2回洗浄し、続いてCellQuestソフトウェア(BD Biosciences、サンホセ、CA)を取付けたFACSCaliburで分析した。コンジュゲートmAbであるCD45R/B220−PECy5、I−A/I−E−PE、GR−1(Ly−6G)−PE及びCD11b−A647は、BD Pharmingen(サンディエゴ、CA)より得た。CD3−A647、CD86−PE、CD11c−A647及びCD11b−PEはそれぞれ、Caltag(バーリンゲーム、CA)、eBioscience(サンディエゴ、CA)、Serotec(デュッセルドルフ、ドイツ)及びImmunoTools GmbH(Friesoythe、ドイツ)から購入した。アイソタイプコントロールはBD Pharmingen又はSerotecから得た。
【0204】
結果から、免疫感作後においてはCD45R/B220を有する細胞(Bリンパ球)とI−A/I−E(MHCクラスII)抗原の割合が有意に減少した(p<0.05)ことが示された。CD3マーカーを有する細胞(Tリンパ球)に関しては、wt、Tgマウスのいずれの場合も差がないか或いはそれ程急激ではない減少が見られた。これらの現象はwt、Tgマウスにおいて見られたがTg動物でより強調されている(図10)。
【0205】
免疫感作後、CD11bマーカーとGr−1マーカーを有する細胞の割合は、wt、Tgマウスのいずれにおいても劇的に上昇した(p<0.001)。この上昇レベルに関し本発明者らは、wtマウスで約5倍の上昇、Tgマウスで約9倍の上昇であることを見出した。また、本発明者らはGr−1を発現した細胞の大部分が、前方/側方光散乱(FCS/SSC)パラメーターから典型的な顆粒球位置であるGr−1highであること見出し(図11A)、このことから、これら細胞が好中球であることが示唆された(データは示さず)。改めて、この上昇はTgマウスの場合により顕著であるということができる(p<0.01)(図11A)。本発明者らはまた、CD11bとMHCクラスII抗原を有する細胞(マクロファージ、樹状細胞)の割合(図11B)、CD11b抗原とCD11c抗原を有する細胞(樹状細胞)の割合(図11C−ゲートセル)は、Tgマウスにおいてそのwtコントロールよりも有意に上昇していることを見出した(それぞれp<0.05、p<0.01)。これらの結果は、MHCIIとB220を有する細胞の比例的減少について述べるものではあるが、免疫感作後の細胞数が脾臓で増加しているので(図9C)、総細胞数の減少は意味しない。これらの分析に基づき本発明者らは、免疫感作後25日で脾臓に流入した細胞の大部分は好中球であると結論付けたが、樹状細胞数の増加も見られた。
【0206】
実施例8−腹腔滲出好中球、マクロファージ、樹状細胞においてbFcRn発現量が高い
bFcRnα鎖の発現について、先ず、コンカナバリンA(ConA、100μg/マウス(PBS溶液);Sigma−Aldrich、ブダペスト、ハンガリー)による腹腔内処理後2日のマウス由来の腹腔滲出細胞を分析した。好中球に富む細胞調製物を得るために、5%(w/v)カゼイン(Sigma−Aldrich、ブダペスト、ハンガリー)の滅菌生理食塩水溶液2mLでマウスに腹腔内注射し、注射後6時間で腹腔細胞を単離した。次いで、Ficoll−Paque Plus(GE Healthcare、ウプサラ、スウェーデン)で遠心分離(400×g、30分、RT)することにより好中球を精製した。好中球の精製度は、抗−CD11b試薬と抗−Gr−1試薬を用いるフローサイトメトリーにより測定したところ〜80%であった(図12)。
【0207】
Trizol Reagent(Invitrogen、カールスバッド、CA)を用いてこれらの細胞からトータルRNAを抽出した。次いで標準的なプロトコールに従い、モロニーマウス白血病ウィルス(M−MLV)の逆転写酵素(Promega)と(dT)17−アダプタープライマーとを用いて2μgのRNAを逆転写した。プライマーペア:B3 5’−CGCAGCARTAYCTGASCTACAA−3’(SEQ.ID.NO.37、ここでRはG又はAに、YはT又はCに、SはG又はCになり得る)とB4 5’−GGCTCCTTCCACTCCAGGTT−3’(SEQ.ID.NO.38)を用いてPCRを行うことにより、422bp長のbFcRnα鎖特異的アンプリコン(AF139106の289〜711bp)を得た。増幅セグメントを1%アガロースゲル電気泳動により分離し、エチジウムブロミドで染色した。
【0208】
先ず、ConA処理済みTg、wtマウス由来の腹腔滲出細胞において、bFcRnの発現をPCR増幅により検出した。bFcRnの発現は好中球とマクロファージに富む細胞集団にも見られ、精製細胞は〜78%がCD11bhigh/Gr−1highであり、〜20%がCD11bhigh/Gr−1であった(図12)。
【0209】
より最近の研究によって、FcRnは、多形核白血球と単球のIgG仲介ファゴサイトーシスにおいて主要な役割を果たすことが示された(Vidarssonら、2006)。これは、FcRnが抗原提示に関わっていることを示唆している。本発明者らのデータに基づけば、これらの細胞におけるbFcRnの過剰発現は、抗原のファゴサイトーシスの向上と共に抗原提示の向上をも仲介し、その結果、二次リンパ器官における抗原特異的IgM、IgG産生形質細胞の増加に至るという仮説を立てることができる。仮にこの理論が正しいとすれば、この向上はIgGが産生された時点で明らかとなるが、それ以前の段階では明らかとはならない。実際にIgM価の上昇は、主に二次免疫応答において、OVA特異的IgGの生成後にはじめて見られる。
【0210】
実施例9−免疫感作マウス脾臓中におけるOVAを有する樹状細胞、好中球、Bリンパ球の存在
本発明者らが行った細胞分析から、免疫感作後、脾臓に流入した主な細胞種は好中球であることが示された。他の最近なされた報告に基づけば、二次リンパ器官において好中球は抗原を有する主たる細胞集団であり、特異的な免疫応答が生じると直ちにIgG−抗原免疫複合体が形成され、これが、確立される二次免疫応答の質に寄与しているとのことである(Malettoら、2006)。好中球の流入が実際に抗原特異的免疫応答に依存しているかどうか、そしてこれが抗原を有しているかどうかを実験で確かめるために、OVAによる免疫感作後56日で(この時期は依然としてOVA特異的IgGレベルは高い−図7B)更なる免疫感作は行っていないトランスジェニックマウスをFITC−OVAで腹腔内処理した。この実験においてマウスは(ホモ接合体#14)、OVA−FITC(7.4mg/mL、100μL/マウス)で腹腔内処理した。OVA−FITC注射から5時間後に、マウスの脾臓を摘出しその細胞をフローサイトメトリーと共焦点顕微鏡法により分析した。フローサイトメトリーを行うために、細胞は次の各試薬を用いて上述のように処理した:即ち、CD45R/B220−PECy5、GR−1(Ly−6G)−PE、CD11c−A647、CD11b−A647及びCD11b−PE。共焦点顕微鏡法を行うに当たり、細胞はDRAQ5赤色蛍光細胞透過性DNAプローブ(Biostatus Ltd.、英国)にてRTで10分間染色した。洗浄ステップ後、Olympus FLUOView500レーザースキャニング共焦点顕微鏡(ハンブルグ、ドイツ)を高倍率(63×対物)で用いて、蛍光/DIC像(512×512ピクセル)を記録した。FITCとDRAQ5の各染料の励起は488nmのアルゴンレーザー線と632He−Neレーザー線を用いて行った。
【0211】
得られたフローサイトメトリーデータによれば、OVAにより免疫感作された動物においてOVA−FITC陽性細胞(15.1±1.4%)の内、61.2±5.4%がB220陽性(Bリンパ球)であり、18.5±0.6%がCD11bhigh、Gr−1high(好中球)として検出され、13.5±2.1%がCD11b、CD11c陽性(樹状)細胞であることが示された。非免疫感作動物(2.1±0.3%)においては、OVA−FITC陽性細胞数は多くは見られなかった(図13A、13B)。OVA−FITC陽性好中球とBリンパ球に関するフローサイトメトリーにより得られたデータについて共焦点顕微鏡法により確認した。本発明者らは、OVA−FITCを取込む多葉の核を有する典型的な好中球を見出した一方で、他の細胞、恐らくはBリンパ球(大きな球形の核とその周縁に薄く細胞質を有する)がOVA−FITCによって被覆されていることを見出した(図13C)。脾臓サイズと細胞数に関して、免疫感作動物と非免疫感作動物間に有意差は見られなかった(データは示さず)。この知見は、本発明者らが得た他の結果と非常によく符合し、免疫感作後25日のwt、TgマウスにおいてCD11b、Gr−1陽性好中球が著しい流入を示す理由を説明するものである。Tgマウスが遥かに多量のOVA特異的IgGを産生したこと(図7B)、そしてこれらの細胞中でFcRnが過剰発現したこと(図12)を考慮すると、Tgマウスにおいてこれらの細胞の流入の程度がより大きかったこと、抗原特異的なB細胞のクローンの増殖がより盛んであったこと、その結果として安定的な抗体応答が見られたことも説明することができる。
【0212】
実施例10−レンチウィルスによるトランスジェネシスを用いたbFcRnトランスジェニックマウスの作製
最近になって、レンチウィルスベクター由来のHIVとEIAVを用いることにより、再現性のある高トランスジェネシス率がマウス(Pfeiferら、2002)、ラット(Loisら、2002)、トリ(McGrewら、2004)、ブタ(Hofmannら、2003;Whitelawら、2004)及びウシ(Hofmannら、2004)で達成された。トランスファーベクターpWPTS−EGFP(Boviaら、2003)中の元のEF1α−EGFPセグメントを、ウシFcRn(bFcRn)α鎖遺伝子プロモーターセグメント(2950bp長)とそのコード配列の人工的組合せ物と置換することによりWPRE−P2 bFcRnトランスファーベクターを作製した。bFcRnプロモーターセグメントは、bFcRnトランスジェニックマウスの作製に用いた(実施例2参照)bFcRnα鎖遺伝子を有するBACクローン#128E04を用い、Deep Ventポリメラーゼ(New England Biolab、ベバリー、MA、USA)でPCR増幅した。フォワードプライマーはXbaI部位を含み(下線)(レンチ−BORE20:5−GGG TCT AGA ACA CCA AGG GCG GCA TCA−3、SEQ.ID.NO.39);リバースプライマーはEcoRI部位を含む(レンチ−BORE18:5−GGG GAA TTC CGG CTC CCG TGA CTG GAG AC−3、SEQ.ID.NO.40)。PCRにより得られたアンプリコンは、2950bp長のbFCGRT調節配列であった(GenBank:NW 001493624.1クローン/Bt18 WGA2132 3/ボスタウラス染色体18ゲノムコンティグ、レファレンスアッセンブリ(Btau 3.1に基づく)のヌクレオチド765455〜762510bp)。bFcRn重鎖のコードセグメントは、先に本発明者らの研究所で安定したトランスフェクト細胞を調製するのに用いた(Kacskovicsら、2006a)bFcRncDNA(GenBank AF139106)含有クローンからDeep VentポリメラーゼでPCR増幅した。フォワードプライマーはEcoRI部位を含み(BORE10:5−GGG GAA TTC TGG GGC CGC AGA GGG AAG G−3、SEQ.ID.NO.41);リバースプライマーはMluI部位を含む(レンチ−BORE19:5−GGG ACG CGT GAG GCA GAT CAC AGG AGG AGA AAT−3、SEQ.ID.NO.42)。PCRにより得られたアンプリコンは、1285bp長のbFcRnα鎖cDNA(GenBank:bFcRnのNM 176657レファレンス配列のヌクレオチド64〜1344)であった。精製後、二種のアンプリコン(bFcRnのコード配列とプロモーター)をEcoRI(Promega)で消化しT4リガーゼ(Promega)で連結することにより、bFcRn重鎖プロモーターの2950bpセグメントとbFcRn重鎖cDNA(SEQ.ID.NO.43)の1285bpセグメントとを有するP2−bFcRn構築物を調製した。次いで、bFcRnプロモーター−cDNA断片をトランスファーベクタープラスミドpWPTSに挿入した。このベクターを、先に記載した(Boviaら、2003)293T細胞中への一過性トランスフェクションにより増幅した。レンチウィルスを作製するために用いたベクターは、Tronolab、Cantonal Medical University(ジェノバ、スイス)から得た。次のベクターを使用した:pMD.G(エンベロープ構築物、6kbp);pCMV R8.91(パッケージング構築物、12kbp);pWPTS(トランスファー構築物、12.7kbp)。FcRnプロモーター(P2)−FcRncDNA配列はClaI、SalI部位間に挿入した。レンチウィルスの力価は、並行して調製したウィルスストックの上清の段階希釈物を用いたJurkat細胞に対するトランスダクションを行うことにより評価した。このウィルスはpWPRE−EGFPトランスファーベクターを有していた。蛍光励起セルソーター(FACS)によりGFP+細胞をカウントした。力価はミリリットル当たり10〜10トランスデューシングユニットの範囲であった。1細胞段階の接合子の囲卵腔にレンチウィルスHIV−P2−FcRnを注入することによりトランスジェニックマウスを作製した。FVB/NとBalb/cの遺伝的バックグラウンドにマイクロインジェクションを行った。続いて、注入後の接合子を雌性レシピエントに移植した(表6)。次のプライマー:bFcSuf 5’CTCCTTTGTCTTGGGCACTT3’(SEQ.ID.NO.9)とbFcL 5’GCCGCGGATCCCTTCCCTCTG3’(SEQ.ID.NO.10)を用いてPCRを行うことにより、トランスジェニックファウンダーを同定した。
【0213】
【表6】
【0214】
トランスジーンの発現を検出するために、HIV−P2−FcRn新生児マウスの腸、肺、脾臓及び肝臓から単離したRNAサンプルについてRT−PCRを行った(図14に示す)。P2プロモーター用に設計したプライマー(FcRnprf:CGGCCACCTCTATCACATTT、SEQ.ID.NO.3;FcRnprr:TGCATTGACCACACTTGGTT、SEQ.ID.NO.4;予想される断片サイズ:579bp)を用いてRNAサンプル中にゲノムDNAがコンタミする可能性を排除した。また、ウシFcRnエキソン4用に設計したプライマー(bFcRnex4f:CCAAGTTTGCCCTGAACG、SEQ.ID.NO.19;bFcRnex4r:GAGGCAGATCACAGGAGGAG、SEQ.ID.NO.44、予想される断片サイズ:161bp)を用いてトランスジーン特異的mRNAを検出した。結果から明らかにbFcRnmRNAの発現が示された。
【0215】
トランスジェニックファウンダーをそれぞれ、野生型マウスと交配させることにより繁殖させトランスジェニック系統を確立した。
【0216】
実施例11−アルブミンレベルはTgマウスの血清中においても上昇する
トランスジェニックマウスはbFcRnを過剰発現していることから、次の2点:即ち(1)bFcRnはマウスアルブミンと相互作用するかどうか、(2)アルブミンの代謝に影響するかどうか、について検討した。従って、アルブミン特異的サンドウィッチELISAを用いることにより、FcRnを発現しないマウス(FcRn KO−Jackson Laboratory、USAから購入)、wt動物、ホモ接合性#14及び#19(それぞれ4又は10コピーのbFcRnを発現)それぞれのアルブミンレベルを測定した。この研究に基づいて、bFcRnはアルブミンと結合しその血清レベルに大きく影響することが分かった(図15)。更にトランスジェニックマウスの乳中のアルブミン含有量を測定したところ、その濃度が野生型コントロールよりも有意に高いことが分かった(データは示さず)。従ってこれらのデータは、体液性免疫応答に対するFcRn過剰発現の有利な効果に加え、アルブミン濃度も上昇することを示唆するものである。アルブミン濃度の上昇により、血中の浸透圧レベルが正常レベルより高くなるため害になることもあるが、コピー数が10の場合でも認められる程度の有害な作用はなく、Tg動物は長期間健康に生存した(最長14ヶ月間)。
【0217】
実施例12−マウスFcRn KO−ウシBACトランスジェニックマウスにおけるウサギIgG半減期を分析するインビボ研究
bFcRnがウサギIgGと結合し、そのクリアランスが早まらないようにするかどうかを分析するために、マウスFcRn KO−ウシBACトランスジェニックマウスにおけるウサギIgGの半減期について分析した。4コピーの128E04BACトランスジーン(Benderら、2007)を有するbFcRnホモ接合体マウス(#14)と、ノックアウトしたmFcRnアレルのホモ接合体マウス系統とを交配させることにより、ウシFcRnトランスジェニック−マウスFcRnα鎖ヌルマウス(bFcRn/mFcRn−/−)を作製した。このマウス系統は、Jackson Laboratories(USA)からB6.129XI−FcgrttmIDcr/Dcrの名で購入した。所望の表現型を有する二重トランスジェニックマウス(bFcRn/mFcRn−/−)を、次のプライマー:NEO−F:GGA ATT CCC AGT GAA GGG C(SEQ.ID.NO.45);NEO−R:CGA GCC TGA GAT TGT CAA GTG TAT T(SEQ.ID.NO.46);FcRn wt−F:GGG ATG CCA CTG CCC TG(SEQ.ID.NO.47);bFcSuF:CTC CTT TGT CTT GGG CAC TT(SEQ.ID.NO.9);bFcL:GCC GCG GAT CCC TTC CCT CTG(SEQ.ID.NO.10)を用いる多重PCRにより選択した。図16Aに示すように適切なF2マウスを同定した。
【0218】
本質的に実施例4に示したようにウサギIgGの半減期について分析した。即ち、プレブリード後、年齢、体重及び性別(雄性)が一致したmFcRn−/−とbFcRn+/+/mFcRn−/−マウス(各群3匹)の腹腔内に、50mg/mL生理食塩水溶液のウサギIgG(Sigma)150μg相当量を続く216時間でマイクロインジェクションし、定期的に血液サンプル(50μL/回)を後眼窩静脈叢から回収した。捕捉試薬としてヤギ抗−ウサギIgG(H+L特異的)(Caltag)を用い且つ検出試薬としてHRP−コンジュゲートヤギ抗−ウサギIgG(H+L特異的)(Vector Laboratories)を用いる定量的ELISAにより、実験過程におけるウサギIgGの血漿濃度を評価した。TMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン;Sigma)を基質として用いることによりペルオキシダーゼコンジュゲート抗体を検出した。サンプルは2連でアッセイした。ウサギIgG濃度は参照標準に基づいて得られる。FcRn−/−マウスではウサギIgGは素早く排出されたが(半減期:15時間)、bFcRn/FcRn−/−では保護されていた(半減期:67時間)(図16B)。FcRn−/−動物における短時間でのIgGクリアランスについては文献報告されており(Roopenianら、2003)、またベータ−2−ミクログロブリンが存在しないことに起因して機能性FcRnを欠く動物においても同様のことが報告されている(Ghetieら、1996;Israelら、1996;Junghans及びAnderson、1996)。本発明者らによる実験において、bFcRn/mFcRn−/−動物ではbFcRn活性によりウサギIgGのクリアランスが有意に低減された(p<0.0001)。しかしながら、これらの動物におけるウサギIgGの半減期はウサギにおけるウサギIgGの半減期(半減期:132〜153時間)(Andersen及びBjorneboe、1964;Dimaら、1983;Sabiston及びRose、1976)又はマウスにおけるウサギIgGの半減期(半減期:106時間)(Dimaら、1983)よりも遥かに短く、これはウサギIgGとbFcRn/マウスベータ−2−ミクログロブリン複合体との相互作用が比較的弱いことを示唆している。確かにこれまでのデータにより、IgG−FcRn相互作用の種間の相違は調べられているが(Oberら、2001)、このことは、IgGの半減期を向上させ延いては免疫感作時のIgGレベルを向上させるためには、適切なFcRnを選択する実験が必要であることを強調するものである。
【0219】
実施例13−ヒト化免疫グロブリンを産生すると共にウシFcRnを過剰発現する二重トランスジェニックウサギの、交配による作製
ヒトIgGとウシFcRnを産生する二重トランスジェニックウサギ系統は、血清中の免疫グロブリンレベルを改善する候補として有望である。過剰発現されたウシFcRnのヒトIgG半減期に対する効果については既に示されているので、これらの二重トランスジェニックウサギ系統は、ポリクローナル抗血清の産生又はウサギモノクローナル抗体を産生させる出発点として非常に有用である。
【0220】
二重Tgウサギは標準的な交配により作製することができる。先の実験により、bFcRnはウサギIgGへの結合に関して最良の候補ではないことが示されたが、bFcRnトランスジェニックウサギを作製することは依然として、ヒトIgGとウシFcRnの双方を産生する二重トランスジェニックウサギの作製のための望ましい中間ステップとなろう。後続のステップにおいて、最終の目的とする動物を作製するために、それぞれ一方のトランスジーンを有する2種のTgウサギ系統の交配が行われることになる。
【0221】
前核マイクロインジェクションにより128E04ウシBACクローンをウサギ接合体に導入し、トランスジェニックファウンダーを作製した。ウシFCGRT4番エキソンからの160bp断片の増幅用に設計したプライマー:bFcRnex4F:5’−CCAAGTTTGCCCTGAACG−3’(SEQ.ID.NO.19)とbFcRnex4R:5’−GTGTGGGCAGGAGTAGAGGA−3’(SEQ.ID.NO.20)を用いてPCRを行い、ウシFcRn遺伝子の有無を検出した。図17は予想通りの断片が存在していることを示す。
【0222】
ファウンダーウサギのF1同腹子は、遺伝子的に改変されたヒト化免疫グロブリン産生ウサギとの交配に好適であり(Thoreyら、2006)、ヒト化ポリクローナル抗体産生の向上したレベルを達成するのに適した二重トランスジェニック動物を与える。
【0223】
実施例14−ヒト化免疫グロブリンを産生すると共にウシFcRnを過剰発現する二重トランスジェニックウサギの作製
実施例13の別法として、ヒト化免疫グロブリン産生トランスジェニックウサギをレシピエント動物として用いて(Thoreyら、2006)実施例3の記載と同様にトランスジェネシス実験を行うことにより、二重トランスジェニックウサギ系統を作製することができる。128E04ウシBACクローンを用いて、前核マイクロインジェクションによりトランスジェニックウサギを作製した。トランスジェニックウサギは、ウシBACクローン特異的なプローブとプライマーを用いるPCR及び/又はサザンブロットにより同定し、注入されたヒトIgGの半減期について評価した。ウサギ血清中において半減期は実質的により長くなり、これは導入されたウシFcRnが、トランスジェニックウサギにより産生されたヒト免疫グロブリンを分解から保護していることを示している。
【0224】
実施例15−ウサギFcRnα鎖遺伝子を有するBACクローン単離及び特性化
FcRn活性に関する初期の研究の多くはモデル動物としてウサギを用いていたため、ウサギFcRnは各組織の内皮細胞によって発現され、IgGの恒常性に寄与することが予測された。従って、ウサギFcRn遺伝子コピーを追加することでIgG半減期は向上する。よって、ウサギFcRnをクローン化しその配列を決定した(SEQ.ID.NO.48)。
【0225】
これと並行して、ウサギBACライブラリーから(Rogel−Gaillardら、2001)ウサギBACクローン262E02を単離した。このBACライブラリーはpBeloBAC11ベクター中に構築されたものであり、この高分子量DNAはニュージーランドウサギの白血球細胞から調製された。ウサギBACライブラリーは、家畜のためのINRAリソースセンターにより取扱われており公的に入手可能である。ウサギFCGRT遺伝子特異的プライマー:OCU FCGRT F:GGGACTCCCTCCTTCTTTGT(SEQ.ID.NO.49)とOCU FCGRT R:AGCACTTCGAGAGCTTCCAG(SEQ.ID.NO.50)をPrimer 3プログラム(http://bioinfo.genopole−toulouse.prd.fr/iccare/cgi−bin/primer3 aTg.cgi.pl)で設計し、Iccareプログラム(http://bioinfo.genopole−toulouse.prd.fr/Iccare/)でこれをヒトFCGRT遺伝子(GenBank NM 004107)とアラインメントさせることによりウサギの発現配列タグ(EST)EB377775を同定した。EB377775EST配列はウサギFcRncDNA(SEQ.ID.NO.55)の対応部分と同一である。オーソロガスボスタウラス染色体に基づいて、262E02ウサギBACクローンを候補遺伝子の有無について分析した。Oryctolagus cuniculusのEST用に設計したプライマーとウシ遺伝子特異的プライマーのいずれか一方をFCGRT遺伝子近傍の50kb内の5’及び3’方向に用いた。次のウサギ遺伝子が262E02BACクローンに同定された:RPL13A;RPS11;FCGRT;RCN3;PRRG2(図18参照)。
【0226】
【表7】
【0227】
また、スロット−ブロット分析に基づきFLT3LG遺伝子の存在も検出した。プライマー:FLT3LG L:5’−TCGGAGATGGAGAAACTGCT−3’(SEQ.ID.NO.15)とFLT3LG R:5’−CTGGACGAAGCGAAGACAG−3’(SEQ.ID.NO.16)を用いて得られたウシFLT3LG547bpPCR産物を262E02ウサギBACとハイブリダイズさせたところ、高度にストリンジェントな条件下で強い陽性シグナルが得られた。
【0228】
ウサギBACクローン262E02の構造は、ウシ128E04ウシBACクローンと極めて類似していると考えられ、従ってトランスジェネシス実験においても同様に良好な結果をもたらすと期待できる。
【0229】
実施例16−ウサギFcRnを過剰発現するトランスジェニックウサギの作製とウサギIgGの半減期を分析するインビボ研究
これまでの実施例で特性評価されたウサギBACクローン262E02を有する遺伝子構築物か又は十分に特性評価されたbFcRnプロモーターによって駆動されるウサギFcRncDNA(SEQ.ID.NO.48)を含み、ウサギFcRncDNAの下流にヘテロガスイントロンと市販のSV40ポリA領域を更に含む構築物を、前核マイクロインジェクションでウサギ接合体に導入した。或いは、トランスジェニックウサギは、実施例10に記載のレンチウィルストランスファーベクターにP2−ウサギFcRncDNA構築物を挿入して、これをウサギ胚の囲卵腔に注入することにより作製することもできる。トランスジェニックウサギは、特異的プライマー/プローブを用いるPCR及び/又はサザンブロットにより同定される。ウサギFcRnを過剰発現するトランスジェニックウサギにおけるIgG半減期は、例えば上で例示したような標準的な方法で評価される。
【0230】
以上から、ウサギFcRnα鎖を過剰発現するトランスジェニックウサギはポリクローナル抗血清の産生向上に有利に用いることができる。
【0231】
参考文献
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図1
図2
図3
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【配列表】
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