【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究開発を行った結果、25℃の温度において液体状の化合物、即ち、添加物の融点または凝固点が25℃以下の化合物として、
(A)イソプロピル基を側鎖に有する特定の芳香族化合物、
(B)フルベン骨格を有する特定の化合物、
(C)スクアレン、および
(D)2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンをジエチル亜鉛(CAS No.557−20−0)に共存させた組成物とすることで熱安定性が著しく向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明に係るジエチル亜鉛組成物は、ジエチル亜鉛に添加物として添加物の融点が25℃以下の化合物、即ち、25℃の温度において液体状の化合物として、1)イソプロピル基を側鎖に有する特定の芳香族化合物、2)フルベン骨格を有する特定の化合物、3)スクアレン、および4)2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンのうちの1または2以上が添加されたジエチル亜鉛組成物である。
【0012】
また本発明に係るジエチル亜鉛組成物において、前述の、
(A)イソプロピル基を側鎖に有する特定の芳香族化合物としては、下記一般式(1)、一般式(2)、一般式(3)、一般式(4)および一般式(5)で表される化合物からなる群より選ばれる1つまたは2以上の化合物を含む。
【0013】
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【0014】
式(1)、式(2)、式(3)、式(4)および式(5)中、Rはそれぞれ独立して、水素、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐したアルキル基(アルキル基にはイソプロピル基も含む)、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐したアルケニル基、炭素数6〜14のアリル基である。
【0015】
前述の一般式(1)、一般式(2)、一般式(3)、一般式(4)および一般式(5)で表されるイソプロピル基を側鎖に有する芳香族化合物の側鎖に結合している置換基であるRは、それぞれ独立に、本発明で特徴とされるイソプロピル基だけでなく、水素やメチル基、プロピル基等の炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐したアルキル基(前述のようにアルキル基には本発明で特徴とされるイソプロピル基も含む)やビニル基やプロペニル基等の炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐したアルケニル基およびフェニル基、トルイル基等の炭素数6〜14のアリル基等、イソプロピル基とは異なる置換基を有していてもよい。側鎖に存在するイソプロピル基の数は、1つでも2つ以上の複数であってもよく、例えば、芳香族化合物としてベンゼンの場合、特に2つ以上のイソプロピル基を有する1,3−ジイソプロピルベンゼン、1、4―ジイソプロピルベンゼン、1、3,5―ジイソプロピルベンゼンは熱安定性の効果が高い。
【0016】
前述のイソプロピル基を側鎖に有する芳香族化合物として、例えば、1−イソプロピルナフタレン、2−イソプロピルナフタレン等のイソプロピル基の1置換体、1,3−ジイソプロピルベンゼン、1、4―ジイソプロピルベンゼン、1,3,5-トリイソプロピルベンゼン等のイソプロピル基の2置換体以上の化合物を挙げることが出来る。
【0017】
これらの芳香族化合物のなかでも、構造が単純であり、工業的に容易に入手可能なもので高い効果が得られる添加物として、1−イソプロピルナフタレン、2−イソプロピルナフタレン、1,3−ジイソプロピルベンゼン、1、4―ジイソプロピルベンゼン、1,3,5-トリイソプロピルベンゼンを好ましく用いることが出来る。
【0018】
これらのイソプロピル基を側鎖に有する芳香族化合物は、25℃の温度において液体であり、ジエチル亜鉛組成物の調整を容易に行なうことが出来る。
【0019】
また本発明に係るジエチル亜鉛組成物において、前述の、2)フルベン骨格を有する特定の化合物としては、例えば、下記一般式(6)で表される化合物を例示することができる。
【0020】
【化6】
【0021】
式(6)中、Rはそれぞれ独立して、水素、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐したアルケニル基、炭素数6〜14のアリル基である。
【0022】
これらのフルベン骨格を有する特定の化合物のなかでも、25℃の温度において液体で、構造が単純であり、工業的に容易に入手可能なもので高い効果が得られる添加物として、6,6−ジメチルフルベン(CAS No.2175−91−9)を好ましく用いることが出来る。
【0023】
これらのフルベン骨格を有する特定の化合物は、25℃の温度において液体であり、ジエチル亜鉛組成物の調整を容易に行なうことが出来る。
【0024】
さらに、本発明に係るジエチル亜鉛組成物において、前述の3)スクアレン(CAS No.111−02−4)および4)2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(CAS No.6362−80−7)を使用することが出来る。
これらの3)および4)の化合物は、25℃の温度において液体であり、ジエチル亜鉛組成物の調整を容易に行なうことが出来る。
【0025】
本発明に用いられる添加物は、単独の添加で充分な効果が得られるが、複数を混合して用いても差し支えない。
【0026】
ここで、添加物の添加量は、ジエチル亜鉛の性能が維持され、熱安定化効果が得られる範囲であれば、特に制限は無いが、通常、ジエチル亜鉛に対して、100ppm〜20wt%、好ましくは500ppm〜10wt%、より好ましくは 2000ppm〜5wt%であれば、熱安定性に優れたジエチル亜鉛組成物を得ることができる。
【0027】
本発明の添加物の添加量が、少なすぎると熱安定性向上の充分な効果が得られない場合があったり、多すぎると、添加量を増加した効果が得られない場合もあるので、熱安定性の所望の効果を得るための適量を添加することが望ましい。
【0028】
本発明に使用されるジエチル亜鉛は、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等の重合触媒用途や、医薬、機能性材料等の中間体等の製造において有機合成の反応試薬として用いられている一般に工業材料として知られているものを用いることが出来る。
【0029】
また、本発明においては、MOCVD法等により酸化亜鉛薄膜を形成する方法で使用され、CIGS太陽電池のバッファ層、透明導電膜、色素増感太陽電池の電極膜、薄膜Si太陽電池の中間層、透明導電膜等の太陽電池における各種機能膜、光触媒膜、紫外線カット膜、赤外線反射膜、帯電防止膜等の各種機能膜、化合物半導体発光素子、薄膜トランジスタ等の電子デバイス等に使用されるような、工業材料よりも高純度のジエチル亜鉛も用いることが出来る。
【0030】
本発明のジエチル亜鉛組成物の調製においては、ジエチル亜鉛と本発明の添加物とを混合すればよく、例えば、ジエチル亜鉛に前述の添加物を添加する等、添加の方法においては特に制限は無い。
【0031】
例えば、保存安定性の向上を目的する場合においては、あらかじめ、ジエチル亜鉛に添加物を添加する方法を用いることが出来る。
また、例えば、反応等に使用する場合、使用の直前にジエチル亜鉛に添加物を添加することも可能である。
【0032】
また、本発明のジエチル亜鉛組成物の調製の温度においては、ジエチル亜鉛の熱分解の影響が少ない70℃以下が望ましい。通常、−20℃〜35℃で本発明の組成物の調製を行なうことが出来る。また、圧力についても、特に制限は無いが、反応等、特殊な場合を除いては、通常、0.1013MPaなど、大気圧付近でジエチル亜鉛と本発明の組成物の調製を行なうことが出来る。
【0033】
本発明のジエチル亜鉛組成物の保管・運搬容器、貯蔵タンク、配管等の設備における使用機材、使用雰囲気はジエチル亜鉛に用いているものをそのまま転用可能である。例えば、前述の使用機材の材質はSUS、炭素鋼、チタン、ハステロイ等の金属や、テフロン(登録商標)、フッ素系ゴム等の樹脂等を用いることができる。また、使用雰囲気は、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス等がジエチル亜鉛と同様に用いることができる。
【0034】
また、本発明のジエチル亜鉛組成物は、ジエチル亜鉛の使用に際して用いることが出来る公知の溶媒に溶解して使用することが出来る。前記溶媒の例として、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の飽和炭化水素や、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等の炭化水素化合物、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル系化合物等を挙げることが出来る。
【0035】
本発明のジエチル亜鉛組成物の用途としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等の重合触媒用途や、医薬、機能性材料等の中間体等の製造において有機合成の反応試薬としての用途や、また、MOCVD法等により酸化亜鉛薄膜を形成する方法で使用され、CIGS太陽電池のバッファ層、透明導電膜、色素増感太陽電池の電極膜、薄膜Si太陽電池の中間層、透明導電膜等の太陽電池における各種機能膜、光触媒膜、紫外線カット膜、赤外線反射膜、帯電防止膜等の各種機能膜、化合物半導体発光素子、薄膜トランジスタ等の電子デバイス等に使用されるような酸化物形成用途や、ZnS等、II−VI族の電子デバイス用薄膜形成用途等、これまでジエチル亜鉛が使用されている用途と同様のものを挙げることが出来る。