特許第5752364号(P5752364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5752364
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】スラグの顕熱回収方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/00 20060101AFI20150702BHJP
   F27D 15/02 20060101ALI20150702BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20150702BHJP
   C21C 5/28 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   C04B5/00 A
   C04B5/00 B
   F27D15/02 A
   F27D17/00 102
   C21C5/28 D
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-141103(P2010-141103)
(22)【出願日】2010年6月21日
(65)【公開番号】特開2012-1418(P2012-1418A)
(43)【公開日】2012年1月5日
【審査請求日】2013年2月13日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「環境調和型製鉄プロセス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】當房 博幸
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−308397(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/116675(WO,A1)
【文献】 特開昭53−85794(JP,A)
【文献】 特開昭51−100969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B5/00−5/06
F27D17/00
C21B3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融スラグの冷却処理装置(1)と、該冷却処理装置(1)で冷却・固化したスラグから顕熱回収を行う熱回収装置(4)と、前記冷却処理装置(1)で冷却・固化したスラグを前記熱回収装置(4)に移送する移送コンベア(5)を備えた設備であって、前記熱回収装置(4)が、上部隔壁を熱交換用の流体流路を有する構造とすることにより、塔内の上部領域をボイラー構造部(54)とした熱回収塔(40)を備えた設備を用い、
前記冷却処理装置(1)において溶融スラグを回転する冷却ロールの外周面に供給して冷却・固化させた後、この固化したスラグを前記移送コンベア(5)により前記熱回収装置(4)に移送し、該熱回収装置(4)においてスラグを熱交換用のガスと接触させ、スラグの顕熱回収を行う方法であって、
前記冷却処理装置(1)では、冷却ロールに供給された溶融スラグを厚さ5mm以下の板状または細片状に冷却・固化させ、
前記熱回収装置(4)では、下記(i)および(ii)の条件で、塔内径が4m以上の熱回収塔(40)内に装入されて塔内を下降するスラグに対して熱交換用のガスを向流方向に流し、スラグとガスを接触させることでスラグの顕熱回収を行うとともに、前記ガスの顕熱の一部を塔上部のボイラー構造部(54)にて蒸気として回収することを特徴とするスラグの顕熱回収方法。
(i)前記移送コンベア(5)で移送されてきたスラグを、塔上部のスラグ装入口(41)から熱回収塔(40)内に装入して、該熱回収塔(40)内にスラグ充填層を形成するとともに、熱回収塔(40)内のスラグを塔下部のスラグ排出口(42)を開放することで順次排出し、それに伴い塔内のスラグを順次下降させる。
(ii)500Nm/ton以上のガス量の熱交換用のガスを、塔底部の分散板(46)を通じて熱回収塔(40)内に吹き込み、ガスが塔内を上昇する間にスラグと熱交換させた後、塔上部のガス排出口(45)から排出させる。
【請求項2】
冷却ロールの回転速度を制御することで、冷却・固化するスラグの厚さを制御することを特徴とする請求項1に記載のスラグの顕熱回収方法。
【請求項3】
冷却ロールの外周面に付着した溶融スラグを、加工ロールにより冷却ロールとの間で拘束して加工することを特徴とする請求項1または2に記載のスラグの顕熱回収方法。
【請求項4】
スラグの顕熱回収率を30%以上、スラグとの接触後に回収される熱交換用ガスの温度を500℃以上とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスラグの顕熱回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼製造プロセスなどで発生するスラグから顕熱回収を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製造プロセスで発生する溶融スラグ(例えば、製鋼スラグ)を冷却処理するための装置として、ロール(ドラム)方式のスラグ冷却処理装置が知られている(例えば、特許文献1など)。このスラグ冷却処理装置は、水平方向で並列し、対向する外周部分が上向きに回転する回転方向を有する1対の冷却ロールを備えており、この1対の冷却ロールの上部外周面間に上方から溶融スラグが供給され、スラグ液溜まりが形成される。このスラグ液溜まりから、回転する冷却ロールの表面に付着することで溶融スラグが持ち出され、この溶融スラグは冷却ロール面に付着した状態で適度な凝固状態(例えば、半凝固状態または表層のみ凝固した状態)まで冷却された後、所定のロール回転位置において自重により冷却ロール面から剥離し、回収手段に回収される。
【0003】
このような冷却処理装置で溶融スラグを冷却処理することにより、(i)従来のような広大な冷却ヤードが必要ない、(ii)厚みの小さいスラグ凝固体が得られるため、所望の粒度の土木材料や骨材などへの加工が容易であるとともに、破砕処理して粒状スラグを製造する際の粉や細粒品の発生量が少ないため、製品歩留まりが向上する、(iii)冷却のための散水が不要であるか若しくは散水量が少なくて済むため、水分を含まない若しくは水分量が少ないスラグが得られ、セメント原料などに供する場合に乾燥処理を必要としない、などの利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−308397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、製鉄所内では、省エネルギーやCOの削減の観点から、種々のプロセスで発生する廃熱を回収・利用する必要性が高まりつつあり、その廃熱源の一つとして高温状態で発生するスラグが考えられる。特許文献1にも、冷却したスラグから熱回収することが記載されている。
しかし、実設備においてスラグの顕熱回収を行うには、高い顕熱回収率を確保する必要があり、また、顕熱回収時にスラグの飛散を防止するなどの対策を講じる必要があるが、特許文献1には、これを満足するようなスラグ顕熱の回収方法は記載されていない。
【0006】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、冷却ロール方式のスラグ冷却処理装置において冷却・固化した後、未だ高温状態にあるスラグから高い顕熱回収率で顕熱回収を行うことができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため検討を重ねた結果、溶融スラグを冷却ロールで冷却・固化させ、このスラグを熱交換用のガスと接触させて顕熱回収する際に、冷却・固化させるスラグ厚さを十分に小さくすることにより、高い熱回収率で顕熱回収を行うことができることを見出した。
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]溶融スラグの冷却処理装置(1)と、該冷却処理装置(1)で冷却・固化したスラグから顕熱回収を行う熱回収装置(4)と、前記冷却処理装置(1)で冷却・固化したスラグを前記熱回収装置(4)に移送する移送コンベア(5)を備えた設備であって、前記熱回収装置(4)が、上部隔壁を熱交換用の流体流路を有する構造とすることにより、塔内の上部領域をボイラー構造部(54)とした熱回収塔(40)を備えた設備を用い、
前記冷却処理装置(1)において溶融スラグを回転する冷却ロールの外周面に供給して冷却・固化させた後、この固化したスラグを前記移送コンベア(5)により前記熱回収装置(4)に移送し、該熱回収装置(4)においてスラグを熱交換用のガスと接触させ、スラグの顕熱回収を行う方法であって、
前記冷却処理装置(1)では、冷却ロールに供給された溶融スラグを厚さ5mm以下の板状または細片状に冷却・固化させ、
前記熱回収装置(4)では、下記(i)および(ii)の条件で、塔内径が4m以上の熱回収塔(40)内に装入されて塔内を下降するスラグに対して熱交換用のガスを向流方向に流し、スラグとガスを接触させることでスラグの顕熱回収を行うとともに、前記ガスの顕熱の一部を塔上部のボイラー構造部(54)にて蒸気として回収することを特徴とするスラグの顕熱回収方法。
(i)前記移送コンベア(5)で移送されてきたスラグを、塔上部のスラグ装入口(41)から熱回収塔(40)内に装入して、該熱回収塔(40)内にスラグ充填層を形成するとともに、熱回収塔(40)内のスラグを塔下部のスラグ排出口(42)を開放することで順次排出し、それに伴い塔内のスラグを順次下降させる。
(ii)500Nm/ton以上のガス量の熱交換用のガスを、塔底部の分散板(46)を通じて熱回収塔(40)内に吹き込み、ガスが塔内を上昇する間にスラグと熱交換させた後、塔上部のガス排出口(45)から排出させる。
【0008】
[2]上記[1]の顕熱回収方法において、冷却ロールの回転速度を制御することで、冷却・固化するスラグの厚さを制御することを特徴とするスラグの顕熱回収方法。
[3]上記[1]または[2]の顕熱回収方法において、冷却ロールの外周面に付着した溶融スラグを、加工ロールにより冷却ロールとの間で拘束して加工することを特徴とするスラグの顕熱回収方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの顕熱回収方法において、スラグの顕熱回収率を30%以上、スラグとの接触後に回収される熱交換用ガスの温度を500℃以上とすることを特徴とするスラグの顕熱回収方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷却ロール方式のスラグ冷却処理装置において冷却・固化した後、未だ高温状態にあるスラグから高い顕熱回収率で顕熱回収を行うことができる。また、特に塩基度(CaO/SiO)が高いため粉化しやすいスラグについては、その粉化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明による溶融スラグの冷却処理−顕熱回収方法の一実施形態を模式的に示す説明図
図2図1に示す形態でスラグの冷却処理−顕熱回収を行う場合について、スラグ温度とスラグ顕熱の標準的な推移を示す図面
図3図1に示す方法で厚さ5mmのスラグの顕熱回収を行う場合について、熱回収塔高さ方向でのスラグの平均温度と表面温度およびガス温度と、スラグ顕熱回収率を示すグラフ
図4図1に示す方法で厚さ10mmのスラグの顕熱回収を行う場合について、熱回収塔高さ方向でのスラグの平均温度と表面温度およびガス温度と、スラグ顕熱回収率を示すグラフ
図5図1に示す方法で厚さ20mmのスラグの顕熱回収を行う場合について、熱回収塔高さ方向でのスラグの平均温度と表面温度およびガス温度と、スラグ顕熱回収率を示すグラフ
図6】転炉脱炭スラグを冷却ロールで冷却処理した際のロール回転速度とスラグ厚さとの関係を示すグラフ
図7】クロム鉱石溶融還元炉スラグを冷却ロールで冷却処理した際のロール回転速度とスラグ厚さとの関係を示すグラフ
図8図3で用いた熱回収塔内の実ガス空塔速度を示すグラフ
図9図3で用いた熱回収塔で厚さ5mmのスラグから顕熱回収を行う場合について、ガス量と顕熱回収率との関係を示すグラフ
図10】厚さ5mmのスラグから顕熱回収を行う場合について、熱回収塔径と顕熱回収率との関係を示すグラフ
図11図1に示す冷却処理−顕熱回収方法で使用できる熱回収装置の他の実施形態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、溶融スラグを回転する冷却ロールの外周面に供給して冷却・固化させた後、この固化したスラグを熱交換用のガスと接触させ、スラグの顕熱回収を行う方法である。以下、この方法について、図1に示す実施形態を例に説明する。
図1は、上述した溶融スラグの冷却処理−顕熱回収方法の一実施形態を模式的に示すものであり、図に示した設備は、溶融スラグの冷却処理装置1と、この冷却処理装置1で冷却・固化したスラグから顕熱回収を行う熱回収装置4と、冷却処理装置1で冷却・固化したスラグを熱回収装置4に移送する移送コンベア5などからなる。
【0012】
前記冷却処理装置1は、水平方向で並列し、対向する外周部分が上向きに回転する回転方向を有する1対の冷却ロール2a,2b(冷却ドラム)を備えている。この冷却ロール2a,2bは、駆動装置(図示せず)により上記の回転方向に回転駆動する。冷却ロール2a,2bは、回転速度の制御が可能である。
前記冷却ロール2a,2bの内部には、冷媒を通すための流路を有する内部冷却機構(図示せず)が設けられ、この内部冷却機構に対する冷媒供給部と冷媒排出部がロール軸の各端部に各々設けられている。冷媒には一般に水(冷却水)が用いられるが、他の流体(液体または気体)を用いてもよい。
なお、通常は、冷却ロール2a,2bの上部外周面間に形成される断面V溝状の凹部(スラグ液溜まりAが形成される凹部)の両端を塞ぐための堰(図示せず)が、冷却ロール幅方向の両端側に適当な部材により設けられる。
【0013】
前記冷却ロール2a,2bの上部には、冷却ロールの外周面に付着したスラグ(溶融・凝固状態の程度を問わない)を、冷却ロールとの間で拘束して加工する加工ロール3が設けられている。この加工ロール3は、その外周面が、冷却ロール2a,2bの外周面との間で所定の間隔を形成するようにして、支持アーム(図示せず)などに回転自在に支持されている。この加工ロール3は、例えば、冷却ロールの外周面に付着したスラグを、冷却ロールとの間で圧延して展伸させる。また、ロール面に凹凸を有する加工ロール3を用いてもよく、この場合には、冷却ロールの外周面に付着したスラグを、必要に応じて圧延して展伸させつつ、ロール面の凹凸で細片状に分割する。
【0014】
通常、加工ロール3は非駆動であり、フリー回転状態で冷却ロール2a,2bの上部外周面に付着したスラグを加工(例えば、圧延して展伸させる)するが、駆動ロールとしてもよい。加工ロール3は、冷却ロール面に付着したスラグを上記のように加工するものであるため、その外径は冷却ロール2a,2bの外径よりも十分小さくてよいが、ロール長さが長くなるとスラグ熱や自重で撓み、冷却ロール面との間隔がロール幅方向でバラツキやすくなるため、ロール長さやロール剛性に応じて外径を選択することが好ましい。
また、加工ロール3についても、前記冷却ロール2a,2bと同様の内部冷却機構を備えた方が、スラグの冷却効率および加工ロールの耐久性の観点から好ましい。また、各冷却ロール2a,2bに対して、複数の加工ロール3を配置してもよい。
【0015】
前記移送コンベア5は、始端側が冷却ロール2a,2bの下方に位置するとともに、長手方向の途中から移送方向に向けて傾斜状に立ち上がり、終端側が所定の高さに位置している。この移送コンベア5は、十分な耐熱性を有する金属材で構成される。また、移送コンベア5には、その搬送面を覆う保温カバー7が設けられている。
冷却ロール2a,2bの表面に付着して冷却されるスラグは、冷却ロール面がロール下方側に回り込み始める回転位置において自重により冷却ロール面から剥離し、このスラグは移送コンベア5上に落下する。
【0016】
前記熱回収装置4は、移送コンベア5で移送されてきたスラグを受け取り、その顕熱回収を行う。本実施形態では、傾斜状に立ち上がった移送コンベア5の終端の下方に熱回収装置4が配置され、移送されてきたスラグがこの熱回収装置4に投入される。
なお、移送コンベア5に代えてシュートを設け、冷却ロール2a,2bから剥離したスラグを、このシュートを介して熱回収装置4に装入するようにしてもよい。
【0017】
熱回収装置4の形式や構造は特に制限はないが、通常は、スラグと熱交換用のガスを接触させる熱回収塔を用いる。本実施形態の熱回収装置4は、スラグを上部から装入して下部から取り出すようにした熱回収塔40を備え、この熱回収塔40内に充填され、塔内を下降するスラグに対して熱交換用のガスを反対方向(向流方向)に流し、熱交換を行うようにしてある。このようにスラグとガスを向流方式で接触させることにより、スラグとガスを並流方式(スラグの移動方向とガスの流れ方向が同じである方式)に較べて高い顕熱回収効率を得ることができる。
【0018】
スラグとガスを向流方式で接触させるために、熱回収塔40は、その上部にスラグ装入口41とガス排出口45を有し、下部にスラグ排出口42とガス導入口44を有している。熱回収塔40の底部には、塔内のスラグ充填層Sにガスを吹き込むための分散板46(多孔板)が設けられ、その下方に形成された風箱47にガス導入口44が設けられている。スラグ排出口42には開閉可能なシャッター43が設けられている。
【0019】
この熱回収装置4では、冷却処理装置1から移送コンベア5で移送されてきたスラグがスラグ装入口41から熱回収塔40内に装入され、スラグ充填層Sが形成される。熱回収塔40内のスラグは、スラグ排出口42(シャッター43)を開放することで適宜排出され、それに伴い塔内のスラグは順次下降する。ガス導入口44から熱交換用のガス(通常は空気)が導入され、分散板46を通じて塔内に吹き込まれる。ガスは、塔内を上昇する間にスラグと熱交換し、スラグ顕熱を回収してガス排出口45から排出される。通常、このガスはボイラーなどに導かれ、スラグ顕熱が蒸気として回収される。ガスは、循環使用することができ、その場合には、再びガス導入口44に導かれる。
【0020】
図1に示す溶融スラグの冷却処理−顕熱回収方法では、対向する外周部分が上向きに回転する冷却ロール2a,2bの上部外周面間(断面V溝状の凹部)に、樋6から溶融スラグが供給され、スラグ液溜まりAが形成される。溶融スラグは、回転する冷却ロール2a,2bの表面に付着することでスラグ液溜まりAから持ち出され、冷却ロール2a,2bに板状に付着した状態で冷却される。
加工ロール3によるスラグの加工は必要に応じて行えばよく、冷却ロールに付着したスラグが厚すぎる場合や、スラグをロール幅方向で冷却ロール面に均一に付着させ、冷却効率を高めたい場合などには、加工ロール3を所定の位置に配置し、冷却ロールとの間でスラグを圧延する。これによりスラグはロール幅方向に展伸され、薄くなるとともに、スラグの冷却効率が高まり、かつスラグの冷却速度も高くなる。また、冷却ロールに付着した板状のスラグを細かくしたい場合は、ロール面に凹凸を有する加工ロール3を所定の位置に配置し、冷却ロール面に付着したスラグを、必要に応じて圧延して展伸させつつ、ロール面の凹凸で細片状に分割する。
【0021】
溶融スラグは冷却ロール面に付着した状態で適度な凝固状態(例えば、半凝固状態または表層のみ凝固した状態)まで冷却された後、所定のロール回転位置において自重により冷却ロール面から自然に剥離し、この剥離した板状または細片状のスラグはそのまま移送コンベア5に受け取られ、この移送コンベア5で熱回収装置4に移送される。そして、この熱回収装置4において、例えば、上述したようなスラグの顕熱回収がなされる。
【0022】
板状または細片状のスラグの厚みは、冷却ロール2a,2bの回転速度で調整可能であり、回転速度を大きくするほど、スラグの厚みは薄くなる。但し、回転速度が大きすぎると、溶融スラグがロールで跳ね飛ばされて十分に冷却されず、形状と冷却速度が安定しないので、その点を考慮する必要がある。また、冷却ロール2a,2bの回転速度を制御することにより、冷却時間および冷却温度を調整することもできる。
【0023】
通常、冷却ロール2a,2bによる冷却が完了した直後のスラグは、適度な凝固状態(例えば、半凝固状態または表層のみ凝固した状態)に固化している。但し、スラグの性質や冷却処理装置1の使用形態によっては、スラグのロール接触面側は凝固しているが、自由表面側や内部は未凝固の場合もあり、溶融状態で流れて移送コンベア5に達するものもある。本発明において、溶融スラグを冷却ロールの外周面に供給して冷却・固化させるとは、スラグが以上のような凝固状態に冷却される場合を含む意味とする。
冷却ロール2a,2bから剥離したスラグは未だ相当の高温であり、移送コンベア5で移送するのに高温過ぎる場合には、冷却ロール2a,2bから剥離したスラグを散水冷却してもよい。散水冷却は、シャワー状散水による冷却、スプレー冷却、ミスト冷却のいずれでもよい。但し、散水冷却するとスラグの保有する熱量が減少し、顕熱回収率の低下を招くおそれがあるので、散水量はできるだけ少ないことが望ましい。
【0024】
以上が、本発明が前提とする溶融スラグの冷却処理−顕熱回収方法の一実施形態であるが、本発明では、冷却ロールにおいて溶融スラグを厚さ10mm以下の板状または細片状に冷却・固化させ、このスラグから顕熱回収を行うものである。
製鋼工程で発生した溶融スラグ(製鋼スラグ)をスラグ鍋で搬送し、図1に示すような形態でスラグの冷却処理−顕熱回収を行う場合について、スラグ温度とスラグ顕熱の標準的な推移を調べた。その結果を図2に示す。これによれば、冷却処理装置1で冷却・固化したスラグを1000℃前後の温度で熱回収塔40に装入できることが判る。このような高温スラグを熱交換用のガスと接触させて顕熱回収を行うことを前提とし、本発明では回収ガス温度(スラグと接触後に回収される熱交換用ガスの温度)500℃以上、顕熱回収率30%以上を目標とする。ここで、スラグの顕熱回収率は、冷却ロールに供給する直前の溶融スラグの顕熱を100%として、スラグと熱交換した後のガスの温度上昇分の顕熱から計算する。
【0025】
図3図5は、図1に示すような溶融スラグの冷却処理−顕熱回収方法により、下記条件でスラグの顕熱回収を行う場合について、熱回収塔高さ方向(熱回収塔高さ:3m)でのスラグの平均温度と表面温度およびガス温度を試験結果と伝熱計算により求めるとともに、ガス温度から顕熱回収率を求めたものである。なお、1000℃のスラグ60tの顕熱と同等の熱容量を有する1000℃の空気の量は、約40000Nmであるので、顕熱回収用のガス量は50000Nm/hとした。
【0026】
(1)熱回収塔の構成
・塔内部の大きさ:内径3m×高さ3m
・スラグ滞留量:約20t
・スラグ滞留時間:約20分
(2)熱回収塔に装入するスラグ
・スラグ量:60t/h
・スラグ温度:1000℃
(3)顕熱回収用ガス
・ガス種:空気(25℃)
・ガス量:50000Nm/h
【0027】
顕熱回収した板状または細片状のスラグ(溶融スラグを冷却処理装置で冷却・固化して得られた板状または細片状のスラグ)は、図3では厚さ5mm、図4では厚さ10mm、図5では厚さ20mmである。
図3図5によれば、厚さ5mmのスラグでは回収ガス温度は約800℃であり、顕熱回収率44%が得られている。これに対してスラグの厚さが増大するに従い、スラグ平均温度とスラグ表面温度の差が大きくなり、スラグ粒子内熱伝導がスラグ顕熱回収の律速となる傾向が現れる。その結果、顕熱回収率は厚さ10mmのスラグで37%、厚さ20mmのスラグでは26%となる。したがって、熱回収塔高さの上限を3m程度にして目標を達成するには、スラグ厚さを10mm以下にする必要があることが判る。
【0028】
以上の結果から、本発明では顕熱回収するスラグの厚さを10mm以下とするものである。先に述べたように、溶融スラグを冷却ロール2a,2bで冷却・固化して得られるスラグの厚さは、冷却ロール2a,2bの回転速度を制御することにより、および/または加工ロール3を用いるとともに、冷却ロール2a,2bと加工ロール3との間隔を調整することにより、調整することが可能である。図6は、転炉脱炭スラグを冷却ロール2a,2bで冷却処理した際のロール回転速度(回転数)とスラグ厚さとの関係を示すものである。また、図7は、クロム鉱石溶融還元炉スラグ(SRスラグ)を冷却ロール2a,2bで冷却処理した際のロール回転速度(回転数)とスラグ厚さとの関係を示すものである。これらによれば、ロール回転速度が大きくなるほどスラグ厚さは小さくなり、厚さのばらつきも小さくなることが判る。なお、鋳銑機のように鋳型を並べて移動させ、そこに溶融スラグを流す方法では、特にスラグを大量に処理する場合、スラグの凝固厚みを10mm以下に制御することは難しい。すなわち、構造上高速で鋳型を移動することができないため、1ton/min程度以上でスラグを供給する場合、対応できない。
【0029】
本発明において、冷却・固化させるスラグ厚さの下限は特にないが、スラグ厚さが薄過ぎると、熱回収装置に達するまでに温度が低下しすぎることや、熱回収塔でスラグの顕熱回収を行う際に、スラグ粒子のガスへの飛散量が多くなるため好ましくない。ここで、スラグ粒子の飛散の可能性について調べるため、図3で用いた熱回収塔内の実ガス空塔速度を計算した結果を図8に示す。これによれば、ガス量が10000Nm/h以下の場合には、ガス温度がスラグ温度近傍まで上昇し、ガス量に応じたガス空塔速度になる傾向にあり、ガス空塔速度は2m/s以下に止まるので、スラグ粒子が飛散するおそれは小さい。一方、ガス量を30000Nm/h以上とすると、ガス空塔速度が6m/s以上となる。この流速下では、2〜3mmφの球形スラグ粒子は飛散するおそれが高くなり、細片状のスラグも、大きさによっては飛散するおそれがある。このためスラグ厚さは2mm以上が好ましい。
【0030】
図3で用いた熱回収塔で厚さ5mmのスラグから顕熱回収を行う場合について、スラグの顕熱回収率およびガス空塔速度に及ぼすガス量の影響を調べた。その結果を図9に示すが、顕熱回収率30%以上を満足しようとすると、概ねガス量30000Nm/h以上が必要であることが判る。図9は、スラグ処理量が60ton/Hrの場合の結果であり、したがって、ガス量は500Nm/ton以上が好ましい。
熱回収塔径(塔断面積)を大きくすることによって、相対的に実ガス流速を低減できるので、その効果を確認するため、ガス量を50000Nm/hと30000Nm/hとし、厚さ5mmのスラグから顕熱回収を行う場合について、熱回収塔径とガス空塔速度および顕熱回収率との関係を調べた結果を図10に示す。これによれば、塔内径を変えて各ガス量一定とした場合、顕熱回収率に大きな変化は見られない。一方、塔内径を大きくすることによって、ガス空塔速度を低減できるので、塔内径については概ね4m以上、望ましくは5m程度が好ましい。
【0031】
本発明の実施に供される溶融スラグの冷却処理装置は、冷却ロールの外周面に溶融スラグを供給して冷却・固化させるものであればよく、したがって、図1のような双ロール方式ではなく、例えば単ロール方式のものでもよい。また、スラグの熱回収装置は、スラグを熱交換用のガスと接触させ、スラグの顕熱回収を行うもの(好ましくは、スラグとガスを向流方式で接触させるもの)であればよい。
【0032】
図11は、熱回収装置4の他の実施形態を示している。図1の実施形態と同様、この熱回収装置4も、スラグを上部から装入して下部から取り出すようにした熱回収塔40を備え、この熱回収塔40内に充填され、塔内を下降するスラグに対して熱交換用のガスを向流方向に流し、熱交換を行うようにしてあるが、この実施形態では、熱回収塔40内の上部隔壁を熱交換用の流体流路を有するメンブレン構造とすることにより、塔内の上部領域をボイラー構造部54としてある。また、熱回収塔40のガス排出口45はホットサイクロン49に接続され、このホットサイクロン49のガス出側には、ボイラー50とブロア51が順に設けられている。また、熱回収塔40の下部には、傾斜した底面に沿ってスラグをスラグ排出口42側に押し出すためのプッシャー52が設けられている。また、スラグ排出口42の外側には、スラグ排出口42から押し出されたスラグが充填状態で通過する通路53が設けられ、この通路53内を充填状態で通過するスラグにより、スラグ排出口42(シャッター43)を開放した際のマテリアルシールが形成されるようにしてある。なお、その他の構成は、図1の実施形態と同様である。
【0033】
この熱回収装置4でも、図1の実施形態と同様、移送コンベア5で移送されてきたスラグがスラグ装入口41から熱回収塔40内に装入され、スラグ充填層Sが形成される。熱回収塔40内のスラグは、スラグ排出口42(シャッター43)を開放し、プッシャー52で押し出すことで適宜排出され、それに伴い塔内のスラグは順次下降する。ガス導入口44から熱交換用のガス(通常は空気)が導入され、分散板46を通じて塔内に吹き込まれる。ガスは、塔内を上昇する間にスラグと熱交換し、スラグ顕熱を回収する。このガスの顕熱の一部は塔上部のボイラー構造部54(メンブレン構造部分)にて蒸気として回収され、次いで、ホットサイクロン49で飛散した微細スラグが捕集された後、さらに、ガス顕熱の一部がボイラー50にて蒸気として回収される。なお、ホットサイクロン49の一部をメンブレン構造として、上記ボイラー構造部54のように蒸気を回収してもよい。ボイラー50の出側ガス温度は、通常150〜200℃程度であり、ブロア51で吸引して昇圧し、熱回収塔40に循環使用するため、再びガス導入口44に導かれる。
【0034】
本発明で顕熱回収されたスラグは、通常、破砕処理または/および磨砕処理され、必要に応じて、篩い分けなどにより整粒することにより、粒状のスラグ製品を得ることができる。このスラグ製品の種類に制限はないが、通常は、土木材料や建築材料となるスラグ製品である。例えば、路盤材、細骨材、海洋土木材料などが挙げられる。
本発明で冷却処理−顕熱回収されて得られるスラグ製品は、急冷することにより製造されるため粉化が抑制され、このため微粉部分が少なくなり、海洋土木材として利用する際に海水が白濁することがない。また、薄い層状に急冷凝固させるため、破砕工程が簡略化でき、微粒分の少ない細骨材とすることができる。また、緻密質なものとなるため吸水率は低く、アスコン用にも利用できる硬質なものとなる。
【符号の説明】
【0035】
1 冷却処理装置
2a,2b 冷却ロール
3 加工ロール
4 熱回収装置
5 移送コンベア
6 樋
7 保温カバー
40 熱回収塔
41 スラグ装入口
42 スラグ排出口
43 シャッター
44 ガス導入口
45 ガス排出口
46 分散板
47 風箱
49 ホットサイクロン
50 ボイラー
51 ブロア
52 プッシャー
53 通路
54 ボイラー構造部
A スラグ液溜まり
S スラグ充填層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11