特許第5752375号(P5752375)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5752375車両用変速機の摩擦係合要素のトルク特性マップ修正装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5752375
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】車両用変速機の摩擦係合要素のトルク特性マップ修正装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/06 20060101AFI20150702BHJP
【FI】
   F16H61/06
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2010-201108(P2010-201108)
(22)【出願日】2010年9月8日
(65)【公開番号】特開2012-57706(P2012-57706A)
(43)【公開日】2012年3月22日
【審査請求日】2013年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(74)【代理人】
【識別番号】100111143
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 枝里
(72)【発明者】
【氏名】熊沢 厚
【審査官】 河端 賢
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−030429(JP,A)
【文献】 特開2006−336854(JP,A)
【文献】 特開2004−308850(JP,A)
【文献】 特開2004−011775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機に組み込まれた摩擦係合要素に対する制御指令値と該摩擦係合要素の伝達トルクとの関係を定めたトルク特性マップを学習処理に基づき修正する車両用変速機の摩擦係合要素のトルク特性マップ修正装置において、
上記トルク特性マップは、予め前記摩擦係合要素の作動試験を実施して前記制御指令値に対する伝達トルクの変化を計測することにより得られた非線形特性となる場合を含む特性線に基づき上記制御指令値と伝達トルクとの関係を定めると共に、上記制御指令値の学習処理を実行するときの学習点として予め上記伝達トルクの全領域中において高域側と低域側とに離間した2つの異なる伝達トルクが設定され、
上記摩擦係合要素の動力伝達中において、該摩擦係合要素による伝達トルクが上記学習点の各伝達トルクになったときの実際の制御指令値をそれぞれ学習値として学習するトルク特性学習手段と、
上記トルク特性マップの特性線から算出される上記学習点の2つの伝達トルクと対応する制御指令値が、それぞれ上記トルク特性学習手段により学習された2つの学習値と略一致するように、傾きを変更しつつ上記特性線をオフセットして修正するマップ特性修正手段と、
を備えたことを特徴する車両用変速機の摩擦係合要素のトルク特性マップ修正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用変速機の摩擦係合要素のトルク特性マップ修正装置に係り、詳しくは、変速機内に組み込まれた摩擦係合要素の制御に用いられる制御指令値と該摩擦係合要素の伝達トルクとの関係を定めたトルク特性マップを車両個体差に応じた学習処理に基づき修正する修正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばトルクコンバータを備えた自動変速機では、内部に組み込まれたクラッチやブレーキなどの摩擦係合要素の係合状態に応じて変速段の切換やロックアップクラッチの断接などを実行している。このような摩擦係合要素の制御を行うために、自動変速機内に組み込まれた個々の摩擦係合要素には、摩擦係合要素が発生する伝達トルクと制御指令値(例えば、摩擦係合要素を油圧作動させる電磁弁に対する駆動電流など)との関係を定めたトルク特性マップがそれぞれ設定されている。
そして、自動変速機の稼働中には、自動変速機を作動させる上で要求される摩擦係合要素の伝達トルクを目標値として決定し、この目標伝達トルクに対応する制御指令値をトルク特性マップから求めて摩擦係合要素の係合状態を制御している。
【0003】
ところで、摩擦係合要素の伝達トルクと制御指令値との関係は、摩擦係合要素の製造誤差などに応じて相違し、さらに稼働時の摩擦係合要素の消耗、或いは変速機内の油温変化やオイル劣化などの経時的な要因による変化も生じる(以下、これらの要因を「車両個体差」と総称する)。そのため、予め設定された単一のトルク特性マップでは様々な車両個体差に対応できないことから、自動変速機の作動状態から求めた目標伝達トルクを達成できずに、不適切な摩擦係合要素の制御により円滑な自動変速機の作動が望めない場合が生じてしまう。
【0004】
このような問題への対策として、トルク特性マップを学習する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。当該特許文献1のトルク特性マップ修正装置では、車両の定常走行時において特定の摩擦係合要素の伝達トルクを徐々に減少させることにより走行に支障がない程度のスリップを発生させて、スリップ発生時の実際の伝達トルクと油圧指令値(制御指令値)との関係を学習している。
より具体的には、特許文献1の図6に示されるように、このような学習処理を異なる2つの伝達トルクで実施することにより、伝達トルクと油圧指令値との関係を2点で学習し、これら2点の学習点に基づき傾きA及び切片Bの一次式をトルク特性マップとして制御に適用する一方、上記学習処理を実施する毎に、新たな学習点に基づきトルク特性マップを順次更新している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−308850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のトルク特性マップ修正装置では、以下に述べる2つの理由により必ずしも適切なトルク特性マップに修正できるとは限らなかった。
まず、特許文献1のトルク特性マップ修正装置では、上記のように学習処理で得た2点の学習点のみに基づき、全領域での伝達トルクと油圧指令値との関係を線形特性と仮定して推定している。しかし、実際の伝達トルクと油圧指令値との関係は必ずしも線形特性ばかりでなく非線形特性となる場合もあり、このような非線形特性を有するトルク特性マップに対しては全く対応できなかった。よって、学習されたトルク特性マップでは、自動変速機の作動状態から求めた目標伝達トルクを達成できず、不適切な摩擦係合要素の制御により、クラッチ接続時にショックが発生したり不安定な車両挙動を引き起こしたりするという不具合が生じてしまう。
【0007】
また、学習処理で得た2点の学習点に対応するそれぞれの伝達トルクは、車両の定常走行中に伝達トルクを減少させてスリップが生じたときの伝達トルクであり、その時点の車速などの走行条件に応じて偶然に決定された値である。結果として学習処理が実行される毎に、異なる伝達トルクで学習点が学習されることになる。
このため、例えば2点の学習点が共に伝達トルクの高域側または低域側に偏って学習される場合もあり、このときには学習点近傍の領域では目標伝達トルクに対応する信頼性の高い油圧指令値を算出可能であるが、学習点から離間した領域では油圧指令値の信頼性が極端に低下してしまう。結果としてトルク特性マップの全領域で信頼性の高い油圧指令値を算出不能となり、上記と同じく、不適切な摩擦係合要素の制御により、クラッチ接続時のショックや不安定な車両挙動を引き起こす要因になることは明らかであった。
【0008】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、車両個体差に応じてトルク特性マップを適切に学習でき、ひいては学習したトルク特性マップに基づき摩擦係合要素を最適制御することができる車両用変速機の摩擦係合要素のトルク特性マップ修正装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る車両用変速機の摩擦係合要素のトルク特性マップ修正装置は、変速機に組み込まれた摩擦係合要素に対する制御指令値と該摩擦係合要素の伝達トルクとの関係を定めたトルク特性マップを学習処理に基づき修正する車両用変速機の摩擦係合要素のトルク特性マップ修正装置において、トルク特性マップは、予め前記摩擦係合要素の作動試験を実施して前記制御指令値に対する伝達トルクの変化を計測することにより得られた非線形特性となる場合を含む特性線に基づき制御指令値と伝達トルクとの関係を定めると共に、制御指令値の学習処理を実行するときの学習点として予め伝達トルクの全領域中において高域側と低域側とに離間した2つの異なる伝達トルクが設定され、摩擦係合要素の動力伝達中において、摩擦係合要素による伝達トルクが学習点の各伝達トルクになったときの実際の制御指令値をそれぞれ学習値として学習するトルク特性学習手段と、トルク特性マップの特性線から算出される学習点の2つの伝達トルクと対応する制御指令値が、それぞれトルク特性学習手段により学習された2つの学習値と略一致するように、傾きを変更しつつ特性線をオフセットして修正するマップ特性修正手段とを備えたものである。
【0010】
従って、摩擦係合要素に対する制御指令値と摩擦係合要素の伝達トルクとの関係を定めた特性線を有するトルク特性マップが予め設定されると共に、このトルク特性マップ上で学習点として2つの異なる伝達トルクが予め設定されている。摩擦係合要素の動力伝達中において伝達トルクが学習点の各伝達トルクになると、それぞれの時点の実際の制御指令値が学習値としてトルク特性学習手段により学習される。そして、これらの2つの学習値に対して、学習点の2つの伝達トルクと対応して特性線から算出された制御指令値が略一致するように、マップ特性修正手段により特性線の傾きを変更しつつオフセットすることにより、特性線の修正が行われる。
【0011】
このため、学習結果に基づく修正後も特性線は予め設定された線形や非線形などの所期の特性を保ち、その特性線に基づき摩擦係合要素に要求される伝達トルク(目標値)から制御指令値が算出されことから、線形特性のみならず非線形特性を有するトルク特性マップにも何ら問題なく対応可能となる。
また、予め学習点として設定した2つの伝達トルクで学習処理を実行するため、これらの伝達トルクをトルク特性マップの全領域中において高域側と低域側とに離間して設定しておけば、学習結果を正確に反映させて特性線を修正可能となり、トルク特性マップの全領域で信頼性の高い制御指令値が算出される。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明に係る車両用変速機の摩擦係合要素のトルク特性マップ修正装置によれば、摩擦係合要素に対する制御指令値と摩擦係合要素の伝達トルクとの関係を定めた特性線を有するトルク特性マップを予め設定すると共に、このトルク特性マップ上で学習点として2つの異なる伝達トルクを予め設定し、摩擦係合要素の伝達トルクが学習点の各伝達トルクになったときの実際の制御指令値を学習値としてそれぞれ学習し、これらの2つの学習値に対して特性線から算出された制御指令値を一致させるように傾きを変更しつつ特性線をオフセットさせて修正するようにした。
【0013】
従って、学習結果に基づく修正後も特性線は予め設定された所期の特性を保つことから非線形特性にも対応でき、また、2つの伝達トルクを好適な学習点として予め設定するため、学習結果を正確に反映させた特性線の修正によりトルク特性マップの全領域で信頼性の高い制御指令値を算出できる。その結果、適切な制御指令値に基づき摩擦係合要素を最適制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の車両用変速機の摩擦係合要素のトルク特性マップ修正装置が適用されたトラックの駆動系を示す全体構成図である。
図2】インナクラッチのトルク特性マップを示す特性図である。
図3】ECUが実行するトルク特性学習・マップ修正ルーチンを示すフローチャートである。
図4】特性線Sと学習値IA,IBとの関係を示すマップ修正手順の説明図である。
図5】直線I1−I2の傾きを直線IA−IBの傾きに一致させた状態を示すマップ修正手順の説明図である。
図6】オフセット量Zを算出した状態を示すマップ修正手順の説明図である。
図7】特性線Sのオフセットを完了した状態を示すマップ修正手順の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をデュアルクラッチ式変速機の摩擦係合要素を対象としたトルク特性マップ修正装置に具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態の車両用変速機の摩擦係合要素のトルク特性マップ修正装置が適用されたトラックの駆動系を示す全体構成図である。車両には走行用動力源としてディーゼルエンジン(以下、エンジンという)1が搭載されている。エンジン1は、加圧ポンプによりコモンレールに蓄圧した高圧燃料を各気筒の燃料噴射弁に供給し、各燃料噴射弁の開弁に伴って筒内に噴射する所謂コモンレール式機関として構成されている。
なお、エンジン1の形式はこれに限ることはなく、コントロールラックの作動に応じて各気筒への燃料噴射を制御する従来形式のディーゼル機関としてもよいし、ガソリンエンジンとしてもよい。
【0016】
エンジン1の出力軸1aは車両後方(図の右方)に突出し、自動変速機(以下、単に変速機という)2の入力軸2aに接続されている。変速機2は前進12段(1速段〜12速段)及び後退1段を備えており、エンジン1の動力は入力軸2aを介して変速機2に入力された後に、変速段に応じて変速されて出力軸2bから図示しない駆動輪側に伝達されるようになっている。
言うまでもないが、変速機2の変速段は上記に限ることなく任意に変更可能である。
【0017】
変速機2は、所謂デュアルクラッチ式変速機として構成されている。当該デュアルクラッチ式変速機の詳細は、例えば特開2009−035168号公報などに記載されているため、本実施形態では概略説明にとどめる。このため、図1では変速機2を実際の機構とは異なる模式的な表現で示しており、以下の説明でも変速機2の構成及び作動状態を概念的に述べる。
周知のようにデュアルクラッチ式変速機は、奇数変速段と偶数変速段とを相互に独立した動力伝達系として設け、何れか一方で動力伝達しているときに他方を次に予測される次変速段に予め切り換えておくことで、動力伝達を中断することなく次変速段への切換を完了するシステムである。
【0018】
即ち、図1に示すように、変速機2の入力軸2aにはクラッチC1を介して奇数変速段(1,3,5,7,9,11速段)の歯車機構G1が接続されると共に、同じくクラッチC2を介して偶数変速段(2,4,6,8,10,12速段)の歯車機構G2が接続され、これらの歯車機構G1,G2の出力側は上記した共通の出力軸2bに連結されている。
これにより変速機2は、相互に独立したクラッチC1及び歯車機構G1からなる動力伝達系とクラッチC2及び歯車機構G2からなる動力伝達系とを備えている。
【0019】
ここで、変速機2内のスペース効率化のために両クラッチC1,C2は、奇数変速段側のクラッチC1を内周側とし、偶数変速段側のクラッチC2を外周側とした内外2重に配設されている。そこで、以下の説明では、奇数変速段側のクラッチC1をインナクラッチと称し、偶数変速段側のクラッチC2をアウタクラッチと称する。
インナクラッチC1及びアウタクラッチC2にはそれぞれ油圧シリンダ3が接続され、両油圧シリンダ3は電磁弁4が介装された油路5を介して油圧供給源6に接続されている。電磁弁4の開弁時には油圧供給源6から油路5を介して油圧シリンダ3に作動油が供給され、油圧シリンダ3が作動して対応するクラッチC1,C2が接続状態から切断状態に切り換えられる。一方、電磁弁4が閉弁すると、作動油の供給中止により油圧シリンダ3が作動しなくなることから、クラッチC1,C2は図示しないプレッシャスプリングにより切断状態から接続状態に切り換えられる。
【0020】
なお、クラッチC1,C2の駆動方式はこれに限ることはなく、例えば油圧駆動に代えてエア駆動を採用してもよい。
また、変速機2の奇数変速段の歯車機構G1及び偶数変速段の歯車機構G2にはそれぞれギヤシフトユニット7が設けられている。図示はしないがギヤシフトユニット7は、歯車機構G1,G2内の各変速段に対応するシフトフォークを作動させる複数の油圧シリンダ、及び各油圧シリンダを作動させる複数の電磁弁を内蔵している。ギヤシフトユニット7は油路8を介して上記した油圧供給源6と接続されており、各電磁弁の開閉に応じて油圧供給源6からの作動油が対応する油圧シリンダに供給され、その油圧シリンダが作動してシフトフォークを切換操作すると、切換操作に応じて対応する歯車機構G1,G2の変速段が切り換えられる。
【0021】
本実施形態のトラックは2速発進を前提としているため、車両の加減速時には2速段以上で各変速段がアップシフト側或いはダウンシフト側に順次切り換えられる。
この変速時において、基本的にインナクラッチC1及びアウタクラッチC2の断接状態は常に逆方向に切り換えられる。このため、一方のクラッチC1,C2の接続により対応する歯車機構G1,G2の何れかの変速段が達成されて動力伝達されているときには、他方のクラッチC1,C2が切断されることで対応する歯車機構G1,G2では何れの変速段も動力伝達していない状態にある。このため他方の歯車機構G1,G2では次変速段(現在の変速段に隣接する高ギヤ側または低ギヤ側の変速段)への事前の切換が可能となり(この操作をプリセレクトと称する)、その後に変速タイミングに至ると、インナクラッチC1及びアウタクラッチC2の断接状態を逆に切り換えることにより動力伝達を連続させたまま変速が完了する。
【0022】
車室内には、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAMなど)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタなどを備えたECU(制御ユニット)21が設置されており、エンジン1、変速機2、インナクラッチC1及びアウタクラッチC2の総合的な制御を行う。
ECU21の入力側には、エンジン1の回転速度Neを検出するエンジン回転速度センサ22、インナクラッチC1及びアウタクラッチC2の出力側の回転速度Nclを検出するクラッチ回転速度センサ23、運転席に設けられたチェンジレバー9の切換位置を検出するレバー位置センサ24、歯車機構G1,G2の変速段を検出するギヤ位置センサ25、アクセルペダル26の操作量Accを検出するアクセルセンサ27、及び変速機2の出力軸2bに設けられて車速Vを検出する車速センサ28などのセンサ類が接続されている。
【0023】
また、ECU21の出力側には、上記したクラッチC1,C2の電磁弁4、ギヤシフトユニット7の各電磁弁などが接続されると共に、図示はしないが、コモンレール蓄圧用の加圧ポンプや各気筒の燃料噴射弁などが接続されている。
なお、このように単一のECU21で総合的に制御することなく、例えばECU21とは別にエンジン制御専用のECUを備えるようにしてもよい。
【0024】
そして、例えばECU21は、エンジン回転速度センサ22により検出されたエンジン回転速度Ne及びアクセルセンサ27により検出されたアクセル操作量Accに基づき、図示しないマップから加圧ポンプにより蓄圧されるコモンレールのレール圧や各気筒への燃料噴射量を算出すると共に、エンジン回転速度Ne及び燃料噴射量Qに基づき図示しないマップから燃料噴射時期を算出する。そして、これらの算出値に基づき加圧ポンプを駆動制御すると共に、各気筒の燃料噴射弁を駆動制御しながらエンジン1を運転させる。
【0025】
また、ECU21は、例えばレバー位置センサ24によりチェンジレバー9のDレンジ(ドライブレンジ)への切換が検出されているとき、アクセル操作量Acc及び車速センサ28により検出された車速Vに基づき、図示しないシフトマップから目標変速段tgtGを算出する。そして、電磁弁4を開閉して油圧シリンダにより目標変速段tgtGを有する側の歯車機構G1,G2のクラッチC1,C2を接続すると共に、他方の歯車機構G1,G2のクラッチC1,C2を切断し、ギヤシフトユニット7の所定の電磁弁を開閉して油圧シリンダによりシフトフォークを切換操作して目標変速段tgtGを達成させる。
また、このとき車両の加減速状態などに基づきシフトマップから次変速段を予測し、他方の歯車機構G1,G2において次変速段へのプリセレクトを完了しておき、その後に変速タイミングに至ると、インナクラッチC1及びアウタクラッチC2の断接状態を逆転させて動力伝達を連続させたまま次変速段への変速を完了させる。
【0026】
また、ECU21は、例えばDレンジやRレンジでアクセル操作することなくエンジン1をアイドル運転させながらブレーキ操作で車両を停止させているとき、目標変速段tgtGとして発進段や後退段を達成して車両発進に備えると共に、クラッチC1,C2を半クラッチ状態に制御するクリープトルク制御を実行して、微小トルクを駆動輪側に伝達することによりクリープ現象を生起させる。例えば発進段の場合には、偶数変速段である歯車機構G2側のクラッチC2を半クラッチ状態に制御する。
このようなクリープトルク制御や上記した変速時のクラッチ制御などの全てのクラッチ制御は、クラッチC1,C2が発生する伝達トルクTとクラッチ作動のために電磁弁4に供給する駆動電流I(制御指令値)との関係を定めたトルク特性マップに基づき行われる。
【0027】
このため、インナクラッチC1及びアウタクラッチC2に対して予めトルク特性マップが個別に設定されてECU21の記憶装置に記憶されており、ECU21はクラッチ制御時には、クラッチC1,C2の作動方向に応じて順次目標伝達トルクtgtTを設定しながら、この目標伝達トルクtgtTに対応する駆動電流Iをトルク特性マップから算出し、求めた駆動電流Iを電磁弁4に供給してクラッチC1,C2を作動させることで目標伝達トルクtgtTを達成している。
そして、[背景技術]で述べたように、クラッチC1,C2の製造誤差や稼働時の消耗などの車両個体差に起因して、トルク特性マップの伝達トルクTと駆動電流Iとの関係に変動が生じるという問題があり、その対策である特許文献1の技術によれば、伝達トルクTと駆動電流Iとの関係が非線形特性では対応できず、また、トルク特性マップの全領域で信頼性の高い駆動電流Iを算出できないという不具合が生じる。
【0028】
そこで、本実施形態のトルク特性マップ修正装置では、特許文献1の技術のように学習処理のみからトルク特性マップを設定することなく、ベースの特性線Sを有するトルク特性マップを予め設定しておくと共に、好適な学習点として予め定めた2つの伝達トルクT1,T2で学習処理を実行し、その学習結果に基づきトルク特性マップの特性線Sを修正してクラッチ制御に適用している。以下、当該ECU21により実行される対策について詳述する。
【0029】
まず、実際のECU21の処理に先立って、図2に基づきトルク特性マップの設定状態を説明する。トルク特性マップは横軸を伝達トルクT、縦軸を電磁弁4の駆動電流Iとし、クラッチ制御において順次設定される目標伝達トルクtgtTに基づき当該目標伝達トルクtgtTに対応する適切な駆動電流Iを算出するために非線形特性の特性線Sが設定されている。加えて、トルク特性マップには学習処理を実行すべき学習点として2つの伝達トルクT1,T2が予め設定されている。
特性線Sは、予めインナクラッチC1の作動試験を実施して電磁弁4への駆動電流Iに対する伝達トルクTの変化を計測し、得られた駆動電流Iと伝達トルクTとの関係に基づき設定されたものである。
【0030】
そして、このようなトルク特性マップをベースとして、2つの伝達トルクT1,T2での学習結果に基づき特性線Sの傾きを変更しつつオフセットさせることにより、特性線Sの修正(即ち、トルク特性マップの修正)を行っている。学習結果を正確に反映させて特性線Sを修正するには、トルク特性マップの伝達トルクTの全領域中において2つの伝達トルクT1,T2がある程度離間して設定されている必要がある。
仮に伝達トルクT1,T2が高域側または低域側に偏っていれば、[発明が解決しようとする課題]で述べた特許文献1の技術のような問題を生じる。そこで、このような点を鑑みて、2つの伝達トルクT1,T2は全領域中の高域側や低域側に偏ることなく、伝達トルクT1は低域側、伝達トルクT2は高域側の好適な位置に設定されている。
【0031】
ECU21はイグニションスイッチのオン操作中に図3に示すトルク特性学習・修正ルーチンを所定の制御インターバルで実行する。なお、当該ルーチンはインナクラッチC1を対象としたものであり、アウタクラッチC2用のルーチンも並行して実行されているが、その内容は同一であることから説明を省略する。
ECU21は、まず、ステップS2でインナクラッチC1のみが動力伝達中であるか否かを判定し、判定がNo(否定)のときには一旦ルーチンを終了する。アウタクラッチC2の動力伝達は、以下に述べるインナクラッチC1の学習処理に対して外乱として作用して正確な学習が望めなくなることから、このような事態を回避するための判定処理である。
【0032】
ステップS2の判定がYes(肯定)のときにはステップS4に移行してエンジン回転速度Neの変動が小さいか否かを判定する。例えば、所定時間内のエンジン回転速度Neの変動幅が予め設定された閾値以上のときには、変動が大であるとしてNoの判定を下してルーチンを終了する。エンジン回転速度Neの変動が大のときにはインナクラッチC1を介した動力伝達が安定せずに学習精度が低下することから、このような事態を回避するための処置である。
ステップS4でYesの判定を下したときにはステップS6に移行する。ステップS6では、エンジン回転速度NeがインナクラッチC1のクラッチ回転速度Nclに所定値N0を加算した値よりも大である(Ne>Ncl+N0)か否かを判定し、Noのときにはルーチンを終了する。例えば、所定値N0は120rpm程度に設定されている。
以下に述べる学習処理では実際の伝達トルクTを算出する必要があるが、その算出式(1)はインナクラッチC1に滑りが生じている状態でないと成立しない。そこで、インナクラッチC1がこのような学習可能な作動状態でない場合を除外するための処置である。
【0033】
ステップS6の判定がYesのときにはステップS8に移行して現在の電磁弁4の駆動電流Iが、伝達トルクT1に対応する前回学習値IA(n-1)または伝達トルクT2に対応する前回学習値IB(n-1)を基準とした所定範囲内(IA(n-1)―α≦I≦IA(n-1)+β、またはIB(n-1)―α≦I≦IB(n-1)+β)内にあるか否かを判定し、Noのときにはルーチンを終了する。
当該判定処理は、現在のインナクラッチC1の伝達トルクTが学習処理を実行すべきT1またはT2付近であるか否かを判定するためのものである。即ち、前回学習値IA(n-1)は伝達トルクT1が達成されているときの電磁弁4の駆動電流Iとして学習された値であり、前回学習値IB(n-1)は伝達トルクT2が達成されているときの電磁弁4の駆動電流Iとして学習された値である。このため、現在の電磁弁4の駆動電流Iが前回学習値IA(n-1)または前回学習値IB(n-1)を基準とした所定範囲内にないときには、伝達トルクTが学習処理を実行すべきT1またはT2付近に制御されていないと見なせ、このような場合を除外するための処置である。
【0034】
ステップS8の判定がYesのときにはステップS10に移行して学習値IA,IBを算出する学習値算出処理を実行し、続くステップS12で学習結果に基づきトルク特性マップを修正するマップ特性修正処理を実行した後にルーチンを終了する。
本実施形態では、ステップS10の学習値算出処理を実行するときのECU21がトルク特性学習手段として機能し、ステップS12のマップ特性修正処理を実行するときのECU21がマップ特性修正手段として機能する。
【0035】
上記ステップS10の学習値算出処理は以下の手順で行われる。
まず、次式(1)に従って現在のインナクラッチC1の伝達トルクTclを算出する。
Tcl=Te−Ie×dNe/dt ……(1)
ここに、Teはエンジントルク、Ieはエンジンイナーシャ、dNe/dtはエンジン1の回転変動である。エンジントルクTeはエンジン1に対する燃料噴射量などから算出でき、エンジンイナーシャIeはエンジン1の仕様により予め固定値として設定され、回転変動dNe/dtは、エンジン回転速度Neの変動状況から算出できる。そして、エンジン1の回転変動dNe/dtはクラッチC1で伝達されなかったトルクに起因して発生することから、上式(1)に基づき伝達トルクTclを算出可能となるのである。
【0036】
次に、このようにして求めた現在の伝達トルクTclを用いて、伝達トルクT1のときには次式(2)に従って今回学習値IA(n)を算出し、伝達トルクT2のときには次式(3)に従って今回学習値IB(n)を算出する。
IA(n)=(IA(n-1)×(100−k)+(IA(n-1)+I−Itcl)×k)/100 …(2)
IB(n)=(IB(n-1)×(100−k)+(IB(n-1)+I−Itcl)×k)/100 …(3)
ここに、kは重み付け係数、Itclは式(1)により算出した伝達トルクTclを電磁弁4の駆動電流Iに換算した値である。
なお、両式(2),(3)で重み付け係数kを適用しているのは、学習状態のズレ吸収、及び学習結果をクラッチ制御に直ちに反映させたときの乗り心地の急変防止を意図したためである。但し、重み付け係数kは必ずしも適用する必要はないため、これを省略してもよい。
【0037】
現在のインナクラッチC1は、電磁弁4への駆動電流Iの供給により作動して伝達トルクTclを達成している。即ち、駆動電流IはインナクラッチC1の目標伝達トルクtgtTと見なせ、伝達トルクTclは駆動電流Iの供給により達成された実際の伝達トルクTである。よって、式(2),(3)中のI−Itclは目標値と実際値との差を意味し、目標値よりも実際値が小さくて伝達トルクTclが不足するときには今回学習値IA(n),IB(n)が増加方向に学習され、逆に目標値よりも実際値が大きくて伝達トルクTclが過剰なときには今回学習値IA(n),IB(n)が減少方向に学習される。以上でステップS10の学習値算出処理が完了する。
【0038】
上記ステップS12のマップ特性修正処理を概念的に説明すると、以下の手順で行われる。
図4〜7はトルク特性マップの修正手順を示す説明図である。
図4に示すように、トルク特性マップにはインナクラッチC1の目標伝達トルクtgtTから駆動電流Iを算出するために2点鎖線で示す非線形特性の特性線Sが設定されると共に、ステップS10の学習処理により伝達トルクT1,T2上で2つの学習値IA,IB(上記した今回学習値IA(n),IB(n))が学習されている。
ここでは、説明の便宜上、2点の学習値IA,IBを同時に更新したように記載しているが、実際には、初期設定時などの特殊な場合を除き、学習値IA,IBが2点同時に更新されることはなく、何れか一方でも学習値IA,IBが更新された場合にトルク特性マップを修正している。勿論、両学習値IA,IBが更新されたタイミングで更新するようにしてもよい。
学習値IA,IBは、伝達トルクT1,T2を達成するために必要な電磁弁4の駆動電流Iを意味し、これに対して図に例示した特性線Sによれば、伝達トルクT1,T2の達成のためにより低い駆動電流I1,I2が算出されている。
【0039】
トルク特性マップの修正は、伝達トルクT1,T2上において各駆動電流I1,I2を対応する学習値IA,IBと一致させるように、傾きを修正しつつ特性線Sをオフセットすることで行われる。そして、その際の図形処理では、全て伝達トルクT1,T2上で駆動電流I1,I2などを移動させることから、以下の説明では、単にI1点、I2点、或いはIA点、IB点などと略称するが、これらは伝達トルクT1,T2上における駆動電流I1,I2や学習値IA,IBを指すものとする。
【0040】
まず、次式(4)に従って、I1点及びI2点を結ぶ直線の傾きとIA点及びIB点を結ぶ直線の傾きとの比rを算出する。
r=(IB−IA/I2−I1) ……(4)
次に、次式(5),(6)に従って、直線I1−I2の傾きを直線IA−IBの傾きに一致させる。これにより図5に示すように、直線IA−IBと同一傾きの直線I1’−I2’が得られる。
I1’=r×I1 ……(5)
I2’=r×I2 ……(6)
次に、次式(7)に従って、IA点からI1’点を減算してオフセット量Zを算出する。これにより図6に示すように、伝達トルクT1上のI1’点とIA点との差としてオフセット量Zが得られる。なお、IB点からI2’点を減算してもよい。
Z=IA−I1’ ……(7)
そして、オフセット量Zに基づき直線I1’−I2’をオフセットする。これにより図7に示すように、直線I1’−I2’が直線IA−IBに一致し、伝達トルクT1,T2上における駆動電流I1’,I2’が学習値IA,IBにそれぞれ一致する。以上の処理により、駆動電流I1,I2を通る特性線Sが傾きを変更されながら学習値IA,IBを通るようにオフセットされ、ステップS12のマップ特性修正処理が完了する。
【0041】
マップ特性修正後の駆動電流をI1”,I2”とすると、これらの駆動電流をI1”,I2”は次式(8),(9)で表すことができる。
I1”=r×I1+(IA−r×I1)……(8)
I2”=r×I2+(IA−r×I1)……(9)
ベースとなるトルク特性マップの駆動電流をIx、マップ特性修正後の駆動電流をIx”とした一般式は次式(10)で表すことができる。
Ix”=r×Ix+(IA−r×I1)……(10)
実際のステップS12のマップ特性修正処理では、図4〜7の手順に従ってトルク特性マップの特性線Sを実際に修正することなく、トルク特性マップから算出した駆動電流Ixを式(10)に従って駆動電流Ix”に換算することにより、仮想的に特性線Sを修正した場合と同様の結果を得ている。そして、算出した駆動電流Ix”を電磁弁4に供給してインナクラッチC1を作動させている。
このようにして車両の走行中にステップS2〜8の条件が成立する毎にステップS10で学習値算出処理が実行され、ステップS12で学習結果に基づくマップ特性修正処理が実行され、学習結果に基づくトルク特性マップの修正により常に最適化が図られる。なお、以上はインナクラッチC1に対するトルク特性学習・修正処理を説明したが、アウタクラッチC2についても同様の処理が実行されてトルク特性マップが最適化される。
【0042】
以上のように本実施形態のトルク特性マップ修正装置では、インナクラッチC1及びアウタクラッチC2毎にベースの特性線Sを有するトルク特性マップを予め設定しておくと共に、このトルク特性マップ上で好適な学習点として2つの伝達トルクT1,T2を予め設定している。そして、車両の走行中に各クラッチC1,C2の伝達トルクTがT1,T2となったときに学習値IA,IBを学習し、その学習結果に基づき特性線S、ひいてはトルク特性マップを修正している。
【0043】
従って、学習結果に基づく修正後も特性線Sは予め設定された特性、例えば伝達トルクTと駆動電流Iとの関係を線形とした所期の特性、或いは関係を非線形とした所期の特性を保っており、その特性線Sに基づき目標伝達トルクtgtTから駆動電流Iが算出される。このため、線形特性のみならず非線形特性を有するトルク特性マップにも何ら問題なく対応できる。結果として目標伝達トルクtgtTに対応する適切な駆動電流Iに基づきクラッチC1,C2を最適制御することができる。
また、予め学習点として設定した2つの伝達トルクT1,T2で学習処理を実行しており、これらの伝達トルクT1,T2は、学習結果を正確に反映させて特性線Sを修正するために、トルク特性マップの全領域中において伝達トルクTの高域側と低域側とに十分に離間して設定されている。従って、トルク特性マップの全領域で信頼性の高い駆動電流Iを算出でき、この要因もクラッチC1,C2の最適制御に貢献する。
【0044】
加えて、本実施形態のトルク特性マップ修正装置では、クラッチC1,C2のトルク特性学習処理及びマップ特性修正処理の実施に際してセンサ類などの追加を必要としない。例えば一般的なクラッチ制御装置では、本実施形態の図2に示すように電磁弁4の駆動電流Iと伝達トルクTとを直接的に変換することなく、一旦油圧に換算している。これに対して本実施形態では駆動電流Iと伝達トルクTとを直接的に変換しているため、油圧などを検出するセンサ類を必要としないという利点もある。
【0045】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、デュアルクラッチ式変速機2のクラッチC1,C2を対象としたトルク特性マップ修正装置に具体化したが、クラッチやブレーキなどの摩擦係合要素を備えた変速機であれば、その種別はこれに限ることはない。例えば、手動式変速機をベースとして変速操作及び変速に伴うクラッチ装置の断接操作を自動化した変速機に適用し、そのクラッチのトルク特性マップを学習処理に基づき修正するようにしてもよい。また、トルクコンバータに遊星歯車機構を組み合わせた自動変速機に適用し、遊星歯車機構の作動状態を切り換えるためのクラッチやブレーキのトルク特性マップを学習処理に基づき修正するようにしてもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、車両走行中のクラッチ制御の過程でクラッチC1,C2の伝達トルクTが学習処理を実行すべきT1またはT2付近に制御されたとき(図3のステップS8がYes)に学習処理を行ったが、これに限ることはない。例えば、伝達トルクT1,T2へのクラッチ制御が変速機2の作動状態に重大な影響を及ぼさないのであれば、車両の走行中の所定のタイミングでクラッチC1,C2の伝達トルクTを積極的にT1またはT2付近に制御して学習処理を行うようにしてもよい。
また、上記実施形態では、ベースとなるトルク特性マップの特性線Sを実際には修正することなく、トルク特性マップから算出した駆動電流Ixを式(10)に従って駆動電流Ix”に換算することにより仮想的に特性線Sを修正した場合と同様の結果を得たが、本発明はこれに限ることはない。例えば、学習結果に基づき図4〜7で説明した手順に従ってトルク特性マップの特性線Sを実際に修正するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0047】
2 変速機
21 ECU(トルク特性学習手段、マップ特性修正手段)
C1 インナクラッチ
C2 アウタクラッチ
S 特性線
I 駆動電流
T 伝達トルク
T1,T2 学習点
TA,TB 学習値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7