(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5752394
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】免震床のアイソレータ施工方法
(51)【国際特許分類】
E04F 15/18 20060101AFI20150702BHJP
E04B 1/98 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
E04F15/18 601Z
E04B1/98 L
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-246070(P2010-246070)
(22)【出願日】2010年11月2日
(65)【公開番号】特開2012-97460(P2012-97460A)
(43)【公開日】2012年5月24日
【審査請求日】2013年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】592009281
【氏名又は名称】IHIプラント建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】宮内 賢治
(72)【発明者】
【氏名】古橋 栄一
【審査官】
土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−257274(JP,A)
【文献】
特開2003−055987(JP,A)
【文献】
特開2007−291675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/18
E04B 1/98
E04B 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート床にアンカーボルトを打設し、そのアンカーボルトを打設したコンクリート床上に基礎モルタルを構築し、その基礎モルタル上にアイソレータを設置すると共に基礎モルタル上のアンカーボルトでアイソレータを固定し、そのアイソレータでフロアを支持する架台を免震支持する免震床のアイソレータ施工方法において、コンクリート床に、雌ネジ筒とその雌ネジ筒にねじ込む雄ネジボルトからなる雌ネジ型アンカーボルトを打設し、打設後の雌ネジ筒と雄ネジボルトとを保護チューブで覆って基礎モルタルを構築し、しかる後雌ネジ型アンカーボルトでアイソレータを保持させたことを特徴とする免震床のアイソレータ施工方法。
【請求項2】
雌ネジ型アンカーボルトは、下端にスリットが形成された雌ネジ筒とその雌ネジ筒に螺合する雄ネジボルトからなり、雌ネジ筒をコンクリート床に打設後に、その雌ネジ筒に雄ネジボルトをねじ込み、しかる後コンクリート床から突出した雌ネジ筒に保護チューブを挿入し、さらに雄ネジボルトに、アイソレータのベースプレートを支持する下部ナットをねじ込み、その状態で基礎モルタルを構築する請求項1記載の免震床のアイソレータ施工方法。
【請求項3】
基礎モルタルは、コンクリート床に型枠を設置し、その型枠内にモルタルを充填して構築する請求項2記載の免震床のアイソレータ施工方法。
【請求項4】
基礎モルタルを充填後、雌ネジ型アンカーボルトの雄ネジボルトに、アイソレータのベースプレートの取り付け穴を嵌め込むと共にその雄ネジボルトにねじ込んだ下部ナット上に、アイソレータを支持させ、その雄ネジボルトに上部ナットをねじ込んでアイソレータを保持させ、その状態で基礎モルタルを養生する請求項3記載の免震床のアイソレータ施工方法。
【請求項5】
モルタル充填後或いは充填前に、アイソレータのベースプレートの一辺に沿って目地棒を設けて基礎モルタルを構築し、その目地棒を取り外してアイソレータ取り外しのための溝を形成する請求項4記載の免震床のアイソレータ施工方法。
【請求項6】
アイソレータを交換する際に、上部ナットを雄ネジボルトから取り外した後、雄ネジボルトを雌ネジ筒から取り外し、その後、アイソレータを架台から切り離した状態で水平に引き出して基礎モルタル上から取り外し、しかる後、新たなアイソレータを基礎モルタル上と架台間に挿入し、その後、雄ネジボルトを雌ネジ筒にねじ込むと共に、その雄ネジボルトに上部ナットをねじ込んで新たなアイソレータを固定する請求項4又は5記載の免震床のアイソレータ施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電算室などの免震床の上下動を吸収する免震床のアイソレータ施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電算室のコンピュータが地震などによる振動の影響を受けないようにアイソレータを用いた免震構造が提案されている(特許文献1〜3)。
【0003】
この免震構造は、
図6に示すようにコンクリート床40上に、多数の空気バネからなるアイソレータ41とダンパーとしての上下ガイド42を配置し、そのアイソレータと上下ガイド42で、コンクリート床40から所定間隔離して架台43を支持し、その架台43にフロア44を形成したものである。このフロア44上には多数のコンピュータ45が設置され、地震時の振動から保護されるようになっている。この免震構造は、アイソレータ41に所定の空気圧が付与されており、地震時に、上下ガイド42のダンパー作用とアイソレータ41のもつ空気バネ作用により、架台43の上に支持されたフロア44の上下動を吸収するようにしている。
【0004】
従来、アイソレータ41をコンクリート床40上に設置する際には、
図5に示すように、アイソレータ41を設置するコンクリート床40上の四隅にアンカーボルト47を打設し、そのアンカーボルト47の周囲を型枠(図示せず)で覆うと共にモルタルを充填して基礎モルタル48を打設し、その基礎モルタル48の硬化後にアイソレータ41をアンカーボルト47にて基礎モルタル48上に設置した後、アイソレータ41上に架台43を設置し、ボルト・ナット49にて架台43の横ずれを防止しつつ上下動できるようにされ、さらに支持部材50にてフロア44を敷設するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−133158号公報
【特許文献2】特開2009−287273号公報
【特許文献3】特開平05−248493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、新規に電算室の免震構造を構築する場合には、基礎モルタル48を養生硬化した後、アイソレータ41を設置しても支障はない。しかし、アイソレータ41に故障や不具合が生じて新たなアイソレータ41を交換する際には、アイソレータ41を簡単に取り外せない問題がある。すなわち、アイソレータ41は、アンカーボルト47にナットで固定されており、ナットを外しても、基礎モルタル48上にアンカーボルト47が突出したままであり、しかもアイソレータ41と架台43との隙間は確保できないため、アイソレータ41を上方に上げて取り外すことはできない。このため、アイソレータ41を交換するには、基礎モルタル48ごと斫つて取り外すしか交換することはできない問題がある。また、アイソレータ41の交換で、基礎モルタル48を斫つたりすると粉塵が電算室に飛散すると共に、基礎モルタル48の硬化までアイソレータ41を設置することができない問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、アイソレータを簡単に取り外すことができると共に、基礎モルタルの養生を待たずにアイソレータを設置できる免震床のアイソレータ施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、コンクリート床にアンカーボルトを打設し、そのアンカーボルトを打設したコンクリート床上に基礎モルタルを構築し、その基礎モルタル上にアイソレータを設置すると共に基礎モルタル上のアンカーボルトでアイソレータを固定し、そのアイソレータでフロアを支持する架台を免震支持する免震床のアイソレータ施工方法において、コンクリート床に
、雌ネジ筒とその雌ネジ筒にねじ込む雄ネジボルトからなる雌ネジ型アンカーボルトを打設し、打設後の
雌ネジ筒と雄ネジボルトとを保護チューブで覆って基礎モルタルを構築し、しかる後
雌ネジ型アンカーボルトでアイソレータを保持させたことを特徴とする免震床のアイソレータ施工方法である。
【0009】
請求項2の発明は、雌ネジ型アンカーボルトは、下端にスリットが形成された雌ネジ筒とその雌ネジ筒に螺合する雄ネジボルトからなり、雌ネジ筒をコンクリート床に打設後に、その雌ネジ筒に雄ネジボルトをねじ込み、しかる後コンクリート床から突出した雌ネジ筒に保護チューブを挿入し、さらに雄ネジボルトに、アイソレータのベースプレートを支持する下部ナットをねじ込み、その状態で基礎モルタルを構築する請求項1記載の免震床のアイソレータ施工方法である。
【0010】
請求項3の発明は、基礎モルタルは、コンクリート床に型枠を設置し、その型枠内にモルタルを充填して構築する請求項2記載の免震床のアイソレータ施工方法である。
【0011】
請求項4の発明は、基礎モルタルを充填後、雌ネジ型アンカーボルトの雄ネジボルトに、アイソレータのベースプレートの取り付け穴を嵌め込むと共にその雄ネジボルトにねじ込んだ下部ナット上に、アイソレータを支持させ、その雄ネジボルトに上部ナットをねじ込んでアイソレータを保持させ、その状態で基礎モルタルを養生する請求項3記載の免震床のアイソレータ施工方法である。
【0012】
請求項5の発明は、モルタル充填後或いは充填前に、アイソレータのベースプレートの一辺に沿って目地棒を設けて基礎モルタルを構築し、その目地棒を取り外してアイソレータ取り外しのための溝を形成する請求項4記載の免震床のアイソレータ施工方法である。
【0013】
請求項6の発明は、アイソレータを交換する際に、上部ナットを雄ネジボルトから取り外した後、雄ネジボルトを雌ネジ筒から取り外し、その後、アイソレータを架台から切り離した状態で水平に引き出して基礎モルタル上から取り外し、しかる後、新たなアイソレータを基礎モルタル上と架台間に挿入し、その後、雄ネジボルトを雌ネジ筒にねじ込むと共に、その雄ネジボルトに上部ナットをねじ込んで新たなアイソレータを固定する請求項4又は5記載の免震床のアイソレータ施工方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コンクリート床に雌ネジ型アンカーボルトを打設し、そのアンカーボルトの周囲を保護チューブで覆って基礎モルタルを構築することで、雌ネジ筒から雄ネジボルトを簡単に取り外すことが可能となり、これにより基礎モルタルと架台間のスペースが僅かでもアイソレータを横に引き出して交換することができるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の免震床のアイソレータ施工方法で設置した免震構造の断面図である。
【
図2】本発明における雌ネジ型アンカーボルトの詳細図である。
【
図3】本発明において、コンクリート床に雌ネジ型アンカーボルトを打設する施工手順を示す図である。
【
図4】本発明において、コンクリート床に基礎モルタルを構築した後、アイソレータを設置する施工手順を示す図である。
【
図5】従来の免震床のアイソレータ施工方法で設置した免震構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0017】
図1は、本発明の免震床のアイソレータ施工方法で設置した免震構造を示したもので、コンクリート床10に雌ネジ型アンカーボルト11が打設され、そのコンクリート床10上に基礎モルタル12が構築され、その基礎モルタル12上にアイソレータ13が設置され、アイソレータ13に架台14が設置され、アイソレータ13に設けたボルト・ナット15が架台14に挿通されて、横ずれが防止され、その架台14上に支持部材16にてフロア17が保持される。
【0018】
アイソレータ13は、可撓パイプ18を介して補助タンク19に接続されており、アイソレータ13の空気バネ作用により、地震時のフロア17の上下振動を吸収するようになっている。
【0019】
図2は、本発明に用いる雌ネジ型アンカーボルト11の詳細を示したものであり、基本的には雌ネジ筒20と雄ネジボルト21とからなり、その雄ネジボルト21に下部ナット22がねじ込まれ、さらに上部ナット23がねじ込まれ、その上下のナット22,23でアイソレータ13のベースプレート13Bを支持するようになっている。
【0020】
雌ネジ筒20は、筒状に形成され、内部に雄ネジボルト21と螺合する雌ネジ25が形成され、下端の筒部26がタケノコ状に形成されると共に軸方向にスリット27が形成され、筒部26に拡径用のテーパーピン28が嵌め込まれ、雌ネジ筒20を打設機で打ち込むことで、下端の筒部26が拡径できるようになっている。
【0021】
次に本発明の免震床のアイソレータ施工方法を
図3,
図4により説明する。
【0022】
先ず、
図3(a)に示すように、アイソレータ13の設置位置のコンクリート床10にドリルにて雌ネジ型アンカーボルト11が挿入できる下穴30を穿設する。
【0023】
次に
図3(b)に示すように、下穴30に雌ネジ型アンカーボルト11の雌ネジ筒20を挿入し、打設機(図示せず)にて雌ネジ筒20を下穴30内に打ち込むことで、
図3(c)に示すように下端の筒部26が拡径して下穴30の内壁にくい込むようになる。
【0024】
その後、
図3(d)に示すように、雌ネジ筒20に雄ネジボルト21をねじ込み、コンクリート床10に雌ネジ型アンカーボルト11を打設する。
【0025】
次に、
図3(e)に示すように、この雌ネジ型アンカーボルト11の外周に保護チューブ31を嵌め込む。この保護チューブ31は、エアコン用ドレンホースなど可撓性と伸縮性のあるジャバラ状の合成樹脂チューブからなり、内径が雌ネジ筒20より1〜3mm大きなものを用いる。
【0026】
保護チューブ31を嵌め込んだ後、雄ネジボルト21に下部ナット22をねじ込み、さらにテンプレート32を装着すると共に上部ナット23でテンプレート32を仮止めし、下部ナット22と上部ナット23にて、テンプレート32の水平とその高さを確認することで、設置するアイソレータ13の取り付け高さを調整する。
【0027】
テンプレート32による各下部ナット22の高さ調整が終了した後、基礎モルタル12を打設する型枠33を設置し、上部ナット23とテンプレート32を取り外す。
【0028】
このように雌ネジ型アンカーボルト11を打設し、下部ナット22を位置調整して取り付けた後、
図4(a)に示すように、型枠33内にモルタルを充填して基礎モルタル12を構築する。
【0029】
次に、
図4(b)に示すように、基礎モルタル12が硬化する前にアイソレータ13のベースプレート13Bの取り付け穴34を雌ネジ型アンカーボルト11の雄ネジボルト21に嵌め込み、
図4(c)に示すように、上部ナット23をねじ込んでアイソレータ13を取り付ける。
【0030】
この場合、アイソレータ13は雌ネジ型アンカーボルト11にねじ込んだ下部ナット22で支持され、基礎モルタル12にはその荷重が加わらないため、基礎モルタル12が硬化する前に設置することが可能となり、作業効率が向上する。
【0031】
また、アイソレータ13を雌ネジ型アンカーボルト11で支持した後にモルタルを型枠33内に充填すると、充填したモルタルとベースプレート13Bの間に空気が入り込み、養生後にベースプレート13Bと基礎モルタル12間に巣が発生するが、モルタル充填後、基礎モルタル12が硬化する前にアイソレータ13を設置することで、その間の空気が排出され基礎モルタル12とベースプレート13Bの密着性が良好となる。
【0032】
基礎モルタル12の硬化前、或いはモルタルの充填前にベースプレート13Bの一辺に目地棒35を設けており、基礎モルタル12の養生後に目地棒35を取り外すことで、アイソレータ取り外し用の溝36が形成される。
【0033】
このアイソレータ13を設置後は、
図1で説明したように架台14とフロア17を構築する。この場合、基礎モルタル12の養生を待たずに架台14等を構築できるため工期を短縮することができる。
【0034】
次に、経年使用によりアイソレータ13が劣化し、アイソレータ13を取り外して新たなアイソレータ13を取り付ける施工法を説明する。
【0035】
この場合、架台14を図示しないジャッキ等で保持し、アイソレータ13の空気を抜くことで、架台14とアイソレータ13の上部プレート13Uに隙間が形成される。
【0036】
この状態で、上部ナット23を取り外し、さらに雄ネジボルト21を雌ネジ筒20から取り外す。この際、雌ネジ筒20と雄ネジボルト21は保護チューブ31で基礎モルタル12から隔離されており、雄ネジボルト21は簡単に容易に取り外すことができる。このように雄ネジボルト21を取り外すと、ベースプレート13Bは、基礎モルタル12と下部ナット22の上に載った状態であり、アイソレータ13を横方向に引き出すことが可能となる。この際、ベースプレート13Bは基礎モルタル12に密着しているため、基礎モルタル12に予め形成した溝36を利用してベースプレート13Bの下面にバールを差し込んで押し上げれば容易に基礎モルタル12から離すことができる。
【0037】
その後、新たなアイソレータ13を基礎モルタル12と架台14の間に挿入し、位置合わせ行う。
【0038】
次に、新たな雄ネジボルト21を雌ネジ筒20にねじ込み、その雄ネジボルト21に上部ナット23をねじ込むことで新たなアイソレータ13を設置することが可能となる。設置後は、アイソレータ13と補助タンク19を可撓パイプ18で接続し、アイソレータ13に所定の空気圧を付与して架台14を支持すると共にジャッキを取り外す。
【0039】
このようにアイソレータ13の交換は、従来のようにコンクリートを斫つたりする作業もなく、また、上部ナット23と雄ネジボルト21を取り外すだけで簡単に交換することが可能となるため、取り替え工期が短く、しかも粉塵の影響もないため、コンピュータの稼働中でも容易に交換することが可能となる。
【符号の説明】
【0040】
10 コンクリート床
11 雌ネジ型アンカーボルト
12 基礎モルタル
13 アイソレータ
14 架台
17 フロア
31 保護チューブ