(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
長手方向の断面が略円形状又は略角形状をなすワークであって並列に配置されたワークを当該ワークの長手方向所定の厚さを有する板状のウエハに複数枚同時に切断するワイヤソー装置を用いたウエハの製造方法において、
互いに対向して配置された少なくとも2本のワイヤ保持ローラと、
前記ワイヤ保持ローラ間に配置され、複数のワークを同時に切断するための複数のワーク切断部を形成するように配置された少なくとも2つの補助ローラと、
前記ワイヤ保持ローラと補助ローラが取り付けられる基台と、を有し、
前記基台と補助ローラとの間には補助ローラ移動機構が備わり、
前記補助ローラ移動機構を介して前記ワイヤ保持ローラと補助ローラにかけられる一周分のワイヤ長さを変えることなく、前記ワーク切断部におけるワイヤの傾きが逐次変化するようにワイヤを揺動させることで、ワークの幅方向におけるワイヤによる切断位置を逐次変化させるワイヤソー装置を用意し、
前記複数のワークをそれぞれ前記複数のワーク切断部に押し付け、前記ワーク切断部におけるワイヤの傾きが逐次変化するようにワイヤを揺動させることで、ワークに対するワイヤの切断時の接触長さをワーク切断過程の少なくとも一部においてワークの幅よりも減少させると共にワークの幅方向におけるワイヤによる切断位置を逐次変化させながらワークを切断し、多数のウエハを製造するワイヤソー装置を用いたウエハの製造方法であって、
前記補助ローラは、前記並列に配置されたワークの間に侵入することで前記ワイヤを介して前記ワークを切断するワイヤソー装置を用いたウエハの製造方法であり、
前記各補助ローラは、前記各ワイヤ保持ローラの一方の端部側から見て前記2本のワイヤ保持ローラに巻かれたワイヤで囲まれる領域に配置され、前記ワイヤ保持ローラに巻かれたワーク側ワイヤにそれぞれ押し付けられていることを特徴とするワイヤソー装置を用いたウエハの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1乃至5に記載されたワイヤソー装置は、複数のワイヤ保持ローラ群全体を揺動させる構造となっている。即ち、大きな構造物を揺動させるため、コストが高く信頼性も低くなっている。また、摺動面への砥粒の噛み込みが起こり、摺動面の異常摩耗が発生する虞がある。また、ワイヤ保持ローラ自体を偏芯させて揺動させる構成では、線速に比例して揺動周期が変化するため、全てのローラの回転の位相を合わせなければならず、制御が複雑となっている。また、上述した特許文献1乃至5に記載されたワイヤソー装置の揺動方法では、ワイヤが何れかのワークから完全に離れる状態が起こるため、複数個のワークを同時に切断することができないという問題もある。
【0006】
本発明の目的は、例えば半導体のインゴット等を厚さの薄い複数のウエハに切断するのに適したワイヤソー装置及びこれを用いたウエハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、本発明の請求項1に係るワイヤソー装置は、
長手方向の断面が略円形状又は略角形状をなすワークであって並列に配置された
2つのワークを当該ワークの長手方向所定の厚さを有する板状のウエハに複数枚同時に切断するワイヤソー装置において、
互いに対向して配置され
た2本のワイヤ保持ローラと、
前記ワイヤ保持ローラ間に配置され、複数のワークを同時に切断するための複数のワーク切断部を形成するように配置され
た2つの補助ローラと、
前記ワイヤ保持ローラと補助ローラが取り付けられる基台と、を有し、
前記基台と補助ローラとの間には補助ローラ移動機構が備わり、
前記補助ローラ移動機構を介して前記ワイヤ保持ローラと補助ローラにかけられる一周分のワイヤ長さを変えることなく、前記ワーク切断部におけるワイヤの傾きが逐次変化するようにワイヤを揺動させることで、ワークの幅方向におけるワイヤによる切断位置を逐次変化させるワイヤソー装置であって、
前記補助ローラのう
ち一方の補助ローラは、前記並列に配置されたワークの間に侵入することで前記ワイヤを介して前記ワークを切断す
るようになっており、
前記補助ロー
ラは、前記各ワイヤ保持ローラの一方の端部側から見て前記2
本のワイヤ保持ローラに巻かれたワイヤで囲まれる領域に配置され、前記ワイヤ保持ローラに巻かれたワーク側ワイヤとワークと反対側のワイヤにそれぞれの補助ローラが押し付けられ、前記補助ローラ移動機構を介して前記2つの補助ローラを前記ワイヤ保持ローラの中心軸線間を結ぶ線と直交する方向に移動させるようになっ
ており、
前記各ワークは、前記ワーク側ワイヤに押し付けられた補助ローラとこれを挟むように配置された2本の前記ワイヤ保持ローラとの間をそれぞれ走行する前記ワーク側ワイヤによってそれぞれ切断されるようになったことを特徴としている。
【0008】
本発明がこのような構成を有することで、ワイヤ保持ローラの備わった大きな構造物を円弧状に揺動させるのではなく、比較的小さな補助ローラのみを補助ローラ移動機構で移動させるだけでワーク切断中のワイヤを揺動させることができるので、ワイヤ揺動に伴うワイヤの動きの精度を高く保つことができ、高精度な加工が可能となる。
【0009】
また、既に加工された加工面に沿ってワイヤが揺動するため、最初に加工されたときに微小な凹凸が生じたとしても、揺動によりその凹凸を側面研磨する状態になり、加工面の面粗度が向上する。
【0010】
また、ワークとワイヤの接触面が小さくなるため、加工時の摩擦抵抗が減少し、加工部の発熱が減少することにより、工具であるワイヤの寿命を向上させることができる。また、加工液の冷却機構を簡素化したり、冷却機の容量を小さくしたりできる。さらに、ワイヤ駆動用モータの負荷トルクが減少することにより、モータの容量が小さくて済む。
【0011】
これによって、従来のワイヤソー装置を用いた場合の欠点を解消できる。具体的には、従来のワイヤソー装置は、ワイヤ保持ローラ群全体を揺動させる構造となっている。即ち、大きな構造物を揺動させるため、コストが高く信頼性も低くなっているが、本発明によるとコストを低くかつ信頼性を高めることができる。また、摺動面への砥粒の噛み込みが起こり、摺動面の異常摩耗が発生する虞があるが、本発明によるとこのような摺動面の異常摩耗を防止することができる。また、ワイヤ保持ローラ自体を偏芯させて揺動させる構成では、線速に比例して揺動周期が変化するため、全てのローラの回転の位相を合わせなければならず、制御が複雑となっているが、本発明によるとこのような複雑な制御を必要としなくなる。また、従来例として挙げたワイヤソー装置の揺動方法では、ワイヤが何れかのワークから完全に離れる状態が起こるため、複数個のワークを同時に切断することができないという問題もあるが、本発明によると複数個のワークを同時に切断でき、生産効率を高めることが可能となる。
【0012】
また、本発明によると、このような簡単な構成によって補助ローラ移動機構を介してワイヤ保持ローラと補助ローラにかけられる一周分のワイヤ長さを変えることなく、ワーク切断部におけるワイヤの傾きを揺動させてワイヤによるワーク切断部の切断位置を切断中に常に変化させることで、ワイヤ1本当たりの接触面を減らし面圧を上げることによりワークの加工が容易になる。その結果、ワークを多数のウエハに切断した場合、切断面であるウエハ表面の波打ちを防止し、所定の平坦度を保つようになり、製品の歩留りを高めることができる。
【0013】
また、ワーク切断時に補助ローラを積極的に動かしてワーク切断中のワイヤを切断面に対して揺動させることで、ワイヤ1本当たりの接触面を減らし面圧を上げることによりワークの加工が容易になるので、SiCやサファイアなどの高硬度材の切断にも効果を発揮する。
【0014】
また、本発明の請求項2に係るワイヤソー装置は、
長手方向の断面が略円形状又は略角形状をなすワークであって並列に配置されたワークを当該ワークの長手方向所定の厚さを有する板状のウエハに複数枚同時に切断するワイヤソー装置において、
互いに対向して配置された少なくとも2本のワイヤ保持ローラと、
前記ワイヤ保持ローラ間に配置され、複数のワークを同時に切断するための複数のワーク切断部を形成するように配置された少なくとも2つの補助ローラと、
前記ワイヤ保持ローラと補助ローラが取り付けられる基台と、を有し、
前記基台と補助ローラとの間には補助ローラ移動機構が備わり、
前記補助ローラ移動機構を介して前記ワイヤ保持ローラと補助ローラにかけられる一周分のワイヤ長さを変えることなく、前記ワーク切断部におけるワイヤの傾きが逐次変化するようにワイヤを揺動させることで、ワークの幅方向におけるワイヤによる切断位置を逐次変化させるワイヤソー装置であって、
前記補助ローラは、前記並列に配置されたワークの間に侵入することで前記ワイヤを介して前記ワークを切断するようになっており、
前記各補助ローラは、前記各ワイヤ保持ローラの一方の端部側から見て前記2本のワイヤ保持ローラに巻かれたワイヤで囲まれる領域に配置され、前記ワイヤ保持ローラに巻かれたワーク側ワイヤにそれぞれ押し付けられていることを特徴としている。
【0015】
本発明によると、ワーク切断箇所が増えるので、ワークの切断効率を高めることができる。
【0016】
また、本発明の請求項3に係るワイヤソー装置
を用いたウエハの製造方法は、
長手方向の断面が略円形状又は略角形状をなすワークであって並列に配置された2つのワークを当該ワークの長手方向所定の厚さを有する板状のウエハに複数枚同時に切断するワイヤソー装置を用いたウエハの製造方法において、
互いに対向して配置された2本のワイヤ保持ローラと、
前記ワイヤ保持ローラ間に配置され、複数のワークを同時に切断するための複数のワーク切断部を形成するように配置された2つの補助ローラと、
前記ワイヤ保持ローラと補助ローラが取り付けられる基台と、を有し、
前記基台と補助ローラとの間には補助ローラ移動機構が備わり、
前記補助ローラ移動機構を介して前記ワイヤ保持ローラと補助ローラにかけられる一周分のワイヤ長さを変えることなく、前記ワーク切断部におけるワイヤの傾きが逐次変化するようにワイヤを揺動させることで、ワークの幅方向におけるワイヤによる切断位置を逐次変化させるワイヤソー装置を用意し、
前記2つのワークをそれぞれ前記2つのワークに対応するワーク切断部に押し付け、前記ワーク切断部におけるワイヤの傾きが逐次変化するようにワイヤを揺動させることで、ワークに対するワイヤの切断時の接触長さをワーク切断過程の少なくとも一部においてワークの幅よりも減少させると共にワークの幅方向におけるワイヤによる切断位置を逐次変化させながらワークを切断し、多数のウエハを製造するワイヤソー装置を用いたウエハの製造方法であって、
前記補助ローラのうち一方の補助ローラは、前記並列に配置されたワークの間に侵入することで前記ワイヤを介して前記ワークを切断するワイヤソー装置を用いたウエハの製造方法であって、
前記補助ローラは、前記各ワイヤ保持ローラの一方の端部側から見て前記2本のワイヤ保持ローラに巻かれたワイヤで囲まれる領域に配置され、前記ワイヤ保持ローラに巻かれたワーク側ワイヤとワークと反対側のワイヤにそれぞれの補助ローラが押し付けられ、前記補助ローラ移動機構を介して前記2つの補助ローラを前記ワイヤ保持ローラの中心軸線間を結ぶ線と直交する方向に移動させるようになっており、
前記各ワークは、前記ワーク側ワイヤに押し付けられた補助ローラとこれを挟むように配置された2本の前記ワイヤ保持ローラとの間をそれぞれ走行する前記ワーク側ワイヤによってそれぞれ切断されるようになったことを特徴としている。
【0017】
このようなワイヤソー装置を用いたウエハの製造方法を実施することで、コストを抑えたウエハの製造装置を用いて、切断面であるウエハ表面の波打がなく所定の平坦度を保ったウエハを多数製造することができ、製品の歩留りを高めることができる。またワイヤ1本当たりの接触面を減らし面圧を上げることにより、SiCやサファイアなどの高硬度材の切断にも効果を発揮する。
【0018】
また、本発明の請求項4に係るワイヤソー装置を用いたウエハの製造方法は、
長手方向の断面が略円形状又は略角形状をなすワークであって並列に配置されたワークを当該ワークの長手方向所定の厚さを有する板状のウエハに複数枚同時に切断するワイヤソー装置
を用いたウエハの製造方法において、
互いに対向して配置された少なくとも2本のワイヤ保持ローラと、
前記ワイヤ保持ローラ間に配置され、複数のワークを同時に切断するための複数のワーク切断部を形成するように配置された少なくとも2つの補助ローラと、
前記ワイヤ保持ローラと補助ローラが取り付けられる基台と、を有し、
前記基台と補助ローラとの間には補助ローラ移動機構が備わり、
前記補助ローラ移動機構を介して前記ワイヤ保持ローラと補助ローラにかけられる一周分のワイヤ長さを変えることなく、前記ワーク切断部におけるワイヤの傾きが逐次変化するようにワイヤを揺動させることで、ワークの幅方向におけるワイヤによる切断位置を逐次変化させるワイヤソー装置を用意し、
前記複数のワークをそれぞれ前記複数のワーク切断部に押し付け、前記ワーク切断部におけるワイヤの傾きが逐次変化するようにワイヤを揺動させることで、ワークに対するワイヤの切断時の接触長さをワーク切断過程の少なくとも一部においてワークの幅よりも減少させると共にワークの幅方向におけるワイヤによる切断位置を逐次変化させながらワークを切断し、多数のウエハを製造するワイヤソー装置を用いたウエハの製造方法であって、
前記補助ロー
ラは、前記並列に配置されたワークの間に侵入することで前記ワイヤを介して前記ワークを切断す
るワイヤソー装置を用いたウエハの製造方法であ
り、
前記各補助ローラは、前記各ワイヤ保持ローラの一方の端部側から見て前記2本のワイヤ保持ローラに巻かれたワイヤで囲まれる領域に配置され、前記ワイヤ保持ローラに巻かれたワーク側ワイヤにそれぞれ押し付けられていることを特徴としている。
【0019】
このようなワイヤソー装置を用いたウエハの製造方法を実施することで、コストを抑えたウエハの製造装置を用いて、切断面であるウエハ表面の波打がなく所定の平坦度を保ったウエハを多数製造することができ、製品の歩留りを高めることができる。またワイヤ1本当たりの接触面を減らし面圧を上げることにより、SiCやサファイアなどの高硬度材の切断にも効果を発揮する。
また、本発明によると、ワーク切断箇所が増えるので、ワークの切断効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、例えば半導体のインゴット等を厚さの薄い複数のウエハに切断するのに適したワイヤソー装置及びこれを用いたウエハの製造方法を提供できる。また、ワイヤ1本当たりの接触面を減らし面圧を上げることにより、SiCやサファイアなどの高硬度材の切断にも効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の第1の実施形態に係るワイヤソー装置の構造について図面に基づいてより詳細に説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るワイヤソー装置の作用を説明する図であり、補助ローラが(1)(2)(3)の順に下限位置から上限位置まで移動する状態を示している。また、
図2は、
図1に続く説明図であり、補助ローラが(4)(5)(6)の順に上限位置から下限位置まで移動する状態を示している。また、
図3は、本発明の第1の実施形態におけるワイヤソー装置の、ワイヤ切断の具体的手順を分かり易く示すフローチャートである。また、
図5は、本発明の第1の実施形態におけるワイヤソー装置の、ワイヤ切断の具体的手順を分かり易く示すワークの切断断面図である。また、
図6は、本発明に係るワイヤソー装置の一実施例を示す斜示図である。
【0023】
以下、本発明の第1の実施形態に係るワイヤソー装置及びこれを用いたウエハの製造方法について説明する。なお、本実施形態に係るワイヤソー装置1は、長手方向と直交する方向の断面が略角形状をなすワーク50を切断するワイヤソー装置であって、このワーク50には例えばシリコンのウエハを製造する元となるシリコンインゴットが適用されている。
【0024】
本発明の第1の実施形態に係るワイヤソー装置1は、ワーク50を切断するワイヤWと、互いに対向して配置されたワイヤ保持ローラ11,12が設けられている。ワイヤ保持ローラ11,12間には、補助ローラ15,16が、複数のワークを同時に切断するための複数のワーク切断部をワイヤ保持ローラ間に形成するように配置されている。ワイヤWは、これらワイヤ保持ローラ11,12及び補助ローラ15,16の長手方向に所定間隔隔てて多数巻かれている。
【0025】
2つの補助ローラ15,16は、各ワイヤ保持ローラの一方の端部側から見て2つのワイヤ保持ローラ11,12に巻かれたワイヤWで囲まれる領域に配置されている。そして、ワイヤ保持ローラ11,12に巻かれたワーク側のワイヤWとワーク50と反対側のワイヤWにそれぞれの補助ローラ15,16が押し付けられ、補助ローラ移動機構を介して2つの補助ローラ15,16をワイヤ保持ローラ11,12の中心軸線間を結ぶ線と直交する方向に移動させるようになっている。
【0026】
ワイヤソー装置1は、ワイヤ保持ローラ11,12と補助ローラ15,16が取り付けられる基台を有し、基台101,102と補助ローラ15,16との間には補助ローラ移動機構40(
図6参照)が備わっている。そして、補助ローラ移動機構40を介してワイヤ保持ローラ11,12と補助ローラ15,16にかけられる一周分のワイヤ長さを変えることなく、ワーク切断部におけるワイヤWの傾きを揺動させてワイヤWによるワーク切断部の切断位置を切断中に常に変化させるようになっている。
【0027】
以下、補助ローラ15,16の移動機構の幾つかの構成について説明する。第1の構成としては、リンクアームにカムフォロアを固定し、リンクシャフトを一定角度で往復させることで補助ローラを上下に揺動させる構成が考えられる。この際、サーボモータを用いてリンクシャフトを一定角度で往復させる。そして、2つの補助ローラを同一の支持プレートに固定することで、各補助ローラが互いに同じ位置関係を保ち保ちつつワイヤを揺動させる。なお、ホルダにカムフォロアのガイドを付け、LMガイドを垂直に配置することにより、補助ローラの動きを上下に規制する。
【0028】
また、第2の構成としては、カムシャフトを回転させることで補助ローラを上下に移動させてワイヤを揺動させる構成が考えられる。具体的には、サーボモータを用いてカムシャフトを回転させる。そして、2つの補助ローラを同一の支持プレートに固定することで、各補助ローラが互いに同じ位置関係
を保ちつつワイヤを揺動させる。なお、LMガイドを垂直に配置することにより、補助ローラの動きを上下に規制する。
【0029】
また、第3の構成としては、補助ローラの両端側にそれぞれサーボモータを設け、補助ローラを上下に移動させることでワイヤを揺動させる構成が考えられる。この際、補助ローラの両端側にLMガイドとボールネジを垂直に配置する。そして、2つの補助ローラを同一の支持プレートに固定することで、各補助ローラが互いに同じ位置関係を保ちつつワイヤを揺動させる。また、補助ローラの両端側にサーボモータを取り付けボールネジを回転させる。そして、2つのサーボモータを同期させて駆動させ補助ローラを上下に揺動させる。なお、これら各種補助ローラの具体的構成については、後に詳細な図面に基づいて説明する。
【0030】
図1は、補助ローラ15,16が下限位置にある状態でワイヤWにワーク50をあてて切断を開始していく手順について示している。なお、
図1の(1)〜(3)においては、補助ローラ15,16を上限位置まで上昇させると共に、これに合わせてワーク50を上昇させるが、補助ローラ15,16の送りに対してワーク50の切断送り分だけ差し引いた送り分でワークを送って切断している。これは、
図1の(1)〜(3)に示すように、補助ローラの送り量のベクトルAの長さに対してワークの送り量のベクトルBの長さが若干短くなっていることからも分かる。なお、このベクトル量の差は、
図1の(1)のベクトルCに対応する。
【0031】
続いて、本実施形態におけるワイヤソー装置を用いたワークの具体的切断方法について説明する。
図1の(1)に示すように、当初ワイヤWは下限位置にあるので、ワイヤWの水平方向に対する小さい角度でワーク50に当たって、その位置を切断する。
【0032】
続いて、
図1の(2)に示すように、ワイヤWが中間位置まで上昇すると、その分ワーク50の水平方向に対する角度が大きくなって先程の切断位置とは異なるワーク50の切断位置にワイヤWが達し、この部分を切断する。
【0033】
そして、
図1の(3)に示すように、補助ローラ15,16が上限位置に達すると、ワイヤWの水平方向に対する角度が一番大きくなって上述したワーク50の切断位置と異なる切断位置をワイヤWが切断するようになる。
【0034】
なお、
図1の(1)〜(3)から明らかなように、ワイヤ保持ローラ11,12及び補助ローラ15,16にかけられたワイヤWの一周の長さは、補助ローラ15,16の位置に関わらず略一定である。
【0035】
続いて、
図2に示すように、補助ローラ15,16を下降させると共に、ワーク50をこれに対応して下降させて、ワーク50をワイヤWで更に切断する。この際、補助ローラ15,16の送りに対してワーク切断送り分だけ足した送りでワークを送って切断する。これは、
図2の(4)〜(6)に示すように、ワークの送り量のベクトルA’の長さに対して補助ローラの送り量のベクトルB’の長さが若干短くなっていることからも分かる。なお、このベクトル量の差は、
図2の(4)のベクトルC’に対応する。
【0036】
図2の(4)に示す補助ローラ15,16が上限位置にある状態では、水平方向に対するワイヤWのなす角が大きくワーク50が同図の点線で示す状態の部分で切断されている。続いて、
図2の(5)に示すように、補助ローラ15,16を中間位置まで下降させると、水平方向に対するワイヤWのなす角が小さくなり、先程のワーク50の切断部分とは異なる箇所をワイヤWで切断するようになっている。更に補助ローラ15,16を下限位置まで移動させると、水平方向に対するワイヤWの角度が更に小さくなり、先程のワーク50の箇所と異なる切断位置をワイヤWが切断するようになっている。
【0037】
なお、
図2の(4)〜(6)から明らかなように、ワイヤ保持ローラ11,12及び補助ローラ15,16にかけられたワイヤWの一周の長さは、補助ローラ15,16の位置に関わらず略一定である。
【0038】
以降、
図1の(1)〜(3)、
図2の(4)〜(6)を繰り返し、ワイヤWによるワーク50の切断過程においてワーク50の幅方向全体ではなく、少なくとも幅方向一部を切断しながらワーク50を全体的に切断していく。
【0039】
即ち、ワーク50の幅方向におけるワイヤWによる切断位置を逐次変化させながらワーク50を切断する、言い換えるとワーク50に対するワイヤWの切断中の接触長さをワーク切断過程の少なくとも一部においてワーク50の幅よりも減少させながらワークを切断する。
【0040】
続いて、本実施形態における上述した特徴的なワーク切断手順について
図3に示すフローチャートに基づいて説明する。最初にワーク切断をスタートする(ステップS1)。その際、本実施形態の場合、補助ローラを下限位置にする(ステップS2)次いで、ワークをワイヤに向かって下降させる(ステップS3)。次いで、ワークがワイヤに当たったか否かを判断する(ステップS4)。
【0041】
ステップS4で、ワークがワイヤに当たったと判断した場合、ワークを上昇させ、かつ補助ローラも上昇させる(ステップS5)。このワークと補助ローラの上昇に際して、ワークがxだけ上昇すると共に、補助ローラもx+α上昇したか否かを判断する(ステップS6)。なお、このαは、1回の補助ローラの上昇によってワイヤがワークを切断していく量に対応している。
【0042】
ステップS6で、ワークがxだけ上昇すると共に、補助ローラもx+α上昇したと判断した場合、再びワークを下降させ、かつ補助ローラも下降させる(ステップS7)。このワークと補助ローラの下降に際して、ワークがy+βだけ下降すると共に、補助ローラもyだけ下降したか否かを判断する(ステップS8)。なお、このβは1回の補助ローラの下降によってワイヤがワークを切断していく量に対応している。
【0043】
ステップS8で、ワークがy+βだけ下降すると共に、補助ローラもyだけ下降したと判断した場合、ワイヤがワークを完全に切断したか否かを判断する(ステップS9)。
【0044】
ステップS9で、ワイヤがワークを完全に切断していないと判断した場合は、上述したステップS5乃至ステップS8を繰り返す。そして、ステップS9で、ワイヤがワークを完全に切断したと判断した場合、ワイヤをワークから抜く(ステップS10)。そして、ワーク切断作業を終了する(ステップS11)。
【0045】
続いて、別のワーク切断作業のルーチンについて説明する。
図4は、本発明の第1の実施形態の変形例におけるワイヤソー装置の、ワイヤ切断の具体的手順を分かり易く示すフローチャートである。なお、このルーチンは、上述したワーク切断作業のルーチンと異なり、ワーク切断の最初に補助ローラを上限位置に移動させておくルーチンである。
【0046】
最初にワーク切断をスタートする(ステップS21)。その際、本ルーチンの場合、補助ローラを上限位置にする(ステップS22)次いで、ワークをワイヤに向かって下降させる(ステップS23)。次いで、ワークがワイヤに当たったか否かを判断する(ステップS24)。
【0047】
ステップS24で、ワークがワイヤに当たったと判断した場合、ワークを下降させ、かつ補助ローラも下降させる(ステップS25)。このワークと補助ローラの下降に際して、ワークが、y+βだけ下降すると共に、補助ローラも、yだけ下降したか否かを判断する(ステップS26)。ここで、このβは、上述したβと同様に1回の補助ローラの下降によってワイヤがワークを切断していく量に対応している。
【0048】
ステップS26で、ワークがy+βだけ下降すると共に、補助ローラもyだけ下降したと判断した場合、再びワークを上昇させ、かつ補助ローラも上昇させる(ステップS27)。このワークと補助ローラの上昇に際して、ワークがxだけ上昇すると共に、補助ローラもx+α上昇したか否かを判断する(ステップS28)。ここで、このαは、上述したαと同様に1回の補助ローラの上昇によってワイヤがワークを切断していく量に対応している。
【0049】
ステップS28で、ワークがxだけ上昇すると共に、補助ローラもx+αだけ上昇したと判断した場合、ワイヤがワークを完全に切断したか否かを判断する(ステップS29)。
【0050】
ステップS29で、ワイヤがワークを完全に切断していないと判断した場合は、上述したステップS25乃至ステップS28を繰り返す。そして、ステップS29で、ワイヤがワークを完全に切断したと判断した場合、ワイヤをワークから抜く(ステップS30)。そして、ワーク切断作業を終了する(ステップS31)。
【0051】
図5は、ワーク50をワイヤWで切断していく手順を示した概略説明図である。
図5における切断工程では、切断当初に補助ローラ15,16が上限位置にあるようにしている。そして、図中上段の左側に示す矩形のワーク50に斜めの実線のワイヤWが入り込んで切断を開始する。次いで、補助ローラ15,16は若干下側に移動すると共に、これに伴ってワイヤWの水平方向に対する角度も小さくなり、図中上段の中央に示すような切断状態になる。この際、補助ローラ15,16の下降量よりもワーク50の下降量の方が若干大きくなっているので、ワイヤWがワーク50に更に入り込んでワーク50を切断する。上段の中央で示すように、破線で示す最初の切断箇所に対して実線で示すワイヤWの切断箇所が異なっていることが分かる。
【0052】
次いで、更に補助ローラ15,16が下降すると、ワイヤWが上段の右側に示す状態となる。これに伴って、ワーク50に対するワイヤWの切断箇所が上述した切断箇所と同様に、点線で示す切断箇所から新たな切断箇所に移行する。次いで、補助ローラ15,16が再び上昇してワーク50も上昇すると、図中中段左側に示す切断状態となる。この場合、ワーク50の上昇量よりも補助ローラ15,16の上昇量が若干大きくなっているので、ワイヤWがワーク50に更に入り込んで図中破線で示す切断箇所と異なる新たな箇所を切断する。
【0053】
次いで、補助ローラ15,16が上限位置に達すると、図中中段中央に示す切断状態となる。その状態では、破線で示す切断箇所とは異なり更にワーク50にワイヤWが入り込んで新たな部分を切断することが分かる。
【0054】
以降、再び補助ローラが下降すると共にワークが補助ローラの下降量よりも若干多く下降することで、図中中段右側から下段左側に示すワークの位置がワイヤによって切断される。
【0055】
そして、再び補助ローラ15,16が上限位置まで上昇することで、ワーク50が図中下段中央に示す位置から下段右側に示す位置に切断箇所を移しながら切断されていく。このようにして、図中最下段左側に示すように、ワイヤWはワーク50の異なる箇所を切断しながら、ワイヤ全体を図中矢印に示すように切断し、最終的にワーク50を完全に切断して多数のウエハを製造する。
【0056】
このような特別な手順でワイヤWによるワーク切断を行うことで、大きな構造物を円弧状に揺動させるのではなく、比較的小さな補助ローラ15,16のみを直線的に上下させるだけで良くなるので、揺動面の精度を高く保つことができ、高精度な加工が可能となる。
【0057】
また、既に加工された加工面に沿ってワイヤWが揺動するため、最初に加工されたときに微小な凹凸が生じたとしても、揺動によりその凹凸を側面研磨する状態になり、加工面の面粗度が向上する。
【0058】
また、ワーク50とワイヤWの接触面が小さくなるため、加工時の摩擦抵抗が減少し、加工部の発熱が減少することにより、工具であるワイヤWの寿命を向上させることができる。また、加工液の冷却機構を簡素化したり、冷却機の容量を小さくできる。更にワイヤ駆動用モータの負荷トルクが減少することにより、モータの容量が小さくて済む。
【0059】
これによって、従来のワイヤソー装置を用いた場合の欠点を解消できる。具体的には、特許文献1乃至5に開示されたワイヤソー装置は、ワイヤ保持ローラ群全体を揺動させる構造となっている。大きな構造物を揺動させるため、コストが高く信頼性も低くなっている。また、摺動面への砥粒の噛み込みが起こり、摺動面の異常摩耗が発生する虞がある。また、ワイヤ保持ローラ自体を偏芯させて揺動させる構成では、線速に比例して揺動周期が変化するため、全てのローラの回転の位相を合わせなければならず、制御が複雑となっている。しかしながら、本発明に係るワイヤソー装置によると、このような問題点を解決できる。また、上述した特許文献1乃至5に記載されたワイヤソー装置の揺動方法の問題、即ちワイヤが何れかのワークから完全に離れる状態が起こるため、複数個のワークを同時に切断することができないという問題も解決できる。
【0060】
また、補助ローラを揺動させることでワイヤ1本当たりの接触面を減らし面圧を上げることによりワークの加工が容易になる。このため、SiCやサファイアなどの高硬度材の切断にも効果を発揮する。
【0061】
続いて、補助ローラ移動装置の幾つかの具体的構造を第1乃至第3実施例として説明する。最初に補助ローラ移動機構の第1実施例について説明する。
図6は、リンクアーム型カムフォロアを用いた補助ローラの移動機構を含むワイヤソー装置を一部透過的に示す斜示図である。また、
図7は、
図6のリンクアーム型カムフォロアを用いた補助ローラの移動機構の部分を示す斜示図である。また、
図8は、
図6のリンクアーム型カムフォロアの部分を拡大して示す斜示図である。
【0062】
これらの図から明らかなように、ワイヤソー装置100は、2つのワイヤ保持ローラ111,112の両端が基台に回転可能に支持されている。そして、一方のワイヤ保持ローラ111にはここでは図示しない駆動力伝達手段を介して駆動モータ駆動力が伝達されるようになっている。
【0063】
補助ローラ115,116は、各ワイヤ保持ローラ間に配置されている。補助ローラ115,116は、上下に互いに一定間隔隔てて平行となるように補助ローラ支持プレート121,122に回転可能に支持されている。
【0064】
そして、
図6では図示しないが、ワイヤ保持ローラ111,112及び補助ローラ115,116の外周面には、それらの長手方向に所定間隔隔てて多数のワイヤ保持溝が形成され、これらの溝を介して各ローラに多数のワイヤが互いに所定間隔隔てた状態でかけられている。
【0065】
補助ローラ支持プレート121は、側面視逆L型の連結ブラケット131の上面に固定されている。連結ブラケット131の側面にはスライダ141が備わり、スライダ141が、図示しない取り付けプレートに備わったLMガイド151に係合して連結ブラケット131と補助ローラ支持プレート121を上下に移動させるようになっている。
【0066】
補助ローラ支持プレート122は、
図7に示すようにスライダ142を介して取り付けプレート106に固定されたLMガイド152に上下移動可能に取り付けられている。取り付けプレート106は、基台101の外側面に固定されている。
【0067】
これによって、補助ローラ支持プレート121,122は、各取り付けプレートに対して上下に移動可能となっている。
【0068】
連結ブラケット131の側面にはカムシャフト貫通孔131aが形成され、このカムシャフト貫通孔131aを介してカムシャフト160の端部が各取り付けプレートに固定されている。取り付けプレート106の補助ローラ115,116との反対側面にはカップリング171及び減速機172を備えた支持ブラケット170が取り付けられ、減速機172には駆動モータ173が備わっている。そして、カムシャフト160の一方の端部は、カップリング171及び減速機172を介して駆動モータ173に連結され、駆動モータ173の駆動力によってカムシャフト160を回転するようになっている。
【0069】
カムシャフト160の両端部にはカムフォロア取り付け部161(一方のみ
図8に図示)が備わり、このカムフォロア取り付け部161の突出部にカムフォロア163が備わっている。カムフォロア163の一方は、補助ローラ支持プレート122の下端に備わったガイド125の横溝125aに係合し、カムシャフト160の回転に応じてカムフォロア163がガイド125の横溝125aを往復しながら連結ブラケット131及び補助ローラ支持プレート122を上下に移動させるようになっている。なお、
図7に示す連結ブラケット131にも同様の横溝が形成され、カムフォロア163が係合している。これによって、補助ローラ115,116もカムシャフト160の回転に応じて上下に移動させ、ワイヤWをワーク50の切断面において揺動させるようになっている。
【0070】
続いて、補助ローラ移動機構の他の実施例について説明する。
図9は、上述した補助ローラの移動機構とは異なる構造を有する補助ローラの移動機構の他の実施例である。また、
図10は、
図9に示した移動機構の部分を拡大して示す斜視図である。なお、上述した補助ローラの移動機構と同等の構成については、対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
【0071】
この補助ローラの移動機構の実施例は、カムシャフト260を使った上下移動機構を採用している。具体的には、上下に配置された補助ローラ間にカムシャフト260が延在している。カムシャフト260の両端近傍には楕円形を有するカム261が備わっている。2つの補助ローラ215,216は、上述の実施例と同様に支持プレート221,222に上下に所定距離隔て平行して回転可能に支持されている。また、カムシャフト260の両端は、支持プレート221,222に設けたカムシャフト貫通孔(
図9及び
図10では、一方のカムシャフト貫通孔222aのみ図示)を介して、取り付けプレート(取り付けプレート206のみ図示)に回転可能に取り付けられている。カムシャフト260の一端は、
図10に示すようにカップリング231及び減速機232を介してモータ233に接続されている。また、各支持プレート221,222には、カム261の動きに合わせて上下するブラケット223,224が固定されている。そして、カップリング231、減速機232、及びモータ233は、モータ取り付けブラケット230を介してブラケット224に固定されている。
【0072】
図9に示すブラケット223は、一部が角形の逆U字形状をなし、この上辺部の下側面223aにカム261の一部が当接している。また、
図10に示す支持プレート222には横長直方体状のブラケット224が備わり、このブラケット224の下面部224aにカム262の一部が当接している。また、各ブラケット223,224にはスライダ241,242が備わっている。
【0073】
そして、上述した実施例と同様に、取り付けプレート(一方の取り付けプレート206のみ図示)が基台(
図9では図示せず)にそれぞれ固定されている。また、取り付けプレートにはそれぞれLMガイド251,252が固定されている。そして、スライダ241,242は、取り付けプレートのLMガイド251,252に係合し、カム261の回転角度に応じてスライダ241,242を介してブラケット223,224及び支持プレート221,222が上下するようになっている。本変形例がこのような構成を有することで、カムシャフト260の回転に応じて補助ローラ215,216を上下に移動させ、ワイヤWをワーク50の切断面において揺動させるようになっている。
【0074】
続いて、補助ローラ移動機構の更に別の実施例について説明する。
図11は、上述した補助ローラの移動機構とは異なる構造を有する補助ローラの移動機構の更なる他の実施例である。また、
図12は、
図11とは異なる方向から見た補助ローラの移動機構の更なる他の実施例の斜視図である。なお、上述した補助ローラの移動機構と同等の構成については、対応する符号を付して詳細な説明を省略する。この補助ローラの移動機構の実施例は、ボールねじを使った上下機構を採用している。
【0075】
具体的には、補助ローラ315,316が上下に間隔を隔てて平行した状態で支持プレート321,322に回転可能に支持されている。支持プレート321,322の下端は、アーム型ブラケット325,326の先端部に固定され、アーム型ブラケット325,326の基端部は、取り付けプレート305,306の開口窓を介して取り付けプレート305,306の補助ローラ315,316と反対側に配置されたスライダ341,342に取り付けられている。スライダ341,342は、
図11における手前側のアーム型ブラケット325に備わるスライダ341は、取り付けプレート305の上側に備わったLMガイド351に係合して上下に自在に動くようになっている。また、
図12における手前側のアーム型ブラケット326に備わるスライダ342は、取り付けプレート306の下側に備わったLMガイド352に係合して上下に自在に動くようになっている。各取り付けプレート305,306の中央部には、ボールねじ支持部371,372が固定され、一方の取り付けプレート305の上方部及び他方の取り付けプレート306の下方部にL型のモータブラケット381,382が固定されている。
【0076】
モータブラケット381,382には、カップリング383,384及び減速機385,386並びにモータ387,388が固定され、このカップリング383,384からボールねじ361,362が延在し、このボールねじ361,362の端部がアーム型ブラケット325,326の基端部に固定されている。一方、モータブラケット381,382には、カップリング383,384及び減速機385,386並びにモータ387,388が固定され、このカップリング383,384からボールねじ361,362が延在し、このボールねじ361,362の端部がアーム型ブラケット325,326の基端部に固定されている。これによって、モータ387,388の回転に応じてボールねじ361,362が送り出されたり引き込まれたりし、このボールねじ361,362の送り出し量や引き込み量に応じてアーム型ブラケット325,326及びスライダ341,342がLMガイド351,352に沿って上下に移動し、アーム型ブラケット325,326と支持プレート321,322に回転可能に取り付けられた補助ローラ315,316を上下に移動させるようになっている。
【0077】
続いて、本発明の第2の実施形態に係るワイヤソー装置について説明する。なお、上述した第1の実施形態と同等の構成については、対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
図13は、本発明の第2の実施形態に係るワイヤソー装置を示す概略説明図である。
【0078】
第2の実施形態に係るワイヤソー装置の場合、補助ローラは2つの補助ローラ25,26からなり、各ワイヤ保持ローラ21,22の一方の端部側から見て2つのワイヤ保持ローラに巻かれたワイヤWで囲まれる領域に配置され、ワイヤ保持ローラ21,22に巻かれたワーク側のワイヤWにそれぞれ押し付けられている。
【0079】
そして、上述した補助ローラ移動装置の各種実施例と同一の原理による移動装置を介して、左側の補助ローラ25が上昇して上限位置に達し、右側の補助ローラ26が下降して下限値に達した第1の状態(図中実線に示す状態)と、左側の補助ローラ25が下降して下限位置に達し右側の補助ローラ26が上昇して上限値に達した第2の状態(図中鎖線に示す状態)との間の移動を補助ローラ25,26が繰り返すことで、各ワーク50に対するワイヤWの切断方向を揺動させる。なお、この補助ローラ25,26が上述した範囲で移動しても、ワイヤ保持ローラ21,22及び補助ローラ25,26にかけられるワイヤ1周分の長さが変化しないようになっている。
【0080】
第2の実施形態に係るワイヤソー装置2によると、上述した第1の実施形態の作用効果に加えて、ワーク切断側のワイヤWに配置された補助ローラが2つの補助ローラ25,26からなり、この2つの補助ローラ25,26が、各ワイヤ保持ローラ21,22の一方の端部側から見て2つのワイヤ保持ローラ21,22に巻かれたワイヤWで囲まれる領域に配置され、ワイヤ保持ローラ21,22に巻かれたワーク側のワイヤWにそれぞれ押し付けられている。これによって、一方のワイヤ保持ローラ21と補助ローラ25、他方のワイヤ保持ローラ22と補助ローラ26間に少なくともワイヤWによるワーク切断領域が3箇所独立して形成され、ワーク50の切断効率を高める。
【0081】
続いて、本発明の第3の実施形態について説明する。なお、上述した第1及び第2の実施形態と同等の構成については、対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
図14は、本発明の第3の実施形態に係るワイヤソー装置を示す概略説明図である。
【0082】
第3の実施形態に係るワイヤソー装置3の場合、各補助ローラは3つの補助ローラ35,36,37からなり、各ワイヤ保持ローラ31,32の一方の端部側から見て3つのワイヤ保持ローラ31,32に巻かれたワイヤWで囲まれる領域に配置され、ワイヤ保持ローラ31,32に巻かれたワーク側のワイヤWにそれぞれ押し付けられている。
【0083】
そして、上述した補助ローラ移動装置と同一の原理による移動装置を介して、真ん中の補助ローラ36はその位置を変えずに、左側の補助ローラ35が上昇して上限位置に達し、右側の補助ローラ37が下降して下限値に達した第1の状態(図中実線に示す状態)と、真ん中の補助ローラ36はその位置を変えずに、左側の補助ローラ35が下降して下限位置に達し、右側の補助ローラ37が上昇して上限値に達した第2の状態(図中鎖線に示す状態)との間で補助ローラ35,37が移動を繰り返すことで、各ワーク50に対するワイヤWの切断方向を揺動させる。この際、この補助ローラ35,37が上述した範囲で移動しても、ワイヤ保持ローラ31,32及び補助ローラ35,36,37にかけられるワイヤ1周分の長さが変化しないようになっている。
【0084】
第3の実施形態に係るワイヤソー装置3によると、上述した第1の実施形態の作用効果に加えて、ワーク切断側のワイヤWに配置された補助ローラが3つの補助ローラ35,36,37からなり、この3つの補助ローラが、各ワイヤ保持ローラ31,32の一方の端部側から見て2つのワイヤ保持ローラ31,32に巻かれたワイヤWで囲まれる領域に配置され、ワイヤ保持ローラ31,32に巻かれたワーク側のワイヤWにそれぞれ押し付けられている。これによって、一方のワイヤ保持ローラ31と補助ローラ35、他方のワイヤ保持ローラ32と補助ローラ37間に少なくともワイヤWによるワーク切断領域が4箇所独立して形成され、ワークの切断効率を高める。
【0085】
なお、上述の実施形態におけるワークは、シリコンのインゴットとして紹介したが、このワークの材質はこれに限定されず、本発明の作用を発揮する範囲内であれば、サファイア等のインゴットや、その他の材質でできた様々なインゴットが適用可能である。
【0086】
また、本発明の他の実施形態として、上述の実施形態の内容に加えて、補助ローラがワイヤ保持ローラの駆動軸に同調して駆動するようにしても良い。補助ローラをワイヤ保持ローラと同調駆動させることにより、ワイヤが補助ローラを引きずらないようになるため、溝の摩耗を軽減でき、その分メンテナンスの回数も減らすことが可能となり、ワイヤソー装置の稼働効率を上げることができる。
【0087】
また、このような補助ローラの同調駆動により、ワイヤが補助ローラを引きずらないようにするためワイヤの負荷が減るので、ワイヤにかかる張力が安定し、ワイヤ断線の危険性を低減させることができる。
【0088】
このようなワイヤ断線の危険性を低減させることのメリットは大きい。その理由は、一旦、ワイヤが断線すると、ワイヤソー装置の稼働を停止し、ワイヤを全て取り除いて新しいワイヤをワイヤ供給リールから供給し、各ローラに巻き直さなければならない。そのため、ワイヤ断線を極力少なくすることがワイヤソー装置の稼働率を高め、ひいてはウエハの製造効率を向上させる点で有用であるからである。
【0089】
なお、上述した本発明にかかるワイヤソー装置において、ワイヤ保持ローラの回転に同期して、補助ローラを回転させる回転駆動機構を設けても良い。なお、この際、この回転駆動装置によって、補助ローラに掛けられたワイヤの走行速度が補助ローラの周速度とほぼ同一となるようにするのが良い。
【0090】
これによって、補助ローラに形成された溝部においてワイヤと補助ローラ周面との相対速度差が生じることがなくなり、この溝部の摩耗を極力抑えることができる。その結果、補助ローラのワイヤソー装置に対する取付け位置を頻繁に微調整することなく、長期に亘ってそのまま用いることができるようになる。
【0091】
なお、上述した本発明に係るワイヤソー装置によって半導体のインゴットから切断されて製造されるウエハは、様々なタイプの製品に適用可能である。具体的には、一例としてCPUに用いられるような半導体チップ、流量センサや圧力センサに用いられる半導体チップ等、厚さが0.6mm乃至1mm程度のウエハを製造して、上述の製品に用いても良い。
【0092】
しかしながら、本発明に係るワイヤソー装置の作用を十分に発揮するにあたっては、例えば太陽電池用の半導体ウエハ等、厚さが0.2mm以下の非常に薄い厚さを有するウエハをその設計寸法通りに製造するのに用いるのが好ましい。
【0093】
また、上述した実施形態において紹介した装置の各部品の寸法関係や材質は、あくまで例示的なものに過ぎず、本発明の作用を発揮し得れば他の寸法関係や材質についても本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0094】
また、本実施形態では、好適な実施形態として、上述したようにワイヤに研磨剤を固着させた固定砥粒方式のワイヤソー装置が適用対象として挙げられるが、研磨剤を分散媒に混合した加工液を使用する遊離砥粒方式のワイヤソー装置に対しても本発明を適用することができる。