特許第5752406号(P5752406)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5752406化成処理性に優れた鋼板の製造方法及び製造設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5752406
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】化成処理性に優れた鋼板の製造方法及び製造設備
(51)【国際特許分類】
   C23G 1/08 20060101AFI20150702BHJP
   C23G 3/02 20060101ALI20150702BHJP
   B24B 7/12 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   C23G1/08
   C23G3/02
   B24B7/12
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-286896(P2010-286896)
(22)【出願日】2010年12月24日
(65)【公開番号】特開2012-132079(P2012-132079A)
(43)【公開日】2012年7月12日
【審査請求日】2013年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000137096
【氏名又は名称】株式会社ホタニ
(74)【代理人】
【識別番号】100083253
【弁理士】
【氏名又は名称】苫米地 正敏
(72)【発明者】
【氏名】藤田 昇輝
(72)【発明者】
【氏名】穂谷 彰彦
【審査官】 粟野 正明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−220250(JP,A)
【文献】 特開昭55−042740(JP,A)
【文献】 特開平02−030318(JP,A)
【文献】 特開平08−319592(JP,A)
【文献】 特開平01−254313(JP,A)
【文献】 特開平04−002793(JP,A)
【文献】 特開平02−163321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00−5/06
B21B 45/06
B24B 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延及び冷間圧延して得られたSi含有量が0.5質量%以上の普通鋼板を連続焼鈍した後、表面研削処理と酸洗処理をこの順序で行うに際し、
前記表面研削処理時には、熱間圧延工程における鋼板の巻取温度に応じて、研削体の回転数、圧下量、及び研削体により研削される部分に供給されるクーラント流量のうちの1つ以上を調整するとともに、表面研削処理完了後から酸洗処理開始までの時間を60秒以内とすることにより、化成処理された後、コイル長手方向のT部(先端部)、M部(中間部)、B部(尾端部)から採取されたサンプルの表面を倍率500倍で5視野観察した際に、5視野全てにおいて面積率95%以上で均一な化成結晶が生成する鋼板が得られるようにすることを特徴とする化成処理性に優れた鋼板の製造方法。
【請求項2】
表面研削処理は、鋼板両面を研削する上下1対の研削体を1対又は2対以上用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の化成処理性に優れた鋼板の製造方法。
【請求項3】
表面研削処理及び酸洗処理による鋼板質量の減少量を4.0g/m以上とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の化成処理性に優れた鋼板の製造方法。
【請求項4】
熱延鋼板製造用の熱間圧延設備と、該熱間圧延設備で得られた熱延鋼板を冷間圧延する冷間圧延設備と、該冷間圧延設備で得られた鋼板を焼鈍する連続焼鈍炉と、該連続焼鈍炉で焼鈍された鋼板を表面研削処理する表面研削装置と、該表面研削装置で表面研削処理された鋼板を酸洗処理する酸洗設備を備えた普通鋼板の製造設備であって、
前記熱間圧延設備は、鋼板の巻取温度を測定する温度測定手段を有し、
前記表面研削装置は、前記温度測定手段により測定された鋼板の巻取温度に応じて、研削体の回転数、圧下量、及び研削体により研削される部分に供給されるクーラント流量のうちの1つ以上調整可能とし、化成処理された後、コイル長手方向のT部(先端部)、M部(中間部)、B部(尾端部)から採取されたサンプルの表面を倍率500倍で5視野観察した際に、5視野全てにおいて面積率95%以上で均一な化成結晶が生成する鋼板が得られるようにしたことを特徴とする鋼板の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化成処理性に優れた高Si含有の普通鋼板の製造方法及び製造設備に関するものである。本発明に係る鋼板の製造方法及び製造設備の適用対象とする鋼板は、例えば、日本鉄鋼連盟規格(JFS
A2001−2008年)に記載の自動車用冷間圧延鋼板及び鋼帯、日本工業規格(JIS G3135−2006年)に記載の自動車用加工性冷間圧延高張力鋼板及び鋼帯において、Si含有量が0.5質量%以上の普通鋼高張力鋼板であり、ステンレス鋼板や電磁鋼板を含まないものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全という観点から自動車の燃費改善が求められている。また、衝突時における乗員保護の観点から自動車の安全性向上も要求されている。このため、自動車の車体には軽量化と高強度化が必要とされ、最近では、自動車部品の薄肉化と高強度化が積極的に行われている。
一方、自動車部品の多くは鋼板をプレス成形して製造されることから、鋼板には高いプレス成形性、特に高い強度と高い延性、すなわち優れた強度−延性バランスが強く求められる。高い延性を有する高強度冷延鋼板には、強化元素としてSiが多量に含有される場合が多く、焼鈍時にSiの酸化物が鋼板表面に形成される。
【0003】
そのため、こうしたSi含有量の多い高強度冷延鋼板は、次工程にて化成処理を行ったとしても、化成結晶を均一かつ微細に形成させることができず、部分的に欠損した表面状態となる。このような化成処理不良の鋼板表面では、電着塗装等の塗装を施したとしても、密着性の良好な塗膜が得られないばかりでなく、塗装後の耐食性が劣化することになる。
これまで、このような課題を解決すべく様々な技術が提案されており、例えば、特許文献1には、焼鈍炉出側に配置した液体噴射装置から、気体を加圧溶解した液体を吹付けることにより、鋼帯表面に生成した濃化物を除去する方法が開示されている。また、特許文献2〜5には、炉内雰囲気の酸素分圧を特定条件として焼鈍した後、特定速度で冷却を行い、次いで、鋼板表面を特定厚さで表面研削した後、酸洗して酸化膜を除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−275545号公報
【特許文献2】特開2003−226920号公報
【特許文献3】特開平5−317949号公報
【特許文献4】特開平7−70724号公報
【特許文献5】特開平7−252624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、0.5質量%以上ものSiを含有する高張力鋼板に焼鈍を施すと、鋼板表面に非常に強固でかつ厚いSi含有酸化物層が形成され、しかも、そのSi含有酸化物層は鋼板表面の粗度形態に対応して不均一に分布したものとなる。このため連続焼鈍出側において表面研削を行う際は、強固でかつ厚いSi含有酸化物層を除去するために重研削が必要となり、研削後の鋼板表面は非常に活性が高い新生面となるので、研削時に供給されるクーラントが付着することと相俟って、重研削後の鋼板表面は非常に錆びやすくなる。このような鋼板表面が錆びた状態で次工程の酸洗工程を通しても、表層の鉄酸化物によって酸洗効率が阻害され、均一に表層酸化物を除去することは困難である。
【0006】
また、Si添加に伴う固溶強化により変形抵抗が増大し、熱間圧延における圧延荷重が増加するので、鋼板の形状が乱れやすくなる。鋼板形状が乱れたまま熱間圧延ラインのランナウトテーブルを通過すると、鋼板上面に冷却水が滞留しやすくなるため、熱延巻取温度のバラツキが生じる。一方で、Siが鋼中に多量添加されている場合、Siは選択酸化されて表面濃化していくが、熱間圧延後のように表面に酸化スケールが存在している状態では、母材から表面への移動が抑制され、逆に、酸素の内部への移動が促進される。内部の酸素は鋼中のSiと結合し、内部酸化層を生成するが、酸素の拡散と鋼板温度には相関があるため、上記熱延巻取温度のバラツキがそのままSi含有内部酸化層のバラツキにつながる。
【0007】
Si含有内部酸化層は熱延板を酸洗、冷間圧延、焼鈍した後も鋼板中に残存するため、連続焼鈍後の鋼板には表面に形成されたSi含有酸化物層に加え、その直下には熱延巻取温度に応じて不均一に分布したSi含有内部酸化層が存在する。このため、特許文献1〜5に記載の従来の方法では、そのようなSi含有酸化物を均一に除去することが困難である。
したがって本発明の目的は、焼鈍時に鋼板表面に形成されたSi含有酸化物層及び鋼板内部に残存したSi含有内部酸化層を効率よく除去し、化成処理性に優れた高張力鋼板を製造することができる製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、そのような製造方法の実施に好適な製造設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決し、化成処理性に優れた高張力鋼板を効率的に製造することができる方法について検討を重ね、その結果、以下のような知見を得た。まず、重研削後に露出する鋼板新生面上にクーラントが付着していると錆の発生が進行し、酸洗効率の低下を招くが、表面研削後の経過時間と酸洗での酸化物層の除去効率との関係について検討した結果、表面研削後、酸洗処理開始までの時間を十分に短くすることにより、錆の発生を抑えることができ、酸洗効率に悪影響を与えないことを見出した。
【0009】
また、連続焼鈍時に形成されるSi含有酸化物層及び熱延巻取温度に応じて不均一に分布したSi含有内部酸化層を効率的に除去する方法について検討した結果、熱間圧延工程において鋼板の巻取温度を測定し、この熱延巻取温度に応じて、連続焼鈍後に行う表面研削処理の研削条件を調整することにより、Si含有酸化物層及びSi含有内部酸化層を効率的に除去できることが判った。具体的な研削条件としては、研削体(回転研削体)の回転数、圧下量及び供給されるクーラント流量が挙げられ、これらの1つ以上を調整することで研削量を調整するものである。
本発明は、以上のような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
【0010】
[1]熱間圧延及び冷間圧延して得られたSi含有量が0.5質量%以上の普通鋼板を連続焼鈍した後、表面研削処理と酸洗処理をこの順序で行うに際し、
前記表面研削処理時には、熱間圧延工程における鋼板の巻取温度に応じて、研削体の回転数、圧下量、及び研削体により研削される部分に供給されるクーラント流量のうちの1つ以上を調整するとともに、表面研削処理完了後から酸洗処理開始までの時間を60秒以内とすることにより、化成処理された後、コイル長手方向のT部(先端部)、M部(中間部)、B部(尾端部)から採取されたサンプルの表面を倍率500倍で5視野観察した際に、5視野全てにおいて面積率95%以上で均一な化成結晶が生成する鋼板が得られるようにすることを特徴とする化成処理性に優れた鋼板の製造方法。
[2]上記[1]の製造方法において、表面研削処理は、鋼板両面を研削する上下1対の研削体を1対又は2対以上用いて行うことを特徴とする化成処理性に優れた鋼板の製造方法。
[3]上記[1]又は[2]の製造方法において、表面研削処理及び酸洗処理による鋼板質量の減少量を4.0g/m以上とすることを特徴とする化成処理性に優れた鋼板の製造方法。
【0011】
[4]熱延鋼板製造用の熱間圧延設備と、該熱間圧延設備で得られた熱延鋼板を冷間圧延する冷間圧延設備と、該冷間圧延設備で得られた鋼板を焼鈍する連続焼鈍炉と、該連続焼鈍炉で焼鈍された鋼板を表面研削処理する表面研削装置と、該表面研削装置で表面研削処理された鋼板を酸洗処理する酸洗設備を備えた普通鋼板の製造設備であって、
前記熱間圧延設備は、鋼板の巻取温度を測定する温度測定手段を有し、
前記表面研削装置は、前記温度測定手段により測定された鋼板の巻取温度に応じて、研削体の回転数、圧下量、及び研削体により研削される部分に供給されるクーラント流量のうちの1つ以上調整可能とし、化成処理された後、コイル長手方向のT部(先端部)、M部(中間部)、B部(尾端部)から採取されたサンプルの表面を倍率500倍で5視野観察した際に、5視野全てにおいて面積率95%以上で均一な化成結晶が生成する鋼板が得られるようにしたことを特徴とする鋼板の製造設備。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、焼鈍時に鋼板表面に形成されたSi含有酸化物層及び鋼板内部に残存したSi含有内部酸化層を効率よく除去することができ、全面に亘って良好な化成処理皮膜を形成させることができる化成処理性に優れた高張力鋼板を製造することができる。このため高張力鋼板において、強度と加工性だけでなく、塗装密着性及び塗装後耐食性の向上も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の鋼板の製造方法及び製造設備の一実施形態を模式的に示す説明図
図2】本発明において、鋼板の熱延巻取温度に応じて調整される研削体の回転数、圧下量及び研削体に供給されるクーラント流量の一例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において製造の対象となる鋼板は、上記したように、Si含有量が0.5質量%以上の高張力鋼板(普通鋼板)である。鋼板のSi含有量が0.5質量%未満では、焼鈍時に鋼板表層に濃化するSi量が僅かであり、特別な前処理を施さなくても十分な化成処理性が確保される。鋼板のSi含有量の上限は特に規定しないが、Si含有量が3質量%を超えると鋼板の加工性が劣化する傾向があるため、Si含有量は3質量%以下が望ましい。他の成分については、C、Mn、P、S、sol.Al、Cr、Mo、Ti、Nb等が適量添加された鋼板であっても、本発明の効果が損なわれることはない。ここで、高張力鋼板とは、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍及び調質圧延などを経て得られる引張強度が390MPa以上の普通鋼板を指す。
【0015】
本発明では、熱間圧延及び冷間圧延して得られたSi含有量が0.5質量%以上の鋼板を連続焼鈍した後、表面研削処理と酸洗処理をこの順序で行うが、前記表面研削処理時には、鋼板の熱延巻取温度に応じて、研削体の回転数、圧下量及び研削部に供給されるクーラント流量のうちの1つ以上を調整(制御)するとともに、表面研削処理完了後から酸洗処理開始までの時間を60秒以内とする。また、好ましくは、表面研削処理及び酸洗処理による鋼板質量の減少量を4.0g/m以上とする。
【0016】
図1は、本発明の製造方法及び製造設備の一実施形態を模式的に示す説明図であり、(i)は熱間圧延ライン、(ii)は冷間圧延ライン、(iii)は連続焼鈍炉を含む連続処理ラインをそれぞれ示している。(i)の熱間圧延ラインにおいて、2は仕上圧延機、3はランナウトテーブル、4は鋼板の巻取温度を測定するための温度計、5はコイラーである。前記温度計4としては、例えば、放射温度計や接触式温度計を用いることができる。(ii)の冷間圧延ラインにおいて、6はタンデム圧延機、7はコイラーである。(iii)の連続処理ラインにおいて、8は連続焼鈍炉、9は表面研削装置、10は水切り装置、11は酸洗設備、12は調質圧延機、13はコイラーである。また、表面研削装置9において、90は回転して鋼板表面を研削する研削体(回転式研削体)、91はクーラント供給ノズルである。
【0017】
なお、図1の実施形態では、仕上圧延機2及びタンデム圧延機6は4段式のスタンドであるが、これに限定されるものではなく、例えば、6段式の圧延スタンドなどであってもよい。また、仕上圧延機2及びタンデム圧延機6の各圧延スタンド数も任意である。また、図1の実施形態では、連続焼鈍炉8と表面研削装置9及び酸洗設備11が連続ラインを構成しているが、表面研削装置9及び酸洗設備11は、連続焼鈍炉8から独立した設備として設けてもよい。但し、本発明では表面研削処理〜酸洗処理間に一定の時間的制限を設けるため、表面研削装置9と酸洗設備11は同じ連続ラインに設ける必要がある。
【0018】
図1に示す実施形態では、熱間圧延ラインの粗圧延機(図示せず)及び仕上圧延機2で圧延された鋼板1は、ランナウトテーブル3を通過した後、コイラー5に巻き取られる。次いで、鋼板1は冷間圧延ラインのタンデム圧延機6で冷間圧延された後、コイラー7に巻き取られる。次いで、鋼板1は連続処理ラインの連続焼鈍炉8で連続焼鈍された後、表面研削装置9で表面研削処理され、水切り装置10を経て酸洗設備11で酸洗処理され、引き続き調質圧延機12で調質圧延された後、コイラー13に巻き取られる。
【0019】
連続焼鈍時に生成するSi含有酸化物層及び鋼板内部に残存したSi含有内部酸化層(以下、これらを総称して「表層酸化物」という)を除去するため、本発明では、表面研削装置9で鋼板表面の機械的研削を行った後、酸洗設備11で酸洗(化学的研削)を行なうとともに、この機械的研削と酸洗を所定の条件で行う。機械的研削と酸洗(化学的研削)を組み合わせることにより、機械的研削では除去されない表層酸化物が残っても、その表層酸化物は機械的研削により剥離強度が低下するため酸洗で除去しやすくなるが、特に本発明法を適用することにより表層酸化物を効率よく除去でき、部分的に酸化物が残存しない全面にわたって均一な処理後鋼板面を得ることができる。
【0020】
図1の実施形態では、連続焼鈍炉8で連続焼鈍された鋼板1に対して、表層酸化物除去の第一段階として、表面研削装置9において研削体90による機械的研削(表面研削処理)を行う。この機械的研削では、研削体90による研削部に対して、クーラント供給ノズル91からクーラントが供給される。
研削体90は、通板する鋼板各面に対向して配置され、本実施形態では回転軸が鋼板幅方向と平行な筒状の回転体(例えば、回転ブラシ)で構成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、回転軸を鋼板幅方向に対して傾斜させた筒状の回転体(例えば、回転ブラシ)などで構成してもよい。また、研削体90の研削手段には特別な制限はなく、例えば、研磨布紙、ワイヤブラシ、砥粒入ナイロンブラシ、弾性砥石ロール等を適用することができる。また、砥粒入ナイロンブラシなどを用いる場合には、JIS−R6001規格の砥粒番号は♯60〜♯400、好ましくは♯80〜♯240であることが望ましい。
なお、図1の表面研削装置9は、上下1対の研削体90(回転式研削体)を2対備えているが、これに限定されるものではなく、要求される製品の外観品質や性能を得ることができるのであれば研削体90は1対のみ配置してもよいし、設備の設置スペースを確保できれば3対以上設けてもよい。
【0021】
表面研削装置9による機械的研削では、熱間圧延ラインのランナウトテーブル3の出側に設けられた温度計4にて計測された鋼板の熱延巻取温度に応じて、図示しないコントローラーからの指令によって、研削体90の回転数、圧下量及び研削体に供給されるクーラント流量のうちの1つ以上が調整(制御)される。すなわち、温度計4により鋼板の熱延巻取温度がコイル長手方向で逐次測定され、1つのコイルを研削するなかで、計測された鋼板各部の熱延巻取温度に応じて研削条件(研削体90の回転数、圧下量及び研削部に供給されるクーラント流量のうちの1つ以上)が調整される。
ここで、研削体90の回転数の調整により、研削体と鋼板1との摩擦力が変化するため研削量が調整できる。また、研削体90の圧下量の調整により、研削体と鋼板1との接触面積が変化することにより、研削量が調整できる。また、クーラント供給ノズル91から供給されるクーラント流量を調整することで、研削体90と鋼板1との接触面積が調整されるとともに、研削を促進させると考えられる脱落した砥粒や研削粉の滞留時間が変化し、これらにより研削量が調整できる。
【0022】
研削体90の回転数は、600〜1500rpm程度が好ましい。また、研削体90の圧下量は1〜4mm程度が好ましい。ここで、圧下量とは、研削体90の外面(作業面)が鋼板表面と接触(無圧下状態で接触)した状態における研削体の位置を基準位置とし、この基準位置と研削時における研削体の位置との間の鋼板板厚方向での距離のことである。また、クーラント流量は、流量密度(単位面積・単位時間当たりのクーラント流量)で1000〜5000L/min/m程度が好ましい。したがって、鋼板の熱延巻取温度に応じた研削体90の回転数、圧下量、クーラント流量の調整は、上記の好適範囲内で行われることが好ましい。
【0023】
ここで、鋼板の熱延巻取温度に応じた研削条件を予め求めておき、この研削条件に従い、研削体90の回転数、圧下量及び研削部に供給されるクーラント流量のうちの1つ以上を調整(制御)するようにしてもよい。この場合には、温度計4で計測された鋼板の熱延巻取温度に対して所定の研削量を確保できる研削条件を、材料(材質や板厚、板幅の寸法)毎に整理した実験データや操業データなどから予め求めておく。図2(イ)〜(ハ)は、Si量が0.5質量%以上の鋼板について、連続焼鈍炉の出側にて表面研削及び酸洗を行った操業データに基づき、表面研削処理及び酸洗処理による鋼板質量の減少量を4.0〜30.0g/mとするために必要な研削条件を鋼板の熱延巻取温度に対して整理したものである。コントローラーでは、例えば、図2(イ)〜(ハ)に示す熱延巻取温度と研削条件との関係に基づき、鋼板の熱延巻取温度に応じた研削条件を算出し、研削体90の回転数、圧下量及び研削部に供給されるクーラント流量のうちの1つ以上を調整(制御)する。なお、図2(イ)〜(ハ)では、鋼板の熱延巻取温度に対して一次比例した量だけ研削条件を変化させているが、これに限定されるものではなく、例えば、階段状や2次以上の曲線にて熱延巻取温度と研削条件とを対応付けておいてもよい。
【0024】
温度計4による熱延巻取温度の測定は鋼板長手方向の全長に亘ってなされるため、このような熱延巻取温度に応じて研削条件を調整することにより、熱延コイルの巻取工程における加速・減速時といった非定常部においても、適切な表面研削条件を付与することができ、このためコイル全長にわたって均一に表層酸化物を除去することができる。
なお、温度計4で測温された鋼板1の長手方向位置と、研削体90で機械的研削する鋼板1の長手方向位置は、例えば、トラッキングロールなどによる位置情報検知により一致させるようにする。
【0025】
鋼板1を表面研削装置9で表面研削処理(機械的研削)した後、水切り装置10において鋼板表面に付着したクーラントを除去する。この水切り装置10の水切り手段に特別な制限はなく、例えば、リンガーロール、乾燥ドライヤーなどを用いることができる。次いで、鋼板1を酸洗設備11に通すことにより酸洗処理(化学的研削)を行う。この酸洗処理では、機械的研削により表層酸化物が除去されて露出した母材と残存する表層酸化物との境界に酸が浸透し、残存する表層酸化物が剥離除去される。酸洗設備11に用いる酸洗液としては、濃度が5体積%以上の塩酸又は硫酸溶液、或いは硝塩酸溶液(例えば、5体積%以上の硝酸と0.5体積%以上の塩酸を混合させた溶液)などが好ましく、また酸洗処理は5秒間以上、より好ましくは8秒間以上行うことが望ましい。
本発明の製造方法では、鋼板1が表面研削処理を完了し、酸洗設備11に到達して酸洗処理が開始されるまでの時間を60秒以内とする。この時間が60秒を超えると、鋼板表面に発生した錆が成長し、酸洗処理での除去効率が低下するからである。
【0026】
また、本発明の製造方法では、研削体90による表面研削処理(機械的研削)と酸洗設備11における酸洗処理(化学的研削)による鋼板質量の減少量の合計が4.0g/m以上であることが好ましい。鋼板質量の減少量の合計が4.0g/m未満では、表層酸化物が鋼板全面に亘って均一に除去されず、化成処理した場合に化成結晶が欠損した表面状態となるおそれがある。鋼板質量の減少量の合計の上限は特に規定しないが、鋼板質量の減少量が30.0g/mを超えると材料歩留が悪化する上、作業能率も悪くなる傾向があるため、鋼板質量の減少量の合計は30.0g/m以下であることが望ましい。なお、鋼板質量の減少量は、例えば、実施例に記載のような方法で求めることができる。その場合、コイルのT部、M部、B部での計算値の平均を鋼板質量の減少量としてもよい。
【0027】
また、本発明の鋼板の製造設備は、熱延鋼板製造用の熱間圧延設備と、この熱間圧延設備で得られた熱延鋼板を冷間圧延する冷間圧延設備と、この冷間圧延設備で得られた鋼板を焼鈍する連続焼鈍炉と、この連続焼鈍炉で焼鈍された鋼板を表面研削処理する表面研削装置と、この表面研削装置で表面研削処理された鋼板を酸洗処理する酸洗設備とを備えた普通鋼板の製造設備であって、前記熱間圧延設備は、鋼板の巻取温度を測定する温度測定手段を有し、前記表面研削装置は、前記温度測定手段により測定された鋼板の巻取温度に応じて、研削体の回転数、圧下量及び研削部に供給されるクーラント流量のうちの1つ以上が調整可能であるものであり、その一実施形態は図1に示すとおりであるが、図1の構成に限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
図1に示す製造設備において、Si含有量が0.4〜1.5質量%の鋼を熱間圧延及び冷間圧延し、得られた普通鋼板(板厚1.2mm、板幅950mm)を連続焼鈍(ラインスピード90mpm)した後、表層酸化物の除去を目的とした表面研削処理(機械的研削)と酸洗処理を順次施し、次いで調質圧延を実施した。表面研削処理した直後の鋼板に対して、水切り装置(リンガーロール)で水切り処理(乾燥処理)を施した。熱間圧延工程における鋼板の巻取温度は、ランナウトテーブル出側に設置された放射温度計により測定した。
【0029】
表面研削処理では、回転式研削体としてJIS−R6001規格の砥粒番号♯80の砥粒入ブラシを用い、回転方向はアップカット(鋼板搬送方向とは逆の回転)とした。酸洗処理は、60℃、酸濃度10体積%の硫酸浴を使用し、酸洗時間はラインスピードから換算して10秒であった。
ラインスピードに基づき、表面研削処理完了後から酸洗処理開始までの時間を算出した。
本発明例(コイルNo.2〜No.6)では、熱間圧延工程で測定された鋼板の巻取温度に応じて、コントローラーからの指令によって、回転式研削体の回転数、圧下量及びクーラント流量密度のいずれか1つを図2(イ)〜(ハ)に示される巻取温度と研削条件との関係に基づいて、以下のように調整(制御)した。
【0030】
・コイルNo.2: 図2(イ)に示される巻取温度と研削体の圧下量との関係に基づき、回転式研削体を通過する鋼板部分の熱延巻取温度520℃〜550℃に応じて、回転式研削体の圧下量を制御(例えば、熱延巻取温度520℃では圧下量2.7mm、熱延巻取温度が550℃では圧下量3.0mm)した。
・コイルNo.3: 図2(ハ)に示される巻取温度と研削体の回転数との関係に基づき、回転式研削体を通過する鋼板部分の熱延巻取温度500℃〜540℃に応じて、回転式研削体の回転数を制御(例えば、熱延巻取温度500℃では回転数1000rpm、熱延巻取温度が540℃では回転数1160rpm)した。
・コイルNo.4: 図2(イ)に示される巻取温度と研削体の圧下量との関係に基づき、回転式研削体を通過する鋼板部分の熱延巻取温度500℃〜540℃に応じて、回転式研削体の圧下量を制御(例えば、熱延巻取温度500℃では圧下量2.5mm、熱延巻取温度が540℃では圧下量2.9mm)した。
・コイルNo.5: 図2(ロ)に示される巻取温度とクーラント流量密度との関係に基づき、回転式研削体を通過する鋼板部分の熱延巻取温度500℃〜540℃に応じて、クーラント流量密度を制御(例えば、熱延巻取温度500℃ではクーラント流量密度2500L/min/m、熱延巻取温度が540℃ではクーラント流量密度2100L/min/m)した。
・コイルNo.6: 図2(ハ)に示される巻取温度と研削体の回転数との関係に基づき、回転式研削体を通過する鋼板部分の熱延巻取温度500℃〜540℃に応じて、回転式研削体の回転数を制御(例えば、熱延巻取温度500℃では回転数1000rpm、熱延巻取温度が540℃では回転数1160rpm)した。
【0031】
製造された鋼板について、表面研削処理と酸洗処理による質量の減少量を、次のようにして求めた。各実施例に対応した同一鋼種でかつ熱間圧延〜連続焼鈍までは同一製造条件としたコイルを2つ準備し、一方のコイルを各実施例で用い、上記のように表面研削処理、酸洗処理及び調質圧延を行った。他方のコイルについては調質圧延のみを行い、未表面研削処理・未酸洗処理の鋼板を製造した。両方のコイルの長手方向のT部(先端部)、M部(中間部)、B部(尾端部)から一定面積(200mm×200mm角)の鋼板を切り出して質量を測定し、それらを切り出した面積で除して両者の差を算出することにより、表面研削処理及び酸洗処理による鋼板質量の減少量を求め、T部、M部、B部での計算値の平均を鋼板質量の減少量とした。
【0032】
製造された鋼板に対して、表2に示す条件にて、脱脂、水洗、表面調整を順次施した後、温度43℃、全酸度22〜24、遊離酸度0.8〜1.0に調整された市販の化成処理薬剤(日本パーカライジング社製の「PB-L3080」)中に浸漬し、次いで水洗した後、乾燥した。
この化成処理された鋼板について、コイル長手方向のT部、M部、B部からサンプルを採取し、各サンプルの表面を走査型電子顕微鏡にて倍率500倍で5視野観察し、化成結晶の生成状況に応じて、化成処理性を以下のように評価した。
○:5視野全てにおいて、面積率95%以上で均一な化成結晶が生成している。
△:1視野において、面積率5%超の化成結晶の隙間が認められる。
×:2視野以上において、面積率5%超の化成結晶の隙間が認められる。
【0033】
各実施例の鋼板について、Si含有量、熱延巻取温度、研削条件、表面研削処理完了後から酸洗処理開始までの時間、表面研削処理と酸洗処理による鋼板質量の減少量、化成処理性の評価結果を表1に示す。
表1において、参考例であるコイルNo.1は鋼板のSi含有量が低いため、研削条件などに関わりなく良好な化成処理性が得られている。
比較例であるコイルNo.7は、熱延巻取温度に応じて研削条件を調整していない例であり、鋼板質量の減少量は4.0g/m以上であるが、熱延巻取温度が低下しやすいT部とB部に対し、M部は熱延巻取温度が定常的に高位安定であるため、熱延巻取温度に対応して形成された内部酸化層が表面研削処理で完全に除去されず、一部に残存した酸化物が認められた。このため化成処理においても部分的に結晶が欠損し、化成処理不良となった。
【0034】
比較例であるコイルNo.8も、熱延巻取温度に応じて研削条件を調整していない例であり、コイル長手方向の全体に亘って化成処理性が不良となった。
比較例であるコイルNo.9は、本発明例であるコイルNo.5と同様に熱延巻取温度に応じてクーラント流量密度を制御したが、表面研削処理完了後から酸洗処理開始までの時間が本発明条件を満足していないため、酸洗効率の低下から化成処理性が不良となった。
これに対して本発明例であるコイルNo.2〜No.6は、いずれもコイル長手方向の全体に亘って良好な化成処理性が得られており、塗装密着性に優れた高張力鋼板が得られることが判る。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【符号の説明】
【0037】
1 鋼板
2 仕上圧延機
3 ランナウトテーブル
4 温度計
5 コイラー
6 タンデム圧延機
7 コイラー
8 連続焼鈍炉
9 表面研削装置
10 水切り装置
11 酸洗設備
12 調質圧延機
13 コイラー
90 研削体
91 クーラント供給ノズル
図1
図2