(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5752457
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】チップソー
(51)【国際特許分類】
B23D 61/04 20060101AFI20150702BHJP
【FI】
B23D61/04
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-71874(P2011-71874)
(22)【出願日】2011年3月29日
(65)【公開番号】特開2012-206184(P2012-206184A)
(43)【公開日】2012年10月25日
【審査請求日】2013年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】399131471
【氏名又は名称】株式会社松岡刃物
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】松岡 伝人
【審査官】
五十嵐 康弘
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−277331(JP,A)
【文献】
特開2000−127104(JP,A)
【文献】
特表2007−505748(JP,A)
【文献】
特開2009−119598(JP,A)
【文献】
米国特許第04011783(US,A)
【文献】
独国特許出願公開第102008037407(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23D 61/00−61/18
B27B 33/00−33/20
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円板状の台金の外周にチップが所定間隔をあけて取り付けられたチップソーにおいて、前記チップには第1チップと第2チップを備え、
第1チップは厚み方向中央に位置し、被切断物の被切削部の中央部を切削する中央部用刃部と、厚み方向両端部に位置し、被切断物の切断面となる部分を切断する切断面用刃部と、前記中央用刃部と前記切断用刃部との間に位置し、切削に関与しない切削非関与部とを有し、前記台金の厚み方向の中心を基準とする線対称で、且つ前記中心に向かって上り勾配となる少なくとも一対の傾斜面とを有し、
第2チップは前記第1チップの中央部用刃部に対応する部分に設けられ、切削に関与しない切削非関与部と、前記第1チップの切削非関与部に対応する部分に設けられ、被切断物の前記第1チップの中央部用刃部によって切削される中央部の両側部を切削する両側部用刃部と、前記第1チップの切断面用刃部に対応する部分に前記第1チップの切断面用刃部と同じ面状に設けられ、前記第1チップの切断面用刃部と共に、被切断物の切断面となる部分を切断する切断面用刃部とを有し、前記台金の厚み方向の中心を基準とする線対称で、且つ前記中心に向かって上り勾配となる少なくとも一対の傾斜面とを有し、
前記第1チップ、第2チップから成る全てのチップが直進性を維持しながら分割切削すると共に、前記第1チップの切断面用刃部と前記第2チップの切断面用刃部による切断面の切削を行うことを特徴とするチップソー。
【請求項2】
請求項1に記載したチップソーにおいて、中央部用刃部の中心には一対の傾斜面の交点となる部位にチップソーの回転方向へ延びる頂部が設けられ、中央部用刃部は山形に形成されていることを特徴とするチップソー。
【請求項3】
請求項1また2に記載したチップソーにおいて、前記第1チップと第2チップは交互に植設されていることを特徴とするチップソー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチップソーに係り、特に建材等の被切断物を分割して切削し切断するチップソーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されたチップソーは逃げ面の幅方向中央位置に略溝の円周方向へ延びる中央溝が形成されたチップが一つ置きに取り付けられ、該各チップ間には、逃げ面の幅方向中央より左右いずれか一側に寄った位置に溝が形成されたチップと同他側寄り位置に溝が形成されたチップとが順次交互に取り付けられている。
特許文献1に係るチップソーは、切削部分の異なる複数種類のチップを備えて所謂分割切削を行い、チップにかかる負荷を分割させて、チップソーの耐久性を向上させるなどの効果を得ようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−196341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のチップソーは、チップごとに異なる位置に溝を設けることによって分割切削を行っているが、溝は極小さなものであり、チップにかかる負荷を分割させる効果がかなり小さいという問題がある。
また、左右いずれか一側に寄った位置に溝が形成されたチップと同他側寄り位置に溝が形成されたチップとが順次交互されているため、切断動作の際に台金が振れるおそれがあり、チップソーが被切断部に対し真っ直ぐに進行する直進性が低下するという問題がある。
更に、上記のように直進性が低下する結果、被切断物の切断面が荒くなってしまうおそれもある。
【0005】
本発明は上記従来の問題点に着目して為されたものであり、チップにかかる負荷を分割することが可能で、チップソーの耐久性を向上できて、しかも高い直進性を発揮でき、更に切断面がきれいな被切断物を得ることができるチップソーの提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、請求項1の発明は、略円板状の台金の外周にチップが所定間隔をあけて取り付けられたチップソーにおいて、前記チップには第1チップと第2チップを備え、第1チップは
厚み方向中央に位置し、被切断物の被切削部の中央部を切削する中央部用刃部と、
厚み方向両端部に位置し、被切断物の切断面となる部分を切断する切断面用刃部と、
前記中央用刃部と前記切断用刃部との間に位置し、切削に関与しない切削非関与部とを有し、前記台金の厚み方向の中心を基準とする線対称で、且つ前記中心に向かって上り勾配となる少なくとも一対の傾斜面とを有し、第2チップは
前記第1チップの中央部用刃部に対応する部分に設けられ、切削に関与しない切削非関与部と、前記第1チップの切削非関与部に対応する部分に設けられ、被切断物の
前記第1チップの中央部用刃部によって切削される中央部の両側部を切削する両側部用刃部と、
前記第1チップの切断面用刃部に対応する部分に前記第1チップの切断面用刃部と同じ面状に設けられ、前記第1チップの切断面用刃部と共に、被切断物の切断面となる部分を切断する切断面用刃部とを有し、前記台金の厚み方向の中心を基準とする線対称で、且つ前記中心に向かって上り勾配となる少なくとも一対の傾斜面とを有し、前記第1チップ、第2チップから成る全てのチップが
直進性を維持しながら分割切削
すると共に、
前記第1チップの切断面用刃部と前記第2チップの切断面用刃部による切断面の切削を行
うことを特徴とするチップソーである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載したチップソーにおいて、中央部用刃部の中心には一対の傾斜面の交点となる部位にチップソーの回転方向へ延びる頂部が設けられ、中央部用刃部は山形に形成されていることを特徴とするチップソーである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1また2に記載したチップソーにおいて、前記第1チップと第2チップは交互に植設されていることを特徴とするチップソーである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のチップソーでは、全てのチップが分割切削、直進性、切断面の切削の三つの機能を有しているので、チップにかかる負荷を分割することが可能となり、チップソーの耐久性を向上させることができるようになる。また、高い直進性を発揮することが可能である。更に切断面がきれいな被切断物を得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係るチップソーの正面図である。
【
図2】
図1のチップソーの外周部を直線状に配置した状態の側面図である。
【
図3】
図1のチップソーのチップを直線状に配置した状態のチップの拡大平面図である。
【
図4】
図4(A)は
図1のチップソーに備えられる第1チップの側面図、(B)は同平面図である。
【
図5】
図5(A)は
図1のチップソーに備えられる第2チップの側面図、(B)は同平面図である。
【
図6】
図1のチップソーによって建材を切削する際における第1チップと第2チップの働きを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態に係る木工用のチップソー1を図面にしたがって説明する。
符号3は略円板状の台金を示し、この台金3の外周には24個の凸部2が設けられ、この凸部2の刃台4に第1チップ5と第2チップ7が取り付けられている。
すなわち、第1チップ5と第2チップ7の二種類で合計24個がろう付等によって刃台4に植設されている。第1チップ5と第2チップ7は交互に等間隔をあけて配置されている。
【0012】
第1チップ5の詳細な構成について説明する(
図6参照)。
図6においては第1チップ5の一部を破線で示し、第2チップ7を実線で示し、更に第1チップ5と第2チップ7とが重なる部分を太線で示している。
第1チップ5の上面には、中央部用刃部9、切断面用刃部11が設けられている。また、中央部用刃部9と切断面用刃部11との間には切削に関与しない切削非関与部10が設けられている。この切削非関与部10は後述する両側部用刃部15より低くなっている。
【0013】
中央部用刃部9は第1チップ5の台金3の厚み方向の中央に位置し、台金3の厚み方向の中心に向かって両側から徐々に高くなっており、その中心にチップソーの回転方向へ延びる頂部13が形成されている。すなわち、中央部用刃部9は頂部13を中心とする山形に形成されている。
この中央部用刃部9は後述するように建材等の被切断物の切削部分の中央部を切削する。
【0014】
中央部用刃部9の上面は台金3の厚み方向の中心(仮想線Lで示す)を基準とする線対称で、且つ中心に向かって上り勾配となる一対の傾斜面9a、9bとなっている。前記した頂部13は一対の傾斜面9a、9bの交点となる部位に設けられている。
【0015】
また、切断面用刃部11は第1チップ5の台金3の厚み方向の両端部に位置し、所定の幅寸法を有している。この切断面用刃部11は被切断物としての建材Wの切断面となる部分を切削する。
切断面用刃部11の上面は台金3の厚み方向の中心(仮想線Lで示す)を基準とする線対称で、且つ中心に向かって上り勾配となる一対の傾斜面11a、11bとなっている。
【0016】
第2チップ7の上面には、両側部用刃部15、切断面用刃部17が設けられている。また、第2チップ7の中央部には切削に関与しない切削非関与部19が設けられている。
両側部用刃部15は第1チップ5の切削非関与部10に対応する部分に備えられている。
両側部用刃部15の上面は台金3の厚み方向の中心(仮想線Lで示す)を基準とする線対称で、且つ中心に向かって上り勾配となる一対の傾斜面15a、15bとなっている。
【0017】
また、切断面用刃部17は第1チップ5の切断面用刃部11に対応する部分に設けられている。
切断面用刃部17の上面は台金3の厚み方向の中心(仮想線Lで示す)を基準とする線対称で、且つ中心に向かって上り勾配となる一対の傾斜面17a、17bとなっている。
更に切削非関与部19は第1チップ5の中央部用刃部9に対応する部分に設けられており、中央部用刃部9より低くなっている。
【0018】
両側部用刃部15は後述するように中央部用刃部9によって切削される中央部の両側部を切削する。また、切断面用刃部17は、建材Wの切断面となる部分を切削する。
【0019】
次に、このチップソー1が建材Wを切断する動作を説明する。
チップソー1は切断装置に装着されて、高速で回転させられて建材Wに押し当てられる。
建材Wの被切削部Waには、まず第1チップ5の中央部用刃部9の頂部13が接触し、中央部用刃部9によって建材Wの被切削部Waの中央部Wbが切削される。
また、切断面用刃部11によって被切削部Waの両端部Wdが切削され、これと共に建材Wの切断面Weとなる部分が切削される。
【0020】
第2チップ7の両側部用刃部15によって建材Wの被切削部Waの両側部Wcを切削する。両側部Wcは中央部Wbの両側部、すなわち両側部用刃部15は中央部Wbと両端部Wdとの間の両側部Wc部分を切削する。更に、切断面用刃部17は第1チップ5の切断面用刃部11と同じ部分を切削する。すなわち切断面用刃部11と切断面用刃部17によって被切削部Waの両端部Wdが切削され、これと共に建材Wの切断面Weとなる部分が切削される。
【0021】
前述したように第1のチップ5には、一対の傾斜面9a、9b、一対の傾斜面11a、11bが形成され、第2チップ7には一対の傾斜面15a、15b、一対の傾斜面17a、17bが形成されているので、チップソー1が台金3の厚み方向のいずれか一方側へ寄ると、切削抵抗によってチップソー1が中心に寄せられることになる。すなわち、チップソー1が傾斜面9a、11a、15a、17a側へ寄ると、傾斜面9a、11a、15a、17aに加わる切削抵抗によってチップソー1を中心へ付勢する力が生じ、また、チップソー1が傾斜面9b、11b、15b、17b側へ寄ると、傾斜面9b、11b、15b、17bに加わる切削抵抗によってチップソー1を中心へ付勢する力が生じる。このように、チップソー1では第1チップ5、第2チップ7の両方、即ち全てのチップが直進性に寄与することなり、チップソー1が振れるのが規制され、チップソーは高い直進性を発揮することができる。
【0022】
なお、切削動作において第1チップ5の切削非関与部10は両側部用刃部15より低くなっており、また第2チップ7の切削非関与部19は中央部用刃部9より低くなっているので、建材Wの切削には関与しない。
上記のように被切削部Waの中央部Wbに対しては第1チップ5の中央部用刃部9のみが切削を行い、両側部Wcに対しては第2チップ7の両側部用刃部15のみが切削を行う。これにより、被切削部Waに対する分割切削が行われる。従って、チップにかかる負荷を分割することが可能で、チップソー1の耐久性を向上させることができる。
【0023】
また、中央部用刃部9は頂部13を中心とする山形に形成されており、頂部13は切削動作において被切削部Waの中心に食い込んだ状態となっているので、チップソー1はより高い直進性を発揮することができる。
更に、切断面用刃部11と切断面用刃部17によって被切削部Waの両端部Wdが切削され、これと共に建材Wの切断面Weとなる部分が切削される。すなわち、切断面Weは切断面用刃部11と切断面用刃部17によって複数回切削されることになり、切削面Weがきれいなものとなり、切断面がきれいな建材Wを得ることができる。
上記したように、チップソー1では第1チップ5、第2チップ7から成る全てのチップが分割切削、切断面の切削を行い、更に直進性を発揮することに寄与することになる。
【0024】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、上記実施の形態ではチップの数を24個としたが、本発明はこれに限定されず、24個より少ない数のチップを備えても、多い数のチップを備えるようにしてもよい。
【0025】
上記実施の形態では第1チップ5と第2チップ7とを交互に配置したが、本発明はこれに限定されず、例えば第1チップ5に1個に対し第2チップ7を2個配置する等の構成とすることも可能である。
また、本発明のチップソーは木工用だけでなく、金属、プラスチック等あらゆるものを切断するに用いることができる。
上記実施の形態では、第1チップ5の中央部用刃部9と第2チップ7の両側部用刃部15の2つの刃部によって分割切削を行うようにしたが、第1チップ5、第2チップ7の一方または両方の刃部を増やして、3以上の刃部によって分割切削を行うことが可能な構成としてもよい。
上記実施の形態では、第1チップ5に一対の傾斜面9a、9bと一対の傾斜面11a、11bを備え、また第2チップ7には一対の傾斜面15a、15bと一対の傾斜面17a、17bを備えるようにしたが、本発明はこれに限定されず、第1チップ5、第2チップ7それぞれに少なくも一対の傾斜面を備えればよく、第1チップ5、第2チップ7それぞれに一対の傾斜面を1つ、或いは3つ以上設ける構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のチップソーは木工用、金属用を問わず、広くチップソーの製造業に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0027】
1…チップソー 2…凸部 3…台金
4…刃台 5…第1チップ 7…第2チップ
9…中央部用刃部 10…切削非関与部
11…切断面用刃部 13…頂部 15…両側部用刃部
17…切断面用刃部 19…切削非関与部
9a、9b、11a、11b…第1チップの傾斜面
15a、15b、17a、17b…第2チップの傾斜面
W…建材 Wa…被切削部 Wb…中央部
Wc…両側部 Wd…両端部 We…切断面