【実施例】
【0060】
以下に例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。尚、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0061】
[1]フェノールノボラック樹脂の調製
以下のフェノールノボラック樹脂の調製の例で用いた材料について説明する。
(1)フェノール:和光純薬工業社製
(2)α―ナフトール(1−ナフトール):和光純薬工業社製
(3)4、4’−ビス(クロロメチル)ビフェニル:和光純薬工業社製
【0062】
以下のフェノールノボラック樹脂の調製の例で用いた分析方法や評価方法について説明する。
(1)軟化点:JIS K6910に基づく環球法軟化点測定によって行った。
(2)水酸基当量: JIS K0070に準じた水酸基当量測定によって行った。
(3)一般式(2)のユニットと一般式(3)のユニットとの割合[一般式(2)のユニット/一般式(3)のユニット]の測定:フェノールノボラック樹脂の調製において、原料の仕込み量、生成したフェノールノボラック樹脂量、及び副生成物量を測定し、反応収支から未反応原料の量を算出する。ビフェニル化合物は全量反応させるので、未反応原料は、一般式(2)のユニットを構成する原料のフェノール類と一般式(3)のユニットを構成する原料のナフトール類とからなる。反応混合液中の未反応のフェノール類とナフトール類との割合を、以下に示す条件のHPLC測定によって得られるHPLCチャートから求めた。なお、割合(モル比)は面積比とした。以上のデータから下記数式によって、一般式(2)のユニットと一般式(3)のユニットとの割合[一般式(2)のユニット/一般式(3)のユニット]を算出した。
【0063】
HPLCの測定条件
機器:島津製作所社製HPLC
カラム:STR ODS−Hカラム (信和化工社製)
カラムオーブン温度:40℃
移動層:アセトニトリル、5%リン酸溶液
移動層の濃度調節は、測定開始時はアセトニトリル/5%リン酸溶液の
容積割合が20/60の混合液を用い、測定開始後10分間かけて容積割合を60/40までアセトニトリルの割合を直線的に増加させ、次いで5分間かけて容積割合を100/0まで直線的にアセトニトリルの割合を増加させ、その後はそのままの状態で測定終了までアセトニトリルを用いた。
流量:1.00mL/分
検出波長:220nm
【0064】
【数1】
【0065】
(4)一般式(4)で表される成分の割合:以下に示す条件のHPLC測定によって得られるHPLCチャートから、その面積割合として求めた。
HPLCの測定条件
機器:島津製作所社製HPLC
カラム:STR ODS−Hカラム (信和化工社製)
カラムオーブン温度:40℃
移動層:アセトニトリル、5%リン酸溶液
移動層の濃度調節は、測定開始時はアセトニトリル/5%リン酸溶液の
容積割合が50/50の混合液を用い、測定開始後20分間かけて容積割合を75/25までアセトニトリルの割合を直線的に増加させ、次いで20分間かけて容積割合を100/0まで直線的にアセトニトリルの割合を増加させ、その後はそのままの状態で測定終了までアセトニトリルを用いた。
流量:1.00mL/分
検出波長:220nm
(5)溶解性:
以下に示す方法で溶解性試験によって評価した。
溶媒:メチルエチルケトン
溶解比率(質量):フェノールノボラック樹脂/溶媒=50/50
溶解条件:密閉容器に樹脂と溶媒を加え、60℃で攪拌溶解させた。
評価判定:溶解後と常温(23℃)で12時間静置後とを目視で観察した。樹脂が均一に溶解し且つ静置後も均一な溶液が保持されたものを○、樹脂が均一に溶解したが静置後に樹脂の一部が析出したものを△、均一な溶液を得ることができなかったものを×とした。
【0066】
〔実施例1〕
温度計、仕込み・留出口、冷却器および攪拌機を備えた容量1000mLのガラス製フラスコにフェノール188.0g(2.0モル)、α―ナフトール123.4g(0.9モル)を加え、窒素気流下、内温60℃まで上昇させて原料を溶解させた。4、4’−ビス(クロロメチル)ビフェニル179.3g(0.7モル)を加え、内温60℃〜100℃にて4時間、さらに165℃にて3時間反応させた後に、減圧−スチーミング処理にて原料の未反応成分を除去した。
得られたフェノールノボラック樹脂の軟化点は113℃、水酸基当量は263g/eq、HPLCにて測定した、一般式(2)のユニットと一般式(3)のユニットとの割合[一般式(2)のユニット/一般式(3)のユニット]は30/70、一般式(4)で表される成分の割合は15%であった。このフェノールノボラック樹脂の溶解性の評価判定は○であった。
なお、この反応の未反応原料のHPLCチャートを
図1に示す。このチャートから未反応原料中のフェノール類及びナフトール類の割合を82%及び18%と算出した。この割合を用い、前記算出方法に従って、樹脂中に導入された一般式(2)のユニットと一般式(3)のユニットとの割合[一般式(2)のユニット/一般式(3)のユニット]を算出した。
また、得られたフェノールノボラック樹脂のHPLCチャートを
図2に示す。このチャートの面積比より一般式(4)で表される成分(異性体があるので3ピークの合計)の割合を求めた。
【0067】
〔実施例2〕
温度計、仕込み・留出口、冷却器および攪拌機を備えた容量1000mLのガラス製フラスコにフェノール84.6g(0.9モル)、α―ナフトール129.6g(0.9モル)を加え、窒素気流下、内温60℃まで上昇させて原料を溶解させた。4、4’−ビス(クロロメチル)ビフェニル180.7g(0.7モル)を加え、内温60℃〜100℃にて4時間、さらに165℃にて3時間反応させた後に、減圧−スチーミング処理にて原料の未反応成分を除去した。
得られたフェノールノボラック樹脂の軟化点は131℃、水酸基当量は256g/eq、HPLCにて測定した、一般式(2)のユニットと一般式(3)のユニットとの割合[一般式(2)のユニット/一般式(3)のユニット]は20/80、一般式(4)で表される成分の割合は18%であった。このフェノールノボラック樹脂の溶解性の評価判定は○であった。
なお、この反応の未反応原料のHPLCチャートを
図3に示す。このチャートから未反応原料中のフェノール類及びナフトール類の割合を76%及び24%と算出した。この割合を用い、前記算出式に従って、一般式(2)のユニットと一般式(3)のユニットとの割合[一般式(2)のユニット/一般式(3)のユニット]を算出した。
また、得られたフェノールノボラック樹脂のHPLCチャートを
図4に示す。このチャートの面積比一般式(4)で表される成分(異性体があるので3ピークの合計)の割合を求めた。
【0068】
〔実施例3〕
温度計、仕込み・留出口、冷却器および攪拌機を備えた容量1000mLのガラス製フラスコにフェノール94.0g(1.0モル)、α―ナフトール144.0g(1.0モル)を加え、窒素気流下、内温60℃まで上昇させて原料を溶解させた。4、4’−ビス(クロロメチル)ビフェニル161.9g(0.7モル)を加え、内温60℃〜100℃にて4時間、さらに165℃にて3時間反応させた後に、減圧−スチーミング処理にて原料の未反応成分を除去した。
得られたフェノールノボラック樹脂の軟化点は117℃、水酸基当量は247g/eq、HPLCにて測定した、一般式(4)で表される成分の割合は24%であった。このフェノールノボラック樹脂の溶解性の評価判定は△であった。
【0069】
〔実施例4〕
温度計、仕込み・留出口、冷却器および攪拌機を備えた容量1000mLのガラス製フラスコにフェノール188.0g(2.0モル)、α―ナフトール123.4g(1.0モル)を加え、窒素気流下、内温60℃まで上昇させて原料を溶解させた。4、4’−ビス(クロロメチル)ビフェニル119.5g(0.5モル)を加え、内温60℃〜100℃にて4時間、さらに165℃にて3時間反応させた後に、減圧−スチーミング処理にて未反応成分を除去した。
得られたフェノールノボラック
樹脂の軟化点は97℃、水酸基当量は238g/eq、HPLCにて測定した一般式(4)で表される成分の割合は30%であった。このフェノールノボラック樹脂の溶解性の評価判定は×であった。
【0070】
〔実施例5〕
温度計、仕込み・留出口、冷却器および攪拌機を備えた容量1000mLのガラス製フラスコにフェノール141.0g(1.5モル)、α―ナフトール216.0g(1.5モル)を加え、窒素気流下、内温60℃まで上昇させて原料を溶解させた。4、4’−ビス(クロロメチル)ビフェニル125.5g(0.5モル)を加え、内温60℃〜100℃にて4時間、さらに165℃にて3時間反応させた後に、減圧−スチーミング処理にて未反応成分を除去した。
得られたフェノールノボラック
樹脂の軟化点は94℃、水酸基当量は238g/eq、HPLCにて測定した一般式(4)で表される成分の割合は49%であった。このフェノールノボラック樹脂の溶解性の評価判定は×であった。
【0071】
実施例1〜5のフェノールノボラック樹脂について表1にまとめた。この表の溶解性の評価結果から、本発明のフェノールノボラック樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物を溶媒に均一に溶解するには、一般式(4)で表される成分の割合が27%以下、好ましくは20%以下であることが好適であることが分かる。
【0072】
【表1】
【0073】
[2]本発明のエポキシ樹脂組成物の調製と特許文献2との比較
以下にエポキシ樹脂組成物に係る例で用いた材料について説明する。
(1)エポキシ樹脂
オルソクレゾール型エポキシ樹脂「EOCN−1020−70」:日本化薬社製、エポキシ当量:200g/eq、軟化点:70℃
(2)硬化促進剤(硬化触媒)
トリフェニルホスフィン(TPP):北興化学社製
【0074】
以下にエポキシ樹脂組成物に係る評価方法について説明する。
(1)耐熱性(ガラス転移温度(Tg))
特許文献2の測定方法に準じて行った。すなわち、寸法が4mm×6mm×10mmの硬化物からなる試験片を用い、昇温速度5℃/分で昇温して、TMA法(Thermal Mechanical Analysis、熱機械分析法)によって測定した。
【0075】
〔実施例6〕
実施例1で得られたフェノールノボラック樹脂、オルソクレゾール型エポキシ樹脂のEOCN−1020−70、硬化促進剤のTPPを、表2に示す配合で加えてエポキシ樹脂組成物とし、これを150℃の条件で加熱溶融混合し、真空脱泡した後に150℃の金型(厚さ4mm)に注型し、150℃、5時間で硬化させた後、さらに180℃、8時間かけて硬化して、硬化成形体を得た。
この硬化成形体について、ガラス転移温度を測定したところ、175℃であった。
【0076】
この実施例6は、使用したフェノールノボラック樹脂を変更したこと以外は、特許文献2の実施例5〜6と同様の操作によってエポキシ樹脂組成物を調製し、その硬化物について、同じ方法で評価を行ったものである。この実施例6の評価結果を、特許文献2の実施例7のデータと比較して、表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
表2から、本発明のフェノールノボラック樹脂を用いたことによって、エポキシ樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度が著しく向上することが分かる。
【0079】
[3]本発明のエポキシ樹脂組成物の調製とEMC試験片による評価
以下にエポキシ樹脂組成物に係る例で用いた材料について説明する。
(1)エポキシ樹脂
ビフェニル型エポキシ樹脂「YX−4000」:三菱化学社製、エポキシ当量:187g/eq
(2)硬化促進剤(硬化触媒)
トリフェニルホスフィン(TPP):北興化学社製
(3)無機充填剤
シリカ「MSR−2212」:龍森社製
【0080】
以下にエポキシ樹脂組成物に係る評価方法について説明する。
(1)燃焼性
UL−94に準拠して測定した。
(2)耐熱性(ガラス転移温度(Tg))
寸法が40mm×12mm×1mmのEMC試験片を用いて動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社製 RSA−G2)を用い昇温速度3℃/分にて測定した。
(3)機械特性:機械強度:JIS K 7171に準拠して測定した。
【0081】
〔実施例7〕
実施例1で得られたフェノールノボラック樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂のYX−4000、硬化促進剤のTPP、及び無機充填剤のシリカMSR−2212を、表2に示す配合で加え、これらを、80℃〜100℃の条件で2本ロールを用いて混練後、粉砕し本発明のエポキシ樹脂組成物を得た。
得られたエポキシ樹脂組成物を用いてタブレットを作成し、それを低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力6.8MPa、保圧時間600秒の条件で金型に注入して試験片を作成し、金型から取り出した後更に180℃、8時間のポストキュアを行いエポキシ樹脂組成物の硬化物からなるEMC(Epoxy Moldering Compound)試験片を得た。
これを評価した結果を表3に示す。
【0082】
〔実施例8〕
実施例2で得られたフェノールノボラック樹脂を用いた以外は実施例7と同様の操作を行い、エポキシ樹脂組成物の硬化物からなるEMC(Epoxy Moldering Compound)試験片を得た。
これを評価した結果を表3に示す。
【0083】
〔実施例9〕
実施例3で得られたフェノールノボラック樹脂を用いた以外は実施例7と同様の操作を行い、エポキシ樹脂組成物の硬化物からなるのEMC(Epoxy Moldering Compound)試験片を得た。
これを評価した結果を表3に示す。
【0084】
〔実施例10〕
実施例4で得られたフェノールノボラック樹脂を用いた以外は実施例7と同様の操作を行い、エポキシ樹脂組成物の硬化物からなるEMC(Epoxy Moldering Compound)試験片を得た。
これを評価した結果を表3に示す。
【0085】
実施例5で得られたフェノールノボラック樹脂を用いた以外は実施例7と同様の操作を行い、エポキシ樹脂組成物の硬化物からなるEMC(Epoxy Moldering Compound)試験片を得た。
これを評価した結果を表3に示す。
【0086】
実施例6で得られたフェノールノボラック樹脂を用いた以外は実施例7と同様の操作を行い、エポキシ樹脂組成物の硬化物からなるEMC(Epoxy Moldering Compound)試験片を得た。
これを評価した結果を表3に示す。
【0087】
〔参考例1〕
温度計、仕込み・留出口、冷却器および攪拌機を備えた容量1000mLのガラス製フラスコにフェノール470.0g(5.0モル)を加え、窒素気流下、内温60℃まで上昇させて原料を溶解させた。4、4’−ビスクロロメチルビフェニル313.8g(1.3モル)を加え、内温60℃〜100℃にて4時間、さらに165℃にて3時間反応させた後に、減圧−スチーミング処理にて未反応成分を除去した。得られたフェノールノボラック樹脂Eの軟化点は68℃、水酸基当量は202g/eqであった。
【0088】
〔比較例1〕
参考例1で得られたフェノールノボラック樹脂を用いた以外は実施例6と同様の操作を行い、エポキシ樹脂組成物の硬化物からなる寸法が40mm×12mm×1mmのEMC(Epoxy Moldering Compound)試験片を得た。
これを評価した結果を表3に示す。
【0089】
【表3】
【0090】
[4]本発明のエポキシ樹脂組成物を用いた銅張積層板の製造と評価
以下に銅張積層板の製造に係る例で用いた材料について説明する。
(1)エポキシ樹脂
ビスフェノールA型エポキシ樹脂「828EL」:三菱化学社製、エポキシ当量:186g/eq
(2)硬化促進剤(硬化触媒)
2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ):四国化成社製
(3)溶媒(メチルエチルケトン):和光純薬工業社製
(4)ガラスクロス(無アルカリ処理ガラスクロス)「M7628−105」:有沢製作所社製
(5)銅箔(電解銅箔)「CF−T9B−THE」:福田金属箔粉工業社製、厚さ35μ
【0091】
以下に銅張積層板に係る評価方法について説明する。
(1)接着性(ピール強度)
動的粘弾性測定装置(島津製作所株式会社製「AG−5000D」)を用い、荷重:1kN/100kgf 試験速度:50mm/分にて、90°銅箔引き剥がし強度を測定した。
(2)耐熱性
動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社製「RSA−G2」)を用い、昇温速度3℃/分にて、ガラス転移温度(Tg)を測定した。
(3)吸水率
JIS C6481に準拠して測定した。
【0092】
〔実施例12〕
希釈溶媒のメチルエチルケトン 231.2質量部に、実施例1で得られたフェノールノボラック樹脂 131質量部、ビスフェノール型エポキシ樹脂 100質量部、硬化促進剤の2E4MZ 0.1質量部を加えてワニス化し、均一に溶解した樹脂分濃度が50質量%のワニス溶液を得た。
得られたワニス溶液をガラスクロスのM7628−105に含浸させた後に130℃、15分間の条件で乾燥させ、プリプレグを得た。このプリプレグ8枚を重ねて、その両側に銅箔のCF−T9B−THEを重ね、170℃ 、30kg/cm
2で15分間プレス機を用いてプレスした。張積層体をプレス機から取り出した後、さらに200℃、5時間アフターキュアすることで両面銅張積層板を得た。
得られた銅張積層板のガラス転移温度は159℃、ピール強度は2.0 N/mm、吸水率は0.05質量%であった。結果を表4に示す。
【0093】
〔参考例2〕
温度計、仕込み・留出口、冷却器および攪拌機を備えた容量1000mLのガラス製フラスコにフェノール470.0g(5.0モル)、92%パラホルムアルデヒド110.9g(3.4モル)、シュウ酸0.3gを加え、100℃にて5時間反応させた。反応終了後、減圧−スチーミング処理にて未反応成分を除去した。得られたフェノールノボラック樹脂Eの軟化点は96℃、水酸基当量は107g/eqであった。
【0094】
〔比較例2〕
実施例1で得られたフェノールノボラック樹脂の代わりに、参考例2で調製した一般的なフェノールノボラック樹脂を用い、配合を表4のとおりにしたこと以外は、実施例9と同様にして両面銅張積層板を得た。
得られた銅張積層板のガラス転移温度は147℃、ピール強度は1.6 N/mm、吸水率は0.09質量%であった。結果を表4に示す。
【0095】
【表4】