特許第5752579号(P5752579)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5752579安定化された4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル含有組成物、ビニル化合物の重合禁止剤組成物、及びこれを用いたビニル化合物の重合禁止方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5752579
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】安定化された4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル含有組成物、ビニル化合物の重合禁止剤組成物、及びこれを用いたビニル化合物の重合禁止方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 211/94 20060101AFI20150702BHJP
   C08F 2/40 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   C07D211/94CSP
   C08F2/40
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-270431(P2011-270431)
(22)【出願日】2011年12月9日
(65)【公開番号】特開2013-121927(P2013-121927A)
(43)【公開日】2013年6月20日
【審査請求日】2014年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000234166
【氏名又は名称】伯東株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085109
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 政浩
(72)【発明者】
【氏名】加藤 武揚
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 淳一
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−001501(JP,A)
【文献】 特表2004−504369(JP,A)
【文献】 特表2003−520259(JP,A)
【文献】 特開2002−020327(JP,A)
【文献】 特開2000−103763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 211/00
C08F 2/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルにその安定化剤として4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルを配合したことを特徴とする安定化された4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル含有組成物。
【請求項2】
100重量部の4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルに対して、0.01重量部以上の4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルを配合してなる請求項1記載の組成物。
【請求項3】
100重量部の4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルに対して、10〜500重量部の4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルを配合してなる請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルおよび4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルの溶剤をさらに含有してなる請求項1乃至3のうちのいずれか記載の組成物。
【請求項5】
溶剤が水とアルコール化合物との混合溶剤である請求項4記載の組成物。
【請求項6】
100重量部の4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルに対して0.01重量部以上の4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルを配合してなるビニル化合物の重合禁止剤組成物。
【請求項7】
100重量部の4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルに対して、10〜500重量部の4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルを配合してなる請求項6記載のビニル化合物の重合禁止剤組成物。
【請求項8】
4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルおよび4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルの溶剤をさらに含有してなる請求項6または7記載のビニル化合物の重合禁止剤組成物。
【請求項9】
溶剤が水とアルコール化合物との混合溶剤である請求項8記載のビニル化合物の重合禁止剤組成物。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれかに記載の重合禁止剤組成物を、ビニル化合物を含む流体に直接、あるいは、更に溶媒に希釈して添加することを特徴とするビニル化合物の重合禁止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化された4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル含有組成物、長期間の保存・貯蔵においても重合禁止能の低下が少ない、安定化された4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルを含有するビニル化合物の重合禁止剤組成物、及びこれを用いたビニル化合物の重合禁止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オレフィン類は、熱、微量の酸素あるいは過酸化物、さらに金属イオンや光などが作用してラジカル重合を起こし重合物を生成する。このラジカル重合が、製造工程、精製工程、貯蔵工程などの意図せぬ状況で起こることを防止するために、対策として重合禁止剤を添加することが広く知られている。例えば、石油化学のエチレン製造工程ではフェノール類、ヒドロキシルアミン類(例えば、特許文献1参照)、さらにピペリジン−1−オキシル類(特許文献2参照)などの重合禁止剤を用いる方法が提案されており、特に非常に優れた重合禁止能を有しているピペリジン−1−オキシル類が、近年、広く使用されている。
【0003】
しかしながら、ピペリジン−1−オキシル類はそれ自体がラジカル化合物であり、ピペリジン−1−オキシル類を溶剤に溶かした組成物を長期間保存すると、ラジカルが消失し、重合禁止能が低下するという欠点があり、特に4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(以下、「OXO−TEMPO」と略記する)ではその傾向が顕著であることが知られている。
【0004】
この欠点を解決し、長期に亘ってピペリジン−1−オキシル類の重合防止能の低下を抑える方法として、溶剤にアルコールを使用する方法(特許文献3参照)や、ピペリジン−1−オキシル化合物とN−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン化合物と2,2,6,6−テトラメチルピペリジン化合物とを共存させる方法(特許文献4参照)が開示されているが、これらの方法では、重合禁止能の低下程度が大きいOXO−TEMPOの安定化には不十分であった。
【0005】
上記の状況に基づき、現在は、ピペリジン−1−オキシル類の中でも重合禁止能の低下が少ない4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(以下、「H−TEMPO」と略記する)が重合禁止剤として工業的に最も広く使用されている。
【0006】
しかしながら、このH−TEMPOの製造には、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(トリアセトンアミンともいわれ、以下、「TAA」と略記する)を水素添加し中間体として4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンを得た(例えば、特許文献5参照)後、さらにこの中間体を過酸化水素によって酸化する(例えば、特許文献6、特許文献7等参照)ことによりH−TEMPOを得るという2段の反応工程が必要であるのに対し、OXO−TEMPOは、TAAを酸化する1段の工程のみで製造することができることから、H−TEMPOと比較して安価に入手可能であるという利点があるため、長期間の保存・貯蔵においても重合禁止能の低下を抑えることができる、安定化されたOXO−TEMPO含有組成物、これからなるビニル化合物の重合禁止剤組成物、及びその組成物を用いたビニル化合物の重合禁止方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4434307号公報
【特許文献2】特公平4−26639号公報
【特許文献3】特開平11−171906号公報
【特許文献4】特開2001−181252号公報
【特許文献5】特開昭63−303967号公報
【特許文献6】特公昭44−12142号公報
【特許文献7】特開平6−247932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の実情に鑑み、長期間の保存・貯蔵においても重合禁止能の低下を抑えることができる、安定化されたOXO−TEMPO組成物、これを含有するビニル化合物の重合禁止剤組成物、及びその組成物を用いたビニル化合物の重合禁止方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らはOXO−TEMPOの安定化、とりわけ、重合禁止能の低下防止について鋭意研究を重ねた結果、該化合物にH−TEMPOを配合させることにより、その安定化、とりわけ、長期間の保存・貯蔵においてもOXO−TEMPOの重合禁止能の低下を抑えることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
即ち、請求項1に係る発明は、OXO−TEMPOにその安定化剤としてH−TEMPOを配合したことを特徴とする安定化されたOXO−TEMPO含有組成物である。
【0011】
請求項2に係る発明は、100重量部のOXO−TEMPOに対して0.01重量部以上のH−TEMPOを配合してなる請求項1記載の組成物である。
【0012】
請求項3に係る発明は、100重量部のOXO−TEMPOに対して10〜500重量部のH−TEMPOを配合してなる請求項1または2記載の組成物である。
【0013】
請求項4に係る発明は、さらにOXO−TEMPOおよびH−TEMPOの溶剤を含有してなる請求項1乃至3のうちのいずれか記載の組成物である。
【0014】
請求項5に係る発明は、溶剤が水とアルコール化合物との混合溶剤である請求項4記載の組成物である。
【0015】
請求項6に係る発明は、100重量部のOXO−TEMPOに対して0.01重量部以上のH−TEMPOを配合してなるビニル化合物の重合禁止剤組成物である。
【0016】
請求項7に係る発明は、100重量部のOXO−TEMPOに対して10〜500重量部のH−TEMPOを配合してなる請求項6記載のビニル化合物の重合禁止剤組成物である。
【0017】
請求項8に係る発明は、さらにOXO−TEMPOおよびH−TEMPOの溶剤を含有してなる請求項6または7記載のビニル化合物の重合禁止剤組成物である。
【0018】
請求項9に係る発明は、溶剤が水とアルコール化合物との混合溶剤である請求項9記載のビニル化合物の重合禁止剤組成物である。
【0019】
請求項10に係る発明は、請求項6乃至9のいずれかに記載の重合禁止剤組成物を、ビニル化合物を含む流体に直接、あるいは、更に溶媒に希釈して添加することを特徴とするビニル化合物の重合禁止方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、OXO−TEMPOの安定化を図ることにより、とりわけ、長期間の保存・貯蔵においても重合禁止能の低下を抑えることができ、従来汎用のH−TEMPOと比較してコスト的に有利なビニル化合物の重合禁止剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の安定化された組成物は、OXO−TEMPOとその安定化剤としてH−TEMPOを含有するが、その含有比率がOXO−TEMPOの100重量部に対してH−TEMPOの0.01重量部未満では長期間の保存・貯蔵におけるOXO−TEMPOの重合禁止能の低下を抑えることができない場合があるため、H−TEMPOの0.01重量部以上を含有することが好ましく、中でも10重量部以上を含有することがより好ましい。また、その含有比率がOXO−TEMPOの100重量部に対してH−TEMPOの500重量部を越えると、H−TEMPOの含有量の増加に見合うだけの効果は得られず、経済的に不利である。
【0022】
ビニル化合物の重合禁止剤としての用途に供する場合、OXO−TEMPOとH−TEMPO以外に溶剤を含有し、その溶剤としては、適用対象のビニル化合物の製造装置、貯蔵装置、及び運搬手段等の条件に合わせて適宜、溶剤を選択することができ、芳香族溶剤、脂肪族溶剤、水、アルコール化合物、あるいは製造装置のプロセス液などを用いることもできる。例えば、ブタジエン製造プロセスなどでは特に製品への混入を嫌って、水やアルコール化合物を選択せずにプロセス液中に含まれる芳香族炭化水素であるトルエンを選択することがある。また、2種以上の溶剤を混合して用いることにも何ら制限はない。
【0023】
本発明で用いる溶剤の芳香族溶剤あるいは脂肪族溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、その他芳香族化合物、ナフテン系炭化水素化合物、鉱油、パラフィン系炭化水素化合物などが挙げられる。また、水としては、通常の工業用水、軟化水、イオン交換水などを用いることができる。更に、アルコール化合物としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第3ブタノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−ペンタノール、n−ヘキサノール、2−エチルブタノール、n−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ノナノール、n−デカノール、n−ウンデカノール、n−ドデカノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ブタンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、シクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、フェノールなどが挙げられる。
【0024】
本発明の重合禁止剤組成物における溶剤の種類と配合量は、同時に配合されるOXO−TEMPOとH−TEMPOの溶解度と製品安定性を考慮して適宜、選択される。後記実施例から明らかなように、中でも水とアルコール化合物の混合溶剤がOXO−TEMPOとH−TEMPOの溶解度と製品安定性に優れ、更にOXO−TEMPOの重合禁止能の低下を抑える効果も認められる。これらの効果は水単独やアルコール単独では得られない相乗的な効果であり、特に好ましい組み合わせと配合量は水:エチレングリコールモノブチルエーテル=50:1〜1:50(重量比)である。また、水とアルコール化合物の混合溶剤による、重合禁止能の低下を抑制する上記の相乗効果は、OXO−TEMPOとH−TEMPOの併用系以外にも、OXO−TEMPO単独、H−TEMPO単独、及びその他のピペリジン−1−オキシル類を溶解する場合にも発揮される。
【0025】
好ましい重合禁止剤組成物の配合例を挙げると、OXO−TEMPOを1重量部、H−TEMPOを1重量部、水を2重量部、及びエチレングリコールモノブチルエーテルを1重量部である。
【0026】
本発明の重合禁止剤組成物の製造は、常温において溶剤にH−TEMPOを加えて溶解し、更にOXO−TEMPOを加えて溶解・撹拌して均一に混合することにより達せられる。各成分を溶解する順序について特に制限はなく、各々の成分の物性により混合する順序を変更するなどの工夫についてなんら制限を加えるものではないが、該組成物製造時のOXO−TEMPOの重合防止能低下を防止するため、OXO−TEMPOを融点(37℃)以上に加熱しないことが必要である。
【0027】
本発明の重合禁止剤組成物に、必要で応じて、その他公知の重合防止剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、分散剤等を加えても良い。
【0028】
本発明の重合禁止剤組成物の適用は、特に限定されるものではないが、例えば、石油化学工程、各種ビニル化合物の製造、精製工程、輸送、貯蔵に際し、ビニル化合物の重合による汚れを抑制し、重合によるビニル化合物の収率低下を抑制する場合には、重合が発生する設備、例えば熱交換器、リボイラー、配管、貯蔵タンクの中、及び/又はその上流部に添加することが好ましい。この際、本発明の重合禁止剤組成物の添加量は、ビニル化合物の種類やプロセス条件により異なるので一律に決めることは出来ないが、OXO−TEMPOとH−TEMPOの合計量として、該プロセス流体に対して0.1〜1000ppmとなるように添加するのが一般的である。
【0029】
本発明の重合禁止剤組成物の添加方法は一般的には原液あるいは溶媒で希釈し、薬品注入ポンプを使用して、対象のビニル化合物の種類やプロセス条件に合わせて連続あるいは間欠添加を選択することができる。希釈用に用いられる溶媒は重合剤組成物に用いた溶剤やその溶剤と親和性のある溶媒であれば制限なく使用できるが、一般的には、対象プロセスのプロセス液を用いて希釈することが行われる。
【0030】
また、適用しうるビニル化合物の種類に制限はなく、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のオレフィン化合物、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の置換、あるいは非置換の共役ジオレフィン化合物、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル化合物、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、アリルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートなどのメタクリル酸エステルおよびメタクリル酸化合物、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレートなどのアクリル酸エステルおよびアクリル酸化合物、アクリロニトリル、メタクリルニトリルなどのシアン化ビニル化合物、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、2−(5−ノルボルネニル)エチル(ジメチル)メトキシシラン、5−ヘキセニルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、4−エテニルフェニルトリメトキシシラン、2−(4−エテニルフェニル)エチルトリエトキシシランなどのエチレン性不飽和基含有シランないしシロキサン化合物、酢酸ビニルなどのビニルエステル化合物、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンなどのハロゲン化オレフィン等を例示することができる。
【実施例】
【0031】
1.試験に用いた化合物
[ピペリジン−1−オキシル類]
N−1:4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(OXO−TEMPO)
N−2:4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(H−TEMPO)
N−3:4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル
N−4:4−カルボキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル
N−5:2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル
【0032】
[溶剤]
S−1:キシレン
S−2:灯油
S−3:2−エチルヘキサノール
S−4:エチレングリコールモノブチルエーテル(以下、「EGB」と略記する)
S−5:水
W−1:水:EGB=1:50(重量比)の混合溶剤
W−2:水:EGB=1:1(重量比)の混合溶剤
W−3:水:EGB=2:1(重量比)の混合溶剤
W−4:水:EGB=50:1(重量比)の混合溶剤
【0033】
2.試験方法
ピペリジン−1−オキシル類と各種溶剤を所定の割合で混合した組成物を、50℃の恒温器中で10日間、20日間、30日間それぞれ放置し、該組成物中の4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(OXO−TEMPO)の濃度をガスクロマトグラフィーで測定し、組成物を作成した時の濃度と比較してOXO−TEMPO残存率(%)を求めた。この残存率が大きいほどOXO−TEMPOの重合防止能の低下が小さい(=重合防止能低下抑制効果が大きい)ことを示している。
【0034】
表1に示した結果より、OXO−TEMPOは他のピペリジン−1−オキシル類と比較して、重合防止能の低下が大きいことが確認された。
【0035】
表2に示した結果より、OXO−TEMPOに4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(H−TEMPO)を共存させることにより、他のピペリジン−1−オキシル類を共存させた場合と比較して、特異的に、重合防止能の低下を大幅に小さくでき、H−TEMPOによるOXO−TEMPOの安定化効果が確認された。
【0036】
表3に示した結果より、OXO−TEMPOの100重量部に対して、H−TEMPOを0.01重量部以上共存させることによって、OXO−TEMPOの重合防止能の低下を小さくできることが確認された。H−TEMPOの共存含有量が多いほどOXO−TEMPOの重合防止能低下抑制効果は大きくなり、H−TEMPOを、500重量部を超えて含有させた場合には、それに見合うほどのメリットは享受しがたく、経済的に不利である。
【0037】
表4に示した結果より、水とアルコール化合物の混合溶剤(W―1〜4)を用いた実施例11〜14では、水単独(S―5)を溶剤として用いた実施例10やアルコール化合物単独(S−3、S−4)を溶剤として用いた実施例8、実施例9よりも、OXO−TEMPOの重合防止能低下抑制効果が大きく、水やアルコール化合物の単独溶剤では得られない相乗的な効果が認められた。水とアルコール化合物の好ましい配合比は水:EGB=50:1〜1:50(重量比)であり、特に好ましい配合比は水:EGB=2:1であることが示された。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】