【0019】
焼成工程は、被焼結体作製工程で作製した被焼結体を、焼結助剤が存在する環境下で焼成することにより、緻密化されたCZTSを作製する工程である。焼成工程で使用可能な焼結助剤としては、SnSやSnS
2を例示することができる。例えば、被焼結体作製工程がスパッタ法や真空蒸着法等の真空法により前駆体を形成する形態である場合、焼成工程は、前駆体に、スパッタや蒸着等によってSnSやSnS
2を過剰に供給した後、硫化水素による硫化及び焼成によって、緻密化されたCZTSを作製する工程、とすることができる。本発明において、焼成工程で使用する焼結助剤の使用量は特に限定されないが、相対密度の高い緻密なCZTS化合物半導体を製造しやすい形態にする観点から、Cu
2ZnSnS
4の質量をX、焼結助剤の質量をYとするとき、0.01≦Y/X≦0.1とすることが好ましく、0.02≦Y/X≦0.04とすることがより好ましい。
【実施例】
【0022】
<実施例1>
Cu
2ZnSnS
4及び焼結助剤の質量比が、Cu
2ZnSnS
4:焼結助剤=100:3となるように、焼結助剤(Cu
2S、ZnS、SnS、及び、SnS
2の各粉末)を計量した。そして、Cu
2ZnSnS
4のみ、又は、Cu
2ZnSnS
4及び焼結助剤をボールミルに投入して乾式で24時間に亘って混合することにより、混合粉末を得た。その後、得られた混合粉末を直径10mm程度のディスク状に成形し、さらに圧力245MPaで冷間等方圧成形(CIP成形)することにより、焼結用圧粉体を得た。そして、得られた焼結用圧粉体を、窒素雰囲気中で、焼成温度675℃又は560℃で2時間に亘って焼成した後、取り出した試料の相対密度を測定した。結果を
図2に示す。また、焼成温度を560℃にした場合の結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
図2に示したように、焼成温度が675℃の場合、焼結助剤を添加しない試料では、相対密度が97%程度のCZTS化合物半導体が得られた。また、焼結助剤としてCu
2S、ZnS、及び、SnS
2からなる群より選択した1種を添加した試料では、相対密度が85%程度のCZTS化合物半導体が得られ、焼結助剤としてSnSを添加した試料では、相対密度が98%以上のCZTS化合物半導体が得られた。
【0025】
一方、焼成温度が560℃の場合、焼結助剤を添加しない試料、及び、焼結助剤としてCu
2S又はZnSを添加した試料では、相対密度が70%程度(最低で67.8%、最高で70.3%)のCZTS化合物半導体が得られた。これに対し、焼成温度が560℃の場合、焼結助剤としてSnSを添加した試料では、相対密度が95%程度(最低で94.7%、最高で95.8%)のCZTS化合物半導体が得られ、焼結助剤としてSnS
2を添加した試料では、相対密度が70%よりも高い(最低で73.9%、最高で80.4%)のCZTS化合物半導体が得られた。以上の結果から、焼結助剤としてSnSやSnS
2を用いることにより、焼成温度を低減しても緻密化されたCZTS化合物半導体を製造可能であることが確認された。
【0026】
<実施例2>
Cu
2ZnSnS
4及びSnSの質量比が、Cu
2ZnSnS
4:SnS=100:1以上13以下となるように、SnS粉末を計量した。そして、Cu
2ZnSnS
4のみ、又は、Cu
2ZnSnS
4及びSnSをボールミルに投入して乾式で24時間に亘って混合することにより、混合粉末を得た。その後、得られた混合粉末を直径10mm程度のディスク状に成形し、さらに圧力245MPaで冷間等方圧成形(CIP成形)することにより、焼結用圧粉体を得た。そして、得られた焼結用圧粉体を、窒素雰囲気中で、焼成温度560℃で2時間に亘って焼成した後、取り出した試料の相対密度を測定した。結果を
図3に示す。
図3の縦軸は相対密度、横軸はSnSの添加量である。また、SnSを添加しなかった場合、Cu
2ZnSnS
4に対して1質量%のSnSを添加した場合、Cu
2ZnSnS
4に対して3質量%のSnSを添加した場合、及び、Cu
2ZnSnS
4に対して5質量%のSnSを添加した場合の結果を、表2に示す。また、SnSを添加しなかった場合、Cu
2ZnSnS
4に対して1質量%のSnSを添加した場合、Cu
2ZnSnS
4に対して3質量%のSnSを添加した場合、及び、Cu
2ZnSnS
4に対して5質量%のSnSを添加した場合の焼成表面の電子顕微鏡写真を
図4に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
図3及び表2に示したように、SnSを添加せずに焼成する過程を経て製造したCZTS化合物半導体は、相対密度が70%程度(最低で67.8%、最高で70.3%)であったが、Cu
2ZnSnS
4に対して1質量%以上のSnS(焼結助剤)を添加して焼成することにより、相対密度を高めたCZTS化合物半導体を製造することができた。今回の実験では、Cu
2ZnSnS
4に対して3質量%のSnSを添加して焼成する過程を経て製造したCZTS化合物半導体の相対密度が最も高かった。
【0029】
<実施例3>
Cu
2ZnSnS
4及びSnSの質量比が、Cu
2ZnSnS
4:SnS=100:3となるように、SnS粉末を計量した。そして、Cu
2ZnSnS
4のみ、又は、Cu
2ZnSnS
4及びSnSをボールミルに投入して乾式で24時間に亘って混合することにより、混合粉末を得た。その後、得られた混合粉末を直径10mm程度のディスク状に成形し、さらに圧力245MPaで冷間等方圧成形(CIP成形)することにより、焼結用圧粉体を得た。そして、得られた焼結用圧粉体を、窒素雰囲気中で、焼成温度500℃、560℃、又は、675℃で2時間に亘って焼成した後、取り出した試料の相対密度を測定した。結果を
図5及び表3に示す。
図5の縦軸は相対密度、横軸は焼成温度である。
【0030】
【表3】
【0031】
図5及び表3に示したように、SnSを添加せずに焼成する過程を経て製造したCZTS化合物半導体は、焼成温度を500℃にした場合の相対密度が69.1%、焼成温度を560℃にした場合の相対密度が68.8%であり、焼成温度を675℃にした場合の相対密度は96.8%であった。すなわち、SnSを添加せずに焼成する場合には、焼成温度を560℃にしても相対密度を高めることはできなかった。
【0032】
一方、Cu
2ZnSnS
4に対して3質量%のSnSを添加して焼成する過程を経て製造したCZTS化合物半導体は、焼成温度を500℃にした場合の相対密度が69.6%であり、焼成温度を560℃にした場合の相対密度は95.3%、焼成温度を675℃にした場合の相対密度は99.5%であった。すなわち、SnSを添加して焼成することにより、緻密なCZTS化合物半導体が得られる焼成温度を、SnSを添加せずに焼成した場合の675℃から560℃へと115℃低減することができた。
【0033】
また、焼成後の生成層をX線回折により調査した結果を
図6及び表4に示す。
図6の縦軸は回折強度であり、横軸は回折角2θである。
図6に示した4つの結果のうち、一番上はSnSを添加して560℃で焼成した場合の結果であり、上から二番目はSnSを添加せずに560℃で焼成した場合の結果であり、上から三番目はSnSを添加して675℃で焼成した場合の結果であり、一番下はSnSを添加せずに675℃で焼成した場合の結果である。また、表4における強度比は、Cu
2ZnSnS
4のX線回折強度に対するSnO
2のX線回折強度の比である。
【0034】
【表4】
【0035】
図6及び表4に示したように、SnSを添加して675℃で焼成した場合には、過剰となったSnO
2が不純物として生成した。これに対し、SnSを添加して560℃で焼成した場合には、SnSを添加せずに焼成した場合と同様に、不純物(SnO
2)は生成されないことが示された。