特許第5752624号(P5752624)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5752624
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】CZTS化合物半導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/622 20060101AFI20150702BHJP
   C04B 35/547 20060101ALI20150702BHJP
   C01G 19/00 20060101ALI20150702BHJP
   H01L 31/072 20120101ALI20150702BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   C04B35/00 E
   C04B35/00 T
   C01G19/00 A
   H01L31/06 400
   H01L21/363
   C01G19/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-52551(P2012-52551)
(22)【出願日】2012年3月9日
(65)【公開番号】特開2013-184866(P2013-184866A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】酒井 武信
(72)【発明者】
【氏名】粟野 宏基
(72)【発明者】
【氏名】武田 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】前川 諒介
(72)【発明者】
【氏名】半田 智彰
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠治
(72)【発明者】
【氏名】上田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大川 元
【審査官】 相田 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−245238(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/135622(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/547,35/622,35/64
C01G 3/12 , 9/08 ,19/00
H01L 31/02 〜31/078,51/42〜51/48
H02S 10/00 〜10/40, 30/00〜99/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結助剤が存在する環境下において、Cu、Zn、Sn、及び、Sを含有する被焼結体を焼成する工程を有し、前記焼結助剤にSnSが含まれる、CZTS化合物半導体の製造方法。
【請求項2】
焼結助剤が存在する環境下において、Cu、Zn、Sn、及び、Sを含有する被焼結体を焼成する工程を有し、前記焼結助剤にSnSが含まれる、CZTS化合物半導体の製造方法。
【請求項3】
前記被焼結体の質量をX、前記焼結助剤の質量をYとするとき、0.01≦Y/X≦0.1である、請求項1又は2に記載のCZTS化合物半導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CZTS化合物半導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、発電量当たりの二酸化炭素排出量が少なく、発電用の燃料が不要であるため、地球温暖化防止等に寄与することが期待されている。現在、実用化されている太陽電池の中では、単結晶シリコン又は多結晶シリコンを用いた、一組のpn接合を有する単接合太陽電池が主流となっている。このほか、近年では、シリコンに依存しない薄膜太陽電池等についても、盛んに研究開発が進められている。
【0003】
CZTS系薄膜太陽電池は、シリコンの代わりにCu、Zn、Sn、及び、Sを用いた化合物半導体(以下において、「CZTS」又は「CZTS化合物半導体」という。)を、光吸収層に使用する薄膜太陽電池である。これらの物質は入手しやすく安価であるため、CZTS系薄膜太陽電池が注目されている。
【0004】
CZTS系薄膜太陽電池に関する技術として、例えば特許文献1には、第二硫化銅、硫化亜鉛、及び、硫化錫の粉体を混合した後、ホットプレス法にて10MPa以上かつ700℃以上で1時間以上に亘って焼成する、硫化物焼結体ターゲットの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−245238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に700℃以上の温度で焼成する製造方法が開示されているように、これまで、緻密なCZTSを製造するためには、675℃以上の温度で焼成する必要があった。ここで、CZTSを太陽電池に用いる場合、電極の表面にCZTSを形成する形態が想定され、緻密なCZTSを形成するために、電極の表面に形成したCZTSを675℃以上の温度で焼成することが考えられる。しかしながら、例えば、電極としてMo電極を使用する場合、温度が570℃以上になると、CZTS及びMoの界面で反応が進行して異相が形成される。そのため、675℃以上の高温で焼成する過程を経てCZTS系薄膜太陽電池を作製しても、本来の材料特性を示さず、性能を向上させることは困難であった。
【0007】
そこで本発明は、緻密なCZTS化合物半導体を従来よりも低い焼成温度で製造することが可能な、CZTS化合物半導体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、焼結助剤(SnS又はSnS)を添加して焼成することにより、従来よりも低い温度で焼成しても緻密なCZTS化合物半導体を製造することが可能になることを知見した。本発明は、かかる知見に基づいて完成させた。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明の第1の態様は、焼結助剤が存在する環境下において、Cu、Zn、Sn、及び、Sを含有する被焼結体を焼成する工程を有し、焼結助剤にSnSが含まれる、CZTS化合物半導体の製造方法である。
【0010】
ここに、本発明の第1の態様及び以下に示す本発明の他の態様において、「Cu、Zn、Sn、及び、Sを含有する被焼結体」とは、焼成されることによって緻密化したCZTS化合物半導体になる物質をいう。例えば、スパッタ法や真空蒸着法等の真空法によって形成した、硫化工程を経る前の前駆体膜のほか、いわゆる固相合成法や液相から合成したCZTS化合物半導体等が、「Cu、Zn、Sn、及び、Sを含有する被焼結体」に含まれ得る。SnSを添加してCZTSを焼成することにより、例えば560℃で焼成しても、相対密度が95%以上であるCZTSを製造することが可能になる。したがって、本発明の第1の態様によれば、緻密なCZTS化合物半導体を従来よりも低い焼成温度で製造することが可能な、CZTS化合物半導体の製造方法を提供することができる。
【0011】
本発明の第2の態様は、焼結助剤が存在する環境下において、Cu、Zn、Sn、及び、Sを含有する被焼結体を焼成する工程を有し、焼結助剤にSnSが含まれる、CZTS化合物半導体の製造方法である。
【0012】
SnSを添加してCZTSを焼成することにより、例えば560℃で焼成しても、相対密度が80%以上であるCZTSを製造することが可能になる。したがって、本発明の第2の態様によれば、緻密なCZTS化合物半導体を従来よりも低い焼成温度で製造することが可能な、CZTS化合物半導体の製造方法を提供することができる。
【0013】
また、上記本発明の第1の態様、及び、上記本発明の第2の態様において、被焼結体の質量をX、焼結助剤の質量をYとするとき、0.01≦Y/X≦0.1であることが好ましい。かかる形態とすることにより、相対密度を高めたCZTS化合物半導体を製造しやすくなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、緻密なCZTS化合物半導体を従来よりも低い焼成温度で製造することが可能な、CZTS型化合物半導体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のCZTS化合物半導体の製造方法を説明する図である。
図2】焼成温度及び焼結助剤と相対密度との関係を説明する図である。
図3】SnSの添加量と相対密度との関係を説明する図である。
図4】焼成表面の電子顕微鏡写真である。図4(a)はSnSを添加しなかった場合、図4(b)はCuZnSnSに対して1質量%のSnSを添加した場合、図4(c)はCuZnSnSに対して3質量%のSnSを添加した場合、図4(d)はCuZnSnSに対して5質量%のSnSを添加した場合における、焼成表面の電子顕微鏡写真である。
図5】焼成温度と相対密度との関係を説明する図である。
図6】X線回折結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明のCZTS化合物半導体の製造方法(以下において、「本発明の製造方法」ということがある。)について説明する。なお、以下に示す形態は例示であり、本発明の製造方法は以下に示す形態に限定されない。
【0017】
図1は、本発明のCZTS化合物半導体の製造方法を説明する図である。図1に示した本発明の製造方法は、被焼結体作製工程(S1)と、焼成工程(S2)と、を有している。
【0018】
被焼結体作製工程は、後述する焼成工程で焼成されて緻密化される被焼結体を作製する工程である。被焼結体作製工程は、被焼結体を作製可能であれば、その形態は特に限定されない。被焼結体作製工程は、例えば、Cu−Zn−Sn−S前駆体膜を、スパッタ法や真空蒸着法等の真空法によって形成する形態であっても良く、いわゆる固相合成法や、液相からCZTS粒子を合成する水熱合成法、有機溶剤法、ゾルゲル法、めっき法等によって、CZTS化合物半導体を作製する形態であっても良い。
【0019】
焼成工程は、被焼結体作製工程で作製した被焼結体を、焼結助剤が存在する環境下で焼成することにより、緻密化されたCZTSを作製する工程である。焼成工程で使用可能な焼結助剤としては、SnSやSnSを例示することができる。例えば、被焼結体作製工程がスパッタ法や真空蒸着法等の真空法により前駆体を形成する形態である場合、焼成工程は、前駆体に、スパッタや蒸着等によってSnSやSnSを過剰に供給した後、硫化水素による硫化及び焼成によって、緻密化されたCZTSを作製する工程、とすることができる。本発明において、焼成工程で使用する焼結助剤の使用量は特に限定されないが、相対密度の高い緻密なCZTS化合物半導体を製造しやすい形態にする観点から、CuZnSnSの質量をX、焼結助剤の質量をYとするとき、0.01≦Y/X≦0.1とすることが好ましく、0.02≦Y/X≦0.04とすることがより好ましい。
【0020】
焼成工程を有する本発明の製造方法によれば、従来は675℃以上であった焼成温度を、例えば560℃にまで低下させても、相対密度が80%以上であるCZTS化合物半導体を製造することが可能になる。すなわち、本発明によれば、Moの表面に形成したCZTSを、CZTSとMoとが反応しない温度で焼成しても、CZTSを緻密化することができる。したがって、CZTS系薄膜太陽電池を製造する際に、本発明の製造方法によって緻密化したCZTSを製造することにより、変換効率を高めたCZTS系薄膜太陽電池を製造することが可能になる。
【0021】
また、本発明の製造方法では、CZTS化合物半導体を構成する元素によって構成された化合物を焼結助剤として用いている。そのため、添加した焼結助剤は、焼結後に固溶してカルコパイライト単相になり、異相は形成されない。したがって、本発明で製造したCZTS化合物半導体を用いることにより、太陽電池の変換効率を高めやすくなる。
【実施例】
【0022】
<実施例1>
CuZnSnS及び焼結助剤の質量比が、CuZnSnS:焼結助剤=100:3となるように、焼結助剤(CuS、ZnS、SnS、及び、SnSの各粉末)を計量した。そして、CuZnSnSのみ、又は、CuZnSnS及び焼結助剤をボールミルに投入して乾式で24時間に亘って混合することにより、混合粉末を得た。その後、得られた混合粉末を直径10mm程度のディスク状に成形し、さらに圧力245MPaで冷間等方圧成形(CIP成形)することにより、焼結用圧粉体を得た。そして、得られた焼結用圧粉体を、窒素雰囲気中で、焼成温度675℃又は560℃で2時間に亘って焼成した後、取り出した試料の相対密度を測定した。結果を図2に示す。また、焼成温度を560℃にした場合の結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
図2に示したように、焼成温度が675℃の場合、焼結助剤を添加しない試料では、相対密度が97%程度のCZTS化合物半導体が得られた。また、焼結助剤としてCuS、ZnS、及び、SnSからなる群より選択した1種を添加した試料では、相対密度が85%程度のCZTS化合物半導体が得られ、焼結助剤としてSnSを添加した試料では、相対密度が98%以上のCZTS化合物半導体が得られた。
【0025】
一方、焼成温度が560℃の場合、焼結助剤を添加しない試料、及び、焼結助剤としてCuS又はZnSを添加した試料では、相対密度が70%程度(最低で67.8%、最高で70.3%)のCZTS化合物半導体が得られた。これに対し、焼成温度が560℃の場合、焼結助剤としてSnSを添加した試料では、相対密度が95%程度(最低で94.7%、最高で95.8%)のCZTS化合物半導体が得られ、焼結助剤としてSnSを添加した試料では、相対密度が70%よりも高い(最低で73.9%、最高で80.4%)のCZTS化合物半導体が得られた。以上の結果から、焼結助剤としてSnSやSnSを用いることにより、焼成温度を低減しても緻密化されたCZTS化合物半導体を製造可能であることが確認された。
【0026】
<実施例2>
CuZnSnS及びSnSの質量比が、CuZnSnS:SnS=100:1以上13以下となるように、SnS粉末を計量した。そして、CuZnSnSのみ、又は、CuZnSnS及びSnSをボールミルに投入して乾式で24時間に亘って混合することにより、混合粉末を得た。その後、得られた混合粉末を直径10mm程度のディスク状に成形し、さらに圧力245MPaで冷間等方圧成形(CIP成形)することにより、焼結用圧粉体を得た。そして、得られた焼結用圧粉体を、窒素雰囲気中で、焼成温度560℃で2時間に亘って焼成した後、取り出した試料の相対密度を測定した。結果を図3に示す。図3の縦軸は相対密度、横軸はSnSの添加量である。また、SnSを添加しなかった場合、CuZnSnSに対して1質量%のSnSを添加した場合、CuZnSnSに対して3質量%のSnSを添加した場合、及び、CuZnSnSに対して5質量%のSnSを添加した場合の結果を、表2に示す。また、SnSを添加しなかった場合、CuZnSnSに対して1質量%のSnSを添加した場合、CuZnSnSに対して3質量%のSnSを添加した場合、及び、CuZnSnSに対して5質量%のSnSを添加した場合の焼成表面の電子顕微鏡写真を図4に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
図3及び表2に示したように、SnSを添加せずに焼成する過程を経て製造したCZTS化合物半導体は、相対密度が70%程度(最低で67.8%、最高で70.3%)であったが、CuZnSnSに対して1質量%以上のSnS(焼結助剤)を添加して焼成することにより、相対密度を高めたCZTS化合物半導体を製造することができた。今回の実験では、CuZnSnSに対して3質量%のSnSを添加して焼成する過程を経て製造したCZTS化合物半導体の相対密度が最も高かった。
【0029】
<実施例3>
CuZnSnS及びSnSの質量比が、CuZnSnS:SnS=100:3となるように、SnS粉末を計量した。そして、CuZnSnSのみ、又は、CuZnSnS及びSnSをボールミルに投入して乾式で24時間に亘って混合することにより、混合粉末を得た。その後、得られた混合粉末を直径10mm程度のディスク状に成形し、さらに圧力245MPaで冷間等方圧成形(CIP成形)することにより、焼結用圧粉体を得た。そして、得られた焼結用圧粉体を、窒素雰囲気中で、焼成温度500℃、560℃、又は、675℃で2時間に亘って焼成した後、取り出した試料の相対密度を測定した。結果を図5及び表3に示す。図5の縦軸は相対密度、横軸は焼成温度である。
【0030】
【表3】
【0031】
図5及び表3に示したように、SnSを添加せずに焼成する過程を経て製造したCZTS化合物半導体は、焼成温度を500℃にした場合の相対密度が69.1%、焼成温度を560℃にした場合の相対密度が68.8%であり、焼成温度を675℃にした場合の相対密度は96.8%であった。すなわち、SnSを添加せずに焼成する場合には、焼成温度を560℃にしても相対密度を高めることはできなかった。
【0032】
一方、CuZnSnSに対して3質量%のSnSを添加して焼成する過程を経て製造したCZTS化合物半導体は、焼成温度を500℃にした場合の相対密度が69.6%であり、焼成温度を560℃にした場合の相対密度は95.3%、焼成温度を675℃にした場合の相対密度は99.5%であった。すなわち、SnSを添加して焼成することにより、緻密なCZTS化合物半導体が得られる焼成温度を、SnSを添加せずに焼成した場合の675℃から560℃へと115℃低減することができた。
【0033】
また、焼成後の生成層をX線回折により調査した結果を図6及び表4に示す。図6の縦軸は回折強度であり、横軸は回折角2θである。図6に示した4つの結果のうち、一番上はSnSを添加して560℃で焼成した場合の結果であり、上から二番目はSnSを添加せずに560℃で焼成した場合の結果であり、上から三番目はSnSを添加して675℃で焼成した場合の結果であり、一番下はSnSを添加せずに675℃で焼成した場合の結果である。また、表4における強度比は、CuZnSnSのX線回折強度に対するSnOのX線回折強度の比である。
【0034】
【表4】
【0035】
図6及び表4に示したように、SnSを添加して675℃で焼成した場合には、過剰となったSnOが不純物として生成した。これに対し、SnSを添加して560℃で焼成した場合には、SnSを添加せずに焼成した場合と同様に、不純物(SnO)は生成されないことが示された。
図1
図2
図3
図5
図6
図4