【課題を解決するための手段】
【0022】
この目的は、請求項1の記載に従うインプラントによって解決される。
本発明は、セラミック本体の表面の少なくとも一部分を化学的に修正することにより、前記セラミック本体上に骨統合表面を用意するための方法であって、
カルシウムリン酸塩鉱物(calcim phosphate mineral)を含む複数の粒子の塊をセラミック基本本体に向けて射出することにより、セラミック基本本体の表面上に前記カルシウムリン酸塩鉱物を堆積し、
さらに、堆積した前記カルシウムリン酸塩鉱物を有する前記セラミック基本本体を加熱する、各工程を含む。
【0023】
それゆえ、本発明は、付加的な方法に関連している。
この方法により、本体は、表面からある深さに伸びている表面領域を有する本体を得ることができる。この表面領域は、カルシウムリン酸塩鉱物を含む。この表面領域において、材料の密度は、表面に向かって徐々に減少する。
特に、カルシウムリン酸塩鉱物を有する基本本体は、該カルシウムリン酸塩鉱物が基本本体に一体化される温度に加熱される。
【0024】
より具体的には、カルシウムリン酸塩鉱物が堆積した基本本体は、少なくとも1100℃の温度、好ましくは、少なくとも1250℃、さらに、好ましくは、少なくとも1350℃、最も好ましくは、約1450℃に加熱される。
【0025】
これらの温度に加熱することにより、カルシウムリン酸塩鉱物が基本本体に一体化されるのみならず、そのカルシウムリン酸塩鉱物がジルコニアの結晶格子の中に拡散し、拡散の度合に従って本体のカルシウムリン酸塩鉱物の安定化を導き、さらに、最終的に改善されたエイジング抵抗を有する。また、本体表面の親水性が、ジルコニアの結晶格子内にカルシウムが広がることにより改善される。
【0026】
以下に詳細に示するように、上記温度は、例えば、本体の最大の物理的特性を達成するために基本本体を密に焼結する間に達成される。さらに、好ましい実施形態によれば、基本本体に堆積したカルシウムリン酸塩鉱物を有する基本本体への温度が最大限1500℃になるように加熱される。
【0027】
カルシウムリン酸塩鉱物が一体化されることにより、狭い意味で、加熱後、カルシウムリン酸塩鉱物被膜が無くなり、カルシウムリン酸塩鉱物と基本本体との間に境界がない。
本発明の方法のために、どのようなカルシウムリン酸塩鉱物でも用いることができる。好ましい実施形態では、カルシウムリン酸塩鉱物は、水酸リン灰石、フッ素リン灰石、β−リン酸三カルシウム、及びα−リン酸三カルシウムからなる群から選択される。
【0028】
本発明の方法に従って得られる表面は、高い骨統合性があることが見いだされた。理論に縛られることなく、これは、一方で、カルシウムリン酸塩鉱物が用いられるという事実によって説明することができ、特に、β−リン酸三カルシウム、及びα−リン酸三カルシウム、水酸リン灰石、または、フッ素リン灰石等のリン酸三カルシウムは、本来的に、生物活性材料である。
【0029】
他方で、トポ
グラフィー的な特定の表面は、複数の粒子の塊がセラミック基本本体の表面に向かって射出されるという事実によって形成される。前記トポ
グラフィー的な表面は、本体の表面領域にキャビティを含み、かつ、本体の特定の表面あらさを与える。この表面の組成に生物活性材料を含んでいると、前記トポ
グラフィー的な表面は、さらに、得られる本体が骨統合特性を有する一因となる。
【0030】
特に、複数の塊は、キャリアガスの流れによって基本本体に向かって射出される。これは、明らかに、特許文献6によって教示されるトリックリング法(trickling)と対照的である。
【0031】
さらに特別には、複数の塊は、基本本体上に衝突するとき変形し、その結果、塊と基本本体との間の接触領域が衝突中に増加する。
トポ
グラフィー的な特定表面の形成は、スノーボールの類推によって説明することができる。
【0032】
本発明に従う複数の塊は、一般的に、セラミック基本本体上に衝突するとき、スノーボールのように変形し、堆積した材料の良好な固着が、塊とセラミック本体との間の接触領域が衝突中増加することによって達成される。堆積した複数の塊は、概略、比較的大きなベース領域を有し、かつ、丸い頂部へ先細った高さ形状を有する。
【0033】
一般的に、複数の塊は、粒子を一緒に結合するための結合剤を含む。結合剤を含む複数の塊を用いる場合、基本本体の表面上への複数の塊の固着が良好に得られる。複数の塊の堆積後、結合剤は、以下で詳細に記載するように、焼結中、取り除かれる。
【0034】
上述したように、本発明は、カルシウムリン酸塩鉱物を基本本体の中に一体化することができる。個別の粒子は、例えば、特許文献6に従って得られるインプラントの場合のように、付加されるので、離散した境界面は生じない。この結果、境界面から剥がれ落ちる傾向がある被膜の問題は、本発明によって回避することができる。
【0035】
複数の粒子の塊を離散した粒子の代わりに用いると、本発明は、非常に単純な方法で、均一な表面あらさを得ることができる。上述したように、これは、特許文献6に従う方法の場合ではない。上述したスノーボールの類推を適用して、特許文献6によって教示される離散した複数の粒子のトリックリング法は、頂部上よりもむしろトポ
グラフィー的な谷に蓄積する傾向にある雪片のトリックリング法に相当する。
【0036】
本発明に従う化学的修正は、基本本体又はその部品上の全表面に実行される。
本発明は、本体がインプラントとして、特に、歯科用インプラン
トとして用いられる場合、特に有益である。インプラント
として用いられる場合、この方法が実行され、その結果、化学的修正が、
少なくとも骨に埋設されるように設計され
た基本本体の領域に実行される。
【0037】
ダーク色のチタンで作られたインプラントは、自然の歯の色にマッチしないのに対して、本発明の本体は、セラミック基本本体に基づいており、その結果、この色は、自然の歯の色にマッチするという利点を有する。
【0038】
この基本本体は、好ましくは、ジルコニア、アルミナ、および/または、ジルコニアとアルミナの混合物で作られる。
基本本体のセラミック材料は、一般的に、イットリア−安定化および/またはセリア−安定化される。他の安定化剤は、例えば、カルシウム、マグネシウム、または、スカンジウムが考えられる。
【0039】
インプラントのために比較的要求される機械的要件を考えると、セラミック基本本体のセラミック材料は、イットリア−安定化ジルコニアおよび/またはセリア−安定化ジルコニアであることが特に好ましく、これらの材料を用いることによって、高強度を得ることができる。
【0040】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、複数の塊は、さらに、セラミック材料、特に基本本体のセラミック材料の粒子を含む。その結果、堆積される材料は、基本本体の材料と十分に両立できる。代わりに、他のセラミック材料も堆積できる基本本体の材料と両立することができる。
【0041】
好ましい実施形態において、複数の塊は、カルシウムリン酸塩鉱物から離れたセラミック材料を含み、セラミック材料に対するカルシウムリン酸塩鉱物の容量割合は、1:100から60:100の範囲が好ましく、より好ましくは、10:100から40:100、最も好ましくは、20:100から30:100である。
【0042】
好ましい実施形態によれば、複数の塊は、特に高い骨統合特性を有する表面をもたらす、20μm〜100μm、好ましくは、40μm〜70μmの範囲の平均直径を有する。
【0043】
カルシウムリン酸塩鉱物、特に、水酸リン灰石の粒子のサイズは、得られるべき所望の表面形状にしたがって調整される。複数の塊は、さらに、セラミック材料の粒子を含む場合、カルシウムリン酸塩鉱物の粒子サイズは、一般的に、セラミック粒子の粒子サイズと同一範囲にある。
【0044】
ジルコニア粉末のグレードTZ−3YSB−E(トーソー(tosoh) コーポレーション)を用いるとき、セラミック粒子の粒度は、一般的に、約30nm〜70nm、例えば、360Å(36nm)である。
この結果、塊によって構成される粒子の数は、一般的に、数100万または10億個の範囲である。
【0045】
本発明に従って形成され、かつ、カルシウムリン酸塩鉱物を含んでいる骨統合性の表面領域は、一般的に、本体の表面から、最大限500μm、好ましくは、最大限100μm、より好ましくは、最大限50μmの深さに伸びている。本発明の本体が歯科用インプラントである場合、この表面領域は、表面から10μm〜35μmの範囲の深さに伸びている。
【0046】
本発明によれば、単一の粒子の代わりに、複数の塊がセラミック基本本体に向けて射出されるので、サンドブラスト装置を用いることができる。サンドブラスト装置による射出は、堆積されるべき材料の量、ブラスティング圧力、ブラスティング距離、及びブラスティング持続時間等のパラメータを、それぞれの必要に適合させることができるため、特に好ましい。特に、これらのパラメータは、複数の塊の運動量が十分に高く、セラミック本体の表面上に複数の塊が良好に固着するのを確実にし、表面の損傷を防ぐのに十分低くなるように選択することができる。
【0047】
与えられるトポ
グラフィー的な表面の構造は、特に、ブラスティング距離及びブラスティングコーンに適合することによって制御され得る。
必要ならば、サンドブラスト装置は、さらに、冷却手段を含み、これにより、ブラスディングノズルに複数の塊の有機的な小片が溶解するのを防止する。
【0048】
一般に、セラミック本体は、焼結処理によって用意される。それぞれの焼結処理は、当業者によって良く知られており、また、例えば、特許文献9に記載されている。この開示内容は、参考として、本発明に包含される。
【0049】
焼結処理に関して、本発明の方法は、さらに次のステップを含んでいる。
(a)セラミック材料と結合剤の複数の粒子を含むグリーン基本本体を形成し、
(b)ブラウン基本本体を前記グリーン基本本体から結合剤を取り除くことによって形成し、
(c)前記ブラウン基本本体を焼結することによって、セラミック本体を形成する。
【0050】
その結果、複数の塊は、グリーン基本本体の表面上に堆積されることが好ましい。これは、グリーン基本本体が、ブラウン基本本体よりも良い塊の運動量に一般的に耐える結合剤を含むという事実による。また、この実施形態に従う基本本体とこれに堆積した塊は、同一のステップで焼結されるので、焼結中、材料の収縮により生じるクラックは形成されない。
【0051】
好ましくは、複数の塊は、グリーン基本本体が形成されるセラミック材料に基づいている。このセラミック材料に対して、カルシウムリン酸塩鉱物、特に、水酸リン灰石が加えられる。
【0052】
水酸リン灰石は、約950℃以上の温度で空気中において焼結されるとき、一般的に、リン酸三カルシウムに分解されることが知られているが、最近、焼結プロセスの発展により、水酸リン灰石の分解は、抑圧されまたは削除されることが顕著である。この点は、例えば、キム(Kim)他による「バイオマテリアルズ」の2002年12月号 第4113−4121頁に言及されている。
【0053】
ここでは、CaF
2(5 vol-%より低い)の少量が、ジルコニア−水酸リン灰石の混合物に付加されることを教示している。ジルコニア−水酸リン灰石の混合物を焼結するための技術は、検出可能な水酸リン灰石の分解なしに、例えば、アドルフソン(adolfsson)他による「J.Am.Ceram.Soc.」の83 [11] (2000)第2798−2802頁に開示されている。その結果、構造上の水が解放されるときに形成される空孔の割合を減少する。さらに、ナヤク(Nayak)他による「J Mater Sci: Mater Med」(2008)の第2437−2444頁には、リバースストライク(reverse strike)の沈降ルートによって、ZrO
2の均一な分散を含む水酸リン灰石の混合物を用意し、かつ、焼結を少なくして圧力により、水酸リン灰石の最小限の分解を伴ってこれら混合物の高い焼結密度を達成することを目的としている。
【0054】
さらに、ツアング(Zhang)他による「J.Am.Ceram.Soc.」の89 [11] (2006)の第3348−3355頁には、分散剤としてポリアクリル酸及びグルタミン酸、及びそこから形成されるグリーン体のサンプルを焼結より少ない圧力を用いて、水性媒体に分散した水酸リン灰石およびジルコニアから始まる、整形外科利用のためのジルコニア−水酸リン灰石の混合物を用意するためのルートを開示する。キム(Kim)他、アドルフソン(adolfsson)他、及びナヤク(Nayak)他によって物品の開示は、ここに参考として包含される。
【0055】
上述したように、セラミック基本本体および/または塊が、イットリア安定化ジルコニアの粒子を含んでいるとき、特に好ましい機械的特性を有するセラミック本体が得られる。
【0056】
例えば、ISO13356に従うイットリア安定化ジルコニアが用いられる。好ましいイットリア安定化ジルコニアの例は、トーソーのグレードTZ-3YSB-Eのジルコニア粉末(トーソー コーポレーション)であり、この成分は、4.95〜5.35重量%のY
2O
3、0.15〜0.35重量%のAl
2O
3、最大限0.02重量%のSiO
2、最大限0.01重量%のFe
2O
3、最大限0.04 重量%のNa
2Oを含み、さらに、2.7〜3.9重量%のIg損失に相当する量の結合剤を含んでおり、このパーセントは、ジルコニア粉末の全重量に基づいている。
【0057】
好ましい実施形態によれば、この方法は、さらに、ブラ
ウン基本本体を焼結した後、以下の工程を含む。
(1)ポスト温度処理、特に、本体の熱間等静圧圧縮成形(HIP)の工程
一般的に、熱間等静圧圧縮成形は、不活性の圧力ガス内でセラミック本体を処理した後、空気中で、本体を処理する。
【0058】
さらなる構成によれば、本発明は、上述した処理によって得られる本体に関する。前記本体は、本体の表面からある深さに伸びる表面領域を含む。この表面領域は、カルシウムリン酸塩鉱物、特に、水酸リン灰石を含む。好ましくは、カルシウムリン酸塩鉱物を含む表面領域は、少なくとも骨に埋設されるように設計された基本本体の領域上に形成される。
【0059】
この点で、本体は、上述したように、インプラント、より好ましくは、歯科用インプラントとして用いることが好ましい。
本発明に従う方法の特定の例は、以下に与えられる。
(実施例)
【0060】
実例1
上記したグレードTZ-3YSB-E(トーソー コーポレーション)のジルコニア粉末の約5gが、約110MPa(約34.5kN)のプレス力のプレス(ツビック ユニバーサルプリュフマシーネ)を用いて、複動式の粉末圧縮ツール(ポール オットー ウェーバー マシーネン ウント アパラテバウ ゲーエムベーハー;モデル20;サイズII、直径20mm)によって、約360Åの粒度サイズを有する結晶をプレスした。
これにより、約2.8g/cm
3の密度を有するグリーン基本本体が得られる。
【0061】
ジルコニア及び水酸リン灰石を含む複数の粒子の塊によって形成される粒状は、ツワング(Zhang)他、「整形外科の応用のための水酸リン灰石−ジルコニア合成物の製法」J.Am. ceram. soc.,89[11](2006),第3348-3355頁によって記載された方法に従って準備された。
【0062】
この粒状は、サンドブラスト装置(レントフェルト ベーシック クワトロ)内に装填され、複数の塊が、約5.5バールのブラスト圧力でかつ約14cmのブラスト距離の下で、約2〜3秒間、グリーン基本本体に向けて射出された。
【0063】
このグリーン基本本体は、付加された複数の塊を含み、以下のプログラムに従って、高温度の窯(ミーム ホグト ホッホテンパーラトゥロッフェン HT)で処理された。
(a) 1℃/min〜600℃の加熱速度で加熱し、そして、2時間600℃の温度を維持して、ブラウン本体を得る。
【0064】
(b) 5℃/min〜1450℃の加熱速度で加熱し、そして、2時間1450℃の温度を維持して、十分焼結した(ホワイト)本体を得る。
(c) 1000℃まで10℃/minの冷却速度で冷却し、そして、1000℃から室温まで自然冷却する。
本発明は、さらに、添付の図面によってさらに説明される。