(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ガラス基板は、一般的に、ガラス原料から溶融ガラスを生成させた後、溶融ガラスをガラス基板へと成形する工程を経て製造される。上記の工程中に、必要に応じて溶融ガラスが内包する微小な気泡を除去する工程(以下、清澄ともいう)が含まれる。清澄は、清澄管を加熱しながら、この清澄管にAs
2O
3等の清澄剤を配合させた溶融ガラスを通過させ、清澄剤の酸化還元反応により溶融ガラス中の泡が取り除かれることで行われる。より具体的には、粗溶解した溶融ガラスの温度をさらに上げて清澄剤を機能させ、泡を浮上脱泡させる。その後、温度を下げることにより、脱泡しきれずに残った比較的小さな泡を溶融ガラスに吸収させる。すなわち、清澄は、泡を浮上脱泡させる処理(以下、脱泡処理または脱泡工程ともいう)及び小泡を溶融ガラスへ吸収させる処理(以下、吸収処理または吸収工程ともいう)を含む。清澄剤は従来As
2O
3が一般的であったが、近年、環境負荷を低減する観点から、SnO
2やFe
2O
3等が用いられるようになってきている。
【0003】
高温の溶融ガラスから品位の高いガラス基板を量産するためには、ガラス基板の欠陥の要因となる異物等が、ガラス基板を製造するいずれの装置からも溶融ガラスへ混入しないよう考慮することが望まれる。このため、ガラス基板の製造過程において溶融ガラスに接する部材の内壁は、その部材に接する溶融ガラスの温度、要求されるガラス基板の品質等に応じ、適切な材料により構成する必要がある。たとえば、上述の清澄管を構成する材料は、通常白金または白金合金等の白金族金属が用いられていることが知られている(特許文献1)。白金または白金合金は、高価ではあるが融点が高く、溶融ガラスに対する耐食性にも優れている。
脱泡工程時に清澄管を加熱する温度は、成形するべきガラス基板の組成によって相違するが、1000〜1650℃程度である。
清澄管に上述の溶融ガラスを通過させる際に、清澄管の内部表面と溶融ガラスの液面との間に一定広さの脱泡用の気相空間を有するようにすることが必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の気相空間には溶融ガラスから酸素を含む気泡が放出されるため、清澄管のうち気相空間に接する内壁部分の白金または白金合金が揮発する。
ところで、ガラス基板の製造においては、用いる清澄剤によって清澄作用が効果的に発揮される温度が異なることが知られている。例えば、As
2O
3(亜ヒ酸)は、気泡を除去する能力に優れており、清澄温度も1500℃程度以上の範囲で足りるため、従来は清澄剤としてAs
2O
3を用いるのが一般的であった。しかし、亜ヒ酸は環境負荷が高いため、既に述べたように近年は環境負荷が高くない清澄剤としてSnO
2(酸化錫)等が用いられるようになってきている。しかし、酸化錫は亜ヒ酸と比較して脱泡工程時に泡を放出する力が弱いため、ガラスの粘性を低くして脱泡効果を上げる必要があり、したがって高い温度で清澄を行う必要がある。例えば、酸化錫を清澄剤として使用した場合は、1600℃以上に昇温させることが好ましい。このため、上述の気相空間に接する清澄管の内壁部分において、この内壁部分が従来よりも揮発しやすくなってしまうという課題があった。このような白金の揮発による薄肉化や、高温による強度の低下を防止するため、清澄管には周方向にリング状の補強材などの補強部が設けられる場合、補強部の近傍で白金の揮発物が付着しやすくなる。この付着した揮発物が落下して脱泡工程中の溶融ガラス中に混入し、ガラス基板の品質の低下を招くおそれがあった。
本発明は以上の点を鑑み、ガラス基板の製造過程において清澄管を加熱して脱泡処理を行う際、清澄剤として環境負荷の少ないSnO
2等を用いても、清澄管の強度を保ちつつ、清澄管の補強部の近傍に付着する揮発物を低減することができるガラス基板の製造方法及び製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、ガラス基板の製造工程において、溶融ガラスを清澄するための清澄槽を有するガラス基板の製造装置であって、前記清澄槽は、白金または白金合金からなる清澄管と、前記清澄管の周方向に設けられ、前記清澄管を補強する補強部と、前記清澄管の内部表面の上部の領域であって、前記清澄管に溶融ガラスを通過させて清澄する際に、前記溶融ガラスの液面上の空間として予め設定された気相空間と、を備え、前記補強部は、前記気相空間の少なくとも一部において、前記気相空間における気流の滞留が生じない形状に形成されている。すなわち、前記補強部は、前記気相空間において白金の揮発物の濃度が局所的に上昇することを防止する形状に形成されている。換言すると、前記補強部は、前記気相空間における気流と逆向きの気流を生じさせない形状に形成されている。
また、本発明の別の態様は、ガラス基板の製造工程において、溶融ガラスを清澄するための清澄槽を有するガラス基板の製造装置であって、前記清澄槽は、白金または白金合金からなる清澄管と、前記清澄管の周方向に設けられ、前記清澄管の内部表面から前記清澄管の内側へ突出する補強部と、前記清澄管の内部表面の上部の領域であって、前記清澄管に溶融ガラスを通過させて清澄する際に、前記溶融ガラスの液面上の空間として予め設定された気相空間と、を備え、前記気相空間に属する前記補強部の少なくとも一部が取り除かれている。
上記の態様において、前記気相空間に属する補強部の少なくとも一部を曲面状に形成してもよい。
また、本発明の別の態様は、ガラス基板の製造方法であって、上記のガラス基板の製造装置を用い、前記清澄管を加熱しながら、清澄剤を配合させた溶融ガラスを前記清澄管に通過させて脱泡する脱泡工程を含む。
上記の態様は、前記清澄剤が酸化錫である場合に特に適している。
上記の態様は、前記溶融ガラスは、粘度を10
2.5ポアズとする場合に、1300℃以上の溶融温度を要する材料で構成する場合に特に適している。
【発明の効果】
【0007】
本発明のガラス基板の製造装置及びガラス基板の製造方法によれば、清澄に係る温度が従来よりも高温を要するようになっても、補強部により清澄管の強度を保ちつつ、補強部の近傍において揮発物が付着し難くなる。したがって、脱泡工程中に溶融ガラスに異物が混入するのを避けることができるため、ガラス製品の品質を保つことができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明のガラス基板の製造方法の実施の形態について説明する。
【0010】
図1は、実施の形態のガラス基板の製造方法を説明するための概略図であり、ガラス基板の製造における基本的な流れを簡略的に示したものである。
ガラス基板製造装置(以下、単に装置ともいう)100は、ガラス原料を加熱して溶融ガラスを生成する溶融槽10と、溶融ガラスを清澄する清澄槽30と、溶融ガラスを成形する成形装置(図示せず)と、これらの間を接続する移送管20、40とを備えている。
移送管20は、溶融槽10と清澄槽30とを接続し、溶融槽10から導出された溶融ガラスを清澄槽30に供給する。移送管40は、清澄槽30と成形装置(図示せず)を接続し、清澄槽30から導出された溶融ガラスを成形装置(図示せず)に供給する。なお、清澄槽30と成形装置との間には溶融ガラスを撹拌して均質化するための撹拌槽が配置されることがある。矢印は溶融ガラスが流れる方向を示す。
【0011】
溶融槽10に投入されるガラス原料は、製造するべきガラス基板の組成に応じて適宜調製される。一例として、TFT型LCD用基板として用いるガラス基板を製造する場合を挙げると、ガラス基板を構成するガラス組成物を質量%で表示して、
SiO
2:50〜70%、
Al
2O
3:0〜25%、
B
2O
3:1〜15%、
MgO:0〜10%、
CaO:0〜20%、
SrO:0〜20%、
BaO:0〜10%、
RO:5〜30%(ただし、RはMg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1種であり、質量%はこれらの合計量を意味する。)、
を含有する無アルカリガラスであることが、好ましい。
なお、本実施形態では無アルカリガラスとしたが、ガラス基板はアルカリ金属を微量含んだアルカリ微量含有ガラスであってもよい。アルカリ金属を含有させる場合、R’
2Oの合計が0.10%以上0.5%以下、好ましくは0.20%以上0.5%以下(ただし、R’はLi、Na及びKから選ばれる少なくとも1種であり、ガラス基板が含有するものである)含むことが好ましい。勿論、R’
2Oの合計が0.10%未満でもよい。
また、本発明のガラス基板の製造方法を適用する場合は、ガラス組成物が、上記各成分に加えて、質量%で表示して、SnO
2:0.01〜1%(好ましくは0.01〜0.5%)、Fe
2O
3:0〜0.2%(好ましくは0.01〜0.08%)を含有し、環境負荷を考慮して、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOを実質的に含有しないようにガラス原料を調製しても良い。
【0012】
溶融槽10で生成した溶融ガラスは、移送管20を介して清澄槽30に送られる。清澄槽30では、溶融ガラスが所定温度(上記組成のガラスの場合は例えば1500℃以上)に保たれて、溶融ガラスに含まれる気泡の除去を行う脱泡工程を含む清澄が行われる。さらに、清澄槽30で清澄された溶融ガラスは、移送管40を介して成形装置へと送られる。溶融ガラスは、清澄槽30から成形装置に送られる際の移送管40において、成形に適した温度(上記組成のガラスの場合は例えば1200℃程度)となるように冷却される。成形装置では、溶融ガラスがガラス基板へと成形される。
【0013】
次に、脱泡工程を含む清澄について
図2を用いて説明する。
図2は清澄槽30の基本的な構成を示す側面図である。
清澄槽30は、主に清澄管31、清澄管31に接続されたヒータ電極32a及び32b、及び清澄管を補強する補強材としての補強部33により構成されている。
清澄管31は白金あるいは白金ロジウム合金等の白金合金の金属管であり、一般的に円筒状のものが採用されている。清澄管31の管路を流路として、溶融ガラスMGは清澄管31の内部を流れる。
【0014】
ヒータ電極32a及び32bは、清澄管31の外周壁面から清澄管31に電流を流す。清澄管31に電流が流れると、清澄管31の抵抗によってジュール熱が生じ、清澄管31の外周壁が加熱され、溶融ガラスMGの温度が所定の温度に上昇する。このようにして、清澄槽30は、溶融ガラスMGを加熱しながら、清澄剤を配合させた溶融ガラスMGを清澄管31に通過させて、溶融ガラスMGの脱泡を行う。
【0015】
補強部33は、白金あるいは白金ロジウム合金等の白金合金の金属板であり、清澄管31、31の間に配置され、両側に清澄管31、31が溶接されて接続されたリング状の板材である。補強部33は、清澄管31の周方向に設けられて、清澄管31を補強している。本実施形態では、補強部33の外径は、清澄管31と等しくされている。なお、補強部33の外径を清澄管31よりもやや大きくして、補強部33が清澄管31の外周面から突出するようにしてもよい。これにより、溶接の施工性を向上させるとともに、清澄管31の強度をより向上させることができる。
【0016】
清澄管31の内部を流れる溶融ガラスMGは、清澄管31の流路断面全体を流れるのではなく、通常、清澄管31内部の上方には、溶融ガラスMGの脱泡処理により脱泡した泡を放出させるための気相空間gが存在する。気相空間gは、清澄管31に溶融ガラスMGを通過させて脱泡する際に、溶融ガラスMGの液面上の空間として、予め設定されている。また、清澄管31上部には、気相空間gから放出した泡中のガス成分を大気に放出させるためのガス排気口30aが設けられている。気相空間gにおける気流Fは、清澄管31の内部表面31aに沿って、ガス排気口30aに向けて流れている。
【0017】
次に、本実施形態のガラス基板の製造方法、及びガラス基板製造用の清澄槽につき、
図3を用いて詳細に説明する。
図3において、(a)は、
図2の3a−3a線に沿う断面図であり、(b)は補強部33の正面図である。
図3の(a)に示すように、補強部33は清澄管31の周方向に設けられ、清澄管31の内部表面31aから清澄管31の内側へ突出したリング状の部材である。補強部33の周方向の座屈強度は、清澄管31の周方向の座屈強度よりも高い。そのため、清澄管31に補強部33を設けることで、清澄管31の周方向の座屈強度が向上する。本実施形態においては、上述の脱泡工程を含むガラス基板の製造方法において、清澄管31の内部表面31aの上部の領域であって、清澄管31に溶融ガラスMGを通過させて脱泡する際に溶融ガラスMGの液面上の空間として予め気相空間gを設定する。そして、気相空間gに属する補強部33を取り除いている。
【0018】
図3の(b)に示すように、補強部33は、気相空間gに属する部分に対応して、切り欠き部33aが設けられている。切り欠き部33aの内縁を構成する円弧の半径rは、清澄管31の内周円の半径R、すなわち清澄管31の内径Dの1/2と等しい。そのため、補強部33に切り欠き部33aが形成されている部分は、
図3の(a)に示すように、清澄管31の内部表面31aから補強部33が突出せず、気相空間gに属する部分が取り除かれた状態になる。すなわち、本実施形態では、気相空間gにおいて、清澄管31の内部表面31aから補強部33が突出する量pが0になるようにしている。その他の部分では、補強部33は、清澄管31の内部表面31aから、0よりも大きい所定の突出量pで突出するように設けられている。ここで、補強部33の突出量pは、清澄管31の内部表面31aからの清澄管31の径方向の高さであり、清澄管31の肉厚t、揮発量、温度および強度、補強部33の板厚などを考慮して、決定される。また、本実施形態において、切り欠き部33aの幅wは、清澄管31の肉厚tと等しいか、やや大きくなっている。
【0019】
気相空間gは、清澄槽30の清澄管31を流れる溶融ガラスMGの液位の調整をすることにより所定の広さを得ることが可能である。また、一定の広さの気相空間gを保持することもできる。上記の液位は、たとえばレーザ変位計を用いて必要に応じて計測し、溶融槽10に投入するガラス材料の量を増減する等の好適な方法により調整する。溶融ガラスの液位が下がると、補強部33の清澄管31の内部表面31aから突出した部分が気相空間gに露出するおそれがあるため、溶融ガラスの液位は予め設定した気相空間gの下限よりも下にならないように調整することが望ましい。
【0020】
清澄管31の内部表面31aから揮発した揮発物は気相空間g内の気流Fが滞留する部分に付着する。
図2に示すように、気相空間gにおける気流Fは、清澄管31の内部表面31aに沿って、ガス排出口30aに向かうように形成されている。そのため、
図5に示すように、清澄管に補強部が設けられる場合、補強部が清澄管の内部表面から清澄管の内側へ突出していると、補強部の近傍の気流Fに生じる渦流などにより、補強部の近傍に気流Fが滞留する。これにより、補強部の近傍の揮発物の濃度が上昇して過飽和の状態なると、その付近に揮発物が付着しやすくなる。ここで、補強部の近傍とは、補強部の表面を含み、補強部の影響を受けて気流Fが滞留し得る領域である。この補強部の近傍に付着した揮発物が落下して脱泡工程中の溶融ガラスMG中に混入し、ガラス基板の品質の低下を招くおそれがあった。
【0021】
本実施形態のガラス基板の製造方法、及びガラス基板製造用の清澄槽30では、清澄管31に溶融ガラスを通過させて脱泡処理を行う際に、溶融ガラスMGの液面上の空間として予め気相空間gを設定している。そして、気相空間gに属する補強部33を取り除くことで、補強部33を気相空間gにおける気流Fの滞留が生じない形状に形成している。すなわち、補強部33は、気相空間gの少なくとも一部において、白金の揮発物の濃度が局所的に上昇することを防止する形状に設けられている。換言すると、補強部33は、気相空間gの少なくとも一部において、ガス排気口30aに向かう気流Fと逆向きの気流や、気流Fの流れを停滞、滞留させる気流を生じさせない形状に形成されている。
このため、溶融ガラスMGに配合させる清澄剤として環境負荷の少ないSnO
2を用いることにより清澄に係る温度が高温を要し、清澄管31の気相空間gに接する部分が揮発をした場合であっても、補強部33の近傍に気相空間g内の気流が滞留せず、揮発物の濃度が局所的に上昇して過飽和状態になることがないため、揮発物が補強部33の近傍に付着しない。また、気相空間gを除いて、補強部33が清澄管31の周方向に設けられているので、補強部33によって清澄管31の強度を保つことができる。したがって、脱泡工程中に、清澄管31の強度を保ちつつ、溶融ガラスMGに異物が混入するのを効果的に避けることができ、ガラス製品の品質を保つことができる。
【0022】
ところで、清澄槽30内においては、溶融ガラスは清澄剤の酸素の放出反応が促進されるように、泡が浮上しやすい粘度、好ましくは、120poise(ポアズ)から400ポアズまでの範囲となるように、清澄槽30に供給される前に加熱される。たとえば、無アルカリガラスやアルカリを微量しか含まないアルカリ微量含有ガラス(高温粘性ガラス)、すなわち、たとえば10
2.5ポアズとする場合に1300℃以上、好ましくは1400℃以上、さらに好ましくは1500℃以上の溶融温度を要するガラス材料の場合は、1700℃、好ましくは1710℃、さらに好ましくは1720℃近傍まで昇温される。
つまり、清澄槽30の温度を、清澄槽30を構成する清澄管31の白金または白金合金の耐温度近傍まで上げる必要がある。
【0023】
したがって本実施形態は、高温粘性の高いガラス材料を用いてガラス基板を製造する場合に特に適している。具体的には、溶融ガラスを10
2.5ポアズとする場合に1300℃以上の溶融温度を要するガラス材料で構成する場合に特に適している。上記の溶融温度は1400℃以上、さらに1500℃以上の溶融温度を要するガラス材料により好適である。
また、酸化錫を清澄剤として使用した場合は、1630℃〜1700℃、好ましくは1630℃〜1710℃、さらに好ましくは1630℃〜1720℃近傍まで昇温される。つまり、清澄槽30の温度を、清澄槽30を構成する本体1の白金または白金合金の耐熱温度近傍まで上げる必要がある。したがって、本発明は酸化錫を清澄剤として使用するガラス基板の製造に特に適している。
本発明は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイ(FPD)用のガラス基板の製造に特に適している。
いずれの場合も本発明を適用することにより、清澄管31の内壁の、気相空間gに接する部分が揮発した場合であっても、清澄管31の内部表面31aに揮発物が付着することを抑制できる。
【0024】
本発明のガラス基板の製造方法の実施に際し、上述の実施形態の製造方法に限定されるものではないことは明らかである。たとえば、上述の実施形態で例示したガラス原料以外のガラス原料についても、従来から用いられてきた汎用の原料を使用すれば本発明のガラス基板の製造方法を適用することができる。
また、上述の実施形態では、溶融ガラスMGの液面上の空間として予め設定された気相空間gに属する補強部33をすべて取り除くようにした。しかし、
図4の(a)あるいは
図4の(b)に示すように、補強部33は、気相空間gに属する少なくとも一部を取り除くことで、取り除いた部分における気流の滞留が生じない形状に形成することもできる。清澄管31の気相空間gに接する部分が揮発した場合、清澄管31の頂部aにおいて揮発物が付着しやすい傾向がある。そのため、気相空間gの少なくとも頂部aにおいて、清澄管31の内部表面31aから補強部33が突出しないように、補強部33の一部を取り除く。これにより、補強部33は、頂部aの近傍で気流の滞留が生じない形状になり、補強部33の近傍への揮発物の付着が抑制される。したがって、補強部33によって清澄管31の強度を保ちつつ、溶融ガラスMGへの異物の混入を抑制し、ガラス製品の品質を保つことができる。また、気相空間gに属する補強部33に1または2以上の孔を形成することで、補強部33の近傍における気流の滞留が生じないようにしてもよい。また、気相空間gの少なくとも一部において、清澄管31の内部表面31aから補強部33が突出する量pを、その他の部分よりも小さくするだけでも一定の効果が得られる。すなわち、清澄管31の内部表面31aから補強部33が突出する量pが従来よりも減少するので、補強部33の近傍における気流の滞留が抑制され、揮発物の付着が抑制され、溶融ガラスMGへの異物の混入が抑制され、ガラス製品の品質を保つことができる。また、
図6に示すように、気相空間gに属する補強部33の少なくとも一部を曲面状、好ましくは滑らかな曲面状に形成して、補強部33の近傍における気流Fの滞留が生じないようにしてもよい。
上述の実施形態では、補強部33は、周方向に切れ目のないリング状の板材を用い、清澄管31、31の間に補強部33を配置して、補強部33の両側に清澄管31が接続される構成を採用している。しかし、本発明の態様は上述の実施形態に限られない。例えば、切れ目を有するリング状の補強部を清澄管31の内部表面31aに固定し、補強部33の切れ目の部分を清澄管31の内部に予め設定された気相空間gに対応させる。このようにして、補強部33の切れ目の部分を、清澄管31の内部表面31aから補強部33が突出しない領域として設定してもよい。また、補強部33は、切り欠き部33aを有する周方向に切れ目のないリング状の板材を、清澄管31の内部表面31aに固定しても良い。また、切り欠き部33aの円弧の半径rを、ガス排気口30aに近づくほど大きくすることにより、気流Fがガス排気口30aに向かうようにしても良い。
なお、本明細書において、「白金族金属」は、白金族元素からなる金属を意味し、単一の白金族元素からなる金属のみならず白金族元素の合金を含む用語として使用する。ここで、白金族元素とは、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)の6元素を指す。白金族金属は高価ではあるが、融点が高く、溶融ガラスに対する耐食性にも優れている。
また、清澄槽は、図示したように円筒形であることが好ましいが、溶融ガラスMGをその内部に収容する空間が確保されていればその形状に制限はなく、例えばその外形が直方体などであってもよい。
本発明は、オーバーフロー・ダウンドロー法でガラスを成形するガラス基板の製造に適する。本発明は、オーバーフロー・ダウンドロー法でガラスを成形するガラス基板の製造に適する。オーバーフロー・ダウンドロー法は、溶融ガラスを楔状成形体の両側面に沿って流下させて、前述の楔状成形体の下端部で合流させることにより板状ガラスに成形し、成形された板状ガラスを徐冷し、切断する。オーバーフロー・ダウンドロー法は、溶解したガラスを何物にも触れることなく垂直方向に引き伸ばして冷却することで、滑らかな表面を実現することができる。その後、切断された板状ガラスは、さらに、顧客の仕様に合わせて所定にサイズに切断され、端面研磨、洗浄などが行われ、出荷される。
本発明は、例えば、厚さが0.5〜0.7mmで、サイズが300×400mm〜2850×3050mmのFPD用ガラス基板の製造に適する。
なお、液晶表示装置用ガラス基板等は、その表面に半導体素子が形成されるため、アルカリ金属成分を全く含有しないか、または含まれていても半導体素子に影響を及ぼさない程度の微量であることが好ましい。また、液晶表示装置用ガラス基板等は、ガラス基板中に泡が存在すると表示欠陥の原因となるため、泡を極力低減することが好ましい。これらのことから、液晶表示装置用ガラス基板等では、上述したように、ガラス組成、溶融ガラスの温度、清澄剤等が選択されるので、本発明は、液晶表示装置用ガラス基板等の製造に適する。
その他、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々好適な他の形態への変更が可能である。
例えば、上述の実施形態では、補強部としてリング状の板材を用いる場合について説明したが、補強部は清澄管を屈曲させて清澄管の周方向に設けた凹凸であってもよい。清澄管を径方向外側に突出するように屈曲させて補強部を形成した場合には、清澄管の内部表面には凹部が形成される。また、清澄管を径方向内側に突出するように屈曲させて補強部を形成した場合には、清澄管の内部表面には凸部が形成される。補強部としてこのような凹部または凸部を有する場合、気相空間の少なくとも一部において、これらの凹部または凸部を気相空間における気流の滞留が生じない形状に形成することができる。具体的には、気相空間における凹部または凸部をその他の領域よりも小さく形成するか、あるいは気相空間において凹部または凸部を形成せず、清澄管の内部表面を平坦にすることができる。