(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数枚の薄板状の磁性体片と、前記磁性体片が収められる複数のポケットが設けられたシムトレイとを備え、前記磁性体片を積層して前記ポケット内に収め、超電導コイルが所定空間に発生させた静磁場の磁場均一度を調整する磁場調整装置において、
前記磁性体片の積層方向と異なる方向に前記磁性体片を出し入れする開口部を有し、複数枚の前記磁性体片を収納し、前記ポケット内に収められる収納容器を備えることを特徴とする磁場調整装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1Aに、本発明の第1の実施形態に係る磁場調整装置4を備えたMRI(磁気共鳴イメージング)装置1(磁場発生装置2)をX軸Y軸に平行な平面で切断した断面図を示し、
図1Bに、そのMRI装置1(磁場発生装置2)をY軸Z軸を通る平面で切断した断面図を示す。MRI装置1は、被検体を内部の撮像領域(FOV、所定空間)3に導入可能な円筒形状の磁場発生装置2と、以下、図示は省略したが、導入された被検体の生体組織を構成する原子核に核磁気共鳴を起こさせるために高周波信号を照射する照射コイル(図示省略)と、被検体から発せられる各々の磁気共鳴信号に位置情報を与えるための傾斜磁場発生装置(図示省略)と、被検体から発せられる磁気共鳴信号を受信するための受信コイル(図示省略)と、被検体を積載する寝台(図示省略)等で構成されている。
【0015】
磁場発生装置2は、被検体の生体組織を構成する原子のスピンを配向させるために、FOV3に均一磁場を生成する。磁場発生装置2は、水平方向に平行なz軸を中心軸とする円筒形状をしている。磁場発生装置2は、超電導コイルである複数のメインコイル2aと、超電導コイルである複数のシールドコイル2bと、メインコイル2aとシールドコイル2bを冷媒と共に収納し冷却する冷媒容器2dと、冷媒容器2dを真空環境下に収納し断熱する真空容器2cと、真空容器2cのFOV3側の表面(内周面)に設けられる磁場調整装置4等を有している。
【0016】
複数のメインコイル2aは、Z軸を互いに共通する中心軸とするリング形状をしている。複数のメインコイル2aは、Z軸方向に複数(
図1Bの例では4個)配置されている。複数のメインコイル2aは、FOV3に、均一磁場となる静磁場を生成する。複数のメインコイル2aは、FOV3以外にも、静磁場を生成し、特に、Z軸に対して、メインコイル2aよりも遠くの位置に漏洩磁場を生成させ、磁場調整装置4の配置位置にも静磁場を生成させる。複数のシールドコイル2bは、その漏洩磁場の大きさを小さくすることができ、磁場調整装置4の配置位置にも静磁場を生成させる。複数のシールドコイル2bは、Z軸を互いに共通する中心軸とするリング形状をしている。複数のシールドコイル2bは、Z軸方向に複数(
図1Bの例では2個(一対))配置されている。複数のシールドコイル2bは、Z軸方向において複数個配列された内の両端に配置された一対のメインコイル2aの近傍に配置されている。複数のシールドコイル2bは、X軸及びY軸方向に関してZ軸の両端に配置された一対のメインコイル2aよりも遠くに配置されている。メインコイル2aと、シールドコイル2bとは、お互いに逆方向に通電される。メインコイル2aと、シールドコイル2bとは、FOV3における磁場均一度を高め、漏洩磁場を低減するように、それらの断面中心、辺長、及び起磁力(電流×ターン数)が最適化されている。
【0017】
磁場調整装置4は、真空容器2cのFOV3側の表面(内周面)に、複数個設けられている。複数の磁場調整装置4は、その長手方向が、Z軸方向に平行になるように配置されている。磁場調整装置4は、真空容器2cのFOV3側の内周面上に、Z軸回りの周回方向に、離散的に、そして、等間隔に配置されている。作業者は、磁場調整装置4を用いて、シミング作業を行うことにより、MRI装置1が設置されている場所の環境磁場と、超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bの設置誤差による誤差磁場を、FOV3において打ち消し、FOV3における磁場均一度を所定の値(例えば数ppm)以下にする。
【0018】
図2Aに、本発明の第1の実施形態に係る磁場調整装置4の平面図を示し、
図2Bに、その側面図を示す。
図2Cに、
図2AのA−A方向の矢視断面図を示し、
図2Dに、
図2Cの一部を拡大した、磁場調整装置4の収納容器7周辺部分を示す。
【0019】
図2Aに示すように、磁場調整装置4は、シムトレイ6と収納容器7とを有している。シムトレイ6と収納容器7には、非磁性体、例えば、樹脂やアルミニウムを用いることができる。シムトレイ6には、長手方向(L方向)に、離散的に、そして、等間隔で一列に、複数のシムポケット6aが配置されている。また、シムトレイ6は、ねじ孔6bを用いて、真空容器2c(
図1A参照)に固定可能になっている。
【0020】
図2Bに示すように、シムポケット6aは、シムトレイ6において、T方向(積層方向)に形成されたくぼみであり、複数のシムポケット6aの中に、それぞれ1つずつ、収納容器7が収められている。収納容器7は、シムポケット6aのT方向からシムポケット6aへ移動させることで、シムポケット6a内に嵌め込むことができる。収納容器7は、シムポケット6aに対して相対的に、L方向やW方向に殆んど移動しないように、シムポケット6a内に嵌め込まれている。
【0021】
また、
図2Aに示すように、収納容器7は、容器本体7aと、その容器本体7aの開口部7cに蓋をする蓋7bとを有している。蓋7bは、容器本体7aに対して相対的に、L方向に移動させることで、容器本体7aの開口部7cから蓋7bを外すことができる。収納容器7がシムポケット6a内に嵌め込まれている状態では、蓋7bを容器本体7aに対して相対的にL方向に移動させられないので、蓋7bが外れることはない。
【0022】
図2Cと
図2Dに示すように、収納容器7の内部には、複数枚のシム鉄片(磁性体片)5(51、52、53)と、複数枚のスペーサ5a(54、55、56、57)とが、T方向(積層方向)に積層された状態で収納されている。シム鉄片(磁性体片)5には、薄板状の磁性体、例えば、鉄、或いは珪素鋼板を用いることができる。スペーサ5aには、薄板状の非磁性体、例えば、樹脂やセラミックを用いることができる。スペーサ5aは、収納容器7内で、隙間ができて、シム鉄片(磁性体片)5が移動しないように設けられている。収納容器7内に収めるシム鉄片5の量(シム鉄量)を調整することにより、FOV3(
図1A参照)における静磁場の磁場強度分布を変更し、磁場均一度を調整することができる。具体的には、収納容器7内に収めるシム鉄片5の枚数や、個々のシム鉄片5の厚さを調整(変更)することにより、FOV3(
図1A参照)における静磁場の磁場強度分布を変更する。シム鉄片5の枚数を変更するには、例えば、シム鉄片51を収納容器7から引き抜いて、替わりに同じ厚さのスペーサ5aを差し込んだり、スペーサ5a(57)を収納容器7から引き抜いて、替わりに同じ厚さのシム鉄片5を差し込んだりすればよい。シム鉄片5の厚さを変更するには、例えば、シム鉄片51とスペーサ57を収納容器7から引き抜いて、替わりに、シム鉄片51とスペーサ57を合わせた厚さのシム鉄片5を差し込んだり、シム鉄片53を収納容器7から引き抜いて、合わせた厚さがシム鉄53の厚さと同じのシム鉄片5とスペーサ5aを差し込んだりすればよい。
【0023】
図3に、シムポケット6a(
図2A参照)から取り出され、蓋7bを開けた状態の収納容器7の斜視図を示す。収納容器7内に収めるシム鉄片5のシム鉄量、すなわち、シム鉄片5の枚数や、個々のシム鉄片5の厚さを、変更するには、
図3に示すように、収納容器7をシムポケット6a(
図2A参照)から取り出し、収納容器7の容器本体7aから蓋7bを外す。これにより、容器本体7aの開口部7cが開き、収納容器7内に収められていた全てのシム鉄片5(51、52、53)の端面と、収納容器7内に収められていた全てのスペーサ5a(54、55、56、57)の端面が露出する。シミング作業の作業者は、開口部7cから一見するだけで、収納容器7内に収められている全てのシム鉄片5(51、52、53)の枚数とそれぞれの厚さと、収納容器7内に収められている全てのスペーサ5a(54、55、56、57)の枚数とそれぞれの厚さを知ることができる。そして、引き抜くべき厚さを備えたシム鉄片5(51、52、53)やスペーサ5a(54、55、56、57)を、他のシム鉄片5やスペーサ5aを引き抜くことなく、引き抜くことができる。そして、替わりのシム鉄片5やスペーサ5aを差し込むことができる。このように、所望のシム鉄片5(51、52、53)とスペーサ5a(54、55、56、57)に限っての引き差し(出し入れ)ができるのは、シム鉄片5(51、52、53)とスペーサ5a(54、55、56、57)の積層方向(T方向)以外のL方向やW方向(
図3の例ではL方向)から、シム鉄片5(51、52、53)とスペーサ5a(54、55、56、57)を出し入れしているからである。収納容器7の蓋7bを開ければ、どの位置に除去すべき適切な厚さのシム鉄片5があるか一目でわかる。そして、適切な厚さのシム鉄片5のみを直接取り除くことができ、調整に要する時間を短縮することができる。また、取り出すべきシム鉄片5以外は収納容器7から外に出さないので、シミング作業中のシム鉄片5の飛散、再積層時のスペーサ5aとシム鉄片5の配置ミス、取り出した際のシム鉄の変形等による磁化の変化を防止し、シミングの精度を向上させることができる。シミング精度の向上により、シミング回数の低減を図ることができる。
【0024】
このように、積層方向(T方向)と異なる方向(
図3の例ではL方向だが、W方向でもよい)に開口部7cを持つ収納容器7をシムトレイ6に設置することにより、収納容器7からシム鉄片5を外して開口部7cから最適な厚さのシム鉄片5を選んで除去することができ、再度積層し直す手間がなくなるため作業時間を低減することが可能となる。また、除去するシム鉄片5以外の配置を変えることがないため、シム鉄片5の飛散、積層時の配置ミス等を防止することができる。
【0025】
(第2の実施形態)
図4に、本発明の第2の実施形態に係る磁場調整装置の収納容器7(蓋7bを開けた状態)の斜視図を示す。第2の実施形態の収納容器7が、第1の実施形態の収納容器7と異なっている点は、シム鉄片5とスペーサ5aが収納される収納空間7dを積層方向(T方向)に分割する仕切り板7eを有している点である。仕切り板7eは、容器本体7aに固定されている。
【0026】
詳細は後記するが、本願発明では、シミング作業において、磁場分布測定とシム鉄量の調整を行うが、磁場分布測定に先立って、シム鉄量の調整を行う。磁場分布測定に先立ったシム鉄量の調整で、シム鉄片5とスペーサ5aが収納容器7内に置かれるので、その後の磁場分布測定の後のシム鉄量の調整では、既に収納容器7内に置かれているシム鉄片5を除去することができる。磁場分布測定に先立ったシム鉄量の調整では、仕切り板7eの上側に
図4の例に示すようにシム鉄片51を配置し、下側の収納空間7dにシム鉄片52、53を配置している。このように、少なくとも上側の収納空間7dにシム鉄片51を配置しておく。そして、磁場分布測定の後のシム鉄量の調整では、下側の収納空間7dに配置したシム鉄片52、53(5)を増減させる。磁場分布測定の際には、T方向(積層方向)の上方向にFOV3(
図1A参照)が位置するので、シム鉄量の調整で増減されないFOV3側のシム鉄片51とFOV3との距離は変わらず一定となる。これによって、シム鉄片5(51、52、53)が、FOV3に作る磁場の再現性を向上させることができる。そして、シミング作業におけるシム鉄量の調整の回数を低減させることができる。
【0027】
(第3の実施形態)
図5に、本発明の第3の実施形態に係るMRI装置1(磁場発生装置2、
図1A参照)の磁場調整方法(シミング作業)のフローチャートを示す。第3の実施形態では、シミング作業において、磁場分布測定とシム鉄量の調整を行うが、磁場分布測定に先立って、シム鉄量の調整を行う。そして、その磁場分布測定に先立つシム鉄量の調整は、事前に実施するシム鉄分布のシミュレーションの結果に基づいて行われる。このため、超電導コイルによって静磁場をFOV3に発生させその静磁場を計測する磁場分布測定を行う前に、シム鉄量の調整が行われ、シムトレイ6の収納容器7にシム鉄片5が配置されることになる。
【0028】
図5に示すように、まず、ステップS1で、計算機が、事前シム鉄分布のシミュレーションを行う。
【0029】
次に、ステップS2で、シミング作業の作業者が、事前シム鉄分布のシミュレーション結果に基づいて、シム鉄量の調整を行う。具体的には、シム鉄片5とスペーサ5aを収納容器7内に配置(挿入)し、その収納容器7をシムトレイ6に配置し、そのシムトレイ6を真空容器2cに配置する。
【0030】
ステップS3で、MRI装置1(磁場発生装置2)は、メインコイル2aとシールドコイル2bを励磁させ、FOV3に静磁場を発生させる。シミング作業の作業者は、FOV3における磁場分布B1を計測する。
【0031】
ステップS4で、計算機は、FOV3における磁場分布B1の計測結果に基づいて、FOV3における磁場分布B1の磁場均一度を計算する。シミング作業の作業者は、計算結果の磁場均一度が、所定の高精度な磁場均一度(例えば数ppm以下)を達成しているか否か判定する。達成している場合は(ステップS4、Yes)、この磁場調整方法(シミング作業)のフロー(チャート)をストップし、シミング作業を終了させる。達成していない場合は(ステップS4、No)、ステップS5へ進む。
【0032】
ステップS5で、シミング作業の作業者が、ステップS3において計測した磁場分布B1に基づいて、シム鉄量の調整を行う。具体的には、消磁してからシムトレイ6を真空容器2cから引き抜く。各シムポケット6aから収納容器7を外し、蓋7bを開けて、シム鉄片5とスペーサ5aを抜き差しし、シム鉄量を調整する。なお、シム鉄片5は、ステップS2において、収納容器7に挿入されているので、ステップS5では、挿入のみならず除去することができる。その収納容器7をシムトレイ6に配置し、そのシムトレイ6を真空容器2cに配置する。そして、ステップS3に戻る。このステップS3、S4、S5のループを、磁場均一度が所定の値に達するまで繰り返す。
【0033】
図6に、
図5のステップS1の事前シム鉄分布のシミュレーション方法(その1)のフローチャートを示す。
まず、ステップS11で、計算機は、超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bの起磁力配置を、作業者等からの入力により取得する。取得する起磁力配置としては、メインコイル2aとシールドコイル2bのターン数と、それぞれのターンに流す電流と、それぞれのターンの断面の断面中心と辺長等を挙げることができる。そして、起磁力は、メインコイル2aとシールドコイル2bのコイルに流れる電流とそれらのコイルのターン数の積によって求めることができる。
【0034】
ステップS12で、計算機は、取得した起磁力配置に基づいて、超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bが、FOV3(所定空間)に作る磁場分布B1(第2磁場分布)を計算する。
【0035】
次に、A部を構成するステップS13〜S16と、B部を構成するステップS22〜S27との少なくともどちらか一方を実施する。まず、A部について説明する。
【0036】
ステップS13で、計算機は、MRI装置1(磁場発生装置2)の周囲に設置される磁性体の配置場所を、作業者等からの入力により取得する。
【0037】
図7に、MRI装置1(磁場発生装置2)が設置される検査室の平面図を示す。MRI装置1では、超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bを冷却する冷媒の消費量を低減するために冷凍機が設置されている。その冷凍機には、メインコイル2aとシールドコイル2bによる強力な磁場から冷凍機のモータを保護するために、磁性体を用いた磁気シールド8aが、磁場発生装置2(真空容器2c(
図1A参照))の上の外側の一部に設置されている。このように、磁気シールド8aは、磁場発生装置2に対して、均等ではなく局所的に配置されている。
【0038】
また、検査室から漏洩磁場を低減するために、磁性体を用いた磁気シールド8bが、検査室の壁(天井、床を含む)として、又は、壁に沿って設置されている。MRI装置1では、オペレータは操作するためのコンソール11が、磁気シールド8bの外側に置かれている。このため、磁気シールド8bの内のコンソール11に面している磁気シールド面8b1は、他の磁気シールド面8b2とは異なり、窓を有している。また、MRI装置1は、被検体を寝かせるベッド9を有している。被検体はベッド9に寝たまま、磁場発生装置2(FOV3(
図1B参照))に対して出し入れされる。このため、
図7に示すように、磁場発生装置2から引き出された状態でのベッド9のスペースを検査室内に確保するために、磁場発生装置2は検査室の中央から外れたところに配置され、1つの磁気シールド面8b2が、他の磁気シールド面8b1、8b2より、磁場発生装置2から離れている。また、検査室の上の階や下の階に部屋が無い場合(上下の階が無い場合)は、検査室の天井や床に、壁と同様に、磁気シールド8bを設ける必要はない。これらより、磁気シールド8bは、磁場発生装置2に対して、不均等に配置されている。
【0039】
また、検査室内には、精密機械をメインコイル2aとシールドコイル2bによる強力な磁場から保護するために、精密機械を覆うように磁気シールド(磁性体)8cが設けられている。磁気シールド8cは、精密機械の配置場所に応じて、均等ではなく局所的に配置されている。
【0040】
これらの磁気シールド(磁性体)8a、8b、8cは、超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bとがつくる磁場により磁化され、FOV3に不整磁場を発生させる。
【0041】
ステップS14で、計算機は、ステップS11で取得した起磁力配置に基づいて、超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bが、磁気シールド(磁性体)8a、8b、8cの配置位置に作る磁場分布B2を計算する。
【0042】
ステップS15で、計算機は、磁場分布B2によって磁化した磁気シールド(磁性体)8a、8b、8cにおける磁化分布M1を計算する。
【0043】
ステップS16で、計算機は、磁化分布M1がFOV3に作る磁場分布B3(第1磁場分布)を計算する。以上により、A部は終了する。次に、A部の後に実施されるステップS17〜S21について説明する。なお、A部が実施されない場合は、ステップS17〜S21は、ステップS12の後に実施される。
【0044】
ステップS17で、計算機は、共にFOV3における磁場分布B3(第1磁場分布)と磁場分布B1(第2磁場分布)について、磁場分布B3(第1磁場分布)を磁場分布B1(第2磁場分布)に加えて(重ね合わせて)、合成磁場分布B4を計算する(B4=B1+B3)。
【0045】
ステップS18で、計算機は、FOV3における磁場均一度を調整する際に目標とする目標磁場分布B0と、合成磁場分布B4との、差分磁場分布ΔB1(第1差分磁場分布)を計算する(ΔB1=B4−B0)。
【0046】
ステップS19で、計算機は、FOV3に差分磁場分布ΔB1(第1差分磁場分布)を作るような、シムトレイ6(収納容器7)の配置場所における事前磁化分布ΔM1(第1追加事前磁化分布)を計算する。この計算には、先行技術文献として示した特許文献1と2に記載された特異値分解法あるいは球面調和関数による展開法を用いることができる。
【0047】
ステップS20で、計算機は、ステップS11で取得した起磁力配置に基づいて、超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bが、シムトレイ6(収納容器7)の配置場所に作る磁場分布B5(第3磁場分布)を計算する。
【0048】
ステップS21で、計算機は、シムトレイ6(収納容器7)の配置場所において、ステップS20で計算した磁場分布B5(第3磁場分布)によって、ステップS19で計算した事前磁化分布ΔM1(第1事前磁化分布)を生じるような、事前シム鉄分布ΔS1(第1シム鉄分布)を計算する。事前シム鉄分布ΔS1(第1シム鉄分布)により、収納容器7毎に挿入(除去)すべきシム鉄量(シム鉄片5の量)が取得可能になり、シム鉄片5の配置が可能になる。事前シム鉄分布ΔS1(第1シム鉄分布)にしたがったシム鉄量を収納容器7に配置することで、MRI装置1の周囲に設置された磁気シールド(磁性体)8a、8b、8cがつくる磁場によるFOV3の磁場均一度の低下を抑制することができる。
【0049】
次に、ステップS22〜S27で構成されるB部について説明する。B部によれば、MRI装置1の加工、組立て段階における超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bの設置誤差によるFOV3の磁場均一度の劣化を抑制することができる。
【0050】
ステップS22で、計算機は、超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bの設置誤差の最大許容値を、作業者等からの入力により取得する。
【0051】
ステップS23で、計算機は、設置誤差の最大許容値分ずらした超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bが、FOV3に作る磁場分布B11(第4磁場分布)を計算する。
【0052】
ステップS24で、計算機は、FOV3における磁場均一度を調整する際に目標とする目標磁場分布B0と、磁場分布B11(第4磁場分布)との差分磁場分布ΔB2(第2差分磁場分布)を計算する(ΔB2=B11−B0)。
【0053】
ステップS25で、計算機は、差分磁場分布ΔB2(第2差分磁場分布)の磁場強度を略半分(1/2)にした差分磁場分布ΔB3(第3差分磁場分布)を計算する(ΔB3=ΔB2/2)。磁場強度を略半分(1/2)にしているのは、設置誤差による磁場変化量にはプラス成分とマイナス成分があり、マイナス成分に相当するシム鉄片5を、
図5のステップS2で予めシムトレイ6(収納容器7)に分布させておくためである。
【0054】
ステップS26で、計算機は、FOV3に差分磁場分布ΔB3(第3差分磁場分布)を作るような、シムトレイ6(収納容器7)の配置場所における事前磁化分布ΔM2(第2事前磁化分布)を計算する。この計算には、先行技術文献として示した特許文献1と2に記載された特異値分解法あるいは球面調和関数による展開法を用いることができる。
【0055】
ステップS27で、計算機は、シムトレイ6(収納容器7)の配置場所において、ステップS20で計算した磁場分布B5(第3磁場分布)によって、ステップS26で計算した事前磁化分布ΔM2(第2事前磁化分布)を生じるような、事前シム鉄分布ΔS2(第2シム鉄分布)を計算する。事前シム鉄分布ΔS2(第2シム鉄分布)により、収納容器7毎に挿入(除去)すべきシム鉄量(シム鉄片5の量)が取得可能になり、シム鉄片5の配置が可能になる。事前シム鉄分布ΔS2(第2シム鉄分布)にしたがったシム鉄量を収納容器7に配置することで、MRI装置1の加工、組立て段階における超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bの設置誤差によるFOV3の磁場均一度の劣化を抑制することができる。以上で、B部が終了する。
【0056】
最後に、ステップS28で、計算機は、シムトレイ6(収納容器7)の配置場所において、事前シム鉄分布ΔS1(第1シム鉄分布)と、事前シム鉄分布ΔS2(第2シム鉄分布)を重ねて足し合わせ、合成シム鉄分布ΔS3を計算する(ΔS3=ΔS1+ΔS2)。合成シム鉄分布ΔS3により、シム鉄量を収納容器7に配置することで、MRI装置1の周囲に設置された磁気シールド(磁性体)8a、8b、8cがつくる磁場によるFOV3の磁場均一度の低下を抑制することができ、かつ、MRI装置1の加工、組立て段階における超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bの設置誤差によるFOV3の磁場均一度の劣化を抑制することができる。以上で、事前シム鉄分布のシミュレーション方法(その1)のフロー(チャート)が終了する。
【0057】
これらによれば、FOVの磁場分布を測定する前に、シム鉄量の調整ができるので、超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bの励磁・消磁の回数を低減することができる。
【0058】
(第4の実施形態)
第4の実施形態では、第3の実施形態で説明した
図5のステップS1の事前シム鉄分布のシミュレーション方法を、データベースを作成するその2−1と、そのデータベースを利用するその2−2とに変更している。
【0059】
図8Aに、第4の実施形態で用いる事前シム鉄分布のシミュレーション方法(その2−1)のフローチャートを示し、
図8Bに、第4の実施形態で用いる事前シム鉄分布のシミュレーション方法(その2−2)のフローチャートを示す。
【0060】
まず、
図8AのステップS31で、計算機は、ステップS11と同様に超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bの起磁力配置を取得し、ステップS13と同様に磁性体の配置場所を取得する。
【0061】
ステップS32で、ステップS14と同様に、計算機は、ステップS31で取得した起磁力配置に基づいて、超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bが、磁気シールド(磁性体)8a、8b、8cの配置位置に作る磁場分布B2を計算する。
【0062】
ステップS33で、ステップS15と同様に、計算機は、磁場分布B2によって磁化した磁気シールド(磁性体)8a、8b、8cにおける磁化分布M1を計算する。
【0063】
ステップS34で、ステップS16と同様に、計算機は、磁気シールド(磁性体)8a、8b、8c毎に、磁化分布M1がFOV3に作る磁場分布B3(第1磁場分布)を計算する。
【0064】
ステップS35で、計算機は、磁気シールド(磁性体)8a、8b、8c毎に、磁場分布B3(第1磁場分布)を記憶したデータベースを作成する。このデータベースは、超電導コイルの起磁力配置と、磁気シールド(磁性体)8a、8b、8c毎の配置場所とに基づいて、対応する磁気シールド(磁性体)8a、8b、8cが生成する磁場分布B3を読出すことができる。例えば、冷凍機のモータを保護するための磁気シールド8a(
図7参照)では、冷凍機の機種毎に磁気シールド8aの形状が異なるのであれば、その冷凍機の機種毎(磁気シールド8aの形状毎)に、磁場分布B3(第1磁場分布)を計算し、データベースに記憶させておく。また、検査室からの漏洩磁場を低減するための磁気シールド8b(
図7参照)では、磁気シールド8bを、検査室の天井と床に設けるか否かの場合分けによって、その場合分け毎に、磁場分布B3(第1磁場分布)を計算し、データベースに記憶させておく。また、精密機械を覆うための磁気シールド8c(
図7参照)では、その精密機械の種類毎(磁気シールド8cの形状毎)に、磁場分布B3(第1磁場分布)を計算し、データベースに記憶させておく。以下では、以上で作成されたデータベースを利用して、合成シム鉄分布ΔS3を決定(計算)する。
【0065】
まず、
図8BのステップS11で、計算機は、
図6のステップS11と同様に超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bの起磁力配置を取得する。
【0066】
図8BのステップS12で、計算機は、
図6のステップS12と同様に、超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bが、FOV3(所定空間)に作る磁場分布B1(第2磁場分布)を計算する。
【0067】
図8BのステップS36とS37からなるA2部は、
図6のA部に置き換わるものである。したがって、第3の実施形態と同様に、A2部(ステップS36とS37)を実施せずに、ステップS22へ進んでもよい。
【0068】
ステップS36で、作業者は、MRI装置1の設置環境にあるような磁性体(磁気シールド)を、データベース内から選択し、選択結果を計算機に入力する。
【0069】
ステップS37で、計算機は、選択された磁気シールドに対応する磁場分布B3(第1磁場分布)を、データベースから読み出す。そして、
図6のステップS17へ進む。
【0070】
これによれば、以前に計算した磁性体配置であれば、計算を省略して、磁場分布B3(第1磁場分布)を取得できるので、計算の高速化、低コスト化を図ることが可能となる。
【0071】
(第5の実施形態)
第5の実施形態では、第4の実施形態で作成したデータベースを利用する方法に関する。なお、第4の実施形態で利用するデータベースは、様々な磁気シールドに関して磁場分布B3(第1磁場分布)を記憶させたが、なお、第5の実施形態で利用するデータベースでは、様々な磁気シールドと様々な超電導コイルの起磁力配置の組、すなわち、磁気シールドと超電導コイルの様々な組(組合せ)に対して、磁場分布B3(第1磁場分布)を記憶させておく。様々な超電導コイルとしては、メインコイル2a及びシールドコイル2bの断面の中心と辺長、ターン数とそれぞれのターンに流す電流等が変えられている。
【0072】
図9に、第5の実施形態で用いる事前シム鉄分布のシミュレーション方法(その3、データベースの利用方法)のフローチャートを示す。
【0073】
まず、
図9のステップS41で、計算機は、データベースから、超電導コイル(の起磁力配置)と、磁気シールド(磁性体)(の配置場所)の組を、順に読み出す。
【0074】
ステップS42で、計算機は、ステップS12と同様に、その組における超電導コイルの起磁力配置に基づいて、超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bが、FOV3(所定空間)に作る磁場分布B1(第2磁場分布)を計算する。
【0075】
ステップS43で、計算機は、その組に対応する磁場分布B3(第1磁場分布)を、データベースから読み出す。さらに、磁場分布B3(第1磁場分布)を磁場分布B1(第2磁場分布)に加えて(重ね合わせて)、合成磁場分布B4を計算する(B4=B1+B3)。
【0076】
ステップS44で、計算機は、組毎に、ステップS43で計算した合成磁場分布B4における最大値と最小値を取得する。
【0077】
ステップS45で、計算機は、組毎に、最大値と最小値の差である差分値Bpを計算する。
【0078】
ステップS46で、計算機は、差分値Bpが最小となる組を抽出する。この差分値Bpが最小となる組では、磁場分布B3(第1磁場分布)と、磁場分布B1(第2磁場分布)とが、互いに打ち消し合っていると考えられ、超電導コイルと磁気シールドとが最良の組合せになっている。そこで、ステップS47で、作業者は、この組で、MRI装置1を設置し、計算機は、このMRI装置1に対して、
図6や
図8Bに記載の事前シム鉄分布のシミュレーション方法を実施する。これによれば、MRI装置1全体でのシム鉄量を低減することができる。
【0079】
(第6の実施形態)
第6の実施形態では、MRI装置1の周辺に配置される代表的な磁気シールドによる磁場分布B3(第1磁場分布)を打ち消すような磁場分布B1(第2磁場分布)を生成するような起磁力配置を持つ超電導コイルを設計することにより、シム鉄量を低減する。
【0080】
図10に、第6の実施形態で用いる事前シム鉄分布のシミュレーション方法(その4)のフローチャートを示す。
【0081】
まず、
図10のステップS51で、計算機は、ステップS11と同様に、ベースとする超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bの起磁力配置eを取得する。
【0082】
ステップS52で、計算機は、ステップS12と同様に、取得した起磁力配置eに基づいて、超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bが、FOV3(所定空間)に作る磁場分布B1(第2磁場分布)を計算する。
【0083】
ステップS53で、計算機は、ステップS13と同様に、代表的な(特定の)磁気シールド(磁性体)の配置場所を取得する。
【0084】
ステップS54で、計算機は、ステップS14と同様に、起磁力配置eに基づいて、超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bが、代表的な(特定の)磁気シールドの配置位置に作る磁場分布B2を計算する。
【0085】
ステップS55で、計算機は、ステップS15と同様に、磁場分布B2によって磁化した代表的な(特定の)磁気シールドにおける磁化分布M1を計算する。
【0086】
ステップS56で、計算機は、ステップS16と同様に、磁化分布M1がFOV3に作る磁場分布B3(第1磁場分布)を計算する。
【0087】
ステップS57で、計算機は、ステップS17と同様に、磁場分布B3(第1磁場分布)を磁場分布B1(第2磁場分布)に加えて(重ね合わせて)、合成磁場分布B4を計算する(B4=B1+B3)。
【0088】
ステップS58で、計算機は、ステップS18と同様に、目標磁場分布B0と、合成磁場分布B4との、差分磁場分布ΔB1(第1差分磁場分布)を計算する(ΔB1=B4−B0)。
【0089】
ステップS59で、計算機は、FOV3に差分磁場分布ΔB1(第1差分磁場分布)を作るような、超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bの配置場所における差分起磁力配置Δeを計算する。この計算には、先行技術文献として示した特許文献1と2に記載された特異値分解法あるいは球面調和関数による展開法を用いることができる。
【0090】
ステップS60で、計算機は、起磁力配置eに差分起磁力配置Δeを加え、正味の起磁力配置e1を計算する。作業者は、正味の起磁力配置e1に基づいて、超電導コイルのメインコイル2aとシールドコイル2bを作製し、これらを備えたMRI装置1を作製する。そして、このMRI装置1を、代表的な(特定の)磁気シールド(磁性体)が配置された場所に設置する。
【0091】
ステップS61で、計算機は、この代表的な(特定の)磁気シールド(磁性体)の配置場所と、ステップS60で計算した正味の起磁力配置e1とに基づいて、
図6や
図8Bに記載の事前シム鉄分布のシミュレーション方法を実施する。これによれば、MRI装置1全体でのシム鉄量を低減することができる。そして、シミング作業に要する時間を短縮し、シミング作業において超電導コイルの励磁・消磁の回数を低減できる。