特許第5752904号(P5752904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5752904シート状細胞培養物のデバイスへのセット方法およびそのためのシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5752904
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】シート状細胞培養物のデバイスへのセット方法およびそのためのシステム
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20150702BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20150702BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20150702BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20150702BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20150702BHJP
   C12N 1/04 20060101ALI20150702BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20150702BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20150702BHJP
   A61L 27/00 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   C12N5/00 102
   C12N5/00 202A
   C12N5/00 202G
   C12Q1/02
   C12N1/00 K
   C12N1/04
   C12M1/00 A
   C12M3/00 Z
   A61L27/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-184073(P2010-184073)
(22)【出願日】2010年8月19日
(65)【公開番号】特開2012-39943(P2012-39943A)
(43)【公開日】2012年3月1日
【審査請求日】2013年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(74)【代理人】
【識別番号】100151068
【弁理士】
【氏名又は名称】塩崎 進
(72)【発明者】
【氏名】高崎 秀規
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−145366(JP,A)
【文献】 特開2012−39944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12M 1/00
C12M 3/00
C12N 1/00
C12Q 1/02
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Thomson Innovation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形のシート状細胞培養物のデバイスへのセッティング状態を、シート状細胞培養物の輪郭の真円度を測定することによって判定することを特徴とする、シート状細胞培養物のデバイスへのセット状態判定方法。
【請求項2】
輪郭の真円度を、画像センサーにより取得した輪郭位置データを処理することにより求める、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の方法により判定したセッティング状態に基づき、セッティング状態を改善する操作をおこなうことを特徴とする、シート状細胞培養物のデバイスへのセット方法。
【請求項4】
セッティング状態を改善する操作は、
シート状細胞培養物がセッティングされたデバイスを、液中に没するステップ、
没した状態でシート状細胞培養物に振動を与えるステップ、および
再度デバイスにセッティングするステップを含むことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
円形のシート状細胞培養物のデバイスへのセット状態を判定するシステムであって、
デバイスにセッティングされた状態のシート状細胞培養物の輪郭位置データを取得する手段と、
輪郭位置データから、真円度を測定する手段と、
測定結果を出力する手段とを含む、前記システム。
【請求項6】
請求項4記載のシステムを含み、比較結果に基づきセッティング状態を改善する操作をおこなう手段をさらに含む、シート状細胞培養物のデバイスへのセットシステム。
【請求項7】
シート状細胞培養物に振動を加える手段を更に含む、請求項5に記載のシステム。
【請求項8】
シート状細胞培養物に振動を加える手段は、シート状細胞培養物が浮遊する液を振動させる手段である、請求項6に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状細胞培養物を、例えば臨床的適用のための移送に用いるデバイス等の所定の状態でセットする必要があるデバイスにセッティングする方法およびそのためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
心不全に対する治療法として、βブロッカーやACE阻害剤による内科治療が行われ、重症化した心不全(重症心不全)には、補助人工心臓や心臓移植などの置換型治療が行われる。
【0003】
しかし、重症心不全に対する置換型治療は、慢性的なドナー不足、継続的な免疫制御、合併症の発症など解決すべき課題が多く、多くの重症心不全患者に対する普遍的な治療法とは言い難い状況である。
【0004】
そのような中、最近、重症心不全治療の解決策として新しい再生医療の展開が不可欠と考えられている。
【0005】
例えば、重症心筋梗塞等においては、心筋細胞が機能不全に陥り、さらに線維芽細胞の増殖、間質の繊維化が進行し、心不全を呈するようになる。心不全の進行に伴い、心筋細胞は傷害され、アポトーシスに陥るが、心筋細胞は殆ど細胞分裂をおこさないため、心筋細胞数は減少し、心機能の低下もさらに進む。
【0006】
このような重症心不全患者に対する心機能回復戦略として、細胞移植法が有用とされ、既に自己骨格筋芽細胞による臨床応用が開始されている。
【0007】
しかし、実際に細胞移植法により臨床的に心機能を十分に向上させるためには、直接心筋内注入による方法では、移植細胞の70〜80%が失われ、その効果を十分に発揮できない点や、不整脈等の副作用の問題、大量かつ安全な細胞源の確保などの問題点の解決が不可欠である。また、細胞注入局所へ炎症を惹起するとともに局所的な細胞移植しか行えず、例えば、拡張型心筋症のように心臓全体の心機能が低下した場合に限界がある。
【0008】
近年、これらの問題に対し、組織工学を応用した温度応答性培養皿を用いた3次元組織構造物としての細胞シートと、その製造方法が提供された(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また、臨床への適用に障害となり得る製造工程由来不純物成分を含まないシート状細胞培養物、およびその製造方法が提供された(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
このような細胞培養物を、目的とする患部(移植部位)に移植するには、例えば、細胞培養物の端部をピンセット等で摘んで、細胞培養物を包装容器から取り出し、患部まで移送し、その患部に移植(貼付)するといった一連の操作が必要となるが、細胞培養物は、絶対的な物理的強度が低く、皺、破れ、破損などが生じ易いことから、この一連の操作には高度な技術が要求され、かつ細心の注意を払う必要がある。
【0011】
細胞培養物の強度を補うため、親水性PVDF膜、ニトロセルロース膜を用いた支持体やヒトフィブリノゲン等を足場とした支持体が知られ、さらに細胞培養物を対象とした移動治具や運搬投与器具が提供されており、前述の温度応答性培養皿に対応した細胞培養物のための支持体(Cell ShifterTM、セルシード製)が市販されている。
【0012】
例えば、特許文献3には、細胞付着部を有する培養細胞移動治具を用い、細胞接着性タンパク質、細胞接着性ポリマー、親水性ポリマーなどからなる細胞付着部に細胞培養基材上の培養細胞を付着させることで培養細胞を細胞培養基材上から剥離させ、その後、その培養細胞移動治具の細胞付着部と培養細胞との付着力を弱めることで、剥離させた培養細胞を特定の場所へ再び付着させることが記載されている。
【0013】
また、特許文献4には、細胞培養物を、目的とする患部に移植する際に用いる運搬投与器具が記載されている。この運搬投与器具は、内部に供給される流体圧の変化によって、平面状の展開形状と筒状の収納形状への変形動作と、基端部の曲げ動作とを行わせる治療用器具であり、具体的には、細胞培養物を患部に移植する際に細胞培養物を保持し、患部まで移送し、その患部に貼り付けるものが記載されている。
また、特許文献5には、円筒状の外筒と、該外筒内に軸線方向へ摺動可能に支持されたスライド部材と、シート状の治療用物質を支持してスライド部材の先端部に設けられ、外筒の先端部から突出された自由状態では平面状の展開形状に保たれ、スライド部材の摺動移動に応じて外筒の内部方向に移動されたときに該外筒の先端部に当接して筒状に変形しながら外筒内に収納されるシート支持部材とを有するものが記載されている。
【0014】
しかしながら、これら従来技術には、細胞培養物移送用、検査用、移植用等のデバイスに、培養物が適正にセッティングされているかどうか、すなわち、デバイスからはみ出してセットされていないか、折れ曲がりや皺が発生していないか、を検出する方法およびシステム、および、適正にセッティングされていない場合に状態を改善する方法およびシステムは、開示されておらず、シート状細胞培養物の移送用等のデバイスへのセットが適正かどうかを判定する方法、およびセッティングの改善が行える方法が必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特表2007−528755号公報
【特許文献2】特開2010−81829号公報
【特許文献3】特開2005−176812号公報
【特許文献4】特開2008−173333号公報
【特許文献5】特開2009−511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、単離したシート状細胞培養物を、移送用デバイス等のデバイスにセッティングするに際し、デバイスに適切にセッティングされているか否かを検出する方法およびシステムと、検出のみならず不適切なセッティングの場合に適切なセッティングとなるように操作をおこなう方法およびそのためのシステムとを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の目的は、単離したシート状細胞培養物を、移送用デバイス等のデバイスにセッティングするに際し、デバイスに適切にセッティングされているか否かを検出する方法およびシステムと、検出のみならず不適切なセッティングの場合に適切なセッティングとなるように操作をおこなう方法およびそのためのシステムとを提供することである。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、シート状細胞培養物を、移送用等のデバイスに適正にセッティングできているかどうか、すなわち、デバイスからはみ出してセットされていないか、折れ曲がりや皺が発生していないかを、撮像装置等により得たシート状細胞培養物の輪郭形状の、真円度を測定することによって判定することができるので、シート状細胞培養物の移送用等のデバイスへのセッティングの状態を、簡便に判定ことができ、人手を介さずに実施することもできる。更に、セッティング状態を、振動器による伸展作業により改善でき、このセッティング改善は人手を介さずに実施することもできるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、シート状細胞培養物の移送等のデバイスへのセッティング、セッティング状態の判定、セッティング状態の改善の各操作の関係を示す図である。
図2図2は、本発明の方法を実施したシート状細胞培養物の移送等のデバイスへのセッティング方法を示すフローチャートである。
図3図3は、「真円度」を説明する図である。
図4図4はシート状細胞培養物の真円度の高いもの(シート1)および真円度の低いもの(シート2、3、4)の実例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明において、「シート状細胞培養物」は、細胞が互いに連結してシート状になったものをいい、典型的には1の細胞層からなるものであるが、2以上の細胞層から構成されるものも含む。細胞同士は、直接および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも機械的に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。
【0021】
本発明において、シート状細胞培養物は、好ましくはスキャフォールド(支持体)を含まない。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、細胞培養物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、ポリ乳酸(PLA)、またはポリグリコール酸(PGA)製の膜のような合成ポリマーのスキャフォールド等が知られているが、本発明の細胞培養物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができる。また、本発明における細胞培養物は、好ましくは、細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
【0022】
本発明における、シート状細胞培養物がセットされるデバイスは、シート状細胞培養物の移送用のデバイス、移植用のデバイス、検査用のデバイス等の、シート状細胞培養物が適正な状態でセットされることが必要な各種デバイスを意味する。
【0023】
図1に、移送用デバイスを例として、デバイスへのセッティング、シート状細胞培養物の伸展操作およびセッティング状態判定の概念を説明する図を示す。セッティングは、保護液中に浮遊するシート状細胞培養物を、移送用等のデバイス上に載置することによりおこない、セッティング状態の判定は、シート状細胞培養物を保護液から出した状態で、画像センサーによる真円度測定によっておこなわれる。以下に説明するように、本発明においては、セッティング状態判定と伸展操作が、セッティングが所定の状態になるまで繰り返される。
【0024】
図2に、本発明における自動セッティングおよびセッティング状態改善のフローチャートを示す。
動作開始
(H001) 最初のセッティング操作を行う。
(H002) シート状細胞培養物をセットされた移送用等のデバイスが空中に存在する状態に移動させる。
(H003) 画像センサーによる最初の輪郭形状データ(例えば輪郭線を構成する点の位置座標)取得が行われる。
(H004) 取得した、輪郭線を構成する点の位置座標データに対して演算を行い、真円度を算出する。
(H005) 真円度が、設定した基準を超えていれば、適正にセッティングできていると判定し、その旨を表示して終了し、設定基準値を超えていなければ、
(H006) 移送用等のデバイスを、シート状細胞培養物の状態を変更できる位置すなわち保護液中に浸った位置に持ち来たす。
(H007) 設定された時間だけ、振動器により保護液容器を振動させ、セッティング操作(H001)に戻り、001〜007が繰り返される。
【0025】
好ましくは、シート状細胞培養物の移送用等のデバイスへのセッティングは、温度制御部を備えた収納庫内に保護液容器を収納して行い、収納庫内の温度をTに制御するように設定する。
【0026】
2次元座標等の輪郭データから、輪郭の真円度を計算する方法は、通常の画像処理技術・情報処理技術を用いる。例えば、得られた輪郭データに対し仮想円を想定し、仮想円からの距離の偏差の二乗和が最小となる円の中心を求めその中心からの最短距離と最長距離との差を求める、輪郭で囲まれた図形の重心からの最短距離と最長距離の差を求める等である。
【0027】
好ましい真円度の値としては、上記定義による真円度で、0.20以下であればよく、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.1以下、さらに好ましくは0.05以下、さらにより好ましくは0.01以下、さらに一層好ましくは0.005以下、さらにより一層好ましくは0.001以下である。
【0028】
シート状細胞培養物の輪郭データの取得手段は、テレビカメラのような可視光画像センサーに限られることはなく、シート状細胞培養物に悪影響を与えることなく、真円度測定ができる輪郭データを取得できれば、如何なるセンサーを用いて輪郭データを取得してもよい。
【0029】
繰り返しが設定回数を越えた場合には、セッティング改善不可能を表示して動作停止する。
【0030】
移送用等のデバイスは、シート状細胞培養物を上側にセットするもののみならず、下側にセットするものも含まれる。
【0031】
視野内に在りさえすれば、デバイスの位置がどこにあってもセッティング状態の良し悪しが判定可能であり、また、真円度で判定するので、デバイスからはみ出して折れ曲がっていても、デバイス上で端部が折り重なっていても、同様にセッティング不良であるとして検出可能である。
【0032】
画像処理により輪郭位置データが得られてからの演算操作において、真円度測定は比較的簡単な演算であり、シート状細胞培養物の形状を特に円形に選ぶことは、判定のための位置決め操作負担が軽い、再セッティングにおいてシート状細胞培養物の回転に対する許容度が高いという点で、有利である。
【実施例】
【0033】
シート状細胞培養物を培養皿から剥離し、培養液中で遊離した状態で二つの同心円(外接円および内接円)を設定した。それらの寸法は下記に示すとおりである。これらの数値から、シート状細胞培養物の真円度を測定した(下記)。これらの真円度を有するシート状細胞培養物は、移送用等のデバイスに適正にセッティングできることが確認された。

実測したシート状細胞培養物の真円度
実施例1: 外接円直径 36.0mm、内接円直径 31.0mm
真円度 0.139
実施例2: 外接円直径 37.5mm、内接円直径 33.0mm
真円度 0.120
図1
図2
図3
図4