(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、記録紙等にインク滴を吐出し、文字、図形を描画する、あるいは素子基板の表面に液体材料を吐出して機能性薄膜のパターンを形成するインクジェット方式の液体噴射ヘッドが利用されている。この方式は、インクや液体材料を液体タンクから供給管を介して液体噴射ヘッドに供給し、液体噴射ヘッドに形成した微小空間にこのインクを充填し、駆動信号に応じて微小空間の容積を瞬間的に縮小してこの微小空間に連通するノズルから液滴を吐出させる。
【0003】
この種の液体噴射ヘッドは多くの方式が提案されてきたが、そのうち圧電素子の厚み滑りモードを利用した液体噴射ヘッドは、駆動効率がよく、高密度化が可能である。例えば特許文献1には圧電体の厚み滑りモードを利用したインクジェットヘッドが記載されている。予め板面に垂直な方向に分極処理が施された圧電体材料からなる底部シートが用意され、この底部シートの表面にダイシングブレードを用いて多数の並列する溝が形成される。各溝の側壁には駆動用の電極が形成され溝の上部開口は絶縁性の上部シートにより塞がれている。そして、電極に電圧が与えられて分極方向と直交する方向に電界が印加されると、溝を構成する側壁には剪断型の歪が発生して溝により構成される微小空間の容積が変化する。この容積変化により溝に充填された液体が溝に連通するノズルから吐出される。
【0004】
特許文献2には、同じく微小空間の容積を圧電体の厚み滑り変形を利用して変化させるインク噴射ヘッドが記載されている。剛性付与プレートの上に圧力室用プレートが積層され凹部からなる圧力室が構成される。圧力室の上端開口部には圧電性プレートからなるトランスジューサが設置されている。圧電性プレートはプレート面と平行方向に分極処理が施され、分極方向は圧力室の中央部を境に互いに逆方向を向いている。圧電性プレートの圧力室側とその反対側の外側の表面には電極が形成され、この電極に電圧を与えることにより圧電性プレートの板厚方向に電界が印加される。板厚方向の電界印加により、圧電性プレートは圧力室の中央部を境に互いに逆向きの厚み滑り応力が発生し、圧電性プレートは凹部側又はその反対側に変形する剪断運動を行う。この剪断運動により圧力室に充填されたインクが圧力室に連通するオリフィスから吐出される。
【0005】
特許文献3には、同じく微小空間の容積を圧電体の厚み滑り変形を利用して変化させるインクジェットプリンタヘッドが記載されている。チャンネル本体に形成された凹部の上端開口部にセラミックス薄板が設置され、チャンネルが構成されている。セラミックス薄板は、板面に対して垂直方向に分極した圧電セラミックス層と内部電極層が横方向(板面方向)に積層された構造を有している。セラミックス薄板は、内部電極層が凹部の両側壁の上部と凹部上端の中央部に位置するように凹部の側壁上端部に接着されている。従って、板面に対して垂直方向に分極された圧電セラミックス層が、凹部の上端中央部に位置する内部電極層と凹部の両側壁の上部に位置する内部電極により挟まれる構造を有している。凹部上端の中央部の内部電極と両側壁の上部の内部電極に電圧を与えて、圧電セラミックス層の分極方向と直交する方向に電界を印加する。凹部上端の中央部の両側に位置する圧電セラミックスには、セラミックス薄板の板面方向であり、凹部上端の中央部を境に互いに逆方向の電界が印加される。これにより、セラミックス薄板に滑り変形を生じさせて凹部から成るチャンネルの容積が縮小または増大し、チャンネル内に充填されたインクが吐出される。
【0006】
特許文献4には、同じく微小空間の容積を圧電体の厚み滑り変形を利用して変化させるインクジェットプリンタヘッドが記載されている。凹部が形成された本体プレートの上端開口部に、非圧電性部材の間に圧電性部材が接着された駆動プレートが設置され、圧力室が構成されている。駆動プレートは、圧電性材料からなる薄板の両端が非圧電性材料により接着された薄板からなり、この接着部が凹部上端の中央部と凹部の側壁上部に位置する。そして、側壁上部の非圧電性部材は側壁の厚さと同じ幅を有し、中央部の非圧電性部材はより狭い幅を有する。凹部上端の中央部を境に左右の圧電性材料からなる薄板は板面内の同じ方向に分極されるか又は互いに逆方向に分極されている。圧電材料からなる薄板の圧力室側の裏面とその反対側の表面に対向するように一対の駆動用の電極が形成されている。この一対の電極に電圧を印加することにより、分極方向に直交する方向に電界が印加され、圧電性材料はシェアモード変形する。凹部上端開口部の中央部を境に左右の圧電性材料の分極方向が同じ場合は、左右の圧電性材料に逆方向の電界を印加し、左右の圧電性材料の分極方向が逆方向の場合は、左右の圧電性材料に同じ方向の電界を印加する。これにより駆動プレートは圧力室側又はその反対側に変形し、圧力室に充填されたインクが圧力室に連通するオリフィスから吐出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載されるインクジェットヘッドは、圧電体基板の表面にダイシングブレードを用いて溝を形成するが、ダイシングブレードの刃の形状により溝の長さの制約を受け、溝の配列ピッチやその容積と圧電材料からなる側壁の厚みなどが強く相関し、設計自由度が小さい。また、特許文献2に記載されるインク噴射ヘッドは、圧電性プレートの表裏面に駆動電極とは異なる帯状の複数の極性付与電極を形成し、基板表面の横方向に電界を印加して圧力室の中央部を境に互いに逆向きに分極する。そのため、圧電性プレートに分極用の電極領域が必要となり、圧力室の幅を狭く形成してインク吐出ノズルの配列を高密度化するのが困難であった。特許文献3に記載されるインクジェットヘッドは、積層セラミックスを形成する際に、圧電セラミックス材料とサーミスタ材料を交互に積層して一体焼成している。しかし、例えば百ノズルのインクジェットヘッドを形成するのにその2倍の200枚の圧電セラミックス材料とサーミスタ材料を積層して焼結しなければならず、ノズルピッチを正確に制御することが困難となり、現実的に実現することができない。また、特許文献4に記載されるインクジェットプリンタヘッドは、上記特許文献3と同様に膨大な数の圧電性部材と非圧電性部材を積層しなければならず、しかも非圧電性部材は厚い層と薄い層を交互に積層形成することが必要となり、現実的に実現することが極めて難しい。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、設計自由度が大きくしかも容易に製造することができる液体噴射ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による液体噴射ヘッドは、表面に凹部からなる圧力室を所定方向に複数配列する基体と、前記凹部の側壁上面に接合し、前記凹部の開口端を閉塞する圧電体基板と、前記圧力室に液体を供給する液体供給室と、前記圧力室から液体を吐出する吐出孔と、を備え、前記圧電体基板は前記圧電体基板の基板面と平行方向に一様に分極され、前記圧電体基板の前記圧力室とは反対側の表面及び前記圧力室側の裏面に前記圧電体基板を挟む一対の駆動電極が前記開口端の略中央部から前記凹部の側壁部まで延在するようにした。
【0011】
また、隣接する凹部の開口端を閉塞する圧電体基板は、隣接する凹部の間に設置される側壁上面において分離されることとした。
【0012】
また、前記吐出孔は前記凹部の側壁側に設置されることとした。
【0013】
また、前記吐出孔に近接する凹部の底面は前記吐出孔の開口部に向けて深さが次第に浅くなるように傾斜し、前記吐出孔に近接する凹部の側壁は前記吐出孔の開口部に向けて幅が次第に狭くなる漏斗形状を有することとした。
【0014】
また、前記液体供給室は、前記凹部の底面又は側壁面に開口する開口部を介して前記圧力室と連通し、前記所定方向に沿って前記基板に形成され、前記複数の圧力室と連通することとした。
【0015】
また、前記基体の表面に、前記液体供給室に液体を供給するための液体供給口が設置されていることとした。
【0016】
また、前記吐出孔は前記凹部の底部側に設置されていることとした。
【0017】
また、前記吐出孔は前記凹部の略中央の底部側に設置されていることとした。
【0018】
また、前記圧力室から液体を排出する液体排出室を更に備え、前記液体供給室は、前記圧力室を構成する凹部の端部に設置され、前記液体排出室は、前記圧力室に連通し、前記圧力室を挟んで前記液体供給室とは反対側の端部に設置されていることとした。
【0019】
また、前記液体排出室は、前記凹部の底面又は側壁面に開口する開口部を介して前記圧力室と連通し、前記所定方向に沿って前記基板に形成され、前記複数の圧力室と連通することとした。
【0020】
また、前記基体の表面に、前記液体排出室から液体を排出するための液体排出口が設置されていることとした。
【0021】
また、前記基体は、前記圧電体基板の裏面に形成した駆動電極と電気的に接続する共通電極を有することとした。
【0022】
また、前記共通電極は、前記所定方向に沿うように前記基板に形成された貫通孔と前記貫通孔に充填された導電材料からなることとした。
【0023】
本発明による液体噴射装置は、上記いずれかに記載の液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドを往復移動させる移動機構と、前記液体噴射ヘッドに液体を供給する液体供給管と、前記液体供給管に前記液体を供給する液体タンクと、を備える。
【0024】
本発明による液体噴射ヘッドの製造方法は、板厚方向に分極された圧電体部材を板厚方向に積層接着して圧電体ブロックを形成する積層接着工程と、前記圧電体ブロックを前記分極方向が基板面に平行となる方向に切断分離して圧電体基板を得る切断工程と、前記圧電体基板の裏面に前記分極方向と直交する方向に細長い複数の帯状の裏面駆動電極を並列に形成する裏面電極形成工程と、表面に凹部から成る圧力室を所定方向に複数配列した基体を形成する基体形成工程と、前記圧電体基板の前記積層接着された接着面を前記凹部の側壁上部に配置して前記圧電体基板を前記凹部の上面に接合する接合工程と、前記圧電体基板の表面に前記分極方向と直交する方向に細長い複数の帯状の表面駆動電極を、前記圧電体基板を挟んで前記裏面駆動電極に対向する位置に並列に形成する表面電極形成工程と、前記凹部の側壁上面に接合した前記圧電体基板を分割する圧電体基板分割工程と、を備える。
【0025】
また、前記接合工程の後に、前記圧電体基板を研削する研削工程を含むこととした。
【発明の効果】
【0026】
本発明の液体噴射ヘッドは、表面に凹部からなる圧力室を所定方向に複数配列する基体と、凹部の側壁上面に接合し、凹部の開口端を閉塞する圧電体基板と、圧力室に液体を供給する液体供給室と、圧力室から液体を吐出する吐出孔とを備えている。圧電体基板はこの圧電体基板の基板面と平行方向に一様に分極され、圧電体基板の圧力室とは反対側の表面及び前記圧力室側の裏面に前記圧電体基板を挟む一対の駆動電極が上記開口端の略中央部から凹部の側壁部まで延在する構成とした。これにより、凹部を構成する側壁の厚さや長さに関係なく圧電体基板に厚み滑り変形を生じさせることができるので、圧力室の駆動条件や、圧力室の長さや配列ピッチの設計自由度が増大し、かつ、構造が簡単で製造の容易な液体噴射ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の液体噴射ヘッドの基本的な構成を表す断面模式図である。
【
図2】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの模式的な部分斜視図である。
【
図3】本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッドの縦断面模式図である。
【
図4】本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッドを説明するための図である。
【
図5】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの模式的な部分斜視図である。
【
図6】本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッドの縦断面模式図である。
【
図7】本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッドの模式的な部分斜視図である。
【
図8】本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッドの縦断面模式図である。
【
図9】本発明の第五実施形態に係る液体噴射ヘッドの縦断面模式図である。
【
図10】本発明の液体噴射ヘッドの基本的な製造方法を表す工程図である。
【
図11】本発明の第六実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法における積層接着工程を表す模式図である。
【
図12】本発明の第六実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法における切断工程を表す模式図である。
【
図13】本発明の第六実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法における裏面電極形成工程の後の圧電体基板の模式的な斜視図である。
【
図14】本発明の第六実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法における基体形成工程の後の基体の断面模式図である。
【
図15】本発明の第六実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法における接合工程の後の基体の断面模式図である。
【
図16】本発明の第六実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法における表面電極形成工程の後の基体の断面模式図である。
【
図17】本発明の第六実施形態に係る液体噴射ヘッドの製造方法における圧電体基板分割工程の後の基体の断面模式図である。
【
図18】本発明の第七実施形態に係る液体噴射装置の模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<液体噴射ヘッド>
図1は本発明の液体噴射ヘッド1の基本的な構成を表す断面模式図である。
図1(a)は凹部3から成る圧力室4を所定方向に複数配列した状態を表す断面模式図であり、(b)は1つの圧力室4の断面模式図であり、(c)は電極に電圧を印加して厚み滑り変形が生じた状態の模式図である。本発明の液体噴射ヘッド1は、表面に凹部3からなる圧力室4が所定方向であるX方向に複数配列する基体2と、凹部3の側壁10の上面に接合し、凹部3の開口端を閉塞する圧電体基板5を備えている。更に、圧力室4に液体を供給するための図示しない液体供給室と、圧力室4から液体を吐出する図示しない吐出孔を備えている。
【0029】
圧電体基板5は、圧電体基板5の基板面と平行な方向に一様に分極されている(分極P)。圧電体基板5の圧力室4とは反対側の表面FSと圧力室4側の裏面BSに、圧電体基板5を挟む一対の駆動電極9a、9bが形成されている。一対の表面駆動電極9a、9bは、凹部3開口端の略中央から凹部3の側壁10まで延在する。つまり、一対の駆動電極9a、9bは凹部3開口端の略中央から開口端の約半分の領域の圧電体基板5を挟んでいる。
図1(c)に示すように、この一対の駆動電極9a、9bに電圧を与えて分極P方向に直交する方向に電界を印加する。これにより圧電体基板5に厚み滑り応力が発生して圧電体基板5が凹部3の内側に変形し(極性を反転させれば外側に変形し)、圧力室4に充填された液体が圧力室4に連通する図示しない吐出口から吐出される。
【0030】
このように、側壁10の厚さや長さに関係なく圧電体基板5に厚み滑り変形を生じさせることができるので、圧力室の駆動条件やX方向のピッチや長さの設計自由度が増大する。また、凹部3の開口端の圧電体基板5は一様に分極するので、分極方向を分離する電極領域や接着領域を挟む必要が無く、構造が簡単で各圧力室の駆動条件を均等化することができる。また、極性付与電極のような基板面の面内方向に分極を誘起させるための電極も必要が無いので、圧力室4を高密度に配列することができる。また、
図1に示すように、隣接する凹部3に接合した圧電体基板5を分割溝24により分離したので、隣接する圧力室4の圧電体基板5との間の容量結合が低下し、駆動信号の漏れによるクロストークを低減させることができる。
【0031】
なお、圧電体基板5は、後に詳細に説明するが、板面に垂直に分極した圧電体材料を積層接着して圧電体ブロックを形成し、この圧電体ブロックを分極方向が板面に平行となる方向に切断分離して形成することができる。この場合に、圧電体基板のつなぎ目である接着面が凹部の駆動領域に入らないように圧電体基板を側壁の上面に接合するので、各圧力室の液滴吐出性能を均等化することができる。圧電体基板5として、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム(BaTiO3)等の圧電体材料を使用することができる。駆動電極9a、9bは金属材料を蒸着法やスパッタリング法により堆積し、パターニングして形成することができる。基体2はセラミックス材料やガラス材料、その他の材料を使用することができる。この場合に、圧電体基板5の熱膨張係数に近似する材料を使用することが好ましい。以下、本発明の液体噴射ヘッド1の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0032】
(第一実施形態)
図2は、本発明の第一実施形態に係る液体噴射ヘッド1の模式的な部分斜視図である。すでに説明した
図1の縦断面模式図は
図2の部分AAの縦断面図である。
図3は
図2の部分BBの縦断面模式図である。本第一実施形態はエッジシュート型の液体噴射ヘッド1である。
【0033】
図2、
図3及び
図1(a)、(b)に示すように、基体2は、Y方向に細長く、X方向に配列する凹部3を備えている。凹部3を構成する側壁10の上面と、基体2の−Y方向側の端部(以下、基体2の後方端という。)の+Z方向の上面(以下、基体2の表面という。)に圧電体基板5が接合している。凹部3とこの凹部3の開口端を閉塞する圧電体基板5により圧力室4を構成している。圧電体基板5は、板面に平行なX方向に分極しており、隣接する凹部3の圧電体基板5とは分割溝24により分離されている。圧電体基板5は、その圧力室4とは反対側の表面FSと圧力室4側の裏面BSに圧電体基板5を挟む一対の駆動電極9a、9bを備えている。この一対の駆動電極9a、9bは、凹部3の開口端の略中央から−X方向側の側壁10まで延在している。一対の駆動電極9a、9bに電圧を与えることにより圧電体基板5の分極Pと直交する方向に電界が印加され、圧電体基板5に厚み滑り応力を生じさせる。この応力に基づいて圧電体基板5は凹部3側又はこれと反対側に変形する。
【0034】
ノズルプレート21はY方向に細長い凹部3の+Y方向側の端部(以下、凹部3の前方端という。)に設置されている。ノズルプレート21は複数の吐出孔22を有し、各吐出孔22は各凹部3に連通するように対応している。即ち、ノズルプレート21は凹部3の前方端において凹部3の側壁を構成し、従って吐出孔22は凹部3の側壁に設置したものとみなすことができる。基体2は液体供給室6を備えている。Y方向に細長い凹部3の−Y方向側の端部(以下、凹部3の後方端という。)の底面に開口部18が開口し、その底部に形成した液体供給室6と連通している。液体供給室6は、他の凹部3の後方端の底面下部に延在させて他の凹部3と連通している。従って、液体供給室6から各凹部3に液体を流入して各圧力室4に液体を充填させることができる。
【0035】
基体2は、その後方端の近傍に貫通孔14を備え、貫通孔14には導電材料15が充填されている。貫通孔14は、基体2の−Z側の下面(以下、基体2に裏面という。)に近付くにつれて直径が拡大するようにその側壁にテーパが付され、型成形を容易にしている。貫通孔14はX方向に延在し、導電材料15は他の圧電体基板5の裏面BSに形成した裏面駆動電極9bと電気的に接続して共通電極13を構成している。
【0036】
液体噴射ヘッド1は次のように動作する。液体供給室6から圧力室4にインクなどの液体を供給して充填し、共通電極13と表面駆動電極9aの間に駆動信号を与える。すると、表面駆動電極9aと裏面駆動電極9bに挟まれる圧電体基板5が厚み滑り変形する。例えば引き打ち法では、圧力室4の容積を一旦拡大させ、次に縮小させて液体に圧力を加え、吐出孔22から液滴を+Y方向に吐出する。
【0037】
圧電体基板5としてPZTセラミック材料を使用している。基体2は絶縁性セラミックス材料を使用している。圧電体基板5は基体2の側壁10の上面に接着材により接合している。ノズルプレート21はポリイミドから成る薄膜を使用することができる。液体噴射ヘッド1の形状は次のとおりである。基体2に形成した凹部3のY方向の長さを5mm〜8mmとし、X方向の幅を0.2mm〜0.3mmとし、深さを略0.2mmとする。凹部3の側壁10の厚さを約80μmとする。圧電体基板5のY方向の長さを5mm〜10mmとし、幅を0.25mm〜0.35mmとし、厚さを0.01mm〜0.1mmとする。なお、これらの材料や寸法は一例であり、本発明がこれらの材料や寸法に限定されるものではない。
【0038】
本実施形態では、圧力室4のピッチや駆動条件を側壁10の厚さにほぼ独立して設定することができるので液体噴射ヘッド1の設計自由度が大きい。また、凹部3の開口端の圧電体基板5は一様に分極するので、分極方向を分離する電極領域や接着領域を挟む必要が無く、構造が簡単で各圧力室の駆動条件を均等化することができる。また、極性付与電極のような分極形成用の電極も必要が無いので、圧力室4を高密度に配列することができる。また、圧力室を駆動する駆動信号が隣接する圧力室の圧電体基板5に漏れ出し、クロストークが発生することを低減させることができる。また、各圧電体基板5の裏面に形成した裏面駆動電極9bを貫通孔14に充填した導電材料15と電気的に接続して共通電極13として取出すので、基体2の表面に配線パターンを形成する必要が無い。
【0039】
なお、基体2の後方端近傍に貫通孔14を形成し、導電材料15を充填して共通電極13とすることに代えて、基体2の後方端近傍の表面に共通電極を形成しておき、圧電体基板5を基体2の表面に接合する際に各圧電体基板5の裏面に形成した各裏面駆動電極9bと基体2表面に形成した共通電極を電気的に接続するように構成することができる。これにより、駆動用電極を全て基体2の表面に集約的形成して駆動回路との接続を簡単化することができる。
【0040】
(第二実施形態)
図4は、本発明の第二実施形態に係る液体噴射ヘッド1を説明するための図であり、(a)が縦断面模式図であり(b)が上面模式図であり、いずれも1個の圧力室4のみ表している。第一実施形態と異なる部分は圧力室4の前端部が絞られた構造を有している点であり、その他の構成は第一実施形態と同様である。
【0041】
図4(a)及び(b)に示すように、基体2の前方端から後方端にかけて細長い凹部3が延在し、凹部3の側壁の上面に凹部3の開口端を閉塞するように圧電体基板5が接着材により接合している。基体2の前方端にはノズルプレート21が接着し、ノズルプレート21に形成した吐出孔22が凹部3により構成される圧力室4に連通する。凹部3の後方端の底面には開口部18が開口し、その底部に形成された液体供給室6に連通する。基体2はその後方端の近傍に貫通孔14を備え、貫通孔14には導電材料15が充填されている。導電材料15は圧電体基板5の裏面に形成した裏面駆動電極9bと電気的に接続して共通電極13を構成する。なお、±X方向には同じ構成の凹部3が配列している。
【0042】
図4(a)に示すように、凹部3の底面は凹部3の前方端に向かって次第に浅くなるよう傾斜23が付与されている。更に、
図4(b)に示すように、凹部3の幅は凹部3の前方端に向かって狭くなる漏斗形25を有している。これにより、圧力室4内に充填した液体が滞留する滞留領域を減少させ、液体内に混入した気泡や遺物が圧力室4内に残留し、吐出不良となることを低減させている。その他の構成は第一実施形態と同様なので、説明を省略する。
【0043】
(第三実施形態)
図5及び
図6は、本発明の第三実施形態に係る液体噴射ヘッド1を説明するための図である。
図5は液体噴射ヘッド1の模式的な部分斜視図であり、
図6(a)、(b)は部分CCの縦断面模式図であり、(c)は部分DDの縦断面模式図である。本第三実施形態はサイドシュート型の液体噴射ヘッド1である。同一の部分または同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0044】
図5及び
図6に示すように、基体2は、Y方向に細長い凹部3からなり、X方向に配列する複数の圧力室4を備えている。凹部3のY方向の両端部は基体2の側壁10により囲まれている。各凹部3を構成する側壁10の上面と基体2の後方端側の表面に圧電体基板5を接合し、各凹部3の開口端を閉塞して圧力室4を構成している。各凹部3の上端開口部に設置した圧電体基板5は、板面に平行なX方向に分極しており(分極P)、更に隣接する凹部3の上部に接合した圧電体基板5とは分割溝24により分離している。圧電体基板5は、凹部3とは反対側の表面FSと凹部3側の裏面BSに圧電体基板5を挟むように一対の表面駆動電極9aと裏面駆動電極9bを備えている。この一対の表面及び裏面駆動電極9a、9bは、凹部3の開口端の略中央から−X方向の側壁10まで延在する。この一対の表面及び裏面駆動電極9a、9bに電圧を与えることにより圧電体基板5の分極Pと直交する方向に電界が印加され、圧電体基板5に厚み滑り応力が発生し、この応力に基づいて圧電体基板5は凹部3側又はこれと反対側に変形する。
【0045】
基体2は、圧電体基板5を接合した表面とは反対側の裏面に接着材により接着したノズルプレート21を備えている。基体2は、凹部3の後方端近傍の底面に開口部18を有し、前方端近傍の底面に他の開口部18’を有している。開口部18はその下部のノズルプレート21と基体2に囲まれる液体供給室6に連通し、開口部18’はその下部のノズルプレート21に形成した吐出孔22に連通している。従って、吐出孔22は、凹部3の前方端近傍であり凹部3の短手方向の幅の中央部の位置のノズルプレート21に設置されている。液体供給室6は他の凹部3の後方端近傍の底面下部に延設して他の圧力室4と連通し、基体2の−X方向の端部近傍の表面に形成した液体供給口20に連通している。これにより、基体2の表面側から液体の供給を可能としている。
【0046】
基体2は後方端近傍に貫通孔14を備えている。貫通孔14には導電材料15が充填され、圧電体基板5の裏面BSに形成した裏面駆動電極9bに電気的に接続して共通電極13を構成している。貫通孔14の側壁は基体2の裏面側に直径が拡大するようにテーパを付されている。貫通孔14はX方向に延在し、導電材料15が他の圧電体基板5の裏面BSに形成した裏面駆動電極9bと電気的に接続して共通電極13を構成し、基体2の−X方向の端部近傍の表面に表出している。従って、共通電極13に基体2の表面側から駆動信号を供給することができる。
【0047】
液体噴射ヘッド1は次のように動作する。基体2の表面に設けた液体供給口20にインク等から成る液体を供給し、液体供給室6を介して圧力室4に充填する。共通電極13と各圧電体基板5に形成した個別の表面駆動電極9aとの間に駆動信号を与える。表面駆動電極9aと裏面駆動電極9bに挟まれる圧電体基板5が厚み滑り変形し、圧力室4の容積が瞬間的に変化して吐出孔22から液滴が吐出される。液滴は凹部3の長さ方向に直交する基体2の裏面側の−Z方向に吐出される。その他、圧電体基板5や基体2の材料や凹部3や圧電体基板5の形状は第一実施形態と同様なので説明を省略する。
【0048】
この構成により、側壁10の厚さや長さに関係なく圧電体基板5に厚み滑り変形を生じさせることができるので、駆動条件の設定やX方向のピッチや長さ設計の自由度が大きい。また、凹部3の開口端の圧電体基板5は一様に分極するので、分極方向を分離する電極領域や接着領域を挟む必要が無く、構造が簡単で各圧力室の駆動条件を均等化することができる。また、極性付与電極のような分極形成用の電極も必要が無いので、圧力室4を高密度に配列することができる。また、隣接する圧力室4に設置した圧電体基板5は分割溝24により分離したので駆動信号が隣接する圧力室側に漏れ出すクロストークを低減させることができる。また、液体供給口20や共通電極13を基体2の表面に配置したので基体2の裏面を平坦化し、被記録媒体との間の距離を接近させることができる。
【0049】
(第四実施形態)
図7及び
図8は本発明の第四実施形態に係る液体噴射ヘッド1を説明するための図である。
図7は液体噴射ヘッド1の模式的な部分斜視図であり、
図8は部分EEの縦断面模式図である。第三実施形態と異なる部分は、吐出孔22を圧力室4の長手方向の略中央の下部に設置し、凹部3の前方端近傍の底部に開口部18bと液体排出室17を設置し、液体供給室6から圧力室4に流入した液体を液体排出室17から排出するスルーフロー型の液体噴射ヘッド1を構成した点であり、その他の構成はほぼ第三実施形態と同様である。同一の部分または同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0050】
図7及び
図8に示すように、基体2はY方向に細長い凹部3からなりX方向に配列した複数の圧力室4を備えている。凹部3は、Y方向の両端部が基体2の側壁10a、10bにより囲まれている。各凹部3を構成する側壁10の上端開口部に圧電体基板5が接合され、圧電体基板5は板面に平行なX方向に分極し、隣接する凹部3に設置した圧電体基板5とは分割溝24により分離されている。圧電体基板5は、凹部3とは反対側の表面FSと凹部3側の裏面BSに圧電体基板を挟むように一対の表面駆動電極9aと裏面駆動電極9bを備えている。この一対の表面及び裏面駆動電極9a、9bは、凹部3の開口端の略中央から−X方向の側壁10まで延在する。この一対の表面及び裏面駆動電極9a、9bに電圧を与えることで圧電体基板5の分極Pと直交する方向に電界が印加され、圧電体基板5に厚み滑り応力が発生してこの応力に基づいて圧電体基板5は凹部3側又はこれと反対側に変形する。
【0051】
基体2は、その裏面に接着されたノズルプレート21を備えている。基体2は、凹部3の後方端の底部に開口部18aを、凹部3の前方端の底部に開口部18bを、更に凹部3の長手方向の中央部の底部に開口部18’を有している。開口部18aはその下部のノズルプレート21と基体2に囲まれる液体供給室6に連通し、開口部18bはその下部のノズルプレート21と基体2に囲まれる液体排出室17に連通し、開口部18’はその下部のノズルプレート21に形成した吐出孔22に連通している。液体供給室6と液体排出室17は、他の凹部3の後方端及び前方端のそれぞれの底部に延在して他の凹部3と連通し、更に基体2の−X方向の端部近傍の表面に形成した液体供給口20及び液体排出口19にそれぞれ連通している。これにより、基体2の表面側から供給した液体は、液体供給室6を介して圧力室4に流入し、圧力室4から液体排出室17に流出した液体は液体排出口19から排出される。基体2の後方端近傍に形成した貫通孔14に導電材料15を充填して各圧電体基板5の裏面に形成した裏面駆動電極9bに電気的に接続し、更に、基体2の−X方向の端部近傍の表面に表出させた共通電極13に電気的に接続する。
【0052】
液体噴射ヘッド1は次のように動作する。液体供給口20から供給した液体は液体供給室6を介して全ての圧力室4に流入する。そして、各圧力室4から液体排出室17に流出した液体は液体排出口19から排出される。このように、全ての圧力室4を液体が循環するように構成した。共通電極13と各圧電体基板5に形成した個別の表面駆動電極9aとの間に駆動信号を与えると、表面及び裏面駆動電極9a、9bに挟まれる圧電体基板5が厚み滑り変形し、圧力室4の容積が瞬間的に変化して吐出孔22から液滴が吐出される。
【0053】
このように圧力室4内を液体が循環するので気泡が滞留し難く新鮮な液体が常に供給されるので、信頼性の高く高品位の記録を行うことができる液体噴射ヘッド1を構成することができる。加えて、圧力室4のピッチや駆動条件を側壁10の厚さにほぼ独立して設定することができるので液体噴射ヘッド1の設計自由度が大きい。また、凹部3の開口端の圧電体基板5は一様に分極するので、分極方向を分離する電極領域や接着領域を挟む必要が無く、構造が簡単で各圧力室の駆動条件を均等化することができる。また、極性付与電極のような分極形成用の電極も必要が無いので、圧力室4を高密度に配列することができる。また、隣接する圧力室4に設置した圧電体基板5は分割溝24により分離したので容量結合が低減し、駆動信号の漏れによるクロストークを低減させることができる。
【0054】
(第五実施形態)
図9は、本発明の第五実施形態に係る液体噴射ヘッド1の縦断面模式図である。第四実施形態と異なる部分は、液体供給室6と液体排出室17の容積を拡大した点であり、その他の構成は第四実施形態と同様である。従って、以下、液体供給室6及び液体排出室17について説明し、その他は説明を省略する。同一の部分又は同一の機能を有する部分には同一の符号を付した。
【0055】
図9に示すとおり、液体供給室6は凹部3の後方端の底部に、液体排出室17は凹部3の前方端の底部にそれぞれ位置する。液体供給室6は、凹部3の後方端側の側壁10aが裏面側に抉られた領域と凹部3の後方端側の底面が裏面側に貫通する領域を加えた領域であり、ノズルプレート21により囲まれている。液体排出室17は、同様に、凹部3の前方端側の側壁10bが裏面側に抉られた領域と凹部3の前方端側の底面が裏面側に貫通する領域を加えた領域であり、ノズルプレート21により囲まれている。液体供給室6は開口部18aを介して圧力室4と連通し、液体排出室17は開口部18bを介して圧力室4と連通し、吐出孔22は開口部18’を介して圧力室4と連通している。
【0056】
このように、基体2の厚さを利用して凹部3の後方端及び前方端を構成する側壁10a、10bの一部を刳り抜いて液体供給室6と液体排出室17を形成した。そのため、液体供給室6及び液体排出室17の容積が拡大し、全ての圧力室4にほぼ同じ条件で液体の流入出を行うことができる。そのため、複数の吐出孔22の吐出条件を均等化することができる。
【0057】
<液体噴射ヘッドの製造方法>
図10は本発明の液体噴射ヘッド1の基本的な製造方法を表す工程図である。本発明の液体噴射ヘッド1の製造方法は、板厚方向に分極された圧電体部材を板厚方向、つまり分極方向に積層接着して圧電体ブロックを形成する積層接着工程S1と、この圧電体ブロックを分極方向が基板面に平行となる方向に切断分離して圧電体基板を得る切断工程S2と、圧電体基板の裏面に分極方向と直交する方向に細長い複数の帯状の裏面駆動電極を並列に形成する裏面電極形成工程S3と、表面に凹部から成る圧力室を所定方向に複数配列した基体を形成する基体形成工程S4と、圧電体基板の積層接着工程S1において積層接着した接着面を凹部の側壁上部に配置して圧電体基板を凹部の上面に接合する接合工程S5と、圧電体基板の表面に分極方向と直交する方向に細長い複数の帯状の表面駆動電極を、圧電体基板を挟んで裏面駆動電極に対向する位置に並列に形成する表面電極形成工程S6と、凹部の側壁上面に接合した圧電体基板を分割する圧電体基板分割工程S7とを備えている。
【0058】
圧電体部材としては、例えばチタン酸ジルコン酸鉛などの強誘電性のセラミックス材料を使用することができる。本発明の液体噴射ヘッドの製造方法では、積層する圧電体部材の1枚が複数の凹部、即ち複数の圧力室に対応するので、吐出孔数が増大し吐出孔ピッチが狭くなる場合でも圧電体部材の積層枚数がそれほど増えない。例えば1枚の圧電体部材の厚さを15mmとし、吐出孔ピッチ、即ち凹部形成ピッチを0.28mmとすれば、1枚の圧電体部材が50数個の凹部に対応する。つまりピッチ0.28mmの吐出孔を520個形成するのに15mmの圧電体部材を10枚積層すればよい。このように、圧電体部材の積層枚数を従来例と比較して大幅に低減することができる。
【0059】
なお、上記製造工程のステップS1・・・S7は必ずしも工程順である必要はない。基体形成工程S4は最初の工程であってもよい。表面電極形成工程S6は裏面電極形成工程S3の前であってもよいし圧電体基板分割工程S7の後であってもよい。また、基体形成工程S4において、液体供給室や液体排出室、或いは共通電極用の貫通孔を形成してもよい。また、接合工程S5の後に、圧電体基板を研削して薄膜化し、その後表面電極形成工程S6により表面駆動電極を形成することができる。これにより、圧電体基板のハンドリング等が容易となる。以下、本発明について図面を用いて具体的に説明する。
【0060】
(第六実施形態)
図11〜
図17は、本発明の第六実施形態に係る液体噴射ヘッド1の製造方法を説明するための図である。同一の部分または同一の機能を有する部分には同一の符号を付している。
【0061】
図11は積層接着工程S1を表す模式図である。板厚方向の下側方向に分極した5枚のPZTセラミックスからなる圧電体部材12を板厚方向に積層接着して圧電体ブロック26を形成する。1枚の圧電体部材12の厚さは15mmであり、厚みは±5μm以下の精度で研磨してある。各圧電体部材12は接着材を介在させ加圧しながら接着する。
【0062】
図12は切断工程S2を表す模式図である。積層接着工程S1において5枚の圧電体部材12を積層接着して形成した圧電体ブロック26を分極P方向が基板面に平行となる方向に切断分離する。ダイサーやワイヤーソーにより圧電体ブロック26を切断分離して圧電体基板5を得る。切断分離後に表面を研削及び研磨して、板厚が0.25mm以上の平坦な表面の圧電体基板5とする。板厚を0.25mm以上として、この後の電極形成、パターニング、基体2への接合の際の割れや欠けを防ぎ、作業性を向上させている。
【0063】
図13は裏面電極形成工程S3の後の圧電体基板5の模式的な斜視図である。スパッタリング法や蒸着法により圧電体基板5の裏面に金属膜を形成する。次に、フォトリソグラフィ及びエッチング法により分極方向Pに直交する方向に細長い複数の帯状の裏面駆動電極9bを並列に形成する。1本の裏面駆動電極9bは基体2に形成する1つの凹部3に対応する。本実施形態では5枚の圧電体部材12を積層接着したので、1枚の圧電体基板5には4つの接着面27が形成されている。1枚の圧電体部材12の厚さは15mmなので1枚の圧電体基板5の長さは75mmであり、例えば吐出孔ピッチが0.282mmである場合、1枚の圧電体基板5の上には約260本の裏面駆動電極9bが形成される。なお、裏面駆動電極9bは、予めレジスト等により電極パターンを形成し、次に金属膜を堆積し、次に金属膜と同時にレジスト膜を剥離するリフトオフ法により形成してもよい。
【0064】
図14は基体形成工程S4の後の基体2の断面模式図である。基体2としてセラミックス材料を使用している。基体2の表面にレジスト膜のパターンを形成し、サンドブラストやエッチング法により基体2の表面に凹部3を分極方向に沿って複数配列して形成する。凹部3の深さを0.2mm、ピッチを0.282mmとし、凹部3の側壁10の厚さは0.08mmとする。また、凹部3の長手方向の端部の底部や端部の側壁に図示しない液体供給室や共通電極用の貫通孔を形成する。
【0065】
図15は接合工程S5後の基体2の断面模式図である。圧電体基板5の接着面27を凹部3の側壁10の上部に配置して、圧電体基板5を凹部3の上面に、裏面駆動電極9bが凹部3側に位置するように接着材により接合する。各裏面駆動電極9bは凹部3の開口端の略中央部から凹部3の側壁10まで延在している。次に、研削工程により、圧電体基板5の表面を研磨して圧電体基板5の厚さを0.05mm〜0.1mmと薄膜化する。圧電体基板5の接着面27を側壁10の上面に合わせたので、圧電体基板5のつなぎ目が凹部3の駆動領域に入らず、各圧力室4の液滴吐出性能を均等化することができる。
【0066】
図16は表面電極形成工程S6の後の基体2の断面模式図である。スパッタリング法又は蒸着法により圧電体基板5の表面に金属膜を堆積し、次にフォトリソグラフィ及びエッチング法により金属膜をパターニングし、圧電体基板5を挟んで裏面駆動電極9bに対応する位置に表面駆動電極9aを形成する。つまり表面駆動電極9aは分極P方向に直交する方向に細長い複数の帯状の形状を有している。また、フォトリソグラフィ及びエッチング法に代えてリフトオフ法により表面駆動電極9aを形成することができる。
【0067】
図17は圧電体基板分割工程S7の後の基体2の断面模式図である。凹部3の側壁10の上面に接合した圧電体基板5を、ダイシングブレード等を用いて分割する。これにより、圧力室を駆動する駆動信号が容量結合により圧電体基板5を伝達して隣接する圧力室の駆動に影響を与えるクロストークが低減する。
【0068】
以上の通り、本発明の液体噴射ヘッド1の製造方法によれば、圧力室の数の分の枚数、或いはその2倍の枚数の圧電体部材12を積層接着する必要が無いので、吐出孔数が100以上の高密度の多数吐出孔の液体噴射ヘッド1であっても容易に製造することができる。また、凹部3の開口端の圧電体基板5は一様に分極するので、分極方向を分離する電極領域や接着領域を挟む必要が無く、構造が簡単で各圧力室の駆動条件を均等化することができる。また、極性付与電極のような分極形成用の電極も必要が無いので、圧力室4を高密度に配列することができる。また、圧力室を駆動する駆動信号が隣接する圧力室の圧電体基板5に漏れ出し、クロストークが発生することを低減させることができる。また、圧力室4の配列ピッチやその駆動条件を側壁10の厚さから独立して設定できるので、設計自由度が拡大する。
【0069】
<液体噴射装置>
(第七実施形態)
図18は本発明の第七実施形態に係る液体噴射装置30の模式的な斜視図である。
液体噴射装置30は、液体噴射ヘッド1、1’を搭載したキャリッジユニット38を往復移動させる移動機構43と、液体噴射ヘッド1、1’に液体を供給する液体供給管33、33’と、液体供給管33、33’に液体を供給する液体タンク31、31’を備えている。各液体噴射ヘッド1、1’は、本発明に係る第一〜第五実施形態に係る液体噴射ヘッド、又は第六実施形態の製造方法により製造される液体噴射ヘッドである。
【0070】
具体的に説明する。液体噴射装置30は、紙等の被記録媒体34を主走査方向に搬送する一対の搬送手段41、42と、被記録媒体34に液体を吐出する液体噴射ヘッド1、1’と、液体タンク31、31’に貯留した液体を液体供給管33、33’に押圧して供給するポンプ32、32’と、液体噴射ヘッド1を主走査方向と直交する副走査方向に走査する移動機構43等を備えている。
【0071】
一対の搬送手段41、42は副走査方向に延び、ローラ面を接触しながら回転するグリッドローラとピンチローラを備えている。図示しないモータによりグリッドローラとピンチローラを軸周りに移転させてローラ間に挟み込んだ被記録媒体34を主走査方向に搬送する。移動機構43は、副走査方向に延びた一対のガイドレール36、37と、一対のガイドレール36、37に沿って摺動可能なキャリッジユニット38と、キャリッジユニット38を連結し副走査方向に移動させる無端ベルト39と、この無端ベルト39を図示しないプーリを介して周回させるモータ40を備えている。
【0072】
キャリッジユニット38は、複数の液体噴射ヘッド1、1’を載置し、例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4種類の液滴を吐出する。液体タンク31、31’は対応する色の液体を貯留し、ポンプ32、32’、液体供給管33、33’を介して液体噴射ヘッド1、1’に供給する。各液体噴射ヘッド1、1’は駆動信号に応じて各色の液滴を吐出する。液体噴射ヘッド1、1’から液体を吐出させるタイミング、キャリッジユニット38を駆動するモータ40の回転及び被記録媒体34の搬送速度を制御することにより、被記録媒体34上に任意のパターンを記録することできる。