特許第5752916号(P5752916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5752916
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】アイスクリーム類
(51)【国際特許分類】
   A23G 9/32 20060101AFI20150702BHJP
   A23G 9/44 20060101ALI20150702BHJP
   A23G 9/52 20060101ALI20150702BHJP
   A23F 3/16 20060101ALN20150702BHJP
【FI】
   A23G9/02
   !A23F3/16
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-235253(P2010-235253)
(22)【出願日】2010年10月20日
(65)【公開番号】特開2011-103878(P2011-103878A)
(43)【公開日】2011年6月2日
【審査請求日】2013年9月18日
(31)【優先権主張番号】特願2009-241986(P2009-241986)
(32)【優先日】2009年10月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100068700
【弁理士】
【氏名又は名称】有賀 三幸
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】福田 昌弘
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−129757(JP,A)
【文献】 特開2007−001893(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/072360(WO,A1)
【文献】 特開2004−305012(JP,A)
【文献】 特開2005−027554(JP,A)
【文献】 特開平05−041949(JP,A)
【文献】 特開平04−088950(JP,A)
【文献】 特開2008−200030(JP,A)
【文献】 特開2007−054040(JP,A)
【文献】 特開2002−253126(JP,A)
【文献】 特開2008−253173(JP,A)
【文献】 特開平8−70772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G
A23F
A23L 1/30
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)及び(B);
(A)非重合体カテキン類 0.1〜0.8質量%、及び
(B)カフェイン
を含有し、
成分(A)に対する成分(B)の含有質量比[(B)/(A)]が0.0001〜0.18であ
成分(A)中のガレート体率が20.2〜48.1質量%であり、かつ
アイスクリーム類全体中の固形分含有量が25〜38質量%である、
アイスクリーム類。
【請求項2】
固形分中の非重合体カテキン類の濃度が55〜90重量%である緑茶抽出物の精製物を配合したものである、請求項1記載のアイスクリーム類。
【請求項3】
当該アイスクリーム類がアイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス及び氷菓のうちのいずれかである、請求項1又は2記載のアイスクリーム類。
【請求項4】
アイスクリーム類に、次の成分(A)及び(B);
(A)非重合体カテキン類 0.1〜0.8質量%、及び
(B)カフェイン
を、成分(A)に対する成分(B)の含有質量比[(B)/(A)]が0.0001〜0.18となるように添加し、成分(A)中のガレート体率を20.2〜48.1質量%、アイスクリーム類全体中の固形分含有量を25〜38質量%に調整する、アイスクリーム類の保型性改善方法。
【請求項5】
アイスクリーム類に、次の成分(A)及び(B);
(A)非重合体カテキン類 0.1〜0.8質量%、及び
(B)カフェイン
を、成分(A)に対する成分(B)の含有質量比[(B)/(A)]が0.0001〜0.18となるように添加し、成分(A)中のガレート体率を20.2〜48.1質量%、アイスクリーム類全体中の固形分含有量を25〜38質量%に調整する、アイスクリーム類の食感改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイスクリーム類に関する。
【背景技術】
【0002】
緑茶の風味を付与したアイスクリーム類として、抹茶を配合した抹茶入りアイスクリーム類が知られている(特許文献1)。しかしながら、緑茶の旨味よりも渋味や苦味といった不快な異味が強くなり、また製造時において抹茶の微粒子が凝集して塊状になり製造効率が低下しやすく、抹茶の微粒子をある程度分散させることができたとしても、アイスクリーム自体が粉っぽい舌触りとなってアイスクリーム特有の滑らかな食感が阻害されやすかった。
このような問題を解決すべく、抹茶に換えて緑茶抽出物を配合したアイスクリーム類が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−253173号公報
【特許文献2】特開平5−41949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アイスクリーム類は、一般に、配合中における固形分量が多くなる程、製造工程におけるフリージングでオーバーラン(起泡性)が悪化しやすくなるが、製造後において溶けて型崩れし難い特性(保型性)が良好となる。一方、オーバーランを高く設定すると、保型性が低下しやすくなる。そのため、高品質のアイスクリーム類には、最大オーバーランにおける保型性に優れることが求められる。
【0005】
しかしながら、従来の緑茶抽出物を配合したアイスクリーム類は、高いオーバーランと保型性の両立ができず、また、原料の緑茶抽出物由来のエグ味によりアイスクリームの食感及び清涼感が不十分となり、これら物性、食感及び清涼感が長期保存後に劣化しやすかった。
本発明の課題は、最大オーバーランにおける保型性に優れ、食感及び清涼感が良好で、その食感及び清涼感が長期保存後においても劣化することなく安定なアイスクリーム類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者は、上記課題を解決すべく、アイスクリーム類に配合すべき各種添加剤について検討したところ、意外にも緑茶由来の特定性状を有する非重合体カテキン類を添加することにより、アイスクリーム類の食感、清涼感及び保型性が顕著に改善されることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の成分(A)及び(B);
(A)非重合体カテキン類、及び
(B)カフェイン
を含有し、成分(A)に対する成分(B)の含有質量比[(B)/(A)]が0.0001〜0.18である、アイスクリーム類を提供するものである。
【0008】
本発明はまた、アイスクリーム類に、次の成分(A)及び(B);
(A)非重合体カテキン類、及び
(B)カフェイン
を、成分(A)に対する成分(B)の含有質量比[(B)/(A)]が0.0001〜0.18となるように添加する、アイスクリーム類の保型性改善方法を提供するものである。
【0009】
本発明は更に、アイスクリーム類に、次の成分(A)及び(B);
(A)非重合体カテキン類、及び
(B)カフェイン
を、成分(A)に対する成分(B)の含有質量比[(B)/(A)]が0.0001〜0.18となるように添加する、アイスクリーム類の食感改善方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、最大オーバーランにおける保型性に優れ、口溶け感のみならず清涼感も良好で、これらが長期保存後においても劣化を抑制し、安定なアイスクリーム類を提供することができる。
また、本発明のアイスクリーム類は、緑茶由来の特定性状を有する非重合体カテキン類を含有するため、緑茶風味により嗜好性が高められており、またこれを継続摂取することで非重合体カテキン類による生理効果を十分に期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
先ず、本明細書で使用する用語について説明する。
「アイスクリーム類」とは、「アイスクリーム」「アイスミルク」、「ラクトアイス」及び「氷菓」を包含する概念であり、食品衛生法の規定に基づく乳及び乳製品の成分規格等に関する省令に適合するもの、あるいは食品衛生法の規定に基づく食品、添加物等の規格基準に適合し、糖液若しくはこれに他食品を混和した液体を凍結したもの又は食用氷を粉砕し、これに糖液若しくは他食品を混和し再凍結したものであって、凍結状のまま食用に供するもの、又はこれらに類するものをいう。
「(A)非重合体カテキン類」とは、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート及びガロカテキンガレート等の非エピ体カテキン類と、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレート等のエピ体カテキン類を併せての総称であり、非重合体カテキン類の濃度は、上記8種の合計量に基づいて定義される。
「非重合体カテキン類のガレート体(以下、単に「ガレート体」とも称する)」とは、カテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート及びエピガロカテキンガレートを併せての総称である。また、「非重合体カテキン類中のガレート体の割合(以下、「ガレート体率」とも称する)」とは、これら4種の非重合体カテキン類のガレート体の総和質量を、非重合体カテキン類8種の総和質量に対する百分率で表した数値である。
【0012】
次に、本発明のアイスクリーム類、その保型性又は食感の改善方法について説明する。
本発明のアイスクリーム類は、(A)非重合体カテキン類及び(B)カフェインを含有せしめ、かつ(A)非重合体カテキン類に対する(B)カフェインの含有質量比[(B)/(A)]が0.0001〜0.18であることを特徴とするものである。
また、本発明のアイスクリーム類の保型性又は食感の改善方法は、アイスクリーム類に、(A)非重合体カテキン類及び(B)カフェインを、(A)非重合体カテキン類に対する(B)カフェインの含有質量比[(B)/(A)]が0.0001〜0.18となるように添加することを特徴とする。
【0013】
(A)非重合体カテキン類の含有量は、本発明のアイスクリーム類中に0.05〜3質量%、更に0.05〜1.5質量%、特に0.1〜0.8質量%であることが好ましい。(A)非重合体カテキン類の含有量が上記範囲内であると、最大オーバーランにおける保型性に優れ、長期に渡ってアイスクリーム類の食感及び清涼感が安定であり、しかもアイスクリーム類の風味が非重合体カテキン類自体の苦渋味の影響を受け難い。
また、非重合体カテキン類中のガレート体率は、食感及び清涼感の観点から、5〜55質量%、更に8〜53質量%、特に10〜50質量%であることが好ましい。
【0014】
このような(A)非重合体カテキン類は、緑茶抽出物に含まれる。緑茶としては、Camellia属、例えば、C.var.sinensis(やぶきた種を含む)、C.var.assamica及びそれらの雑種から選択される茶から製茶された、煎茶、番茶、碾茶、釜入り茶、茎茶、棒茶、芽茶等が例示される。
緑茶抽出物は、緑茶から熱水又は水溶性有機溶媒を用いてニーダー抽出、カラム抽出等の公知の抽出手段により得ることができる。ここで、緑茶抽出物とは、濃縮や精製操作が行われていないものをいう。
【0015】
本発明で使用される(A)非重合体カテキン類は、このような抽出操作により得られた緑茶抽出物に比べて、カフェイン量が顕著に低減されている。具体的には、(A)非重合体カテキン類に対する(B)カフェインの含有質量比[(B)/(A)]は0.0001〜0.18であるが、その下限は、経済的観点から、0.0005、更に0.001、特に0.002であることが好ましく、他方上限は、食感、清涼感及び保型性の改善の観点から、0.15、更に0.12、特に0.1であることが好ましい。
【0016】
質量比[(B)/(A)]を上記範囲内にするには、緑茶抽出物を精製して緑茶抽出物中の(B)カフェインの絶対量を低減する必要がある。その精製方法として、例えば、下記(i)〜(iv)のいずれかの方法、あるいは2以上の組み合わせが例示される。
(i)緑茶抽出物を水、又は水と水溶性有機溶媒(例えば、エタノール)との混合物(以下、「有機溶媒水溶液」という)に懸濁して生じた沈殿を除去する方法。
(ii)緑茶抽出物をタンナーゼ処理し、更に活性炭、酸性白土及び活性白土から選択される少なくとも1種の吸着剤と接触させる方法(例えば、特開2007−282568号公報)。
(iii)緑茶抽出物を合成吸着剤に吸着させた後、該合成吸着剤に有機溶媒水溶液を接触させて非重合体カテキン類を脱離させる方法(例えば、特開2006−160656号公報)。
(iv)緑茶抽出物を合成吸着剤に吸着させた後、該合成吸着剤に有機溶媒水溶液又は塩基性水溶液(例えば、水酸化ナトリウム水溶液)を接触させて非重合体カテキン類を脱離させ、次いで得られた脱離液を活性炭と接触させる方法(例えば、特開2008−079609号公報)。
【0017】
上記(i)、(iii)及び(iv)の方法においても、緑茶抽出物としてタンナーゼ処理したものを使用することができる。ここで、「タンナーゼ処理」とは、緑茶抽出物を、タンナーゼ活性を有する酵素と接触させることをいう。なお、タンナーゼ処理における具体的な操作方法は公知の方法を採用することが可能であり、例えば、特開2004−321105号公報に記載の方法が例示される。
【0018】
また、上記精製方法においては、緑茶抽出物の換わりに緑茶抽出物の濃縮物を使用しても、緑茶抽出物に緑茶抽出物の濃縮物を配合したものを使用してもよい。ここで、緑茶抽出物の濃縮物とは、緑茶抽出物から溶媒を一部除去して非重合体カテキン類濃度を高めたものをいい、例えば、特開昭59−219384号公報、特開平4−20589号公報、特開平5−260907号公報、特開平5−306279号公報等に記載の方法により調製することができる。緑茶抽出物の濃縮物として市販品を使用してもよく、例えば、三井農林社製の「ポリフェノン」、伊藤園社製の「テアフラン」、太陽化学社製の「サンフェノン」等が例示される。
【0019】
本発明のアイスクリーム類に使用する緑茶抽出物の精製物の固形分中の非重合体カテキン類濃度は、55〜90質量%、特に55〜75質量%であることがオーバーランを高く設定しても保型性に優れる点から好ましい。非重合体カテキン類濃度を上記範囲とするには、上記(i)〜(iv)のいずれかの方法、あるいは2以上の組み合わせを行うことが好ましい。
【0020】
本発明のアイスクリーム類の種類は特に限定されないが、例えば、(C)たんぱく質、(D)食用油脂及び(E)糖類から選択される少なくとも1種を含有することができる。
【0021】
(C)たんぱく質としては、例えば、脱脂粉乳、脱脂乳、卵黄等の水溶性のたんぱく質が例示され、これらは1種又は2種以上を併用することができる。
(C)たんぱく質の含有量は、本発明のアイスクリーム類中に固形分として2〜10質量%、更に2〜8質量%、特に3〜5質量%であることが好ましい。(C)たんぱく質の含有量が上記範囲内であると、アイスクリーム類にコクを十分付与することができる。
【0022】
(D)食用油脂としては、例えば、植物油脂、乳脂又はこれらの分別油脂、硬化油脂、エステル交換油脂等が例示される。
乳脂としては、例えば、生乳、低脂肪乳、生クリーム、卵黄などの動物油脂を含有する液状乳製品、又は全脂粉乳などに含まれる動物油脂が例示される。
(D)食用油脂の含有量は、本発明のアイスクリーム類中に2〜20質量%、更に5〜15質量%、特に8〜12質量%であることが好ましい。食用油脂の含有量が上記範囲内であると、アイスクリーム類に滑らかさを十分付与することができる。
【0023】
(E)糖類は、例えば、単糖、二糖、オリゴ糖、複合多糖、糖アルコールが例示され、これらは1種又は2種以上を併用することができる。
【0024】
(E)糖類の中で、単糖の例としてはテトロース、ペントース、ヘキソース及びケトヘキソースがある。ヘキソースの例は、ブドウ糖等のアルドヘキソースや、果糖、タガトース等のケトヘキソースが挙げられる。単糖類の例としては、コーンシロップ、高フルクトースコーンシロップ、果糖ブドウ糖液糖、ブドウ糖果糖液糖、アガペエキス、蜂蜜などの混合単糖も使用できる。複合多糖としての好ましい例はマルトデキストリンである。さらに、多価アルコール、例えばグリセロール類も本発明で用いることができる。それらの配合量は、アイスクリーム類に甘味を十分付与するとともに食感を改善する観点から、本発明のアイスクリーム類中に1〜65質量%、更に5〜40質量%、特に10〜20質量%であることが好ましい。
【0025】
非重合体カテキン類の保存安定性の向上や最適な甘味を得るために非還元性糖類又は糖アルコールが好ましく、またこれらを併用することもできる。非還元性糖類としてはオリゴ糖があるが、例えば、二糖類としてはスクロース、マルトース、ラクトース、セルビオース、トレハロースなどが挙げられ、三糖類としてはラフィノース、パノース、メレジトース、ゲンチアノースなどが挙げられ、四糖類としてはスタキオ−スなどが挙げられる。このオリゴ糖の重要なタイプは二糖であり、代表例はサトウキビ、サトウダイコンから得られるショ糖、又はテンサイ糖として知られるスクロースである。製品としては精製糖であるグラニュー糖、加工糖、液糖、シュガーケーンやメイプルシロップなどが使用できる。又カロリーの観点から糖アルコールが使用でき、糖アルコールとしては、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、パラチノース、マンニトールなどが好適に使用される。中でも、カロリーが少なく、最も多く配合させることが可能なエリスリトールが好ましい。それらの配合量は、本発明のアイスクリーム類中に1〜65質量%、更に5〜40質量%、特に10〜20質量%であることが好ましい。
【0026】
上記の糖類以外に天然甘味料又は人工甘味料も配合することができる。その配合量は、好ましくは0.0001〜5.0質量%、更に好ましくは0.001〜2.0質量%、特に好ましくは0.001〜1.0質量%である。人工甘味料の例にはアスパルテーム、スクラロース、サッカリン、シクラメート、アセスルファム−K、L−アスパルチル−L−フェニルアラニン低級アルキルエステル甘味料、L−アスパルチル−D−アラニンアミド、L−アスパルチル−D−セリンアミド、L−アスパルチル−ヒドロキシメチルアルカンアミド甘味料、L−アスパルチル−1−ヒドロキシエチルアルカンアミド甘味料などの高甘味度甘味料、ソーマチン、グリチルリチン、合成アルコキシ芳香族化合物などがある。更に、ステビオシド及び他の天然源の甘味料も使用できる。
【0027】
本発明のアイスクリーム類は、その全体中に固形分を20〜50質量%、更に22〜40質量%、特に25〜38質量%含有させることが、オーバーランを高く設定しても保型性に優れる点から好ましい。ここで、オーバーランは110%以上、更に115%以上、特に120%以上に設定することが好ましく、他方上限は、保型性の観点から、300%、更に200%、特に150%であることが好ましい。このときの形態保持率は、90%以上、特に95%以上であることが好ましい。なお、「オーバーラン100%」とはアイスクリームミックスと同量の空気を含むことを意味し、「アイスクリームミックス」とは空気を含ませる前のアイスクリーム類製造用原料の混合物のことである。また、「オーバーラン」及び「形態保持率」は、後掲の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0028】
本発明のアイスクリーム類は、上記構成を採用することにより、最大オーバーランにおける保型性に優れるようになる。すなわち、本発明のアイスクリーム類は、最大オーバーランを有するアイスクリーム類を−20℃に保存した後、20℃の温度条件下に1時間静置したときに、90質量%以上、好ましくは95質量%以上が溶け出すことなく保存時の形態を保持することが可能である。なお、かかる保型性は、後掲の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0029】
本発明のアイスクリーム類は、例えば、(C)たんぱく質と、(D)食用油脂と、(E)糖類と、質量比[(B)/(A)]及び固形分中の非重合体カテキン類濃度が上記範囲内に制御された緑茶抽出物の精製物、更に必要により乳化剤、安定剤などの原料を混合して予備乳化し、次いで均質化(乳化)して殺菌し、その後1〜4℃に冷却してエージングを行いアイスクリームミックスを製造し、更に得られたアイスクリームミックスを−6℃〜−4℃(ソフトクリーム)、−30℃以下(ハードタイプ)にてフリージングすることによって製造することができる。このように製造温度を変更することにより、いずれのタイプでも製造することが可能である。
【0030】
本発明のアイスクリームを容器詰して提供する場合、一般のアイスクリーム類と同様の包装材料を使用することができる。また、コーン、ワッフル生地などに充填して提供することが可能であり、オントレード、オフトーレードのいずれのニーズにも対応できる。
【実施例】
【0031】
(非重合体カテキン類及びカフェインの測定)
被検物質1.7gを0.1mol/L酢酸水溶液で100gに希釈し、遠心分離して除たんぱくした後、メンブランフィルター(0.8μm)でろ過した。次いで、蒸留水で希釈した後、オクタデシル基導入液体クロマトグラフ用パックドカラム(L−カラムTM ODS(4.6mmφ×250mm:財団法人 化学物質評価研究機構製)を装着した高速液体クロマトグラフ(型式SCL−10AVP、島津製作所製)を用いて、カラム温度35℃でグラジエント法により測定した。移動相A液は酢酸を0.1mol/L含有する蒸留水溶液、B液は酢酸を0.1mol/L含有するアセトニトリル溶液とし、試料注入量は20μL、UV検出器波長は280nmの条件で行った。測定後、希釈率で換算して非重合体カテキン類及びカフェインの濃度を求めた。
【0032】
濃度勾配条件(体積%)
時間 移動相A 移動相B
0分 97% 3%
5分 97% 3%
37分 80% 20%
43分 80% 20%
43.5分 0% 100%
48.5分 0% 100%
49分 97% 3%
62分 97% 3%
【0033】
(オーバーラン)
各アイスクリームのオーバーランは、下記式(1)を用いて算出した。
【0034】
【数1】
【0035】
上記式(1)中、Waは一定容積のアイスクリームミックスの質量であり、Wbはホイップ後のアイスクリームミックスの同容積中における質量である。
【0036】
(保型性の評価)
各アイスクリームをプラスチック容器に充填してドライアイスで急冷固化させた後、−20℃の冷蔵庫に保存したものを以下の方法で評価した。メスシリンダー上方に固定した漏斗の開口部に金網を載置し、その金網上に−20℃の各アイスクリーム50g載せ、20℃の温度条件下で1時間経過後にメスシリンダーに落下したアイスクリームの質量(g)を測定した。更に、落下したアイスクリーム質量(g)に基づいて、下記式(2)により形態保持率(%)を算出した。
【0037】
【数2】
【0038】
上記式(2)中、Wcはアイスクリーム質量(50g)であり、Wdは落下したアイスクリーム質量である。
【0039】
(官能試験)
(1)食感及び清涼感の評価
製造直後のアイスクリームの食感及び清涼感について、パネラー5名により下記の5段階で評価し、その後協議により最終スコアを決定した。
【0040】
(2)食感及び清涼感の安定性評価
−20℃で28日保存後のアイスクリームの食感及び清涼感について、パネラー5名により下記の5段階で評価し、その後協議により最終スコアを決定した。
【0041】
食感の評価基準
5:非常に滑らかな食感
4:滑らかな食感
3:通常の食感
2:食感が劣る
1:食感が悪い
【0042】
清涼感の評価基準
5:清涼感が非常にある
4:清涼感がある
3:通常の清涼感
2:清涼感が劣る
1:清涼感がない
【0043】
(製造例1)
「緑茶抽出物の精製物1」の製造
市販の緑茶抽出物の濃縮物(三井農林(株)「ポリフェノンHG」)1,000gを、常温、200r/minの攪拌条件下で、95質量%エタノール水溶液9,000g中に懸濁させ、活性炭(クラレコールGLC、クラレケミカル社製)200gと酸性白土(ミズカエース#600、水澤化学社製)500gを投入後、約10分間攪拌を続けた。次いで、常温のまま約30分間の攪拌処理を続けた。次いで、2号濾紙で活性炭、酸性白土、及び沈殿物を濾過した後、0.2μmメンブランフィルターによって再濾過を行った。最後にイオン交換水200gを濾過液に添加し、40℃、3.3kPaでエタノールを留去し、減圧濃縮を行った。このうち750gをステンレス容器に投入し、イオン交換水で全量を10,000gとし、5質量%重炭酸ナトリウム水溶液30gを添加してpH5.5に調整した。次いで、22℃、150r/minの攪拌条件下で、イオン交換水10.7g中にタンナーゼKTFH(キッコーマン製、Industrial Grade、500U/g以上)2.7gを溶解した液を添加し、30分後にpHが4.24に低下した時点で酵素反応を終了した。次いで、95℃の温浴にステンレス容器を浸漬し、90℃、10分間保持して酵素活性を完全に失活させた。次いで、25℃まで冷却した後に濃縮処理を行い「緑茶抽出物の精製物1」を得た。「緑茶抽出物の精製物1」は、非重合体カテキン類濃度が15.0質量%、固型分中の非重合体カテキン類濃度は60.5質量%、非重合体カテキン類中のガレート体率が45.1質量%、カフェイン/非重合体カテキン類が0.06(−)であった。
【0044】
(製造例2)
「緑茶抽出物の精製物2」の製造方法
緑茶葉(ケニア産、大葉種)300gに88℃の熱水4,500gを添加し、60分間撹拌抽出した後、100メッシュ金網で粗濾過した。次いで、緑茶抽出物の微粉を除去するために遠心分離操作を行い「緑茶抽出物」3,680gを得た。次いで、緑茶抽出物の一部を凍結乾燥した。得られた緑茶抽出物の濃縮物をステンレス容器に投入し、5質量%重炭酸ナトリウム水溶液を添加してpH5.5に調整し、次いで22℃、150r/minの攪拌条件下で、イオン交換水中にタンナーゼKTFH(キッコーマン製、Industrial Grade、500U/g以上)を緑茶抽出物の濃縮物液に対して430ppmとなる濃度で添加した液を投入した。55分後にpHが4.24に低下した時点で酵素反応を終了した。次いで95℃の温浴にステンレス容器を浸漬し、90℃、10分間保持して酵素活性を完全に失活した。次いで、25℃まで冷却した後に濃縮処理、凍結乾燥した。得られた凍結乾燥品のうち85gをイオン交換水8,415gに25℃で30分間撹拌溶解した(タンナーゼ処理液)。
ステンレスカラム1(内径110mm×高さ230mm、容積2,185mL)に合成吸着剤SP−70(三菱化学(株)製)を2,048mL充填した。タンナーゼ処理液8,200g(合成吸着剤に対して4倍容量)をSV=1(h-1)でカラム1に通液し透過液は廃棄した。水洗後、20質量%エタノール水溶液をSV=1(h-1)で10,240mL(合成吸着剤に対して5倍容量)を通液し、「樹脂処理品1」(pH4.58)を得た。次いで、ステンレスカラム2(内径22mm×高さ145mm、容積55.1mL)に粒状活性炭太閤SGP(フタムラ科学(株)製)を8.5g充填し、「樹脂処理品1」をSV=1(h-1)でカラム2に通液した。次いで、濃縮処理、凍結乾燥を行い「緑茶抽出物の精製物2」を得た。「緑茶抽出物の精製物2」は、非重合体カテキン類濃度が77.6質量%、固型分中の非重合体カテキン類濃度は72.3質量%、非重合体カテキン類中のガレート体率が20.2質量%、カフェイン/非重合体カテキン類が0.01(−)であった。
【0045】
下記に示す実施例1及び7は参考例である。
(実施例1)
製造例1で得た緑茶抽出物の精製物1を使用して、次の工程でアイスクリームを製造した。香料を除く原料である生乳、生クリーム、グラニュー糖、卵黄、乳化剤、安定剤、食用色素を85℃まで加温し、溶解させてパドルミキサーを使用して10分間混合予備乳化を行った。その後、ゴーリン高圧ホモゲナイザーを用いて150kg/cm2の条件で乳化を1回行った。得られた乳化物を85℃まで加温し、殺菌した後、5℃まで冷却し、そのまま保温して一昼夜エージングを行った。その後、エージング後の混合物に香料を添加し、このうち0.7Lを採取し、アイスクリームフリーザー(エフ・エム・アイ(株)製)に仕込んだ。そして、冷却開始後、5分毎にオーバーランを測定し、最大オーバーランに達するまで攪拌を続けることにより、ラクトアイスを製造した。得られたラクトアイスの成分分析、オーバーラン、保型性、製造直後及び保存後の官能試験の評価結果を表1に示す。なお、乳化剤はホモゲン−DM(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)を用い、安定剤として増粘剤であるサンベストNN−305(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)、食用色素としてカロチンベース9400−SV(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)を用いた。
【0046】
(実施例2)
緑茶抽出物の精製物1及び生乳の配合量を変更したこと以外は、実施例1と同様の操作によりラクトアイスを製造した。得られたラクトアイスの成分分析、オーバーラン、保型性、官能試験の評価結果を表1に示す。
【0047】
(実施例3)
緑茶抽出物の精製物1及び生乳の配合量を変更したこと以外は、実施例1と同様の操作によりラクトアイスを製造した。得られたラクトアイスの成分分析、オーバーラン、保型性、官能試験の評価結果を表1に示す。
【0048】
(実施例4)
緑茶抽出物の精製物1に換えて製造例2で得た緑茶抽出物の精製物2を表1に示す割合で使用し、生乳の配合量を変更したこと以外は、実施例1と同様の操作によりラクトアイスを製造した。得られたラクトアイスの成分分析、オーバーラン、保型性、官能試験の評価結果を表1に示す。
【0049】
(実施例5)
バニラエッセンスに換えてチョコレートを表1に示す割合で使用し、砂糖の配合量を変更したこと以外は、実施例2と同様の操作によりラクトアイスを製造した。得られたラクトアイスの成分分析、オーバーラン、保型性、官能試験の評価結果を表1に示す。
【0050】
(実施例6)
バニラエッセンスに換えて抹茶を表1に示す割合で使用したこと以外は、実施例2と同様の操作によりラクトアイスを製造した。得られたラクトアイスの成分分析、オーバーラン、保型性、官能試験の評価結果を表1に示す。
【0051】
(実施例7)
グラニュー糖に換えてスクラロースを表1に示す割合で使用したこと以外は、実施例2と同様の操作によりラクトアイスを製造した。得られたラクトアイスの成分分析、オーバーラン、保型性、官能試験の評価結果を表1に示す。
【0052】
(実施例8)
グラニュー糖に換えてエリスリトールを表1に示す割合で使用したこと以外は、実施例2と同様の操作によりラクトアイスを製造した。得られたラクトアイスの成分分析、オーバーラン、保型性、官能試験の評価結果を表1に示す。
【0053】
(比較例1)
緑茶抽出物の精製物1に換えて市販の緑茶抽出物の濃縮物(三井農林(株)「ポリフェノンHG」)を表1に示す割合で使用し、生乳の配合量を変更したこと以外は、実施例1と同様の操作にてラクトアイスを製造した。得られたラクトアイスの成分分析、オーバーラン、保型性、官能試験の評価結果を表1に示す。
【0054】
(比較例2)
緑茶抽出物の精製物1に換えて市販の緑茶抽出物の濃縮物を表1に示す割合で使用した以外は、実施例7と同様の操作にてラクトアイスを製造した。得られたラクトアイスの成分分析、オーバーラン、保型性、官能試験の評価結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1の結果から、緑茶由来の特定性状を有する非重合体カテキン類を配合することにより、オーバーランを高く設定しても高い保型性を有することが可能であり、その結果製造直後の食感及び清涼感が良好で、その食感及び清涼感が長期保存後においても劣化することなく安定なアイスクリーム類が得られることが確認された。