(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5752958
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20150702BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20150702BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20150702BHJP
A61K 8/20 20060101ALI20150702BHJP
A61K 8/24 20060101ALI20150702BHJP
A61K 8/365 20060101ALI20150702BHJP
A61K 8/41 20060101ALI20150702BHJP
A61K 8/43 20060101ALI20150702BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20150702BHJP
A61K 8/46 20060101ALI20150702BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20150702BHJP
A61K 8/63 20060101ALI20150702BHJP
A61K 8/67 20060101ALI20150702BHJP
A61K 8/97 20060101ALI20150702BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20150702BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/60
A61K8/19
A61K8/20
A61K8/24
A61K8/365
A61K8/41
A61K8/43
A61K8/44
A61K8/46
A61K8/49
A61K8/63
A61K8/67
A61K8/97
A61K8/73
A61Q11/00
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-52294(P2011-52294)
(22)【出願日】2011年3月10日
(65)【公開番号】特開2012-188377(P2012-188377A)
(43)【公開日】2012年10月4日
【審査請求日】2013年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100068700
【弁理士】
【氏名又は名称】有賀 三幸
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】山岸 敦
【審査官】
手島 理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−145876(JP,A)
【文献】
特開2001−002540(JP,A)
【文献】
特開2000−247852(JP,A)
【文献】
特開2000−072638(JP,A)
【文献】
特開平06−092860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00−8/99
A61Q 1/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)〜(D):
(A)塩酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウムから選ばれるカチオン性殺菌剤、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシアラントイン、水溶性アズレン、及びグリチルリチン酸より選ばれる抗炎症剤;乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、及び塩化ストロンチウムより選ばれる知覚過敏予防改善剤;ポリリン酸塩、及び水溶性リン酸エステルより選ばれる歯石予防剤;ビタミンC、及びビタミンBより選ばれる水溶性ビタミン;アスナロエキス、オオバクエキス、トウキエキス、オウゴンエキス、カミツレエキス、ラタニアエキス、及びミルラエキスより選ばれる植物エキス;並びに、カテキン、フラバノール、及びフラボンより選ばれるポリフェノール類から選ばれる1種又は2種以上の水溶性薬用成分、
(B)20℃における水に対する溶解度が30質量%以下の、マンニトール、グルコピラノシルソルビトール及びグルコピラノシルマンニトールから選ばれる1種又は2種以上の糖アルコール 30〜60質量%、
(C)粘結剤 0.1〜1.2質量%、及び
(D)水 10〜25質量%
を含有し、成分(B)と成分(D)の質量比(B/D)が1より大きく3.5以下であり、かつ粘度(20℃)が1000〜7000dPa・sである口腔用組成物。
【請求項2】
さらに(E)20℃における水に対する溶解度が30質量%より大きく40質量%以下の糖アルコール1〜40質量%を含有する請求項1記載の口腔用組成物。
【請求項3】
成分(D)に対する、成分(E)の糖アルコールと成分(B)の糖アルコールの合計含有量の質量比((B+E)/D)が、1.2〜4である請求項1又は2記載の口腔用組成物。
【請求項4】
さらに(F)20℃における水に対する溶解度が40質量%より大きい糖アルコールを含有し、成分(D)に対する成分(F)の糖アルコールの質量比(F/D)が、1未満である請求項1〜3のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項5】
組成物100質量部に対して25質量部の水を加えて希釈したときの粘度が、希釈前の組成物の粘度の10%以下である請求項1〜4のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項6】
成分(A)の含有量が0.001〜10質量%である請求項1〜5のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬用成分を含有する口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯磨剤や洗口剤等の口腔用組成物には、歯周病、歯肉炎、むし歯、知覚過敏、口臭等の口腔内疾患を予防又は改善する目的で種々の薬用成分が配合される。これらの薬用成分の効果を十分に得るためには、新たな薬用成分を開発する、薬用成分の配合量を増加させる、薬用成分の口腔内滞留時間を長くする等の手段が考えられる。このうち、薬用成分の配合量を増加させる手段を採用した場合には、配合した薬用成分に基づく異味、異臭、組成物の安定性等の新たな問題が生じることが多い。
また、薬用成分の口腔内滞留時間を長くする手段としては、粘結剤を多量に配合して粘度を高くし粘膜や歯に張り付きやすくする手段等が考えられるが、粘結剤を多量に配合すると歯磨剤に糸曳性を与える、使用感が低下する等の問題が生じる。
【0003】
一方、キシリトール等の糖アルコールは、非醗酵性、う蝕原因菌の増殖抑制作用、エリスリトールについてはバイオフィルム除去促進作用(特許文献1)が知られており、特許文献2にはキシリトールとフッ素化合物とを特定割合で配合した口腔用組成物が報告されている。また、フッ素化合物による再石灰化を促進する技術として、特許文献3には、キシリトール等の糖アルコールとフッ化ナトリウムとマグネシウムイオンとを含有する口腔用組成物が記載され、特許文献4にはパラチニットとフッ素化合物を含有する口腔用組成物が記載され、パラチニットの含有量が多いほど再石灰化量が高い結果を示している。また、特許文献5には、パラチニットが香料成分の香味立ちを良好にすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−145876号公報
【特許文献2】特開平3−48613号公報
【特許文献3】特開平11−12143号公報
【特許文献4】特開2000−247852号公報
【特許文献5】特開2000−281550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、歯茎の口腔粘膜、歯垢等への薬用成分の取り込み量が向上し、配合した薬用成分による効果に優れた口腔用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、糖アルコールとフッ素化合物との関係に着目し、糖アルコールと水溶性薬用成分とを併用すれば水溶性薬用成分の口腔粘膜や歯垢への取り込み量が増大するのではないかと考えた。しかし、糖アルコールと水溶性薬用成分とを併用しても、必ずしも水溶性薬用成分の口腔粘膜や歯垢への取り込み量は増大せず、意外なことに、糖アルコールの量に対して水の量が多すぎると、十分量の糖アルコールが溶解しているにもかかわらず、口腔粘膜や歯垢に対する水溶性薬用成分の取り込み量は十分に向上しないことが判明した。一方、水の量が少なすぎる場合にも、口腔粘膜や歯垢に対する水溶性薬用成分の取り込み量は十分に向上しなかった。
そしてさらに検討したところ、特定の水溶性薬用成分と、水に対する溶解度の低い糖アルコールと、粘結剤とを併用し、かつ水分量を一定の範囲に調整して、溶解度の低い糖アルコールと水分量を特定比率で含有することにより、口腔粘膜や歯垢に対する水溶性薬用成分の取り込み量が顕著に向上し、水溶性薬用成分の効果に優れた口腔用組成物が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)を提供するものである。
【0008】
(1)次の成分(A)〜(D):
(A)殺菌剤、抗炎症剤、知覚過敏予防改善剤、歯石予防剤、水溶性ビタミン及び植物エキスから選ばれる水溶性薬用成分、
(B)20℃における水に対する溶解度が30質量%以下の糖アルコール 30〜60質量%、
(C)粘結剤 0.1〜1.2質量%、及び
(D)水 10〜25質量%
を含有し、成分(B)と成分(D)の質量比(B/D)が1より大きく6以下である口腔用組成物。
(2)成分(B)が、マンニトール、グルコピラノシルソルビトール及びグルコピラノシルマンニトールから選ばれる1種又は2種以上である(1)記載の口腔用組成物。
(3)さらに(E)20℃における水に対する溶解度が30質量%より大きく40質量%以下の糖アルコールを1〜40質量%含有する(1)又は(2)記載の口腔用組成物。
(4)粘度(20℃)が、500〜10000dPa・sである(1)〜(3)のいずれかに記載の口腔用組成物。
(5)組成物100質量部に対して25質量部の水を加えて希釈したときの粘度が、希釈前の組成物の粘度の10%以下である(1)〜(4)のいずれかに記載の口腔用組成物。
(6)成分(A)の含有量が0.001〜10質量%である(1)〜(5)のいずれかに記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の口腔用組成物を用いれば、水溶性薬用成分が効率よく口腔粘膜や歯垢に取り込まれるため当該水溶性薬用成分による効果が効率良く発揮されるとともに、使用感が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】青色1号の寒天への浸透実験後の写真を示す。
【
図2】青色1号の浸透実験結果(青色1号の濃度)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の口腔用組成物は、(A)殺菌剤、抗炎症剤、知覚過敏予防改善剤、歯石予防剤、水溶性ビタミン及び植物エキスから選ばれる水溶性薬用成分を含有する。ここで、水溶性の殺菌剤としては、塩酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム等のカチオン性殺菌剤;ドデシルジアミノエチルグリシン等の両性殺菌剤が挙げられる。抗炎症剤としては、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシアラントイン、水溶性アズレン、グリチルリチン酸塩等が挙げられる。知覚過敏予防改善剤としては、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、塩化ストロンチウム等が挙げられる。歯石予防剤としては、ポリリン酸塩、水溶性リン酸エステル等が挙げられる。水溶性ビタミンとしては、ビタミンC、ビタミンB等が挙げられる。植物エキスとしては、薬用植物の水もしくはエタノール等の水溶性有機溶媒により抽出された抽出物が挙げられ、具体的には、アスナロエキス、オオバクエキス、トウキエキス、オウゴンエキス、カミツレエキス、ラタニアエキス、ミルラエキス等の抽出物、及びポリフェノール類が挙げられる。ポリフェノール類としては、縮合型タンニン等のモノマーやオリゴマーや加水分解型タンニンが挙げられ、カテキン類、フラバノール類、フラボン類、アントシアニジン類、ロイコアントシアニジン類等の縮合型タンニンモノマーのほか、プロアントシアニジン類等の縮合型タンニンオリゴマー、ガロイルグルコース類等の加水分解型タンニンが挙げられる。これらは、発酵茶葉、ブドウ種子、松樹皮、ホップ、リンゴ、クランベリー、ブルーベリー、落花生渋皮、黒豆、カカオ、柿などを水もしくは水溶性有機溶媒により抽出された植物抽出物を濃縮、精製等を行うことによって得ることができる。これらの薬用成分のうち、口腔粘膜、歯垢への取り込み量の向上効果の点から殺菌剤、抗炎症剤、知覚過敏予防改善剤、歯石予防剤がより好ましく、中でも1質量%以下の少量含有される殺菌剤が好適である。これらの水溶性薬用成分は1種又は2種以上を組み合わせて口腔用組成物に配合することができる。
【0012】
(A)水溶性薬用成分は、歯茎に代表される口腔粘膜、口腔内組織上に形成される歯垢や舌苔等に対する取り込み量を十分確保する点、安全性及び味等の点から、口腔用組成物中に0.001〜10質量%含有するのが好ましく、0.005〜10質量%含有するのがより好ましく、0.01〜5質量%含有するのがさらに好ましく、本発明の口腔用組成物において、0.001〜1質量%の少量含有される場合により好適である。
【0013】
本発明の口腔用組成物は、(B)20℃における水に対する溶解度が30質量%以下(飽和水溶液100gに対して30g以下溶解)である糖アルコールを含有する。この溶解度は、組成物に構造粘性を付与し水溶性薬効成分の粘膜や歯垢への浸透性を向上しつつ、適度な流動性を確保する点から、5〜30質量%がより好ましい。本発明に用いられる(B)水に対する溶解度が30質量%以下の糖アルコールとしては、マンニトール、α−D−グルコピラノシル−1,6−ソルビトール、α−D−グルコピラノシル−1,6−マンニトール、α−D−グルコピラノシル−1,6−ソルビトールとα−D−グルコピラノシル−1,6−マンニトールの混合物である還元パラチノース等が挙げられ、水に対する溶解度が低いマンニトールがより好ましい。
【0014】
マンニトールは、ヘキシトールの一種でありマンノースの糖アルコールである。工業的には、トウモロコシデンプン糖の電解還元、蔗糖の高圧還元により生産されている。本発明で用いるマンニトールは、D−マンニトール、L−マンニトール、D,L−マンニトールから選ばれる少なくとも1種であればよく、特に限定されるものではないが、天然界に存在するD−マンニトールが入手容易であり好ましい。マンニトールの20℃における水に対する溶解度は18質量%(20℃において飽和水溶液100gに対して18g溶解)である。
【0015】
還元パラチノースは、二糖類の糖アルコールであり、α−D−グルコピラノシル−1,6ーマンニトール及びその異性体であるα−D−グルコピラノシル−1,6ーソルビトールの等モル混合物である。還元パラチノースはシュクロースを原料とし、シュクロースを糖転移酵素によりパラチノースとした後に、水素添加反応させることによって得られる。また、還元パラチノースとして知られているパラチニットは、三井製糖社、Sudzucker AG社(和名:南独製糖)の商品名であり、イソマルトという別名称もある。パラチニットの20℃における水に対する溶解度は28質量%(20℃において飽和水溶液100gに対して28g溶解)である。
【0016】
これらの(B)糖アルコールは1種又は2種以上を混合して用いることができる。また、(B)糖アルコールは粉体、粒状のいずれを配合してもよい。
これらの(B)糖アルコールは、組成物に構造粘性を付与しながら成分(A)の流動性を確保し、口腔粘膜や歯垢に対する成分(A)の取り込み量向上効果の点から、本発明の口腔用組成物中に30〜60質量%含有し、30〜55質量%含有するのがより好ましく、30〜50質量%含有するのがさらに好ましい。
【0017】
本発明の口腔用組成物は、(C)粘結剤を0.1〜1.2質量%含有する。(C)粘結剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、グアガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム等が挙げられ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、カラギーナンが好ましく、これらは1種又は2種以上を用いることができる。
通常、(C)粘結剤は、ゲル状歯磨剤のゲル化用又はペースト状歯磨剤、練り歯磨剤の粘結用、又は塗布剤の粘結用として配合されるが、本発明においては、(D)水中の(A)水溶性薬用成分の流動性を確保する観点から、本発明口腔用組成物中に、0.2質量%以上、1.2質量%以下が好ましく、さらに1.0質量%以下が好ましく、より好ましくは1.0質量%未満、さらに0.8質量%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の口腔用組成物における(D)水の含有量は、口腔粘膜又は歯垢への(A)水溶性薬用成分取り込み量向上効果の点から重要であり、10〜25質量%であって、さらに12〜20質量%が好ましい。(D)水を10〜25質量%含有することによって未溶解状態の(B)糖アルコールの存在により、組成物に構造粘性をもたせ、含有される(D)水に溶解した(A)水溶性薬用成分の流動性を確保することができると考えられる。また、(B)糖アルコールの水への溶解量が少ないため、(D)水中の水溶性薬用成分の濃度を高くすることができ、高濃度の水溶性薬用成分が流動して口腔粘膜又は歯垢に接触すると考えられる。こうして本発明の口腔用組成物は、口腔粘膜又は歯垢への水溶性薬用成分取り込み量を高くすることができる。なお、(D)水には配合した精製水以外に、例えばソルビトール液等の成分に含まれる水分も含まれる。
【0019】
本発明の口腔用組成物は、(B)糖アルコールと(D)水との質量比(B/D)は1より大きく6以下であり、(D)水よりも(B)糖アルコールの量が多く、口腔用組成物中に飽和溶解状態を越えて含有され、未溶解状態の(B)糖アルコールが存在するものが好ましい。未溶解状態の(B)糖アルコールを存在させることによって組成物に構造粘性をもたせつつ、(D)水に溶解された(A)水溶性薬用成分の流動性を確保する観点から、(B)糖アルコールと(D)水の質量比(B/D)は、1.2〜4がより好ましく、1.5〜3.5がさらに好ましい。
【0020】
本発明の口腔用組成物は、(B)一定の溶解度を有する糖アルコールを含有するが、さらに(E)20℃における水に対する溶解度が30質量%を超え40質量%以下(飽和水溶液100gに対し溶解度が30gを超え40g以下)の他の糖アルコールを含有してもよい。(E)他の糖アルコールを含有する場合には、口腔粘膜や歯垢への水溶性薬効成分(A)の取り込量を向上する点から、含有量は1〜40質量%が好ましく、さらに組成物に構造粘性を付与しながら成分(A)の組成物中の流動性を確保する点から、口腔用組成物に含有される(D)水に対する、(E)他の糖アルコールと(B)糖アルコールの合計含有量の質量比((B+E)/D)は、1より大きく6以下であることが好ましく、1.2〜4であることがより好ましく、1.5〜3.5であることがさらに好ましい。
【0021】
(E)他の糖アルコールを含有する場合には、(B)糖アルコールに対する質量比(E/B)は1以下が好ましく、さらに0.8以下、さらに0.5以下が好ましい。
【0022】
(E)他の糖アルコールとしては、20℃における水に対する溶解度が33質量%のエリスリトール等が挙げられる。
【0023】
本発明の口腔用組成物は、(F)20℃における水に対する溶解度が40質量%を超える溶解度の高い糖アルコールを含有することができる。(F)溶解度の高い糖アルコールの含有量は、口腔粘膜や歯垢への水溶性薬効成分の取り込を確保する点から、口腔用組成物に含有される(D)水に対する質量比(F/D)が1未満であることが好ましく、0.75以下であることがより好ましく、0.5以下であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明の口腔用組成物には、前記成分の他、本発明の効果を阻害しない範囲で、発泡剤、発泡助剤、研磨剤、湿潤剤、甘味剤、保存料、フッ化ナトリウム等のフッ素イオン供給化合物、顔料、色素、香料等を適宜含有させることができる。また、本発明の口腔用組成物は、例えば、ゲル状、ペースト状といった剤形に調製され、練り歯磨剤、ゲル状歯磨剤等の歯磨剤や口腔用軟膏等の口腔用塗布剤にすることができる。
【0025】
本発明の口腔用組成物は、口腔内における滞留性や粘膜等への密着性、塗布剤や歯磨剤として用いる場合の保形性の観点から、20℃における粘度が500〜10000dPa・sであるものが好ましく、さらに1000〜7000dPa・sであるものが好ましい。粘度を10000dPa・s以下とすることによって、未溶解状態の糖アルコールにより組成物の構造粘性を持たせつつ、含有される(D)水中の(A)水溶性薬用成分の流動性を確保することができる。口腔用組成物の粘度は、粘度測定用の容器に詰め、20℃の恒温器で24時間保存した後、ヘリパス型粘度計(B型粘度計)を用いて、ロータH7 回転数2.5rpm、1分間の条件で測定することができる。
【0026】
本発明の口腔用組成物は、組成物100質量部に対して25質量部の水を添加したときの粘度(20℃)が、水を添加する前の組成物の粘度(20℃)に対して10%以下になるものが好ましく、1〜10%になるものがより好ましく、3〜8%になるものがさらに好ましい。本発明の口腔用組成物は、未溶解状態の糖アルコールによって組成物に構造粘性を持たせているため、水を添加することにより構造粘性が破壊されるため粘度の低下は大きい。好適な態様においては、口腔用組成物100質量部に対して25質量部の水で希釈されるのと同様の、歯磨き操作時の唾液による希釈モデルによれば、希釈後の組成物の粘度が希釈前の組成物の粘度の10%以下に低下するため、(D)水中の(A)水溶性薬用成分が高濃度で流動性をもって口腔粘膜や歯垢に適用可能となる。この点から、組成物100質量部に対して25質量部の水を添加したときの粘度(20℃)は、水を添加してから1時間後に測定した粘度としている。
【実施例】
【0027】
以下の実施例において、%は質量%を意味する。
【0028】
試験例1
口腔粘膜への薬物の吸収は受動拡散(単純拡散)であることが知られており、拡散速度は濃度に比例する。また、歯科疾患の原因である歯垢についても、口腔内細菌と主に多糖からなるフィルム状の構造を持つため、受動拡散モデルで説明できると判断した。そこで、水溶性成分の濃度と拡散速度に比例関係が得られる。寒天ゲルを粘膜モデル(又は歯垢モデル)として用い、組成物の浸透挙動の評価を行った。なお、寒天は伊那食品工業(株)製の培地用寒天INA AGAR BA−10を用いた。
粘膜モデル(又は歯垢モデル)は、熱した2.5%の寒天水溶液2gを12穴のマイクロプレート(22mmφ)に注入し、室温にて固化させて作成した。初期検討として、水溶性色素である青色1号を用いた浸透実験を行った。表1に示す各試験液を調製し、それぞれ5gをマイクロプレートに加え、3分間置いた。その後、イオン交換水で洗浄し、写真撮影を行った。撮影した写真は画像解析により濃度を求めた。試験液1と比較試験液1によるマイクロプレートと試験液が加えられていない(処理前)マイクロプレートの写真を
図1に示し、色の濃度比較の結果を
図2、及び表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
表1に示す青色1号の相対濃度は、(B)糖アルコールを含有しない対照液による濃度を1とした場合の、試験液と比較試験液による青色1号の相対濃度である。水に対する溶解度が高いキシリトールやソルビトールのみを含有する比較試験液1、2は、対照液に対して青色1号の濃度は2倍未満であるのに対して、水に対する溶解度が30質量%以下であるマンニトール、還元パラチノース(パラチニット)を含有する試験例1〜4は、青色1号の濃度が3倍以上である結果が得られ、優れた浸透促進効果が認められた。また、比較試験液3、4は、(B)糖アルコールを25質量%以上含有するが、青色1号の濃度は低い結果が得られた。これは、(D)水の含有量が50質量%と多く、(D)水の含有量に対する(B)糖アルコールの含有量の質量比が1未満であるため、水分中の青色1号の濃度が薄まっているためと考えられる。
【0031】
(実施例)
試験例1と同様な寒天による粘膜モデル(又は歯垢モデル)を用い、表3、表4に示す歯磨剤(各種薬用成分配合)5gを粘膜モデル(又は歯垢モデル)に均一に密着させるようにマイクロプレートに入れ3分間置いた。その後、流水で剤を取り除き、余分な水分はプロワイプ(大王製紙製)で吸水した。次にマイクロプレートに2mlのイオン交換水を加え、10分間置くことでイオン交換水に薬用成分が拡散された抽出液を得た。その後、抽出液に含まれるアラントインクロルヒドロキシアルミニウム、塩化セチルピリジニウムは液体クロマトグラフ法によって定量を行い、硝酸カリウムはイオン電極法によって硝酸イオンとして定量を行った。ピロリン酸は、抽出液と容量比で等量の2N塩酸を加えて70℃3時間処理することで加水分解させた後に、比色(リンーモリブデン法)により定量した。
表3、表4に示す薬用成分の取込量は、それぞれ同じ薬用成分の水溶液を基準とした場合の相対濃度で示した。具体的には、各薬用成分について表2に示す基準液1〜4を基準として用いた。
なお、初期粘度P1は、粘度測定用の容器に詰め20℃の恒温器で24時間保存した後に測定し、希釈後の粘度P2は、組成物100質量部に対して25質量部の水(20℃)を添加し、水を添加してから1時間以内に測定し、測定条件は、20℃において、ヘリパス型粘度計(B型粘度計)を用いて、ロータH7、回転数2.5rpm、1分間の条件で測定した。
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
表3に示すように、薬用成分として塩化セチルピリジニウムと本発明に係る(B)糖アルコールを含有し、(D)水を10〜25質量%含有し、成分(B)と成分(D)の質量比(B/D)が1より大きく6以下である実施例1〜6は、比較例1〜5に比べて薬用成分の浸透が高いことが認められた。また、水分量を30質量%以上含有する比較例2〜4、粉体の含有量の少ない比較例1は、粘結剤によって粘度を確保しているため、希釈時の粘度減少が小さい(P2/P1が大きい)のに対して、実施例1〜6は希釈時の粘度低下が大きく(P2/P1が小さく)、未溶解の粉状又は粒状の糖アルコールを含有することによって構造粘性があるものと認められる。このように、希釈時に粘度の低下が大きいことで、水に溶解されている薬用成分が高濃度のまま口腔内に拡散し、口腔粘膜や歯垢に適用されると考えられる。なお、比較例5は、成分(B)の含有量は多いが、薬用成分の浸透が低い結果が得られた。比較例5は、(D)水の含有量が少なく、成分(B)と成分(D)の質量比(B/D)が約7であるため、構造粘性は高いが、水の流動性が低いため薬用成分の浸透が低いと考えられる。
【0035】
【表4】
【0036】
表4に示すように、塩化セチルピリジニウム以外の水溶性の薬用成分を含有する場合にも、本発明に係る(B)糖アルコールを含有し、(D)水の含有量が10〜25質量%であって、成分(B)と成分(D)の質量比(B/D)が1より大きく、6以下である実施例7〜9は、(B)糖アルコールを含有しない比較例6〜8に比べて、高い薬用成分の取込が認められた。