(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の電磁式アクチュエータ及び第2の電磁式アクチュエータの動作に伴って発生する各々の制動力を切換えて行なう機構制御により、内燃機関のカムシャフトの位相角を制御する電磁式可変バルブタイミング装置用の制御装置であって、
当該制御装置は、
前記第1の電磁式アクチュエータ及び前記第2の電磁式アクチュエータの制御信号をスライディングモード制御により切換設定する第1の位相制御処理と、前記位相角の駆動感度に基づき前記制御信号を補正する出力補正処理と、前記第1の電磁式アクチュエータ及び前記第2の電磁式アクチュエータの制御信号を比例制御により設定する第2の位相制御処理と、スライディングモード制御及び比例制御の何れか一方の制御モードによって位相制御させる制御モード切替処理と、を機能させるものであって、
前記制御モード切替処理は、前記内燃機関の回転数に応じて前記スライディングモード制御又は前記比例制御の何れかの制御モードに切替える、ことを特徴とする電磁式可変バルブタイミング装置用の制御装置。
前記出力補正処理は、前記駆動感度が所定閾値を下回った旨の情報を取得し、当該情報に応じて前記制御信号の補正を開始させることを特徴とする請求項1に記載の電磁式可変バルブタイミング装置用の制御装置。
第1の電磁式アクチュエータ及び第2の電磁式アクチュエータの動作に伴って発生する各々の制動力を切換えて行なう機構制御により、内燃機関のカムシャフトの位相角を制御する電磁式可変バルブタイミング装置用の制御装置であって、
当該制御装置は、
前記第1の電磁式アクチュエータ及び前記第2の電磁式アクチュエータの制御信号をスライディングモード制御により切換設定する第1の位相制御処理と、前記内燃機関の回転数に基づき前記制御信号を補正して前記位相角の駆動感度を調整する出力補正処理と、前記第1の電磁式アクチュエータ及び前記第2の電磁式アクチュエータの制御信号を比例制御により設定する第2の位相制御処理と、スライディングモード制御及び比例制御の何れか一方の制御モードによって位相制御させる制御モード切替処理と、を機能させるものであって、
前記制御モード切替処理は、前記内燃機関の回転数に応じて前記スライディングモード制御又は前記比例制御の何れかの制御モードに切替える、ことを特徴とする電磁式可変バルブタイミング装置用の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、最近の技術動向としては、「渦巻きバネ等」の付勢部材を必要としない電磁式可変バルブタイミング装置(以下、非自己復帰型の電磁式可変バルブタイミング装置と呼ぶ。)が検討されている。かかる電磁式可変バルブタイミング装置は、カムシャフトを進角制御させる電磁クラッチと遅角制御させる電磁クラッチとを具備し、各々の電磁クラッチによる制動力が切換えられることにより、進角方向または遅角方向への制御を実現させている(特開2009−209746号公報/特許文献2)。特許文献2に係る電磁式可変バルブタイミング装置は、渦巻きバネ等の付勢力が伴わないので、位相差と制御信号のDUTY比との相関が現われなくなるといった技術上の特徴が有る。また、非自己復帰型の電磁式可変バルブタイミング装置は、消費電力の低減や、装置の小型化及び長寿命化に資する装置として注目されつつある。
【0009】
しかしながら、本発明者は、バルブタイミング制御について、非自己復帰型の電磁式可変バルブタイミング装置の適用を試みたところ、
図7(a)に示すような不具合を見出した。同図には、非自己復帰型の電磁式可変バルブタイミング装置の駆動感度(dθr/dt)と内燃機関の回転数(rpm)の関係が示されている。ここで、駆動感度(dθr/dt)とは、所定時間当たりに対するカムシャフトの位相角変化量を指すが、カムシャフトの周期毎に検出した位相角を用いて統計的(例えば、平均値等)に算出されたものを含む。
図7(a)で説明する感度特性は、非自己復帰型の電磁式可変バルブタイミング装置について、スライディングモード制御により得られた実験結果である。また、Kthは、バルブタイミングの制御上好適な感度の下限値であって、制御上の都合と照らし合わせて適宜に設定されるものである。以下、Kthを限界感度と呼ぶこととする。
【0010】
図7(a)の実験結果によると、位相角の駆動感度(dθr/dt)は、2000(rpm)以下にて増加傾向を示し、2000(rpm)〜3000(rpm)で極値を示し、3000(rpm)以上で減少傾向を示す。また、当該駆動感度(dθr/dt)は、4600(rpm)程度にて限界感度Kthを下回る。このように、内燃機関の回転数が高くなると、所望の駆動感度Kthが得られなくなり、制御上の安定性が損なわれてしまう現象が認められる。一方、自己復帰型の電磁式可変バルブタイミング装置では、通常、低回転〜高回転を通じて、駆動感度に顕著な変動は見られない。
【0011】
かかる現象は、双方の電磁式可変バルブタイミング装置の挙動を比較すると、感度特性の相違する原因が明らかとなる。
図14(a)には、自己復帰型の電磁式可変バルブタイミング装置の挙動が示され、吸気バルブ(排気バルブであっても良い)のストロークStが時間に応じて変動する様子が示されている。また、同図は、吸気バルブがスプリングに抗して基準位置よりも押下げられる場合(バルブ開動時)、バルブストロークStは縦軸の正側に表され、吸気バルブがスプリングによって基準位置よりも押上げられる場合(バルブ閉動時)、バルブストロークStは縦軸の負側に表される。一般に、バルブストロークStが正となる時間では、位相を変えようとしても、カムシャフトの位相角θrはロック状態となる。一方、バルブストロークStが負となる時間Tnでは、図示の如く、カムシャフトはバルブからの反力が少ない状態で運動するので、位相を変えようとした場合に、其の時間Tnの殆どの区間でクランクシャフトの位相角θrが変更可能となる(斜線部)。以下、クランクシャフトの位相角θrが変更可能なタイミングを位相変更タイミングtvと呼ぶ。
【0012】
この自己復帰型の場合に対し、非自己復帰型の電磁式可変バルブタイミング装置では、
図14(b)に示す如く、バルブストロークStが負となる時間Tnであっても位相角θrを変更できない時間が長くなり、位相変更タイミングtvが非常に短くなる。このため、非自己復帰型の電磁式可変バルブタイミング装置は、所定時間に対する位相角θrの変更量が減少するので、駆動感度が低下することとなる。特に、内燃機関の高回転域では、位相変更タイミングtvが減少傾向を示すところ、非自己復帰型の場合における駆動感度の低下が顕著となる。このように、位相制御上の駆動感度(dθr/dt)は、電磁式可変バルブタイミング装置の機構上の違いにより、其の値に大きな違いが生じる。
【0013】
このような感度特性に係る問題を受けて、特許文献1の技術へ「非自己復帰型の電磁式可変バルブタイミング装置」を適用させ、駆動感度の改善を行なうことも考えられる。しかしながら、この場合、比例制御(PID制御等)を用いて駆動感度の補正を行なおうとすると、回転数に応じて感度特性が急激に変動するので、感度補正に必要なマップ情報が其の回転数近傍で膨大となる。この場合、マップ情報の増加に伴ない、デバッグ作業の労力も増加させてしまう。
【0014】
加えて、このような駆動感度と回転数との相関に係る問題は、特許文献2の電磁式可変バルブタイミング装置に限らず、他の付勢力を伴わない種々の電磁式可変バルブタイミング装置でも認められている。例えば、近年の電磁型バルブタイミング装置では、サーボモータをアクチュエータとするものが登場するに至っているが、このような装置は、特開2008−031963号公報(特許文献3),特開10−103029号公報(特許文献4),等で紹介されている。このような装置にあっても、上述と同様、駆動感度に関する不具合が発明者より報告されている。
【0015】
このように、本発明者は、非自己復帰型の電磁式可変バルブタイミング装置を用いた場合の不具合を見出し、かかる不具合について鋭意研究を行なった結果、本発明に創到するに至った。そして、本発明の目的にあっては、駆動感度が急激に変動する条件であっても、位相角の駆動感度を好適に調整することが可能な電磁式可変バルブタイミング装置の制御装置を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明では次のような電磁式可変バルブタイミング装置用の制御装置の構成とする。即ち、第1の電磁式アクチュエータ及び第2の電磁式アクチュエータの動作に伴って発生する各々の制動力を切換えて行なう機構制御により、内燃機関のカムシャフトの位相角を制御する電磁式可変バルブタイミング装置用の制御装置であって、
当該制御装置は、前記第1の電磁式アクチュエータ及び前記第2の電磁式アクチュエータの制御信号をスライディングモード制御により切換設定する第1の位相制御処理と、前記位相角の駆動感度に基づき前記制御信号を補正する出力補正処理と、
前記第1の電磁式アクチュエータ及び前記第2の電磁式アクチュエータの制御信号を比例制御により設定する第2の位相制御処理と、スライディングモード制御及び比例制御の何れか一方の制御モードによって位相制御させる制御モード切替処理と、を機能させるものであって、
前記制御モード切替処理は、前記内燃機関の回転数に応じて前記スライディングモード制御又は前記比例制御の何れかの制御モードに切替えることとする。
【0017】
好ましくは、前記出力補正処理は、前記駆動感度が所定閾値を下回った旨の情報を取得し、当該情報に応じて前記制御信号の補正を開始させることとする。
【0018】
また、本発明では次のような電磁式可変バルブタイミング装置用の制御装置の構成としても良い。即ち、第1の電磁式アクチュエータ及び第2の電磁式アクチュエータの動作に伴って発生する各々の制動力を切換えて行なう機構制御により、内燃機関のカムシャフトの位相角を制御する電磁式可変バルブタイミング装置用の制御装置であって、
当該制御装置は、前記第1の電磁式アクチュエータ及び前記第2の電磁式アクチュエータの制御信号をスライディングモード制御により切換設定する第1の位相制御処理と、前記内燃機関の回転数に基づき前記制御信号を補正して前記位相角の駆動感度を調整する出力補正処理と、
前記第1の電磁式アクチュエータ及び前記第2の電磁式アクチュエータの制御信号を比例制御により設定する第2の位相制御処理と、スライディングモード制御及び比例制御の何れか一方の制御モードによって位相制御させる制御モード切替処理と、を機能させるものであって、
前記制御モード切替処理は、前記内燃機関の回転数に応じて前記スライディングモード制御又は前記比例制御の何れかの制御モードに切替えることとする。
【0019】
また、本発明では次のような電磁式可変バルブタイミング装置用の制御装置の構成としても良い。即ち、電磁式アクチュエータを具備する機構制御により、内燃機関のカムシャフトの位相角を制御する電磁式可変バルブタイミング装置用の制御装置であって、
当該制御装置は、前記電磁式アクチュエータの制御信号をスライディングモード制御により切換設定する第1の位相制御処理と、前記位相角の駆動感度に基づき前記制御信号を補正する出力補正処理と、
前記電磁式アクチュエータの制御信号を比例制御により設定する第2の位相制御処理と、スライディングモード制御及び比例制御の何れか一方の制御モードによって位相制御させる制御モード切替処理と、を機能させるものであって、
前記制御モード切替処理は、前記内燃機関の回転数に応じて前記スライディングモード制御又は前記比例制御の何れかの制御モードに切替えることとする。
【0020】
また、本発明では次のような電磁式可変バルブタイミング装置用の制御装置の構成としても良い。即ち、電磁式アクチュエータを具備する機構制御により、内燃機関のカムシャフトの位相角を制御する電磁式可変バルブタイミング装置用の制御装置であって、
当該制御装置は、前記電磁式アクチュエータの制御信号をスライディングモード制御により切換設定する第1の位相制御処理と、前記内燃機関の回転数に基づき前記制御信号を補正して前記位相角の駆動感度を調整する出力補正処理と、
前記電磁式アクチュエータの制御信号を比例制御により設定する第2の位相制御処理と、スライディングモード制御及び比例制御の何れか一方の制御モードによって位相制御させる制御モード切替処理と、を機能させるものであって、
前記制御モード切替処理は、前記内燃機関の回転数に応じて前記スライディングモード制御又は前記比例制御の何れかの制御モードに切替えることとする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る電磁式可変バルブタイミング装置の制御装置によると、先ず、非自己復帰型の電磁式アクチュエータを採用することにより、自己復帰型の電磁式アクチュエータに纏わる種々のデメリットを解消させる。加えて、このような非自己復帰型の装置を用いる場合、感度特性が不安定となるが、駆動感度の補正制御を採用することにより、悪化した感度特性の改善が図られる。そして、この制御装置は、スライディングモード制御に基づいて電磁式アクチュエータをフィードバック制御させるので、外乱等の不確定な要素に影響されにくいロバスト性の高い制御が実現され、併せて、制御上のマップ情報の設定を最小限に抑えることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施の形態につき図面を参照して説明する。
図1に示す如く、内燃機関自動車に用いられる燃焼制御システムEGsysは、内燃機関Egと燃料供給系統Bと点火系統Cと制御装置ECUとから構成される。本実施の形態では、制御装置ECUに内蔵される信号処理部(後述)と適宜の制御プログラム(後述)とによって、電磁式可変バルブタイミング装置の制御装置が構築される。
【0026】
燃料供給系統Bは、燃料タンクTKと燃料ポンプPMとインジェクションINJとから構成され、制御装置ECUによって、燃料ポンプPMが制御され、インジェクションINJに内蔵されるバルブ直前の管内圧力が適宜に調節される。
【0027】
点火系統Cは、イグナイタIgと点火コイルCLとから構成され、制御装置ECUから受けた信号SGに基づいて、バッテリ電圧VBを点火コイルCLへ導入する。そして、点火コイルCLでは、バッテリ電圧VBを昇圧させ、数百KVに昇圧された電圧を点火プラグPGへ印加する。
【0028】
内燃機関Egには、吸気通路Pi,排気通路Poは接続されている。排気通路Poは、排気バルブVoが設けられ、図示されない消音器(マフラー)に接続される。また、吸気通路Piは、吸気弁Viが設けられると共に、エアクリーナ10、エアフローメータMa、スロットルバルブVslが配備されている。
【0029】
吸気バルブVi及び排気バルブVoは、バルブ駆動系統Dによってバルブタイミングが規定され、内燃機関Egへ取り込まれる空気量を調節する。エアクリーナ10は、内部にフィルターエレメントが収容され、車体が取り込んだ空気をフィルターエレメントによって濾過させる。エアフローメータMaは、吸気通路Piへ送り込まれた空気量を計測し、エアーの流量に関する情報を電気信号に変換して出力させる。スロットルバルブVslは、制御装置ECUから送られる信号に応じて弁開度を制御させ、吸気通路Piへ導引されるエアーの流量を調節する。
【0030】
次に、
図1及び
図2を参照し、内燃機関の構造について説明する。図示の如く、内燃機関Egは、クランクシャフトSHcr,ピストンPt,ピストンロッドPr,シリンダSd,点火プラグPG,吸排気バルブVi及びVo,バルブ駆動系統Dとから構成される。本実施の形態では、4気筒−DOHCの内燃機関として説明を行なう。
【0031】
クランクシャフトSHcrは、クランクピンPcrを介して、偏心クランクとピストンロッドPrとを係合させている。内燃機関Egは、偏心クランクに対応して略円筒状のシリンダSdが形成されており、ピストンPtは、シリンダ内に摺動自在に嵌入され、ピストンロッドPtを介してクランクシャフトSHcrへ動力伝達を行なう。かかるリンク機構は、4気筒分配備されることとなる。また、クランクシャフトSHcrの端部には、タイミングプーリPllyが設けられ、ジャーナルSHjの回転に応じて、タイミングプーリPllyも回転する。また、ジャーナルSHjには、クランク角センサDt1が設けられ、当該センサDt1は、クランク角に関する信号を出力させる。
【0032】
カムシャフトSHcmは、クランクシャフトSHcrと略平行に対峙する状態で配置される。カムシャフトSHcmは、吸気バルブ用及び排気バルブ用の2本が設けられる。吸気側のカムシャフトSHcmは、カムCmiを4箇所に配備させ、シャフトの回転に応じて吸気バルブViを開閉動作させる。このカムCmiは、気筒ごとに位相差が設けられている。また、排気側のカムシャフトSHcmにも、同様のカムCmoが設けられ、この排気側のカムCmoは、吸気側のカムに対して所定の位相差が与えられている。従って、吸気側及び排気側の双方のバルブは、燃焼サイクルに応じて開閉動作が行なわれることとなる。尚、カムシャフトSHcmには、カムポジションセンサDt2が設けられており、当該センサD2からは、各々のカムシャフトの位相情報を示す信号Scmi,Scmoが出力される。
【0033】
吸気側のカムシャフトSHcmの端部には、電磁式可変バルブタイミング装置Aeiが設けられると共に、排気側のカムシャフトSHcmの端部には、電磁式可変バルブタイミング装置Aeoが設けられている。これらの電磁式可変バルブタイミング装置Aei/Aeoは、スプロケットSprを具備するものであり、当該スプロケットSprとカムシャフトSHcmとの位相差(相対位相)を変更させる。また、これらのスプロケットSpr及びタイミングプーリPllyは、デルタ状にレイアウトされ、タイミングチェーンTBLを介して三者が連動して駆動される。内燃機関Egは、これらのシャフトが連動して伝達駆動されることで、吸気バルブ及び排気バルブの開閉タイミングを規定し、吸気工程→圧縮工程→燃焼工程→排気工程,といった燃焼サイクルを実現させる。このとき、クランクシャフトSHcrは、各気筒の熱エネルギーを回転エネルギーへ変換させることで、同シャフトSHcrにトルクを発生させる。
【0034】
本実施の形態では、非自己復帰型の電磁式可変バルブタイミング装置が採用される。その一例を紹介すると、非自己復帰型の電磁式可変バルブタイミング装置Aeは、
図3に示す如く、伝達部材Ptr,スプロケットSpr,リンク機構LKm,外輪制動部Rout,外輪用電磁クラッチAout(特許請求の範囲における第1の電磁式アクチュエータ),内輪制動部Rin,内輪用電磁クラッチAin(特許請求の範囲における第2の電磁式アクチュエータ),等によって構成される。伝達部材Ptrは、一端がカムシャフトSHcmに固定され他端が内輪制動部Rinに固定される。即ち、カムシャフトSHcm及び伝達部Ptr及び内輪制動部Rinは、一体的に回転することとなる。一方、スプロケットSprは、内周部がリンク機構LKmに固定され、外周部が外輪制動部Routに固定されている。外輪制動部Rout及び内輪制動部Rinは、リンク機構LKmと共に位相角θrの変換機構を構成する。外輪制動部Routは、ロック状態で制動力が与えられると、其のロック状態を解き、カムシャフトが所定角度遅角方向へ位相変化することを許容する。そして、外輪制動部Routは、カムシャフトが所定角度遅角した時点でロック状態を形成する。一方、内輪制動部Rinは、ロック状態で制動力が与えられると、其のロック状態を解き、カムシャフトが所定角度進角方向へ位相変化することを許容する。そして、内輪制動部Rinは、カムシャフトが所定角度進角した時点でロック状態を形成する。かかる機構は、例えば、特開2009−209746号公報等で紹介されている。
【0035】
外輪用電磁クラッチAoutは、ソレノイドを内蔵させており、当該ソレノイドは、PWM信号による制御信号により、其の励磁状態が変化する。このため、外輪用電磁クラッチAoutは、制御信号(PWM信号)に応じてシャフトの軸方向に摺動し、外輪制動部Routへ制動力を与える。また、内輪用電磁クラッチAinにあっても、外輪用電磁クラッチと同様の構成とされており、入力される制御信号に応じて内輪制動部Rinへ制動力を与える。
【0036】
本実施の形態にあっては、外輪用電磁クラッチAout=非通電,内輪用電磁クラッチAin=通電,のとき、
図4(a)に示す如く、カムシャフトSHcmの位相角θrがスプロケットSprの基準角θoに対して進角する。一方、外輪用電磁クラッチAout=通電,内輪用電磁クラッチAin=非通電,のとき、
図4(b)に示す如く、カムシャフトSHcmの位相角θrがスプロケットSprの基準角θoに対して遅角する。このように、電磁式可変バルブタイミング装置は、電磁クラッチへのPWM信号が切換えられることで、カムシャフトSHcmの位相角θrを制御させる。このとき、電磁式可変バルブタイミング装置では、ロック解除→位相変更→再ロック,という動作を位相角の変換機構により実現させる。
【0037】
従来例にあっては、自己復帰型の電磁式アクチュエータが用いられるので、其の位相角を維持させる方法に不具合が生じていた。例えば、巻きバネの付勢力と制御信号(DUTY)とを釣り合わせて位相角を維持させようとすると、位相の変更が不要な場面でも制御信号を出力し続けることとなり、消費電力が大きくなるとの問題が生じる。これに対し、本実施の形態にあっては、非自己復帰型の電磁式アクチュエータが用いられるので、位相角が目標角へ到達した場面では、其の位相角θrを維持するようロックさせ、消費電力を抑えることが可能となる。
【0038】
また、自己復帰型の電磁式アクチュエータ(従来例)に対して、位相角をロックさせる為の機構を設けることも考えられるが、この場合、装置の大型化を招くとの問題が生じる。かかる問題についても、本実施の形態では、非自己復帰型の電磁式アクチュエータがコンパクトな構造とされるため、装置の大型化といった不具合を招くこともない。
【0039】
更に、非自己復帰型の電磁式アクチュエータは、自己復帰型の其れと比較して、制動力を発生させる為の必要トルクが少なくて済むので、装置の小型化を図ることが可能となる。また、巻きバネ等の消耗率の高い機械的要素が不要となるので、装置の長寿命化に繋がる。
【0040】
図1に戻り、エンジン制御装置E−ECUは、各センサとの接続端子、信号出力端子、電源入出力端子、各種回路を備えるものであって、内燃機関の制御に特化した「Engine Control Unit(上位ECU)」と呼ばれる装置である。図示の如く、エンジン制御装置E−ECUは、吸気流量に関する信号、スロットルバルブVslの開度信号、クランクシャフトSHcrの位相角に関する信号Scr、カムシャフトSHcmの位相角に関する信号Scm、この他、アクセルペダルモジュール80の踏込み操作に関する信号が入力される。エンジン制御装置E−ECUは、演算処理を行う信号制御回路を具備し、この信号制御回路と各制御プログラムとが協働して、点火信号SG,その他各種信号を生成出力し、点火コイルCL,インジェクションINJ,スロットルバルブVslを制御する。
【0041】
一般に、内燃機関は、吸気バルブ及び排気バルブについて、バルブタイミング制御が行なわれる。その一例について説明すると、内燃機関の回転速度が低回転域の場合、バルブオーバーラップ量を低くし、シリンダ内の空気充填量を高くして、燃料の気化状態を好適にする。一方、高回転域の場合、バルブオーバーラップ量を高くし、空気の流通量を向上させ、空気の充填効率を向上させる。かかるバルブタイミング制御を実現させるため、エンジン制御装置E−ECUは、内燃機関の運転状態に応じて、カムシャフトの目標位相角θthを設定している。この目標位相角θthは、CAN(Control Area Network)を介してバルブ制御装置V−ECUに与えられ、バルブオーバーラップ量を調整するパラメータとして用いられる。
【0042】
バルブ制御装置V−ECUは、
図2に示す如く、電磁式可変バルブタイミング装置用として設けられた制御装置であって、エンジン制御装置E−ECUと同様、CPU,メモリ回路,A/D変換回路,クロック回路等から成る信号制御回路を格納させている。このうち、メモリ回路には、電磁式可変バルブタイミング装置Dを制御する為の各種制御プログラム及び制御用のマップ情報等が記録されている。バルブ制御装置V−ECUは、この制御プログラム及びマップ情報(ソフトウェア)と信号処理回路(ハードウェア資源)とによって、以下機能を実現する装置が構築される。
【0043】
バルブ制御装置V−ECUは、目標位相角θthとカムシャフトSHcmの位相角θrとの位相差Δθに基づいて、電磁式可変バルブタイミング装置Aeのフィードバック制御を実施する。具体的に説明すると、
図3に示す如く、バルブ制御装置V−ECUは、偏差演算処理部110,第1の位相制御処理部120,出力補正処理部130とを構築させている。このうち、偏差演算処理部110は、目標位相角θthと現在の位相角θrとの差分値Δθを算出し、当該差分値Δθを第1の位相制御処理部120へ提供する。
【0044】
ここで、第1の位相制御処理部120を説明する前に、電磁式アクチュエータの型式に起因する制御上の相違点を説明する。先ず、自己復帰型の電磁式可変バルタイミング装置は、従来より広く用いられる装置であって、「渦巻きバネ」の付勢力を用いて位相制御するものである。かかる装置の力学的モデルは、凡そ、以下の式「数1」で表すことができる。
【数1】
θr(t):位相角(位相角θrに相当) [rad]
J:カムシャフト及びこれに付帯する構造のイナーシャ [Nms^2/rad]
D:クランクシャフトに対する回転抵抗の抵抗係数 [Nms/rad]
G:巻きバネのバネ定数 [Nm]
i(t):電流値(DUTYの平均値) [A]
Km:電磁式アクチュエータの出力係数 [Nm/A]
t:時間を示すパラメータ [s]
(以下、F(t)と示す場合、関数Fは、時間tの関数であることを表す。)
【0045】
「数1」を参照すると、この装置に係る力学的モデルは、アクチュエータによる制動力(右辺)と、慣性力(左辺第1項)と、クランクシャフトに対する回転抵抗(左辺第2項)と、渦巻きバネによる付勢力(左辺第3項)とから成る。この力学的モデルでは、
図14(a)に示す如く、バルブストロークStが負となるタイミングTnに略対応して位相変化が行なわれる。
【0046】
一方、本実施の形態に係る電磁式可変バルブタイミング装置では、電磁式アクチュエータが非自己復帰型とされるので、この場合の力学的モデルは、凡そ、以下の式「数2」で表すことができる。
【数2】
θr(t):位相角(位相角θrに相当) [rad]
J:カムシャフト及びこれに付帯するイナーシャ [Nms^2/rad]
D:クランクシャフトに対する回転抵抗の抵抗係数 [Nms/rad]
i(t):電流値(DUTYの平均値) [A]
Km:アクチュエータの出力係数 [Nm/A]
【0047】
「数2」を参照すると、本実施の形態に係る力学的モデルは、機構上の理由から、「数1」と比較して付勢力に係る項が省略されることとなる。これに関係して、本力学的モデルにあっては、
図14(b)に示す如く、バルブストロークStが負となる場面であっても位相変更タイミングtvが減少し、駆動感度の低下を生じさせる。特に、内燃機関が高回転で運転されると、位相変化の始動遅れも影響し、駆動感度の低下が顕著となる。可変バルブタイミング装置に係る技術では、其の性質上、制御速度を俊敏にさせることが望まれるところ、このような駆動感度の低下は致命的となる。
【0048】
かかる不具合の対策として、比例制御(PID制御等)を用いてDUTYのゲイン補正を行い、駆動感度を改善させることも考えられる。しかし、そのようにすると、DUTYを演算する処理では、回転数の変化毎に感度補正用のマップ情報が必要となり、其の必要なマップ情報が膨大となってしまう。また、これらのマップ情報の増加に伴い、デバッグ作業の労力が膨大となることも問題となる。
【0049】
そこで、本実施の形態にあっては、比例制御による不具合を是正させるべく、DUTYの演算処理においてスライディングモード制御を採用し、このロバスト性の高い制御により、感度補正に係るマップ情報量の低減を企図するものである。即ち、本実施の形態に係るバルブ制御装置V−ECUでは、スライディングモード制御の採用により、非自己復帰型の電磁式可変バルブタイミング装置を採用する際に付随する不具合を改善させようとするものである。そして更に、非自己復帰型の電磁式可変バルブタイミング装置を利用可能とすることで、消費電力に関するメリット、この他、装置の体格及び耐久性等の様々なメリットを享受しようとするものである。以下、スライディングモード制御を採用したDUTYの演算処理について説明する。
【0050】
DUTYの演算処理は、
図3に示す如く、第1の位相制御処理部120で実施される。当該処理部120では、パラメータ演算部121とDUTY設定部122とが機能し、スライディングモード制御に基づいた制御信号DTYs1,STYs2が設定される。一般に、スライディングモード制御は、x軸と「dx/dt」軸との2軸から成る位相平面に基づいて、対象となる力学的モデルでの出力値(制御信号、即ち、DUTY)を決定する。位相平面上の座標は、制御対象の挙動を示すものであり、以下、この座標(x,dx/dt)を状態変数と呼ぶこととする。この位相平面上の状態変数(x,dx/dt)は、スライディングモード制御が好適に機能すると、制御の進行に応じて、切換線と呼ばれる位相平面に設定された直線上に移動し(到達モード)、その後、切換線に沿って位相平面の原点側(平衡状態)へ推移するよう制御される(スライディングモード)。
【0051】
本実施の形態では、上述した「数2」に係る力学的モデルを好適に制御させる為、以下の思想に基づいてスライディングモード制御を具現化させている。先ず、本機構の電磁的な関係について検討すると、電磁式アクチュエータは、ソレノイドにより駆動されるので、凡そ、次のような電気的関係「数3」が成立する。
【数3】
R:ソレノイド及び配線抵抗 [Ω]
i(t):電流値(DUTYの平均値) [A]
L:ソレノイドのインダクタンス [H]
V(t):ソレノイドを含む回路へ印加される電圧値 [V]
【0052】
そして、「数2」と「数3」について各々ラプラス変換し、両式を用いて、電流値i(t)の項を除去させると、次式「数4」が得られる。
【数4】
ここで、「s」はラプラス演算子を指し、V(s)及びΘr(s)は、v(t)及びi(t)に関するラプラス変換後の関数を指す。
【0053】
そして、「数4」について逆ラプラス変換を行なうと、次のように、位相角θr(t)に関する微分方程式「数5」が得られる。
【数5】
但し、a=JL,b=DL+JR,c=RD,の関係をそれぞれ有する。
【0054】
ここで、状態変数xを次のように置くこととする(「数6」)。
【数6】
【0055】
ここで、「数5」と「数6」を用いると、次の式「数7」が得られる。
【数7】
「数7」における行列A及び行列Bは、各々の成分が以下の通りとなる(「数8」)。
【数8】
【0056】
ここで、位相平面に設定される切換線を「Sx=0」と仮定すると、切換関数σ(x,dx/dt)が次式「数9」ように表される。
【数9】
【0057】
そして、スライディングモードが成立中には、以下の式「数10」を成立させつつ、状態変数(x,dx/dt)が平衡状態(運動の収束状態)へと推移することとなる。
【数10】
【0058】
即ち、スライディングモードで状態変数が制御されている場合、以下の式「数11」が成立することとなる。尚、uを飽和出力値と呼ぶこととする。
【数11】
【0059】
本実施の形態に係るパラメータ演算部121では、「数11」を充足するように、行列Sの成分が適宜設定される。行列Sの各成分は、「外乱の発生」又は「抵抗の変動」を予め想定して、好適な値に設定すると良い。これにより、本実施の形態に係る制御では、位相制御を実施するに際し、高いロバスト性を具備させることが可能となる。
【0060】
但し、実際には、次式「数12」のように飽和出力値uを決めると良い。
【数12】
上式「数12」のうち右辺第1項は「数11」と同様の線形項であり、右辺第2項は「最終スライディングモード制御」に係る項である。このうち、k(x,t)は、スカラー量であって、スライディングモードの発生条件を満たすように適宜設定される。
【0061】
上述の如く、パラメータ演算部121では、切換線「Sx=0」を決定させる行列S,状態変数(x,dx/dt),飽和出力値u,出力値関数DUTY(σ)等を設定または算出する。
【0062】
行列Sは、位相平面に設定される切換線「Sx=0」を決定させる。この成分は、上述の如く、外乱等に対してロバスト性の高い制御が実現されるよう、適宜設定される。
【0063】
状態変数(x,dx/dt)は、位相角θrの情報に基づいて各々算出される。パラメータ演算部121では、かかる状態変数に基づいて、位相平面の切換線「Sx=0」に対するオフセット量σが算出される。
【0064】
飽和出力値uは、「数11」又は「数12」等によって算出され、具体的には、DTYs[H]とDTYs[L]とが算出される。このうち、DTYs[H]はMAX値であって、DTYs[L]はMIN値とされる。本実施の形態にあっては、アクチュエータの内輪側と外輪側との制動力の特性が異なるため、σ>0,の場合にDTYs(H)が設定され、σ<0,の場合にDTYs(L)が設定される。
【0065】
図5に示す如く、出力値関数DUTY(σ)は、電磁クラッチの制御信号と、オフセット値σとの相関関係を規定する。尚、出力値関数DUTY(σ)は、オフセット量σが正の領域では内輪用電磁クラッチAinが通電され、オフセット量σが負の領域では外輪用電磁クラッチAoutが通電されることを示す。従って、オフセット量σを示す横軸は、正の領域では進角方向に制御されることを意味し、負の領域では遅角方向に制御されることを意味する。
【0066】
図示の如く、出力値関数DUTY(σ)は、「σ≧σ1」の領域にて、内輪用電磁クラッチAinの制御信号DTY(H)が設定され、「σ≦σ2」の領域にて、外輪用電磁クラッチAoutの制御信号DTY(L)が設定される。また、「σ2>σ>σ1」の領域では、切換時のチャタリングを防止する為、飽和関数が設けられている。尚、本実施の形態では、飽和関数を設定しているが、平滑関数を用いてチャタリングを抑制させても良い。かかる如く規定された出力値関数DUTY(σ)は、オフセット量σが定まると、制御信号(DUTY比)を一義的に決定させる。
【0067】
このように、パラメータ演算部121で各種のパラメータが算出されると、DUTY設定部122に移行する。DUTY設定部122では、現在の位相平面でのオフセット量σを認識し、出力値関数DUTY(σ)に基づいて制御信号DUTYを設定する。例えば、オフセット量σが「σ>0」の場合、制御信号DUTYs1は、オフセット量σと出力値関数DUTY(σ)とによって算出され、内輪用電磁クラッチAinの制御信号として出力される(但し、DTYs2=0%)。このとき、電磁式可変バルブタイミング装置は進角制御される。また、オフセット量σが「σ<0」の場合、制御信号DUTYs2は、上述同様な演算が行なわれ、外輪用電磁クラッチAoutの制御信号として出力される(但し、DTYs1=0%)。このとき、電磁式可変バルブタイミング装置は遅角制御される。
【0068】
このように、スライディングモード制御は、オフセット量σの正負によって制御信号(DTYs1,DTYs2)の切換制御が実施される。そして、「到達モード」の場面では、制御信号が適宜に選択されることで、オフセット量σが「σ→0」となるように、位相制御が行われる。また、「スライディングモード」の場面では、制御信号(DTYs1,DTYs2)が連続的に切換えられることで、切換線「Sx=0」に沿って平衡状態へ到達するよう位相制御が行われる。但し、本実施の形態では、以下の感度補正を伴った状態で、スライディングモード制御が行われる。以下、かかる感度補正について説明する。
【0069】
第1の位相制御処理120が終了すると、次に、出力補正処理130が機能する(
図3参照)。当該処理130は、駆動感度(dθr/dt)が所定の閾値(限界感度Kth)を下回った場合、第1の位相制御処理120で算出された制御信号の補正を行うように機能する。出力補正処理130のうち演算処理131では、位相角θrの駆動感度(dθr/dt)を算出し、この他、補正値c・u(DTYc[H],DTYc[L]),補正出力関数DUTYc(σ),を設定する。また、オフセット量σは、本処理にあっても認識可能な状態とされている。
【0070】
駆動感度(dθr/dt)は、カムシャフトSHcmの位相信号Scmに基づいて算出される。駆動感度(dθr/dt)は、単位時間当たりに対する位相角又は位相差(相対位相)の変化量を指す。但し、この駆動感度(dθr/dt)は、其の算出方法が特段限定されているものでない。例えば、駆動感度に対してDUTY比に関係する係数を組み込み、駆動感度に対する電流値の実効状態を現すようにしても良い。尚、本件の技術分野において、駆動感度(dθr/dt)と呼ばれるものは、回転周期毎に検出したカムシャフトの位相信号を用い、当該信号に基づいて統計的(例えば、平均値等)に算出させるのが一般的である。
【0071】
飽和出力値の補正値c・uは、駆動感度に基づいて係数cが設定され、先に設定された飽和出力値u(DTYs[H],DTYs[L])に補正係数cが乗算される。これにより、外輪電磁クラッチAoutの制御信号DTYs[L]は、DTYc(L)に修正され、内輪電磁クラッチAinの制御信号DTYs[H]は、DTYc(H)に修正される(
図6参照)。
【0072】
補正出力関数DUTYc(σ)は、
図6に示す如く、飽和出力値u(DTYs[H],DTYs[L])の補正処理に応じて、飽和関数の補正も行われる(σ2≦σ≦σ1)。これにより、制御信号DUTYは、オフセット量σの全範囲において、制御信号DUTYが補正されることとなる。
【0073】
尚、補正係数cは、駆動感度(dθr/dt)と限界感度Kthとの比を用いて算出するようにしても良く、この他、補正係数cを算出する為の特性方程式を用いて算出するようにしても良い。このように、補正係数cは、種々の方法によって算出され得るものであり、特段限定されるものではない。
【0074】
処理131が終了すると、最終DUTY設定処理132では、現時点でのオフセット量σを認識し、補正出力関数DUTYc(σ)に基づいて制御信号DTYc1,DTYc2を決定し、各電磁クラッチへ制御信号DTYc1,DTYc2を出力させる。先にも述べたように、「到達モード」の場面では、制御信号が適宜に選択されることで、オフセット量σが「σ→0」となるように、位相制御が行われる。また、「スライディングモード」の場面では、制御信号(DTYc1,DTYc2)が連続的に切換えられることで、切換線「Sx=0」に沿って平衡状態へ到達するよう位相制御が行われる。
【0075】
図7(a)は、感度補正を実施しなかった場合の駆動特性が示されている。尚、
図7(a)〜
図7(c)に示される感度特性は、スライディングモード制御による実験結果であって、進角制御時の場面が示されている。
【0076】
先に指摘したように、内燃機関の回転数が変動すると、所望の駆動感度Kthが得られなくなり、制御上の安定性が損なわれる。かかる現象は、非自己復帰型の電磁式可変バルブタイミング装置を採用した為に、位相変更タイミングVtが減少し、当該装置の駆動感度(dθr/dt)が低下してしまう。特に、運転状態が高回転となる状況下では、駆動感度の低下が顕著となる。実験結果(
図7a)を参照すると、4000(rpm)〜5000(rpm)の付近で感度の低下が顕著に認められ、4600(rpm)以後、限界感度Kthを下回っている。
【0077】
図7(b)は、本実施の形態に係るバルブ制御装置V−ECUを用いた場合の、感度特性が示されている。図示の如く、バルブ制御装置V−ECUは、駆動感度(dθr/dt)が限界感度Kthを下回った場合に、出力補正処理130が機能する。同図の実験では、4600(rpm)の付近Xで、出力補正処理130が機能し始めているのが解る。このように、本実施の形態に係るバルブ制御装置V−ECUは、駆動感度(dθr/dt)が限界感度Kthを上回っている条件において、第1の位相制御処理120で算出された制御信号(DTYs1,DTYs2)を其のまま電磁クラッチへ与える。一方、駆動感度(dθr/dt)が限界感度Kthを下回ると、補正させた制御信号(DTYc1,DTYc2)を電位クラッチへ与える。尚、実際には、
図7(c)に示す如く、内輪/外輪の双方の電磁クラッチで感度補正が行なわれる。
【0078】
上述の如く、本実施の形態に係るバルブ制御装置V−ECUによると、先ず、非自己復帰型の電磁式アクチュエータを採用することにより、自己復帰型の電磁式アクチュエータに纏わる種々のデメリットを解消させる。加えて、このような非自己復帰型の装置を用いる場合、感度特性が不安定となるが、駆動感度の補正制御を採用することにより、悪化した感度特性の改善が図られる。そして、この制御装置は、スライディングモード制御に基づいて電磁式アクチュエータをフィードバック制御させるので、外乱等の不確定な要素に影響されにくいロバスト性の高い制御が実現され、併せて、制御上のマップ情報の設定を最小限に抑えることが可能となる。
【実施例1】
【0079】
図8は、実施の形態で説明したバルブ制御装置V−ECUの変更例が示されている。図示の如く、本実施例に係るバルブ制御装置V−ECUは、先の実施の形態と同様、偏差演算処理110及び第1の位相制御処理120を実施させた後、出力補正処理130を実施させる。この出力補正処理130は、処理131によって、内燃機関の回転数ωcr,オフセット量σを認識し、飽和出力値の補正値c・u,補正出力関数DUTYc(σ)を設定する(処理131)。そして、オフセット量σに基づいて、補正出力関数DUTYc(σ)から制御信号DTYc1,DTYc2を設定し、電磁クラッチAin/Aoutを制御する。尚、内燃機関Egの回転数ωrcは、クランクシャフトSHcrの回転数とされるのが好ましい。但し、位相変化が無視できる場面では、カムシャフトSHcmの回転数を用いても良い。
【0080】
また、本実施例に係る出力補正処理部130は、回転数に関する閾値(限界回転数ωth)が定められており、内燃機関の回転数が限界回転数以下であれば同処理130を無効とさせ、内燃機関の回転数が限界回転数以上であれば同処理130を有効とさせる。
【0081】
図9は、
図7で説明した感度特性のうち、4000(rpm)〜5000(rpm)の拡大図である。
図9(a)は、感度補正を機能させなかった場面が示されている。現在の制御状態がPとされる場合、回転数を上昇させていくと、其の回転数は、P→Q→X→R,へと推移する。駆動感度Ws2の特性は、予め実験データを取得することにより把握することが可能である。従って、駆動感度(dθr/dt)が限界感度Kthを下回るか否かは、回転数に基づいて予測することが可能である。
【0082】
図9(b)は、回転数に基づく感度補正の実施結果が示されている。本実施例に係るバルブ制御装置V−ECUは、回転数が限界回転数ωthを上回ると、出力補正処理130を機能させる。このように、本実施例では、回転数の閾値判定により駆動感度の低下を予測し、駆動感度(dθr/dt)の補正処理を開始させることが可能となる。
【0083】
尚、本件の場合、回転数が急激に低下する場面で更なる効果が期待される。同図に従えば、回転数が低下する際、感度補正が有効とされる状態から、感度補正を失効させる状態へと切換えられる。このとき、回転数の低下が急激であると、感度補正における有効状態/失効状態の切換が遅れ、不要に駆動感度を上昇させることが懸念される。このような現象が顕著となると、機構上の安全性を欠き、装置の破壊に繋がりかねない。
【0084】
ところが、本実施例に係るバルブ制御装置V−ECUは、回転数に基づいて、駆動感度が正常値に復帰する時期を予測することが可能となる。このため、回転数が急激に低下するような場面であっても、感度補正を失効させるタイミングを正しく設定できるので、上述したような不要な感度の上昇を回避させることが可能となる。
【実施例2】
【0085】
本実施例は、上述した実施の形態又は実施例に改変が加えられている。
図10に示す如く、本実施例に係るバルブ制御装置V−ECUは、偏差演算処理部110と、第1の位相制御処理部120と、出力補正処理部130と、第2の位相制御処理部140と、制御モード切替処理160とを構築させている。このうち、偏差演算処理部110,第1の位相制御処理部120,出力補正処理部130等、既に説明されている部分については、同一符号を付し、其の説明を省略することとする。
【0086】
新たに構成された処理部のうち、第2の位相演算処理部140は、比例制御により、電磁クラッチAin/Aoutの制御信号(DTY1,DTY2)を設定する。本実施例に係る比例制御は、PID制御が実施される。第2の位相演算処理部140は、目標位相角θthと現在の位相角θrとの差分値Δθが入力されると共に、比例値Kp,積分値Ti,微分値Tdが適宜に設定されている。当該処理部140は、「s」をラプラス演算子とすると、u=Kp〔1+(1/Ti・s)+(Td・s)〕・Δθ,によって出力値uを算出させ、この出力値uは、制御信号(DTY1,DTY2)として与えられる。
【0087】
第2の位相演算処理部140は、PID制御に限定することなく、PI制御といった他の比例制御を採用しても良い。図示の如く、バルブ制御装置V−ECUは、処理140を機能させる場合、比例制御に基づくフィードバック制御を実現させる(制御モード:PIDmode)。一方、処理120〜処理130を機能させる場合、スライディングモード制御に基づくフィードバック制御を実現させる(制御モード:SLDmode)。
【0088】
制御モード切替処理160は、内燃機関の回転数に応じて制御モードを切換える。本実施例にあっては、2000(rpm)以下の範囲でPIDmodeが設定され、2000(rpm)以上の範囲でSLDmodeが設定される。そして、制御モード切替処理160は、切換処理によって機能させた制御モードの制御信号(DTY1,DTY2)を、電磁式可変バルブタイミング装置Aeへ出力させる。
【0089】
図11(a)はSLDmodeが選択された場合の感度特性であって、
図11(b)はPIDmodeが選択された場合の感度特性である。このように、中〜高回転域にあっては、SLDmodeを選択したほうが良好な駆動感度が得られ、低回転域にあっては、PIDmodeを選択したほうが良好な駆動感度が得られる場合がある。本実施例は、この双方の利点を採用しようとするものである。
【0090】
本実施例では、2000(rpm)以下の場面ではPIDmodeが選択され、2000(rpm)以上の場面ではSLDmodeが選択される。このため、
図11(c)に示す如く、回転数が2000(rpm)の前後で制御特性が切り替えられる。また、SLDmodeでは、上述の如く駆動感度が補正されることとなる。従って、全ての回転域に亘って、駆動感度(dθr/dt)が良好な状態とされる。
【0091】
尚、PIDmodeとSLDmodeとの切換点では、駆動感度が急激に変動しないように、PIDmodeにおける比例値Kpを調整させて、駆動感度の変動を抑制するようにパラメータを設定するのが好ましい。
【0092】
また、
図12に示す如く、特許文献1で紹介されるように、PIDmodeにゲイン補正処理150を追加させても良い。但し、比例制御では、回転数に応じて駆動感度が変動するため、感度補正用のマップ情報を所定量準備しなければならない。このため、かかる技術では、制御モードを切換える回転数を適宜に設定し、感度補正用のマップ情報を幾分でも少なくできるようにする工夫が必要となる。また、目標位相角θthが設定変更されると、位相差Δθが大きくなる場合にはリセットワインドアップが生じてしまう。従って、目標位相角θthが設定変更される場面では、比例制御において、積分項(1/Ti・s)=0,に設定し、オーバーシュートの発生を回避させるようにすると良い。
【0093】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記された技術的思想の範囲内において、種々の変更が可能である。例えば、上述の記載によれば、吸気側及び排気側の双方に電磁式可変バルブタイミング装置を設けているが、本発明は、吸気側のみ,又は,排気側のみに電磁式可変バルブタイミング装置を設けたエンジンにも適用可能である。また、本発明は、特開2008−031963号公報,特開平10−103029号公報等のように、サーボモータによって成る電磁アクチュエータへ適用させても良い。