【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本発明の音響デバイスは、エラストマーまたは樹脂製の誘電膜と該誘電膜を介して配置される複数の電極とからなる振動部材と、該振動部材の周縁部を支持するフレームと、を有する高分子スピーカと、該高分子スピーカの裏面に接して配置される発泡ウレタン部材と、を備え、該高分子スピーカと該発泡ウレタン部材とは一体成形されてなることを特徴とする。
【0009】
本発明の音響デバイスは、高分子スピーカを備える。高分子スピーカの振動部材は、エラストマーまたは樹脂製の誘電膜と電極とからなる。高分子スピーカは、永久磁石やボイスコイルを有する従来のダイナミックスピーカと比較して、薄く軽量である。また、比較的低コストで製造することができる。したがって、本発明の音響デバイスは、軽量で、小型化しやすく、比較的安価である。なお、「エラストマーまたは樹脂製」とは、誘電膜のベース材料が、エラストマーまたは樹脂であることを意味する。よって、エラストマーまたは樹脂成分の他に、添加剤等の他の成分を含んでいても構わない。エラストマーには、ゴムおよび熱可塑性エラストマーが含まれる。
【0010】
高分子スピーカにおいて、音の電気信号としての交流電圧が電極間に印加されると、電極間の静電引力に応じて誘電膜の厚さが変化して、誘電膜が伸縮する。高分子スピーカの裏面には、発泡ウレタン部材が配置される。このため、振動部材の裏面の面方向における変形は、発泡ウレタン部材により規制される。よって、誘電膜の伸縮に伴い、振動部材は表裏方向に振動する。ここで、発泡ウレタン部材は、柔軟である。したがって、振動部材の表裏方向の振動を阻害しにくい。また、高分子スピーカの表面には、発泡ウレタン部材が配置されない。このため、高分子スピーカの表方向(音の伝達方向)に、音が通りやすい。つまり、音質が低下しにくい。
【0011】
また、本発明の音響デバイスによると、特許文献3に記載されているような、スピーカの表面を覆うクッションプレートは不要である。このため、部品点数が少なくて済む。また、高分子スピーカと発泡ウレタン部材とは一体成形されてなる。このため、別途、高分子スピーカを取り付ける作業は不要である。したがって、製造工程を簡略化することができる。
【0012】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記振動部材は、前記発泡ウレタン部材側に膨出し伸張された状態で配置される構成とする方がよい。
【0013】
振動部材を構成する誘電膜は、エラストマーまたは樹脂製である。このため、本発明の音響デバイスの動作時には、誘電膜に、予めバイアス電圧を印加する。バイアス電圧の印加により、誘電膜の厚さが薄くなり、誘電膜が面方向に伸びる。この際、誘電膜が伸びた分だけ、誘電膜にしわが発生するおそれがある。しわが発生すると、誘電膜が均一に振動できなくなり、分割振動が生じやすい。分割振動が生じると、周波数により音圧レベルに高低が生じる。そして、放射される音波が打ち消し合うと、音が出にくくなる。
【0014】
この点、本構成によると、振動部材は、発泡ウレタン部材側に膨出し、予め伸張された状態で配置される。つまり、誘電膜が伸張された状態で配置される。したがって、バイアス電圧の印加で誘電膜が伸びても、誘電膜にしわが生じにくい。これにより、分割振動を抑制することができる。その結果、高分子スピーカにおいて、広い周波数領域の音を発生させることができる。
【0015】
(3)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、前記発泡ウレタン部材は連続気泡体である構成とする方がよい。
【0016】
発泡ウレタン部材の内部には、多数の気泡が存在する。例えば、個々の気泡が独立している場合(つまり、発泡ウレタン部材が独立気泡体の場合)、気泡が弾性体のように振る舞うことにより、発泡ウレタン部材が空気ばねとして機能するおそれがある。この場合、発泡ウレタン部材が振動部材の動きを阻害して、スピーカ性能が低下するおそれがある。この現象は、高周波数領域の振動において、顕著になる。これに対して、本構成の発泡ウレタン部材は、連続気泡体である。すなわち、個々の気泡は、互いに繋がっている。このため、発泡ウレタン部材の中の気体が抜けやすい。よって、発泡ウレタン部材が空気ばねになりにくく、振動部材の動きを阻害しにくい。このため、スピーカ性能が低下しにくい。発泡ウレタン部材を連続気泡体にするためには、例えば、原料組成を調整すればよい。また、発泡成形後に、エアークラッシング等の連通化処理を施してもよい。
【0017】
(4)好ましくは、上記(3)の構成において、前記発泡ウレタン部材の通気量は、1000ml/分以上である構成とする方がよい。
【0018】
本構成においては、発泡ウレタン部材の気泡が、充分連通化されている。よって、発泡ウレタン部材の中の気体が、抜けやすい。したがって、発泡ウレタン部材が空気ばねになりにくく、振動部材の動きを阻害しにくい。
【0019】
通気量としては、以下の方法で測定された値を採用する。すなわち、まず、平板状の通気ジグを準備する。通気ジグの中心には、60mmφの通気孔が貫設されている。次に、通気ジグで、発泡ウレタン部材のサンプル(縦75mm×横75mm×厚さ10mm)の一面を押さえる。この状態で、サンプルの一面に対向する他面を、吸気ポンプで減圧吸引する。この時、両面の差圧が98Paとなるようにする。そして、吸気ポンプに導かれる空気の流量を、流量計にて測定する。
【0020】
(5)好ましくは、上記(1)ないし(4)のいずれかの構成において、前記誘電膜は、エラストマー製である構成とする方がよい。
【0021】
振動部材が柔軟性に乏しいと、低周波数領域の印加電圧に対して、振動しにくい。よって、低周波数領域の音が出にくくなるおそれがある。この点、エラストマーは、柔軟で伸縮性に優れる。したがって、本構成によると、低周波数領域の印加電圧に対しても、振動部材が振動しやすい。よって、低周波数領域の音も発生させることができる。
【0022】
(6)好ましくは、上記(1)ないし(5)のいずれかの構成において、前記電極は、エラストマーと導電材とを含む柔軟導電材料からなる構成とする方がよい。
【0023】
電極は、誘電膜の表裏両面に配置される。エラストマーを含む柔軟導電材料から形成された電極は、柔軟で、誘電膜と一体となって伸縮可能である。このため、誘電膜の動きを阻害しにくい。また、誘電膜がエラストマー製の場合には、誘電膜、電極の両方が柔軟であるため、低周波数領域の音を、より発生させやすくなる。また、振動を繰り返しても、電極が誘電膜から剥離しにくい。よって、本構成の振動部材は、耐久性に優れる。
【0024】
(7)好ましくは、上記(1)ないし(6)のいずれかの構成において、前記発泡ウレタン部材は、ヘッドレストのクッション部材であり、さらに、該ヘッドレストをシートバックに装着するステー部材を備え、該ステー部材と該クッション部材と前記高分子スピーカとは一体成形されてなる構成とする方がよい。
【0025】
本構成においては、本発明の音響デバイスが、高分子スピーカを内蔵したヘッドレストとして具現化される。本構成によると、従来のダイナミックスピーカを内蔵したヘッドレストと比較して、ヘッドレストの軽量化が可能になる。また、ヘッドレストのクッション部材と、ステー部材と、高分子スピーカと、が一体成形される。このため、製造時において、高分子スピーカをステー部材等へ取り付ける作業は必要ない。よって、取付部品が不要であり、ヘッドレストの製造が容易になる。また、特許文献3に記載されているような、スピーカの表面を覆うクッションプレートも不要である。このため、部品点数が少なくて済む。
【0026】
(8)本発明の音響デバイスの製造方法は、エラストマーまたは樹脂製の誘電膜と該誘電膜を介して配置される複数の電極とからなる振動部材と、該振動部材の周縁部を支持するフレームと、を有する高分子スピーカと、該高分子スピーカの裏面に接して配置される発泡ウレタン部材と、を備える音響デバイスの製造方法であって、該高分子スピーカを、その表面が成形型の型面に沿うように該成形型のキャビティ内に配置する配置工程と、発泡ウレタン樹脂原料を該キャビティ内に注入し、該発泡ウレタン部材を発泡成形する発泡成形工程と、該成形型から、該発泡ウレタン部材に該高分子スピーカが一体成形された音響デバイスを取り出す取り出し工程と、を有することを特徴とする。
【0027】
本発明の製造方法によると、発泡ウレタン部材を発泡成形するのと同時に、高分子スピーカを一体化することができる。したがって、上記本発明の音響デバイスを、容易に製造することができる。また、高分子スピーカを発泡ウレタン部材と一体成形するため、別途、高分子スピーカを取り付ける作業は必要ない。よって、音響デバイスの製造工程を簡略化することができる。
【0028】
(9)好ましくは、上記(8)の構成において、前記型面は凸部を有し、前記配置工程において、前記高分子スピーカは該凸部に伏設され、前記振動部材は、前記発泡ウレタン部材の成形収縮により該発泡ウレタン部材側に伸張される構成とする方がよい。
【0029】
上記(2)の構成において説明したように、振動部材において、誘電膜は、伸張された状態で配置されることが望ましい。本構成の製造方法において、発泡ウレタン部材を成形型から取り出すと、発泡ウレタン部材中の気泡の二酸化炭素等が、空気中の酸素や窒素と置換する。これにより、発泡ウレタン部材は収縮する。発泡ウレタン部材が収縮すると、それに引っ張られるようにして、振動部材が発泡ウレタン部材側に伸張される。すなわち、本構成の製造方法によると、高分子スピーカと発泡ウレタン部材とを一体成形することにより、誘電膜に張力が自動的に付与される。
【0030】
このように、誘電膜に張力がかかっているため、バイアス電圧の印加により誘電膜が伸びても、誘電膜にしわが生じにくい。よって、分割振動が生じにくい。その結果、本構成の製造方法で製造された音響デバイスによると、広い周波数領域の音を発生させることができる。
【0031】
(10)好ましくは、上記(8)または(9)の構成において、前記発泡ウレタン部材は、ヘッドレストのクッション部材であり、前記音響デバイスは、さらに、該ヘッドレストをシートバックに装着するステー部材を備え、前記配置工程において、該ステー部材を前記キャビティ内に配置し、前記取り出し工程において、該クッション部材に前記高分子スピーカおよび該ステー部材が一体成形された音響デバイスを取り出す構成とする方がよい。
【0032】
本構成によると、上記(7)の構成の音響デバイス、すなわち、高分子スピーカを内蔵したヘッドレストを、容易に製造することができる。また、ヘッドレストのクッション部材と、ステー部材と、高分子スピーカと、が一体成形される。このため、製造時において、高分子スピーカをステー部材へ取り付ける作業は必要ない。よって、取付部品が不要であり、ヘッドレストの製造が容易になる。また、特許文献3に記載されているような、スピーカの表面を覆うクッションプレートも不要である。このため、部品点数が少なくて済む。