【実施例】
【0061】
以下の実施例は、HER2受容体および/またはその末端切断変異体を発現するタイプの癌の単離されたサンプル中の、配列番号1の配列からなる末端切断形態の存在を検出する種々の方法を示す。
【0062】
実験手順
細胞。10% FBS (Gibco)、4mM L-グルタミン(PAA Laboratories)、0.2mg/ml G418 (Gibco)および1μg/mlドキシサイクリン(Sigma)を含有するDMEM/F-12 (1:1)(Gibco)中で37℃、5% CO
2でMCF7 Tet-Off細胞(BD bioscience)を維持した。FuGENE6 (Roche)を使用することによって種々の発現プラスミドで細胞をトランスフェクトした。pUHD10-3hベースのプラスミドが組み込まれている単一の安定なクローンを0.1mg/mlハイグロマイシンB (Invitrogen)で選択した。ドキシサイクリンを除去することによってpUHD10-3hにコードされるHER2およびCTFのcDNAからの発現を誘導した。まず、該細胞を0.5%トリプシン-EDTA (GIBCO)ではがし、遠心によって3回洗浄し、培養皿への接種の10時間後に培地を変更した。個々のクローンの同質性を、HER2の細胞質ドメインに対する抗体を用いる免疫蛍光共焦点顕微鏡検査によって検査した。2つの独立して選択された安定なクローンを実験に使用した。
【0063】
ウエスタンブロット。異なるHER2アイソフォームを発現する細胞を改変RIPAバッファー(20mM NaH
2PO
4/NaOH pH7.4、150mM NaCl、1% Triton X-100、5mM EDTA、100mM PMSF、25mM NaF、16μg/mlアプロチニン、10μg/mlロイペプチンおよび1.3mM Na
3VO
4)中に溶解し、DCタンパク質アッセイ試薬(BIO-RAD)でタンパク質濃度を測定した。サンプルを、5%βメルカプトエタノールを含むローディングバッファー(終濃度: 62mM Tris pH6.8、12%グリセロール、2.5% SDS)と混合し、99℃で5分インキュベートした後、15μgのタンパク質をSDS-PAGEによって分画した。ウエスタンブロットの特異的シグナルをソフトウェアImageJ 1.38 (NIH)を用いて定量した。
【0064】
免疫沈降。細胞ライセートを種々の抗体と4℃で1時間インキュベートした。次いで、免疫複合体をプロテインAで精製した。免疫沈降物を溶解バッファーで3回洗浄し、ローディングバッファーと混合し、ウエスタンブロットによって分析した。
【0065】
カバーガラス上に播種した免疫蛍光顕微鏡検査のための細胞をPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで20分固定し、0.2% Triton X-100で10分透過化処理した。ブロッキングおよび抗体結合のために、発明者らは、1% BSA、0.1%サポニンおよび0.02% NaN
3を含むPBSを使用し、マウントにはDAPIを含むVectashield (Vector laboratories)を使用した。
【0066】
フローサイトメトリー。HER2、611-CTFまたは648-を発現するMCF7細胞をPBSで4℃で洗浄し、5mMのEDTAを含有するPBS中ではがした。はがした細胞を5% BSAを含有するPBS中で10μg/mlの抗32H2モノクローナル抗体と共に4℃で30分インキュベートし、洗浄し、5 % BSAを含有するPBS中のFITCコンジュゲート抗マウスIgG (Becton-Dickinson)で4℃で30レイン(rain)で染色した。FACscan Researchソフトウェア(Becton Dickinson Immunocytometry Sys., Mountain View, CA)を使用するFACscanでフローサイトメトリーを実施した。
【0067】
免疫組織化学(Immunhistochemistry)。HER2、611-CTFまたは648-を発現するMCF7細胞をPBSで4℃で洗浄し、5mMのEDTAを含有するPBS中ではがした。次いで、細胞を遠心し、細胞ペレットを10%中性ホルマリン中で固定し、脱水し、パラフィンに包埋した。細胞ペレットまたはヒト組織由来の厚さ4μmの切片をポリリシンコーティングスライドガラス上に置いた。以下のプロトコールを使用して免疫組織化学分析を実施した。
【0068】
1. 切片を脱パラフィン化し、再水和する。
1.1 スライドを60℃で30分インキュベートする。
1.2 きれいなキシレンの3回の5分間のインキュベーション、その後の無水エタノールでの2回の3分間の洗浄でスライドを脱パラフィン化する。
1.3 徐々に蒸留水にする: エタノール95℃3分、エタノール70℃3分、エタノール50℃3分、蒸留水。
【0069】
2. 抗原回復
低PH (6)でのPT Link, ENVISION FLEX TARGET RETRIEVAL SOLUTION HIGH Ph 10x. DM 812. 20分95℃。
Envision Flex洗浄バッファーx10 DM 811で15分洗浄する。
【0070】
3. 免疫組織化学的染色
AUTOSTAINERプラスLink DAKO
キット: ENVISION FLEX + MOUSE, High Ph ( Link):
Envision Flex Peroxidase Blocking SM801
Envision Flex/ HRP SM 802
Envision Flex DAB+CHROMOGEN DM 807
Envision Flex Substrate Buffer SM 803
Envision Flex Wash Buffer 10x DM 811
Envision Flex Target Retrieval Solution High Ph 10x DM 812
Envision Flex+ Mouse (リンカー) SM 84
ペルオキシダーゼ5分および洗浄バッファーでの洗浄。
Protein Block 5% 15〜20分。
洗浄バッファーで洗浄する。
・1:1000〜1:3000希釈された32H2 (1mg/mlストック)または1:20〜1:50希釈された20F4 ( 1mg/mlストック) 2時間。
・洗浄バッファーで洗浄する。
・二次(Flex HRP, Flex+Mouse/Rabbit) 20分。
・洗浄バッファーで洗浄する。
・DAB 5分。
・洗浄バッファーで洗浄する。
・ヘマトキシリン。
・蒸留水で洗浄する。
【0071】
3. 脱水およびマウント用媒体での安定化
3.1 漸増濃度のエタノール(50%、70%、95%、各洗浄2分)で徐々に洗浄する。
3.2 徐々に蒸留水にする(エタノール95%、70%、50%、蒸留水、3分の各洗浄)。
3.3 キシレン/ユーカリプトールで洗浄する(各2分の3回の洗浄)。
3.4 DPXでマウントする。
【0072】
トランスジェニックマウス
pMBベクター(Dr. Marcos Malumbres, CNIO, Madridからの親切な提供物)のラウス肉腫ウイルスで増強されたマウス乳癌ウイルス長末端反復配列の下流のマルチクローニング部位IIに687-CTFおよび611-CTFをコードする配列をクローニングすることによってTG 611およびTG 687マウスを作製した。Centre of Animal Biotechnology and Gene Therapy (Centre de Biotecnologia Animal i Terapia Genica, Universitat Autonoma de Barcelona)で過排卵FVBマウスから回収された受精した卵母細胞(oozytes)に直線化プラスミドDNAをマイクロインジェクションすることによって創始者系統(Founder lines)を作製した。サザンハイブリダイゼーション分析によって創始者マウスの遺伝子型を特定した。創始者動物の特定後、PCR遺伝子タイピングによって通常のコロニー維持を実施した。雄性および雌性FVB/N-Tg(MMTVneu)202JマウスをJackson Laboratory (Bar Harbor, ME)から得た。
【0073】
全組織標本(whole mount)および組織学
乳腺をガラススライド上にマウントし、4%パラホルムアルデヒド中で一晩固定し、70%エタノールに移した。スライドを水で5分すすぎ、0.2%カーミンのろ過溶液中で24時間染色した。次いで、腺を漸減濃度のエタノールで順次脱水し、脱脂し、サリチル酸メチル中で保存した。組織学的分析のために、固定された腺をパラフィン中でブロックし、切片にし、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。
【0074】
実施例1: 移動差による配列番号1の断片の検出。
電気泳動ゲルおよびその後のウエスタンタイプの転写(ウエスタンブロット)の画像に対応する
図2では、乳癌の異なるサンプル(108、114、101、103、131、134および145)をトラックに積載した。各サンプルから、細胞ライセートの可溶性フラクション(S)および膜フラクション(M)の両者を分析し、どのタイプのHER2分子がどのフラクション中に存在するかを視覚化した。原則として、完全受容体および配列番号1の形態はともに細胞膜中であることが予測される。完全HER2およびCTF-611形態の検出のために、両タンパク質形態に共通のドメインである該タンパク質の細胞質ドメインに対する抗体(CB11)を使用した。分析コントロールとして、乳酸デヒドロゲナーゼ(DHL)酵素の存在を検出した。ほとんどのサンプル中で、完全HER2受容体に対応するバンド、および膜フラクション中では配列番号1のCTF-611形態に対応するバンドが現れる。
【0075】
したがって、
図2は、HER2受容体の末端切断形態のタイプの検出をタンパク質電気泳動分析によって実施できることを示す。さらに、配列番号1の配列からなるHER2の断片の存在は、特定のタイプの癌、この実施例では乳癌を示し、該癌は、HER2を発現する癌の中で個別の症例として評価および治療する必要がある。
【0076】
実施例2. 配列番号2または配列番号3によって規定されるネオエピトープに対するポリクローナル抗体での、配列番号1の配列からなるHER2断片の存在の検出。
電気泳動における移動差による検出の手段に対する代替手段を使用して配列が配列番号1に記載のものであるHER2末端切断形態の存在を検出できることを目的として、配列番号4の配列を有するペプチドを合成し、4匹のウサギを該ペプチドで免疫化した。このペプチドは、CTF-611形態または配列番号1のN末端の32アミノ酸に相当し、該ペプチドでは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)として知られる免疫原とそれをコンジュゲートする目的のためにほとんどのシステインがセリンによって置換されている。
【0077】
したがって、配列番号4は、配列番号3の配列に等価のペプチドに相当するが、免疫化技術を実施するために適合化されている。当業者は、配列番号4の合成ペプチドに対する抗体が、HER2受容体の末端切断形態(配列番号1またはCTF-611)中に存在する配列番号3によって規定されるエピトープも認識するであろうことを理解する。同様に、当業者は、免疫化に使用される合成ペプチドが配列番号2からなり、細胞外領域に位置するCTF-611受容体のすべてのアミノ酸を含む場合、該他のペプチドに対する抗体での結果は等価であり、したがって同一の目的のために有用であることを理解することができる。
【0078】
HER2受容体の完全形態、CTF-611末端切断形態およびp95末端切断形態を発現するMCF7細胞ライセート抽出物(以前に
図1の構築物で形質転換されている)のSDS電気泳動およびその後のウエスタン転写を実施した。配列番号1の末端切断形態は、実際には、類似の分子量の2つの断片として現れた。タンパク質からN-グリカンを除去する酵素であるグリコシダーゼ-Fと用いて実施された試験(示されていない)から導かれるように、断片CTF-611は翻訳後修飾の基質である。特に、約110 kDaを有する断片は、合成されその後にそれがN-グリコシル化される分泌経路に入る形態に対応する。
【0079】
2匹の免疫化されたウサギの血清は、完全HER2受容体、およびCTF-611の両者を認識した。これは
図4Aで観察される。
図4Aでは、完全HER2受容体および配列番号1の形態またはCTF-611の両者に対応するバンドが検出される。該
図4Aに示されるように、HER2受容体の細胞質ドメイン(完全および末端切断形態のすべての形態に共通のドメイン)を認識する抗体(CB11); または配列番号4の該ペプチドに対して作製されかつウサギの血清中に存在するポリクローナル抗体(α-611-Aおよびα-611-B)を用いてウエスタンブロットを解析した。それは完全HER2およびCTF-611のシグナルに匹敵するため、抗体α-611-Aおよびα-611-Bは該受容体の両形態中に存在する直線状エピトープを認識することが結論づけられる。SDS電気泳動およびウエスタンブロットのネガティブコントロールとして、抗体が設計された対象のエピトープを有さない、p95として知られる受容体形態を発現するMCF7細胞ライセートを使用した。
【0080】
前記結果と対照的に、抗体α-611-Aおよびα-611-Bおよび抗体CB11を用いて免疫沈降アッセイを実施した場合、配列番号4のペプチドに対する抗体は、好ましくは受容体の末端切断形態(CTF-611)を沈降させることが検出された。免疫沈降に付された混合物は、異なる形態のHER2受容体を発現する細胞ライセートを1:1:1の割合で含有した。これらの結果は
図4Bで明らかである。この図では、SDS電気泳動およびその後のウエスタン転写由来のバンドが現れ、そのトラックには、抗体α-611-A、α-611-BおよびCB11での免疫沈降アッセイの結果がロードされた。コントロールトラック(入力)には、異なる抗体での免疫沈降に付された3タイプの細胞ライセートの1:1:1混合物がロードされた。ウエスタンブロットをCB11を用いて解析した。(完全長HER2、611-CTFまたは648-CTFを発現する約106細胞を500μlの溶解バッファー(50 mM Tris HCL pH7.4、137mM NaCl、2mM EDTA、10%グリセロール、1% NP40)に溶解した。ライセートを14000 g X 30分での遠心によって浄化した。入力: 5μlのライセートミックス(完全長HER2: CTF611: CTF648、1:1:1) IP: 50μl ライセートミックス+ 5μl ウサギ由来の抗611CTF血清またはCB11。
【0081】
抗体α-611-Aおよびα-611-Bでの免疫沈降に対応するトラックで、グリコシル化および非グリコシル化形態のCTF-611に対応する分子量において、残りのバンドより明らかに強い区別されたバンドが存在する。すなわち、配列番号4のペプチドに対する該抗体はHER2受容体の完全形態を免疫沈降させない。これは、完全HER2受容体が変性しない場合にマスクされるエピトープをそれらが実際に認識することを意味する。したがって、抗体α-611-Aおよびα-611-BがCTF-611に特異的であると結論することができる。
【0082】
この特異性は間接免疫蛍光アッセイ(示されていない)によって裏付けられる。該アッセイでは、アフィニティ精製されたポリクローナル抗体α-611-Aおよびα-611-Bのみが、末端切断断片CTF-611を発現するサンプル中の染色を可能にする。この事実は、それらを使用して、どの形態のHER2受容体が、単離された腫瘍組織サンプル中で発現されるかを区別して検出することを可能にする利点を含む。ポリクローナル抗体のアフィニティー精製は以下のように実施した。
【0083】
(i) HiTrap Protein A HPカラム(GE Healthcare)を使用するトータルIgG精製。ウサギ血清由来の抗体を、結合バッファー(Na
2HPO
4)で平衡化されたカラム中に固定し、10カラム容量の結合バッファーで洗浄し、10容量のクエン酸ph (2.7)で溶出させた。Tris-HCL pH 8を使用して溶出液を中和した。
【0084】
(ii) HiTrap NHSカラムに固定されたペプチドを使用した精製。ウサギの免疫化に使用された同ペプチドをHiTrap NHSカラム中に固定した。以前のステップで精製されたIgGを、結合バッファー(Na
2HPO
4)で平衡化されたカラムにロードし、10カラム容量の結合バッファーで洗浄し、10容量のクエン酸ph (2.7)で溶出させた。Tris-HCL pH 8を使用して溶出液を中和した。
【0085】
(iii) 最後に、精製された抗体をPBS 0.02% NaN
3に対して透析した。
【0086】
完全HER2受容体は、細胞膜の近くに、
図1でシステイン間をつなぐ線によって示される6個のジスルフィド架橋によって維持された構造化領域を含む。末端切断形態CTF-611、または配列番号1の配列のものは、5個のシステインしか含有せず、その間で該ジスルフィド架橋が確立されてこの末端切断形態のホモ二量体が安定化される。
図4から全体として導かれるように、配列番号1の末端切断形態の細胞膜の付近の領域は、抗原的に、完全HER2受容体中のその等価物と異なると結論しなければならない。このことから、以前に示されたことにしたがって、それを区別して検出できることが導かれる。
【0087】
HER2の量に対して標準化された入力CB11および抗611-B免疫沈降物中の異なるHER2アイソフォームの定量化は、以下のように示される。
【表1】
【0088】
定量化はImageJ 1.38を使用して実施した。
【0089】
実施例3: 配列番号2または配列番号3によって規定されるネオエピトープに対するモノクローナル抗体を用いた、配列番号1の配列のHER2断片の存在の検出
実施例2の配列番号4の同ペプチドを使用して、モノクローナル抗体を取得した。それらのすべてから、アクセッション番号DSM ACC2904を有するハイブリドーマセルラインによって産生されるモノクローナル抗体20F4およびアクセッション番号DSM ACC2980を有するハイブリドーマセルラインによって産生されるモノクローナル抗体32H2を選択した。この抗体を用いて得られた結果を
図5に示す。
【0090】
実施例2と同様に、HER2受容体完全形態、またはCTF-611末端切断形態、またはp95末端切断形態を発現したMCF7細胞ライセート抽出物(
図1の構築物で以前に形質転換されている)の1:1:1混合物のSDS電気泳動およびその後のウエスタン転写を実施した。CB11またはモノクローナル抗体20F4および32H2で明らかにされたウエスタンのメンブレンの写真である
図5Aでは、後者が、配列番号1の受容体CTF-611に対応するHER2の末端切断形態を特異的に認識し、該受容体の完全形態とのいかなる検出可能な交差反応性も示さないことを観察することができる。このことは、それが、該受容体のCTF-611形態のN末端に一級アミノ基を含む新規エピトープ(ネオエピトープ)を実際に認識することを意味する。
【0091】
同様に、抗体CB11 (受容体のサイトゾルドメインを認識する)と比較してモノクローナル抗体20F4および32H2を用いて免疫沈降アッセイを実施した場合、配列番号3のペプチドに対するモノクローナル抗体は受容体のもっぱら末端切断形態(CTF-611)のみを沈降させることが検出された。これらの結果は
図5Bで明らかである。この図では、SDS電気泳動およびその後のウエスタン転写の結果が示され、そのトラックには、抗体20F4、32H2およびCB11を用いた免疫沈降アッセイの結果がロードされた。
【0092】
抗体20F4および32H2での免疫沈降物に対応するトラックでは、CTF-611末端切断形態のグリコシル化および非グリコシル化形態のバンドのみを区別することができる。すなわち、抗体20F4および32H2はHER2受容体の完全形態を免疫沈降させない。したがって、抗体20F4および32H2はCTF-611に対して高度に特異的であり、HER2の完全形態を認識しないと結論づけることができ、このことは、単離された腫瘍組織サンプル中でどの形態のHER2受容体が発現しているかを区別して高度に選択的に検出するためにそれを使用できることを意味する。
【0093】
611-CTFの32アミノ酸長のN末端配列に対応するペプチドに対するモノクローナル抗体の特徴付けにより、完全長HER2ではマスクされているが611-CTFでは露出しているエピトープ(群)の存在が確認される。これらのエピトープは可溶化分子および無傷の細胞ではともにマスクされている。
【0094】
HER2の量に対して標準化されたCB11、32H2および20F4免疫沈降物中の異なるHER2アイソフォームの定量では、以下のように示される。
【表2】
【0095】
実施例4: フローサイトメトリーによる611-CTFのN末端に対する1つのモノクローナル抗体の特徴付け
(A) ペプチドMPIWKFPDEEGASQPSPINSTHSSVDLDDKGC (
図1を参照のこと)に対して産生されたモノクローナル抗体である、異なる濃度の32H2を使用するフローサイトメトリーによってHER2、611-CTFまたは648-CTFを発現するMCF7細胞を分析した。
図6(A)を参照のこと。
【0096】
(B) (A)のようにして実施された2つの独立した実験の結果を定量し、平均を示す。
図6(B)を参照のこと。
【0097】
(C) HER2、611-CTFまたは648-CTFを発現するMCF7細胞を共焦点顕微鏡で記載の抗体を用いて間接免疫蛍光によって分析した。
【0098】
フルオロフォア結合二次抗体として、InvitrogenのAlexa Fluor 488ヤギ抗マウスIgG (A110011)を使用した。ネガティブコントロールとして非特異的な結合を評価するために、32H2血清を用いないがこの二次抗体("2ary")の存在下でFACSを実施した。
【0099】
結論: 抗体32H2によって認識されるエピトープは、611-CTFを発現する生細胞中では露出しているが、HER2を発現する生細胞中ではマスクされている。
【0100】
実施例5: 免疫組織化学による611-CTFのN末端に対するモノクローナル抗体の特徴付け
HER2の細胞質ドメインに対する抗体であるCB11、またはペプチドMPIWKFPDEEGASQPSPINSTHSSVDLDDKGC (
図1を参照のこと)に対して産生された2つの独立したモノクローナル抗611-CTF抗体を用いた、HER2、611-CTFまたは648-CTFを発現するMCF7細胞の免疫細胞化学染色を実施した。その結果を
図7に示す。
【0101】
結論。抗体20F4および32H2によって認識されるエピトープは、免疫組織化学によって分析される611-CTFを発現する細胞で露出している。対照的に、同技術によって判断されるように、これらのエピトープは完全長HER2分子ではマスクされている。この結果は特に重要であり、免疫組織化学(imunohistochemistry)がクリニックでのほとんどの通常の検査に第一選択される技術であることを示す。
【0102】
実施例6: 611-CTFのN末端に対するモノクローナル抗体によって認識されるエピトープの特徴付け
(A) 611-CTFの膜付近の領域の一次配列を模式的に示す。この分子のN末端およびC末端を示す。膜貫通ドメインおよびキナーゼドメインをそれぞれ破線およびグレーのボックスによって示す。異なる欠失構築物の配列を示す。
図8(A)を参照のこと。
【0103】
(B) 指定のアミノ酸で始まるcDNA欠失構築物で一時的にトランスフェクトされたMCF-7細胞を溶解した。HER2の細胞質ドメインに対する抗体であるCB11またはペプチドMPIWKFPDEEGASQPSPINSTHSSVDLDDKGCに対して産生された2つの独立したモノクローナル抗611-CTF抗体を用いたウエスタンブロットによって細胞ライセートを分析した。
図8(B)を参照のこと。
【0104】
結論。抗体32H2および20F4によって認識されるエピトープが含まれるか、または少なくとも配列MPIWKFPDEECと重複する。
【0105】
実施例7: 611-CTFのN末端に対するモノクローナル抗体を用いたまたはHerceptestTMによる、ヒト乳癌サンプルの分析
(A) 指定のサンプル中のHER2の発現をHerceptest
TM、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(Fluorescence In Situ Hybridization)(FISH)またはウエスタンブロットで分析した。ウエスタンブロットによる判断で検出可能なレベルのHER2カルボキシ末端断片(P95としても知られる)を発現するサンプルを示す((Scaltriti, M., Rojo, F., Ocana, A., Anido, J., Guzman, M., Cortes, J., Di Cosimo, S., Matias-Guiu, X., Ramon y Cajal, S., Arribas, J., and Baselga, J. (2007) J Natl Cancer Inst 99(8), 628-638)を参照のこと)。
図9(A)を参照のこと。
【0106】
(B) ペプチドMPIWKFPDEEGASQPSPINSTHSSVDLDDKGC (
図1を参照のこと)に対して産生されたモノクローナル抗611-CTF抗体である32H2、またはHER2の細胞質ドメインを染色するHerceptest
TMによる、Aと同じ乳癌サンプルの免疫細胞化学染色。
図9(B)を参照のこと。
【0107】
結論。免疫組織化学によって、抗体32H2は、ウエスタンブロットによる判断で検出可能なレベルのCTFを発現することがあらかじめ知られているヒト乳癌サンプルを染色する。
【0108】
実施例8: インビボでのCTF発現の影響を特徴付けるための動物モデルの作製
マウスモデルは、腫瘍の進行に関するHER2の発癌性および関連性を示すために役立った。その発癌性を特徴付けるために、発明者らは、乳腺で優先的に活性なマウス乳癌ウイルス長末端反復配列の制御下で611-CTFを発現するトランスジェニック(TG)マウスを確立した。細胞モデルは可溶性細胞内CTFが不活性であることを示したが、これらの断片の発現の結果をさらに調査するために、発明者らはまた、687-CTFを発現するTG動物を作製した。コントロールとして、発明者らは、野生型HER2を発現する、従来の十分に特徴付けれているモデル(すなわちrat neu)を使用した。
【0109】
7週齢の時点で、ヘテロ接合性TG 611系統F3およびF2で発現された611-CTFのレベルは、それぞれ、内因性HER2のレベルと、ほぼ等しい〜1/3であったが、F1でのレベルは検出閾値未満であった。開発されたホモ接合性系統での687-CTFのレベルは、TG 687系統F2およびF1それぞれでHER2のレベルの約2倍〜半分で変動した。
【0110】
TG動物の乳腺は7週齢の時点で目に見える異常性を示さなかった。しかし、カーミン染色全組織標本の形態学的検査では、TG HER2マウスの乳管ツリー(mammary ductal trees)での過形成の異常性が示された。それほど顕著ではないが、TG 611マウスの全3系統に類似の異常性が存在した。対照的に、TG 687マウスの腺は野生型マウスの腺と区別できなかった。
【0111】
実施例9: 611-CTF発現は攻撃的な乳癌の発生を導く
TG HER2マウスでの、より顕著な過形成にもかかわらず、3系統のTG 611動物は、腫瘍の数/動物、腫瘍成長および腫瘍発症に関して、より攻撃的な腫瘍を発生した。
【0112】
乳腺
【表3】
(毎週の触診によって乳癌の出現をモニターした。)
【0113】
TG 687動物では、1年を超える追跡調査後でさえ、腫瘍または異常は観察されなかった。
【0114】
腫瘍の組織学的分析では、TG 611マウスでHER2によって誘発される同一の典型的な浸潤性固形結節性癌腫が示された。HER2および611-CTFによって主導された腫瘍間の唯一の組織学的差異は、TG 611マウス由来の腫瘍で有糸分裂画像の数が多いことであった。
【0115】
以前に示されるように、TG HER2マウスは肺転移を発生した。腫瘍の検出の3〜6週間後に、約1/4のTG HER2動物は肺に検出可能な小結節を有した。
【表4】
(触診による腫瘍検出の3〜6週間後にマウスを犠牲にし、免疫組織化学によって転移の出現をモニターした)。
【0116】
肺転移の組織学的分析によってHER2の発現が確認され、サイトケラチン18での染色によって細胞が原発腫瘍由来であることが確かめられた。TG HER2と比較して、検出可能な転移を有する611-CTFを発現する動物の数は2倍以上であった。このことは、このCTFによって主導された腫瘍が、肺に浸潤する傾向をより顕著に有することを示す。
【0117】
配列
配列番号1
【0118】
配列番号2
【0119】
配列番号3
【0120】
配列番号4
【0121】
配列番号5