(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753087
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】三フッ素化及び四フッ素化の化合物を生産するための方法
(51)【国際特許分類】
C07C 19/10 20060101AFI20150702BHJP
C07C 17/04 20060101ALI20150702BHJP
C07C 17/20 20060101ALI20150702BHJP
C07C 21/18 20060101ALI20150702BHJP
C07B 61/00 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
C07C19/10
C07C17/04
C07C17/20
C07C21/18
C07B61/00 300
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-526587(P2011-526587)
(86)(22)【出願日】2009年9月11日
(65)【公表番号】特表2012-502089(P2012-502089A)
(43)【公表日】2012年1月26日
(86)【国際出願番号】IB2009006803
(87)【国際公開番号】WO2010029419
(87)【国際公開日】20100318
【審査請求日】2012年7月30日
(31)【優先権主張番号】08/05000
(32)【優先日】2008年9月11日
(33)【優先権主張国】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】ピガモ,アンヌ
(72)【発明者】
【氏名】デビック,ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ウェンドリンジュ,ローラン
【審査官】
瀬下 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/075017(WO,A1)
【文献】
国際公開第2009/125200(WO,A1)
【文献】
国際公開第2009/125199(WO,A1)
【文献】
特表2011−516533(JP,A)
【文献】
特表2011−517681(JP,A)
【文献】
特開平11−269105(JP,A)
【文献】
国際公開第2007/056194(WO,A1)
【文献】
国際公開第2008/040969(WO,A1)
【文献】
特表2007−535571(JP,A)
【文献】
特開2009−137945(JP,A)
【文献】
M. BUECHNER,REACTIONS OF GASEOUS, HALOGENTATED PROPENE RADICAL CATIONS WITH AMMONIA: 以下備考,CHEMISTRY - A EUROPEAN JOURNAL,1998年,V4,P1799-1809,A STUDY OF THE MECHANISM BY FOURIER TRANSFORM ION CYCLOTRON RESONANCE
【文献】
R.N. HASZELDINE,REACTIONS OF FLUOROCARBON RADICALS PART V.* ALTERNATIVE SYNTHESES 以下備考,JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,1951年,P2495-2504,FOR TRIFLUOROMETHYLACETYLENE (3:3:3-TRIFLUOROPROPYNE), AND THE INFLUENCE OF POLYFLUORO-GROUPS
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 19/10
C07B 61/00
C07C 17/04
C07C 17/20
C07C 21/18
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,3,3-トリフルオロ-プロペンの塩素化による2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパンの生産方法であって、前記塩素化が、200kPa(2バール(bar))超の圧力及び20〜200℃の温度で、液相で、3,3,3-トリフルオロ-プロペン1モルに対して0.1〜10モルの塩素により3,3,3-トリフルオロプロペンを塩素化することにより実行され、ただし、前記塩素化が触媒の存在下で実行される場合には、前記触媒は、金属又はFeCl3の形態の鉄を基本とした触媒である、3,3,3-トリフルオロ-プロペンの塩素化による2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパンの生産方法。
【請求項2】
前記圧力が400kPaから5000kPa(4から50バール(bar))である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記圧力が500kPaから2000kPa(5から20バール(bar))である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記圧力が自己圧力である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンを生産するための方法であって、
該方法は、
(i)請求項1から4のいずれか1項に記載の方法によって、3,3,3-トリフルオロプロペンの塩素化反応で2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパンにする工程、
(ii)該工程(i)で得られた2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパンの脱塩化水素反応で2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンにする工程、及び
(iii)該工程(ii)で得られた2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンのフッ素化反応で2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンにする工程、
を含む、方法。
【請求項6】
前記工程(iii)が直接的触媒フッ素化反応である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(iii)が、1,1,1,2-テトラフルオロ-2-クロロプロパンにするフッ化水素化反応の第1サブ工程(iiia)と、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンにする脱塩素化反応の第2サブ工程(iiib)を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(ii)及び(iii)が気相中で実行される、請求項5から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(ii)が水素の存在下で実行される、請求項5から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記脱塩化水素反応がHFの存在下で実行されて、該HF/出発生成物の比率が1/1から5/1の範囲を含んでなる、請求項5から9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ素化化合物の生産方法、すなわち、2,3-ジクロロ-l,1,1-トリフルオロプロパン化合物(243db)から、フッ素化化合物の2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン(HFO 1234yf)が生産され得ることに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロフルオロカーボン(HFC)、特には、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン(HFO 1234yf)のようなハイドロフルオロオレフィンは、冷媒、熱伝導流体、消火剤、噴射剤、発泡剤、膨張剤、ガス状の誘電体、重合又はモノマーの媒体、支持流体、研磨剤、乾燥剤、及びエネルギー生産設備のための流体の特性を有したものとして知られている化合物である。オゾン層に対して潜在的に危険であるCFC及びHCFCとは異なり、HFOは塩素を含まず、それゆえ、オゾン層に関する問題を引き起こさない。
【0003】
1234yfを生産するための幾つかの方法が知られている。WO2007/079431号は、1233xfを1,1,1,2-テトラフルオロ-2-クロロプロパン(HFC244bb)にするフッ素化工程と、その後の脱塩化水素工程とを含む方法によって、1234yfを生産することを述べている。生成物の1233xfは、対応の塩化プレカーサー(CCl
2=CClCH
2Cl)の三フッ素化によって生産される。
【0004】
WO2008/054781号は、触媒、特には、Cr/Co 98/2から成る触媒を用いてHFの存在下で、2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン(243db)を反応させることによって1234yfを生産することを述べている。その反応の生成物は1234yfと2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(1233xf)とを含み、後者の生成物が主成分として生成され、他の生成物として、l-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(1233zd)が生成され、さらには、245cb及び1234zeも生成される。温度がより高温になると異性体の1233zdの生成が促進される。出発生成物の2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン(243db)は、トリフルオロ-1-プロペン(TFP)の塩素化によって得られるものとして示されて、それ以上の更なる内容については示されていない。
【0005】
WO2008/040969号及びWO2008/075017号は実質的に同様な生産を述べている。243dbを1233(xf、さらにはzd)にする脱塩化水素反応によって反応は進行し、続いて、1,1,1,2-テトラフルオロ-2-クロロプロパンを生成することを含む反応が進行し、その後、脱塩化水素反応によって対象の2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンを生成することを含む反応が進行することが述べられている。 HF/有機物の比率は変化して、1233(xf及びzd)への脱塩化水素反応はHF/有機の低比率によって促進され、一方、対象の最終的な化合物の生産の反応はHF/有機の高比率によって促進される。
【0006】
出発生成物の2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロ-プロパン (243db)はトリフルオロプロペン又はトリフルオロメチルプロペンの塩素化によって得られるものとして述べられて、更なる詳細の内容については述べられていない。
【0007】
これらの文献において、出発生成物、243dbの生産に関して詳細な内容は示されていない。塩素化反応、特にはオレフィンの塩素化は知られているが、TFPを243dbにする塩素化方法の技術水準を精確に記載していない。
【0008】
WO2005108334号は、X
1とX
2とが独立に塩素である化合物 X
1X
2をトリフルオロプロペンに添加することを述べている。Cl
2をTFPに添加することも、フッ素化反応前の第1工程として述べられている。ところが、TFPに関する唯1つの実施例は臭素及びヨウ素を用いて実行され、さらに、この文献では、HFの存在下で、2,3-ジ臭素化又は2,3-ヨウ素化の化合物は単離されないし、調製されない。
【0009】
TFPを243dbにする効果的な塩素化反応は技術文献に充分に述べられていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
容易に入手可能である出発生成物から1234yfを生産するための方法に関してニーズがあり、そのことは、目的の生産物を得る結果となり、その生産物は、高い選択性と、有利なこととしては高収率及び/又は高変換(コンバージョン)を示すこととなる。
【0011】
また、容易に入手可能である出発生成物から1234fを生産するのに有用なプレカーサーである、243dbを生産するための方法に関してニーズがあり、そのことは、目的の生産物を得る結果となり、その生産物は、高い選択性と、有利なこととしては高収率性及び/又は高転化を示すこととなる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
それゆえ、本発明は、2バール超の圧力で、3,3,3-トリフルオロプロペンを塩素化することによって2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパンを生産するための方法を提供する。
【0013】
1つの実施形態によれば、圧力は4〜50バールの範囲を含み、好ましくは5〜20バールの範囲を含み、さらに、有利なこととしては自己圧力である。
【0014】
1つの実施形態によれば、この方法は液相中で実行される。
【0015】
1つの実施形態によれば、この方法は添加触媒がない状態で実行される。
【0016】
また、本発明の主題は、次の工程を含む2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンを生産するための方法であり、その方法は、
(i)243dbを生産するための上記で述べた方法によって、3,3,3-トリフルオロプロペンの塩素化反応で2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパンにする工程、
(ii)前工程で得られた2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパンの脱塩化水素反応で2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンにする工程、及び
(iii)前工程で得られた2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンのフッ素化反応で2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンにする工程を含む。
【0017】
この方法において、1つの実施形態によると、工程(iii)は直接的触媒のフッ素化反応から成る。
【0018】
更なる実施形態によると、この方法において、工程(iii)は1,1,1,2-テトラフルオロ-2-クロロプロパンにするフッ化水素化反応の第1サブ工程(iiia)を含み、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンにする脱塩素化反応の第2サブ工程(iiib)を含む。
【0019】
別の実施形態によると、この方法において、工程(ii)及び(iii)は気相中で実行される。
【0020】
更なる別の実施形態によると、この方法において、工程(ii)は水素の存在下で実行される。
【0021】
1つの実施形態によると、この方法において、脱塩化水素反応はHFの存在下で実行されて、HF/出発生成物の比率は1/1〜5/1の範囲を含むものである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、3,3,3-トリフルオロプロペン(1243zf)の塩素化反応で2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロ-プロパン(243db)にする工程を用いる。
【0023】
本発明によると、この工程は、特には2バール超の圧力下で実行される。好ましくは、圧力は4〜50バールの範囲を含み、特には5〜20バールである。バラストガスの存在又は不存在で自己圧力(およそ6バール)で実行することは可能であり、結果として、媒体中で圧力が増加することとなる。この不活性ガスは特にはヘリウムでよい。システム中にバラストガスがないことが好ましい。
【0024】
反応は気相又は液相で実行され、液相で実行されることが好ましい。両方の試薬又は2つのうち1つのみが気体状態でもよい。特には、TFPは気体種又は液体種であることがよく、液体種であることが好ましい。自己圧力(およそ6バール)下で、TFPは液体種の状態である。出願人らは、どんな理論によっても縛られることを望んでないところで、(液体)TFPは溶媒として上記のように作用する。
【0025】
反応生成物は(特には室温で)液体である。
【0026】
Cl
2/TFPのモル比は0.1/1〜10/1の範囲を含み、好ましくは0.2/1〜5/1であり、有利なことは0.5/1〜1/1である。化学量論的量で反応を実行することの利益はトリフルオロプロペンの過度の損失を回避することである。ところが、反応が発熱あることの特質を考慮に入れると、例えば、リアクター内でCl
2/TFPのモル比が0.5であるような、過度のTFPの状態で反応を実行することが有効である。その後、トリフルオロプロペンは再利用される。
【0027】
塩素化反応の反応時間は可変であり、0.1〜50時間の範囲を含んでなり、好ましくは0.3〜5時間であり、有利なこととしては0.5〜3時間である。
【0028】
反応温度もまさに可変でよい。例えば、反応温度は0℃、好ましくは20℃(およそ室温)〜200℃であり、20℃〜150℃であることが好ましく、40〜100℃であることが有利なことである。
【0029】
反応は発熱反応である(反応熱はΔH=-200kJ/molとして見積もられる。)。反応温度は制御されてもよいし、制御されなくてもよい。反応温度を制御することが好ましいならば、制御のシステムを有するリアクター(例えば、ダブルジャケット)が利用されてよく、そして、設定温度も調整されてよい。後者は、例えば20〜100℃であり、有利なこととしては、30〜80℃である。発熱反応であることの特質によって、一般的には、例えば100℃の温度まで、反応の出発時点の温度から急激な温度上昇をすることとなり、その後、温度はリアクターの設定温度まで下降する。ダブルジャケットリアクター又は等価システムは当業者にとって標準的であり、そしてよく知られたものである。
【0030】
反応は、触媒、例えば鉄を基本とした触媒(金属又はFeCl
3の形態の触媒)の存在下で実行されてよい。有利なこととしては、反応は添加触媒の不存在下で実行され、そのことは反応を単純にする。
【0031】
反応生成物は、例えば、当業者にとって公知である標準的な方法による、蒸留、洗浄等のような分離工程を経由してもよい。
【0032】
1つの実施形態によると、(粗反応生成物をしばらくの間放置した後、)粗生成物はろ過される。ろ過によって、反応媒体に存在する固体堆積物を回収することが可能である。ろ過は膜、例えばMillipore
TMタイプを用いて実行され、膜は可変のサイズであって、例えば0.01〜5μmであり、好ましくは0.05〜1μmであり、有利なこととしては0.1〜0.5μmである。粗反応生成物のこの放置時間は1〜30日間を含んでなり、好ましくは2〜10日間である。ろ過は真空下で実行されてよい。このようにして、243dbの生成物は簡単に得られ、一方では、大部分のTFPを取り除く(真空下でのろ過によって、例えば室温条件でTFPを取り除くことが可能であり、TFPの沸点は標準圧力下で0℃以下である。)。
【0033】
それゆえ、加圧下での塩素化反応(好ましくは液相での反応)は、極端に単純な条件(特には、触媒を使用しないで、自己圧力下で実行される条件)下で実施されてよく、非常に効率的である。243db生成物の選択性は一般的には90%超であり、好ましくは95%超であり、有利なこととしては98%超であり、さらに有利なこととしては99%超である。塩素の243db生成物への変換(コンバージョン)は一般的には80%超であり、有利なこととしては90%超であり、さらに有利なこととしては95%超である。
【0034】
別の態様によると、本発明は3つの工程で1234yfを生産するための方法であり、その3つの工程の第1工程は上記で述べたTFPの塩素化工程である。
【0035】
反応は連続して実行されてよく、ラインで実行されてもされなくてもよく、液相又は気相で実行されてよく(第1工程は液相で実行されること非常に好ましく)、反応生成物は次の工程に送られるが、適宜、例えば、必要に応じて分離処理を実行した後に次の工程に送られてよい。
【0036】
方法の第2工程は、上記の工程で得られた2,3-ジクロロ-l,1,1-トリフルオロプロパン(243db)生成物の脱塩化水素反応で2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(1233xf)にする工程である。
【0037】
脱塩化水素反応は当該技術分野の当業者にとって標準的である方法にしたがって実行される。
【0038】
脱塩化水素反応は、脱塩化水素触媒を用いて実行されることが好ましい。この触媒は例えば、金属をベースにした触媒であり、特には、遷移金属、又はそのような金属の酸化物、ハロゲン化物、若しくは酸ハロゲン化物の誘導体である。触媒は、例えば、FeCl
3、クロニウムオキシフルオライド、Ni(Niメッシュを含む。)、NiCl
2、CrF
3、さらに、それらの混合物、例えば、Ni-Cr/AlF
3である。他の触媒として考えられるものは、カーボン上に担持された触媒、アンチモンをベースにした触媒、アルミニウム(例えば、AlF
3、Al
2O
3、アルミニウムオキシフルオライド、フッ化アルミナ(酸化アルミニウム))をベースにした触媒、パラジウムをベースにした触媒、白金をベースにした触媒、ロジウムをベースにした触媒、及びルテニウムをベースにした触媒である。リストで示されたUS-P-5396000号の1欄の50行〜2欄の2行、又はリストで示されたWO2007/056194号のページ16、13-23行を参照されたい。また、WO2008/040969号に述べられている触媒を用いることも可能であり、特には、HFで処理された、酸化クロム上にあるZnを用いることも可能である。
【0039】
この脱塩化水素工程は、例えば220〜400℃を含んでなる温度で実行され、好ましくは250〜380℃を含んでなる温度で実行される。
【0040】
接触時間(触媒の体積と供給原料の全流量との比率)は、一般的には0.1〜100秒を含んでなり、好ましくは1〜50秒を含んでなる。
【0041】
この反応は、気相で(適宜、不活性希釈ガスの存在下)実行されてよいし、液相で実行されてよいが、気相が好ましい。
【0042】
脱塩化水素反応が液相で実行される場合、脱塩化水素試薬は特にはKOHである。このKOHは、10〜50質量%のKOHの含有量を有する水溶液の形態で特に利用される。温度は、例えば-10〜10℃を含んでなる。熱は適切なデバイスによって取り除かれてよい。反応時間は1〜50時間を含む時間でよい。
【0043】
脱塩化水素反応(特には、気相での反応)はHFの不存在下又は存在下で実行されてよい。HFが用いられるならば、HFは有機処理物(243db)に対して5/1未満のモル比で用いられてよく、又は5/1〜15/1を含んでなる比率で用いられてもよい。更なる高比率、例えば5/1〜50/1も想定され得る。低比率、例えば1/1〜5/1を含んでなる比率も好ましい。
【0044】
脱塩化水素反応中のHFの存在(比率は可変である)によって、特には、温度が280〜380℃を含んでなる場合に、直接的な生産物の生産、すなわち、1233xfの生産物の生産は勿論のこと、目的の最終生産物である1234yf生産物の生産につなげることが可能である。
【0045】
また、1,1,1,2,2-ペンタフルオロペンタンを生産することも可能であり、この化合物は、脱フッ化水素反応を容易に進行させるので、1234yfの最終目的生産物を生産することができる。この点に関して、WO2008/040969号の実施例2を参照されたい。
【0046】
また、触媒再生工程も公知の方法で提供され得る。
【0047】
様々な反応における圧力は、気相中で大気圧であってよく、又はこの大気圧以下の圧力若しくは大気圧以上の圧力でもよい。
【0048】
脱塩化水素反応によって、位置異性体である、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(1233xf)及びl-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(1233zd)から成る2つの化合物が生産され得る。目的としていない異性体が存在するならば、その異性体は反応混合物からこの工程でされ得る。また、その異性体は反応媒体中に残存してもよく、そして、その後の反応生成物は、必要であるならば適宜、後に単離されてよい。
【0049】
脱塩化水素反応は化合物の1233xfを選択的に生産することが好ましい。選択性は80%超であることが好ましく、90%超であることが有利なことであり、95%超であることが更に有利なことである。1234yfが付随的に生産される実施形態によると、選択性は2つの化合物の1233xf及び1234yfを考慮することによって表現される。
【0050】
生産物の1233xfの選択性を改良するために、水素の存在下で実施することも可能である。
【0051】
また、変換(コンバージョン)も非常に高いことが好ましく、変換(コンバージョン)は50%超であり、有利なこととしては70%超であり、好ましくは90%超であり、より好ましくは95%超である。
【0052】
一般的には、水素は、例えば連続的に、出発供給原料と共に注入されてよい。H
2/出発供給原料のモル比は幅広く変化させてよく、特には0.3〜30で変化させてよく、特には0.5〜20で変化させてよく、有利なこととしては1〜10で変化させてよい。
【0053】
それゆえ、水素の存在下で脱塩化水素反応を実施することは高い選択性を可能とする。また、水素の存在によって、反応中の重元素の生成を抑制する。
【0054】
243dbの脱塩化水素反応で1233xf(及び1234yf)にすることの例示は、上記で示された文献、例えば、WO2008/054781号、WO2008/040969号及びWO2008/075017号に示されている。特には、WO 2008/040969号の文献、更に特には、ページ16及び17、ルートA、並びに実施例1を参照されたい。
【0055】
1234yfを生産するための方法の第3工程は、前工程で得られた2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(1233xf)のフッ素化反応で目的の生産物である2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンにする工程である。
【0056】
この第3工程は、気相中であって、HFの存在下であって、さらに触媒の存在下である、直接的なフッ素化反応を含む。フッ素化反応で用いられる触媒は、例えば、クロニウムオキシフルオライド、アルミニウムフルオライド、アルミニウムオキシフルオライド、さらに、例えばCr、Zn、Ti、V、Zr、Mo、Ge、Sn、Pbのような金属を含有する担持された触媒である。温度、圧力及び接触時間は、当該技術分野の当業者によって容易に決定される。
【0057】
そのような方法は、参照されたいEP-A-1067106(特には実施例1)において、化合物1234zeを得るために認められる化合物1233zdを引用して述べられている。出発生産物1233xfにその方法を適用することは生産物の1234yfを生成することとなる。フッ化水素化の生産物の付随的な生成も可能性があるが、目的とはされないものである。その後、飽和された反応生成物は、目的とした生産物を得るために、本発明の第2工程と同様な条件下で脱ハロゲン化水素の反応が施される。
【0058】
また、この第3工程は2つのサブ工程を含んでよく、第1サブ工程は、1,1,1,2-テトラフルオロ-2-クロロプロパン(244bb)の生産物を生成する工程であり、その後の第2サブ工程は、この生産物の脱塩化水素反応で目的の1234yfを生成する工程である。
【0059】
第1サブ工程は1233xfのフッ化水素化反応を含み、そのフッ化水素化反応は公知の条件下で実行され得る。例えば、その反応は液相又は気相で実行されてよく、さらに触媒の存在下で実行されてよく、その触媒は、Lewis酸、又は、例えばSbCl
5、SbCl
3、SbF
5、SnCl
4、TiCl
4、FeCl
3等のような金属ハロゲン化物でよい。温度は50℃〜400℃を含んでよく、例えば150℃〜300℃でよい。接触時間は、目標とする変換(コンバージョン)及び選択性が機能するように決定される。第1サブ工程は、特には文献WO2007/079431号に記述されており、その文献が述べている、ページ8、17行〜ページ10、16行、並びに実施例5A、5B及び6に記述されている。それゆえ、WO2008/040969号のページ16及び17もまた参照されたい。この反応において、フッ素化反応を促進するために、HF/1233xfの比率は5/1超であることが好ましく、一般的には、5/1〜50/1を含んでなり、また15/1〜30/1を含んでなる。
【0060】
第2サブ工程は脱塩化水素工程であり、その工程は、1234yfを生産するための方法の第2工程の脱塩化水素反応ために上記で述べられた条件下で実行される。この第2サブ工程に関しては、文献WO 2007/079431号を参照されたい。そして、その文献が述べているページ10、18行〜ページ12、14行と実施例6とを参照されたい。また、文献WO 2008/040969号のページ16及び17を参照されたい。
【0061】
本方法の第2工程によって化合物1233zdが生成される場合に、この第3工程が2つのサブ工程を利用して実行されるときにこの化合物はその第3工程の条件にしたがってよい。そのような場合に、第1サブ工程は化合物CF
3-CHF-CH
2Cl(244eb)を生成することとなり、その化合物は、順々に脱塩化水素が施されて、目的とした生産物が生成することとなる。後者の反応もまた、もうすでに上記で引用した文献WO2007/056194号に述べられた一般的な記述によって網羅される。
【0062】
それらの反応はハロゲンの存在を含む反応で専用利用される1つ以上のリアクターで実行される。そのようなリアクターは当該技術分野の当業者にとって公知であり、例えば、Hastelloy
TM、Inconel
TM、Monel
TM又はフルオロポリマーに基づいた内部被膜物を含んでよい。また、必要であるならば、リアクターは熱交換手段を含んでよい。
【0063】
試薬の供給は、一般的には連続的に実行されてよいが、適切であるならば段階的に実行されてもよい。任意の分離工程及び/又はリサイクル工程の地点は可変であるか、本発明の方法の出発地点か、又は中間レベルの地点である。
【実施例】
【0064】
実施例
次の実施例は、本発明を限定することなく本発明例示する(なお、圧力はバールで示す。)。
【0065】
実施例1
用いられる装置は、1リットルの容積を有するダブルジャケットのオートクレーブによって構成されて、316Lのステンレス鋼から作製されて、攪拌手段を含む。後者は圧力及び温度の計量器を備える。オートクレーブの上部の入口が試薬の導入と脱気を可能とする。固体触媒を導入した後、すなわち、46gの鉄の金属性の試験片を塩酸溶液で洗浄した後、密封性試験を実施する。1.098 mol(78 g)の塩素を、真空下に事前に配置されたリアクターに導入し、液体窒素中で冷却する。その後、1.098mol(105.5g)のトリフルオロプロペンを添加する。自己圧力はおよそ6バールである。ヘリウムを用いて10バールの絶対値までリアクターを加圧する。反応媒体を4時間撹拌しながら放置する。その後、リアクター をゆっくりと減圧する。このようにして、163.4gの僅かに黄色く濁った液体をリアクターの底で回収する。この液体の特性を、Carbopack
TM Bl%SPl000カラムを備えたガスクロマトグラフィーを用いて分析する。回収された液体は主に243db(98.0 mol%)によって構成され、そして残存のTFP(1.4 mol%)(243dbに溶解されている。)によって構成される。それにもかかわらず、非常に少量の不純物が確認され、その不純物は、ラジカル反応機構: CF
3-CCl=CH
2、CF
3-CH
2-CH
2Cl, CF
3-CHCl-CH
2Clによって生じた。また、気相を分析して、22%のTFPと77.4%の243dbとを含んでいた。脱気の際のリアクターの上部の空間容積(800ml)、6バールの圧力及び温度を考慮して計算すると、気相においてTFPは0.038molであり、243dbは0.134molである。それゆえ、TFPの変換(コンバージョン)は95.3%であり、243dbに対する選択性は99%超である。
【0066】
0.22μmのMillipore
TM膜でろ過することによって、透明な液体を得ることが可能であり、同時に一部分の残存のトリフルオロプロペンを取り除くことが可能である。結果として得られる243dbの溶液は99.05%の純度を有し、0.7%のトリフルオロプロペンを有する。
本発明に関連する発明の実施態様の一部を以下に記載する。
[態様1]
200kPa(2バール(bar))超の圧力で、3,3,3-トリフルオロ-プロペンを塩素化することによって2,3-ジクロロ-l,1,1-トリフルオロプロパンを生産するための方法。
[態様2]
前記圧力が400kPaから5000kPa(4から50バール(bar))の範囲を含み、好ましくは500kPaから2000kPa(5から20バール(bar))の範囲を含み、有利なこととしては自己圧力である、上記態様1に記載の方法。
[態様3]
液相中で実行される、上記態様1又は2に記載の方法。
[態様4]
添加触媒がない状態で実行される、上記態様1から3のいずれか1つに記載の方法。
[態様5]
2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンを生産するための方法であって、
該方法は、
(i)上記態様1から4のいずれか1つに記載の方法によって、3,3,3-トリフルオロプロペンの塩素化反応で2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパンにする工程、
(ii)該工程(i)で得られた2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパンの脱塩化水素反応で2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンにする工程、及び
(iii)該工程(ii)で得られた2-クロロ-3,3,3-トリフルオロ-1-プロペンのフッ素化反応で2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンにする工程、
を含む、方法。
[態様6]
前記工程(iii)が直接的触媒のフッ素化反応である、上記態様5に記載の方法。
[態様7]
前記工程(iii)が、1,1,1,2-テトラフルオロ-2-クロロプロパンにするフッ化水素化反応の第1サブ工程(iiia)と、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンにする脱塩素化反応の第2サブ工程(iiib)を含む、上記態様5に記載の方法。
[態様8]
前記工程(ii)及び(iii)が気相中で実行される、上記態様5から7のいずれか1つに記載の方法。
[態様9]
前記工程(ii)が水素の存在下で実行される、上記態様5から8のいずれか1つに記載の方法。
[態様10]
前記脱塩化水素反応がHFの存在下で実行されて、該HF/出発生成物の比率が1/1から5/1の範囲を含んでなる、上記態様5〜9のいずれか1つに記載の方法。