特許第5753147号(P5753147)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トリニティ工業株式会社の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 友信工機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5753147-静電塗装装置及びアース状態検査方法 図000003
  • 特許5753147-静電塗装装置及びアース状態検査方法 図000004
  • 特許5753147-静電塗装装置及びアース状態検査方法 図000005
  • 特許5753147-静電塗装装置及びアース状態検査方法 図000006
  • 特許5753147-静電塗装装置及びアース状態検査方法 図000007
  • 特許5753147-静電塗装装置及びアース状態検査方法 図000008
  • 特許5753147-静電塗装装置及びアース状態検査方法 図000009
  • 特許5753147-静電塗装装置及びアース状態検査方法 図000010
  • 特許5753147-静電塗装装置及びアース状態検査方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753147
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】静電塗装装置及びアース状態検査方法
(51)【国際特許分類】
   B05B 5/04 20060101AFI20150702BHJP
   B05D 1/04 20060101ALI20150702BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   B05B5/04 A
   B05D1/04 B
   B05D3/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-229425(P2012-229425)
(22)【出願日】2012年10月17日
(65)【公開番号】特開2014-79702(P2014-79702A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2013年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110343
【氏名又は名称】トリニティ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】309007818
【氏名又は名称】友信工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111095
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 光男
(72)【発明者】
【氏名】梅木 雅之
(72)【発明者】
【氏名】川本 章洋
(72)【発明者】
【氏名】藤原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】山崎 勇
(72)【発明者】
【氏名】浅田 康徳
(72)【発明者】
【氏名】永井 公好
【審査官】 篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−083547(JP,A)
【文献】 特開昭58−017864(JP,A)
【文献】 特開昭52−092254(JP,A)
【文献】 特開2005−058998(JP,A)
【文献】 特開2004−093503(JP,A)
【文献】 特開2003−071330(JP,A)
【文献】 実開昭60−112362(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3131269(JP,U)
【文献】 国際公開第2014/061716(WO,A1)
【文献】 特開2014−079701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 5/00
B05D 1/04
B05D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物に向けて塗料を噴射する塗装ガンと、
当該塗装ガンに高電圧を印加する電圧印加装置とを備えた静電塗装装置であって、
前記塗装ガンに高電圧が印加されているときに前記塗装ガンに流れる放電電流を測定する電流測定装置を有し、
前記被塗物に対して塗料を噴射していない状態において、正常位置に配置された場合の前記被塗物に対して一定の距離となる少なくとも3箇所以上の位置に前記電圧印加装置から高電圧が印加された前記塗装ガンを配置するとともに、前記各位置にて前記電流測定装置により前記塗装ガンを流れる電流を測定し、
前記電流測定装置により測定された複数の電流に基づいて、前記被塗物のアース状態を検査することを特徴とする静電塗装装置。
【請求項2】
前記電流測定装置により前記塗装ガンを流れる電流を測定する際における、前記塗装ガンと正常位置に配置された場合の前記被塗物との間の距離が、前記塗装ガンにより前記被塗物を塗装する際における、前記塗装ガンと正常位置に配置された場合の前記被塗物との間の距離よりも小さくされることを特徴とする請求項1に記載の静電塗装装置。
【請求項3】
前記電流測定装置により前記塗装ガンを流れる電流を測定する際において、前記塗装ガンと正常位置に配置された場合の前記被塗物との間の距離が40mm以上100mm以下とされることを特徴とする請求項1又は2に記載の静電塗装装置。
【請求項4】
前記電流測定装置により前記塗装ガンを流れる電流を測定する際において、前記塗装ガンと正常位置に配置された場合の前記被塗物との間の距離が60mm以上80mm以下とされることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の静電塗装装置。
【請求項5】
被塗物に向けて塗料を噴射する塗装ガンと、当該塗装ガンに電圧を印加する電圧印加装置とを備えた静電塗装装置により、前記被塗物のアース状態を検査するアース状態検査方法であって、
前記被塗物に対して塗料を噴射していない状態において、正常位置に配置された場合の前記被塗物に対して一定の距離となる少なくとも3箇所以上の位置に前記電圧印加装置から電圧が印加された前記塗装ガンを配置した際に、前記塗装ガンに高電圧が印加されているときに前記塗装ガンを流れる放電電流を前記各位置にて測定し、
測定された電流に基づいて前記被塗物のアース状態を検査することを特徴とするアース状態検査方法。
【請求項6】
前記塗装ガンを流れる電流を測定する際において、前記塗装ガンと正常位置に配置された場合の前記被塗物との間の距離が、前記塗装ガンにより前記被塗物を塗装する際における、前記塗装ガンと正常位置に配置された場合の前記被塗物との間の距離よりも小さくされることを特徴とする請求項5に記載のアース状態検査方法。
【請求項7】
前記塗装ガンを流れる電流を測定する際において、前記塗装ガンと正常位置に配置された場合の前記被塗物との間の距離が40mm以上100mm以下とされることを特徴とする請求項5又は6に記載のアース状態検査方法。
【請求項8】
前記塗装ガンを流れる電流を測定する際において、前記塗装ガンと正常位置に配置された場合の前記被塗物との間の距離が60mm以上80mm以下とされることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載のアース状態検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電塗装装置に関し、より詳しくは、被塗物におけるアース状態の検査技術に関する。
【背景技術】
【0002】
静電塗装を行う場合には、被塗物のうち少なくとも塗料が塗布される部位(塗装面)が導電性を有することが必要である。そこで、樹脂部品等の絶縁性の高い被塗物に静電塗装を行うにあたっては、一般に、被塗物の構成材料にカーボンブラック等の導電性物質を混入させたり、被塗物の表面に導電性の被膜(導電プライマ)を形成したりすることで、被塗物に導電性が付与される。そして、静電塗装の際には、被塗物(塗布面)がアース(接地)される。
【0003】
ところで、被塗物(塗装面)の各部において導電性能にバラツキが生じてしまうと、塗料の付着量にバラツキが生じてしまい、塗膜の厚さが不均一となってしまったり、塗膜に色ムラができてしまったりする。また、被塗物(塗装面)のアース接続が不確実であると、静電塗装時に被塗物(塗装面)に電荷が蓄積されてしまい、被塗物とこの周囲に配置された治具等との間でスパークが生じてしまうおそれがある。そのため、静電塗装を行う前に、被塗物におけるアース状態の良否が検査される。
【0004】
従来、被塗物におけるアース状態を検査するための手法としては、所定の端子を被塗物(塗装面)に接触させ、被塗物の抵抗値を測定する手法が知られている。しかしながら、当該手法では、端子の接触に伴い被塗物に疵が付着してしまうおそれがある。そこで、被塗物に電荷を印加して帯電させた後、被塗物の表面電位を測定することで、被塗物に接触することなく、被塗物のアース状態を検査する手法が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。また、静電塗装を行う際に用いられる塗装ガンにより、被塗物に対する電荷の印加や表面電位の測定を行うことで、アース状態を検査するための専用の装置を不要とし、製造ラインの短縮や設備コストの低減等を図る技術も提案されている(例えば、特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−58998号公報
【特許文献2】特開2012−71224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の技術では、被塗物に対して電荷を印加する工程と、被塗物の表面電位を測定する工程との二工程を要する。そのため、被塗物におけるアース状態の検査に時間を要するおそれがある。これに対して、例えば、被塗物に対して電荷を印加する装置と、被塗物の表面電位を測定する装置とをそれぞれ別個に設ける(例えば、上記特許文献2に記載の技術では、塗装ガンを複数設ける)ことで、被塗物に対する電圧の印加と、表面電位の測定とを同時期に行い、検査時間の短縮を図ることが考えられる。ところが、この場合には、製造設備の大型化や複雑化、設備コストの増大を招いてしまうおそれがある。
【0007】
また、検査時において、被塗物が正常位置からずれた位置に配置されてしまい、塗装ガンから被塗物の一部が大きく離間してしまうと、測定される表面電位が小さくなってしまう。その結果、アース状態が正常であるにも関わらず、アース状態に異常があるものと誤判定されてしまうおそれがある。さらに、配置位置にズレが生じたままの状態で被塗物が塗装工程に供給されてしまうと、塗装ムラなどが生じてしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、被塗物におけるアース状態の検査時間の短縮、製造設備の小型化や簡素化、設備コストの低減を図ることができるとともに、被塗物の配置位置のズレが検出可能であり、かつ、検査精度の向上を図ることができる静電塗装装置及びアース状態検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を解決するのに適した各手段につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する手段に特有の作用効果を付記する。
【0010】
手段1.被塗物に向けて塗料を噴射する塗装ガンと、
当該塗装ガンに高電圧を印加する電圧印加装置とを備えた静電塗装装置であって、
前記塗装ガンに高電圧が印加されているときに前記塗装ガンに流れる放電電流を測定する電流測定装置を有し、
前記被塗物に対して塗料を噴射していない状態において、正常位置に配置された場合の前記被塗物に対して一定の距離となる少なくとも3箇所以上の位置に前記電圧印加装置から高電圧が印加された前記塗装ガンを配置するとともに、前記各位置にて前記電流測定装置により前記塗装ガンを流れる電流を測定し、
前記電流測定装置により測定された複数の電流に基づいて、前記被塗物のアース状態を検査することを特徴とする静電塗装装置。
【0011】
上記手段1によれば、専用の装置を用いることなく、塗装ガンを有する静電塗装装置により被塗物におけるアース状態が検査される。従って、製造設備の小型化や簡素化、設備コストの低減を図ることができる。
【0012】
さらに、上記手段1によれば、電圧印加装置から塗装ガンに電圧を印加した状態で、電流測定装置により塗装ガンを流れる電流が測定され、測定された電流に基づいて被塗物のアース状態が検査される。すなわち、被塗物におけるアース状態の検査に用いられる電流が、塗装ガンに電圧を印加している際に取得されるように構成されており、塗装ガンに対する電圧の印加と塗装ガンを流れる電流の測定とが同時期に(つまり一工程で)行われるように構成されている。従って、被塗物におけるアース状態の検査時間を著しく短縮させることができ、生産性の向上を図ることができる。
【0013】
また、上記手段1によれば、検査時間の短縮を図るにあたり、塗装ガンを複数設ける必要はない。従って、製造設備の小型化や簡素化、設備コストの低減を一層効果的に図ることができる。
【0014】
尚、静電塗装を安定的に行うべく、塗装時において、塗装ガンを流れる電流を測定することがあるが、塗装時において塗装ガンを流れる電流は、塗料や塗装軌跡等の影響により大きく変動する。従って、塗装時に塗装ガンを流れる電流に基づいて被塗物のアース状態を検査すると、検査精度が著しく低下してしまうおそれがある。これに対して、非塗装時において塗装ガンを流れる電流は、塗料や塗装軌跡等の影響による変動がない。従って、上記手段1のように、被塗物に塗料を噴射していない状態において塗装ガンを流れる電流に基づいて被塗物のアース状態を検査することで、良好な検査精度を実現することができる。
【0015】
ところで、被塗物が正常位置からずれて配置された場合には、各位置において被塗物及び塗装ガン間の距離が異なることとなり得るため、距離の相違に伴い測定される電流にバラツキが生じ得る。この点、上記手段1によれば、正常位置に配置された場合の被塗物に対して一定の距離となる少なくとも3箇所以上の位置に電圧の印加された塗装ガンが配置されるとともに、各位置において塗装ガンを流れる電流が測定され、測定された複数の電流に基づいてアース状態が検査される。従って、アース状態の検査精度をより一層向上させることができる。
【0016】
また、上記手段1によれば、測定された複数の電流の態様から、被塗物の配置位置にズレが生じているか否かを確認することができる。従って、配置位置にズレが生じたままの状態で被塗物が塗装工程に供給されてしまうといった事態をより確実に防止でき、塗装時において、被塗物に対する塗装ガンの相対位置をより確実に所定の位置とすることができる。その結果、塗装ムラなどの発生を効果的に防止することができ、塗装品質をより高めることができる。
【0017】
手段2.前記電流測定装置により前記塗装ガンを流れる電流を測定する際における、前記塗装ガンと正常位置に配置された場合の前記被塗物との間の距離が、前記塗装ガンにより前記被塗物を塗装する際における、前記塗装ガンと正常位置に配置された場合の前記被塗物との間の距離よりも小さくされることを特徴とする手段1に記載の静電塗装装置。
【0018】
上記手段2によれば、被塗物のアース状態が正常であるときに塗装ガンを流れる電流と、被塗物のアース状態に異常があるときに塗装ガンを流れる電流との差をより確実に大きくすることができる。従って、被塗物におけるアース状態の正常・異常をより容易に判別することができ、アース状態の検査精度を一層向上させることができる。
【0019】
手段3.前記電流測定装置により前記塗装ガンを流れる電流を測定する際において、前記塗装ガンと正常位置に配置された場合の前記被塗物との間の距離が40mm以上100mm以下とされることを特徴とする手段1又は2に記載の静電塗装装置。
【0020】
上記手段3によれば、塗装ガンと正常位置に配置された場合における被塗物との間の距離が40mm以上とされている。従って、被塗物の配置位置にずれが生じた場合などにおいて、塗装ガンが被塗物に接触してしまったり、塗装ガンと被塗物の周囲に位置する治具等との間でスパークが生じてしまったりすることをより確実に防止できる。その結果、アース状態の検査をより精度よく行うことができる。
【0021】
また、上記手段3によれば、前記距離が100mm以下とされているため、アース状態が正常であるときに塗装ガンを流れる電流と、アース状態に異常があるときに塗装ガンを流れる電流との差を一層大きくすることができる。これにより、アース状態の検査精度をより高めることができる。
【0022】
手段4.前記電流測定装置により前記塗装ガンを流れる電流を測定する際において、前記塗装ガンと正常位置に配置された場合の前記被塗物との間の距離が60mm以上80mm以下とされることを特徴とする手段1乃至3のいずれかに記載の静電塗装装置。
【0023】
上記手段4によれば、塗装ガンと正常位置に配置された場合における被塗物との間の距離が60mm以上とされている。従って、被塗物に対する塗装ガンの接触や塗装ガン及び治具等間におけるスパークの発生を極めて効果的に防止することができる。
【0024】
また、上記手段4によれば、前記距離が80mm以下とされているため、アース状態が正常であるときに塗装ガンを流れる電流と、アース状態に異常があるときに塗装ガンを流れる電流との差をより一層増大させることができる。その結果、検査精度の更なる向上を図ることができる。
【0025】
手段5.被塗物に向けて塗料を噴射する塗装ガンと、当該塗装ガンに電圧を印加する電圧印加装置とを備えた静電塗装装置により、前記被塗物のアース状態を検査するアース状態検査方法であって、
前記被塗物に対して塗料を噴射していない状態において、正常位置に配置された場合の前記被塗物に対して一定の距離となる少なくとも3箇所以上の位置に前記電圧印加装置から電圧が印加された前記塗装ガンを配置した際に、前記塗装ガンに高電圧が印加されているときに前記塗装ガンを流れる放電電流を前記各位置にて測定し、
測定された電流に基づいて前記被塗物のアース状態を検査することを特徴とするアース状態検査方法。
【0026】
上記手段5によれば、上記手段1と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0027】
手段6.前記塗装ガンを流れる電流を測定する際において、前記塗装ガンと正常位置に配置された場合の前記被塗物との間の距離が、前記塗装ガンにより前記被塗物を塗装する際における、前記塗装ガンと正常位置に配置された場合の前記被塗物との間の距離よりも小さくされることを特徴とする手段5に記載のアース状態検査方法。
【0028】
上記手段6によれば、上記手段2と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0029】
手段7.前記塗装ガンを流れる電流を測定する際において、前記塗装ガンと正常位置に配置された場合の前記被塗物との間の距離が40mm以上100mm以下とされることを特徴とする手段5又は6に記載のアース状態検査方法。
【0030】
上記手段7によれば、上記手段3と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0031】
手段8.前記塗装ガンを流れる電流を測定する際において、前記塗装ガンと正常位置に配置された場合の前記被塗物との間の距離が60mm以上80mm以下とされることを特徴とする手段5乃至7のいずれかに記載のアース状態検査方法。
【0032】
上記手段8によれば、上記手段4と同様の作用効果が奏されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】静電塗装装置の構成を示す模式図である。
図2】塗装ガンやロボットアーム等の構成を示す模式図である。
図3】被塗物のアース状態を検査する際の塗装ガン等を示す模式図である。
図4】(a)〜(d)は、各位置A〜Dに配置される塗装ガン等を示す模式図である。
図5】被塗物が正常位置に配置された場合に電流測定装置により測定される電流や被塗物のアース状態を判定する際に用いられる閾値電流を示すグラフである。
図6】正常位置からずれた状態で配置された被塗物等を示す模式図である。
図7】(a)〜(d)は、被塗物が正常位置からずれた状態に配置された場合において、各位置A〜Dに配置される塗装ガン等を示す模式図である。
図8】被塗物が正常位置からずれた場合に電流測定装置により測定される電流等を示すグラフである。
図9】被塗物に対して塗装を施す際における塗装ガンと被塗物との間の距離等を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、一実施形態について図面を参照して説明する。静電塗装装置1は、少なくとも塗装面が導電性を有する被塗物CDに対して静電塗装を行うものであり、図1及び図2に示すように、1つの塗装ガン2と、これを支持するロボットアーム3と、電圧印加装置4と、電流測定装置5とを備えている。尚、本実施形態において、正常な被塗物CDの塗装面には、導電性物質を有してなる導電プライマが設けられている。
【0035】
塗装ガン2は、被塗物CDに対して塗料を噴射するものであり、ベルカップ21を備えている。また、塗装ガン2は、ベルカップ21を図示しない駆動手段(例えば、エアモータ等)により回転させることで、ベルカップ21の内面に展延させた液体塗料を遠心力で微粒化させることができる回転霧化型のものである。
【0036】
ロボットアーム3は、その一端部が基台部33に回動可能に連結された上下アーム31と、その一端部が前記上下アーム31の他端部に回動可能に連結された水平アーム32とを備えている。また、水平アーム32の他端部には塗装ガン2が設けられており、上下アーム31及び水平アーム32を各回動支点にて回動させることで、被塗物CDに対して塗装ガン2を相対移動させることができるようになっている。
【0037】
加えて、水平アーム32は、直列的に連結された第1アーム部321、第2アーム部322、及び、第3アーム部323を備えている。そして、第1アーム部321には、2つの屈折部321A,321Bが設けられており、第1アーム部321は、各屈折部321A,321Bにおいて屈折可能とされている。さらに、水平アーム32の他端部には、第1アーム部321と塗装ガン2とを連結する円筒状の連結筒324が設けられており、連結筒324は、第1アーム部321に対して自身の中心軸を回転軸として回転可能とされている。第1アーム部321の屈折角度、及び、連結筒324の回転量のそれぞれを調節することで、被塗物CDに対する塗装ガン2の向きを調節可能となっている。
【0038】
電圧印加装置4は、塗装ガン2に印加する高電圧を発生させるものであり、電圧発生部41と、電圧昇圧部42とを備えている。
【0039】
電圧発生部41は、塗装ガン2に印加する高電圧の元となる電圧を発生させるものであり、発生させた電圧は、電圧昇圧部42へと入力されるようになっている。電圧昇圧部42は、電圧発生部41から入力された電圧を昇圧し、伝送ケーブル43を介して塗装ガン2へと高電圧を印加する。尚、電圧印加装置4は、CPUやRAM等を有する制御装置6により制御されており、塗装ガン2に対する印加電圧を調節可能とされている。
【0040】
電流測定装置5は、電圧昇圧部42の下流に設けられており、塗装ガン2を流れる電流(本実施形態では、伝送ケーブル43を流れる電流)を測定する。また、電流測定装置5により測定された電流は制御装置6へと出力されるようになっている。
【0041】
制御装置6は、塗装ガン2に対する印加電圧や電圧の印加タイミングを決定するとともに、電流測定装置5により測定された電流(電流値)に基づいて、被塗物CD(本実施形態では、被塗物CDの表面に形成された導電プライマ)のアース状態を検査する。
【0042】
被塗物CDのアース状態の検査手法について詳述すると、まず、図3に示すように、塗装ガン2を所定のコンベアCN上に搭載された被塗物CDに対して間隔を隔てて配置する。このとき、塗装ガン2及び正常位置に配置された場合における被塗物CD間の距離L1は、40mm以上100mm以下(より好ましくは、60mm以上80mm以下)とされている。尚、通常、被塗物CD(導電プライマ)は、アースクリップECによりコンベアCNと電気的に接続されており、被塗物CD(導電プライマ)は接地されている。
【0043】
次いで、図3及び図4に示すように、電圧印加装置4から塗装ガン2に対する負極性の高電圧(例えば、−50kVであり、−60kV以上−40kV以下が好ましい)の印加と印加の解除とを繰り返しつつ、予め設定された所定の軌跡(本実施形態では、導電プライマの表面全域上を通過する軌跡)にて、塗装ガン2を被塗物CDに対して相対移動させる。そして、電流測定装置5により、塗装ガン2に高電圧が印加されているときに塗装ガン2を流れる電流が測定される。本実施形態では、正常位置に配置された場合における被塗物CDとの間の距離がL1を維持するような軌跡にて塗装ガン2を相対移動させるように構成されており、被塗物CDに対して一定の距離となる少なくとも3箇所以上の位置(本実施形態では、少なくとも位置A,B,C,D)に電圧の印加された塗装ガン2が配置される。そして、前記各位置A,B,C,Dにおいて電流測定装置5により塗装ガン2を流れる複数の電流IA,IB,IC,IDが測定される〔位置Aにおいて測定された電流(電流値)がIAであり、位置Bにおいて測定された電流(電流値)がIBであり、位置Cにおいて測定された電流(電流値)がICであり、位置Dにおいて測定された電流(電流値)がIDである〕。
【0044】
電流測定装置5により測定された複数の電流(電流値)IA,IB,IC,IDは、制御装置6に入力され、制御装置6は、入力された複数の電流(電流値)IA,IB,IC,IDに基づいて、被塗物CDにおけるアース状態を判定する。具体的には、制御装置6は、図5及び図6に示すように、電流測定装置5により測定された電流(電流値)IA,IB,IC,IDのうちの最大値が予め設定された所定の閾値電流TI(μA)以上であった場合に、被塗物CDのアース状態が正常であると判定する。一方で、電流測定装置5により測定された電流(電流値)IA,IB,IC,IDの最大値が前記閾値電流TI未満であった場合に、被塗物CDのアース状態に異常があると判定する。
【0045】
尚、制御装置6によるアース状態の判定手法を上述のように設定したのは、次の理由による。
【0046】
すなわち、被塗物CD(導電プライマ)が正常にアースに接続されるとともに、導電プライマが正常に形成さいる場合には、塗装ガン2により被塗物CDに対して印加された電荷は、導電プライマを介してアース側へと流れる。従って、塗装ガン2からの放電量比較的大きくなる。そのため、図5に示すように、塗装ガン2を流れる電流IA,IB,IC,IDはそれぞれ比較的大きなものとなる。一方で、被塗物CD(導電プライマ)のアース接続に異常が生じている場合(例えば、アースクリップECが取付けられていない場合や、アースクリップECに対する絶縁性塗料の付着等により被塗物CD及びアース間の導電性が低下している場合)や、導電プライマが正常に設けられていない場合(例えば、導電プライマが形成されていない場合)には、塗装ガン2により被塗物CDに対して印加された電荷は、被塗物CDに留まることとなる。従って、塗装ガン2からの放電量比較的小さくなる。そのため、塗装ガン2を流れる電流IA,IB,IC,IDはそれぞれ比較的小さなものとなる。この点を踏まえて、基本的には、閾値電流TIに対する測定された電流(電流値)電流IA,IB,IC,IDの大小により、被塗物CDにおけるアース状態の判定が行われる。
【0047】
しかしながら、被塗物CDにおけるアース状態が正常の場合であっても、図6及び図7に示すように、被塗物CDが正常位置からずれた位置に配置されている場合には、各位置A,B,C,Dにおいて、塗装ガン2及び被塗物CD間の距離が相違する。従って、図8に示すように、各位置A,B,C,Dにおいて測定される電流IA,IB,IC,IDは、距離の相違に伴い変動する。そのため、被塗物CDのアース状態が正常であるにも関わらず、測定される電流が前記閾値電流TIを下回るおそれがある。この点を踏まえて、本実施形態では、測定された電流(電流値)IA,IB,IC,IDのうちの最大値に基づいて、被塗物CDにおけるアース状態の判定が行われる。
【0048】
さらに、本実施形態では、制御装置6により被塗物CDのアース状態に異常があると判定された場合、所定の報知装置(図示せず)により、アース状態に異常がある旨が作業者等に報知されるようになっている。また、測定された電流(電流値)の変化が所定の態様となっている場合(例えば、測定された電流が徐々に増大又は減少する態様となっている場合)には、被塗物CDの配置位置にズレが生じている旨を作業者等に報知するようになっている。
【0049】
また、本実施形態では、上述のように、電流測定装置5により塗装ガン2を流れる電流を測定する際において、塗装ガン2と正常位置に配置された場合における被塗物CDとの間の距離L1が40mm以上100mm以下(より好ましくは、60mm以上80mm以下)とされているが、距離L1をこの範囲としたのは、次の理由による。
【0050】
すなわち、表1に示すように、塗装ガン2に対する印加電圧、及び、塗装ガン2及び被塗物CD間の距離L1を種々変更した場合において、被塗物CDのアース状態が正常であるときに塗装ガン2を流れる電流と、被塗物CDのアース状態に異常があるときに塗装ガン2を流れる電流との差(電流差)を求めた。
【0051】
【表1】
【0052】
このとき、距離L1を40mm以上とすることで、電流差が極端に大きくなってしまうことを抑制できるため、塗装ガン2及び被塗物CDの周囲に位置する治具間におけるスパークの発生を十分に抑制することができ、距離L1を60mm以上とすることで、電流差の過度の増大をより確実に抑制でき、スパークの発生をより一層確実に防止することができた。この結果から、本実施形態では、距離L1が40mm以上(より好ましくは、60mm以上)とされている。また、距離L1を100mm以下とすることで、電流差を30μA以上とすることができ、被塗物CDにおけるアース状態の良否判断が容易となり、距離L1を80mm以下とすることで、電流差を40μA以上とすることができ、アース状態の良否判断がより一層容易となることが分かった。この結果を踏まえて、本実施形態では、距離L1が100mm以下(より好ましくは、80mm以下)とされている。
【0053】
さらに、本実施形態において、距離L1は、図9に示すように、塗装ガン2により静電塗装を施す際において、塗装ガン2と正常な位置に配置された場合の被塗物CDとの間の距離L2(例えば、150mm〜200mm)よりも小さなものとされている。
【0054】
以上詳述したように、本実施形態によれば、専用の装置を用いることなく、塗装ガン2を有する静電塗装装置1により被塗物CDにおけるアース状態が検査される。従って、製造設備の小型化や簡素化、設備コストの低減を図ることができる。
【0055】
さらに、本実施形態では、被塗物CDにおけるアース状態の検査に用いられる電流が、塗装ガン2に電圧を印加している際に取得されるように構成されており、塗装ガン2に対する電圧の印加と塗装ガン2を流れる電流の測定とが同時期に(つまり一工程で)行われるように構成されている。従って、被塗物CDにおけるアース状態の検査時間を著しく短縮させることができ、生産性の向上を図ることができる。
【0056】
また、検査時間の短縮を図るにあたり、塗装ガン2を複数設ける必要がないため、製造設備の小型化や簡素化、設備コストの低減を一層効果的に図ることができる。
【0057】
さらに、本実施形態では、正常位置に配置された場合の被塗物CDに対して一定の距離となる少なくとも3箇所以上の位置に電圧の印加された塗装ガン2が配置されるとともに、各位置において塗装ガン2を流れる電流が測定され、測定された複数の電流に基づいてアース状態が検査される。従って、アース状態の検査精度をより一層向上させることができる。
【0058】
加えて、測定された複数の電流の態様から、被塗物CDの配置位置にズレが生じているか否かを確認することができる。従って、配置位置にズレが生じたままの状態で被塗物CDが塗装工程に供給されてしまうといった事態をより確実に防止でき、塗装時において、被塗物CDに対する塗装ガン2の相対位置をより確実に所定の位置とすることができる。その結果、塗装ムラなどの発生を効果的に防止することができ、塗装品質をより高めることができる。
【0059】
また、本実施形態では、距離L1が距離L2よりも小さなものとされているため、被塗物CDのアース状態が正常であるときに塗装ガン2を流れる電流と、被塗物CDのアース状態に異常があるときに塗装ガン2を流れる電流との差をより確実に大きくすることができる。従って、被塗物CDにおけるアース状態の正常・異常をより容易に判別することができ、アース状態の検査精度を一層向上させることができる。
【0060】
さらに、距離L1が40mm以上(より好ましくは、60mm以上)とされているため、被塗物CDの配置位置にずれが生じた場合などにおいて、塗装ガン2が被塗物CDに接触してしまったり、塗装ガン2と被塗物CDの周囲に位置する治具等との間でスパークが生じてしまったりすることをより確実に防止できる。その結果、アース状態の検査をより精度よく行うことができる。
【0061】
加えて、距離L1が100mm以下(より好ましくは、80mm以下)とされているため、アース状態が正常であるときに塗装ガン2を流れる電流と、アース状態に異常があるときに塗装ガン2を流れる電流との差を一層大きくすることができる。これにより、アース状態の検査精度をより一層高めることができる。
【0062】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0063】
(a)上記実施形態では、電流測定装置5により測定された電流(電流値)IA,IB,IC,IDのうちの最大値を判定基準として被塗物CDのアース状態が検査されているが、必ずしも最大値を判定基準としなくてもよい。従って、例えば、測定された電流(電流値)IA,IB,IC,IDの平均値に基づいて、被塗物CDのアース状態を検査することとしてもよい。
【0064】
(b)上記実施形態において、静電塗装装置1は、1つの塗装ガン2を備えているが、2つ以上の塗装ガン2を備えていてもよい。
【0065】
(c)上記実施形態では、電圧印加装置4及び電流測定装置5が別体とされているが、両者を一体としてもよい。従って、例えば、電圧印加装置4が、電流測定装置5の機能を有することとしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1…静電塗装装置、2…塗装ガン、4…電圧印加装置、5…電流測定装置、CD…被塗物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9