特許第5753148号(P5753148)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5753148細胞培養担体を用いて行うスフェロイドの培養方法と細胞培養担体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753148
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】細胞培養担体を用いて行うスフェロイドの培養方法と細胞培養担体
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20150702BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   C12M3/00 Z
   C12M1/00 C
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-244030(P2012-244030)
(22)【出願日】2012年11月6日
(65)【公開番号】特開2014-90703(P2014-90703A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2013年7月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】日本写真印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116816
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 道彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】小尾 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】村上 英樹
(72)【発明者】
【氏名】河合 正雄
【審査官】 松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−504816(JP,A)
【文献】 計測技術,1990年,18 号No.6 P:45-51
【文献】 化学工学,1991年,Vol.55, No.2 P:121-122
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 3/00
C12M 1/00
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養担体を用いて行うスフェロイド(細胞塊)の培養方法において、
前記細胞培養担体は、
細胞培養担体に複数の培養凹部を設け、
前記培養凹部の底面から下方向に向かう個別流入路、複数の前記個別流入路と導通する幹線流入路、前記培養凹部の上面から横方向に向かう溢流路を設け、前記複数の培養凹部は前記溢流路を介在して導通していて、
前記個別流入路はその断面の面積が19.5μm以上1970μm以下であり、
前記細胞培養担体は可視光透明であって、不透水の性質を有するものであって、
スフェロイドを前記培養凹部に入れ、
スフェロイド培養期間中、培養液を一方向である前記幹線流入路、前記個別流入路と前記培養凹部を順に通過して前記溢流路に至る方向に流すことを特徴とする細胞培養担体を用いて行うスフェロイドの培養方法。
【請求項2】
培養凹部を有する細胞培養担体において、
細胞培養担体に複数の培養凹部を設け、
前記培養凹部の底面から下方向に向かう個別流入路、複数の前記個別流入路と導通する幹線流入路、前記培養凹部の上面から横方向に向かう溢流路を設け、前記複数の培養凹部は前記溢流路を介在して導通していて、
前記個別流入路はその断面の面積が19.5μm以上1970μm以下であり、
前記細胞培養担体は可視光透明であって、不透水の性質を有するものであって、
前記培養凹部にスフェロイド(細胞塊)を入れたスフェロイド培養期間中、培養液を一方向である前記幹線流入路、前記個別流入路と前記培養凹部を順に通過して前記溢流路に至る方向に流すものである細胞培養担体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胚性幹細胞(ES細胞)等のスフェロイド(細胞塊)を培養する容器である細胞培養担体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトを含む動物の組織細胞を三次元的に培養しスフェロイドを形成させる細胞培養担体として、従来、合成樹脂やガラス製のシャーレ、ウェルプレート等(以下従来型容器という)が使用されている。
【0003】
また、従来、下部材と上部材との2段構造で、下部材はセラミック製の多孔体を材料とし、細胞の培養部位である複数の凹部が配置された板状体であり、上部材は下部材の上面に載せられ、当該凹部に対応する位置に貫通穴を有する板状体である細胞培養担体(例えば、特許文献1参照)が提案されている。この細胞培養担体を以下改良型担体という。
【0004】
このような従来の細胞培養担体は以下のような問題点がある。
(1)従来型容器も改良型担体もスフェロイドは壁面に接着するので、スフェロイドの取出しに剥離処理が必要となる。改良型担体は2段構造になっていて、上部材を取外すことによりスフェロイド取出しを容易化する工夫はあるが、依然として剥離処理は必要である。
(2)改良型担体は下部材に多孔質材料を用いて、スフェロイドへの栄養と老廃物の出入りが出来るようになっている。その反面、多孔質材料は可視光不透明であり、顕微鏡による細胞培養担体内のスフェロイド成長の経過観察ができない。
(3)スフェロイド内を低酸素状態にすると、スフェロイドの長期保存に有効である。スフェロイド内を低酸素状態にするためには大きなスフェロイドが必要となるが、従来型容器や改良型担体で大きなスフェロイドまで培養するとスフェロイドは自重により球形が保てなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−263868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明はスフェロイドの培養にあたり、スフェロイドが壁面に接着せず、スフェロイドへの代謝物の出入りが確保され、光学顕微鏡を使ってスフェロイドの観察が可能で、スフェロイドの球形保持を援助できる細胞培養担体を得ることを課題とする。また本発明はこのような細胞培養担体の製造方法を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に課題を解決するための手段を述べる。理解を容易にするために、本発明の実施態様に対応する符号を付けて説明するが、本発明は当該実施態様に限定されるものではない。また、符号である数字は部品などを集合的に示す場合があり、後に説明する実施例において個別の部品などを示す場合に、当該数字のあとにアルファベットの添字を付けているものがある。
【0008】
本発明の一の態様にかかる細胞培養担体は、培養凹部を有する細胞培養担体において、
細胞培養担体(6)に複数の培養凹部(7)を設け、
前記培養凹部の底面から下方向に向かう個別流入路(21)、複数の前記個別流入路と導通する幹線流入路(22)、前記培養凹部の上面から横方向に向かう溢流路(24)を設け、前記複数の培養凹部は前記溢流路を介在して導通していて、
前記個別流入路はその断面の面積が19.5μm以上1970μm以下であり、
前記細胞培養担体は可視光透明であって、不透水の性質を有する。
【0009】
本発明の好ましい実施態様にあって、前記培養凹部の上端面の形状が円であり、その直径(Dop)が50μm以上2000μm以下であってもよく、また、前記培養凹部の上端面の形状が円であり、その直径をDopとし、前記培養凹部についてその高さをHとしたとき、下式(1)を満たすものでもよい。
0.4Dop≦H≦0.6Dop 式(1)
【0010】
本発明のその他の好ましい実施態様にあって、
前記細胞培養担体は、下層板の上に中層板を積層し、前記中層板の上に上層板を積層したものであって、
前記幹線流入路は前記下層板に形成され、
前記個別流入路は前記中層板に形成され、
前記培養凹部と前記溢流路は前記上層板に形成され、
前記下層板と前記上層板は原型の形状を転写して作成された合成樹脂板であり、
前記中層板は露光操作と現像操作によって所望の形状を作成したフォトレジスト膜であってもよい。
【0011】
本発明の他の態様にかかる細胞培養装置は、本発明にかかる細胞培養担体とポンプからなり、
ポンプの送液出口である送液口と幹線流入路の入口である幹線流入路入口を接続し、前記溢流路の一部分を廃液口とし、
前記ポンプから培養液を前記培養凹部に送り、廃液口から廃棄する。
【0012】
本発明のその他の態様にかかる細胞培養担体の製造方法は、
本発明にかかる細胞培養担体の製造方法であって、
下層板の上に中層板を積層し、前記中層板の上に上層板を積層して製造するものであって、
前記幹線流入路は前記下層板に形成され、
前記個別流入路は前記中層板に形成され、
前記培養凹部と前記溢流路は前記上層板に形成され、
前記下層板と前記上層板は原型の形状を転写して作成した合成樹脂板であり、
前記中層板はフォトレジストを膜状にしてフォトレジスト膜を形成し、前記フォトレジスト膜を露光して露光フォトレジスト膜を作成し、前記露光フォトレジスト膜を現像して所望の形状の前記中層板としたものである。
【0013】
以上説明した本発明、本発明の好ましい実施態様、これらに含まれる構成要素は可能な限り組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる細胞培養担体は、その他の発明を特定する事項と共に、培養凹部、特定の個別流入路、特定の溢流路を有する可視光透明の細胞培養担体であるから、細胞培養期間中、個別流入路を通過して培養凹部に至り、溢流路から廃液される培養液を流すことができる。このような培養液流のもとでは、スフェロイドは培養凹部中で常に浮遊状態で存在し壁面に接着しない。よって細胞培養担体からスフェロイドの取出しが容易である。また、浮遊によりスフェロイドの球形保持が援助される。さらに培養凹部に培養液を常時流入と流出させることができ、しかも培養液流は一定方向に流れるのでスフェロイド代謝物の交換が容易である。
【0015】
本発明にかかる細胞培養装置は、本発明にかかる細胞培養担体と特定のポンプを含むので、培養液の送液がより一層容易化し、スフェロイド代謝物の交換がより一層容易となる利点を有する。
【0016】
本発明にかかる細胞培養担体の製造方法は、その他の発明を特定する工程と共に、フォトレジストを成形、露光、現像して、個別流入路を含む中層板を製造する工程を含むので、微細な個別流路を形成する過程が容易かつ精度よく行えるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は第一の細胞培養担体の透視図である。
図2図2は培養凹部列の断面図であり、図1中に切断面9で示す平面における断面図である。
図3図3は第二の細胞培養担体の透視図である。
図4図4は細胞凹部列の断面図であり、図3中に切断面19で示す平面における断面図である。
図5図5は第一の細胞培養担体の積層構成を示す断面図である。
図6図6は中層板の加工工程を示した説明図である。
図7図7は下層板の加工工程を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施例にかかる細胞培養担体とその製造方法をさらに説明する。本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするため、一部の構成要素を誇張して表すなど模式的に表しているものがある。このため、構成要素間の寸法や比率などは実物と異なっている場合がある。また、本発明の実施例に記載した部材や部分の寸法、材質、形状、その相対位置などは、とくに特定的な記載のない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例にすぎない。
【0019】
図1を参照して、第一の細胞培養担体6は形状が直方体であり、複数の第一の培養凹部7を有している。第一の細胞凹部7の形状は円柱形状であり、上述した直方体の上面に円柱形状の上面が開口している。3個の第一の培養凹部7が直列して培養凹部列8を構成している。
【0020】
培養凹部列8fは3個の第一の培養凹部7fl、7fm、7fnを含んでいる。同様に培養凹部列8gは3個の第一の培養凹部7gl、7gm、7gnを含んでいて、培養凹部列8hは、3個の第一の培養凹部7hl、7hm、7hnを含んでいる。
【0021】
各々の培養凹部7はその内底面から下方に向かう個別流入路21を有している。個別流入路21の下端は幹線流入路22と連絡している。幹線流入路22の一方端であって第一の細胞培養担体6の側壁開口部は、幹線流入路入口23である。
【0022】
第一の細胞培養担体6の上面に溝が刻まれ、当該溝が第一の培養凹部7の上端部で第一の培養凹部7の内側面と連絡している。かような溝が溢流路24である。
【0023】
図1図2を参照して、本実施例においては単一の幹線流入路22に3個の個別流入路21が連絡し、3個の個別流入路21の上端は個々の第一の培養凹部7fl、7fm、7fnに通じている。第一の培養凹部7fnの上端部と第一の培養凹部7fmの上端部は水平方向に形成されている溝である溢流路24を介在して連絡している。第一の培養凹部7fmの上端部と第一の培養凹部7flの上端部は溢流路24を介在して連絡している。第一の培養凹部7flの上端部は溢流路24を介在して廃液口25と導通している。
【0024】
培養凹部列は、幹線流入路入口23と廃液口25を共通とする複数の培養凹部の単位である。単一の細胞培養担体中に含まれる培養凹部列の数は特に制限は無く、単一でも複数でもよい。培養凹部列の数を複数にすれば、個々の培養凹部で培養液の流れが均一化する利点がある。
【0025】
通常、幹線流入路入口23にポンプ3の送液口を接続する。ポンプ3から培養液を送液する。ポンプ3は例えばシリンジポンプ、ペリスターポンプ等が好適に使用できる。
【0026】
ポンプ3から送液される液体は、個別流入路21を通過して第一の培養凹部7に進入する。個別流入路21は第一の培養凹部7の底面に開口しているから、ポンプ3からの送液は第一の培養凹部7に底面から上向きに流れ込む。この上向きの流れが第一の培養凹部7中のスフェロイドを浮遊状態とする力となる。スフェロイドが浮遊状態で培養されるとスフェロイドが培養凹部7の底面や内側面に接着しない。また、スフェロイドを球形に維持する力が働き、自重によりスフェロイドの球形が崩れなくなる。
【0027】
スフェロイドを効率よく浮遊させるために個別流入路は底面の中心に開口していることが望ましい。後に詳述する第二の細胞培養担体にあっても個別流入路は半球形状である第二の培養凹部の底面先端部に開口していることが好ましい。
【0028】
第一の細胞培養担体6にあって第一の培養凹部7は円柱形状であるが、本発明にあって培養凹部の形状は円柱形状に限られない。培養凹部の形状は、例えば、半球形状、半楕円球形状、多角錐形状である。これらの中で、円柱形状、半球形状が好ましい。円柱形状、半球形状であれば、スフェロイドがより一層浮遊し易い。さらに半球形状であれば、培養液の流れが良くなる。
【0029】
図3は半球形状の第二の培養凹部を有する第二の細胞培養担体の透視図であり、図4は培養凹部列の断面図であり、図3中に切断面19で示す平面における断面図である。第二の細胞培養担体16と第一の細胞培養担体6は培養凹部の形状が異なるのみで、その他の構成は同一である。以下、第二の細胞培養担体16を簡単に説明する。
【0030】
図3を参照して、第二の細胞培養担体16は形状が直方体であり、複数の第二の培養凹部17を有している。細胞凹部17の形状は半球形状であり、上述した直方体の上面に半球形状の上面が開口している。3個の第二の培養凹部17が直列して培養凹部列18を構成している。
【0031】
培養凹部列18fは3個の第二の培養凹部17fl、17fm、17fnを含んでいる。同様に培養凹部列18gは3個の第二の培養凹部17gl、17gm、17gnを含んでいて、培養凹部列18hは、3個の第二の培養凹部17hl、17hm、17hnを含んでいる。
【0032】
各々の第二の培養凹部17はその内底面から下方に向かう個別流入路21を有している。個別流入路21の下端は幹線流入路22と連絡している。幹線流入路22の一方端であって第二の細胞培養担体16の側壁開口部は、幹線流入路入口23である。
【0033】
第二の細胞培養担体16の上面に溝が刻まれ、当該溝が培養凹部17の上端部で培養凹部17の内側面と連絡している。かような溝が溢流路24である。
【0034】
図3図4を参照して、本実施例においては単一の幹線流入路22に3個の個別流入路21が連絡し、3個の個別流入路21の上端は個々の第二の培養凹部17fl、17fm、17fnに通じている。第二の培養凹部17fnの上端部と第二の培養凹部17fmの上端部は水平方向に形成されている溝である溢流路24を介在して連絡している。第二の培養凹部17fmの上端部と第二の培養凹部17flの上端部は溢流路24を介在して連絡している。第二の培養凹部17flの上端部は溢流路24を介在して廃液口25と導通している。
【0035】
通常、幹線流入路入口23にポンプ3の送液口を接続する。ポンプ3から送液される液体は、個別流入路21を通過して第二の培養凹部17に進入する。個別流入路21は第二の培養凹部17の底面に開口しているから、ポンプ3からの送液は第二の培養凹部17に底面から上向きに流れ込む。
【0036】
以下に、第一の細胞培養担体6と第二の細胞培養担体16の共通事項を説明する。
【0037】
個別流入路21の断面の面積は19.5μm以上1970μm以下であることが好ましい。個別流入路を断面真円に形成した場合、上記断面積は直径5μm〜50μmの真円に相当する。この断面面積はスフェロイドを形成する細胞(特に未分化胚性幹細胞)の断面面積と同等であり、個別流入路の断面積をこの範囲にすれば、培養細胞が個別流入路を通過して幹線流入路に入り込むことがないからである。断面形状が真円であることが好ましいが、断面面積が上記範囲にある断面真円の円柱穴の加工は容易でない。このため、その断面形状が真円に近似する形状であればよく、また、断面の形状は楕円形、四角形、多角形等であってもよい。
【0038】
第一の細胞培養担体における第一の培養凹部7は円柱形状であり、上端面は円形である。第二の細胞培養担体における第二の培養凹部17は半球形状であり、上端面は円形である。円形状である培養凹部上端面の直径をDopとする。培養凹部7、17の高さをHとする。第一の培養凹部7にあって高さHは上端面と底面の距離である。第二の培養凹部17にあって高さHは上端面と下側に在る頂点との距離である。
【0039】
Dopの長さに特に制限はない。好ましいDopの長さは50μm以上2000μm以下であり、特に好ましくは50μm以上100μm以下である。この範囲は一般的なスフェロイドの直径と同等であり、単一の培養凹部中に単一のスフェロイドを培養するにふさわしい寸法だからである。
【0040】
DopとHの比率に特に制限はない。好ましいのは式(1)を満たす比率である。
0.4Dop≦H≦0.6Dop 式(1)
この比率範囲にあれば凹部である培養凹部の加工が容易だからである。
【0041】
細胞培養担体6、16は可視光透明である。光学顕微鏡を用いる培養細胞の観察に資するためである。細胞培養担体6、16は、通常、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、フォトレジスト等の合成樹脂で作られる。このような材料である合成樹脂は不透水の性質を有する。
【0042】
続いて細胞培養担体の一の好ましい製造方法を説明する。細胞培養担体は下層板51、中層板52と上層板53をこの順序に積み重ねて作られる。図5に下層板51と中層板52の境界面を破線で示している。同様に中層板52と上層板53の境界面を破線で示している。下層板51は上面に溝がある。中層板52の下面が当該溝を覆って幹線流入路22を成している。すなわち、幹線流入路22は下層板51に形成されている。
【0043】
中層板52は貫通穴を有している。当該貫通穴は下層板51に在る幹線流入路22と導通している。また当該貫通穴は上層板に在る培養凹部7と導通している。当該貫通穴は個別流入路21である。すなわち、個別流入路21は中層板52に形成されている。
【0044】
上層板53は貫通穴を有している。中層板52の上面が当該貫通穴の下端開放面を覆って培養凹部7を成している。すなわち、培養凹部7は上層板53に形成されている。また、溢流路24も上層板53に形成されている。
【0045】
図6は中層板52の製造方法を示している。(1)に示すようにシリコンウェア等の台61上にフォトレジストの薄層62を形成する。薄層62は種々のコート法で作成すればよい。好ましいコート法はスピンコート法である。薄層62の表面の平滑性に優れるからである。(2)に示すようにフォトマスク63越しにフォトレジストの薄層62を露光し、部分的に硬化させる。(3)に示すように、現像を行う。現像はフォトレジストの薄層62の不必要部分を取り除く作業である。台61とフォトレジストの薄層62を分離して、(4)に示すように中層板52を得る。
【0046】
中層板52の厚さ、すなわちフォトレジストの薄層62の厚さは、20μm以上200μm以下の範囲が好ましい。この範囲にすれば、中層板52としての強度が得られると共に、均一厚さ、かつ表面が平滑な薄層成膜が可能だからである。
【0047】
フォトエッチングにより中層板を製造すれば、直径5μm〜50μmの範囲の貫通穴を容易に作成することができる。
【0048】
図7はフォトレジスト型を転写して作成する下層板51の製造方法を示している。(1)に示すようにシリコンウェア等の台61の上にフォトレジストの薄層62を形成する。(2)に示すようにフォトマスク63越しにフォトレジストの薄層62を露光し、部分的に硬化させる。(3)に示すように現像を行い、フォトレジスト型64を作成する。
【0049】
(4)に示すようにフォトレジスト型64に流動状態のPDMS65を流し込み、加熱硬化させる。これによりフォトレジスト型64の形状をPDMS65に転写する。PDMS65をフォトレジスト型64から分離して(5)に示すように下層板51を得る。
【0050】
下層板51の厚さは特に制限はない。幹線流入路を形成する溝の深さは10μm〜50μm程度であり、当該溝を掘ることができる厚さであればよい。
【0051】
第一の細胞培養担体における上層板53は下層板51と同様にフォトレジスト型を作成し、これを転写して作成することができる。第二の細胞培養担体における上層板53は形状に曲面を含むので、金型を作成しこれを転写して作成すればよい。
【0052】
また第一の細胞培養担体の下層板、第二の細胞培養担体の下層板は共に金型を作成しこれを転写して作成してもよい。
【0053】
以上本発明にかかる実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成例はこの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更などがあっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
3 ポンプ
6 第一の細胞培養担体
7 第一の培養凹部
8 培養凹部列
9 切断面
16 第二の細胞培養担体
17 第二の培養凹部
18 培養凹部列
19 切断面
21 個別流入路
22 幹線流入路
23 幹線流入路入口
24 溢流路
25 廃液口
51 下層板
52 中層板
53 上層板
61 台
62 薄層状のフォトレジスト
63 フォトマスク
64 フォトレジスト型
65 PDMS
H 培養凹部の高さ
Dop 円形状である培養凹部上端面の直径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7