(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753225
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 1/38 20060101AFI20150702BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
F16F1/38 S
F16F1/38 U
F16F15/08 W
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-126276(P2013-126276)
(22)【出願日】2013年6月17日
(65)【公開番号】特開2015-1271(P2015-1271A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2014年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】日比 悟
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 明雄
(72)【発明者】
【氏名】安田 恭宣
(72)【発明者】
【氏名】大西 將博
(72)【発明者】
【氏名】森 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 信也
(72)【発明者】
【氏名】宮 裕
【審査官】
莊司 英史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−219899(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0258989(US,A1)
【文献】
特開平10−238577(JP,A)
【文献】
実開平04−109236(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/38
F16F 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材の外周面に本体ゴム弾性体が固着されていると共に、該本体ゴム弾性体の外周面にアウタブラケットが取り付けられている防振装置において、
前記本体ゴム弾性体の外周面には軸方向に延びる係止溝が形成されていると共に、前記アウタブラケットが型成形された筒状のブラケット本体を備えており、該ブラケット本体には内周面に突出して軸方向に延びる係止突起が形成されて、該本体ゴム弾性体の外周面に該ブラケット本体が外挿状態で取り付けられることにより、該本体ゴム弾性体の該係止溝に該ブラケット本体の該係止突起が差し入れられて周方向に係止されている一方、
前記ブラケット本体の軸方向一方の端部には内周側に突出する当接突部が形成されて前記本体ゴム弾性体の外周端部に対して軸方向に重ね合わされていると共に、該ブラケット本体の軸方向他方の端部には環状の圧入金具が圧入固定されて、該ブラケット本体の内周面と該圧入金具の内周面とが協働して該本体ゴム弾性体の外周面に取り付けられていると共に、該圧入金具の内周側に突出する抜止突部が該本体ゴム弾性体の外周端部に対して軸方向に重ね合わされており、該本体ゴム弾性体が該当接突部と該抜止突部の軸方向対向面間に保持されていることを特徴とする防振装置。
【請求項2】
前記本体ゴム弾性体の前記係止溝に対して前記ブラケット本体の前記係止突部が嵌め入れられて周方向に押し当てられることにより、該本体ゴム弾性体の外周端部が周方向に予圧縮されている請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記本体ゴム弾性体における前記係止溝を外れた部分の外周面が、前記ブラケット本体および前記圧入金具の内周面に押し当てられることにより、該本体ゴム弾性体が軸直角方向に予圧縮されている請求項1又は2に記載の防振装置。
【請求項4】
前記本体ゴム弾性体の外周端部が前記当接突部と前記抜止突部の軸方向対向面間に挟持されることにより、該本体ゴム弾性体の外周端部が軸方向に予圧縮されている請求項1〜3の何れか1項に記載の防振装置。
【請求項5】
前記係止溝の底面に対して前記係止突起の突出先端面が離隔して対向配置されている請求項1〜4の何れか1項に記載の防振装置。
【請求項6】
前記本体ゴム弾性体には周上に複数の前記係止溝が形成されていると共に、前記ブラケット本体には各該係止溝と対応する位置にそれぞれ前記係止突起が形成されており、複数の該係止溝に対してそれぞれ該係止突起が差し入れられて周方向に係止されている請求項1〜5の何れか1項に記載の防振装置。
【請求項7】
前記本体ゴム弾性体には、前記インナ軸部材を挟んで両側に突出する一対の第一ゴム腕と、それら一対の第一ゴム腕と直交する方向で該インナ軸部材を挟んだ両側に突出する一対の第二ゴム腕とを備えており、それら第一ゴム腕と第二ゴム腕の周方向間にそれぞれ前記係止溝が形成されている請求項6に記載の防振装置。
【請求項8】
前記圧入金具の前記抜止突部が全周に亘って連続して形成されている請求項1〜7の何れか1項に記載の防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンマウントやサスペンションメンバマウント等として用いられる防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装されて、それら部材を相互に防振連結する防振連結体乃至は防振支持体の一種として、防振装置が知られている。防振装置としては、例えば、特開平11−257397号公報(特許文献1)に示されているように、インナ軸部材の外周面に本体ゴム弾性体が固着された防振装置本体が、アウタブラケットの筒部に嵌入されて、筒部が本体ゴム弾性体の外周面に非接着で嵌着された構造も採用されている。
【0003】
ところで、本体ゴム弾性体の外周面に筒部が非接着で嵌着される場合には、本体ゴム弾性体と筒部の相対変位量を制限する必要があり、特に、本体ゴム弾性体の嵌入方向である軸方向において、それら防振装置本体と筒部の相対変位量を制限して、防振装置本体の筒部からの抜けを防止することが必要となる。
【0004】
そこで、特許文献1では、筒部の軸方向両端から更に軸方向外方に突出する張り出し部を形成し、本体ゴム弾性体の外周面に筒部を取り付けた後で、張り出し部を筒部の内周側に折り曲げて、張り出し部と本体ゴム弾性体の軸方向端面との当接によって、本体ゴム弾性体の抜け出しを防止することが提案されている。
【0005】
ところが、このような特許文献1に記載の抜止め構造を備えた防振装置では、アウタブラケットの筒部に本体ゴム弾性体を収容した後で、張り出し部をプレス加工や溶接等によって筒部の軸方向端部に設ける必要があり、アウタブラケットの構造が複雑になると共に、製造に手間や労力を要するおそれがあった。また、張り出し部を備えた板材を曲げて筒部を形成する場合には、板材が薄肉すぎると、筒部の剛性が不充分になるおそれがある一方、板材が厚肉すぎると、張り出し部の曲げ加工が困難になるおそれがあった。更に、筒部に本体ゴム弾性体を収容した状態で張り出し部を曲げる必要があることから、曲げ加工が容易になるように張り出し部を周上で部分的に形成する等して剛性を低減しているが、このような構造では、入力荷重の大きさや本体ゴム弾性体の形状等によっては、本体ゴム弾性体の軸方向への抜けを、充分な耐荷重性をもって防止することが難しい場合もあった。
【0006】
なお、特開2009−293766号公報(特許文献2)には、アウタブラケットの筒状部の軸方向中央で内周側に突出する突部を形成すると共に、本体ゴム弾性体の軸方向中央の外周面に開口して周方向に延びる凹溝を形成して、該突部を該凹溝に挿入係止させることで、本体ゴム弾性体がアウタブラケットから抜けるのを防止する構造が示されている。しかしながら、このような特許文献2に示された構造は、形状が防振特性に対してあまり影響しない脚部を有する本体ゴム弾性体であれば採用可能であるが、例えば特許文献1に記載されているような本体ゴム弾性体に対して、充分な抜止め作用を得られる大きさの凹溝を形成すると、ゴムボリュームの減少による防振特性や耐久性への悪影響が問題となる。一方で、防振特性や耐久性への影響を抑えるために凹溝を小さくすると、軸方向での抜止め作用が不充分になって、大荷重の入力時に本体ゴム弾性体がアウタブラケットから抜け出すおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−257397号公報
【特許文献2】特開2009−293766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、目的とする防振特性や耐久性等を実現しつつ、アウタブラケットから本体ゴム弾性体が抜け出すのを有効に防ぐことができる、新規な構造の防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0010】
すなわち、本発明の第一の態様は、インナ軸部材の外周面に本体ゴム弾性体が固着されていると共に、該本体ゴム弾性体の外周面にアウタブラケットが取り付けられている防振装置において、前記本体ゴム弾性体の外周面には軸方向に延びる係止溝が形成されていると共に、前記アウタブラケットが型成形された筒状のブラケット本体を備えており、該ブラケット本体には内周面に突出して軸方向に延びる係止突起が形成されて、該本体ゴム弾性体の外周面に該ブラケット本体が外挿状態で取り付けられることにより、該本体ゴム弾性体の該係止溝に該ブラケット本体の該係止突起が差し入れられて周方向に係止されている一方、前記ブラケット本体の軸方向一方の端部には内周側に突出する当接突部が形成されて前記本体ゴム弾性体の外周端部に対して軸方向に重ね合わされていると共に、該ブラケット本体の軸方向他方の端部には環状の圧入金具が圧入固定されて、該ブラケット本体の内周面と該圧入金具の内周面とが協働して該本体ゴム弾性体の外周面に取り付けられていると共に、該圧入金具の内周側に突出する抜止突部が該本体ゴム弾性体の外周端部に対して軸方向に重ね合わされており、該本体ゴム弾性体が該当接突部と該抜止突部の軸方向対向面間に保持されていることを、特徴とする。
【0011】
このような第一の態様に従う構造とされた防振装置によれば、本体ゴム弾性体がアウタブラケットに取り付けられた状態において、本体ゴム弾性体の係止溝に対してブラケット本体の係止突部が差し入れられて周方向に係止されることにより、本体ゴム弾性体とアウタブラケットが周方向で相対的に位置決めされている。これにより、各軸直角方向でそれぞれ要求されるばね特性を得ることができて、目的とする防振性能が有効に発揮される。
【0012】
また、本体ゴム弾性体の外周端部が、ブラケット本体の当接突部と圧入金具の抜止突部との軸方向対向面間で保持されることにより、本体ゴム弾性体とアウタブラケットが軸方向でも相対的に位置決めされており、本体ゴム弾性体のアウタブラケットからの抜けが防止されている。
【0013】
このような本体ゴム弾性体のアウタブラケットに対する抜止めは、ブラケット本体に本体ゴム弾性体が差し入れられた状態で、ブラケット本体に対して圧入金具が圧入固定されることにより、簡単に実現される。しかも、ブラケット本体と圧入金具が別体とされており、型形成によって高剛性のブラケット本体を得ることができると共に、ブラケット本体への組付け前に圧入金具に予め抜止突部を形成しておくことにより、組付け後の曲げ加工性等を考慮することなく、充分な変形剛性を有する圧入金具を採用することができる。
【0014】
さらに、ブラケット本体の内周面と圧入金具の内周面とが協働して本体ゴム弾性体の外周面に取り付けられていることから、ブラケット本体に対する圧入金具の圧入代を充分に確保しながら、本体ゴム弾性体の外周面に対してアウタブラケットを強固に取り付けることができる。
【0015】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された防振装置において、前記本体ゴム弾性体の前記係止溝に対して前記ブラケット本体の前記係止突部が嵌め入れられて周方向に押し当てられることにより、該本体ゴム弾性体の外周端部が周方向に予圧縮されているものである。
【0016】
第二の態様によれば、本体ゴム弾性体のブラケット本体への取付けによって、本体ゴム弾性体の外周端部が周方向に予圧縮されることから、本体ゴム弾性体のばね特性が簡単に調節される。特に、本体ゴム弾性体の外周端部が予圧縮される一方で、本体ゴム弾性体の内周部分には予圧縮によるばねへの影響が実質的にないことから、例えば、軸直角方向へのばねを硬く設定しながら、周方向へのねじり入力に対しては柔らかいばねを設定すること等も可能となる。
【0017】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された防振装置において、前記本体ゴム弾性体における前記係止溝を外れた部分の外周面が、前記ブラケット本体および前記圧入金具の内周面に押し当てられることにより、該本体ゴム弾性体が軸直角方向に予圧縮されているものである。
【0018】
第三の態様によれば、本体ゴム弾性体のブラケット本体への取付けによって、本体ゴム弾性体が軸直角方向に予圧縮されることから、本体ゴム弾性体のばね特性が簡単に調節される。特に、予圧縮によるばねの変化が本体ゴム弾性体の略全体に及ぼされることから、本体ゴム弾性体全体のばね定数を容易に調節することができて、複数の異なる方向において硬いばねを設定することができる。
【0019】
本発明の第四の態様は、第一〜第三の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記本体ゴム弾性体の外周端部が前記当接突部と前記抜止突部の軸方向対向面間に挟持されることにより、該本体ゴム弾性体の外周端部が軸方向に予圧縮されているものである。
【0020】
第四の態様によれば、本体ゴム弾性体のアウタブラケットへの取付けによって、本体ゴム弾性体が軸方向に予圧縮されることから、本体ゴム弾性体のばね特性が簡単に調節される。また、本体ゴム弾性体の外周端部が予圧縮される一方で、本体ゴム弾性体の内周部分には予圧縮によるばねへの影響が実質的にないことから、第二の態様と同様に、入力方向毎に異なる要求特性に応じてばねを調節すること等も可能となる。
【0021】
本発明の第五の態様は、第一〜第四の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記係止溝の底面に対して前記係止突起の突出先端面が離隔して対向配置されているものである。
【0022】
第五の態様によれば、係止溝の底面と係止突起の突出先端面との間にスペースが形成されることで、振動入力等による本体ゴム弾性体の弾性変形時に、本体ゴム弾性体が該スペース内への膨出変形を許容される。従って、本体ゴム弾性体のばね定数が弾性変形時に著しく高くなるのを防いで、適切なばね定数を設定することができる。
【0023】
しかも、アウタブラケットに対して本体ゴム弾性体が弾性変形した状態で嵌着される場合には、アウタブラケットに対する本体ゴム弾性体の装着時の弾性変形が係止溝と係止突起の間のスペースで許容されることから、本体ゴム弾性体とアウタブラケットの組付け作業も容易になる。
【0024】
本発明の第六の態様は、第一〜第五の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記本体ゴム弾性体には周上に複数の前記係止溝が形成されていると共に、前記ブラケット本体には各該係止溝と対応する位置にそれぞれ前記係止突起が形成されており、複数の該係止溝に対してそれぞれ該係止突起が差し入れられて周方向に係止されているものである。
【0025】
第六の態様によれば、係止溝と係止突起が周上の複数箇所で周方向に係止されることによって、アウタブラケットに対する本体ゴム弾性体の相対的な回転がより効果的に制限される。これにより、本体ゴム弾性体の各軸直角方向において設定されるばね特性をそれぞれ適切な方向で発揮させて、目的とする防振性能を有効に得ることが可能となる。
【0026】
本発明の第七の態様は、第六の態様に記載された防振装置において、前記本体ゴム弾性体には、前記インナ軸部材を挟んで両側に突出する一対の第一ゴム腕と、それら一対の第一ゴム腕と直交する方向で該インナ軸部材を挟んだ両側に突出する一対の第二ゴム腕とを備えており、それら第一ゴム腕と第二ゴム腕の周方向間にそれぞれ前記係止溝が形成されているものである。
【0027】
第七の態様によれば、第一ゴム腕と第二ゴム腕の形状や寸法等をそれぞれ適宜に設定することにより、相互に直交する軸直2方向のばね特性を、それぞれ略独立して高精度に調節することができて、目的とする防振性能を有利に得ることができる。
【0028】
本発明の第八の態様は、第一〜第七の何れか1つの態様に記載された防振装置において、前記圧入金具の前記抜止突部が全周に亘って連続して形成されているものである。
【0029】
第八の態様によれば、本体ゴム弾性体と抜止突部との当接面が周上の広範囲に亘って確保されることから、本体ゴム弾性体のアウタブラケットに対する軸方向への抜けがより効果的に防止される。しかも、軸方向の荷重入力時に本体ゴム弾性体と抜止突部との当接面積が大きく確保されることで、当接時の応力がより分散化されて、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、本体ゴム弾性体の外周面に取り付けられるアウタブラケットが、ブラケット本体に圧入金具を圧入固定した構造とされており、ブラケット本体の当接突部と圧入金具の抜止突部との軸方向間で本体ゴム弾性体の外周端部が保持されることから、本体ゴム弾性体のアウタブラケットからの抜けが効果的に防止される。更に、本体ゴム弾性体の係止溝に対してブラケット本体の係止突部が差し入れられて周方向に係止されることにより、アウタブラケットに対する本体ゴム弾性体の周方向での相対回転が防止されて、各軸直角方向での防振特性をそれぞれ有利に得ることができる。
【0031】
しかも、圧入金具がブラケット本体に対して別体とされていることから、型成形されるブラケット本体に充分な強度を設定することができると共に、ブラケット本体に圧入する前の圧入金具単体に予め抜止突部を形成しておくことが可能であり、圧入金具の強度も充分に大きく設定することができる。
【0032】
さらに、ブラケット本体の内周面と圧入金具の内周面とが共同して本体ゴム弾性体の外周面に取り付けられることから、ブラケット本体に対する圧入金具の圧入代を大きく確保して強固に固定しつつ、本体ゴム弾性体の外周面に対するアウタブラケットの取付面積も充分に確保される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施形態としてのエンジンマウントを示す正面図。
【
図2】
図1に示されたエンジンマウントの縦断面図であって、
図3のII−II断面に相当する図。
【
図4】
図1に示されたエンジンマウントを構成する防振装置本体の斜視図。
【
図6】
図1に示されたエンジンマウントを構成するアウタブラケットの平面図。
【
図9】
図6に示されたアウタブラケットの分解状態を示す斜視説明図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0035】
図1〜
図3には、本発明に従う防振装置の一実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、防振装置本体12とアウタブラケット14を備えている。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、車両装着状態の鉛直上下方向である
図1中の上下方向を、左右方向とは
図1中の左右方向を、前後方向とは、エンジンマウント10の軸方向である
図1中の紙面直交方向を、それぞれ言う。
【0036】
より詳細には、防振装置本体12は、
図4,
図5に示すように、インナ軸部材16の外周面に本体ゴム弾性体18が加硫接着された構造を有している。インナ軸部材16は、鉄やアルミニウム合金等の金属或いは繊維補強された合成樹脂等で形成された高剛性の部材であって、
図2,
図3に示すように、直線的に延びる小径の筒状とされており、外周面が円筒面とされていると共に、軸方向に貫通する中央孔が略長円形断面を有している。
【0037】
本体ゴム弾性体18は、インナ軸部材16から上下両側に突出する一対の第一ゴム腕20,20と、インナ軸部材16から左右両側に突出する一対の第二ゴム腕22,22とを一体で備えており、軸方向視で略十文字形状を呈している(
図5参照)。
【0038】
第一ゴム腕20は、インナ軸部材16の外径寸法よりも大きな周方向幅寸法を有していると共に、周方向の略中央部分には略長円形断面で軸方向に貫通するすぐり孔24が貫通形成されて、ばね定数が調節されている。更に、第一ゴム腕20は、基端部の周方向両側が抉られており、基端部が先端部に比して狭幅となっている。
【0039】
第二ゴム腕22は、第一ゴム腕20,20の突出方向に対して略直交する方向に突出しており、第一ゴム腕20よりも小さな周方向幅寸法を有していると共に、本実施形態ではインナ軸部材16の外径寸法よりも更に小さい周方向幅寸法で形成されている。更に、第二ゴム腕22は、基端部の周方向両側が抉られており、基端部が先端部に比して狭幅となっている。
【0040】
さらに、第一ゴム腕20と第二ゴム腕22の周方向間には、それぞれ係止溝26が形成されている。係止溝26は、本体ゴム弾性体18の軸方向で全長に亘って延びる凹溝であって、本体ゴム弾性体18の外周面に開口していると共に、軸方向両端部が本体ゴム弾性体18の軸方向各一方の端面に開口している。更に、本実施形態では、係止溝26が外周側に向かって次第に周方向で拡開していると共に、第一ゴム腕20および第二ゴム腕22の基端部が狭幅とされることによって、係止溝26が底部付近で拡幅されている。なお、係止溝26は、インナ軸部材16までは至らない深さで形成されており、係止溝26の壁面が全体に亘って本体ゴム弾性体18で構成されている。本体ゴム弾性体18には、周上に4つの係止溝26,26,26,26が形成されており、それら4つの係止溝26,26,26,26を挟んで一対の第一ゴム腕20,20と一対の第二ゴム腕22,22が形成されている。
【0041】
一方、
図6〜
図8に示すように、アウタブラケット14は、ブラケット本体28を備えている。ブラケット本体28は、ダイカスト成形等の型成形によって形成されており、鉄やアルミニウム合金等の金属材で形成されている。また、ブラケット本体28は、厚肉大径の略円筒形状を呈する筒状部30を備えていると共に、筒状部30の下端において軸方向各一方側に突出する一対の取付片32,32を一体で有しており、取付片32に貫通形成されたボルト孔33に挿通される図示しないボルトによって、図示しない車両ボデー側に取り付けられるようになっている。
【0042】
さらに、筒状部30の軸方向一方の端部には、
図8に示すように、当接突部34が形成されている。当接突部34は、筒状部30の内周側に向かって突出しており、本実施形態では全周に亘って連続して略一定の突出高さで形成されている。
【0043】
更にまた、筒状部30の周上には、4つの係止突起36,36,36,36が形成されている。係止突起36は、
図7,
図8に示すように、筒状部30の内周側に向かって突出して、軸方向に連続して延びており、軸方向一方の端部が当接突部34に接続されていると共に、他方の端部が筒状部30の開口までは至らない中間位置まで延びている。また、係止突起36は、
図7に示すように、突出先端に向かって次第に周方向で狭幅となっていると共に、
図8に示すように、軸方向他方の端面が突出先端に向かって軸方向一方側に傾斜しており、本実施形態では、軸方向端面と周方向両端縁と突出先端面とが、それぞれ境界部分において湾曲形状をもって滑らかに連続して形成されている。更に、係止突起36は、筒状部30の周上において、後述する防振装置本体12のアウタブラケット14への取付状態において、本体ゴム弾性体18の係止溝26と対応する位置に形成されている。
【0044】
さらに、筒状部30の軸方向他方の端部には、拡径部38が形成されている。この拡径部38は、係止突起36の軸方向他方の端部よりも軸方向外側に位置しており、段差39を挟んで軸方向一方側よりも内径が大きくされている。更にまた、筒状部30の軸方向他方の開口端部は、軸方向外側に行くに従って次第に拡開するテーパ部40が形成されている。
【0045】
また、ブラケット本体28には、圧入金具42が取り付けられている。圧入金具42は、
図7,
図8に示すように、金属で形成された円環状の部材であって、略円筒形状の取付筒部44を有していると共に、取付筒部44の軸方他方の端部には、内周側に突出して周方向で全周に亘って連続する略円環板形状の抜止突部46が、一体で形成されている。
図8,
図9に示すように、ブラケット本体28の筒状部30における拡径部38に対して取付筒部44が軸方向他方側から圧入されて、圧入金具42がブラケット本体28の軸方向他方の端部に取り付けられることにより、アウタブラケット14が構成されている。本実施形態では、拡径部38の軸方向他端側の開口部にテーパ部40が形成されており、圧入金具42がテーパ部40の傾斜面に沿って案内されることで、圧入金具42の取付筒部44を拡径部38に圧入し易くなっている。
【0046】
かかるブラケット本体28の筒状部30に対する圧入金具42の取付け状態において、筒状部30における拡径部38を外れた部分の内周面48と圧入金具42における取付筒部44の内周面50とが略同一円筒面上に位置している。そして、それら筒状部30における拡径部38を軸方向一端側に外れた部分の内周面48(以下、筒状部30の内周面48と称する)と取付筒部44の内周面50とが協働して、本体ゴム弾性体18の外周面に取り付けられる取付面52が構成されている。
【0047】
なお、例えば、取付筒部44における軸方向端部の内周角部に成形後の面取り加工を施す等して角を丸めることにより、後述する圧入金具42のブラケット本体28に対する圧入に際して、取付筒部44の内周角部が本体ゴム弾性体18の外周面に接触することによる本体ゴム弾性体18の損傷を回避することができる。同様に、筒状部30における段差39の内周角部を丸めることにより、ブラケット本体28の筒状部30に対して本体ゴム弾性体18を嵌め入れる際に、筒状部30と本体ゴム弾性体18の接触による本体ゴム弾性体18の損傷を回避することができる。しかも、筒状部30における段差39の内周角部と取付筒部44の内周角部にそれぞれ湾曲面とすれば、エンジンマウント10の車両への装着状態において振動荷重が入力されて、本体ゴム弾性体18の外周面が取付面52に対して強く押し当てられても、筒状部30の内周角部および取付筒部44の内周角部への当接による本体ゴム弾性体18の損傷が防止される。
【0048】
かくの如き構造とされたアウタブラケット14は、
図2,
図3に示すように、防振装置本体12に取り付けられている。即ち、防振装置本体12がブラケット本体28の筒状部30に差し入れられると共に、ブラケット本体28に圧入金具42が圧入固定されることで、筒状部30の拡径部38と本体ゴム弾性体18との径方向間に、圧入金具42の取付筒部44が差し入れられる。これにより、筒状部30の内周面48と圧入金具42の内周面50とで構成された取付面52が、本体ゴム弾性体18における第一ゴム腕20,20および第二ゴム腕22,22の各外周面に取り付けられて、アウタブラケット14が本体ゴム弾性体18の外周面に非接着で取り付けられている。なお、本体ゴム弾性体18をブラケット本体28に差し入れた後で、圧入金具42をブラケット本体28に圧入固定しても良いが、本体ゴム弾性体18に対して圧入金具42の取付筒部44を外挿した状態で、本体ゴム弾性体18のブラケット本体28への差入れと圧入金具42のブラケット本体28への圧入とを同時に行うこともできる。
【0049】
このように、ブラケット本体28と圧入金具42が別部材とされていることによって、それらブラケット本体28と圧入金具42の形状や材質等を、要求される強度や加工容易性等に応じて、それぞれ適宜に設定することが可能となる。従って、型成形されるブラケット本体28を充分に厚肉の部材とすることで、優れた耐荷重性を得ることができると共に、圧入金具42を予め抜止突部46を備えた部材として形成することで、充分な変形剛性を有する抜止突部46を備えた圧入金具42を採用することができる。しかも、圧入金具42の取付筒部44は、ブラケット本体28の筒状部30に圧入固定されることで、高剛性の筒状部30で補強されることから、軸直角方向に大きな振動が入力されても変形が防止される。
【0050】
加えて、本体ゴム弾性体18の外周面に取り付けられる取付面52が、ブラケット本体28における筒状部30の内周面48だけでなく、圧入金具42における取付筒部44の内周面50も協働して形成されている。それ故、筒状部30に対する取付筒部44の圧入代(圧入部分の軸方向長さ)を充分に確保して、ブラケット本体28に対する圧入金具42の強固な固定を実現しつつ、アウタブラケット14における本体ゴム弾性体18への取付面積を大きく確保することができる。
【0051】
また、本体ゴム弾性体18の外周端部(第一ゴム腕20,20および第二ゴム腕22,22の各外周端部)は、軸方向両端面がブラケット本体28の当接突部34と圧入金具42の抜止突部46との各一方に当接状態で重ね合わされており、それら当接突部34と抜止突部46の軸方向間に保持されている。これにより、ブラケット本体28に対する防振装置本体12の軸方向への抜けが、当接突部34および圧入金具42の抜止突部46に対する本体ゴム弾性体18の軸方向への係止によって、防止されている。特に本実施形態では、抜止突部46が全周に亘って連続して形成されており、本体ゴム弾性体18の軸方向端面に対する抜止突部46の当接面積が大きく確保されている。その結果、アウタブラケット14に対する本体ゴム弾性体18の軸方向への抜けがより効果的に防止されると共に、抜止突部46に本体ゴム弾性体18が押し付けられる際の応力が分散することによって、本体ゴム弾性体18の耐久性の向上も図られる。
【0052】
さらに、本体ゴム弾性体18の外周端部は、ブラケット本体28の当接突部34と圧入金具42の抜止突部46との軸方向対向面間で挟持されることによって、軸方向で予圧縮されている。それ故、本体ゴム弾性体18がアウタブラケット14に装着されることで、本体ゴム弾性体18のばね定数が簡単に調節される。
【0053】
また、本体ゴム弾性体18の4つの係止溝26,26,26,26には、それぞれブラケット本体28の係止突起36が差し入れられて、周方向に係止されている。即ち、本体ゴム弾性体18がブラケット本体28の筒状部30に対して軸方向で差し入れられる際に、係止溝26に対して係止突起36が周方向で位置決めされており、係止溝26に対して係止突起36が軸方向に差し入れられる。これにより、本体ゴム弾性体18がブラケット本体28に対する本体ゴム弾性体18の相対回転が制限されており、各軸直角方向においてそれぞれ適切なばねが設定されて、目的とする防振効果を有効に得ることができる。
【0054】
さらに、本実施形態では、係止突起36の周方向幅寸法が係止溝26の開口部分の周方向幅寸法よりも大きくされて、係止溝26に対して係止突起36が嵌め入れられるようになっている。そして、係止溝26に対して係止突起36が周方向に押し当てられることによって、本体ゴム弾性体18の外周端部が係止突起36,36の周方向間で周方向に予圧縮されている。それ故、本体ゴム弾性体18をアウタブラケット14に装着することで、本体ゴム弾性体18のばねが簡単に調節される。なお、本実施形態では、本体ゴム弾性体18の外周端部が周方向幅寸法の異なる第一ゴム腕20と第二ゴム腕22とによって構成されており、それら第一ゴム腕20と第二ゴム腕22の両方が外周端部において周方向で予圧縮されている。
【0055】
また、本体ゴム弾性体18の外周面は、係止溝26を外れた部分において、アウタブラケット14の取付面52に対して径方向に押し付けられており、本体ゴム弾性体18の外周面にアウタブラケット14が取り付けられることで、本体ゴム弾性体18が径方向に予圧縮されている。以上から明らかなように、本体ゴム弾性体18は、アウタブラケット14に対する嵌着によって、軸方向と軸直角方向と周方向でそれぞれ予圧縮されており、特別な予圧縮工程を要することなく、ばね特性が簡単に調節されるようになっている。
【0056】
さらに、
図2に示すように、係止溝26の底面に対して係止突起36の突出先端面が径方向外側に離隔して対向配置されており、それら係止溝26の底面と係止突起36の突出先端面との対向面間にスペース54が形成されている。これにより、アウタブラケット14への装着時の予圧縮や振動入力等による本体ゴム弾性体18の弾性変形が、スペース54内への膨出によって充分に許容されて、著しい高動ばね化が回避される。
【0057】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、圧入金具がプレス品で形成されているが、圧入金具を型成形品として、より優れた強度を得ることもできる。このような型成形された圧入金具を採用する場合には、取付筒部の内周面に突出する突部を周上で係止突起36と対応する位置に形成して、該突部が本体ゴム弾性体18の係止溝26に差し入れられて周方向に係止されるようにしても良い。
【0058】
また、本体ゴム弾性体は、前記実施形態のように一対の第一ゴム腕20,20と一対の第二ゴム腕22,22とを備える構造に限定されるものではなく、それに伴って係止溝26の数も限定されるものではない。更に、ブラケット本体28の筒状部30に形成される係止突起36の数は、係止溝26の数に合わせて適宜に変更され得る。
【0059】
なお、本体ゴム弾性体の係止溝26やブラケット本体28の係止突起36が複数形成される場合には、係止溝26及び/又は係止突起36の大きさや形状を異ならせることにより、防振装置における複数の軸直角方向で互いにばね特性を異ならせて設定することも可能である。なお、複数の係止溝26が形成されている場合に、それら全ての係止溝26に対して係止突起36を差し入れて配置する必要もない。
【0060】
さらに、本体ゴム弾性体18の係止溝26は、ブラケット本体28の係止突起36と対応する部分に形成されていれば良く、必ずしも軸方向の全長に亘って延びている必要はない。
【0061】
また、本体ゴム弾性体18をアウタブラケット14に装着する際に、本体ゴム弾性体18に対して予圧縮が施されることは必須ではなく、予圧縮される方向も必ずしも実施形態に記載されたものに限定解釈されない。
【0062】
更にまた、係止突起36の突出先端面と係止溝26の底面は、相互に当接していても良く、スペース54は必須ではない。
【0063】
さらに、ブラケット本体28の段差39と圧入金具42の取付筒部44の軸方向端面との間には、本体ゴム弾性体18の噛み込みを防止するために隙間を設定しても良い。また、ブラケット本体28の内周面48において、段差39に向かって拡径する軸方向のテーパ面領域を設けることにより、本体ゴム弾性体18のブラケット本体28への嵌め入れ時における段差39の引っ掛かり等の不具合を防止することも可能である。更にまた、圧入金具42の外周面において、圧入側の軸方向先端面に向かって縮径する軸方向のテーパ面領域を設けることにより、ブラケット本体28への圧入作業を容易とすることも可能である。
【0064】
本発明の適用範囲は、エンジンマウントに限定されるものではなく、例えば、サスペンションメンバマウントやボデーマウント、デフマウント等にも適用され得る。更に、本発明は、自動車に用いられる防振装置のみを対象とするものではなく、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両等に用いられる防振装置にも好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0065】
10:エンジンマウント、14:アウタブラケット、16:インナ軸部材、18:本体ゴム弾性体、20:第一ゴム腕、22:第二ゴム腕、26:係止溝、28:ブラケット本体、34:当接突部、36:係止突起、42:圧入金具、46:抜止突部