特許第5753257号(P5753257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5753257低アルコールまたはアルコールフリー発酵モルトベースの飲料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753257
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】低アルコールまたはアルコールフリー発酵モルトベースの飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 7/00 20060101AFI20150702BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20150702BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   C12C7/00
   C12C9/00
   A23L2/00 B
   A23L2/38 C
【請求項の数】15
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-509485(P2013-509485)
(86)(22)【出願日】2011年4月8日
(65)【公表番号】特表2013-524857(P2013-524857A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】EP2011055572
(87)【国際公開番号】WO2011138128
(87)【国際公開日】20111110
【審査請求日】2013年10月31日
(31)【優先権主張番号】10162315.5
(32)【優先日】2010年5月7日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506385140
【氏名又は名称】アンハイザー−ブッシュ・インベヴ・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】Anheuser−Busch InBev S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】バルト・ファンデルハーゲン
【審査官】 名和 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 英国特許出願公開第02181450(GB,A)
【文献】 特開平03−187372(JP,A)
【文献】 米国特許第05242694(US,A)
【文献】 特開昭62−051975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 1/00−13/10
C12G 1/00−3/14
A23L 2/00−2/84
Thomson Innovation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
関係式:y≧Ax
(式中、A=0.25およびb=1.5、xは現実抽出物について非発酵物の比であり、非発酵抽出物は現実抽出物−甘み糖質の総含量、の値であり、甘み糖質はフルクトース、マルトース、グルコース、マルトトリオースおよびサッカロースからなる。yはフルクトース、マルトース、グルコース、サッカロース、マルトトリオ−ス、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースおよびマルトヘプタオースからなる主糖質の総量につき、マルトペンタオース、マルトヘキサオースおよびマルトヘプタオースの組合せ含有量の比である。)
を特徴とするアルコール含有量0.7容積%以下を有するアルコールフリーまたは低アルコール発酵モルトベース飲料。
【請求項2】
式中、b=1および/またはA=0.3、である、請求項1記載の発酵モルトベース飲料。
【請求項3】
現実抽出物について非発酵物の比xが少なくとも25%を有し、糖質比yが少なくとも25%を有する、請求項1または2記載の発酵モルトベース飲料。
【請求項4】
アルコール含有量が0.5容積%以下である請求項1〜3いずれかに記載の発酵モルトベース飲料。
【請求項5】
非発酵抽出物が少なくとも4.0g/100mlである請求項1〜4いずれかに記載の発酵モルトベース飲料。
【請求項6】
現実抽出物が少なくとも5.0g/100mlである請求項1〜5いずれかに記載の発酵モルトベース飲料。
【請求項7】
甘み糖質の総含有量が3g/100ml以下である請求項1〜6いずれかに記載の発酵モルトベース飲料。
【請求項8】
飲料がビールである請求項1〜7いずれかに記載の発酵モルトベース飲料。
【請求項9】
(a)穀物グリットをマッシングしてβ−アミラーゼを不活性化し、グリット中ででんぷんとα−アミラーゼを反応させ、発酵性29%以下の麦汁を製造する工程;および
(b)得られた麦汁を冷接触法で発酵してアルコール含有量0.7容積%以下を有するモルトベース飲料を得る工程、
を包含するアルコールフリーまたは低アルコール発酵モルトベース飲料を製造する方法。
【請求項10】
穀物グリットがモルトを含む請求項9記載の方法。
【請求項11】
β−アミラーゼがグリットマッシュの温度を75℃以上にして不活性化し、そこで熱安定性α−アミラーゼを添加する請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
グリットが30〜10重量%モルトおよび70〜0重量%コーングリットを含有し、マッシングが、
(a)コーングリットマッシュに適当な量の熱安定性α−アミラーゼを添加し、コーンマッシュを85〜100℃に加熱する工程;
(b)モルト中で70〜100℃でマッシングし、それをコーンマッシュと組合せて、得られたマッシュを75℃以上の温度に加熱し、それに熱安定性α−アミラーゼを添加する工程;
(c)温度を90〜98℃に上げてマッシュを麦汁濾過に移す工程
を包含する、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
麦汁を加熱し、6〜20°Pの重量を有する請求項9〜12いずれかに記載の方法。
【請求項14】
麦汁が冷接触発酵段階で、2〜8℃に冷却し、次いで2〜0℃に冷却する請求項9〜13いずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜8いずれかに記載のビールを製造する請求項9〜14いずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低アルコールまたはアルコールフリー発酵モルトベースの飲料、例えば通常のラガービールに非常に近いフレーバープロフィールを有するビールに関する。本発明はまたそのようなモルトベースの飲料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低アルコールまたはアルコールフリーのビールは異なる国の国内法令に基づいて異なる定義を有する。本明細書中では、“低アルコールビール”はアルコール含有量が0.7容積%以下を有するビールをいい、「アルコールフリービール」とはアルコール含有量0.1容積%以下のビールと定義する。本発明は、両方のタイプのビールに関し、両方を同時に「NAビール」と呼び、アルコール含有量が0.05容積%以下のビールも含める。通常のラガービールに非常に近いフレーバープロフィールを有するNAビールを製造する試みは過去にはあまり成功していない。本発明はまた、アルコール含有量0.7容積%以下、好ましくは0.05容積%以下、更に好ましくは0.05容積%以下を有する発酵モルトベース飲料にも関する。
【0003】
NAビールまたは発酵モルトベース飲料を製造する一つの方法は、麦汁の通常の発酵を行い、蒸留、蒸発、透析または逆浸透法でアルコールを除去するものである。これらの方法は、高い投資またはエネルギーコストを必要とし、製造効率も悪い。
【0004】
また、米国特許6689401や55346706に記載されているいわゆる冷接触発酵(cold contact fermentation)は、酵母と接触する糖質の発酵率を減らすが、酵母によって提供される副生成物はアルコール性のラガービールのように存在していて、それが特別なアロマを付与する。しかし、冷接触発酵により製造されたNAビールは非発酵の甘い糖質がかなりの量で残存し、かなり甘みを感じる。
【0005】
いくつかの場合、ビールのアルコール含有量は水で希釈して減らすことが必要であるが、多くの水を添加して目的のアルコール含有量にすることが必要ならば明らかに味に悪影響を与える(US4970082参照).
【0006】
モルトの発芽中に形成される多くの酵素、特にα−アミロースおよびβ−アミロースが、マッシュ(mash)中のでんぷんから発酵性および非発酵性糖質の製造に作用していることが知られている。でんぷんは多くのグルコースユニットがグリコシド結合(=ポリサッカライド)によって結合されたものからなる巨大で複雑な炭化水素分子である。β−アミロースは末端分子からこれらのユニットを分解してより低級な糖質、例えばマルトースを製造し、マルトースは酵母で容易に発酵し、アルコールを多く製造する。
【0007】
一方、α−アミロースは、でんぷんを内部から分解し、グルコースの結合を分解するので、より高級な糖質およびデキストリン、例えばマルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースおよびマルトヘプタオースを製造し、それらは酵母による発酵性が少なく、アルコールを多く製造しない。
【0008】
GB2181450には、モルト中のβ−アミロースを不活性化して、α−アミロースをモルト中のでんぷんと反応させて、非発酵性糖質の多いモルトを製造する低発酵性モルトの製造方法が記載されている。β−アミロースは85℃までの温度で熱的に不活性化して、熱に安定なα−アミロースをマッシュ中に加えて、通常の典型的なマッシュでは発酵性70%であるものを30〜50%に減らした麦汁を得る。パーセントで表される「発酵性」は、酵母と反応してアルコールを製造する麦汁の重量比である。対比のバッチのアルコール含有量が3.3体積%であるのに対して、アルコール含有量1.55体積%を有する低残存糖質を有するビールは、そのような低発酵性麦汁から得られた。銅製容器中にラクトースを加えると、アルコール含有量が更に1.2体積%に減少する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許6689401
【特許文献2】米国特許55346706
【特許文献3】米国特許4970082
【特許文献4】GB2181450
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記から見ると、通常のラガービールにフレーバープロフィールが近いNAビールの必要性はまだ残っているし、また製造コストの低い製法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は請求項に記載された独立請求項で規定される。好ましい態様は従属項で規定される。
【0012】
特に、本発明は、関係式:y≧Ax (式中、A=0.25、好ましくは0.3、より好ましくは0.35およびb=1.5、好ましくは1.0、xは現実抽出物について非発酵物の比であり、非発酵抽出物は現実抽出物−甘み糖質の総含量の値であり、非発酵性抽出物はフルクトース、マルトース、グルコース、マルトトリオ−スおよびサッカロースからなる。yはフルクトース、マルトース、グルコース、サッカロース、マルトトリオ−ス、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースおよびマルトヘプタオースからなる主糖質の総量につき、マルトペンタオース、マルトヘキサオースおよびマルトヘプタオースの組合せ含有量の比である。)
を特徴とするアルコールフリーまたは低アルコール発酵モルトに基づく飲み物、例えばアルコール含有量0.7容積%以下を有するビールに関する。
【0013】
好ましい態様では、本発明によるモルトベース飲料のアルコール含有量は0.5容積%以下、好ましくは0.3容積%以下、より好ましくは0.1容積%以下、最も好ましくは0.05%容積%以下である。
【0014】
絶対値に関して、非発酵抽出物は、少なくとも4.0g/100ml、好ましくは少なくとも5.5g/100ml、より好ましくは6.0g/100ml、最も好ましくは少なくとも6.5g/100mlであり、および現実抽出物は少なくとも5.0g/100ml、好ましくは少なくとも6.0g/100ml、より好ましくは7g/100mlである。本発明によるモルトベース飲料は甘み糖質の総含有量3g/100ml以上、好ましくは2g/100ml以上、より好ましくは1.5g/100ml以上を有さない。
【0015】
本発明はまた、以下の工程:
(a)穀物グリットをマッシングしてβ−アミラーゼを不活性化し、グリット中ででんぷんとα−アミラーゼを反応させ、発酵性29%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下の麦汁を製造する工程;および
(b)得られた麦汁を冷接触法で発酵してアルコール含有量0.7容積%以下、好ましくは0.5容積%以下、より好ましくは0.3容積%以下、最も好ましくは0.03容積%以下を有するモルトベース飲料を得る工程、
を包含するモルトベース飲料、例えばNAビールを製造する方法に関する。
【0016】
穀物グリットは、モルト、好ましくはコーングリットおよび/または米グリットと加えたモルトを含むべきである。特に、グリットはモルト30〜100重量%およびコーングリット70〜0重量%を含んでもよい。β−アミラーゼは、好ましくはグリットマッシュを75℃以上の温度、好ましくは85℃以上の温度にすることにより不活性化され、その際に熱安定性α−アミラーゼを添加する。例えば、マッシングは以下の工程:
(a)必要であれば、コーングリットマッシュに適当な量の熱安定性α−アミラーゼを添加し、コーンマッシュを85〜100℃に加熱する工程;
(b)モルト中で70〜100℃、好ましくは78〜85℃でマッシングし、必要であればそれをコーンマッシュと組合せて、得られたマッシュを75℃以上の温度、好ましくは85℃以上の温度に加熱し、それに熱安定性α−アミラーゼを添加する工程;
(c)温度を90〜98℃に上げてマッシュを麦汁濾過に移す工程
を包含しても良い。
【0017】
次いで、麦汁を加熱し、6〜20°P、好ましくは8〜12°P、より好ましくは9〜11°Pからなる重力を有する。その後麦汁は2〜8°C、好ましくは2〜5°Cに冷却し、更に冷接触醸造段階で2〜0°Cに冷却する。本発明の方法は、上記のようにモルトベース飲料を製造するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明を理解するために、添付図面を参照して更に詳細に説明する。:
図1】発酵モルトベース飲料を製造するメイン工程の概略図。
図2】本発明によるシリアルクッカーおよびマッシュタンにおける温度−時間プロフィールを示す図。
図3】従来のNAビールに比べて本発明の多くのビールについてのx対yの比、および本発明の特徴である、関数y=Axを示す図。
【符号の説明】
【0019】
1…マッシュタン
2…シリアルクッカー
3…銅製容器
4…発酵タンク
5…コンディショニングタンク
6…ケッグ
21…モルト
22…穀物グリット
23…液状麦汁
25…酵母
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の発酵モルトベース飲料はアルコール含有量0.7容積%以下を有し、かつアルコール含有量0.1容積%以下または0.05容積%を有し、通常のラガービールに非常に近いフレーバープロフィールを有する。ビールのフレーバープロフィールは、非常に難しい問題で、通常専門家がいくつかのパラメーター、例えば甘さ、フルーティーさ、苦み、苦み後、カラメルノート(caramel note)、麦汁ノート(worty note)などでパネルテストをすることにより評価される。いくつかのフレーバー特性は、特定の成分に関連していて、例えば苦みはホップの存在と関連しているが、全体のフレーバープロフィールはそれを制御する多くのパラメーター、使用する成分の種類および含有量、時間−温度プロフィール、pHなどが存在するので、完全な理解は困難である。それらのパラメーターの一つを変えてもビールのフレーバープロフィールに影響を与える。
【0021】
典型的な醸造方法は図1に模式的に示した主工程を含む。モルト(21)はマッシュタン(1)中でマッシュされ、澱粉を糖質に変性する。その中にあらかじめシリアルクッカー(2)中で調理した穀物グリット(22)を添加しても良い。マッシュが終わって、混合物を麦汁濾過に移し、そこで固体相を液状麦汁から分離し(23)、液層を銅製容器(3)(しばしばケトルとも呼ばれる。)に入れる。麦汁を加熱し、ホップを加えて、ビールに独特の苦い味を付与する。この段階で、多くの反応、例えばメイラード反応がおこり、各ビールに種々のフレーバーやアロマを生み出す。加熱の終わりには、ホップを入れた麦汁が澄み、冷却して発酵タンク(4)に移し、そこで発酵性糖質を、酵母(25)の存在下に、アルコールとCOに変換する。発酵が終わると、液体はコンディショニングタンク(5)中で数日から数週間コンディションして、ビールが完成し、瓶詰めしたりケッグ(6)に詰めたりする。
【0022】
本発明のモルトベース飲料は上記方法で製造されうるが、更に以下の工程:
(a)発酵性が29%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下の麦汁(23)を調製する工程;および
(b)そのように調製した麦汁を発酵タンク(4)中で冷接触法により発酵する工程;
を有することを特徴とする。
【0023】
そのような低発酵性麦汁(23)は、マッシュタン(1)中で穀物グリットのβ−アミラーゼを不活性化し、グリット中のでんぷんとα−アミラーゼを反応させて調製される。β−アミラーゼは、75℃以上の温度、好ましくは85℃以上の温度でマッシュを加熱することにより最もよく不活性化される。モルトによって形成されるα−アミラーゼの実質的部分も75℃以上の温度で不活性化されうるので、熱安定化α−アミラーゼ、例えばNovo酵素のサーマミルをマッシュに加える必要がある。マッシュは、そのような熱的条件下に、29%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下の発酵性の麦汁が得られるまで、維持され、その結果貧発酵性デキストリン、典型的にはマルトペンタオース、マルトヘキサオースおよびマルトヘプタオースが豊富で、高発酵性糖質(即ち、グルコース、フルクトース、マルトース、サッカロースおよびマルトトリオ−ス)をあまり含まない麦汁が得られる。これらの麦汁は、GB2181450に記載の30%発酵性の麦汁よりデキストリンが多く、甘味糖質が少ない。発酵法後のアルコール含有量の少ないビールの形成だけでなく、デキストリン含有量が多いことは、銅製容器(3)中での加熱工程中のメイラード反応が少なくなると信じられている。メイラード反応とは、「アミノ酸と還元糖との化学反応で、通常熱を必要とし、糖中の反応性カルボニル基がアミノ酸の求核性アミノ基と反応して、一定範囲の臭気とフレーバーを与える特定できない多くの分子の複雑な混合物を形成する。この方法により、非常の多くの異なるフレーバー化合物が製造される。これらの化合物は分解してより新しいフレーバー化合物を形成するなどが起こる。各食品にはメイラード反応で形成される特徴的なフレーバー化合物がある。」(cf. http://en.wikipedia.org/wiki/Maillard_reaction)
【0024】
ビールの醸造方法におけるメイラード反応の減少はそれ自体目的ではないが、NAビールの場合それが通常のラガービールに近いフレーバープロフィールを生み出すことが観察された。特定の理論に限定されるわけではないけれど、マッシュ中の甘み糖質に関してデキストリンの多い部分が銅製容器(3)中での麦汁の加熱時にメイラード反応のために反応性カルボニル基の数を減らすと信じられている。
【0025】
好ましくは穀物グリットは、モルト(21)、例えばモルト化大麦を含み、それは好ましくはコーングリットおよび/または米グリットを加える。例えば、グリットは30〜100重量%モルトおよび70〜0重量%コーングリットおよび/または米グリットを含んで良い。マッシュ中の水/グリスト(穀物)比は3〜6、好ましくは4〜5、より好ましくは4〜4.5であり、pHは5〜7、好ましくは5.2〜6、より好ましくは5.4〜5.6を維持する。
【0026】
図2はマッシュ中の温度−時間プロフィールの例である。その中に記載した例では、モルト(21)を穀物グリット(22)、例えばコーングリットと混合し、それをまずシリアルクッカー(2)中で温度85〜100℃で調理する。温度安定性α−アミラーゼは調理コーングリットに添加しても良い。モルト(21)、即ち大麦モルトをマッシュタン中で更に熱安定性α−アミラーゼと共にマッシュされる。コーングリットを、モルトを含むマッシュタンに加えて、本土を85℃以上に上げる。熱安定性α−アミラーゼの必要量をマッシュ中のいつでも添加して良い。マッシュが終わり、温度を90〜98℃に再び上げて、麦汁濾過に移行して発酵性25%以下、好ましくは20%以下の麦汁を回収する。
【0027】
ホップの存在下に銅製容器中で麦汁を加熱後、加熱麦汁は好ましくは6〜20°P、好ましくは8〜12°P、より好ましくは9〜11°Pの重力を掛ける。次いで、麦十を2〜8℃、好ましくは2から5℃に冷却し、発酵タンク(4)に移動し、そこで麦汁を0〜2℃で12〜72間冷接触法により発酵する。すぐに、ビールおよびモルトベース飲料をCOと共に流し、その後コンディショニングタンクに送ってアルコール含有量0.7容積%以下、特に0.05容積%以下のNAビールまたはモルトベース飲料を得る。そのような希釈は排除されずに、ビールのアルコール含有量を微細に調整するだけであり、低アルコール含有量にする意味を持つものでない。要すれば、甘み糖質や他の添加剤を発酵モルトベース飲料に加えて、フレーバープロフィールを変えて、ビールのフレーバーを実質的にマスクして甘い飲み物を得ることもできる。
【0028】
そのような方法によって得られたビールで、すべてがアルコール含有量0.45容積%以下のものを、熟練者のパネルでテストし、その結果それらのフレーバープロフィールはベルギーの一般的な2種のビール、STELLA ARTOISおよびJUPILER BLUEのフレーバープロフィールに特に近かった。表1は、本発明のビールのいくつか(EX1〜EX13)と市販のNAビール(CEX1〜CEX16)との比較したアルコール含有量、抽出物含有量および糖質含有量を記載している。比較例のNAビールの多くは競争社のものであるので、製造方法はわかっていない。しかしながら、CEX3のNAビールは冷接触法で発酵を制限して得られたことは知られているが、CEX14〜16のNAビールは蒸発で得られたものである。
【0029】
表1から明らかであるが、本発明によるNAビールの甘い糖質(=フルクトース、グルコース、マルトース、サッカロースおよびマルトトリオ−ス)含有量は冷接触発酵法で得られたCEX3よりかなり低い。このことは、これらのビールでは、麦汁が発酵性甘味糖質を高含有量で含んでいるので、それらは冷接触法では発酵されずに、ビール中に残り、強い甘みを与えるものである。甘み糖質の含有量が高いので、CEX4〜9のNAビールはまた冷接触法で発酵されたものであると、確実ではないが、予測することができる。一方、CEX14〜16のNAビールは甘み糖質含有量が低いが、それは麦汁中に存在する甘味糖質は発酵されてアルコールが形成されたが、それは蒸発で除去されたと推測することができる。甘味糖質の低含有量に基づいて、CEX10および11のNAビールは、発酵後のアルコールをいずれかの方法、例えば蒸発、蒸留などにより取り除くことにより得られたと予測できる。
【0030】
【表1】

【0031】
市販の全てのNAビールは、非発酵性抽出物が5.0g/100ml以下を有し、本発明のNAビールと比べて低い。非発酵性抽出物は、現実抽出物の値から甘味糖質(フルクトース、マルトース、グルコース、マルトトリオ−スおよびサッカロースからなるもの)の総含有量を減じたものとして定義される。別の見方として、本発明のNAビールと比べて、市販のNAビールでは、高分子量のデキストリン、即ちマルトペンタオース、マルトヘキサオースおよびマルトペンタオースの含有量が低い。尚、本願明細書中では、マルトペンタオース、マルトヘキサオースおよびマルトペンタオースの組合せを「マルト−ペンタ/ヘキサ/ヘプタ−オース」と呼ぶ。図3は現実抽出物に対する非発酵物の比(ここでは「x」と呼ぶ。)と、糖質の総含有量に対するマルト−ペンタ/ヘキサ/ヘプタ−オースの含有量の比(ここでは「y」と呼ぶ。)のプロットである。全ての糖質は、フルクトース、グルコース、マルトース、サッカロース、マルトトリオ−ス、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースおよびマルトペンタオースからなる。0と1で規定された相対値は、異なる原料の異なる方法で得られたNAビールの間の変化する度数の希釈が可能であり、従ってNAビール用のマスターカーブを規定する。実際、市販の全てのNAビール(○)は、その原料にかかわらず、y=Ax型のマスターカーブに明らかに従うことが観察される(図3薄い鎖線)が、本発明のNAビール(●)は明らかにこの傾向から離れている。
【0032】
従って、本発明の発酵モルトベース飲料は、図3の濃い実線で表される、y≧Ax (式中、A=0.25およびb=1.5)において市販のビールと異なる。好ましい態様では、b=1で図3で薄いダッシュ線を有する線形関係を得る。Aは0.25〜0.45の値、例えば0.3、0.35を取り、乗数bは1〜1.5の値、例えば1.25または1.35を取っても良い。
【0033】
好ましい態様では、本発明の発酵モルトベース飲料は以下の特徴を有する:
・実際の抽出物に対する非発酵物の比x、少なくとも25%、及び/又は
・糖質比、少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも35%。
【0034】
上述のように、25%以下の発酵性の麦汁と冷接触発酵方との組合せで調製することは、発酵モルトベース飲料、特にNAビールがラガービールに非常に近く、アルコール含有量0.7容積%以下、例えば0.5容積%以下、好ましくは0.3容積%以下、より好ましくは0.1容積%以下、特に0.05容積%以下を有することを可能にする。本発明による通常のラガービールに非常に近いNAビールのフレーバープロフィールは、特に実抽出物形成ボディが高く、非発酵抽出物も多く、特に非発酵マルト−ペンタ/ヘキサ/ヘプタ−オースの高い抽出量、結果として低量の甘み糖質であるからである。特員、本発明によるモルトベース飲料は、実際の抽出物少なくとも0.5g/100ml、好ましくは少なくとも6.0g/100ml、より好ましくは少なくとも0.7g/100mlであり、非発酵抽出物少なくとも4.0g/100ml、好ましくは少なくとも4.0g/100ml、好ましくは少なくとも5.5g/100ml、より好ましくは6.0g/100ml、最も好ましくは少なくとも6.5g/100mlを有しても良い。これは、結果的に甘み糖質総含有量3g/100mlを超えない、好ましくは2g/100ml以下、より好ましくは1.5g/100ml以下になる。
図1
図2
図3