(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753265
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】ジクロロフルベンの調製方法
(51)【国際特許分類】
C07C 17/25 20060101AFI20150702BHJP
C07C 22/02 20060101ALI20150702BHJP
C07C 23/08 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
C07C17/25CSP
C07C22/02
C07C23/08
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-525271(P2013-525271)
(86)(22)【出願日】2011年8月22日
(65)【公表番号】特表2013-538203(P2013-538203A)
(43)【公表日】2013年10月10日
(86)【国際出願番号】EP2011064381
(87)【国際公開番号】WO2012025489
(87)【国際公開日】20120301
【審査請求日】2013年3月21日
(31)【優先権主張番号】10173992.8
(32)【優先日】2010年8月25日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500584309
【氏名又は名称】シンジェンタ パーティシペーションズ アクチェンゲゼルシャフト
(73)【特許権者】
【識別番号】500371307
【氏名又は名称】シンジェンタ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100166028
【弁理士】
【氏名又は名称】北谷 賢次
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ ロバート ホッジス
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク ファーバー
(72)【発明者】
【氏名】アラン ジェイムズ ロビンソン
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー チャールズ ショー
【審査官】
井上 典之
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/049228(WO,A1)
【文献】
特公昭51−007644(JP,B1)
【文献】
特開2006−193437(JP,A)
【文献】
特開昭54−130530(JP,A)
【文献】
再公表特許第2010/150835(JP,A1)
【文献】
特表2013−527841(JP,A)
【文献】
米国特許第02721160(US,A)
【文献】
特表2009−516646(JP,A)
【文献】
KREBS,J.,ET AL.,"6-Halofulvenes from Li-carbenoids and Cyclopentenone",CHIMIA,1981年,VOL.35,NO.2,PP.55-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/
C07C 22/
C07C 23/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】
の化合物の調製のための方法であって、式II
【化2】
(式中、Xは、クロロまたはブロモである)
の化合物を、少なくとも200℃の温度で熱分解させる工程を含む、方法。
【請求項2】
前記式IIの化合物が、200〜1000℃の温度の反応器中で熱分解される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記式IIの化合物が、気体形態で前記反応器に運ばれる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記式IIの化合物が、連続キャリアガスフロー下で前記反応器に運ばれる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記キャリアガスが、窒素、気体塩化水素および気体キシレンから選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記熱分解反応後に、生成物が、前記反応器の出口から、不活性溶媒を含有するトラップ中に移される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記反応器および前記式IIの化合物を含有する容器は、減圧下に維持される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
Xが、クロロである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
式IIIe
【化3】
(式中、Xは、クロロまたはブロモである)
の化合物。
【請求項10】
式IIIf
【化4】
(式中、Xは、クロロまたはブロモである)
の化合物。
【請求項11】
式I
【化5】
の化合物の調製のための方法であって、請求項9に記載の式IIIeの化合物を熱分解させる工程を含む、方法。
【請求項12】
式I
【化6】
の化合物の調製のための方法であって、請求項10に記載の式IIIfの化合物を熱分解させる工程を含む、方法。
【請求項13】
式I
【化7】
の化合物の調製のための方法であって、式IIIg
【化8】
の化合物を熱分解させる工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換シクロペンタジエンからのジクロロフルベンの調製のための方法、およびジクロロフルベンの製造のための中間体として使用され得る化合物、および前記中間体の調製に関する。
【背景技術】
【0002】
ジクロロフルベンは、例えば国際公開第2007/048556号パンフレットに記載されているように、殺真菌活性カルボキサミドの調製のための重要な中間体である。
【0003】
国際公開第2010/049228号パンフレットによれば、ジクロロフルベンは、式II
【化1】
(式中、Xは、クロロまたはブロモである)の化合物を、適切な溶媒中でアルカリ金属アルコラート(例えば、ナトリウムtert−ブトキシドまたはカリウムtert−ブトキシド)または金属アミド(NaNH
2またはリチウムジイソプロピルアミドなど)などの塩基と反応させて式I
【化2】
のジクロロフルベンとすることによって調製され得る。
【0004】
しかしながら、この先行技術の方法は、いくつかの欠点を有する。2当量を超える高価な塩基の使用が必須であることにより、この方法が不経済となる。また、有機溶媒、さらには、良好な収率のための触媒および(特にアルカリ金属アルコラート塩基のための)可溶化剤の使用により、環境問題を回避するために、反応後に前記化学物質を完全に分離することが必要となる。流出液からの溶媒の単離およびそれの水を含まない再循環(water free recycling)は厄介であり、かつ技術的に困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、公知の方法の欠点を回避し、経済的かつ環境的に有利なやり方で優れた品質のジクロロフルベンを高い収率で調製することを可能にする、ジクロロフルベンの製造のための新規方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本発明によれば、式I
【化3】
の化合物の調製のための方法であって、式II
【化4】
(式中、Xは、クロロまたはブロモ、好ましくはクロロである)
の化合物を、少なくとも200℃の温度で熱分解させる工程を含む方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】実施例P4の式IIIaおよび式IIIbの化合物のNMRを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
熱分解温度は、自発的なHCl脱離を可能にするのに十分に高く選択されなくてはならない。好ましくは、熱分解反応は、好ましくは200〜1000℃、より好ましくは400〜800℃の温度の反応器中で行われる。熱分解反応に適した反応器の例は、例えばParr Instrument Company,211 Fifty Third Street,Moline,Illinois 61265−9984から入手可能な、チューブラー反応器(パイプヒーター)である。
【0009】
本発明の好ましい実施形態において、式IIの化合物は、気体形態で反応器に運ばれる。
【0010】
別の好ましい実施形態において、反応器中への気体の式IIの化合物の輸送のために、キャリアガスが使用され得る。その後、式IIの化合物は、連続キャリアガスフロー下で反応器に運ばれる。好ましくは、気体塩化水素、不活性ガス(窒素など)または揮発溶媒(キシレンなど)が、キャリアガスとして使用される。気体塩化水素は、熱分解反応の副生物であるので、反応器の排気流の一部は、キャリアガスとして有利に使用され得る。あるいは、式IIの化合物またはそれの溶液が、直接反応器中に噴霧され得る。
【0011】
好ましくは、熱分解反応後に、生成物は、反応器の出口から、冷却されたトラップ中に移される。トラップの温度は、広い範囲内で可変である。トラップは、好ましくは、+150℃〜−150℃の温度で、特に+70℃〜−70℃、好ましくは+30℃〜−70℃で、維持される。
【0012】
トラップには、トラップの表面積を増大することができる不活性物質、特に金属および/またはガラス充填物が充填することができ、そのため式Iの化合物はその充填物の表面で凝縮し得る。本発明の別の実施形態において、式Iの化合物は、溶媒中に吸収されるか、または溶媒と共凝縮される。好ましい溶媒は、アセトン、トルエンまたはキシレン、およびそれらの混合物である。
【0013】
気体形態の化合物を、国際公開第2007/048556号パンフレットに記載されているように殺真菌活性化合物の合成の次の段階に直接使用することもまた、有利である。
【0014】
反応を行うための圧力は、広い範囲内で可変であり、反応器に原料を供給する方法に応じて選択され得る。式IIの化合物が気体形態で反応器中に運ばれる場合は、大気圧よりも低い圧力が好ましい。減圧は、ここでの場合がそうであるが生成物が不安定である場合に高い液体温度を回避するのに有益な、より低い凝縮温度をもたらす。より高い圧力は、反応器容積の低減という利益をもたらす。有益な圧力の選択は、当業者の技術の範囲内である。
【0015】
本発明の好ましい実施形態において、熱分解反応のための反応器および式IIの化合物を含有する容器は、減圧下、特に0.008〜0.08Mpaの圧力下、特に0.004Mpa〜0.04Mpa下に維持される。
【0016】
式Iの化合物への式IIの化合物の熱分解は、2段階反応であり、インサイチューで式IIIe、IIIfおよびIIIgの中間体が形成され、次いでこれらが反応して、式Iの化合物となる(Xは、クロロまたはブロモである)。
【化5】
【0017】
式IIIeおよび式IIIf(式中、Xは、クロロまたはブロモである)の中間体は新規であり、本発明のさらなる態様を構成する。式IIの化合物の異性体含有量に応じて、式IIIe、式IIIfおよび式IIIgの化合物は、異なる異性体形態で生じ得る。そのような異性体形態を、Xがクロロである式IIIの化合物についてここに示す。
【化6】
【0018】
あるいは、式IIIの化合物はまた、例えば、水酸化ナトリウム水を式IIの化合物の有機溶液と接触させることによっても調製され得る。式IIIの中間体は化学的に安定な化合物であるので、それ自体は熱分解以外の方法によって調製された式III(IIIe、IIIfおよびIIIg)の化合物を熱分解することによっても、式Iの化合物は調製され得る。この方法変形例(process variant)もまた、本発明のさらなる態様を構成する。好ましい実施形態および温度範囲を含む反応条件は、式Iの化合物への式IIの化合物の熱分解について上に述べられたのと同様である。
【実施例】
【0019】
調製実施例:
実施例P1:式Iの化合物の調製(キャリアガスを用いた変形例):
【化7】
本調製実施例のための装置(rig)
*を、
図1に示されるように組み立てた。500mlのParr反応器を捕捉容器として使用し、これに捕捉表面積を最大化するためにガラスおよび金属の充填材(2:1の割合)を予め充填しておいた。約50mlのアセトンもまたこのトラップに投入し、確実にそのレベルが出口管のレベルよりも低く保たれるようにした(
図1中の拡大参照)。このトラップをドライアイス/アセトン浴中に沈め、約−70℃において平衡に達する時間を与えた。パイプヒーターを595℃まで余熱し、電気ロープヒーターの使用により入口管(B)を250℃まで余熱した。式IIの化合物(15g、異性体IIa、IIbおよびIIcの66:8:26の割合での混合物)を、25mlの三つ口丸底フラスコ(A)に投入した。1つの口は炉への入口管に接続されており、2つ目の口は窒素フローのための入口となり、最後の口には真空モニターが備え付けられていた。式IIdの化合物(全ての異性体形態を含む)を含有する容器を、窒素流量を約100ml/分として、135℃まで加熱した。次いで、0.004Mpaの真空を適用し、この工程を90〜120分間進行させた。式IIdの化合物の減少を観測することによって判断された完了時に、トラップを外した。トラップの全ての接続部および部品をアセトンですすぎ、結果として生じた濃い赤茶色の溶液を濾過した。内部標準の使用によるGCによる分析の結果、全収率87%(8.7g)の式Iの化合物および極めて微量にすぎない式IIdの化合物であることが分かった。
*装置全体にわたる構成材料:ガラスおよびステンレス鋼。
【0020】
実施例P2:式Iの化合物の調製(キャリアガスなしの変形例):
窒素フローなしで実施例P1の実験を繰り返した結果、全収率80%(8.0g)の式Iの化合物を得た。
【0021】
実施例P3:式Iの化合物の調製(プレヒーターへの連続液体供給を用いた変形例):
式IIaの化合物(21g)を、
図2に示されるように、約0.2ml/分の流量でポンプによって余熱チャンバーに送出した。次いで、0.004Mpaの真空を適用し、この工程を90〜120分間進行させた。完了すると、実施例P1についてと同様に、処理した生成物を分析した。内部標準の使用によるGCによる分析の結果、全収率72%(13.9g)までの式Iの化合物および8%回収率(2.1g)の式IIdの化合物であることが分かった。
【0022】
実施例P4:式IIIaおよびIIIbの化合物の調製:
トルエン(266ml)中の式IIa、式IIbおよび式IIcの異性体(66:8:26の割合で22g)の溶液を、25%NaOH(水溶液、133ml)とベンジルトリエチルアンモニウムクロリド(5.67g、25mol%)とピナコール(3g、25mol%)との混合物に加え、40℃で撹拌した。30分後、GC分析により、内部標準に対する式IIIaおよび式IIIbの化合物の化学収率は、約90%であると判断した。この段階で水(200ml)を加え、有機相を分離し硫酸マグネシウム上で乾燥させた。濾過に続く真空下での濃縮により、式IIIaおよび式IIIbの化合物を褐色油(70%、12.8g)として得た。NMRを
図3として示す。(DCFはジクロロフルベンを意味する。)