(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記の基準標準化ステップおよび対象標準化ステップにおいて、メカトロパラメータについてはフーリエ変換によって得られるスペクトルを分割し、当該分割した帯域ごとのスペクトル強度を標準化し、さらに当該標準化後の最大値と最小値を用いて正規化することを特徴とする請求項1記載のプラント装置の統括診断方法。
前記の異常判定ステップにおいて、すべてのパラメータに対して求めた基準得点群と対象得点群との統括乖離度として、各々の得点群の時間的な平均値と分散とに基づく統計的距離の大きさを用いることを特徴とする請求項1記載のプラント装置の統括診断方法。
前記の異常判定ステップにおいて、対象プラント装置の負荷変更後もしくは運転条件の変更後の安定期に、対象計測ステップにより対象データを採取して、対象得点算出ステップにより対象得点を得て、既に正常状態において得ている基準得点との統括乖離度を求め、当該統括乖離度の最大値に基づき当該異常判定の判定閾値を設定することを特徴とする請求項1記載のプラント装置の統括診断方法。
前記の異常判定ステップにおいて異常と判定されたときの要因パラメータ抽出ステップにおいて、各パラメータごとの基準得点と対象得点との個別乖離度を求め、その大きい順に当該異常兆候の要因に関連するパラメータとすることを特徴とする請求項1記載のプラント装置の統括診断方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。
【0017】
対象プラント装置の負荷一定時のシステムパラメータとメカトロパラメータとを計測する
基準計測ステップと、当該基準計測により得られた基準データを標準化するための
基準標準化ステップと、当該基準標準化ステップにて得られた基準データの時系列から特徴係数を抽出する
特徴係数抽出ステップと、当該特徴係数抽出ステップにより得られる特徴係数と前記基準標準化ステップにて得た標準化基準データとから基準得点を求める
基準得点算出ステップと、監視対象時点でのシステムパラメータとメカトロパラメータとを計測する
対象計測ステップと、当該対象計測により得られた対象データを標準化するための
対象標準化ステップと、当該対象標準化ステップにて得られた標準化対象データと前記特徴係数抽出ステップにて得られた特徴係数とから対象得点を求める
対象得点算出ステップと、前記基準得点算出ステップにて得られた基準得点と当該対象得点の差異の大きさと予め設定した閾値との比較により異常判定を行う
異常判定ステップと、異常が存在すると判定された場合に、前記システムパラメータとメカトロパラメータの各々に対する各基準得点と各対象得点との比較から当該異常の要因に関連するパラメータを抽出する
要因パラメータ抽出ステップとからなることを特徴とするプラント装置の統括診断方法である。
【0018】
かかる対象プラント装置の診断方法、傾向監視によれば、対象プラント装置の異常兆候の
検出及び当該異常の要因推定が可能となり、異常兆候の追跡によって最適な対策立案と対策
実施時期が実用的なものとなる。
【0019】
また、前記の
基準計測ステップにおいて、対象プラント装置の100%負荷一定運転時のシステムパラメータ値として、本体装置の冷却水入口・出口温度などの温度計測、本体装置内圧力・主ポンプ出口圧力などの圧力計測、本体装置入口・出口流量や主ポンプ流量などの流量計測、本体装置内の液レベルなどのレベル計測、本体装置で生産される製品の純度などの品質計測を代表的な計測項目とし、メカトロパラメータ値として、代表的なポンプ主軸軸受の加速度データを計測項目とし、前記
基準標準化ステップにおいて、システムパラメータの計測値については設計時の上限値・下限値に基づき標準化を行うものとし、メカトロパラメータの加速度データについてはフーリエ変換により得られるスペクトルをある規定に沿って分割し、当該分割周波数帯域の強さの時間系列での平均値・分散に基づく標準化を行った後、当該標準化後の最大値・最小値により正規化を施すことを特徴とする。
かかる場合には、システムパラメータ値とメカトロパラメータ値のいずれも0〜1 の間の値に変換できるので対象プラント装置の統括的な診断を行う際の、前記
特徴係数抽出ステップにおいて特徴係数を求めることが可能となる。
【0020】
また、前記の
特徴係数抽出ステップにおいて、各温度計測値、各圧力計測値、流量計測値、レベル計測値、品質計測値および加速度の各分割帯域のスペクトル強度についての時間軸における相関から、複数の次数を有する特徴係数を求めることとしてもよい。
かかる場合には、対象プラント装置の性能劣化の兆候もしくは回転機械の異常兆候の検出とともに当該異常兆候の進展の度合いを評価することが可能となり、その後の傾向監視上における対策実施時期を決定することが可能となる。
【0021】
また、前記の
異常判定ステップにおいて、
基準得点算出ステップにて得られた基準得点の平均値と分散を算出し、同様に
対象得点算出ステップにて得られた対象得点の平均値と分散を算出し、基準得点と対象得点との統括乖離度合を当該平均値と分散とから定量化し、予め設定した当該統括乖離度合の閾値と比較することにより異常判定を行うことを特徴とする。
かかる場合には、システムパラメータの各物理量、化学的組成やメカトロパラメータの加速度、電気信号など当該状態の時間的変動に対するレスポンスの相違などが存在しても、安定した統括乖離度合を評価することが可能となり、異常兆候検出の信頼性を向上させることが可能となる。
【0022】
また、前記の
要因パラメータ抽出ステップにおいて、システムパラメータやメカトロパラメータの各々の基準データ及び対象データを標準化後の値(これを基準変数値及び対象変数値と称す)について、変数ごとに前記
特徴係数抽出ステップにて求めた特徴係数と当該変数値との積を、基準変数と対象変数について算出することによって基準変数得点と対象変数得点とが求まる。そしてこれらの基準変数得点と対象変数得点との個別乖離度合をそれぞれの平均値と分散とから求めることによって、個別乖離度の大きい変数が、当該異常兆候の要因に関連するパラメータである。
かかる場合には、前記の
異常判定ステップによって異常兆候があると判断された場合に当該異常兆候の
要因パラメータの抽出ステップによって要因推定のためのパラメータを特定することが可能となる。
【0023】
またプラント装置の統括診断方法を実現するためのコンピュータプログラムも実現可能である。
かかるコンピュータプログラムによれば、対象プラント装置の統括診断および傾向監視に
おける異常兆候事象の発生有無の診断、当該異常事象の進展追跡、当該異常兆候の要因分析及び対策案の立案とその実施時期の最適化が実用なものとなる。
【0024】
また、前記コンピュータプログラムを備えたコンピュータを有することを特徴とする対象プラント装置の統括診断装置も実現可能である。
かかる対象プラント装置の統括診断装置によれば、対象プラント装置の統括診断および傾向監視における異常兆候事象の発生有無の診断、当該異常事象の進展追跡、当該異常兆候の要因分析及び対策案の立案とその実施時期の最適化が簡便なものとなる。
【0025】
(本実施の形態に係る対象プラント統括診断方法の全体フローについて)
図1に対象プラント装置の統括診断方法の各ステップのフローチャートを、
図2に異常と判定された場合の要因分析に関するフローチャートを示す。
【0026】
図1の対象プラント装置の正常状態基準データ1についてシステムパラメータの取得2を行う。少なくとも3つの時間帯において取得する。この理由は各パラメータ値の時間変化を把握するためである。
そして、j番目のシステムパラメータ値xjに関しては、設計上もしくは運転上の上限値
xmax・下限値xminを用いて(数1)に示す標準化を行い、Xjを得る。
【0027】
次に、対象プラント装置の正常状態基準データ1についてメカトロパラメータの取得3を行う。上記した各々のシステムパラメータ取得時に対応して、少なくとも3つの時間帯において取得する。したがって、少なくとも9つの時間帯で取得することになる。この理由はシステムパラメータと比較してメカトロパラメータは、回転機械の運転に関連するので、それに含まれる情報量が多く、しかも変動が大きいことからシステムパラメータのデータ取得回数よりも増加させることが望ましいことによる。
当該ステップ3で取得したメカトロパラメータ値に対して、フーリエ変換6を行ってスペクトル分布を求め、ステップ7にて予め設定した規定に沿って周波数軸を分割して各帯域でのスペクトル強度xkを得る。
そして、k番目のメカトロパラメータ値xkに関しては、当該値の時間平均値xk(バー)と標準偏差σとを用いて(数2)に示す標準化を行い、X
’kを得る。
次に、(数2)で得た標準化後のメカトロパラメータ値X
’kについて(数3)に示す正規化を行って、正規化後のXkを得る。以上が、ステップ8での標準化および正規化である。
【数1】
【数2】
【数3】
【0028】
次に、特徴係数抽出ステップ9について記述する。
ステップ5およびステップ8にて得られた標準化後のシステムパラメータ値Xjおよび
標準化/正規化後のメカトロパラメータ値Xkを一つに並べかえて「変数」と称し、改めて
p番目の変数とq番目の変数の時間変化における相関行列Cpqに基づく主成分分析を行う
ことによって、固有ベクトル値Wmp(ここで、p はシステムパラメータとメカトロパラメ
ータとの合計した場合の順番を表す)が求まる。この統計処理がステップ9で、(数4)
の固有方程式を解くことによって固有ベクトル値Wmpが求まる。
ここで、添え字 m は固有方程式(4)を解く際の固有値の次数mに対応している。
この固有ベクトルWmpを、対象プラントの正常運転時のシステムパラメータおよびメカ
トロパラメータに潜在している特徴係数として保存する。これがステップ10である。
【数4】
当該特徴係数抽出ステップ9において、正常時の各システムパラメータ値およびメ
カトロパラメータ値の時間変化のデータ群に対して主成分分析を適用することによっ
て得られる固有ベクトル値Wmpを、p番目の変数値Xpに対する重みづけとすること
によって微妙な異常兆候の検出が可能であることを見出したわけである。この重みづけ
が特徴係数ステップ10である。
【0029】
特徴抽出法として主成分分析法を適用するのは以下の2つの理由である。
(1)システムパラメータおよびメカトロパラメータは大量であり、複雑な外乱を有す
るので、相互の関連性が雑多に存在している。この中から潜在する目的とする
特徴を抽出するには、少なくともお互いに無相関の次元に変換する必要がある。
(2)その際に、失われる情報は最小限にしたい。
そして、対象プラントの負荷変化など大きく状態が変動する正常時におけるパラメータ
値の時間変化に対して主成分分析法を適用して得られる固有ベクトルにこそ、対象プラン
トの特徴が反映されていることを見出したのである。
【0030】
次に、基準得点の算出ステップ18では前記特徴係数ステップ10で得た次数m、変数p番目の特徴係数Wmpと、ある時刻tでの基準データp番目の変数値Xp
0(t)との積を、各次数に対して全ての変数における積和を算出して次数mの基準得点を得る。
つまり、(数5)にて次数m の基準得点Z
0m(t)が求まる。
【数5】
【0031】
次に、
図1の対象プラント装置の監視時対象データステップ11においてシステムパラメータ及びメカトロパラメータの取得ステップ12及び13にてデータを取得する。
以下正常時の基準データの場合と同様に、システムパラメータについてはステップ4に基づきステップ14で標準化を行う。そして、メカトロパラメータについても基準データの場合と同様にステップ15、16、17にてフーリエ変換、スペクトルの分割、標準化/正規化後の値を得る。
【0032】
次に、基準データに関してステップ9の特徴係数抽出にて得たステップ10の特徴係数Wmpを用いて、当該対象データから得られた標準化もしくは正規化後の、ある時刻tでの対象データの変数値Xp
d(t)との積和から、ステップ19の対象得点Z
dm(t)
の算出を行う。基準得点の算出と同様に(数6)による。
【数6】
以上の各ステップにより、次数mの基準得点Z
0m(t)と対象得点Z
dm(t)が求まる。もちろんこれはデータ採取時刻tごとに得られるのでデータ採取回数と同数の得点値群が存在する。
【0033】
次に、基準得点群Z
0m(t)と対象得点群Z
dm(t)との乖離度を算出するのがステップ20である。それぞれの得点群は時間とともに分布するので、これらの乖離度合としては、平均値と分散とを考慮したDI値(Discriminating Index)を用いる。基準得点群の平均値をZ
0m
’、分散をσ
0mとし、対象得点群の平均値をZ
dm
’、分散をσ
dmとすれば(数7)によって統括乖離度DI値 DI
mが算出できる。
【数7】
【0034】
前記のステップ20で求めた統括乖離度DI値に対して、統括判定閾値との比較を行い、当該閾値より小さい場合には、「正常である(異常の兆候なし)」と判定を行い、次の監視時刻ステップ22へ進む。一方、統括乖離度DI値 DI
m が閾値より大きい場合には「異常兆候がある」と判定し、要因パラメータの抽出ステップ23へ進む。
なお、当該統括乖離度の判定閾値の決定は、正常時に得られた最大統括乖離度の2倍以上に自動設定することも可能である。
【0035】
(本実施の形態に係る異常判定の場合の要因パラメータ抽出のフローについて)
図2に、
図1のプラント装置の統括診断のフローチャートに沿って異常判定を行った結果、異常と判定された場合の要因推定のための要因パラメータ決定方法についてのフローチャ
ートを示す。
変数の順番iにおいて、時刻tの当該基準変数値X
i0(t)ステップ3と
図1のステップ10で求めた特徴係数の値Wm
iステップ4との積を求め変数i番目の基準得点
0Z
mi(t)ステップ5とする。同様に、第i番目の対象変数値X
id(t)ステップ6と、特徴係数の値Wm
iステップ4との積を求め変数i番目の対象得点
dZ
mi(t)ステップ7とする。
そして、ステップ8にて変数i番目基準得点
0Z
mi(t)と変数i番目対象得点
dZ
mi(t)との変数iの個別乖離度DI
iを(数8)によって算出する。
以上の手順を変数番号1から最終の変数番号P(ここで、システムパラメータとメカトロパラメータの総数、つまり変数個数をP個とする)まで順次実行することによって、全ての変数に対して変数ごとの個別乖離度DI
iが得られる。
【数8】
【0036】
上記(数8)にて得られた全変数の個別乖離度DI
iの大きさにおいて、最も大きい変数が当該異常兆候の要因パラメータである。あるいは、大きさ上位3変数を関連要因とするなど発生・顕在化しつつある異常現象によって要因パラメータ数は変わってくる。
この要因パラメータの抽出の考え方は、統括乖離度DI値が統括判定閾値を超えて異常と判定された時点において、その内訳の目安として変数ごとに対する基準と対象との特徴の相違を算出し、その中で個別乖離度が大きい変数が当該統括乖離度に寄与しているという根拠によるものである。
図2に示す要因パラメータの選定によって、
図1のプラント装置の統括診断結果が異常判定になった場合に、当該要因パラメータと取扱説明書等との照合により要因を推定することが可能となり、最適な調査・対策の立案ができるようになる。
【0037】
本発明の実施例として、海水淡水化プラント装置に適用した事例の詳細を記述する。
図3に海水淡水化プラント装置の系統図を示す。
装置本体は、海水の蒸発・冷却・凝縮器として熱回収部1は3段、排熱部2は1段の合計4段からなる。ブライン(蒸発してゆくためにやや塩分濃度が高い海水)は、ブラインヒータ3にて最高温度Tmaxに加熱されたのち熱回収部下部へ流入する。ブラインヒータ3では、ボイラー4からの加熱蒸気が伝熱管の外面で凝縮することによって管内のブラインを加熱し、凝縮したドレンは、復水ポンプ8によってボイラー4へ戻される。当該蒸気流量は、ブライン最高温度Tmaxが一定になるように制御される。
【0038】
熱回収部1の初段下部に流入したブラインの温度は、当該初段の段内圧力に相当する飽和温度より高いので沸騰蒸発が起き、当該蒸気は段内上部にある冷却管群の外側で凝縮し、淡水としてトレイに集められる。残りのブラインは、やや温度が低下して次の第2段下部へ流入し、当該段内圧力に相当する飽和温度より高いので沸騰蒸発が起き、初段と同様に蒸発した蒸気は凝縮して淡水に、残りのブラインは次の第3段内下部へ流入する。この処理が続いて最終段つまり排熱部(第4段)にて淡水が集められ、残りのブラインは、海水の補給水12と混合されてブライン循環ポンプ5によって熱回収部の冷却管群(第3段の上部)へ送られる。このブライン循環流量は、プラントの負荷と関連して一定流量にブライン循環ポンプ5の出口にある流量制御弁10によって制御されている。
【0039】
排熱部2では、海水ポンプ6によって海からくみ上げた海水を第4段上部の伝熱管群の
管内へ冷却用海水として流入させ、当該伝熱管群の外側で沸騰蒸気が凝縮し、本伝熱量に応じて温度が上昇した海水は再び海へ放出される。この出口海水の一部が補給水として最終段内へ流入し、当該段内下部のブラインと混合した後、ブライン循環ポンプ5によって 装置本体内を循環する。
そして、各段内下部でのブラインレベルは適切な範囲になるように、最終段(第4段)のブラインレベルが制御されている。これはブラインブロー量を制御弁11によって制御されている。各段内のブラインレベルは高くなると沸騰蒸発する蒸気に、海水飛沫が同伴してしまい淡水純度が悪くなり、逆に規定以下にブラインレベルが低下してしまうと隣の段内とのシールが破れてしまい、当該段内の圧力が保持できず、各段に設計された沸騰量の分配がうまくいかなくなり、淡水製造量とブラインヒータでの使用蒸気量の比率、つまり造水効率が低下するといった性能低下が生じてしまう。
【0040】
また、各段内の上部から気体を外気へ抜き出すためにベント管13やエジェクタ設備14が装備されている。これは、各段内でブラインが沸騰する際に、ブライン中に溶けている非凝縮性ガスが発生するが、この非凝縮性ガスの段内濃度が予めの目安より高くなると沸点上昇という現象のためにブラインからの沸騰効率を低下させる。
上述したように、海水淡水化プラント装置では、伝熱・沸騰・凝縮・流動・レベル・淡水純度といった多くの事象が絡み合っており異常兆候の早期発見は難しい。
【0041】
(異常兆候の発生事例)
本実施例では、たとえば第2段でのベント不足により第2段での沸騰・伝熱性能が低下した場合の異常兆候の検出を目的にした適用例を説明する。
図4に、第2段からのベント不足が生じた場合の第2段上部の冷却管群の温度分布の変化を示す。第2段において、段内からのベント不良などにより非凝縮性ガスの濃度が上昇し、蒸発を抑制される。このことはブラインが沸騰する際、沸点上昇のために蒸気温度Ts2が設計時より低下する。つまり、冷却側との平均温度差が小さくなるので当該段における蒸発量の低下を招き、冷却側のブラインの温度上昇(T2-T3)が小さくなってしまう。
つまり、第2段冷却部出口温度T2は、正常時標準化後0.48〜0.53であった値がベント不良時には0.37〜0.42へ低下している。このことは第2段における蒸発量の減少、冷却管群での温度上昇不足となり、造水量、造水倍率の減少という性能低下を招くこととなる。
【0042】
次に、
図5に、第2段からのベント不足が生じた場合のブラインレベルの変化を示す。
第2段の室内圧力Ps2は、設計値より小さくなるので第1段内圧力Ps1との圧力差ΔPs12は大きくなり逆に、第3段内との圧力差ΔPs23は小さくなる。(なお、ここで蒸気温度Tsに対応する飽和圧力が室内圧力Psとなる。)
一方、最終段である第4段のブラインレベルは、設計通り当該段の床からの高さが50cmに制御されており、第3段と第4段レベルは50cmでほぼ安定しているが、第2段と第3段との圧力差が小さくなるので、第2段から定格のブライン量を次の第3段へ流すためには第2段のブラインレベルは高くならざるを得ない。室間の圧力差が小さくなったことを、レベル差が大きくなって補おうとするからである。そして、第2段レベルが高くなるから、それに応じて第1段レベルも高くなる。しかし一般的な海水淡水化プラントでは、最終段以外の各段のブラインレベルは自動計測・制御されてはいないので制御下の最終段第4段のレベルの微妙な変動が生じる。なお、各段のブラインレベルを知るには現場にレベルゲージが付けてあるので運転員は目視・計測している。
【0043】
また、第1 , 2段のブラインレベル上昇により沸騰蒸発した蒸気に海水飛沫が同伴してしまうために淡水純度はやや低下する。
また、最終段ブラインレベルは制御されているとはいえ、第2段、第1段でのブラインレベルの上昇により第3、第4段のレベルも若干変動する。
また、最終段第4段のレベルを一定に保とうとしてブラインのブロー量をブロー弁にて調節するので、ブライン循環ポンプ5の出口圧力が若干ではあるが変動する。(ブライン循環流量は一定)
【0044】
つまり、今回の異常兆候(第2段のベント不良)は、熱回収部冷却管群出口すなわち第1段出口温度が低下し、ブラインヒータ3への入り口温度の低下となること、したがってブラインヒータ3での必要蒸気量の増大とその影響による蒸気温度の上昇、最終段ブラインレベルの変動、ブライン循環ポンプ5の出口圧力の変動、そして当該ポンプ主軸軸受部での振動変動が生じる。
【0045】
(異常兆候の検出実施例)
本実施例では、システムパラメータとしてブライン最高温度Tmax(℃)、熱回収部冷却管群出口、つまりブラインヒータ入口温度でもあるT1(℃)、ブラインヒータの蒸気温度Ts(℃)、ブライン循環流量Fr(t/hr)、ブラインヒータでの蒸気流量Fs(t/hr)、ブライン循環ポンプの出口圧力P1(kg/cm
2)、最終段のブラインレベルL4(cm)、最終段からの出口淡水純度Dis-A(ppm)を取り上げた。そして、メカトロパラメータとしてブライン循環ポンプの主軸軸受部での加速度(mm/sec
2)データを採取した。
【0046】
図6には、海水淡水化プラント装置の負荷100%時、50%負荷時、および異常兆候時の場合
のシステムパラメータ値の生データの時間変化を示す。各データは時間軸で3点採取した。
100%負荷運転時の値と比較した場合、異常兆候時よりも50%負荷運転時の方が、ブライン
循環流量Fr、ブラインヒータ蒸気温度Ts、ブライン循環ポンプ出口圧力P1などは大きく変
化している。
図7には、各システムパラメータの上限・下限値によって標準化した値Xjを縦軸にした変
化を示す。ほとんどの変数において50%負荷運転時の変化が大きく、異常兆候時の変化は
埋もれている。
【0047】
次に、
図8、
図9、
図10にはそれぞれ正常運転100%負荷時、50%負荷運転時および異常
兆候時におけるメカトロパラメータとして、ブライン循環ポンプの主軸軸受部での加速度デ
ータをフーリエ変換して得られたスペクトル強度を示す。横軸は全周波数を8個に分割した帯域の平均周波数を、縦軸は f1,f2,f3,f4,f5,f6,f7,f8の帯域でのスペクトル強度である。この場合においても、100%負荷運転時の基準スペクトルと、異常兆候時の加速度スペクトルとの差異は小さく逆に50%負荷運転時の加速度スペクトルは大きくなっており、負荷100%〜50%という正常な運転条件の変化の中に埋もれているのが分かる。
なお、加速度データの採取タイミングは前記システムパラメータの3回(時刻t1,t2,t3
)の各採取時に3回ずつ合計9回(時刻t11,t12,t13/t21,t22,t23/t31,t32,t33)採取して
いる。
図11、
図12、
図13には、上記の
図8、
図9、
図10に対応して、各帯域のスペクト
ル強度の時間平均値と分散とを用いた標準化と当該標準化で求めた最大値・最小値によっ
て正規化した値に変換した分布を示す。これらの標準・正規化したメカトロパラメータ値
Xkを前記標準化後のシステムパラメータ値Xjとともに
図1の特徴係数抽出ステップ9にて主成分分析を実行するものである。
【0048】
第1表には、特徴係数抽出ステップ9にて得られた固有ベクトル値つまり特徴係数Wmpを
示しており、縦には特徴係数の次数m を、横には各変数(両パラメータを通貫)をとってい
る。ここでは、システムパラメータは7個、メカトロパラメータは8個の合計15個である
。よって、次数mも15次まで得られている。
【0049】
第2表には、第1表の特徴係数Wmpを用いた100%運転時の基準得点と50%運転時の対象得点
を示している。上部の3列には、基準となる正常100%負荷運転時の3回の測定データにお
ける基準得点を、下段の3列には、対象となる正常50%負荷運転時の3回の測定データに
おける対象得点を示す。
一方、第3表には、同じく第1表の特徴係数を用いた100%運転時の基準得点と異常兆候
時の対象得点を示す。
【0050】
図14には、正常100%運転時を基準/50%負荷運転時を対象とした統括乖離度DI値
の次数分布を示す。正常変動時の統括乖離度DI値の最大値は次数3(Z3)において0.42であることが分かる。したがって統括判定閾値としては、当該最大値の2倍として、1.0と
仮設定する。
一方、
図15には、正常100%運転時を基準/異常兆候時を対象とした統括乖離度DI
値の次数分布を示している。次数が3,4,6,9,11の値が
図14の正常時より乖離
度合が大きくなっており、特に11次の統括乖離度DI値は黒線枠で囲むように、統括
判定閾値1.0を大きく超えて約1.6となっており、明らかに異常状態であることが分か
る。
本実施例における異常兆候への適用例でも明らかなように、システムパラメータおよび
メカトロパラメータを測定データとし、正常時のデータから求めた特徴係数抽出ステップ
により特徴係数が得られ、当該特徴係数を共通にして基準得点群と対象得点群とを求めて
統括乖離度DI値を算出し、統括判定閾値との比較により異常判定を行うことによって、
上記各パラメータ値がすべて正常範囲にあっても、潜在している異常兆候が検出可能と
なる。
【0051】
図15には、システムパラメータのみを適用し、メカトロパラメータは変化なしとした場合の統括乖離度DI値を、
図16には、メカトロパラメータのみを適用し、システムパラメータは変化なしとした場合の統括乖離度DI値を示す。
本実施例の第2段からのベント不良による異常兆候の事象は、システムパラメータやメカトロパラメータの片方だけでは検出は難しく、両方のパラメータについての特徴係数抽出が不可欠であることが分かる。従来技術(文献1)でのシステムパラメータに限定したセンサを“仲間外れ”と認識する監視手法では今回のような異常兆候の検出は困難なのである。
また、別の従来技術(文献2)では異なるセンサ種別同士の関連性を自動的に獲得し、振動計測、圧力計測、温度計測、加速度計測など、様々な計測情報を結びつけ、精度の高い予兆検知を実現可能としているが、センサ種別同士の関連性として相関関係に依ったインバリアント分析技術であり、本発明のようなシステムパラメータとメカトロパラメータにおいて統合的な特徴抽出機能を組込んでいないために、当該実施例のような異常兆候の検出は困難なのである。
【0052】
(異常兆候の要因パラメータ抽出の実施例)
次に、前記統括診断の結果、異常と判定された場合には当該異常兆候の要因と結びつくシステムパラメータもしくはメカトロパラメータ(前記と同様に、変数と称す)を抽出する手法を説明する。本要因パラメータ抽出の考え方は、統括診断時と同じ特徴係数を用いて、変数ごとに基準得点と対象得点を求め、個別乖離度DI値を算出すれば、異常兆候の
要因に対応する変数で大きく現れることに着目した。なお、変数は1つなので次数は1のみである。
第4表に、システムパラメータ測定回数3回、メカトロパラメータ測定回数9回の各標準化/正規化データに対して得た、変数ごとの正常100%運転時の個別基準得点、および
時間平均値と分散も示している。
同様に、変数ごとの異常兆候時の個別対象得点を第5表に示す。
【0053】
また、
図18には、第4表と第5表に示す各得点群の個別乖離度DI値を、横軸に変数をとって示している。この
図18から、当該異常兆候の要因パラメータとしては、ブラインヒータの蒸気温度Ts、ブラインヒータでの蒸気流量Fs、熱回収部冷却管群出口温度T1が、当該要因である確率の高い上位3個の変数であることが分かる。
前記のパラグラフ(0044)に述べた異常兆候の要因パラメータである以下の項目に対応する。
・ 熱回収部冷却管群出口温度 T1
・ ブラインヒータでの必要蒸気量 Fs
・ ブラインヒータでの蒸気温度 Ts
そして、次の要因パラメータとしては、(4)淡水純度Dis-A (5)ブライン循環ポンプ出口圧力P1があげられる。
【0054】
(取扱説明書との照合による異常兆候の要因推定)
対象プラント装置の設計時、試運転終了後、過去の運転保守に関するノウハウを付加した「取扱説明書」や「トラブルシューティング」が用意され、顧客やユーザに納入されている。当該「取扱説明書」や「トラブルシューティング」において、前記した異常兆候の要因パラメータ抽出により得られた変数に関連する対象プラント装置の性能、機能性及び周辺設備の不具合事項などとの照合により、さらなる調査事項や対策項目の選定が可能となる。
【0055】
従来では、前記した要因パラメータが運転員には不明であったために、異常兆候の発生に気づかないうちに異常兆候が進行していたが、本発明による当該実施例のように要因パラメータを運転員に告知することが出来るので早期に調査・要因推定・対策立案が可能となるのである。
【0056】
本発明の上記した実施例では、当該異常兆候の要因パラメータの抽出は各変数において基準得点と対象得点を求め、次に個別乖離度DI値を算出しているが、複数の変数ごとに基準得点と対象得点を求め、次にグループ乖離度DI値を算出して大きい順に要因パラメータ群を決定することも本発明の実施形態の一つである。
つまり、前記実施例では、1個の変数ごとに要因パラメータを抽出しているが、予め異常発生となる恐れがある変数群が分かっているときには、当該複数の変数からなるグループとしての要因パラメータ群を決定することも本発明の他の実施形態の一つである。
【0057】
以上、上記実施の形態に基づき本発明に係る対象プラント装置の統括診断方法や異常兆候の要因パラメータの抽出方法および要因推定を説明したが、上記発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【解決手段】対象プラント装置の負荷一定時のシステムパラメータとメカトロパラメータとを計測する基準計測により得られた基準データを標準化し、当該標準化基準データの時系列から特徴係数を抽出し、特徴係数と標準化基準データとから基準得点を求め、監視対象時点でのシステムパラメータとメカトロパラメータとを計測し、当該対象計測により得られた対象データを標準化し、標準化対象データと特徴係数とから対象得点を求め、基準得点と当該対象得点の差異の大きさと予め設定した閾値との比較により異常判定を行い、異常が存在すると判定された場合に、システムパラメータとメカトロパラメータの各々に対する各基準得点と各対象得点との比較から当該異常の要因に関連するパラメータを抽出する。