【実施例1】
【0048】
次に、
図1、
図6、
図7を参照しながら実施例1を説明する。
図6は、本発明に係るレーザ加工方法の実施例1の実験結果を示す表であり、前記実施形態のような貫通孔がある立体構造物であるパイプ材の実験結果を示す。
図7は、本発明に係るレーザ加工方法の実施例1における立体構造物の内径とレイノルズ数との関係を示すグラフであり、
図6の番号1−1〜番号5−4までの実験結果を示す。
【0049】
図6及び
図7において、立体構造物に液体を流通させるために使用した不図示のポンプの能力は、動力Lが100W、圧力Pが0.3MPa程度で十分であるので、ホンプ能力から次の式を使って本レーザ加工方法に使用する最大流量を20リットル(20,000ml)/minとした。Lを動力[kW]、Pを圧力[MPa]、Qを流量[L/min]とすると、動力Lは、
L=PQ/60
である。
【0050】
レイノルズ数Reは、
図1に示すレーザ加工装置2によって、円筒管からなる立体構造物1をレーザ加工した際のデータであって、液体3としての水31の代表速度をU、代表長さをD
1、動粘性係数をVとすると、空間14内を流れる水31のレイノルズ数Reは、
Re=UD
1/V
であり、この計算式を利用して
図6及び
図7のレイノルズ数Reを算出した。
【0051】
実験では、
図6に示すように、ジェットノズル21の径を60um、レーザの出力を23W、周波数を10kHz、液体噴流B2の水圧を13MPa、液体3として、水温が17.5℃、動粘性が0.00000108の水31を使用した。実験結果として、下層部12に焼けが無いときは○、下層部12に
図5に示すような焼け12Caがあるときは×として
図6の表に記載した。
【0052】
まず、
図6に示すように、表層部11と下層部12との間隔D
1(内径)が2.5mmの場合の番号1−1〜番号1−6の実験を行った。
番号1−1〜1−2の実験結果より、レイノルズ数Reが3.07×10
3以下であるとき、下層部12に焼けが発生した。
【0053】
番号1−3〜番号1−6の実験結果より、レイノルズ数Reが4.72×10
3以上であるとき、下層部12には焼けが発生しておらず、レーザ加工による下層部12の損傷を防止できた。
【0054】
次に、表層部11と下層部12との間隔D
1(内径)が3.5mmの場合の番号2−1〜番号2−6の実験を行った。
番号2−1〜2−2の実験結果より、レイノルズ数Reが2.95×10
3以下であるとき、下層部12に焼けが発生した。
【0055】
番号2−3〜番号2−6の実験結果より、レイノルズ数Reが5.06×10
3以上であるとき、下層部12の焼けを防止できた。
【0056】
次に、表層部11と下層部12との間隔D
1(内径)が4.5mmの場合の番号3−1〜番号3−6の実験を行った。
番号3−1〜3−3の実験結果より、レイノルズ数Reが4.19×10
3以下であるとき、下層部12に焼けが発生した。
【0057】
番号3−4〜番号3−6の実験結果より、レイノルズ数Reが5.90×10
3以上であるとき、下層部12の焼けを防止できた。
【0058】
次に、表層部11と下層部12との間隔D
1(内径)が1mmの場合の番号4−1〜番号4−4の実験を行った。
番号4−1の実験結果より、レイノルズ数Reが3.54×10
3であるとき、下層部12に焼けが発生した。
【0059】
番号4−2〜番号4−4の実験結果より、レイノルズ数Reが5.90×10
3以上であるとき、下層部12の焼けを防止できた。
【0060】
次に、表層部11と下層部12との間隔D
1(内径)が0.5mmの場合の番号5−1〜番号5−4の実験を行った。
番号5−1の実験結果より、レイノルズ数Reが3.54×10
3であるとき、下層部12に焼けが発生した。
【0061】
番号5−2〜番号5−4の実験結果より、レイノルズ数Reが5.11×10
3以上であるとき、下層部12の焼けを防止できた。
【0062】
以上の実験結果から、液体3としての水31のレイノルズ数Reが4.72×10
3以上(
図6、番号1−3参照)であれば、水31は液体噴流B2を乱してレーザ光Aを散乱させるので、レーザ光Aが下層部12を損傷することを防止できる。
【0063】
図7は、
図6の番号1−1〜番号5−4までの実験結果をグラフにしたものである。
図6で下層部12の損傷が○で焼けが発生しないもの(OKなもの)を白星、白菱形、白四角、白三角、白丸で表し、下層部12の損傷が×で焼けが発生したもの(NGなもの)を黒星、黒菱形、黒四角、黒三角、黒丸で表した。
グラフ中の一点鎖線aは、下層部12に焼けが発生しないおおよそのレイノルズ数Reの最小値を示し、実線bは前記実験の最大流量20,000ml(20リットル)/min(
図6の番号1−6,2−6,3−6,4−4,5−4)におけるレイノルズ数を示している。
【0064】
図7に示すグラフより、レイノルズ数Reが一点鎖線aを最小値とし、実線bを上限値とする範囲であれば、下層部12に焼けを発生させることなく表層部11を良好に加工できることがわかる。
【0065】
次に、
図8を参照しながら実施例2を説明する。
図8は、本発明に係るレーザ加工方法の実施例1で使用したレーザ加工装置及び立体構造物を示す要部概略断面図であり、前記立体構造物1Dはボックス状の形をしている。
実施例2は、実施例1と同様、レーザ加工装置2のジェットノズル21の径は60μm、レーザの出力23W、周波数10kHz、液体噴流B2の水圧は13MPaである。また、立体構造物1Dの空間14Dに水31を供給する液体導入ノズル23Dのノズル孔中心からの距離r、内径2r
0=φ1.2mm、液体導入ノズル23Dの先端から表層部11Dの内壁までの距離D
4=4mmとして、空間14Dに遮蔽物として樹脂やセラミックを設置した場合、エアや水31、マイクロバブル水を供給した場合、遮蔽物や液体3などの供給もしない場合の実験を行った。
【0066】
なお、実施例2におけるレイノルズ数Reは、液体3としての水31の代表速度をUm、代表長さをD
4、動粘性係数をVとすると、空間14D内を流れる水31のレイノルズ数Reは、以下の式で求められる。
Re=Um・D
4/V ・・・ 〔2〕
また、前記代表速度Umは、以下の式で表すことができる(参照:社河内敏彦 著「噴流工学」P49)。
Um=2.1×r
0/r×U
0 ・・・ 〔3〕
r
0は液体導入ノズル23Dのノズル孔の半径、rは液体導入ノズル23Dのノズル孔中心からの距離、U
0は図中U
0における流速を示しており、r=r
0で最大値となる。さらに流速U
0は流量をQとすると以下のように表すことができる。
U
0=Q/πr
0D
4 [m/s] ・・・ 〔4〕
【0067】
実施例2による実験の結果、空間14Dに遮蔽物や液体3などもない状態でレーザ加工を行うと、下層部12Dに焼けが発生した。
空間14Dに遮蔽物として樹脂やセラミックを配置してレーザ加工を行うと、下層部12Dには焼けが発生せず、被加工部13Dの形状も良好であったが、樹脂やセラミックにレーザ光Aによって溶けた跡や加工された跡が残った。
【0068】
次に、排出口23Dbを閉塞した状態で空間14D内にエアを供給してレーザ加工を行った。空間14D内の圧力Pが1.5kgf/cm
2以上であるとき、下層部12Dに焼けは発生しなかったが、圧力Pが高くなるほど被加工部13Dの加工形状が悪くなった。これは、圧力Pが高くなるとレーザ光Aによって貫通した被加工部13Dからエアが噴出し、液体噴流B2を乱してしまうからである。
また、圧力Pが0.5kgf/cm
2のとき、加工形状は良好であったが、下層部12Dに焼けが発生した。
【0069】
次に、排出口23Dbを閉塞した状態で空間14D内に水31を供給してレーザ加工を行った。水31の圧力Pが1.0kgf/cm
2のとき、下層部12Dに焼けは発生しなかったが、加工形状が悪くなった。
水31の圧力Pが0.5kgf/cm
2以下のとき、加工形状は良好であったが、下層部12Dに焼けが発生した。
【0070】
次に、排出口23Dbを開放した状態で空間14D内にマイクロバブル水を供給してレーザ加工を行った。マイクロバブル水の圧力Pが0.0kgf/cm
2、流量Qが0ml/min、流速Uが0m/sec、レイノルズ数Reが0のとき、加工形状は良好であったが、下層部12Dに焼けが発生した。
マイクロバブル水の圧力Pが1.0kgf/cm
2、流量Qが525ml/min、流速U
0が0.58m/sec、レイノルズ数Reが4.52×10
3のとき、下層部12Dに焼けは発生せず、加工形状も良好であった。
マイクロバブル水の圧力Pが3.0kgf/cm
2、流量Qが1,320ml/min、流速U
0が1.46m/sec、レイノルズ数Reが1.14×10
4のとき、下層部12Dに焼けは発生しなかったが、加工形状が悪くなった。
【0071】
次に、排出口23Dbを開放した状態で空間14D内に水31を供給してレーザ加工を行った。水31の圧力Pが1.0kgf/cm
2、流量Qが525ml/min、流速U
0が0.58m/sec、レイノルズ数Reが4.52×10
3のとき、下層部12Dに焼けは発生せず、加工形状も良好であった。
水31の圧力が0.0kgf/cm
2、レイノルズ数Reが0のとき、加工形状は良好であったが、下層部12Dに焼けが発生した。
【0072】
以上、実施例2の実験結果から、樹脂、セラミック、木材等の遮蔽物を空間14D内に挿入すれば、下層部12Dの損傷を防止することができるが、遮蔽物がレーザ光Aによって徐々に加工されるため、やがて下層部12D焼けが発生してしまうこと、遮蔽物の交換が必要になることがわかる。
【0073】
また、表層部11Dと下層部12Dとの間の空間14Dが閉塞された空間である場合、液体噴流B2が散乱されにくいため、下層部12Dに焼けが発生しやすいことがわかる。
【0074】
さらに、レイノルズ数Reが4.52×10
3以上であれば下層部12Dの損傷を防止できることがわかる。つまり、本発明のレーザ加工方法では、立体構造物1Dの空間14D内に水31を充填状態(静止状態)にさせず、流動させながらレーザ加工することによって、被加工部13Dを良好に加工することが可能であることが確認できた。