特許第5753430号(P5753430)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753430
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】高クロム鋳鉄
(51)【国際特許分類】
   C22C 37/06 20060101AFI20150702BHJP
   C22C 37/08 20060101ALI20150702BHJP
   C21D 5/00 20060101ALN20150702BHJP
【FI】
   C22C37/06 Z
   C22C37/08 Z
   !C21D5/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-87659(P2011-87659)
(22)【出願日】2011年4月11日
(65)【公開番号】特開2012-219346(P2012-219346A)
(43)【公開日】2012年11月12日
【審査請求日】2014年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100112715
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100120662
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 桂子
(72)【発明者】
【氏名】松野 進
【審査官】 静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−061422(JP,A)
【文献】 特開昭58−003943(JP,A)
【文献】 特開昭54−065116(JP,A)
【文献】 特開昭63−121635(JP,A)
【文献】 特開昭61−060853(JP,A)
【文献】 特開昭57−089453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 37/00−37/10
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2.928重量%〜3.08重量%のCと、
0.28重量%〜0.45重量%のSiと、
16.3重量%〜17.4重量%のCrと、
0.89重量%〜0.92重量%のNiと、
1.98重量%〜2.06重量%のMoと、
0.22重量%〜0.26重量%のCuと、
0.094重量%〜0.11重量%のVと、
1.49重量%〜1.54重量%のNbと、
0.007重量%〜0.014重量%のPと、
0.004重量%〜0.005重量%のSと、
.15重量%〜3.5重量%のMnとを含み、
残部が鉄である、高クロム鋳鉄。
【請求項2】
前記Mnの含有量は、3.13重量%〜3.3重量%である、請求項1に記載の高クロム鋳鉄。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高クロム鋳鉄に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、マンガン(Mn)の含有量が0.5重量%〜1.5重量%であり、モリブデン(Mo)の含有量が0.5重量%〜2.0重量%である耐摩耗合金鋳鉄が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、Mnの含有量が0.5重量%〜2.5重量%であり、Moの含有量が0重量%〜7重量%である高クロム鋳鉄鋳物の製造方法が知られている(特許文献2)。
【0004】
この高クロム鋳鉄鋳物の製造方法は、0.5重量%〜2.5重量%のMnと0重量%〜7重量%のMoとを含む高クロム鋳鉄を900〜1100℃で加熱し、300〜600℃まで衝撃風で冷却し、その後、更に自然冷却する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平05−041691号公報
【特許文献1】特開2002−294389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の耐摩耗合金鋳鉄または高クロム鋳鉄では、大型鋳物の肉厚中心の焼入れ時の冷却速度が遅くなり、硬さが低下することによって耐摩耗性が低下するという問題がある。
【0007】
そこで、この発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、耐摩耗性を向上できる高クロム鋳鉄を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の実施の形態による高クロム鋳鉄は、マンガンの含有量が2.15重量%〜3.5重量%である。
【発明の効果】
【0009】
この発明の実施の形態によれば、高クロム鋳鉄は、マンガンの含有量が2.15重量%〜3.5重量%である。その結果、高クロム鋳鉄の焼入れ時の冷却時間が207分から828分と大きく異なっても、高クロム鋳鉄の硬さは、61HRC以上になる。即ち、焼きが入り難い冷却時間を要する場合であっても、高クロム鋳鉄の硬さは、61HRC以上になる。
【0010】
従って、高クロム鋳鉄の耐摩耗性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】高クロム鋳鉄の試験片を示す斜視図である。
図2】焼入れ時の温度と時間との関係を示すチャートである。
図3図1に示す試験片の側面図である。
図4】高クロム鋳鉄の硬さとMnの含有量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0013】
この発明の実施の形態による高クロム鋳鉄は、炭素(C)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、リン(P)およびイオウ(S)を含み、マンガン(Mn)の含有量が2.15重量%〜3.5重量%である。
【0014】
この発明の実施の形態による高クロム鋳鉄は、2.15重量%〜3.5重量%のMnを含む結果、高クロム鋳鉄の厚み方向の各部位において、焼入れ時の冷却時間が207分、414分および828分と大きく異なっても、高クロム鋳鉄の厚み方向の各部位における硬さが基準値以上の値を有する。そして、基準値は、摩耗の加速度的な進行を防止できる最小値である61HRCである。
【0015】
高クロム鋳鉄の硬さを測定する実験方法について説明する。図1は、高クロム鋳鉄の試験片を示す斜視図である。図1を参照して、試験片10は、40mm×30mm×20mmの大きさを有する。
【0016】
Mnの含有量が異なる平板状の高クロム鋳鉄から試験片10を切り出し、全ての試験片10について焼入れを行なう。
【0017】
そして、焼入れ後、破線で試験片10を切断し、部位aの硬さを測定する。
【0018】
図2は、焼入れ時の温度と時間との関係を示すチャートである。図2において、縦軸は、温度を表し、横軸は、時間を表す。
【0019】
図2を参照して、試験片10は、炉床昇降式高温炉(丸祥電気製)に入れられ、100℃/hの昇温レートで室温から1000℃に昇温され、その後、3.2時間、1000℃で熱処理される。
【0020】
そして、試験片10は、t分間で1000℃から300℃に冷却される。その後、試験片10は、炉床昇降式高温炉の電源がオフされた状態で炉床昇降式高温炉内で100℃以下の温度まで自然冷却され、炉床昇降式高温炉から取り出される。これによって、焼入れが終了する。
【0021】
なお、試験片10の温度は、試験片10に熱電対を溶接して測定された温度である。
【0022】
試験片10を1000℃から300℃まで冷却する冷却時間tは、次のように決定された。
【0023】
仮に、975℃から300℃までの冷却時間を200分とすると、冷却速度は、(975−300)/200=3.375(℃/分)である。従って、1℃冷却するために要する時間は、200/(975−300)=0.296(分/℃)である。
【0024】
その結果、1000℃から300℃まで同じ速度で冷却するとすれば、冷却時間は、0.296×(1000−300)=207(分)である。
【0025】
肉厚が厚い製品(竪型破砕機のタイヤおよびテーブル等)の場合、製品の表面では早く冷却されるが、製品の肉厚中心部に近づくほど、遅く冷却される。このように、厚み方向の位置により、冷却速度が異なるため、製品の表面の冷却速度をV、肉厚中心の冷却速度をV/4、表面と肉厚中心の中心の冷却速度をV/2と仮定した。これらの冷却速度に対応して、冷却時間を207分、828分(=207分×4)、および414分(=207分×2)に各々設定した試験片10を製作した。
【0026】
一般的に、焼入れの冷却速度が早い方が焼きが入り易くなり、焼入れの冷却速度が遅くなると焼きが入り難くなり、硬さが低下する。
【0027】
従って、焼入れの冷却時間が変わっても、試験片10の厚み方向において硬さを一定値以上に維持できれば、試験片10全体として耐摩耗性を有することになる。
【0028】
図3は、図1に示す試験片10の側面図である。図3を参照して、焼入れ後の硬さは、ロックウェル硬さ試験機を用いて、試験片10のb,c,d,e,f,g,hの7点において測定された。そして、7点の間隔は、5mmに設定された。
【0029】
7点について硬さを測定し、その7点の硬さの平均値を1つの試験片の硬さとした。
【0030】
図4は、高クロム鋳鉄の硬さとMnの含有量との関係を示す図である。図4において、縦軸は、高クロム鋳鉄の硬さを表し、横軸は、Mnの含有量を表す。また、曲線k1は、焼入れ時の冷却時間が207分の試験片の硬さとMnの含有量との関係を示し、曲線k2は、焼入れ時の冷却時間が414分の試験片の硬さとMnの含有量との関係を示し、曲線k3は、焼入れ時の冷却時間が828分の試験片の硬さとMnの含有量との関係を示す。
【0031】
図4を参照して、Mnの含有量が2.15重量%〜3.5重量%であるとき、高クロム鋳鉄の硬さは、焼入れ時の冷却時間が207分、414分および828分の部位の全てにおいて、61HRC以上になる。
【0032】
一方、Mnの含有量が2.15重量%よりも少ない領域では、高クロム鋳鉄の硬さは、焼入れ時の冷却時間が長くなるに従って低下する傾向にあり、焼入れ時の冷却時間が828分では、高クロム鋳鉄の硬さは、61HRCよりも大幅に低下する。
【0033】
また、Mnの含有量が3.5重量%よりも多い領域では、全ての冷却時間の試験片の硬さは低下する。
【0034】
そして、61HRCの硬さは、上述したように、摩耗の加速度的な進行を防止できる最小値である。
【0035】
その結果、Mnの含有量が2.15重量%〜3.5重量%であるとき、高クロム鋳鉄の硬さは、厚み方向において、冷却時間が207分、414分および828分と大きく異なる各部位において、摩耗の加速度的な進行を防止できる基準値以上の値を有する。
【0036】
従って、2.15重量%〜3.5重量%のMnを含む高クロム鋳鉄において、耐摩耗性を向上できる。
【0037】
また、Mnの含有量が3.13%であるとき、高クロム鋳鉄の硬さは、62〜63HRCの範囲の値を取り、最もばらつきが小さい。
【0038】
更に、Mnの含有量が3.3重量%であるとき、高クロム鋳鉄の硬さは、63〜64HRCの範囲の値を取り、最も硬くなる。
【0039】
従って、Mnの含有量は、好ましくは、3.13重量%〜3.3重量%に設定される。
【0040】
Mnの含有量が0.59重量%、2.15重量%、2.45重量%、3.13重量%、3.29重量%、3.55重量%および4.02重量%である高クロム鋳鉄の各成分の含有量を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1からわかるように、Mnの含有量が0.59重量%から4.02重量%へと変化している。従って、Mnの含有量を変化させて、Mnの含有量を2.15重量%〜3.5重量%の範囲に設定することによって、焼入れ時の冷却時間が828分と長くなっても(即ち、冷却速度が遅くなって、焼きが入り難くなっても)、高クロム鋳鉄の硬さは、高クロム鋳鉄の厚み方向において61HRC以上に維持される。
【0043】
このように、この発明の実施の形態による高クロム鋳鉄は、焼入れ時の冷却時間が長くなっても(即ち、冷却速度が遅くなって、焼きが入り難くなっても)、硬さを基準値(=61HRC)以上に維持するために効果的なMnの含有量を2.15重量%〜3.5重量%の範囲、好ましくは、3.13重量%〜3.3重量%の範囲に設定することを特徴とする。その結果、高クロム鋳鉄の耐摩耗性を向上できる。
【0044】
上述したように、この発明の実施の形態による高クロム鋳鉄は、含有量が2.15重量%〜3.5重量%であるMnを含むので、焼入れ時の冷却時間が207分、414分および828分と大きく異なっても61HRC以上の硬さを有する。
【0045】
従って、この発明の実施の形態による高クロム鋳鉄は、耐摩耗性が要求される製品に用いられ、具体的には、粉砕機、粉砕機の打撃板、衝突板、およびライナに好適であり、特に、堅型粉砕機のテーブルライナ、およびローラータイヤに好適である、また、この発明の実施の形態による高クロム鋳鉄は、鉄鋼関連の圧延ロール等に好適に使用される。
【0046】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0047】
この発明は、高クロム鋳鉄に適用される。
【符号の説明】
【0048】
10 試験片。
図1
図2
図3
図4