【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例について説明する。ここでは、組成の異なる赤色蛍光体を作製し、これら赤色蛍光体のX線回折パターン及び量子効率について評価した。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[赤色蛍光体の作製]
【0055】
アルカリ土類金属元素A、ユーロピウム(Eu)、シリコン(Si)、炭素(C)、酸素(O)、および窒素(N)を、下記組成式(1)の原子数比で含有する赤色蛍光体を、
図1に示すフローチャートを用いて説明した手順に従って以下のように作製した。
【0056】
【化12】
【0057】
ただし、組成式(1)中、アルカリ土類金属元素Aは、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、またはバリウム(Ba)の少なくとも1つである。また、組成式(1)中、m、x、y、nは、3<m<5、0<x<1、0<y<1、0<n<10なる関係を満たす。また、Caの原子数比をα、Srの原子数比をβ、その他の2族元素の原子数比をγとしたとき、m=α+β+γを満たす。
【0058】
先ず、「原料混合工程」S1を行った。ここでは、炭酸カルシウム(CaCO
3)、炭酸ストロンチウム(SrCO
3)、窒化ユーロピウム(EuN)、窒化シリコン(Si
3N
4)、およびメラミン(C
3H
6N
6)を用意した。用意した各原料化合物を秤量し、窒素雰囲気中のグローボックス内で、メノウ乳鉢内で混合した。
【0059】
次に、「第1熱処理工程」S2を行った。ここでは、窒化ホウ素製坩堝内に上記混合物を入れて、水素(H
2)雰囲気中で1400℃、2時間の熱処理を行った。
【0060】
次に、「第1粉砕工程」S3を行った。ここでは、窒素雰囲気中のグローボックス内で、メノウ乳鉢を用いて、上記第1焼成物を粉砕し、その後、#100メッシュ(目開きが約200μm)に通して、平均粒径が3μm以下の粒径の第1焼成物を得た。
【0061】
次に、「第2熱処理工程」S4を行った。ここでは、第1焼成物の粉末を窒化ホウ素製坩堝内に入れて、0.85MPaの窒素(N
2)雰囲気中で1800℃、2時間の熱処理を行った。これにより、第2焼成物を得た。
【0062】
次に、「第2粉砕工程」S5を行った。ここでは、窒素雰囲気中のグローボックス内において、メノウ乳鉢を用いて上記第2焼成物を粉砕した。#420メッシュ(目開きが約26μm)を用いて、平均粒径が3.5μm程度になるまで粉砕した。
【0063】
このような方法により、微粉末(例えば平均粒径が3.5μm程度)の赤色蛍光体を得た。赤色蛍光体における、元素A、Eu、Siに関してはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析装置にて分析し、Cについては、ICP発光分析装置および酸素気流中燃焼−NDIR検出方式(装置:EMIA−U511(堀場製作所製))にて分析した。この赤色蛍光体をICP発光分析装置にて分析した結果、原材化合物中に含まれる組成式(1)を構成する元素A、Eu、Si、Alに関しては、ほぼそのままのモル比(原子数比)で赤色蛍光体中に含有されることが確認された。
【0064】
赤色蛍光体における炭素の含有量(y)は、ICP発光分析装置および酸素気流中燃焼−NDIR検出方式にて分析した結果、0<y<1なる関係を満たしており、添加されたメラミン量に応じて増加することが確認された。なお、炭素の含有量(y)の最小値は、0.012であった。
【0065】
[メラミン添加量、カルシウム含有量に対するX線回折パターン及び量子効率の評価]
各赤色蛍光体について、メラミン添加量及びカルシウム含有量を変化させたときのX線回折パターン及び量子効率を測定した。X線回折パターンは、粉末X線解析計(株式会社リガク製)を用いて、Cu−Kα線のX線回折パターンを調べた。量子効率は、日本分光社製分光蛍光光度計FP−6500を用いて測定した。専用セルに蛍光体粉末を充填し、波長450nmの青色励起光を照射させて、蛍光スペクトルを測定した。その結果を、分光蛍光光度計付属の量子効率測定ソフトを用いて、赤色の量子効率を算出した。蛍光体の効率は、例えば、励起光を吸収する効率(吸収率)、吸収した励起光を蛍光に変換する効率(内部量子効率)、及びそれらの積である励起光を蛍光に変換する効率(外部量子効率)の三種で表されるが、外部量子効率が重要である。ここでは、重要な外部量子効率について算出した。
【0066】
<カルシウムの含有量(α/(α+β))=0の場合>
図5は、メラミン添加量を変化させたときの赤色蛍光体の発光スペクトルを示す図である。
図5は、カルシウムの含有量(α/(α+β))が0の各赤色蛍光体(m=3.6、Eu濃度(x)=0.135、γ=0)に関する結果を示す。
図5に示すように、メラミンの添加量を増加させるにつれて、発光強度が向上し、発光が短波長側にシフトすることが分かった。
【0067】
図6及び
図7は、赤色蛍光体のXRDスペクトルを示す図である。
図8は、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する各回折角でのピークの強度のピーク強度比を示すグラフである。メラミン添加量と回折強度の相対比とを表1に、メラミン添加量と実際に回折強度の得られた角度とを表2に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
図6〜
図8に示すように、回折角が35.0°〜36.0°の位置、すなわち、2θ=35.5°付近に(113)面に相当するピークが存在し、回折角が36.0°〜36.6°の位置、すなわち、2θ=36.3°付近に(122)面に相当するピークが存在し、2θ=36.3°付近のピークの強度がメラミンの添加量に比例して強くなっていることが分かった。
【0071】
図9は、メラミン添加量と、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比との関係を示す図である。メラミン添加量にほぼ比例して、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比が強くなることが分かった。また、メラミン添加量が65mol%のときに、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比が最も強いことが分かった。
【0072】
図10は、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比と、ピーク波長との関係を示す図である。
図10に示すように、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークのピーク強度比にほぼ比例して、ピーク波長が短波長側にシフトすることが分かった。
【0073】
図11は、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比と、外部量子効率との関係を示す図である。回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比に比例して、外部量子効率が向上することが分かった。また、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークのピーク強度比が約0.52以上の範囲において、外部量子効率が60%を超える結果が得られることが分かった。
【0074】
図12は、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比と、相対輝度との関係を示す図である。回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比に比例して、相対輝度が向上することが分かった。
<カルシウムの含有量(α/(α+β))=0.1の場合>
【0075】
図13は、メラミン添加量を変化させたときの赤色蛍光体の発光スペクトルを示す。
図13は、カルシウムの含有量(α/(α+β))が0.1の各赤色蛍光体(m=3.6、Eu濃度(x)=0.135、γ=0)に関する結果を示す。
図13に示すように、メラミンの添加量を増加させるにつれて、発光強度が向上し、発光が短波長側にシフトすることが分かった。
【0076】
図14及び
図15は、赤色蛍光体のXRDスペクトルを示す図である。
図16は、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する各回折角でのピークの強度のピーク強度比を示すグラフである。
【0077】
メラミン添加量と回折強度の相対比とを表3に、メラミン添加量と実際に回折強度の得られた角度とを表4に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
図14〜
図16に示すように、回折角が35.0°〜36.0°の位置、すなわち、2θ=35.5°付近に(113)面に相当するピークが存在し、回折角が36.0°〜36.6°の位置、すなわち、2θ=36.3°付近に(122)面に相当するピークが存在し、2θ=36.3°付近のピークの強度がメラミンの添加量に比例して強くなっていることが分かった。また、2θ=31.3°付近に(200)面に相当するピークが小さくなり、2θ=31.6°付近に(013)面に相当するピークが小さくなっていることが分かった。
【0081】
図17は、メラミン添加量と、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比との関係を示す図である。メラミン添加量にほぼ比例して、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークのピーク強度比が強くなることが分かった。
【0082】
図18は、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比と、ピーク波長との関係を示す図である。
図18に示すように、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークのピーク強度比にほぼ比例して、ピーク波長が短波長側にシフトすることが分かった。
【0083】
図19は、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比と、外部量子効率との関係を示す図である。回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比が0.65付近までは、ピーク強度比に比例して、外部量子効率が向上することが分かった。また、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークのピーク強度比が約0.57以上の範囲において、外部量子効率が60%を超える結果が得られることが分かった。
【0084】
図20は、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比と、相対輝度との関係を示す図である。回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比にほぼ比例して、相対輝度が向上することが分かった。
【0085】
<カルシウムの含有量(α/(α+β))=0.2の場合>
図21は、メラミン添加量を変化させたときの赤色蛍光体の発光スペクトルを示す。
図21は、カルシウムの含有量(α/(α+β))が0.2の各赤色蛍光体(m=3.6、Eu濃度(x)=0.135、γ=0)に関する結果を示す。
図21に示すように、メラミンの添加量を増加させるにつれて、発光強度が向上し、発光が短波長側にシフトすることが分かった。
【0086】
図22及び
図23は、赤色蛍光体のXRDスペクトルを示す図である。
図24は、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する各回折角でのピークの強度のピーク強度比を示すグラフである。
【0087】
メラミン添加量と回折強度の相対比とを表5に、メラミン添加量と実際に回折強度の得られた角度とを表6に示す。
【0088】
【表5】
【0089】
【表6】
【0090】
図22〜
図24に示すように、回折角が35.0°〜36.0°の位置、すなわち、2θ=35.5°付近に(113)面に相当するピークが存在し、回折角が36.0°〜36.6°の位置、すなわち、2θ=36.3°付近に(122)面に相当するピークが存在し、2θ=36.3°付近のピークの強度がメラミンの添加量に比例して強くなっていることが分かった。
【0091】
図25は、メラミン添加量と、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比との関係を示す図である。メラミン添加量にほぼ比例して、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比が強くなることが分かった。
【0092】
図26は、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比と、ピーク波長との関係を示す図である。
図26に示すように、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークのピーク強度比にほぼ比例して、ピーク波長が短波長側にシフトすることが分かった。
【0093】
図27は、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比と、外部量子効率との関係を示す図である。回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比に比例して、外部量子効率が向上することが分かった。また、ピーク強度比が約0.58以上の範囲において、外部量子効率が60%を超える結果が得られることが分かった。
【0094】
図28は、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比と、相対輝度との関係を示す図である。回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比にほぼ比例して、相対輝度が向上することが分かった。
<カルシウムの含有量(α/(α+β))=0、0.1、0.2の場合のまとめ>
【0095】
図29は、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比と、外部量子効率との関係を示す図である。
【0096】
カルシウムの含有量(α/(α+β))が、0≦α/(α+β)≦0.3なる関係を満たす範囲において、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度のピーク強度比に比例して、外部量子効率が向上することが分かった。
【0097】
また、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークのピーク強度比が約
0.52以上の範囲において、外部量子効率が60%を超える結果が得られることが分かった。
【0098】
さらに、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークの強度に対する、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークのピーク強度比が約0.63以上の範囲において、外部量子効率が65%を超える結果が得られることが分かった。
【0099】
以上のような結果は、X線回折パターンにおいて、回折角が36.0°〜36.6°の位置に存在するピークの強度が、回折角が35.0°〜36.0°の位置に存在するピークに対してピーク強度比が所定の値より大きい結晶構造が、高い量子効率に寄与していると考えられる。