【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 掲載年月日 平成23年5月11日 掲載アドレス http://www.csj.or.jp/conference/2011s/2A.pdf(7ページ目)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構、省エネルギー革新技術開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
<超電導回転機の構成>
図1は本発明の制御方法における制御対象たる超電導回転機1の回転軸方向を含む断面図である。超電導回転機1は、概略的にいえば、2次側かご形巻線に高温超電導材料を用いたかご形誘導機である。
図1に示すように、超電導回転機1は、ケーシング2と、固定子3と、ブラケット4a、4bと、回転子7とを、主として備える。
【0015】
固定子3は、環状の固定子鉄心3aと、固定子鉄心3aの図示しないスロット内に設けられた固定子巻線(一次巻線)3bとから構成される。固定子鉄心3aは、珪素鋼板等の電磁鋼板を軸方向に積層してなるものである。また、固定子巻線3bは常電導材からなっている。
【0016】
回転子7は、固定子3(固定子鉄心3a)の内側に、固定子3と離間させて配置されている。回転子7は、回転子鉄心71と、超電導かご形巻線73と、常電導かご形巻線74と、回転軸75とから構成される。
図2は回転子7の回転軸方向に垂直な断面についての断面図である。
【0017】
図3は、回転子鉄心71を示す図である。回転子鉄心71は、
図3に示すような中空円柱状の部材であり、珪素鋼板等の電磁鋼板を軸方向に積層してなるものである。
図2および
図3に示すように、回転子鉄心71の軸中心部には、回転軸受容孔71aが形成されており、丸棒状の回転軸75が挿入されて取り付けられてなる。また、回転子鉄心71の外周近傍には、軸方向に貫通する複数のスロット72が、周方向に所定間隔をあけて形成されている。スロット72は、回転子鉄心71の軸方向(回転軸75の延在方向)に対して斜めに形成され、斜めスロット(スキュー)構成とされている。ただし、本発明においてスロッ72がスキュー構成を有することは必須の態様ではない。
図1に示すように、スロット72には、超電導かご形巻線73のロータバー73aおよび常電導かご形巻線74のロータバー74aが収容される。
【0018】
図4は、超電導かご形巻線73を示す図である。超電導かご形巻線73は、
図4に示すように、複数のロータバー73aと、各ロータバー73aの両端をそれぞれ短絡させる1対のエンドリング73b、73bとから構成される。
【0019】
より詳細には、ロータバー73aは、超電導線材を複数本束ねてなる、断面視矩形状の部材である。ただし、断面が矩形であることは必須の態様ではない。例えば、断面視円形状をなしていてもよい。超電導線材は、複数本の高温超電導フィラメントを、銅、アルミニウム、銀、金等の高導電性金属によって被覆して構成されている。なお、高温超電導フィラメントにはビスマス系高温超電導材料からなるものを用いるのが好適であるが、他の高温超電導材料からなるフィラメントを用いる態様であってもよい。
【0020】
エンドリング73bは、ロータバー73aと同様に超電導線材からなる、環状の部材である。1対のエンドリング73b、73bにはそれぞれ、ロータバー73aの各端部がハンダ接合される。
【0021】
図5は、常電導かご形巻線74を示す図である。常電導かご形巻線74は、
図5に示すように、複数のロータバー74aと、各ロータバー74aの両端をそれぞれ短絡させる1対のエンドリング74b、74bとから構成される。
【0022】
ロータバー74aは、銅、アルミニウム、銀、金等の高導電性材からなる、断面視矩形状の部材である。ただし、断面が矩形であることは必須の態様ではない。例えば、断面視円形状をなしていてもよい。また、エンドリング74bも、ロータバー74aと同様に、銅、アルミニウム、銀、金等の高導電性材からなっている。1対のエンドリング74b、74bにはそれぞれ、ロータバー74aの各端部がハンダ接合される。
【0023】
ロータバー73aとロータバー74aとは、周方向に所定間隔をあけて、かつ、超電導かご形巻線73の軸方向に対して斜めに配置されている。これにより、超電導かご形巻線73および常電導かご形巻線74は、ともに、円筒状かつスキュー構造を有するものとなっている。しかも、ロータバー73aとロータバー74aとは、回転子鉄心71に設けられてなる全てのスロット72に、過不足なく配置されている。ただし、
図1および
図2に示すように、スロット72内においては、ロータバー74aの方がロータバー73aよりも外側に配置される。
【0024】
また、ロータバー73aとロータバー74aは、スロット72よりも長い。それゆえ、
図1に示すように、スロット72に収容された状態においては、ロータバー73aとロータバー74aとはスロット72から突出している。
【0025】
ケーシング2は、固定子3の(より厳密には、固定子鉄心3aの)外周を覆う円筒状の部材である。また、ブラケット4a、4bは、ケーシング2の開口している2つの端部にそれぞれ嵌め合わされる、略円板状の部材である。ただし、ブラケット4aの中央部には、回転軸75を貫通させる貫通孔4hが設けられている。なお、ブラケット4a、4bには、回転軸75を回転自在に支持するベアリング等の軸受け5a、5bが設けられている。
【0026】
<超電導回転機の基本動作>
次に、以上のような構成を有する超電導回転機1の動作態様について説明する図である。
図6は、超電導電動機のトルク特性(すべりsに対するトルクTの変化)を示す図である。なお、
図6に示すトルク特性におけるフェーズF1、F2、F3は、超電導かご形巻線73の電導状態と、回転子7の回転モードとの組合せが異なる3つの状況にそれぞれ対応する。
【0027】
まず、超電導かご形巻線73が常電導状態(非超電導状態)にある場合、固定子3による回転磁界に起因して常電導かご形巻線74に誘導電流が流れ、誘導トルクが生じる。この場合、回転子7は該誘導トルク主動で回転する。このときのトルク特性を示すのが
図6のフェーズF1である。
【0028】
超電導回転機1がこのような誘導回転をしている状態においては、超電導かご形巻線73にも若干の誘導電流が流れる。しかし、常電導状態にある超電導かご形巻線73と常電導かご形巻線74との抵抗値の違いから、この状態では、常電導かご形巻線74を流れる誘導電流の方が超電導かご形巻線73を流れる誘導電流よりもはるかに大きい。それゆえ、回転子7超電導かご形巻線73に生じる誘導トルクよりも、常電導かご形巻線74に生じる誘導トルクの方が、回転子7の回転に際して支配的となる。
【0029】
次に、超電導かご形巻線73が常電導状態から超電導状態に転移すると、超電導かご形巻線73が、固定子3による回転磁界の磁束を捕捉する磁束捕捉状態となることで、同期トルクが生じる。このとき、回転子7は当該同期トルク主動で回転する。このときのトルク特性を示すのが
図6のフェーズF2である。
【0030】
この同期回転時には、ロータバー73aとエンドリング73bの接続抵抗等の影響により、極めてわずかなすべりが生じることがある。しかしながら、この場合も、機器特性としては同期回転を行っているとみなすことができる。
【0031】
また、このように同期回転をしている状態において、超電導回転機1に過大な負荷が加わった場合、超電導かご形巻線73は磁束捕捉状態から磁束フロー状態に移行するが、回転子7の回転は、誘導トルク主動で継続される。このときの誘導トルクは、磁束フロー状態にある超電導かご形巻線73および常電導かご形巻線74の両方から提供される。このときのトルク特性を示すのが
図6のフェーズF3である。
【0032】
すなわち、超電導回転機1は、
図6に示すようなトルク特性を有し、常電導状態においては誘導トルク主動で動作し、超電導状態においては、通常負荷時には同期トルク主動で、過負荷時に誘導トルク主動で動作する。
【0033】
<超電導回転機システム>
図7は、上述のような構成を有する超電導回転機1を組み込んだ超電導回転機システム100の概略構成を示す図である。
【0034】
超電導回転機システム100は、超電導回転機1と、冷却装置11と、コントローラ12と、インバータ13と、バッテリー14とを主として備える。また、超電導回転機1は、その回転軸75に負荷15が接続されている。負荷15は、例えば超電導回転機1が電機自動車の電動機(モータ)として車両に搭載される場合であれば、車軸を介して連結される車輪(駆動輪)である。
【0035】
冷却装置11は、冷媒供給路11aと、超電導回転機1の回転軸75と回転子鉄心71とに設けられ、冷媒供給路11aと連通する図示しない内部冷媒供給路とを通じて、回転子7のスロット72内に冷媒を供給する。これにより、超電導回転機1に備わる超電導かご形巻線73が臨界温度未満に冷却される。冷媒としては、ヘリウムガスや液体窒素等が用いられる。
【0036】
コントローラ12は、駆動信号Smとして与えられる外部からの動作指示に基づいて、超電導回転機1の動作を制御する。併せて、冷却装置11による冷却動作も制御する。
【0037】
前者についていえば、コントローラ12は、超電導回転機1から絶えず入力される、固定子巻線3b内を流れる1次電流の信号である1次電流信号SIに基づき、インバータ13を介して、超電導回転機1の固定子巻線3bに印加される交流電圧の電圧Vおよび周波数fを独立に制御する。これにより、超電導回転機1の回転数Nおよびトルクτがフィードバック制御される。
【0038】
コントローラ12の図示しない記憶部には、超電導回転機1が誘導トルク主動で回転する際に用いる誘導回転用制御パターンと、超電導回転機1が同期トルク主動で回転する際に用いる同期回転用制御パターンとが、あらかじめ記憶されている。誘導回転用制御パターンは、従来の誘導回転機に対して用いられる公知の制御パターンと同様のものである。また、同期回転用制御パターンは、従来の同期電動機に対して用いられる公知の制御パターンと同様のものである。
【0039】
コントローラ12にはさらに、1次電流信号SIに対するしきい値I
THが格納されている。しきい値I
THは、固定子巻線3bに印加される電圧Vとその周波数fの比V/fの値ごとに、あらかじめ設定される。なお、V/fは、超電導かご形巻線73への鎖交磁束の量に比例し、さらには、超電導かご形巻線73に加わるトルクに比例する値である。
【0040】
具体的には、しきい値I
THは、超電導回転機1を実際に動作させて常電導状態から超電導状態へと移行させたときの、超電導状態での1次電流信号SIの値に基づいて設定される。90%値として設定するのが好適な一例である。
【0041】
しきい値I
THは、コントローラ12において、超電導回転機1の動作が同期トルク主動か否かを判定し、適用する制御パターンをする決定する際に用いられる。すなわち、コントローラ12は、1次電流信号SIの値がしきい値I
THよりも小さければ、超電導回転機1が同期トルク主動で動作していると判定し、同期回転用制御パターンを適用して超電導回転機1を制御する。1次電流信号SIの値がしきい値I
TH以上であれば、超電導回転機1が誘導トルク主動で動作していると判定し、誘導回転用制御パターンを適用して超電導回転機1を制御する。
【0042】
<同期回転動作時の安定制御>
次に、超電導回転機システム100において超電導回転機1を同期トルク主動の同期回転で動作させる際の、安定制御について説明する。
【0043】
図8は、超電導回転機1の超電導かご形巻線73の電流電圧特性を示す図である。なお、
図8および以降の説明においては、超電導かご形巻線73自体の電流Iおよび電圧Vについて、添字sを付けて区別する。
図8に示すように、超電導かご形巻線73の電流電圧特性は、0≦Vs≦V1では直線Laに従い、Vs>V1では曲線Lbに従う。ただし、V1はIs=Ic(臨界電流)となる電圧値である。
【0044】
超電導かご形巻線73の電流電圧特性は、理想的には、その構成材たる超電導材料(ビスマス系高温超電導材料)自体の電流電圧特性のみに従うべきものであるが、実際の超電導かご形巻線73の導通経路には、ロータバー73aとエンドリング73bとを接合しているハンダなどの常電導材料(導体)が、わずかながら介在している。そのため、超電導かご形巻線73の超電導材料が超電導状態であったとしても、超電導かご形巻線73全体としては、常電導材料の抵抗が無視できなくなるため、有限の抵抗を有することになる。この場合の超電導かご形巻線73の電流電圧特性は、オームの法則に従うものとなり、これが、直線Laに該当する。具体的には、直線Laは、次の(1)式で表される。
【0045】
Vs=R・Is・・・・・(1)
ここで、抵抗値Rは超電導かご形巻線73に介在する常電導材料の材質や使用態様(例えば使用量、使用面積その他)などによって定まる定数であり、直線Laの傾きを表す値でもある。0≦R≦約10mΩであるが、常電導材料の抵抗を事実上無視できる場合、R=0としてもよい。
【0046】
一方、超電導かご形巻線73に臨界電流Icを超えた電流が流れると、超電導かご形巻線73は損失状態(超電導状態でありながら損失の発生する磁束フロー状態)となり、超電導材料自体にも抵抗(非線形抵抗)が生じる。この状態を表したのが、曲線Lcである。ただし、厳密には、超電導かご形巻線73の電流電圧特性は、直線Laと曲線Lcとを重ね合わせた曲線Lbにて表される。そして、電流値が大きくなるほど、超電導かご形巻線73全体としても、超電導材料自体の電流電圧特性が支配的となる。曲線Lcは例えば次の(2)式で表される。
【0047】
Vs=Vc(Is−Ic)
n・・・・・(2)
なお、Vcは定数である。また、nは超電導かご形巻線73に使用した超電導材料に応じて定まる値であり、n>1である。この場合、
図8において曲線Lb上の任意のデータ点(I、V)と原点とを結ぶ直線の傾きがそのデータ点についての抵抗値Rrとなる。超電導かご形巻線73の抵抗値RrはIs、Vsの関数である。そして、
図8から明らかなように、この場合の抵抗値Rrは、直線Laに従う場合の抵抗値R以上となる。すなわち、曲線Lbの範囲では超電導材料は非線形抵抗を有する。本実施の形態においては、係る非線形抵抗を利用して、超電導回転機1の同期回転の安定制御を実現する。
【0048】
概略的にいえば、定常動作時においては、超電導かご形巻線73が
図8の直線Laで表される電流電圧特性をみたすように、固定子巻線3bへの印加電圧Vとその周波数fとを独立に制御する。一方で、可変速時など、同期回転での動作が不安定化しそうな場合、超電導かご形巻線73を意図的にかつ瞬時に
図8の曲線Lbの範囲をみたす磁束フロー状態とすることにより回転子7に誘導トルク主動での回転状態をいったん実現させたうえで、所望する回転数での同期回転に移行することで、同期回転動作の安定性を保つようにする。
【0049】
例として、
図8の直線Laで表される電流電圧特性のもと、あらかじめ設定された固定子巻線3bへの印加電圧Vとその周波数fの比に対応した第1の同期回転数で回転子7が同期回転している状態(第1のトルクを負った状態)から、第2の同期回転数で同期回転する状態(第2のトルクを負った状態)へと移行する可変速時を考える。
【0050】
まず、回転子7が第1の同期回転数で同期回転しているとき、
図6のフェーズF2の状態が実現されている。このとき、超電導かご形巻線73は鎖交磁束を捕捉し、かつ、
図8の直線Laの範囲をみたしている。
【0051】
この状態において、外部から、係る可変速を実行する旨の駆動信号Smとして与えられると、コントローラ12は、直ちに、固定子巻線3bへの印加電圧Vとその周波数fとを変化させることにより、超電導かご形巻線73を流れる電流が臨界電流を超えるまで、比V/fをいったん増大させる。
【0052】
超電導かご形巻線73に臨界電流を超えた電流が流れると、超電導かご形巻線73は、
図8の曲線Lbで表される電流電圧特性をみたす磁束フロー状態となる。このとき、超電導かご形巻線73には、超電導状態における抵抗値Rよりも十分大きな(無視することのできない程度に大きな)抵抗値Rrが生じる。これにより、
図6のフェーズF3の状態が実現されて、回転子7は、いったん誘導トルク主動で回転するようになる。
【0053】
回転子7が誘導トルク主動で回転し始めると、コントローラ12は、比V/fが外部から指示された第2の同期回転数に応じた値となるように、固定子巻線3bへの印加電圧Vとその周波数fとを変化させる。これに伴い、回転子7の回転数が変化し、ほどなく、回転子7と固定子3が作り出す回転磁界との相対速度は小さくなる。これとともに、超電導かご形巻線73を流れる電流も小さくなって、臨界電流を下回るようになる。すると、超電導かご形巻線73が鎖交磁束を捕捉し、再び
図6のフェーズF2の状態が実現される。以降、回転子7は、第2の同期回転数にて同期トルク主動で安定に回転する。
【0054】
以上のような制御を行うことで、超電導回転機1は、第1の同期回転数で同期回転動作する状態から、第2の同期回転数で同期回転動作する状態へと移行できたことになる。しかも、係る移行の間、回転子7の回転動作が不安定になることはない。また、実際に移行に要する時間は、例えば自動車の場合であれば長くても十数秒程度である。すなわち、超電導回転機1について想定される運転動作の継続時間(少なくとも数分程度)からみれば、係る誘導トルク主動での動作は瞬間的なものであり、実質的には、同期運転動作が安定的に保たれているといって差し支えない。
【0055】
すなわち、ある同期回転数で同期回転をしている際に、いったん比V/fの値が増大するように固定子巻線3bへの印加電圧Vとその周波数fとを変化させて、誘導トルク主動での回転を生じさせた後に、比V/fを新たな同期回転数に応じた値となるように印加電圧Vとその周波数fとを変化させれば、新たな同期回転数での同期回転にスムーズに移行することができる。
【0056】
以上の態様による制御は、同期回転時の任意の可変速に適用することができる。加えて、第2の同期回転数が第1の同期回転数と同じである場合にも同様の制御が適用可能である。このことは、上述の制御が、同期回転時全般に適用できることを意味している。
【0057】
具体的には、コントローラ12は、超電導回転機1がある同期回転数で同期回転動作をしている際に回転子7の同期回転が不安定化しそうになると、いったん比V/fの値を大きくして誘導トルク主動での回転に移行させた後、比V/fを、再び元の同期回転数を与える値に設定する。なお、コントローラ12においては、回転数N、トルクτ、および1次電流信号SIの値の変化に基づいて、回転子7の回転が不安定化し始めたことを検知することができる。
【0058】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、固定子巻線への印加電圧とその周波数とを制御することによって、磁束フロー状態における誘導トルク主動での回転動作を瞬間的に利用することにより、可変速を行う場合をはじめ、超電導回転機の同期トルク主動での回転動作を安定的に継続させることができる。つまりは、超電導回転機を自立安定的に運転することができる。
【0059】
なお、
図8の直線Laの範囲での電流電圧特性は、従来の常電導材料からなるかご形誘導機の電流電圧特性と何ら変わるところはないため、この直線Laの範囲内で同期回転を安定化させようとすることは困難である。すなわち、回転子7を、ある同期回転数で回転していた状態から別の同期回転数によって回転する状態へと移行させる可変速を行う場合、直接に比V/fを直接に所望する同期回転数に応じた値に設定したとしても、超電導かご形巻線73における抵抗値Rは小さいままであるため、新たな回転数での回転に安定的に移行させることは難しい。
【0060】
<シミュレーションによる解析例>
上述した安定制御が必要であること、および係る安定制御が実現可能であることを示すべく、シミュレーションによる解析を行った。以下、その結果について説明する。
【0061】
シミュレーションにおいては、超電導回転機1は、3相4極のかご形誘導機であるとした。超電導かご形巻線73はDI−BSCCO(登録商標)線材を用いて構成した。また、固定子巻線3bには既存の8/9分布短節巻銅巻線を用いた。運転温度は77Kとし、同期最大出力は1.5kWとした。
【0062】
解析には、Matlab(登録商標)/Simulink(登録商標)を用いた。その際には、(1)式および(2)式のほか、後記する電圧方程式および力学方程式を適用した。なお、(1)式においてはR=1×10
-5Ωとした。(2)式においてはn=23.05とした。また、銀シース材への電流分流の効果も考慮した。
【0063】
図9は、超電導回転機1の無負荷特性および負荷特性について、解析結果と実測値とを対比する図である。
図9(a)が無負荷特性を示し、
図9(b)が負荷特性(トルク特性)を示している。なお、
図9(a)において、横軸の入力電圧(Input Voltage)Vは固定子巻線3bへの印加電圧であり、縦軸は回転子7の回転数(Rotation Speed)である。
図9(a)、(b)ともに、解析結果が実測値とよく符合している。これは、シミュレーションに用いた解析条件が妥当であることを意味している。
【0064】
図10は、超電導回転機1の同期回転の安定限界についての解析結果を示す図である。横軸の入力電圧(Input Voltage)は固定子巻線3bへの印加電圧であり、縦軸は回転子7の回転数(Rotation Speed)である。結果は、無負荷状態についてのものである。図中、四角印(□印)をつなげた破線L1が、超電導回転機1の安定限界を示している。また、丸印(○印)をつなげた破線L2は、比較のために示す、従来のかご形誘導機の安定限界である。
図10では、安定限界以上の回転数の領域が、安定な同期回転が実現される領域(安定領域)となる。
【0065】
図10に示すように、超電導回転機1は、従来のかご形誘導機に比べると、安定領域が非常に狭い。ちなみに、従来のかご形誘導機については、図中の実線L3のところで鉄心中の磁束が飽和してしまうため、現実的運転領域は全て安定領域に含まれている。それゆえ、超電導回転機1の安定領域は、係る従来のかご形誘導機の現実的運転領域よりもさらに狭いということを示している。係る結果は、超電導回転機1を同期回転させる際には、これを安定化させるための制御が必要であることを示している。
【0066】
また、
図11および
図12は、比V/fの値を違えた2通りの場合について、無負荷時における同期回転の安定性を解析した結果を示す図である。具体的には、周波数fはともに60Hzとし、印加電圧Vを40Vと50Vの2水準とした。また、いずれも、目標の同期回転数は1800rpmに設定し、回転数0の状態からの変化を解析した。
【0067】
図11が、印加電圧Vを40Vに設定した場合の解析結果を示す図であり、
図12が、印加電圧Vを50Vに設定した場合の解析結果を示す図である。いずれも、横軸は時間(単位:秒)であり、縦軸は、回転数N、トルクτ、超電導かご形巻線73を流れる電流I2(=Is)、および、抵抗値Rrである。
【0068】
図11に示す印加電圧Vが40Vの場合、同期回転数は設定の1800rpmには届かず、約110rpm程度に留まってしまっているのに対して、
図12に示す印加電圧Vが50Vの場合は、同期回転数は設定通りの1800rpmに達している。また、回転数が一定となった以降は、トルクτ、電流I2、抵抗値Rrも一定の値に保たれている。
【0069】
係る結果は、印加電圧Vについて、40Vと50Vの間に、回転子7の回転が不安定状態から安定状態に遷移するしきい値(
図8のV1に相当)が存在するということを示している。これにより、上述した誘導トルク主動での回転を利用した同期回転の安定制御が、実際に実現可能なものであるということができる。
【0070】
<解析に用いた数式>
以下に、上述の解析に用いた数式を列挙する。
【0073】
<変形例>
上述の実施の形態では、常電導かご形巻線74のロータバー74aが超電導かかご形巻線73のロータバー73aより外側に配置される態様となっているが、本発明においては、ロータバー73aの方がロータバー74aよりも外側に配置される態様であってもよい。
【0074】
また、超電導回転機1が超電導かご形巻線73と常電導かご形巻線74とを備える構成となっているが、本発明において、常電導かご形巻線74を備える態様は必須ではなく、超電導かご形巻線73のみを有する態様であってもよい。
【0075】
また、上述の実施の形態においては、円柱状の回転子7の外周に固定子3を設けた構成の超電導回転機1を対象に説明を行っているが、本発明は、固定子が軸中心位置に配置され、その外周を円筒状の回転子が回転するいわゆるアウターローター型の超電導回転機にも、適用可能である。