【課題を解決するための手段】
【0027】
上述の目的は、有機または無機ガラス基材と、ポリマー材料層と、帯電防止特性を有し基材の主面とポリマー材料層とに直接接触する中間層とを備える光学物品、例えば眼科用レンズ、そしてより特定的には眼鏡レンズを用いて本発明に従い達成される。中間層は1種以上の導電性コロイド状金属酸化物のコロイド状粒子と、屈折率が1.55以下のコロイド状粒子と、随意的に用いられる結合材との混合物を含有し、その割合は導電性コロイド状金属酸化物粒子の質量が中間層中に存在するコロイド状粒子の総質量の50〜97%、好ましくは55〜95%、より好ましくは60〜95%、更により好ましくは60〜90%に相当するようになされ、該中間層は原始的に多孔質の層であり、その多孔はポリマー材料層の材料、または基材が有機ガラスで生成されている場合は基材の材料のいずれかによって充填され、それによって中間層は原始的な多孔が充填された後に、次式が提供する特性を満足する:
【数1】
【数2】
式中、nは中間層の屈折率、n
substrateは基材の屈折率、n
polymerは中間層に直接接触するポリマー材料層の屈折率、eは中間層の厚みであり、λは550nmに設定される。
【0028】
本出願では、特に他に明記しない限り、屈折率は温度25℃および波長550nmの時のものとして定義される。この波長は人間の目の最大感度に対応するため、干渉縞の除去が主として望まれる波長である。
【0029】
干渉縞の認知における最大減衰は、上記式(1)および(2)の算出に用いうるnとeの値に依存するが、550nmあるいは可視域内の別の波長において見出されうる。
【0030】
発明者等はnおよびeとして、式(1)および(2)で定義される値を用いることによって、干渉縞の認知が減衰することを見出した。
【0031】
また本発明は、以下の工程を含む、上述の光学物品の製造方法に関する:
a)中間層組成物の層を有機または無機ガラス基材の1以上の主表面、あるいはポリマー材料の層のいずれかの上に被覆する工程であって、該組成物は1種以上の1導電性コロイド状金属酸化物のコロイド状粒子と、屈折率が1.55以下のコロイド状粒子と、随意的に用いられる結合剤との混合物を含有する、工程;
b)中間層組成物を乾燥させて原始的に多孔質の中間層を形成する工程;
c)この多孔質中間層の上に、ポリマー材料の層、または有機ガラス基材のいずれかを形成させる工程であって、それによって中間層の原始的な多孔がポリマー層の材料、または基材が有機ガラスで作成されている場合は基材の材料のいずれかによって充填され、原始的な多孔が充填された後の中間層が上記の式(1)および(2)を満足する、工程;
d)基材の主表面とポリマー材料の層とに直接接触し、帯電防止特性を有し、導電性コロイド状金属酸化物粒子の質量が中間層中に存在するコロイド状粒子の総質量の50〜97%に相当する中間層を備える光学物品を回収する工程。
【0032】
ポリマー材料の層の基材の屈折率がわかると、上記式(1)および(2)により本発明の中間層の厚みおよび屈折率、eおよびn、それぞれの範囲を算出できる。
【0033】
上述のように、本発明の中間層の厚みおよび屈折率特性は、1/4波長層の最適理論値からは逸脱する場合がある。従って本出願においてはこれを、ほぼ1/4波長層と記載することにする。
【0034】
上記式(1)および(2)を満足すると、十分な干渉縞防止効果が得られる。好ましくは、中間層は、次の式を満足する:
【数3】
更により好ましくは:
【数4】
【0035】
実際には、その気孔がポリマー材料によって、または基材の材料によって充填された後に、中間層の厚みを測定するのは難しい場合がある。第1近似として、この厚みを、被覆したコロイド状粒子層を乾燥させた後の厚みに等しいと考えることができる。理由は、多孔質の層の充填材料が拡散する結果、その厚みに大きな変化が生じないからである。
【0036】
好ましくは、中間層は次の式を満足する:
【数5】
更により好ましくは:
【数6】
【0037】
実際には、その多孔がポリマー材料によって、または基材の材料によって充填された後に、中間層の屈折率を測定するのは困難である場合がある。第1近似として、この屈折率を、気孔が全体的に充填材料によって充填されている中間層の理論的屈折率に等しいと考えることができる。この理論的屈折率の算出方法は、「実施例」に示されており、n
3として記載されている。
【0038】
また本発明の中間層は、波長550nmにおいて1/4波長層を形成しうる。それは最も好ましい実施形態である。その場合、その屈折率nおよびその厚みeは、1/4波長層の理論的屈折率および厚みに等しい、すなわちそれらの値が次の関係式を満足する:
【数7】
および
【数8】
式中、λ、n
substrateおよびn
polymerは、既に定義したとおりである。すなわち1/4波長層の屈折率nは周囲材料の屈折率の幾何平均に相当する。
【0039】
本発明によれば、基材と所定の屈折率のポリマー層との間に挿入される中間層の最適屈折率および最適厚みの決定は、両パラメータが基材とポリマー層の屈折率に依存するため自由選択ではない。それに対し層を形成するコロイドの性質については、より拘束を受けない。本発明の中間層すなわち1/4波長層の屈折率と厚み特性を有し、あるいは1/4波長層のそれらと同等の特性を有し、同時に十分な帯電防止特性を有する層は、導電性粒子コロイド(類)および低屈折率粒子コロイド(類)の性質や、それぞれの量を適切に選択することによって得られる。適切な配合を得る方法は当業者には完全に公知であり、多くの実験を実施する必要もない。
【0040】
今までに記載された無機帯電防止層は、導電性金属酸化物、例えばITO、を排他的に含み、結合剤を随意的に含むものだけであった。非導電性の無機酸化物粒子を追加で含む帯電防止層は知られていなかった。
【0041】
また、当業者であれば、結合剤の存在とその性質、中間層の原始的な気孔に影響を与えるコロイド状粒子の直径、コロイド中間層の原始的な多孔を充填するポリマー層の材料または基材の材料のいずれかである充填材料の性質、などの利点を利用して中間層の屈折率を変更することができる。
【0042】
このように、導電性粒子と低屈折率粒子との所定の混合物から得られる1/4波長層またはほぼ1/4波長層の帯電防止特性が十分でないときは、当業者であれば低屈折率粒子に対する導電性粒子の量を増加し、導電性粒子の性質を変化させずに、低屈折率粒子をより低い屈折率の別の粒子に代えることにより、同様の厚みおよび屈折率を有する層を容易に調製することができる。
【0043】
本発明により許容される厚み範囲内、すなわち550nmにおける1/4波長層の理論的厚みに関する式(1)によって与えられる範囲内に留まりながら、中間層の厚みを増加して、その帯電防止特性を向上させることも一般に可能である。
【0044】
導電性粒子と低屈折率粒子との所定の混合物から得られる層の帯電防止特性が十分であり、しかしこの層が、本発明の範囲内としての、干渉縞現象を防止することができないような高い屈折率を有する場合、当業者であれば、低屈折率粒子をより低い屈折率の別の粒子に代えることによって、1/4波長層または、ほぼ1/4波長層を調製することができる。
【0045】
低屈折率粒子の性質を改質して中間層の屈折率を調整または制御する方がより都合がよいことは確かである。導電性粒子は一般に約1.9〜2という限定された範囲内の屈折率を有する。
【0047】
中間層は有機または無機ガラス基材、好ましくは予備成形された眼科用レンズなどの有機ガラス基材の上に形成しうる。この場合、中間層の気孔の充填を確保するものは、ポリマー材料である。このような方法は、多孔質の中間層でコートされた基材の上に1または2以上のコーティングを転写または塗布することを意味する。
【0048】
また中間層は、主な成形面を好ましくは光学的に透明のポリマー材料層を形成する1以上のコーティングでコートした成形型の一部の上にも形成されうる。この実施態様では、基材は有機ガラス(すなわち、実質的にポリマー)で作製される。基材は重合可能な液体組成物を、1つの表面上には多孔質中間層でコートされたポリマー材料の層を形成するコーティングが付与されている成形型内で、鋳込みトランスファー成形を行い、その後重合が行われることによって、原位置形成される。次に基材材料によって中間層の多孔充填を確保する。
【0049】
ポリマー材料を用いてその原始的な気孔を充填することによる、本発明の中間層の調製のための様々な方法の更なる詳細は説明については、参考文献として本明細書に組み込まれる、国際公開第03/056366号パンフレットの記載および添付の第5〜7図を参照されたい。
【0050】
本発明の物品のために適切に用いられる基材は、無機または有機ガラス、好ましくは有機ガラス基材から製造された光学的に透明な基材であればいかなるものでもよい。
【0051】
そのような基材用の適切な可塑性材料としては、カーボネートのホモおよびコポリマー、(メト)アクリル、チオ((メト)アクリル、PPG社から市販されている材料CR39
(R)のようなジエチレングリコールビスアリルカーボネート、ウレタン、チオウレタン、エポキシド、エピスルフィドおよびそれらの組合せが含まれる。
【0052】
基材用の好ましい材料は、ポリカーボネート(PC)、ポリウレタン(PU)、ポリチオウレタン、((メト)アクリルおよびチオ((メト)アクリルポリマーである。
【0053】
一般に、基材の屈折率は1.55〜1.80、好ましくは1.60〜1.75の範囲である。
【0054】
中間層組成物を、既に形成された基材の上に被覆することになる場合は、有機または無機ガラス、例えば眼科用レンズから作成された裸の基材の表面を、5%の炭酸ナトリウム溶液に加熱下で、例えば50℃(3分間)で浸漬し、その後、水およびイソプロパノールで濯ぐという工程を介して事前処理を行ってもよい。
【0055】
本発明によれば、中間層は、屈折率が1.55以下の1種以上のコロイド状無機酸化物のコロイド状粒子と、1種以上の導電性コロイド状金属酸化物のコロイド状粒子と、随意的に用いられる結合剤とを含有する中間層組成物から得る。
【0056】
一定量の屈折率が1.55以下のコロイド状粒子を用いることが必要である。理由は屈折率が2に近い導電性金属酸化物粒子だけを含有し、気孔が材料で充填されている層の屈折率は、材料自体の屈折率よりも必ず高くなるからである。従ってそのような層を、1/4波長層または、ほぼ1/4波長層として用いることはできない。
【0057】
コロイド状粒子調製に必要な方法は公知である。本明細書中、「コロイド」という用語が用いられる場合は、その直径(または最大寸法)が1μm未満、好ましくは150nm未満、より好ましくは100nm未満で、水、アルコール、ケトン、エステル、またはそれらの組合せのような分散媒体中に、好ましくはエタノール、イソプロパノールのようなアルコール中に分散されている微細粒子を意味する。好ましいコロイド状粒子の直径は10〜80nm、30〜80nm、および30〜60nmの範囲である。
【0058】
特に、コロイド状粒子好ましくはコロイド状無機酸化物の粒子は、例えば10〜15nmの小さいサイズの粒子および、例えば30〜80nmの大きいサイズの粒子の混合物で生成されうる。
【0059】
また、コロイド状粒子は、例えばMgF
2、ZrF
4、AlF
3、チオライト(Na
3[Al
3F
14])、およびクリオライト(Na
3[AlF
6])のような低屈折率のフッ化物でありうる。
【0060】
本明細書中、これ以降の記載では、コロイド状粒子、特に屈折率が1.55以下、好ましくは1.50以下のコロイド状無機酸化物の粒子は、一般にそれぞれ、低屈折率のコロイド状粒子、および「低屈折率の」コロイド状無機酸化物と記載することにする。それらの屈折率は、好ましくは1.15以上である。
【0061】
低屈折率の酸化コロイド状粒子は、上述のように中空または多孔質の、シリカ粒子、アルミナでドープしたシリカ粒子、無機酸化物粒子、またはそれらの組合せでありうるがそれに限定されない。一般的にはこれらは非導電性粒子である。
【0062】
適切に用いられるコロイド状シリカの例としては、ストーバー(Stober)方式によって調製されたコロイド状シリカが挙げられる。ストーバー方式は、簡単でよく知られている方法であり、アンモニアによって触媒されたエタノール中でエチルテトラシリカSi(OC
2H
5)
4を加水分解および縮合する工程を含む。この方法により、エタノール中で直接シリカを得ること、準単分散された粒子集団を得ること、制御可能な粒子の粒径および粒子表面(SiO
−NH
4+)を得ることが可能になる。また、シリカコロイドは商品名LUDOX
(R)としてデュポン・ド・ヌムール社から市販されている。
【0063】
中空または多孔質といわれる無機酸化物粒子、光学におけるその使用、およびその調製方法は、文献中に広く記載されている。特に、国際公開第06/095469号パンフレット、特開2001−233611号公報、国際公開第00/37359号パンフレット、特開2003−222703号公報に記載されている。また、そのような粒子は、例えば多孔質シリカゾルの形態で商品名THRULYA
(R)として、触媒化成工業社(CCIC)から市販されている。
【0064】
これらの粒子は、特にケイ素原子の上に有機基をグラフトすることによって、改質しうる、あるいは、いくつかの無機酸化物を主体とする複合粒子でありうる。
【0065】
本発明では、低屈折率のコロイド状無機酸化物の好ましい粒子は、中空または多孔質の粒子であり、屈折率が好ましくは1.15〜1.40の範囲、より好ましくは1.20〜1.40の範囲、そして直径が好ましくは20〜150nmの範囲、より好ましくは30〜100nmの範囲である。最も好ましいものはシリカの中空粒子である。
【0066】
本明細書中、導電性金属酸化物という用語が用いられる場合は、随意的にドープされた導電性、または半導電性の金属酸化物を意味する。導電性金属酸化物は、一般に約1.9〜2.0の高い屈折率を有する。
【0067】
導電性金属酸化物の例としては、スズをドープした酸化インジウム(ITO)、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO)、アルミをドープした酸化亜鉛、酸化スズ(SnO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In
2O
3)、バナジウム五酸化物、酸化アンチモン、酸化セリウム、亜鉛アンチモネート、インジウムアンチモネートが挙げられるがそれに限定されない。最後の2つの化合物およびその調製方法は、米国特許第6,211,274号明細書に記載されている。
【0068】
最も好ましいものは、スズをドープした酸化インジウムおよび酸化スズである。1つの最も好ましい実施態様においては、中間層は1種の導電性金属酸化物、すなわちスズをドープした酸化インジウム(ITO)だけを含有する。
【0069】
中間層組成物は、他のカテゴリのコロイド状粒子、特に屈折率が1.55以上の非導電性粒子を含有しうる。但しそれらの存在は帯電防止特性および干渉縞防止効果の提供を妨害しないことを条件とする。そのような粒子の例としては、TiO
2、ZrO
2、Sb
2O
3、Al
2O
3、Y
2O
3、Ta
2O
5およびそれらの組合せが挙げられるがそれに限定されない。また、SiO
2/TiO
2、SiO
2/ZrO
2、SiO
2/TiO
2/ZrO
2、またはTiO
2/SiO
2/ZrO
2/SnO
2のような複合材料も用いられうる。
【0070】
中間層組成物は好ましくは低屈折率の酸化物と導電性酸化物との二元混合物を含む。
【0071】
本発明によれば、導電性コロイド状金属酸化物粒子の質量は、好ましくは中間層中に存在するコロイド状酸化物のコロイド状粒子の総質量の50〜97%、好ましくは55〜95%、より好ましくは60〜95%、更により好ましくは60〜90%に相当する。また、これらの割合は、中間層組成物中においても満足することが好ましい。このような導電性粒子の量は、中間層のための十分な帯電防止特性、すなわち導電率閾値を満たす特性を確保することを意図している。
【0072】
中間層組成物は、随意的に1種以上の結合剤を、被覆および乾燥されたコロイド層の原始的な気孔を充填する前に、その多孔質の層が、その層に存在するコロイド状粒子の総(乾燥)質量に対して、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは10〜25質量%、更により好ましくは10〜20質量%を含有する量で、含有してもよい。
【0073】
結合剤は一般にその影響が最終中間層の光学特性に対して有害となることなく、基材の表面に対する酸化物粒子の粘着性および接合性を向上させるようなポリマー材料である。結合剤は縮合重合、付加重合または加水分解を介して随意的に架橋可能である熱可塑性または熱硬化性の材料から形成されうる。また各種カテゴリに由来する結合剤の混合物を用いることができる。
【0074】
適切に用いられる結合剤の例は、本出願人の出願に係る国際公開第08/015364号パンフレットに記載されている。それら全ての中でより特別に記載すべきものは、メタクリレート、アクリレート、エポキシ、およびビニールモノマーのような、モノマーから得た、ポリウレタン、エポキシ、メラミン、ポリオレフィン、ウレタンアクリレート、およびエポキシアクリレート型の樹脂、およびそれらの結合剤である。好ましい結合剤としては、有機性で、特にポリウレタンラテックスおよび((メト)アクリルラテックス、更に特にポリウレタン型ラテックスが含まれる。
【0075】
本発明の好ましい実施態様においては、中間コーティング組成物は結合剤を含まない。
【0076】
好ましくは、中間層組成物の固形分は、前記組成物の総質量の15%未満、より好ましくは10%未満、更により好ましくは5%未満に相当する。
【0077】
本発明の中間層の厚みは、一般的に50〜130nm、好ましくは60〜130nm、より好ましくは75〜110nm、更により好ましくは80〜100nmの範囲で変化する。その際当然のことながらこの厚みは式(1)の範囲と合致し、帯電防止特性の提供を可能にしなければならない。この厚みは、中間層の原始的な気孔の充填の後に得られるものであり、一般に充填前の厚みとほぼ同じである。
【0078】
一般に、中間層の厚みが増加すると、すなわち被覆された導電性粒子の量が増えるとその帯電防止特性は向上する。
【0079】
最適な干渉縞減衰のためには、中間層の厚みは、光学物品に用いられる材料を考慮して、1/4波長層の理論的厚みにできるだけ近づけるべきである。
【0080】
一般に、中間層の原始的な気孔は、結合剤が無い場合は中間層の総容量の20容量%以上、好ましくは30容量%以上、より好ましくは40容量%以上に相当する。この多孔度(充填前)は、中間層組成物の被覆および乾燥後に得られる多孔度に対応する。
【0081】
本明細書中、「原始的な多孔」という用語が用いられる場合は、被覆および乾燥した中間層組成物の酸化コロイド状粒子を積層することにより本質的に生成される気孔を意味する。この原始的な多孔は、アクセス可能な開気孔で、ポリマー材料または基材の材料によって独占的に充填されうるものである。従って、中間層組成物中に中空のコロイド状酸化物が用いられる場合、原始的な多孔は、ポリマー材料または基材の材料に到達不可能な、これら中空酸化物の気孔を含まない。
【0082】
中間層が結合剤を含む場合は、この層の原始的な多孔度は、結合剤によって占有される容積を考慮した残りの多孔度に相当するが、次層または基材の材料から生成された充填材料によって充填される前のものである。それは、中間層の総容量の、好ましくは20容量%以上、より好ましくは30容量%以上に相当することが好ましい。
【0083】
コロイド状中間層組成物は、好ましくは基材の上、または状況によってはポリマー材料の層の上に、ディップコートにより被覆される。またスピンコートによって被覆してもよい。一般には、その上に被覆が行われる支持体を液体中間層組成物中に浸漬する。その際、被覆される厚みはゾルの固形分、粒子の粒径、およびディウエッティング速度に依存する(ランダウ−レヴィッチ則(Landau−Levich law))。
【0084】
このように、コーティング組成物、粒子の粒径、基材およびポリマー性コーティングの屈折率がわかると、中間層の所望の厚みや期待の厚みを達成するために必要なディウエッティング速度を決定することができる。
【0085】
被覆した層が乾燥した後、多孔質のコロイド状酸化物層が予想した厚みで得られる。層の乾燥は、温度範囲20〜130℃、好ましくは20℃〜120℃、より好ましくは室温(20〜25℃)において実施しうる。
【0086】
好ましくは本発明において用いられるポリマー材料層は、20ミリジュール/m
2と同等またはそれより高い、好ましくは25ミリジュール/m
2と同等またはそれより高い、より好ましくは30ミリジュール/m
2と同等またはそれより高い表面エネルギーを有する。
【0087】
表面力エネルギーは、次の文献に記載されているオーエンズ−ウェンドの方法(Owens−Wendt method)に従って計算される:「Estimation of the surface force energy of polymers(ポリマーの表面力エネルギーの計算)」Owens D.K.、Wendt R.G.(1969)、J.APPL.POLYM.SCI.、13、1741〜1747。
【0088】
原則的には、ポリマー材料の記載は、中間層の多孔のための充填材料として用いられる実施態様の文脈にある。しかし基材の材料が充填材料として用いられる場合、次の記述も適用する。
【0089】
充填ポリマー材料を導く組成物は本質的に1種(または2以上)の非フッ素化化合物(類)を含有する。
【0090】
好ましくは充填ポリマー材料を導く組成物は、組成物の固形分を形成する化合物の総質量に対して、非フッ素化化合物を80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更により好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%含有する。本明細書中、固形分という用語が用いられる場合は、溶媒を100℃までの温度で真空下で蒸発させたときに残る固体材料を意味する。
【0091】
一般的には、充填ポリマー材料中のフッ素レベルは、5質量%未満であり、好ましく1質量%未満であり、より好ましくは0質量%である。
【0092】
充填した後の中間層の多孔度(容積)は20%、10%、5%、3%、のいずれよりも低いことが好ましく、0%であることが更により好ましい。既に定義した原始的な多孔に関し、充填後の多孔度は、随意的に用いられる中空酸化物コロイド状粒子の「閉気孔率」を考慮しない。従って、原始的な気孔が完全に充填された中間層は、本発明によれば、たとえ中空のコロイド状酸化物粒子を含有していたとしても多孔性がないことになる。
【0093】
本発明で用いられる充填材料は、モノマー、オリゴマー、ポリマー、またはそれらの組合せの形態でありうる。
【0094】
充填後、充填材料は基材表面に接触し(充填材料が基材の材料ではなく、プライマー層または磨耗防止層のような他の層である場合)、それによって中間層が基材に接着可能になる。
【0095】
中間層の原始的な多孔の充填を確保するポリマー材料層は、一般に、ディップコート、またはスピンコートによって形成され、好ましくはディップコートにより形成される。
【0096】
中間層に直接接触しているポリマー材料層は、好ましくは透明材料の層である。それは、機能材料、例えば接着プライマーコーティングおよび/または耐衝撃性プライマーコーティングの層、磨耗防止コーティングおよび/または耐引掻きコーティングの層または反射防止コーティングの層であってもよい。またそれは接着剤組成物層であってもよい。本発明によるポリマー材料の層は、好ましくはプライマー層である。
【0097】
このようなプライマー層は、光学分野、特に眼科光学で従来から用いられているものであればどのようなものでもよい。
【0098】
一般的にこれらのプライマー、特に耐衝撃性プライマーは((メト)アクリルポリマー、ポリウレタン、ポリエステルを主体とするコーティング、あるいはエポキシ/((メト)アクリレートコポリマーを主体とするコーティングである。
【0099】
(メト)アクリルポリマーを主体とする耐衝撃性コーティングは、米国特許第5,015,523号明細書および米国特許第5,619,288号明細書等に記載され、一方架橋した熱可塑性ポリウレタン樹脂を主体とするコーティングは特開昭63−141001号公報および特開昭63−87223号公報、欧州特許第040411号明細書および米国特許第5,316,791号明細書等に記載されている。
【0100】
特に、本発明の耐衝撃性プライマーは、例えば仏国特許出願公開第2.790.317号明細書に記載されているようなコア‐シェル型を含むポリ((メト)アクリルラテックス、ポリウレタンラテックス、あるいはポリエステルラテックスから生成されうる。
【0101】
特に好ましい耐衝撃性プライマーコーティング組成物としては、ゼネカ社が商品名A−639で販売しているアクリルラテックス、および商品名W−240およびW−234としてバクセンデン社から販売されているポリウレタンラテックスが挙げられる。
【0102】
ラテックスは、好ましくは粒子の粒径が≦50nm、より好ましくは≦20nmのものが選択される。
【0103】
一般に、硬化後の耐衝撃性プライマー層の厚みは、0.05〜20μm、好ましくは0.5〜10μm、より好ましくは0.6〜6μmの範囲である。最適な厚みは、一般に0.5〜2μmの範囲である。
【0104】
磨耗防止コーティングは光学分野、特に眼科用光学分野で従来から用いられている磨耗防止コーティングであればどのようなものでもよい。
【0105】
磨耗防止コーティングは、磨耗防止コーティングを含まない同等の物品に比較して、最終光学物品の耐摩耗性が改善されているコーティングであると定義される。
【0106】
好ましい磨耗防止コーティングは、1種またはそれ以上のアルコキシシラン(類)(好ましくは1種またはそれ以上のエポキシアルコキシシラン(類))またはそれらのヒドロリザートを含有する組成物、好ましくはコロイド状酸化物充填物のような無機コロイド状充填物を含有する組成物を硬化することを介して得られるものである。
【0107】
特定の態様によると、好ましい磨耗防止コーティングは、1種またはそれ以上のエポキシアルコキシシランまたはそれらのヒドロリザート、シリカおよび硬化触媒を含有する組成物の硬化を介して得られるものである。そのような組成物の例は、国際公開第94/10230号パンフレットおよび米国特許第4,211,823号明細書、米国特許第5,015,523号明細書、ならびに欧州特許第614957号明細書に開示されている。
【0108】
特に好ましい磨耗防止コーティング組成物は、例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)のようなエポキシアルコキシシラン、ジメチルジエトキシシラン(DMDES)のようなジアルキル−ジアルコキシシラン、コロイド状シリカおよび触媒量のアルミニウムアセチルアセトネートのような硬化触媒またはそのような成分のヒドロリザートを主要な成分として含有するものである。組成物の他の成分は本質的に従来からそのような組成物の賦形に用いられてきた溶媒および随意的に用いられる1または2以上の界面活性剤からなる。
【0109】
磨耗防止コーティングの接着性を改善するため、特にコートされる基材がインモールドキャスティング技術またはIMCを用いて作成されている場合は、磨耗防止コーティング組成物は随意的に有効量のカップリング剤を含有しうる。
【0110】
一般にはそのようなカップリング剤はエポキシアルコキシシランおよび不飽和アルコキシシランの予備凝縮溶液であり、好ましくは終端二重エチレン結合を含む。これらの化合物は、本出願人による国際公開第03/056366号パンフレットに詳細に記載されている。一般には、磨耗防止コーティング組成物中に導入するカップリング剤の量は、組成物の総質量に対して、0.1〜15質量%、好ましくは1〜10質量%に相当する。
【0111】
硬化後の磨耗防止コーティングの厚みは、通常1〜15μm、好ましくは2〜6μmの範囲である。
【0112】
耐衝撃性プライマー組成物および磨耗防止コーティング組成物のようなポリマー材料組成物は、熱および/または照射によって硬化しうる。好ましくは熱硬化しうる。
【0113】
既に記載したように、最も明らかなこととして、この材料が充填材料として用いられる場合は、プライマー層または磨耗防止コーティングの材料は中間層の多孔に浸透し少なくとも部分的に充填する。
【0114】
本発明の光学物品は、随意的に、好ましくは磨耗防止コーティングの上に反射防止コーティングを含みうる。
【0115】
反射防止コーティングは、光学分野、特に眼科用光学分野で従来から用いられる反射防止コーティングであればいかなるものでもよい。
【0116】
例として、反射防止コーティングは、単層または多層膜の形態で、SiO、SiO
2、Si
3N
4、TiO
2、ZrO
2、Al
2O
3、MgF
2もしくはTa
2O
5またはそれらの混合物のような誘電材料から構成される。したがって、レンズと空気の界面において反射の発生を防止することが可能である。
【0117】
このような反射防止コーティングは、一般に真空コートを介して、特に随意的にビームアシストを行う真空蒸着を介して、イオンビームによる気化を介して、スパッタリングを介して、またはプラズマアシスト化学気相蒸着を介して適用される。
【0118】
また真空コートに加えて、高い(>1.55)または低い(=1.55)屈折率を有するシランヒドロリザートおよびコロイド状材料を含有する液体組成物を用い、湿式ゾルゲルルートを介して無機層を適用することも考えられる。シランを主体とするハイブリッド有機/無機マトリックスを含有し、中にコロイド状材料が分散されて各層の屈折率を調整するようなコーティングが、例えば、仏国特許第2858420号明細書に記載されている。このカテゴリの組成物は、本発明によるポリマー材料層を形成するために用いられ、特に、中間層の原始的な多孔のための充填材料として用いられうる。
【0119】
反射防止コーティングが1つの単層を含む場合、その光学的厚みは、好ましくは、λ/4(λは450〜650nmの範囲の波長)に等しくあるべきである。
【0120】
3層を含む多層膜の場合は、各光学的厚みに対応して、λ/4、λ/2、λ/4またはλ/4、λ/4、λ/4のいずれかの組合せを用いうる。更に、上述の3層の一部である任意の数層ではなく、それ以上の多層で形成された等価膜も用いることができる。