【実施例】
【0023】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0024】
本実施例は、正面部と上面部を有する既設擁壁1を補修又は補強するために、既設擁壁1の正面部及び上面部に新設擁壁2を形成する擁壁の補修又は補強工法である。
【0025】
具体的には、既設擁壁1の下部に配設する下部基礎部材3を設置すると共に既設擁壁1の上部に配設する上部基礎部材4を設置し、この下部基礎部材3と上部基礎部材4との間に、既設擁壁1の正面部に配設される正面補強部材5Aと既設擁壁1の上面部に配設される上面補強部材5Bとから成る側面視屈曲形状の補強部材5を既設擁壁1の表面との間に隙間6を設けて架設し、この架設した補強部材5の正面補強部材5Aに設けた正面開口部7の下端側をパネル部材8で閉塞し、このパネル部材8の上方側の正面開口部7から、既設擁壁1の正面部とパネル部材8との間の隙間6に充填部材9を、正面開口部7からこの充填部材9が溢れ出ない高さ位置まで充填し、正面開口部7上端側をパネル部材8で閉塞して正面開口部7全面を閉塞し、上面補強部材5Bに設けた上面開口部10から、既設擁壁1の正面部とパネル部材8との間の隙間6及び既設擁壁1の上面部と上面補強部材5Bとの間の隙間6に充填部材9を充填する擁壁の補修又は補強工法である。
【0026】
先ず、本実施例に用いる各部材について説明する。
【0027】
本実施例では、下部基礎部材3、上部基礎部材4、補強部材5(正面補強部材5A、上面補強部材5B)、パネル部材8、小口止め部材12(正面小口止め部材12A、上面小口止め部材12B)を用い、これら部材は、予め工場等で成形したプレキャスト部材である。
【0028】
本実施例の下部基礎部材3及び上部基礎部材4は夫々、補強部材5若しくは小口止め部材12との係合部(係合面)に位置決め部11を設けた構成としている。
【0029】
この位置決め部11は、前記係合部(係合面)に設けたピン嵌入孔11Aに鋼製のガイドピン11Bを嵌挿して形成した構成とし、本実施例では、
図1に示すように、補強部材5を固定する下部基礎部材3及び上部基礎部材4は位置決め部11を二か所に設け、小口止め部材12を固定する下部基礎部材3及び上部基礎部材4は位置決め部11を四か所に設けた構成としている。
【0030】
また、本実施例の補強部材5は、正面補強部材5Aと上面補強部材5Bとから成る構成としている。
【0031】
正面補強部材5Aは、
図2に示すように、縦長方形状の正面開口部7を設けた縦長方形枠状に形成し、上端部に後述する上面補強部材5Bと係合する正面部側係合部13を設けると共に、既設擁壁1との間の隙間6を形成するための脚部14を既設擁壁1に沿設した際の既設擁壁1側となる方向に突設し、底部に下部基礎部材3の位置決め部11と係合する係合孔15を設けた構成としている。
【0032】
また、正面補強部材5Aは、正面開口部7の左右両縁部、言い換えると、正面補強部材5Aの縦枠部材の内側面にパネル部材8を取り付けるパネル部材取付部16を設けた構成とし、本実施例では、このパネル部材取付部16を、帯板状に形成し、パネル部材8を固定する固定ボルト17を螺着する螺着部18を長さ方向に沿って複数並設した構成としている。
【0033】
また、上面補強部材5Bと係合する上面部材係合部13は、手前側に凹部13Aを形成し、この凹部13Aに上面補強部材5Bが噛み合わせ係合する構成としている。
【0034】
また、本実施例の上面補強部材5Bは、
図2に示すように、略方形状に形成した板状ブロックに横長方形状の上面開口部10を設けると共に、先端部に上述した正面補強部材5Aと係合する上面部側係合部19を下方に向けて突設して側面視への字状に形成した構成とし、本実施例では、この上面部側係合部19の先端部の手前側に正面部側係合部13の凹部13Aと係合する凸部19Aを設けて、この凸部19Aが正面補強部材5Aの正面部側係合部13(凹部13A)と噛み合わせ係合する構成としている。
【0035】
また、この上面補強部材5Bは、基端部側に上部基礎部材4の位置決め部11と係合する係合孔20を設けた構成としている。
【0036】
また、本実施例のパネル部材8は、
図3に示すように、方形板状に形成し、四隅に固定ボルト17を挿通するボルト挿通孔21を設けた構成としている。
【0037】
また、本実施例の小口止め部材12は、
図2に示すように、正面小口止め部材12Aと上面小口止め部材12Bとから成る構成としている。
【0038】
正面小口止め部材12Aは、側面形状を、正面補強部材5Aの側面形状に合致し、且つこの正面補強部材5Aを設置した際に形成される側面開口部を閉塞し得る形状に形成した柱状に形成し、上端部に後述する上面小口止め部材12Bと係合する凹部22Aを有する係合受部22を設け、底部に下部基礎部材3の位置決め部11と係合する係合孔を設けた構成としている。
【0039】
また、上面小口止め部材12Bは、上面補強部材5Bの側面形状に合致し、且つこの上面補強部材5Bを設置した際に形成される側面開口部を閉塞し得る形状に形成し、先端部に正面小口止め部材12Aの係合受部22の凹部22Aと係合する凸部23Aを有する係合部23を設けて、この係合部23と正面小口止め部材12Aの係合受部22とが噛み合わせ係合するように構成すると共に、基端側に上部基礎部材4の位置決め部11と係合する係合孔24を設けた構成としている。
【0040】
次に、本実施例の施工手順について説明する。
【0041】
先ず、補修又は補強対象の既設擁壁1の下部側地盤25に下部基礎部材3を設置し、既設擁壁1の上部側地盤26に上部基礎部材4を設置する。
【0042】
具体的には、
図1に示すように、下部側地盤25と既設擁壁1の下端部との境界部に、既設擁壁1の幅方向に沿って凹溝27を形成し、この凹溝27に下部基礎部材3を既設擁壁1の幅方向に沿って並設し、上部基礎部材4をこの下部側地盤25に並設した下部基礎部材3と対向するようにして並設する(施工手順1)。
【0043】
次いで、各下部基礎部材3と上部基礎部材4との間に補強部材5を架設する。
【0044】
具体的には、
図2に示すように、既設擁壁1の正面部に正面補強部材5Aを配設し、既設擁壁1の上面部に上面補強部材5Bを配設する(施工手順2)。
【0045】
より具体的に説明すると、先ず、正面補強部材5Aの底部に設けた係合孔15を下部基礎部材3の位置決め部11(ガイドピン11B)と係合させて、正面補強部材5Aを下部基礎部材3に位置決め状態で設置すると共に、脚部14を既設擁壁1に当接させて、この正面補強部材5Aを既設擁壁1の正面部との間に隙間6を設けて立て掛け状態に設置する。
【0046】
次いで、上面補強部材5Bの基端部側に設けた係合孔20を上部基礎部材4の位置決め部11(ガイドピン11B)と係合させて、上面補強部材5Bを上部基礎部材4に位置決め状態で設置すると共に、この上面補強部材5Bの先端部に設けた上面部側係合部19を正面補強部材5Aの上端部に設けた正面部側係合部13と係合して、この上面補強部材5Bを既設擁壁1の上面部との間に隙間6を設けて設置する。
【0047】
この際、本実施例は、正面補強部材5Aの正面部側係合部13の手前側に設けた凹部13Aに、上面補強部材5Bの上面部側係合部19の手前側に設けた凸部19Aが噛み合わせ係合するので、正面補強部材5Aは、上面補強部材5Bによって既設擁壁1から離反する方向への傾倒が抑制されて、立て掛け状態であっても傾倒不能状態に設置されることとなる。
【0048】
このようにして夫々の下部基礎部材3と上部基礎部材4との間に補強部材5を架設した後、既設擁壁1の右側端部と左側端部の夫々に架設した補強部材5の側面側に形成された開口部を閉塞するため、この既設擁壁1の右側端部と左側端部の夫々に架設した補強部材5の側面側に小口止め部材12を配設する。
【0049】
具体的には、先ず、正面小口止め部材12Aの底部に設けた係合孔を下部基礎部材3の位置決め部11(ガイドピン11B)と係合させて、正面小口止め部材12Aを下部基礎部材3に位置決め状態で設置して、この正面小口止め部材12Aを既設擁壁1の正面部に立て掛け状態に設置する。
【0050】
次いで、上面小口止め部材12Bの基端部側に設けた係合孔24を上部基礎部材4の位置決め部11(ガイドピン11B)と係合させて、上面小口止め部材12Bを上部基礎部材4に位置決め状態で設置すると共に、この上面小口止め部材12Bの先端部に設けた係合部23を正面小口止め部材12Aの上端部に設けた係合受部22と係合して、この上面小口止め部材12Bを既設擁壁1の上面部に設置する。
【0051】
この際、本実施例は、正面小口止め部材12Aの係合受部22の手前側に設けた凹部22Aに、上面小口止め部材12Bの係合部23の手前側に設けた凸部23Aが噛み合わせ係合するので、正面小口止め部材12Aは、正面補強部材5A同様、上面小口止め部材12Bによって既設擁壁1から離反する方向への傾倒が抑制されて、立て掛け状態であっても傾倒不能状態に設置されることとなる。
【0052】
各下部基礎部材3、上部基礎部材4間に補強部材5、小口止め部材12の架設が終了したら、次に、この既設擁壁1と補強部材5との間に設けた隙間6を埋めるため、この隙間6に充填部材9(例えばコンクリート)を充填する。
【0053】
この充填部材9を充填する際は、先ず、正面補強部材5Aの下端側に一段目のパネル部材8を取り付け、正面開口部7の下端部を含む一部を閉塞する。
【0054】
パネル部材8は、
図3に示すように、正面開口部7の左右内縁に設けたパネル部材取付部16にパネル部材8を押し当て、このパネル部材8の四隅に設けた各ボルト挿通孔21に固定ボルト17を挿通し、パネル部材取付部16に設けた螺着部18に螺着し固定する。
【0055】
各補強部材5に一段目のパネル部材8を取り付けたら、
図4,5に示すように、この一段目のパネル部材8の上方側の正面開口部7からこのパネル部材8の上端高さ位置まで充填部材9を充填する(施工手順3)。
【0056】
既設擁壁1と一段目のパネル部材8との間の隙間6の充填作業を終えたら、
図6に示すように、二段目のパネル部材8を取り付け、一段目と同様、この二段目のパネル部材8の上端高さ位置まで充填部材9を充填する(施工手順4)。
【0057】
この下端側から一段ずつパネル部材8を取り付けては、この取り付けたパネル部材8の上端高さ位置まで充填部材9を充填する作業を上端部のパネル部材8を取り付ける一つ手前まで繰り返し行う。
【0058】
本実施例では、正面補強部材5Aの正面開口部7を四枚のパネル部材8で閉塞するので、三段目まで上記作業を繰り返し行う。
【0059】
そして、上端部の一つ手前のパネル部材8(本実施例では三段目)の充填部材9の充填作業が終了したら、上端部(本実施例では、四段目)のパネル部材8を取り付けて、正面補強部材5Aの正面開口部7を完全閉塞状態にする。
【0060】
この上端部のパネル部材8を取り付けたら、
図7に示すように、上面補強部材5Bに設けた上面開口部10から充填部材9を充填して、既設擁壁1の正面部と上端部のパネル部材8との間の隙間6及び既設擁壁1の上面部と上面補強部材5Bとの間の隙間6を埋める(施工手順5)。
【0061】
図8は、既設擁壁1上に新設擁壁2を形成した状態を示すもので、上面補強部材5Bの係合孔20及び上面小口止め部材12Bの係合孔24には、グラウト材を注入している。
【0062】
最後に、
図9に示すように、下部側地盤25に設けた凹溝27の隙間を埋め、上面補強部材5Bと上部側地盤26とに生じた段差を埋め施工完了となる。
【0063】
尚、本実施例は、図示したように、既設擁壁1を幾つかのエリアに分けて、このエリア毎に新設擁壁2を形成してゆく施工方法の場合であるが、エリア分けせず、既設擁壁1の全面に対して一気に新設擁壁2を形成してゆく施工方法でも良い。
【0064】
このように、本実施例は、既設擁壁を基礎する従来工法とは異なり、補修又は補強対象の既設擁壁1の下部側地盤25に下部基礎部材3を設置し、既設擁壁1の上部側地盤26に上部基礎部材4を設置して、新設擁壁2用の新たな基礎部材を設置し、この下部基礎部材3と上部基礎部材4との間に補強部材5を架設するので、補強部材5を強固に固定することができ、補強部材5の固定強度の信頼性が向上する。
【0065】
また、本実施例は、補強部材5を構成する正面補強部材5Aに正面開口部7を設け、上面補強部材5Bに上面開口部10を設けて、これら正面補強部材5A、上面補強部材5Bの軽量化を図っているので、補強部材5を下部基礎部材3と上部基礎部材4との間に架設する際、この補強部材5の運搬、設置作業を容易に行うことができ、作業性(施工性)が向上する。
【0066】
更に、本実施例は、既設擁壁1と補強部材5との間の隙間6に充填部材9を充填する際、下端側からパネル部材8を一段取り付ける毎に、この取り付けたパネル部材8の上方の開口している正面開口部7から、この取り付けたパネル部材8の上端高さ位置まで充填部材9を充填するので、充填深さが浅く、しかも、充填作業の間口が広いので、充填作業がし易くなり、また、充填部材9を注入する注入ホースを奥まで挿入できるので、充填部材9の未充填部分の発生を可及的に低減することができ、充填部材9の未充填による強度低下を招く恐れも無く、高強度で耐久性に優れた新設擁壁2を形成することができる画期的な擁壁の補修又は補強工法となる。
【0067】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。