特許第5753553号(P5753553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753553
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】擁壁の補修又は補強工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/02 20060101AFI20150702BHJP
【FI】
   E02D29/02 309
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-150889(P2013-150889)
(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公開番号】特開2015-21306(P2015-21306A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2014年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】591036125
【氏名又は名称】藤林コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(72)【発明者】
【氏名】藤林 功
【審査官】 石井 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−136771(JP,A)
【文献】 特開2003−119790(JP,A)
【文献】 特開2011−247059(JP,A)
【文献】 特開平09−324433(JP,A)
【文献】 特開平11−210004(JP,A)
【文献】 特開平08−218402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/02
E02D 17/00−17/20
E02D 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正面部と上面部を有する既設擁壁を補修又は補強するために、前記既設擁壁の前記正面部及び前記上面部に新設擁壁を形成する擁壁の補修又は補強工法であって、前記既設擁壁の下部に配設する下部基礎部材を設置すると共に前記既設擁壁の上部に配設する上部基礎部材を設置し、この下部基礎部材と上部基礎部材との間に、前記既設擁壁の正面部に配設される正面補強部材と前記既設擁壁の上面部に配設される上面補強部材とから成る側面視屈曲形状の補強部材を前記既設擁壁の表面との間に隙間を設けて架設し、この架設した補強部材の前記正面補強部材に設けた正面開口部の下端側をパネル部材で閉塞し、このパネル部材の上方側の正面開口部から、前記既設擁壁の正面部と前記パネル部材との間の隙間に充填部材を、前記正面開口部からこの充填部材が溢れ出ない高さ位置まで充填し、前記正面開口部上端側をパネル部材で閉塞して前記正面開口部全面を閉塞し、前記上面補強部材に設けた上面開口部から、前記既設擁壁の正面部と前記パネル部材との間の隙間及び前記既設擁壁の上面部と前記上面補強部材との間の隙間に充填部材を充填して、前記既設擁壁と前記補強部材との間の隙間を前記充填部材で充填し、この既設擁壁上に前記新設擁壁を形成することを特徴とする擁壁の補修又は補強工法。
【請求項2】
前記既設擁壁の下部に複数の前記下部基礎部材を、前記既設擁壁の幅方向に沿って並設すると共に、前記既設擁壁の上部に複数の前記上部基礎部材を、前記既設擁壁の幅方向に沿って並設し、対となる夫々の前記下部基礎部材と前記上部基礎部材との間に前記補強部材を架設して、前記既設擁壁の幅方向に沿って複数の前記補強部材を並設することを特徴とする請求項1記載の擁壁の補修又は補強工法。
【請求項3】
前記下部基礎部材及び前記上部基礎部材の夫々に、前記正面補強部材及び前記上面補強部材を位置決めする位置決め部を設けたことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の擁壁の補修又は補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設擁壁を補修又は補強する際に用いる擁壁の補修又は補強工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
経年劣化等により補修や補強工事が必要となった既設擁壁に対して、この既設擁壁上に新たな擁壁を形成することで、この既設擁壁を補修又は補強する工法が用いられている。
【0003】
この既設擁壁上に新設擁壁を形成する工法としては、例えば、特許文献1に示すような工法がある。
【0004】
この特許文献1の補強工法(以下、従来工法)は、既設擁壁にアンカーを設け、このアンカーに格子状に形成した支持鋼を設け、この支持鋼を基台にして擁壁パネルを既設擁壁の前面に積み上げ状態で設置した後、この擁壁パネルと既設擁壁との間の隙間にコンクリートを打設して、既設擁壁上に新設擁壁を形成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−136771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この従来工法では、劣化した既設擁壁を基礎代わりにして、この既設擁壁にアンカーを設ける工法であるため、アンカーの固定強度の信頼性が低く、また、重量のある大きな擁壁パネルを何段も積み上げるため、施工性が悪く、更に、既設擁壁との隙間にコンクリートを打設する際も、上部にできた既設擁壁と擁壁パネルとの間の僅かな幅の開口部からコンクリートを充填するので、奥側(底側)にコンクリートがきれいに入り込まず、コンクリート未充填部分が形成され、強度不足が生じる懸念点もあった。
【0007】
本発明は、このような従来工法が有する問題点を鑑み、既設擁壁を十分に補強でき、且つ施工性にも優れた画期的な擁壁の補修又は補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0009】
正面部と上面部を有する既設擁壁1を補修又は補強するために、前記既設擁壁1の前記正面部及び前記上面部に新設擁壁2を形成する擁壁の補修又は補強工法であって、前記既設擁壁1の下部に配設する下部基礎部材3を設置すると共に前記既設擁壁1の上部に配設する上部基礎部材4を設置し、この下部基礎部材3と上部基礎部材4との間に、前記既設擁壁1の正面部に配設される正面補強部材5Aと前記既設擁壁1の上面部に配設される上面補強部材5Bとから成る側面視屈曲形状の補強部材5を前記既設擁壁1の表面との間に隙間6を設けて架設し、この架設した補強部材5の前記正面補強部材5Aに設けた正面開口部7の下端側をパネル部材8で閉塞し、このパネル部材8の上方側の正面開口部7から、前記既設擁壁1の正面部と前記パネル部材8との間の隙間6に充填部材9を、前記正面開口部7からこの充填部材9が溢れ出ない高さ位置まで充填し、前記正面開口部7上端側をパネル部材8で閉塞して前記正面開口部7全面を閉塞し、前記上面補強部材5Bに設けた上面開口部10から、前記既設擁壁1の正面部と前記パネル部材8との間の隙間6及び前記既設擁壁1の上面部と前記上面補強部材5Bとの間の隙間6に充填部材9を充填して、前記既設擁壁1と前記補強部材5との間の隙間6を前記充填部材9で充填し、この既設擁壁1上に前記新設擁壁2を形成することを特徴とする擁壁の補修又は補強工法に係るものである。
【0010】
また、前記既設擁壁1の下部に複数の前記下部基礎部材3を、前記既設擁壁1の幅方向に沿って並設すると共に、前記既設擁壁1の上部に複数の前記上部基礎部材4を、前記既設擁壁1の幅方向に沿って並設し、対となる夫々の前記下部基礎部材3と前記上部基礎部材4との間に前記補強部材5を架設して、前記既設擁壁1の幅方向に沿って複数の前記補強部材5を並設することを特徴とする請求項1記載の擁壁の補修又は補強工法に係るものである。
【0011】
また、前記下部基礎部材3及び前記上部基礎部材4の夫々に、前記正面補強部材5A及び前記上面補強部材5Bを位置決めする位置決め部11を設けたことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の擁壁の補修又は補強工法に係るものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上述のようにしたから、既設擁壁を十分に補強でき、且つ施工性にも優れた画期的な擁壁の補修又は補強工法となる。
【0013】
即ち、本発明は、従来のように、既設擁壁を基礎にせず、既設擁壁の上部と下部とに夫々新たな基礎部材を設け、これを基礎として補強部材を設けたので、新設擁壁となる補強部材を安定且つ強固に設けることができ、よって、既設擁壁上に強度に優れた新設擁壁を形成してこの既設擁壁を補強することができる。
【0014】
しかも、本発明は、この補強部材を形成する正面補強部材と上面補強部材との夫々に開口部を設けて、これら正面補強部材と上面補強部材とを軽量化したので、施工時にこれら正面補強部材及び上面補強部材の運搬・設置作業を容易に行うことができるようになり施工性が向上する。
【0015】
更に、正面補強部材に設けた正面開口部を、この正面補強部材と既設擁壁との間の隙間を埋める充填部材を充填する際の注入口として利用するので、充填部材を隙間に注入し易くなり、未充填部分を生じさせることなく隙間に充填部材を充填することができ、未充填部の無い高強度で耐久性に優れた新設擁壁を形成することができる画期的な擁壁の補修又は補強工法となる。
【0016】
また、請求項2,3記載の発明においては、より一層施工性に優れた画期的な擁壁の補修又は補強工法となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施例の施工手順1を示す説明図である。
図2】本実施例の施工手順2を示す説明図である。
図3】本実施例のパネル部材の取付け作業説明図である。
図4】本実施例の施工手順3を示す説明図である。
図5図4の側断面図である。
図6】本実施例の施工手順4を示す説明図である。
図7】本実施例の施工手順5を示す説明図である。
図8】本実施例の新設擁壁形成状態を示す斜視図である。
図9】本実施例の施工完了状態を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0019】
本発明は、既設擁壁を基礎する従来工法とは異なり、補修又は補強対象の既設擁壁1の下部(例えば下部側の地盤)に下部基礎部材3を設置し、既設擁壁1の上部(例えば上部側の地盤若しくは既設擁壁1の基礎)に上部基礎部材4を設置して、既設擁壁1の上部及び下部に新設擁壁2用の新たな基礎を設置し、この下部基礎部材3と上部基礎部材4との間に補強部材5を架設するので、補強部材5を強固に固定することができ、補強部材5の固定強度の信頼性が向上する。
【0020】
また、本発明は、補強部材5を構成する正面補強部材5Aに正面開口部7を設け、上面補強部材5Bに上面開口部10を設けて、これら正面補強部材5A、上面補強部材5Bの軽量化を図っているので、補強部材5を下部基礎部材3と上部基礎部材4との間に架設する際、この補強部材5の運搬、設置作業を容易に行うことができ、作業性(施工性)が向上する。
【0021】
また、この下部基礎部材3、上部基礎部材4間に架設した補強部材5と既設擁壁1との間に設けた隙間6に充填部材9を充填する際、正面補強部材5Aの正面開口部7をパネル部材8で閉塞してから充填部材9を充填するが、本発明は、先ず、正面補強部材5Aに設けた正面開口部7の下端部を含む一部をパネル部材8で閉塞し、このパネル部材8の上方の開口している正面開口部7から例えばパネル部材8の高さまで充填部材9を充填するので、低い位置から、且つ広い開口部から充填作業を行うことができるので、底部隅など充填し難い個所にも充填部材9をきちんと充填することができる。
【0022】
また、正面補強部材5Aの正面開口部7の上端側をパネル部材8で閉塞した後の充填部材9の充填作業も、上面補強部材5Bに設けた広い開口部の上面開口部10から充填部材9を充填するので、充填作業がし易く、既設擁壁1と正面補強部材5Aの上部側との間の隙間6及び既設擁壁1と上面補強部材5Bとの間の隙間6に、確実に充填部材9を充填することができ、充填部材9の未充填による強度低下を招く恐れも無く、高強度で耐久性に優れた新設擁壁2を形成することができる画期的な擁壁の補修又は補強工法となる。
【実施例】
【0023】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0024】
本実施例は、正面部と上面部を有する既設擁壁1を補修又は補強するために、既設擁壁1の正面部及び上面部に新設擁壁2を形成する擁壁の補修又は補強工法である。
【0025】
具体的には、既設擁壁1の下部に配設する下部基礎部材3を設置すると共に既設擁壁1の上部に配設する上部基礎部材4を設置し、この下部基礎部材3と上部基礎部材4との間に、既設擁壁1の正面部に配設される正面補強部材5Aと既設擁壁1の上面部に配設される上面補強部材5Bとから成る側面視屈曲形状の補強部材5を既設擁壁1の表面との間に隙間6を設けて架設し、この架設した補強部材5の正面補強部材5Aに設けた正面開口部7の下端側をパネル部材8で閉塞し、このパネル部材8の上方側の正面開口部7から、既設擁壁1の正面部とパネル部材8との間の隙間6に充填部材9を、正面開口部7からこの充填部材9が溢れ出ない高さ位置まで充填し、正面開口部7上端側をパネル部材8で閉塞して正面開口部7全面を閉塞し、上面補強部材5Bに設けた上面開口部10から、既設擁壁1の正面部とパネル部材8との間の隙間6及び既設擁壁1の上面部と上面補強部材5Bとの間の隙間6に充填部材9を充填する擁壁の補修又は補強工法である。
【0026】
先ず、本実施例に用いる各部材について説明する。
【0027】
本実施例では、下部基礎部材3、上部基礎部材4、補強部材5(正面補強部材5A、上面補強部材5B)、パネル部材8、小口止め部材12(正面小口止め部材12A、上面小口止め部材12B)を用い、これら部材は、予め工場等で成形したプレキャスト部材である。
【0028】
本実施例の下部基礎部材3及び上部基礎部材4は夫々、補強部材5若しくは小口止め部材12との係合部(係合面)に位置決め部11を設けた構成としている。
【0029】
この位置決め部11は、前記係合部(係合面)に設けたピン嵌入孔11Aに鋼製のガイドピン11Bを嵌挿して形成した構成とし、本実施例では、図1に示すように、補強部材5を固定する下部基礎部材3及び上部基礎部材4は位置決め部11を二か所に設け、小口止め部材12を固定する下部基礎部材3及び上部基礎部材4は位置決め部11を四か所に設けた構成としている。
【0030】
また、本実施例の補強部材5は、正面補強部材5Aと上面補強部材5Bとから成る構成としている。
【0031】
正面補強部材5Aは、図2に示すように、縦長方形状の正面開口部7を設けた縦長方形枠状に形成し、上端部に後述する上面補強部材5Bと係合する正面部側係合部13を設けると共に、既設擁壁1との間の隙間6を形成するための脚部14を既設擁壁1に沿設した際の既設擁壁1側となる方向に突設し、底部に下部基礎部材3の位置決め部11と係合する係合孔15を設けた構成としている。
【0032】
また、正面補強部材5Aは、正面開口部7の左右両縁部、言い換えると、正面補強部材5Aの縦枠部材の内側面にパネル部材8を取り付けるパネル部材取付部16を設けた構成とし、本実施例では、このパネル部材取付部16を、帯板状に形成し、パネル部材8を固定する固定ボルト17を螺着する螺着部18を長さ方向に沿って複数並設した構成としている。
【0033】
また、上面補強部材5Bと係合する上面部材係合部13は、手前側に凹部13Aを形成し、この凹部13Aに上面補強部材5Bが噛み合わせ係合する構成としている。
【0034】
また、本実施例の上面補強部材5Bは、図2に示すように、略方形状に形成した板状ブロックに横長方形状の上面開口部10を設けると共に、先端部に上述した正面補強部材5Aと係合する上面部側係合部19を下方に向けて突設して側面視への字状に形成した構成とし、本実施例では、この上面部側係合部19の先端部の手前側に正面部側係合部13の凹部13Aと係合する凸部19Aを設けて、この凸部19Aが正面補強部材5Aの正面部側係合部13(凹部13A)と噛み合わせ係合する構成としている。
【0035】
また、この上面補強部材5Bは、基端部側に上部基礎部材4の位置決め部11と係合する係合孔20を設けた構成としている。
【0036】
また、本実施例のパネル部材8は、図3に示すように、方形板状に形成し、四隅に固定ボルト17を挿通するボルト挿通孔21を設けた構成としている。
【0037】
また、本実施例の小口止め部材12は、図2に示すように、正面小口止め部材12Aと上面小口止め部材12Bとから成る構成としている。
【0038】
正面小口止め部材12Aは、側面形状を、正面補強部材5Aの側面形状に合致し、且つこの正面補強部材5Aを設置した際に形成される側面開口部を閉塞し得る形状に形成した柱状に形成し、上端部に後述する上面小口止め部材12Bと係合する凹部22Aを有する係合受部22を設け、底部に下部基礎部材3の位置決め部11と係合する係合孔を設けた構成としている。
【0039】
また、上面小口止め部材12Bは、上面補強部材5Bの側面形状に合致し、且つこの上面補強部材5Bを設置した際に形成される側面開口部を閉塞し得る形状に形成し、先端部に正面小口止め部材12Aの係合受部22の凹部22Aと係合する凸部23Aを有する係合部23を設けて、この係合部23と正面小口止め部材12Aの係合受部22とが噛み合わせ係合するように構成すると共に、基端側に上部基礎部材4の位置決め部11と係合する係合孔24を設けた構成としている。
【0040】
次に、本実施例の施工手順について説明する。
【0041】
先ず、補修又は補強対象の既設擁壁1の下部側地盤25に下部基礎部材3を設置し、既設擁壁1の上部側地盤26に上部基礎部材4を設置する。
【0042】
具体的には、図1に示すように、下部側地盤25と既設擁壁1の下端部との境界部に、既設擁壁1の幅方向に沿って凹溝27を形成し、この凹溝27に下部基礎部材3を既設擁壁1の幅方向に沿って並設し、上部基礎部材4をこの下部側地盤25に並設した下部基礎部材3と対向するようにして並設する(施工手順1)。
【0043】
次いで、各下部基礎部材3と上部基礎部材4との間に補強部材5を架設する。
【0044】
具体的には、図2に示すように、既設擁壁1の正面部に正面補強部材5Aを配設し、既設擁壁1の上面部に上面補強部材5Bを配設する(施工手順2)。
【0045】
より具体的に説明すると、先ず、正面補強部材5Aの底部に設けた係合孔15を下部基礎部材3の位置決め部11(ガイドピン11B)と係合させて、正面補強部材5Aを下部基礎部材3に位置決め状態で設置すると共に、脚部14を既設擁壁1に当接させて、この正面補強部材5Aを既設擁壁1の正面部との間に隙間6を設けて立て掛け状態に設置する。
【0046】
次いで、上面補強部材5Bの基端部側に設けた係合孔20を上部基礎部材4の位置決め部11(ガイドピン11B)と係合させて、上面補強部材5Bを上部基礎部材4に位置決め状態で設置すると共に、この上面補強部材5Bの先端部に設けた上面部側係合部19を正面補強部材5Aの上端部に設けた正面部側係合部13と係合して、この上面補強部材5Bを既設擁壁1の上面部との間に隙間6を設けて設置する。
【0047】
この際、本実施例は、正面補強部材5Aの正面部側係合部13の手前側に設けた凹部13Aに、上面補強部材5Bの上面部側係合部19の手前側に設けた凸部19Aが噛み合わせ係合するので、正面補強部材5Aは、上面補強部材5Bによって既設擁壁1から離反する方向への傾倒が抑制されて、立て掛け状態であっても傾倒不能状態に設置されることとなる。
【0048】
このようにして夫々の下部基礎部材3と上部基礎部材4との間に補強部材5を架設した後、既設擁壁1の右側端部と左側端部の夫々に架設した補強部材5の側面側に形成された開口部を閉塞するため、この既設擁壁1の右側端部と左側端部の夫々に架設した補強部材5の側面側に小口止め部材12を配設する。
【0049】
具体的には、先ず、正面小口止め部材12Aの底部に設けた係合孔を下部基礎部材3の位置決め部11(ガイドピン11B)と係合させて、正面小口止め部材12Aを下部基礎部材3に位置決め状態で設置して、この正面小口止め部材12Aを既設擁壁1の正面部に立て掛け状態に設置する。
【0050】
次いで、上面小口止め部材12Bの基端部側に設けた係合孔24を上部基礎部材4の位置決め部11(ガイドピン11B)と係合させて、上面小口止め部材12Bを上部基礎部材4に位置決め状態で設置すると共に、この上面小口止め部材12Bの先端部に設けた係合部23を正面小口止め部材12Aの上端部に設けた係合受部22と係合して、この上面小口止め部材12Bを既設擁壁1の上面部に設置する。
【0051】
この際、本実施例は、正面小口止め部材12Aの係合受部22の手前側に設けた凹部22Aに、上面小口止め部材12Bの係合部23の手前側に設けた凸部23Aが噛み合わせ係合するので、正面小口止め部材12Aは、正面補強部材5A同様、上面小口止め部材12Bによって既設擁壁1から離反する方向への傾倒が抑制されて、立て掛け状態であっても傾倒不能状態に設置されることとなる。
【0052】
各下部基礎部材3、上部基礎部材4間に補強部材5、小口止め部材12の架設が終了したら、次に、この既設擁壁1と補強部材5との間に設けた隙間6を埋めるため、この隙間6に充填部材9(例えばコンクリート)を充填する。
【0053】
この充填部材9を充填する際は、先ず、正面補強部材5Aの下端側に一段目のパネル部材8を取り付け、正面開口部7の下端部を含む一部を閉塞する。
【0054】
パネル部材8は、図3に示すように、正面開口部7の左右内縁に設けたパネル部材取付部16にパネル部材8を押し当て、このパネル部材8の四隅に設けた各ボルト挿通孔21に固定ボルト17を挿通し、パネル部材取付部16に設けた螺着部18に螺着し固定する。
【0055】
各補強部材5に一段目のパネル部材8を取り付けたら、図4,5に示すように、この一段目のパネル部材8の上方側の正面開口部7からこのパネル部材8の上端高さ位置まで充填部材9を充填する(施工手順3)。
【0056】
既設擁壁1と一段目のパネル部材8との間の隙間6の充填作業を終えたら、図6に示すように、二段目のパネル部材8を取り付け、一段目と同様、この二段目のパネル部材8の上端高さ位置まで充填部材9を充填する(施工手順4)。
【0057】
この下端側から一段ずつパネル部材8を取り付けては、この取り付けたパネル部材8の上端高さ位置まで充填部材9を充填する作業を上端部のパネル部材8を取り付ける一つ手前まで繰り返し行う。
【0058】
本実施例では、正面補強部材5Aの正面開口部7を四枚のパネル部材8で閉塞するので、三段目まで上記作業を繰り返し行う。
【0059】
そして、上端部の一つ手前のパネル部材8(本実施例では三段目)の充填部材9の充填作業が終了したら、上端部(本実施例では、四段目)のパネル部材8を取り付けて、正面補強部材5Aの正面開口部7を完全閉塞状態にする。
【0060】
この上端部のパネル部材8を取り付けたら、図7に示すように、上面補強部材5Bに設けた上面開口部10から充填部材9を充填して、既設擁壁1の正面部と上端部のパネル部材8との間の隙間6及び既設擁壁1の上面部と上面補強部材5Bとの間の隙間6を埋める(施工手順5)。
【0061】
図8は、既設擁壁1上に新設擁壁2を形成した状態を示すもので、上面補強部材5Bの係合孔20及び上面小口止め部材12Bの係合孔24には、グラウト材を注入している。
【0062】
最後に、図9に示すように、下部側地盤25に設けた凹溝27の隙間を埋め、上面補強部材5Bと上部側地盤26とに生じた段差を埋め施工完了となる。
【0063】
尚、本実施例は、図示したように、既設擁壁1を幾つかのエリアに分けて、このエリア毎に新設擁壁2を形成してゆく施工方法の場合であるが、エリア分けせず、既設擁壁1の全面に対して一気に新設擁壁2を形成してゆく施工方法でも良い。
【0064】
このように、本実施例は、既設擁壁を基礎する従来工法とは異なり、補修又は補強対象の既設擁壁1の下部側地盤25に下部基礎部材3を設置し、既設擁壁1の上部側地盤26に上部基礎部材4を設置して、新設擁壁2用の新たな基礎部材を設置し、この下部基礎部材3と上部基礎部材4との間に補強部材5を架設するので、補強部材5を強固に固定することができ、補強部材5の固定強度の信頼性が向上する。
【0065】
また、本実施例は、補強部材5を構成する正面補強部材5Aに正面開口部7を設け、上面補強部材5Bに上面開口部10を設けて、これら正面補強部材5A、上面補強部材5Bの軽量化を図っているので、補強部材5を下部基礎部材3と上部基礎部材4との間に架設する際、この補強部材5の運搬、設置作業を容易に行うことができ、作業性(施工性)が向上する。
【0066】
更に、本実施例は、既設擁壁1と補強部材5との間の隙間6に充填部材9を充填する際、下端側からパネル部材8を一段取り付ける毎に、この取り付けたパネル部材8の上方の開口している正面開口部7から、この取り付けたパネル部材8の上端高さ位置まで充填部材9を充填するので、充填深さが浅く、しかも、充填作業の間口が広いので、充填作業がし易くなり、また、充填部材9を注入する注入ホースを奥まで挿入できるので、充填部材9の未充填部分の発生を可及的に低減することができ、充填部材9の未充填による強度低下を招く恐れも無く、高強度で耐久性に優れた新設擁壁2を形成することができる画期的な擁壁の補修又は補強工法となる。
【0067】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0068】
1 既設擁壁
2 新設擁壁
3 下部基礎部材
4 上部基礎部材
5 補強部材
5A 正面補強部材
5B 上面補強部材
6 隙間
7 正面開口部
8 パネル部材
9 充填部材
10 上面開口部
11 位置決め部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9