特許第5753586号(P5753586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5753586電気自動車空調システムの自己適応式制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753586
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】電気自動車空調システムの自己適応式制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 1/00 20060101AFI20150702BHJP
   B60H 1/00 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   B60L1/00 L
   B60H1/00 101Z
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-538061(P2013-538061)
(86)(22)【出願日】2012年8月21日
(65)【公表番号】特表2013-544065(P2013-544065A)
(43)【公表日】2013年12月9日
(86)【国際出願番号】CN2012080416
(87)【国際公開番号】WO2013026386
(87)【国際公開日】20130228
【審査請求日】2013年5月10日
(31)【優先権主張番号】201110250316.2
(32)【優先日】2011年8月24日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513084849
【氏名又は名称】常州市西屋自動化有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100178434
【弁理士】
【氏名又は名称】李 じゅん
(72)【発明者】
【氏名】黄 暁峰
【審査官】 前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−004498(JP,A)
【文献】 特開2001−026214(JP,A)
【文献】 特開2007−271191(JP,A)
【文献】 特開2010−163095(JP,A)
【文献】 特開2004−155264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 − 15/42
B60H 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車において、動力システムの稼動中おける、電気自動車空調システムの自己適応式制御方法であって、
(1)車両制御システムVMSが、現在の車両運行状態パラメータを測定するステップ、(2)車両制御システムVMSが、空調システム制御装置ASCに、現在の空調システム最大許容パワー値PACeを送信するステップ、
(3)空調システム制御装置ASCが、空調システムの稼動状態パラメータを測定し、空調システムを起動させる必要があるかを判断するステップ、
(4)ステップ(3)において、空調システムを起動させる必要がないと判断した場合、空調システムを停止する
テップ(3)において、空調システムを起動させる必要があると判断した場合、
空調システム制御装置ASCが、車両制御システムが送信した現在の空調システム最大許容パワー値PACeと、空調システム最小稼動パワー閾値PACtとを比較するステップ、
(5)ステップ(4)においてPACe<PACtと判断した場合、空調システムを停止する
テップ(4)においてPACe=PACtと判断した場合、空調システムを最小パワーに対応する稼働条件にて稼動させ
テップ(4)においてPACe>PACtと判断した場合、空調システムを空調システム制御装置ASCが定める制御ルールに従って稼動させるステップを含み、
前記ステップ(5)において、前記空調システム制御装置ASCが定める制御ルールは、
(5−1)空調システムが停止状態から稼動状態に切り替わる際、まず、最小パワーに対応する稼動条件で、一定時間tsの間、空調システムを稼動させること、
(5−2)車両が点火始動し且つ空調を起動する要求がある場合、空調システムは、空調システム最大稼動パワー値PAChになるまで、徐々に入力パワー値PACを増大し、ただし現在の空調システム最大許容パワー値PACeより高くならないこと、
(5−3)車内温度と設定温度との温度差dTによって、空調システムの入力パワー値PACを調整すること、
(5−4)車内温度と設定温度との温度差dTが設定値dTsより小さい場合、空調システムを停止させるか、または最小パワーに対応する稼動条件で稼動させること、
以上のいずれか一つまたは複数の制御ルールの組み合わせを含むことを特徴とする、電気自動車空調システムの自己適応式制御方法。
【請求項2】
前記ステップ(1)において、車両制御システムVMSが測定する現在の車両運行状態パラメータは、
電源システム中のバッテリの接続状態及び/またはバッテリの充電状態及び/またはバッテリの最大許容放電パワーPa、並びに、動力システムの稼動パワーPe及びその他のシステムの稼動パワーPsを含むことを特徴とする、請求項1に記載の電気自動車空調システムの自己適応式制御方法。
【請求項3】
前記ステップ(2)において、前記現在の空調システム最大許容パワー値PACeは、現在のバッテリの最大許容放電パワー値と、動力システム及びその他のシステムの稼動パワーとの差より大きくない、即ち、 PACe≦Pa−Pe−Psであることを特徴とする、請求項1に記載の電気自動車空調システムの自己適応式制御方法。
【請求項4】
前記ルール(5−3)の具体的な調整方法は、
温度差dTが大きくなるとき、空調システムの入力パワーを上げ、ただし現在の空調システム最大許容パワー値PACeより高くならないこと、
温度差dTが小さくなるとき、空調システムの入力パワーを下げることを含むことを特徴とする、請求項1に記載の電気自動車空調システムの自己適応式制御方法。
【請求項5】
前記ルール(5−3)の具体的な調整方法は、
(5−3−1)コンプレッサは少なくても3段階の調整可能な回転速度を有し、ファンモーターは少なくても2段階の調整可能な回転速度を有すること、
(5−3−2)車内温度と設定温度との温度差dT<dTsである場合、コンプレッサを低速モードで稼動させ、コンデンサーとエバポレータファンモーターを低速モードで稼動させ、ただし現在の空調システム最大許容パワー値PACeより高くならないこと、でなければは空調システムを停止させること、
(5−3−3)車内温度と設定温度との温度差dT>dTs且つdT<T1の場合、コンプレッサを中速モードで稼動させ、コンデンサーとエバポレータファンモーターを高速モードで稼動させ、ただし現在の空調システム最大許容パワー値PACeより高くならないこと、でなければ条件(5−3−2)で稼動させる、
(5−3−4)車内温度と設定温度との温度差dT>T1である場合、コンプレッサを高速モードで稼動させ、コンデンサーとエバポレータファンモーターを高速モードで稼動させ、ただし現在の空調システム最大許容パワー値PACeより高くならないこと、でなければ条件(5−3−3)で稼動させる、
以上の制御要件を含むことを特徴とする、請求項1に記載の電気自動車空調システムの自己適応式制御方法。
【請求項6】
周波数変換制御装置または他の速度調節装置により、コンプレッサの回転速度を調整し、コンプレッサの出力能力を調整することにより、空調システムの入力パワーを調整できることを特徴とする、請求項1に記載の電気自動車空調システムの自己適応式制御方法。
【請求項7】
負荷比を調節することによって、コンプレッサの出力能力を調整し、これにより空調システムの入力パワーを調整することを特徴とする、請求項1に記載の電気自動車空調システムの自己適応式制御方法。
【請求項8】
前記空調システムの最小パワーに対応する稼動条件は、
(1)回転速度調整可能式コンプレッサを最低回転速度で稼動させ、または能力調整可能式コンプレッサを最小負荷条件でアンロード稼動させること、
(2)コンデンサーとエバポレータファンモーターを最低回転速度で稼動させるか、または低速モードで稼動させること、
(3)電子エキスパンションバルブを最大開度に設定すること、
以上のいずれか一つまたは複数の制御ルールの組み合わせを含むことを特徴とする、請求項1に記載の電気自動車空調システムの自己適応式制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気自動車製造分野に属するものであり、特に電気自動車の空調システムの制御方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
空調システムは現代の自動車における基本配置部品となり、自動車製造分野の重要技術である。一般的な燃料使用自動車の空調システムは、通常、コンプレッサ、コンデンサー、エバポレーター、スロットル部材及び制御システムで構成され、カーエンジンと電磁クラッチで空調コンプレッサを稼動させるか、または独立した燃料式エンジンにより空調コンプレッサを稼動させる。空調システムが稼動するのに必要なエネルギーは燃料式エンジンから供給され、空調システムの制御は主に温度制御となる。
【0003】
現在、電気自動車の空調システムは、一般的に、コンプレッサ、コンデンサー、エバポレーター、スロットル部材及び制御システムを含むが、その駆動方法と制御方法は異なるものである。一つ目のタイプの電気自動車空調システムは、依然独立した燃料式エンジンにより空調コンプレッサを駆動させる。この案は従来の独立式自動車空調システムに類似しているが、車両には燃料システムを配置する必要があり、完全な電気自動車ではない。二つ目のタイプの電気自動車空調システムは、車両の電源システムからモーターに電気を供給し、開放型または半密閉型のコンプレッサを稼動させ、即ち、独立式の自動車空調システムの燃料式エンジンを電動駆動のモーターに変更したことになる。三つ目のタイプの電気自動車の空調システムは、電気自動車エンジン及び電磁クラッチにより空調コンプレッサを駆動させる、即ち、非独立式の燃料使用自動車の空調のエンジンを電気自動車のモーターに変更したことになる。四つ目のタイプの電気自動車空調システムは、モーターは密閉式コンプレッサの中に入れられ、電気自動車電源システムからコンプレッサに電気を供給して、空調システムを駆動させる。これは家庭用の空調の技術構成と同じである。エネルギー転換及び転送の関係から分析すれば、現在の燃料使用自動車空調システムの技術、及び前記の一つ目〜三つ目のタイプの電気自動車空調システムの技術案は、いずれも、モーターとコンプレッサとの間はベルトまたはギアによって接続する機械連動機構を有するため、エネルギー転換効率が低いとの問題点が存在する。四つ目のタイプの技術方案は、エネルギー変換及び転送のプロセスが少なく、エネルギーの利用効率の向上に有利である。特に、この技術構成に、周波数変換式コンプレッサも応用でき、更にコンプレッサと空調システムの効率を向上させることができる。
【0004】
現在の自動車空調システム中において、独立式の空調システムが使用するエンジンの回転数は充分に安定し、定格条件における入力パワーも安定している。非独立式空調システムのコンプレッサは、ベルトによりエンジンのクランクシャフトと連結し、空調コンプレッサの回転数は、エンジンの回転数に伴って変化し、エンジンとの速度伝達比は普通1:1〜1:1.2の間となる。エンジンの回転数は主に、運転者が運転中の必要性により制御する。走行エネルギーを増やしたい時にエンジン回転数を増やし、コンプレッサの回転数もこれに従って高くなり、空調システムの入力パワーも高まる。この場合、空調システムは自身の冷却の需要により入力パワーを増やしたわけではなく、コンプレッサの回転数が多くなったため、空調システムの入力パワーと冷却量の増加に繋がる。即ち、システム設計上の問題により、この場合空調システムは自身の需要より多いパワーを消耗してしまい、これにより、動力システムのパワーの上昇に影響を及ぼした。これは、排気量の小さい自動車が空調システムを稼動させた場合、パワーが不足してしまう原因である。よって、動力システムのパワーを向上すると同時に、空調システムの入力パワーも高まってしまう技術案は、必要ではないし、不合理である。
【0005】
電気自動車にとって、動力システムと空調システムのエネルギーは、いずれも電源システムより提供されるが、電源システムの出力パワーと容量は限られている。空調システムの入力パワーは、動力システムの使用できるパワーの大きさに直接影響するだけでなく、車両の航続距離にも影響する。明らかなように、車両の動力システムは空調システムより優先度が高い。電気自動車の動力システムに必要な入力パワーを確保するため、または、必要とする航続距離を実現させるため、電源システムの充電状態、バッテリの最大放電パワー値等のパラメータを測定することにより、空調システムの稼動の可否を判断する。電源システムのエネルギーが、動力システムの稼動を保証した上で、空調システムの要求を満たすことができない場合、空調システムの稼動を停止させる。例えば、中国特許CN101623998Aの「電気自動車空調システム及びその制御方法」、CN101852476Aの「完全電気自動車空調制御システム及びその制御方法」においては、類似の制御案が応用されている。これらの制御方法の本質は、空調システムを随時アンロード可能な補助システムとして処理することで、動力システムの稼動を保証することである。しかし、空調システムを頻繁にアンロードするのは、車両の快適性に影響するだけでなく、再起動時に、システム圧差を改めて構築する必要があり、エネルギー消費が増えるだけでなく、さらには、コンプレッサ及び空調システムの信頼性と使用寿命にも重大な影響を及ぼす。
【0006】
中国特許CN101913314A「電気自動車空調システム及びその制御方法」中において、次のように記載している。車両の冷却需要が高まった時、電動コンプレッサと送風機を比較的高い回転数で稼動する。車両の冷却需要が低くなった時、電動コンプレッサと送風機を比較的低い回転数で運行し、冷却稼動モードにおけるエネルギー消費を減らす。本特許は、冷却量需要にしたがってモーター回転速度を調整し、稼動パワー及びエネルギー消費を減らすことに係るが、冷却量需要の多寡を測定または評価する方法について開示していなく、モーター回転速度を調整する方法、及び冷却量需要の多寡によりモーター回転速度を制御するルールについて開示していない。また、空調システムは冷却量の需要により、モーター回転速度及びエネルギー消費を調整するが、同じく動力システムの需要を満たすことを前提としている。電源システムのエネルギーまたはパワーが、同時に動力システム及び空調システムの両方の需要を満たすことができない時に、空調システムを停止する必要がある。
【0007】
以上で述べたように、従来では、燃料使用自動車または電気自動車に係らず、システム設計においては空調システムを補助的なサブシステムとして設計して、動力システムの運転を影響しない前提において設計及び最適化を行っている。動力システムと空調システムの需要を充分に考慮した上で、車両システム構成のレベルにおいて統合設計及び最適化を行っていない。
【0008】
一般的に、車両動力システムの固有時間(または応答時間)は比較的短いが、自動車空調システムの固有時間(または応答時間)は比較的長い。即ち、自動車動力システムは運転モードの変化により、加速、減速またはパワーを上げる場合、数秒、ひいては零点数秒以内に制御指令を出し、例えばギア入れ替え、アクセルの増減またはブレーキをする。一方、動力システムも、数秒、ひいては零点数秒以内に応答を行い、例えば動力の増減、または速度の変化を行う必要がある。一方で、自動車空調システムはこれと違って、空調を起動した後、数十秒、ひいては数分間経ってから車内温度が設定値になる。乗客が温度の明らかな変化または快適さの変化を感じるのに、更に時間がかかる。このほか、空調システムが稼動する際、空調システムの入力パワー及びそれに対応する冷却量の短期的な変化が、温度の変化、または乗客の快適性の変化をもたらす周期はもっと長い。合理的に動力システムと空調システムのエネルギー消費を整合させ、空調システムの入力パワーが動力システムの消耗状況に対し補償的な制御を行えば、二つのシステムが応答する時間差が比較的大きいことから、全体の総消費電力を増やさない条件下で、動力システムのパワーの需要を満たしながら、空調システムの出力特性、すなわち車内の温度に対する影響が小さく、乗客に温度または快適さの明らかな変化を感じさせないまま、動力システム及び空調システムの統合最適化を完全に実現できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、電気自動車の電源システム、動力システム及び空調システムの特徴と需要を総合的に考慮した上で、電気自動車用空調システムの自己適応式制御方法を提供することである。該方法は、動力システムの運行上の要求を満たすとともに、空調システムの制御と稼動条件を最適化し、空調システムの快適性及び信頼性を高め、空調システムのエネルギー消費を減らし、電気自動車全体の性能を高める。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の技術構成により、上記の技術課題を解決する。
【0011】
(1)車両制御システムVMSが、現在の車両運行状態パラメータを測定するステップ、
(2)車両制御システムVMSが、空調システム制御装置ASCに、現在の空調システム最大許容パワー値PACeを送信するステップ、
(3)空調システム制御装置ASCが、空調システムの稼動状態パラメータを測定し、空調システムを起動させる必要があるかを判断するステップ、
(4)ステップ(3)において、空調システムを起動させる必要がないと判断した場合、空調システムを停止する、または、
ステップ(3)において、空調システムを起動させる必要があると判断した場合、
空調システム制御装置ASCが、車両制御システムが送信した現在の現在の空調システム最大許容パワー値PACeと、空調システム最小稼動パワー閾値PACtとを比較するステップ、
(5)ステップ(4)においてPACe<PACtと判断した場合、空調システムを停止す、または、
ステップ(4)においてPACe=PACtと判断した場合、空調システムを最小稼動パワー閾値PACtに対応する条件にて稼動させ、または、
ステップ(4)においてPACe>PACtと判断した場合、空調システムを空調システム制御装置ASCが定める制御ルールに従って稼動させるステップ、
を含む、電気自動車空調システムの自己適応式制御方法。
【0012】
このうち、本発明の上記車両制御システムVMSと空調システム制御装置ASCとは、それぞれ制御機能を担うモジュールであり、二つの独立するハードウェアでも、一つのハードウェア内部の二つのソフトウェアモジュールでもよい。
【0013】
このうち、前記ステップ(1)において、車両制御システムVMSが、現在の車両運行状態を測定するには、定時スキャンの方式で行うものであり、前記ステップ(2)において車両制御システムVMSが、空調システム制御装置ASCに、現在の空調システム最大許容パワー値PACeを送信するのは、割り込み要求方式で行う。
【0014】
このうち、前記ステップ(1)において、車両制御システムVMSが測定する現在の車両運行状態パラメータは、電源システム中のバッテリの接続状態及び/またはバッテリの充電状態及び/またはバッテリの最大許容放電パワーPa、並びに、動力システムの稼動パワー値Pe及びその他のシステムの稼動パワーPsを含む。
【0015】
このうち、前記ステップ(2)において、車両制御システムVMSが、空調システム制御装置ASCに送信する現在の空調システム最大許容パワー値PACeは、現在のバッテリの最大許容放電パワー値と、動力システム及びその他のシステムの稼動パワーとの差より大きくない、即ち、PACe≦Pa−Pe−Psである。

【0016】
このうち、上記ステップ(5)において、PACe>PACtの場合、空調システム制御装置ASCが定める制御ルールは、
(1)空調システムが停止状態から稼動状態に切り替わる際、まず、最小パワーに対応する稼動条件で、一定時間tsの間空調システムを稼動させる。これによりコンプレッサの起動負荷を低減させる。典型的には、tsは1〜30秒となる。
(2)車両が点火始動し且つ空調を起動する要求がある場合、空調システムは、空調システム最大稼動パワー値PAChになるまで、徐々に入力パワー値PACを増大し、ただし現在の空調システム最大許容パワー値PACeより高くならないようにする。これにより、システムの冷却量/発熱量を増大させ、車内温度がなるべく速く設定値になるようにする。
(3)車内温度と設定温度との温度差dTによって、空調システムの入力パワー値PACを調整する。温度差dTが大きくなる時、空調システムの入力パワーを上げるが、ただし現在の空調システム最大許容パワー値PACeより高くならないようにする。温度差dTが小さくなる時に、空調システムの入力パワーを下げる。
(4)車内温度と設定温度との温度差dTが設定値dTsより小さい場合、空調システムを停止させるか、または最小パワーに対応する稼動条件で稼動させること、典型的には、dTsは0.5〜3℃となる。
以上のいずれか一つまたは複数の制御ルールの組み合わせを含む。
【0017】
上記空調システムの入力パワーを調整する方法は以下である。空調システムのコンプレッサは出力能力調整可能式コンプレッサであり、コンプレッサの出力能力を調整することによって、空調システムの入力パワーを調整することが可能となる。具体的には、出力能力調整可能式コンプレッサは、回転速度調整可能式コンプレッサであり、周波数変換制御装置またはその他の速度調整装置によりコンプレッサの回転速度を調整し、コンプレッサの出力能力を調整する。これにより、空調システムの入力パワーを調整する。もう一種類の出力能力調整可能式コンプレッサは容量調整可能式コンプレッサであり、例えば、アンロード装置のあるコンプレッサ、デジタルスクロールコンプレッサが挙げられ、負荷比を調整することによって、コンプレッサの出力能力を調整し、空調システムの入力パワーを調整する。
【0018】
前記空調システムの入力パワーを調整する方法は、さらに以下を含む。空調システムのコンデンサーとエバポレータファンモーターは回転速度調整可能式モーターである。周波数変換制御装置でモーター回転数を調整し、若しくはモーターに複数の回転速度モードがあって、モーターの回転速度を調整し、これにより空調システムの入力パワーを調整する。
【0019】
前記空調システムの入力パワーを調整する方法は、さらに以下を含む。空調システムのスロットル装置は、電子エキスパンションバルブである。電子エキスパンションバルブの開度を調整することにより、空調システムの圧力低下を変え、これにより空調システムの入力パワーを調整する。
【0020】
前記ルール(3)の具体的な調整方法は、
(1)コンプレッサは少なくても3段階の調整可能な回転速度を有し、ファンモーターは少なくても2段階の調整可能な回転速度を有すること、
(2)車内温度と設定温度との温度差dT<dTsである場合、空調システムを最小パワーPACt条件において稼動させ、周波数変換制御装置により、コンプレッサを低速モードで稼動させ、コンデンサーとエバポレータファンモーターを低速モードで稼動させ、ただし現在の空調システム最大許容パワー値PACeより高くならないこと、でなければは空調システムを停止させること、
(3)車内温度と設定温度との温度差dT>dTs且つdT<T1の場合、空調システムを中速モードで稼動させる。周波数変換制御装置により、コンプレッサを中速モードで稼動させ、コンデンサーとエバポレータファンモーターを高速モードで稼動させ、ただし現在の空調システム最大許容パワー値PACeより高くならないこと、でなければ条件(2)で稼動させる、
(4)車内温度と設定温度との温度差dT>T1である場合、空調システムを最大パワーPACh条件において稼動させ、周波数変換制御装置により、コンプレッサを高速モードで稼動させ、コンデンサーとエバポレータファンモーターを高速モードで稼動させ、ただし現在の空調システム最大許容パワー値PACeより高くならないこと、でなければ条件(3)で稼動させる、
以上のいずれか一つまたは複数の制御ルールの組み合わせを含む。
【0021】
典型的に、dTsは0.5〜3℃、T1は5〜10℃となる。
【0022】
このうち、前記空調システムの最小パワー閾値PACtに対応する稼動条件は、
(1)回転速度調整可能式コンプレッサを最低回転速度で稼動させ、または能力調整可能式コンプレッサを最小負荷条件でアンロード稼動させること、
(2)コンデンサーとエバポレータファンモーターを最低回転速度で稼動させるか、または低速モードで稼動させること、
(3)電子エキスパンションバルブを最大開度に設定すること、
以上のいずれか一つまたは複数の制御ルールの組み合わせを含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明の有効的な効果は以下である。電気自動車空調システムの自己適応式制御方法により、空調システムの入力パワーと動力システムの消費パワーを整合させる。動力システムの需要を満たした上、空調システムの稼動効率と温度制御精度を高めることができる。これにより、空調システムの快適性とエネルギー効率を高め、電気自動車の航続距離の向上にも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は実施例の電気自動車の車両制御システムの構造模式図である。
図2図2は従来の自動車空調システムの、典型的な稼動モードにおける稼動状態の模式図である。
図3図3は実施例の自動車空調システムの、典型的な稼動モードにおける稼動状態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図中において、MCUはモーター制御ユニット、BMSはバッテリ管理システム、VMSは車両制御システム、ASCは空調システム制御装置、MTはモーター、HVBは高圧バッテリ、LVBは低圧バッテリ、INVは周波数変化制御装置、VSCは周波数変化式コンプレッサ、FMはファンモーター、CANはCANネットワーク、LVPは低圧電源ネットワーク、HVPは高圧電源ネットワークを示す。
【0026】
本実施例は、電気自動車空調システムの自己適応式制御方法を提供し、本発明の多数の実施形態中の一つの好ましい実施例である。
【0027】
図1は本実施例の電気自動車の車両制御システムの構造模式図である。本発明と関係しないシステムは省略されている。図中において、点線で通信または制御シグナルの接続を表し、実線で電源接続を表す。電気自動車の車両制御システムVMS、モーター制御ユニットMCU、バッテリ管理システムBMS及び空調システム制御装置ASCはCANネットワークにより接続、及び通信を行っている。低圧バッテリLVBは低圧電源ネットワークLVPにより車両制御システムVMS、モーター制御ユニットMCU、バッテリ管理システムBMS、空調システム制御装置ASC及び周波数変換制御装置INV等のシステムまたはモジュールに低圧電源を提供する、高圧バッテリHBVは高圧電源ネットワークHVPによりモーターMT、周波数変化式コンプレッサVSC及びファンモーターFM等の高圧負荷装置に高圧電源を提供する。
【0028】
このうち、本発明の上記車両制御システムVMSと空調システム制御装置ASCとは、それぞれ制御機能を担うモジュールであり、二つの独立するハードウェアでも、一つのハードウェア内部の二つのソフトウェアモジュールでもよい。
【0029】
周波数変換式コンプレッサVSCは回転速度調整可能なモーターであり、少なくとも複数段階の調整可能な回転速度が設定されている。周波数変換制御装置INVにより、コンプレッサの回転速度を調整し、コンプレッサの出力能力を調整する。これにより、空調システムの入力パワーを調整する。
【0030】
本実施例は、電気自動車空調システムの自己適応式制御方法を提供し、該方法は以下のステップを含む。
(1)車両制御システムVMSが、現在の車両運行状態パラメータを測定するステップ、
(2)車両制御システムVMSが、空調システム制御装置ASCに、現在の空調システム最大許容パワー値PACeを送信するステップ、
(3)空調システム制御装置ASCが、空調システムの稼動状態パラメータを測定し、空調システムを起動させる必要があるかを判断するステップ、
(4)ステップ(3)において、空調システムを起動させる必要がないと判断した場合、空調システムを停止する、または、
ステップ(3)において、空調システムを起動させる必要があると判断した場合、
空調システム制御装置ASCが、車両制御システムが送信した現在の現在の空調システム最大許容パワー値PACeと、空調システム最小稼動パワー閾値PACtとを比較するステップ、
(5)ステップ(4)においてPACe<PACtと判断した場合、空調システムを停止す、または、
ステップ(4)においてPACe=PACtと判断した場合、空調システムを最小稼動パワー閾値PACtに対応する条件にて稼動させ、または、
ステップ(4)においてPACe>PACtと判断した場合、空調システムを空調システム制御装置ASCが定める制御ルールに従って稼動させる。
【0031】
このうち、前記ステップ(1)において、車両制御システムVMSが、現在の車両運行状態を測定するには、定時スキャンの方式で行うものであり、前記ステップ(2)において車両制御システムVMSが、空調システム制御装置ASCに、現在の空調システム最大許容パワー値PACeを送信するのは、割り込み要求方式で行う。
【0032】
このうち、前記ステップ(1)において、車両制御システムVMSが測定する現在の車両運行状態パラメータは、電源システム中のバッテリの接続状態及び/またはバッテリの充電状態及び/またはバッテリの最大許容放電パワーPa、並びに動力システムの稼動パワー値Pe及びその他のシステムの稼動パワーPsを含む。その他システムの稼動パワーPsは、モーター、空調システム以外の他の高圧電源負荷の稼動パワーである。車両制御システムVMSは、バッテリ許容最大放電パワー値、動力システムの稼動パワー及びその他のシステムの稼動パワーを測定するのは、直接パワーシグナルを測定してもよいが、電流、回転速度等のパワー状態を反映できるその他のシグナルを測定し、パワー値を計算することもできる。
【0033】
このうち、前記ステップ(2)において、車両制御システムVMSが、空調システム制御装置ASCに送信する、現在の空調システム最大許容パワー値PACeは、現在のバッテリの最大許容放電パワー値と、動力システム及びその他のシステムの稼動パワーとの差より大きくない、即ち、 である。
【0034】
このうち、前記ステップ(3)において、空調システム制御装置ASCが測定する、空調システム稼動状態パラメータは、車内温度、及び/または、車外環境温度、及び/または、空調設定温度、及び/または、空調起動命令の有無である。
【0035】
このうち、上記ステップ(5)において、PACe>PACtの場合、空調システム制御装置ASCが定める制御ルールは、
(1)空調システムが停止状態から稼動状態に切り替わる際、まず、最小パワーPACtに対応する稼動条件で、一定時間tsの間空調システムを稼動させる。これによりコンプレッサの起動負荷を低減させる。典型的には、tsは1〜30秒となる。
(2)車両が点火始動し且つ空調を起動する要求がある場合、空調システムは、空調システム最大稼動パワー値PAChになるまで、徐々に入力パワー値PACを増大し、ただし現在の空調システム最大許容パワー値PACeより高くならないようにする。これにより、システムの冷却量/発熱量を増大させ、車内温度がなるべく速く設定値になるようにする。
(3)車内温度と設定温度との温度差dTによって、空調システムの入力パワー値PACを調整する。温度差dTが大きくなる時、空調システムの入力パワーを上げるが、ただし現在の空調システム最大許容パワー値PACeより高くならないようにする。温度差dTが小さくなる時に、空調システムの入力パワーを下げる。
(4)車内温度と設定温度との温度差dTが設定値dTsより小さい場合、空調システムを停止させるか、または最小パワーに対応する稼動条件で稼動させること、典型的には、dTsは0.5〜3℃となる。
以上のいずれか一つまたは複数の制御ルールの組み合わせを含む。
【0036】
上記ルール(1)において、空調システムが停止状態から起動状態に切り替える際、車両が点火始動し且つ空調を起動する要求がある場合、及び車両運転中において空調始動の要求があった場合の両方を含む。上記ルール(2)は、両が点火始動し且つ空調を起動する要求がある場合を含むが、車両運転中において空調始動の要求があった場合を含まない。車両始動時のみに応用することは、この場合車内温度はしばしば大変高い/または低いため、空調システムはなるべく速く最大パワー条件に到達して稼動し、なるべく速く車内温度を下げる/上げる必要があるからである。
【0037】
上記空調システム入力パワーの調整方法は以下を含む。空調システムファンモーターFMは回転速度調整可能式モーターであり、少なくても2段階の調整可能な回転速度を設定する。
【0038】
前記空調システムの入力パワーを調整する方法は、さらに以下を含む。空調システムのスロットル装置は、電子エキスパンションバルブである。電子エキスパンションバルブの開度を調整することにより、空調システムの圧力低下を変え、これにより空調システムの入力パワーを調整する。
【0039】
前記ルール(3)の具体的な調整方法は、
(1)コンプレッサは少なくても3段階の調整可能な回転速度を有し、ファンモーターは少なくても2段階の調整可能な回転速度を有すること、
(2)車内温度と設定温度との温度差dT<dTsである場合、空調システムを最小パワーPACt条件において稼動させ、周波数変換制御装置により、コンプレッサを低速モードで稼動させ、コンデンサーとエバポレータファンモーターを低速モードで稼動させ、ただし現在の空調システム最大許容パワー値PACeより高くならないこと、でなければは空調システムを停止させること、
(3)車内温度と設定温度との温度差dT>dTs且つdT<T1の場合、空調システムを中速モードで稼動させる。周波数変換制御装置により、コンプレッサを中速モードで稼動させ、コンデンサーとエバポレータファンモーターを高速モードで稼動させ、ただし現在の空調システム最大許容パワー値PACeより高くならないこと、でなければ条件(2)で稼動させる、
(4)車内温度と設定温度との温度差dT>T1である場合、空調システムを最大パワーPACh条件において稼動させ、周波数変換制御装置により、コンプレッサを高速モードで稼動させ、コンデンサーとエバポレータファンモーターを高速モードで稼動させ、ただし現在の空調システム最大許容パワー値PACeより高くならないこと、でなければ条件(3)で稼動させる、
以上のいずれか一つまたは複数の制御ルールの組み合わせを含む。
【0040】
典型的に、dTsは0.5〜3℃、T1は5〜10℃となる。
【0041】
このうち、前記空調システムの最小パワー閾値PACtに対応する稼動条件は、
(1)回転速度調整可能式コンプレッサを最低回転速度で稼動させ、または能力調整可能式コンプレッサを最小負荷条件でアンロード稼動させること、
(2)コンデンサーとエバポレータファンモーターを最低回転速度で稼動させるか、または低速モードで稼動させること、
(3)電子エキスパンションバルブを最大開度に設定すること、
以上のいずれか一つまたは複数の制御ルールの組み合わせを含む。
【0042】
稼動パワーが車外環境温度の変化と共に変化する場合、最小稼動パワー閾値PACtは現在の車外環境温度での空調の最小稼動パワーを指す。
【0043】
図2図3は、従来の自動車空調システムと、本実施例を応用した電気自動車空調システムの典型的な稼動モードにおける稼動状態の模式図である。図2図3の横軸は時間であり、下の図Pmtは動力システムの稼動パワーグラフ、真ん中の図Pacは空調システムの稼動パワーグラフであり、上の図はTcar車内温度グラフである。動力システムの稼動パワーPmtは車両稼動モードにより変化する。始動、加速、定速、減速、アイドリング、減速、停車等それぞれ異なる状態を含み、運転手が運転の需要によって制御するものである。
【0044】
図2における従来の自動車空調システムは独立式空調システムであり、空調コンプレッサの回転速度はエンジンの回転変化により変化するが、動力システムが最大値で稼動するときに、システム全体のパワーが限られるため、空調システムが停止され、車内温度は明らかに上昇する。空調コンプレッサが車内温度により始動、停止することにより、車内温度の変化も比較的大きい。
【0045】
図3における本実施例の電気自動車空調システムは、始動段階では比較的高いパワーで運行し、車内温度は速く下降し、車両が走行する際、コンプレッサは低速で稼動するため、温度の制御が比較的安定する。動力システムが最大パワーで稼動する場合でも、空調システムが最小値で運行することが可能で、動力システムのパワーの需要を満たした上、車内温度の明らかな上昇がないことを保証できる。
【0046】
空調システムの稼動パワーPacを、時間により積分することで、空調システムのこの時間帯でのエネルギー消費を得ることができる。同じ走行条件と快適性条件のもとで、本実施例の電気自動車空調システムを採用した場合、全体のエネルギー消費は、従来の自動車空調システムより、22.6%も低減した。これは本実施例において、空調コンプレッサを頻繁に起動/停止することがなく、殆どの時間に能率の高い低回転数で稼動しているからである。
図1
図2
図3