特許第5753587号(P5753587)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753587
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】マグネシウムアルコラートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/70 20060101AFI20150702BHJP
   C07C 31/30 20060101ALI20150702BHJP
   C07F 3/02 20060101ALN20150702BHJP
【FI】
   C07C29/70
   C07C31/30
   !C07F3/02 Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-539628(P2013-539628)
(86)(22)【出願日】2012年10月12日
(86)【国際出願番号】JP2012076502
(87)【国際公開番号】WO2013058193
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2014年2月17日
(31)【優先権主張番号】特願2011-229527(P2011-229527)
(32)【優先日】2011年10月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 仁
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−030925(JP,A)
【文献】 特表2008−512542(JP,A)
【文献】 特表2007−509901(JP,A)
【文献】 特開平03−074341(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0028934(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0028935(KR,A)
【文献】 特開2010−030924(JP,A)
【文献】 特開2007−297371(JP,A)
【文献】 特開平04−368391(JP,A)
【文献】 特開2012−171957(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/034357(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/70
C07C 31/30
C07F 3/02
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
JCHEM(JDreamII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属マグネシウムと、アルコールと、ハロゲン又はハロゲン原子含有化合物の少なくとも一方とを、アルコール還流下の反応系に分割添加して反応させるマグネシウムアルコラートの製造方法において、
金属マグネシウムと、アルコールと、ハロゲン又はハロゲン原子含有化合物の少なくとも一方との混合物を、分割添加毎に反応系に添加することを特徴とするマグネシウムアルコラートの製造方法。
【請求項2】
前記混合物を分割添加する回数が、10回未満であることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウムアルコラートの製造方法。
【請求項3】
分割添加される前記混合物中の金属マグネシウムとアルコールの質量比、及び金属マグネシウムとハロゲン又はハロゲン原子含有化合物との質量比を、分割添加ごとに略一定にすることを特徴とする請求項1又は2に記載のマグネシウムアルコラートの製造方法。
【請求項4】
前記混合物を分割添加する間隔を一定にすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のマグネシウムアルコラートの製造方法。
【請求項5】
金属マグネシウム1グラム原子に対し、0.0001グラム原子以上の量のハロゲン又はハロゲン原子含有化合物を反応させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のマグネシウムアルコラートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン重合用固体触媒成分の調製用等に用いられるマグネシウムアルコラートの製造方法に関する。
本願は、2011年10月19日に日本に出願された、特願2011−229527号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン重合用固体触媒成分として、平均粒径が60μm以上であり、微細粒子が少なく、十分な強度を有する球状のマグネシウムアルコラートが望まれている。そのようなマグネシウムアルコラートの製造方法として、例えば特許文献1には、反応系への金属マグネシウムとアルコールとの最終使用割合を質量比で1/4〜1/25とし、アルコール還流下の反応系に径が500μm以下の粒状の金属マグネシウムとアルコールとを連続的又は断続的に分割添加し、100〜1200分間反応させる方法が開示されている。また、当該方法においては、金属マグネシウムとアルコールの添加を、それぞれを10分割以上とし、かつ添加間隔を10〜120分の範囲から任意に選んだ間隔の組み合わせで、添加時間の合計が1200分以下となる範囲で行うのが好ましいことが記載されている。当該方法を用いることで、D50で示される平均粒径が60〜200μmの範囲の球状又は楕円体状の粒子形状を有し、0.2〜0.7g/mlの嵩比重を有し、内部にTEM観察による孔径が0.1〜5μmの細孔を多数有し、(D90−D10)/D50で示される粒度分布が1以下であるジアルコキシマグネシウム粒状物が得られること、凝集した粒状物の破壊強度が0.5〜10MPaであることが記載されている。当該方法に係る合成反応には、触媒を用いるのが好ましく、有用な触媒としてヨウ素等が例示されており、さらにこの触媒は、反応系に最初に一括して添加されてもよいし、原料の分割添加に併せて量を調節しながら添加されてもよいことが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、金属マグネシウムと、アルコールと、上記金属マグネシウム1グラム原子に対し、0.0001グラム原子以上の量のハロゲン又はハロゲンを含むハロゲン含有化合物とを反応させることで、平均粒径が1〜300μmであり、かつ下記式(1)で示される粒径分布指数(P)がP<5.0であり粒径分布が狭く、粉砕、分級等の粒径調整処理を施さなくてもそのまま使用することができるアルコキシ基含有マグネシウム化合物が製造できることが記載されている(式(1):P=D90/D10、ここで、D90は累積重量分率が90%に対応する粒子径、D10は累積重量分率が10%に対応する粒子径を示す。)。当該文献には、金属マグネシウム、アルコール、ハロゲン及び/又はハロゲン含有化合物の投入については、最初から各々全量を反応槽に投入しておく必要はなく、分割投入してもよいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−297371号公報
【特許文献2】特開平4−368391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記知られているいずれのマグネシウムアルコラートにおいても、(D90−D10)/D50で示される粒度分布が1以下のものは知られていたが、さらに小さい0.78未満のものついては知られておらず、さらに粒度分布の小さいマグネシウムアルコラートが求められていた。また、D50で表される平均粒径が60μm未満であって、(D90−D10)/D50で示される粒度分布が1以下のものも知られておらず、粒径が小さくても粒度分布の小さいマグネシウムアルコラートも求められていた。
【0006】
また、特許文献1には、用いる触媒は、反応系に、原料の分割添加に併せて量を調節しながら添加されてもよいと記載されているものの、原料の分割添加の回数が少ない場合、例えば4〜5回程度の場合には、目的物(D50で示される平均粒径が60〜200μmであり、かつ(D90−D10)/D50で示される粒度分布が1以下であるマグネシウムアルコラート)が得られないことが示唆されている。
また、特許文献2においては、分割回数は5〜10回程度が好適であると記載されているが、アルコールを最初から全量投入しておき、金属マグネシウムを数回に分割して投入する方法が好ましいと記載されている。
さらに、特許文献1及び2のいずれにおいても、どのように分割添加すべきか、分割して添加する各原料の最適な比率等の具体的な分割添加方法については、記載も示唆もされていない。
本発明は、粒径が小さくても、粒度分布が狭く、球状又は楕円体形状のマグネシウムアルコラートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、金属マグネシウム、アルコール、及びハロゲン又はハロゲン原子含有化合物を含む混合物を、分割毎に必ず添加することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、金属マグネシウムと、アルコールと、ハロゲン又はハロゲン原子含有化合物の少なくとも一方とを、アルコール還流下の反応系に分割添加して反応させるマグネシウムアルコラートの製造方法において、金属マグネシウムと、アルコールと、ハロゲン又はハロゲン原子含有化合物の少なくとも一方との混合物を、分割添加毎に反応系に添加することを特徴とするマグネシウムアルコラートの製造方法に関する。
本発明のマグネシウムアルコラートの製造方法においては、前記混合物を分割添加する回数を10回未満とすることが好ましく、分割添加される前記混合物中の金属マグネシウムとアルコールの質量比、及び金属マグネシウムとハロゲン又はハロゲン原子含有化合物との質量比を、分割添加ごとに略一定にするのが好ましく、さらに分割添加する間隔を一定にするのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のマグネシウムアルコラートの製造方法を用いることにより、粒度分布、粒径、及び粒型が制御された従来にない品質のマグネシウムアルコラートを得ることができる。
すなわち、当該製造方法により、(D90−D10)/D50で示される粒度分布が0.78未満である、球状又は楕円体の粒子形状を有する粒状物のマグネシウムアルコラート、又は、D50で示される平均粒径が60μm未満であり、(D90−D10)/D50で示される粒度分布が1以下である、球状又は楕円体の粒子形状を有する粒状物であるマグネシウムアルコラートを製造することができる。
当該方法によって得られた粒度分布、粒径、及び粒型が制御されたマグネシウムアルコラートを用いてオレフィン重合用触媒を調製することにより、粒度分布、粒径、及び粒型が制御されたオレフィン重合体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いるD10、D50、D90は、積算粒度で10%、50%、90%における粒径を示している。即ち、例えば、D10は、粒状物の粒径分布を測定して粒状物の質量の積算値が10質量%となったときの粒径を指すものである。従って、D50は、粒状物全体の粒径の中間値を示し、これが平均粒径を示すことになる。
【0011】
<マグネシウムアルコラートの製造方法>
本発明のマグネシウムアルコラートの製造方法(本発明の製造方法)は、金属マグネシウムと、アルコールと、ハロゲン又はハロゲン原子含有化合物の少なくとも一方とを、アルコール還流下の反応系に分割添加して反応させるマグネシウムアルコラートの製造方法において、金属マグネシウムと、アルコールと、ハロゲン又はハロゲン原子含有化合物の少なくとも一方との混合物を、分割添加毎に反応系に添加することを特徴とする。
【0012】
本発明の製造方法で使用する金属マグネシウムは、反応性が良好なものであればどのような形状のものでも良い。即ち、顆粒状、リボン状、粉末状いずれの形状のものでも使用可能である。但し、反応性の点から、マグネシウム金属粒子の表面の酸化程度はできる限り少ない方が好ましく、表面に酸化マグネシウムが生成しているようなものは、使用上好ましくない。従って、例えば、窒素などの不活性ガスの雰囲気下に保存してあるものや、金属表面を反応に影響を与えない溶剤などで処理して表面酸化を防いだものなどが好ましい。
【0013】
製造されるマグネシウムアルコラートの平均粒径を10〜50μmにするためには、使用する金属マグネシウムの粒度は、350μm以下が好ましく、88〜350μmがより好ましい。粒度が当該範囲内の金属マグネシウムは、均一な反応性を維持する上で好適である。
また、製造されるマグネシウムアルコラートの平均粒径を60μm以上にするためには、粒径が500μm以下の金属マグネシウムの粒状物を使用することが好ましく、D50で示される平均粒径が50〜500μmであり、(D90−D10)/D50で示す粒度分布が2以下の微粒子からなる金属マグネシウムの粒状物を使用することがより好ましい。当該粒状物の形状は、粉末状であってもよい。
【0014】
本発明の製造方法に用いられるアルコールとしては、任意のものを用いることができるが、炭素原子数1〜6の低級アルコールを用いるのが好ましい。特に、エタノールを用いると、触媒性能の発現が著しく向上させるマグネシウム化合物が得られるので好ましい。
アルコールの純度及び含水量も限られないが、含水量が少ないものであることが好ましい。具体的には、含水量が1%以下のアルコールを用いることが好ましく、含水量が2000ppm以下のアルコールを用いることがより好ましい。含水量が多いアルコールを用いた場合には、金属マグネシウム表面に水酸化マグネシウムが生成されやすい傾向にある。更に、より良好なモルフォロジーを有するマグネシウムアルコラートを得るためには、アルコール中の水分は少なければ少ないほど好ましく、一般的には、200ppm以下が望ましい。
【0015】
反応系に原料を全量添加し終えた時点における、金属マグネシウムとアルコールの使用割合は、質量比で1/4〜1/25とするのが好ましい。金属マグネシウム量に対するアルコール量を4以上にすることにより、反応を十分に進行させることができ、未反応マグネシウムの残存を抑制し、目的とする粒径に制御することが容易になる。また、金属マグネシウム量に対するアルコール量を25以下にすることにより、反応で形成される生成物(主に粒子状の生成物が形成される。)に包含されるアルコール量を低減させることができる。その結果、乾燥処理により生成物中のアルコールが留去されたときに発生する空隙の数を抑え、嵩比重が小さくなりすぎることを防止することができる。
【0016】
本発明の製造方法で用いるハロゲンの種類については特に制限されないが、塩素、臭素、又はヨウ素が好ましく、特にヨウ素が好適に使用される。また、本発明の製造方法で用いるハロゲン原子含有化合物の種類についても限定はなく、ハロゲン原子をその化学式中に含む化合物であれば、いずれのものでも使用することができる。具体的には、MgCl、Mg(OEt)Cl、Mg(OEt)I、MgBr、CaCl、NaCl、KBr等を例示することができ、中でもMgCl、MgIを使用するのが好ましい。反応系に添加されるハロゲン又はハロゲン原子含有化合物の状態、形状、粒度等は特に限定されず、任意のものでよい。例えば、エタノール等のアルコール系溶媒中に溶解させた溶液の形で用いることができる。
【0017】
本発明の製造方法におけるハロゲン又はハロゲン原子含有化合物の使用量は、金属マグネシウムとアルコールの反応に充分な量であれば特に制限されないが、反応系に原料を全量添加し終えた時点において、金属マグネシウム1グラム原子に対して、好ましくは0.0001グラム原子以上、より好ましくは0.0005グラム原子以上、更に好ましくは0.001グラム原子以上である。ハロゲン又はハロゲン原子含有化合物は、金属マグネシウムとアルコールとの反応の触媒として作用するものであり、反応系への総添加量及び各分割添加時の添加量は、その他の原料の分割添加に併せて量を調節するのが好ましい。
【0018】
本発明においては、ハロゲン及びハロゲン原子含有化合物を、それぞれ1種単独、又は2種以上を併用してもよい。また、ハロゲンとハロゲン原子含有化合物とを併用してもよい。併用する場合は、反応系に原料を全量添加し終えた時点において、反応系中の全ハロゲン原子の量が、金属マグネシウム1グラム原子に対して、好ましくは0.0001グラム原子以上、より好ましくは0.0005グラム原子以上、更に好ましくは0.001グラム原子以上である。
【0019】
反応系に添加されるハロゲン及び/又はハロゲン原子含有化合物の使用量の上限については特に制限されないが、金属マグネシウム1グラム原子に対して、0.06グラム原子未満とするのが好ましい。
【0020】
金属マグネシウム、アルコール、及びハロゲン又はハロゲン原子含有化合物の少なくとも一方等の原料を、反応系に2回以上に分割して添加する。反応系への原料の分割添加は、アルコール溶媒、好ましくは原料と同じアルコールの還流下に行う。本発明の製造方法においては、分割添加する混合物には、必ず、金属マグネシウムと、アルコールと、ハロゲン又はハロゲン原子含有化合物の少なくとも一方との3種全てが含まれていなければならない。分割添加毎に、金属マグネシウムとアルコールのみならず、ハロゲン又はハロゲン原子含有化合物を新たに反応系に添加することによって、粒子の密度(見かけ比重)を上げることができ、さらに不定形微粉の量を低減でき、これに付随して製品の収率を挙げることができる。反応系に前記混合物を分割添加する回数は、2回以上であれば特に制限されないが、2回以上、10回未満に分割して行うことが好ましく、2〜5回に分割して行うことがより好ましい。
【0021】
分割添加時に反応系に添加される混合物は、金属マグネシウムと、アルコールと、ハロゲン又はハロゲン原子含有化合物の少なくとも一方とを全て含むものであればよい。すなわち、前記混合物中の金属マグネシウムとアルコールの質量比、及び金属マグネシウムとハロゲン及び/又はハロゲン原子含有化合物の質量比は、特に制限されず、それぞれの分割添加毎に異なっていてもよく、全ての分割添加時において、同じ組成の混合物を添加してもよい。また、最終添加比率(反応系への総添加量同士の比率)と異なる比率の原料比で分割添加してもよい。例えば、反応の初期に最終添加比率よりも金属マグネシウムの比率を多くし、後半において金属マグネシウムの比率を少なくして添加してもよい。本発明の製造方法においては、分割添加される前記混合物中の金属マグネシウムとアルコールの質量比、及び金属マグネシウムとハロゲン又はハロゲン原子含有化合物との質量比を、分割添加ごとに略一定にすることが好ましい。
【0022】
また、1回の分割添加時に反応系に添加される混合物の量も特に制限されず、分割添加毎に異なっていてもよく、毎分割添加時に、略等量の混合物を反応系に添加してもよい。
例えば、添加量を順次増加させながら添加してもよい。本発明の製造方法においては、毎回一定量の混合物を添加することが好ましい。
【0023】
本発明の製造方法では、反応系で生成されたジアルコキシマグネシウムの一次粒子が、系内に既に存在しているジアルコキシマグネシウムに付着するのを待って次の合成反応が進むように、原料を添加することが好ましい。分割添加の間隔は、反応装置の大きさと温度などの他の条件によって変るが、10〜120分間隔とすることが好ましい。即ち、前の段階の分割添加後ジアルコキシマグネシウムが反応生成し、Hの発生がほぼ終了した段階(未反応の金属マグネシウムがほぼ残存しなくなった段階)で次の原料を添加することが好ましい。添加したマグネシウムの反応がほぼ完了した時点で次のマグネシウムを添加するのが好ましく、最終的には金属マグネシウムとアルコールの比率は、重量比で1/4〜1/25の範囲となるように添加するのが好ましい。
尚、反応をスムーズに行うために、反応初期に、金属マグネシウムを比較的少ないアルコール中で反応させ、すべての金属マグネシウムを添加後に、さらにアルコールを追加して濃度調整をするのが好ましい。
【0024】
反応系に前記混合物を分割添加する間隔は特に制限されず、分割添加される混合物の量や組成等を考慮して、適宜調整することができる。本発明の製造方法においては、一定間隔毎に順次添加するのが好ましい。
前記混合物の添加間隔により、得られるマグネシウムアルコラートのD50値を制御することができる。例えば、添加間隔を短くすることで小さな粒径のマグネシウムアルコラートを、添加間隔を長くすることで大きな粒径のマグネシウムアルコラートを、それぞれ得ることができる。
【0025】
反応時間の合計は、そのスケールにもよるが、反応の終了時点は水素の発生が終了したことにより判断することができる。
前記混合物の最後の添加の後、水素の発生が終了してからさらに70℃〜溶媒還流温度下に熟成を行い、生成粒子の安定化を図ることが好ましい。この熟成時間は、目的とするマグネシウムアルコラートの粒径、粒度分布や嵩比重によって適宜に変更することができる。熟成時の反応温度は70℃〜溶媒還流温度であってよく、撹拌速度は50〜500rpmであり、これらの反応温度、撹拌速度は、目的とするマグネシウムアルコラートの粒径、粒度分布や嵩比重によって選択することができる。
具体的には、攪拌速度(反応液の移動速度)を下げることで、マグネシウムアルコラートの粒径を大きくすることができ、上げることで粒径を小さくすることができる。
【0026】
<マグネシウムアルコラート>
本発明の製造方法により、粒度分布、粒径、及び粒型が制御されたマグネシウムアルコラートを製造することができる。例えば、D50粒径が10〜200μmの範囲である粒状物、特に重合触媒に利用した際に生成するオレフィン重合体の成形の際のペレット化工程を省略できるような、80〜200μmの大粒径の粒状物のマグネシウムアルコラートを製造することができる。
また、本発明の製造方法により、比較的均一な粒径の分布の粒状物として、マグネシウムアルコラートを製造することができる。例えば、(D90−D10)/D50で示される粒度分布が1以下、より好ましくは0.78未満であるマグネシウムアルコラートの粒状物が得られる。特に、D50粒径が60μm未満であっても、前記粒度分布の値を1未満にすることができる。
【0027】
すなわち、本発明のマグネシウムアルコラートは、(D90−D10)/D50で示される粒度分布が0.78未満である球状又は楕円体の粒子形状を有する粒状物であることを特徴とする。また、本発明のマグネシウムアルコラートの別の態様としては、D50で示される平均粒径が60μm未満であり、(D90−D10)/D50で示される粒度分布が1以下である球状又は楕円体の粒子形状を有する粒状物であることを特徴とする。
【0028】
また、本発明のマグネシウムアルコラートは、粒子径が1〜10μmの球状、楕円体状、鱗片状又は針状であるマグネシウムアルコラートの一次粒子が凝集した多孔質のものからなっていてよく、粒径が10μm以下の粒子を実質的に含まないのが好ましい。粒状物の内部に存在する、TEM(透過型電子顕微鏡)観察による孔径が0.1〜5μmの細孔は、前記したような一次粒子が凝集したときに生じた粒子間の隙間からなるものであると思われる。この粒子間の隙間が10μm以上になると一次粒子間の結合が弱く、粒状物の強度が不十分となることがある。
【0029】
このように、本発明のマグネシウムアルコラートは、粒径が小さくても、粒度分布が狭い、球状又は楕円体の粒子形状を有する粒状物である。このため、特にオレフィン重合用固体触媒成分として好適に用いることができる。
【0030】
本発明のマグネシウムアルコラートを出発原料としてオレフィン重合用の触媒を調製するには、マグネシウムアルコラート(ジアルコキシマグネシウム粒状物)に公知の方法で4価のチタンのハロゲン化物及び電子供与性化合物を接触させて触媒成分を作り、これに有機アルミニウム化合物を作用させる。4価のチタンのハロゲン化物としてはチタンテトラクロライド、アルコキシチタンハライドなどが挙げられる。電子供与性化合物としてはアルコール類、エーテル類、エステル類や、アルコキシシランなどの有機ケイ素化合物が挙げられる。アルミニウム化合物としては、トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライドなどが挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例で本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]
撹拌機付き500ml四つ口フラスコに、積算型ガスメーターを接続した還流コンデンサー、温度計、エタノール用滴下ロート、並びにガス流量計を経由した窒素導入管を設置した。この反応系内を充分に窒素置換を行った後、無水エタノール(水分200ppm)60g、ヨウ素0.4gを仕込んで溶解させた。この中に金属マグネシウム6.1g(粒度300〜149μm)を仕込み、撹拌強度2.60×1011rpm・mmの撹拌下、オイルバスにてアルコールの還流温度まで昇温を行った。金属マグネシウムの仕込みから10分以内に反応は安定化し、以降10分毎に1回当たりエタノール40g、金属マグネシウム6.1g、ヨウ素0.3gを3回に分けて仕込んで反応を継続した。金属マグネシウムの仕込み全量は24.4g、この時点でのエタノールの使用量は180gであった。さらに、先に用いたものと同品質のエタノール183gを1時間かけて滴下し、熟成反応を、排ガス中に水素ガスが検出されなくなるまで続行したところ、最初の仕込みから通算して8時間を要した。
エタノール/金属マグネシウム比(反応系に仕込んだエタノール全量と金属マグネシウム全量の質量比)は、16/1になった。反応終了後、反応系内の液をロータリーエバポレーターにて減圧乾燥し、107g(収率94%)のマグネシウムエチラートを得た。得られたマグネシウムエチラートを走査型電子顕微鏡(日本電子データム(株)製JSM−5300)にて、加速電圧20kV、1000倍で観察した結果、亜球状の粒子であって、一粒子は細片状のものが密に重なり合ってできているが粒子表面は滑らかであった。撮影した写真より球形度(S)を求めると1.01であった。粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製HELOS&RODOS)を用いて測定したところ、D50が40.98μm、D10が25.14μm、D90が55.58μmであり、粒度分布が0.743の分布幅の狭いものであった。また、嵩比重(ゆるみ)(見かけ比重)の測定結果は0.301g/mlであった。以上の結果をまとめて表2に示す。
【0033】
[実施例2〜7]
実施例1で使用された各条件に対応する数値を表1に記載の数値に変更する以外、実施例1と同様に行った。その結果を表2にまとめて示す。表1中、「Mg」はマグネシウム、「I」はヨウ素、「分割添加」の「回数」は分割添加の回数を、それぞれ意味する。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
[実施例8]
撹拌機付き500ml四つ口フラスコに、積算型ガスメーターを接続した還流コンデンサー、温度計、エタノール用滴下ロート、並びにガス流量計を経由した窒素導入管を設置した。この反応系内を充分に窒素置換を行った後、無水エタノール(水分200ppm)100g、ヨウ素0.6gを仕込んで溶解させた。この中に金属マグネシウム8.1g(粒度300〜149μm)を仕込み、撹拌下オイルバスにてアルコールの還流温度まで昇温を行った。金属マグネシウムの仕込みから10分以内に反応は安定化したため、金属マグネシウムの仕込み時点から10分後にエタノール10g、金属マグネシウム4.1g、ヨウ素0.3gを追加添加し、さらに10分後に、エタノール40g、金属マグネシウム7.1g、ヨウ素0.2gを追加添加し、さらに10分後に、エタノール30g、金属マグネシウム5.1g、ヨウ素0.1gを追加添加し、3回に分けて仕込んで反応を継続した。金属マグネシウムの仕込み全量は24.4g、この時点でのエタノールの使用量は180gであった。さらに先に用いたものと同品質のエタノール183gを1時間かけて滴下し、熟成反応を、排ガス中に水素ガスが検出されなくなるまで続行したところ、最初の仕込みから通算して5時間を要した。
エタノール/金属マグネシウム比は、15/1になった。反応終了後、反応系内の液をロータリーエバポレーターにて減圧乾燥し、105g(収率92.1%)のマグネシウムエチラートを得た。粒度分布を実施例1と同様にして測定したところ、D50が48.34μm、D10が36.36μm、D90が60.12μmであり、粒度分布が0.492の分布幅の狭いものであった。また、嵩比重(ゆるみ)の測定結果は0.288g/mlであった。
【0037】
[実施例9]
撹拌機付き500ml四つ口フラスコに、積算型ガスメーターを接続した還流コンデンサー、温度計、エタノール用滴下ロート、並びにガス流量計を経由した窒素導入管を設置した。この反応系内を充分に窒素置換を行った後、無水エタノール(水分200ppm)60g、ヨウ素0.4gを仕込んで溶解させた。この中に金属マグネシウム6.1g(粒度210〜149μm)を仕込み、撹拌下オイルバスにてアルコールの還流温度まで昇温を行った。金属マグネシウムの仕込みから10分以内に反応は安定化したため、金属マグネシウムの仕込み時点から10分後にエタノール40g、金属マグネシウム6.1g、ヨウ素0.3gを追加添加し、さらに15分後に、エタノール40g、金属マグネシウム6.1g、ヨウ素0.3gを追加添加し、さらに5分後に、エタノール40g、金属マグネシウム6.1g、ヨウ素0.3gを追加添加し、3回に分けて仕込んで反応を継続した。
金属マグネシウムの仕込み全量は24.4g、この時点でのエタノールの使用量は180gであった。さらに、先に用いたものと同品質のエタノール183gを1時間かけて滴下し、熟成反応を、排ガス中に水素ガスが検出されなくなるまで続行したところ、最初の仕込みから通算して5時間を要した。
エタノール/金属マグネシウム比は、15/1になった。反応終了後、反応系内の液をロータリーエバポレーターにて減圧乾燥し、107g(収率93.8%)のマグネシウムエチラートを得た。粒度分布を実施例1と同様にして測定したところ、D50が57.1μm、D10が43.03μm、D90が71.06μmであり、粒度分布が0.491の分布幅の狭いものであった。また、嵩比重(ゆるみ)の測定結果は0.319g/mlであった。
【0038】
[実施例10〜27]
実施例1で使用された各条件に対応する数値を表3に記載の数値に変更する以外、実施例1と同様に行った。その結果を表4にまとめて示す。
実施例17において、使用するエタノールの量は、仕込み時で183g、各分割添加時において120gずつであり、全ての仕込みが終了した時点でのエタノール量は543gであり、希釈用としてさらに549gを添加した。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
[比較例1]
実施例1と同一装置を使用し、無水エタノール181g、ヨウ素1.3g、金属マグネシウム24.4g(350〜210μm)を仕込み、アルコール還流下まで昇温して反応を開始させた。熟成反応を5時間行って、反応を完結させた。乾燥して得られた粒子は、球形度(S)が1.25であり、D50が46.69μmであり、D10が24.23μmであり、D90が70.87μmであり、粒度分布は0.999と広く、粒子表面が密でなく、凸凹が多く見られる球形度にやや欠けるものであった。また、嵩比重(ゆるみ)は0.203g/mlであった。
【0042】
[比較例2]
500mlの四つ口丸底フラスコに、撹拌装置、滴下ロート、温度計をとりつけ、まずは窒素気流下に、エタノール61g、ヨウ素1.3g、粒状の金属マグネシウム6.1gを仕込み、バス温80℃で加熱還流した。10分後に、エタノール40g、金属マグネシウム6.1gを追加添加し、さらに10分後、エタノール40g、金属マグネシウム6.1gを追加添加し、さらに10分後、エタノール40g、マグネシウム6.1gを追加添加し、さらに10分後にエタノール185gを1時間かけて滴下し、熟成を5時間行って、反応を完結させた。その後、室温まで冷却後、エタノールを減圧留去し、乾燥させて、目的とするマグネシウムエチラート79.9g(収率75.9%)を得ることができた。
得られた粒子のD50は46.69μmであり、D10は24.23μmであり、D90は70.87μmであり、粒度分布は0.999で分布が広いものが得られた。嵩比重(ゆるみ)は0.203g/mlと小さい値となった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のマグネシウムアルコラートの製造方法を用いることにより、粒度分布、粒径、及び粒型が制御された従来にない品質のマグネシウムアルコラートを得ることができる。
当該方法によって得られたマグネシウムアルコラートを用いてオレフィン重合用触媒を調製することにより、粒度分布、粒径、及び粒型が制御されたオレフィン重合体を得ることができる。以上のことから、本発明は産業上極めて有用である。