特許第5753645号(P5753645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5753645安定性が改善された経皮治療システムおよびそれらの製法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753645
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】安定性が改善された経皮治療システムおよびそれらの製法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/70 20060101AFI20150702BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20150702BHJP
   A61K 31/381 20060101ALI20150702BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20150702BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20150702BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20150702BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20150702BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20150702BHJP
   A61K 47/30 20060101ALI20150702BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20150702BHJP
   A61L 15/44 20060101ALI20150702BHJP
   A61L 15/58 20060101ALI20150702BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20150702BHJP
【FI】
   A61K9/70 401
   A61K9/06
   A61K31/381
   A61K47/04
   A61K47/06
   A61K47/10
   A61K47/12
   A61K47/14
   A61K47/30
   A61K47/32
   A61L15/03
   A61L15/06
   A61P25/16
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2001-541486(P2001-541486)
(86)(22)【出願日】2000年11月24日
(65)【公表番号】特表2003-515554(P2003-515554A)
(43)【公表日】2003年5月7日
(86)【国際出願番号】EP2000011692
(87)【国際公開番号】WO2001039753
(87)【国際公開日】20010607
【審査請求日】2007年9月18日
【審判番号】不服2013-25762(P2013-25762/J1)
【審判請求日】2013年12月27日
(31)【優先権主張番号】199 57 401.4
(32)【優先日】1999年11月29日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】100 54 713.3
(32)【優先日】2000年11月4日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】300005035
【氏名又は名称】エルテーエス ローマン テラピー−ジステーメ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルター・ミュラー
【合議体】
【審判長】 星野 紹英
【審判官】 新居田 知生
【審判官】 小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平4−95023(JP,A)
【文献】 特開平6−24969(JP,A)
【文献】 特開平5−105630(JP,A)
【文献】 特開昭60−199832(JP,A)
【文献】 特開平5−139928(JP,A)
【文献】 特表平8−509748(JP,A)
【文献】 国際公開第98/31349(WO,A1)
【文献】 特開平5−306227(JP,A)
【文献】 特開平8−92077(JP,A)
【文献】 特開平4−273820(JP,A)
【文献】 特開昭56−103117(JP,A)
【文献】 特開平1−249885(JP,A)
【文献】 特開平9−132525(JP,A)
【文献】 特開平2−300118(JP,A)
【文献】 特開平8−333420(JP,A)
【文献】 特表2002−509878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00−9/72
A61K47/00−47/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経皮治療システム(TTS)内に存在し、且つヒドロペルオキシドにより酸化される活性物質ロチゴチン(N-0923)の酸化分解生成物の形成をTTSの保存時に際して低下させた経皮治療システムであって、TTSは、単一層または多重層マトリックスシステムであり、該マトリックスは炭化水素樹脂、ポリビニルピロリドン、またはビニルピロリドンとアクリル酸、アクリル酸誘導体、エチレンおよび/または酢酸ビニルとのコポリマー、部分水添されたロジンのグリセロールエステル、ポリ−β−ピネン、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、オレイルアルコール、およびリモネンからなる群より選択される1種を含み、さらに、
活性物質と接触する製剤構成成分のペルオキシド数(PON)の総計を下記の式:
【数1】
[式中、nはシステム中の製剤構成成分の数、
はシステム中の製剤構成成分の%含量(数値)、
PONはシステム中の個々の製剤構成成分のペルオキシド数である]
に従い計算し、
a)その総計が20以下の数値を与える製剤構成成分を選択し、その場合下記のc)工程に進み、代替的に、
b)その総計が20を超える場合、ペルオキシド含有製剤構成成分を還元剤で処理し、
c)a)工程からの製剤構成成分、或いはb)工程からの構成成分と、前記活性物質から製造し、製剤構成成分のPONの総計が20以下であることを特徴とする経皮治療システム。
【請求項2】
ペルオキシド数の総計は、10以下である請求項1記載の経皮治療システム。
【請求項3】
ペルオキシド数の総計は、5以下である請求項2記載の経皮治療システム。
【請求項4】
ロジン誘導体および/またはポリテルペンに基づく粘着性樹脂とともに1または2種以上の自己接着性活性物質層を含む請求項1〜のいずれかに記載の経皮治療システム。
【請求項5】
製剤の構成成分中に透過性増強剤および/または結晶化阻害剤を包含する請求項1〜のいずれかに記載の経皮治療システム。
【請求項6】
貯蔵システムであり、そこには酸化可能な活性物質が少なくとも1個のエーテル酸素、三級炭素原子および/またはアリル位置におけるCH基を有する溶媒または溶媒混合物中に溶解されている請求項1〜3のいずれかに記載の経皮治療システム。
【請求項7】
用いられる透過性増強剤はテルペンもしくはテルペン誘導体、不飽和脂肪酸もしくはそれらの誘導体、脂肪族アルコールもしくはそれらの誘導体またはジエチレングリコールもしくはその誘導体からなる請求項1〜のいずれかに記載の経皮治療システム。
【請求項8】
請求項1記載の経皮治療システムの製造方法において、
a)TTSの処方によって指示されるその分画が総数20以下の数を与えるペルオキシド数を有する製剤構成成分を選択するか、または
b)低級アルカノール溶液中のヒドロペルオキシド含有製剤構成成分を無機亜硫酸塩もしくは亜硫酸水素塩の水溶液で処理し、沈殿した反応生成物を分離し、そして
a)によって処理した製剤構成成分またはb)によって処理した製剤構成成分と活性物質を用いて慣用方法により経皮治療システムを製造することからなる方法。
【請求項9】
固体または液体の製剤構成成分を低級アルカノール性溶液中において亜硫酸ナトリウムまたは亜硫酸水素ナトリウムの水溶液によって処理する請求項記載の方法。
【請求項10】
製剤構成成分をメタノール性またはエタノール性溶液中で処理する請求項またはに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安定性が改善された経皮治療システムおよびそれらの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
わずかなかなり珍しい特殊な形態を除いて、経皮治療システム(TTS)は2つの基本的なグループ、すなわちマトリックスシステムとして既知のシステムおよび貯蔵システムとして既知のシステムに分類することができる。マトリックスシステムとして既知のシステムの場合、最も単純なケースでは活性物質が自己接着性層に溶解されるか、または場合により結晶の形態で単に懸濁される。貯蔵システムは不活性裏打ち層および活性物質透過性膜からなる1種のポーチであり、活性物質はこのポーチ内の液体製剤中に存在する。通常、膜には皮膚上にこのシステムをしっかりと固定するために働く接着層が提供される。
【0003】
経皮システムの特異的実施態様とは無関係に、活性物質は使用時に拡散により皮膚に送達されるので、少なくとも部分的に溶解形態で存在することが要求される。
【0004】
この形態では、活性物質は安定性の減損を導く製剤の構成成分との反応にとくに感受性となる。このような反応の例には、
a)使用されたポリマーまたは透過性増強剤のカルボキシル基またはエステル基へのアミドまたはエステル結合を介する活性物質の結合;
b)粘着樹脂または透過性増強剤のアルコール性の基と活性物質のカルボキシル基またはエステル基の反応;
c)水またはアルコールによる、エステル基のそれぞれ加水分解または加アルコール分解
が包含される。
【0005】
活性物質および補助剤の官能基から直接推測されるこのような反応は熟練した技術者には驚くべきことではない。したがって安定性に対する相当する危険は、高温における適当な適合性試験によりきわめて速やかに発見され、ついで、有害な活性物質/補助剤の組み合わせば適当に再処方され回避される。
【0006】
さらに、活性物質および補助剤の安定性は活性酸素との反応による危険に置かれ得る。このような活性酸素は自然には空気中の酸素である。この酸素に対してTTS中に存在する活性物質を保護するのに有効な手段は、TTSの窒素雰囲気下におけるパッケージングおよび/または同時に、パッケージング中への抗酸化剤の挿入である。
【0007】
しかしながら、このような予防手段にもかかわらず酸化に感受性の活性物質からなるTTSを長期間保存する場合、今日まで、多かれ少なかれ活性物質の量の減少を受け入れなければならないことが多かった。この原因はこれまで知られていなかった。
【0008】
TTSの製造に使用される原材料は、驚くべきことに、かなりの程度まで別の形態の活性酸素すなわちヒドロペルオキシドの形態の活性酸素を吹くんでいることが見出されたのである。
【0009】
これらのヒドロペルオキシドは文献に記載されているように、抗酸化反応により以下の機構で形成され得る。
【化1】
【0010】
誘導相として知られる第一工程では熱および/または光への暴露によって遊離ラジカルが形成され、これは微量の重金属によって促進され、水素原子の損失を伴う。増殖相として知られる第二工程では、これらのラジカルが酸素と反応してペルオキシラジカルが形成される。これらのペルオキシラジカルは、ついで、さらに他の分子を攻撃してヒドロペルオキシドおよび新しい遊離ラジカルを形成する。すなわち、連鎖反応が始まり、これはたとえば以下の式によって表されるように、2つのラジカルが互いに反応してこの連鎖が終結するまで継続される。
【化2】
【0011】
その比較的低い反応性により、連鎖転移剤として機能するペルオキシドラジカルはとくに基質上の低エネルギーラジカルを導く部位を攻撃する。この種の好ましい部位は、ベンジルもしくはアリル位置におけるC-H結合、三級C−H結合、およびエーテル酸素近傍におけるC−H結合である。その結果、このような基を有する原材料はとくにヒドロキシペルオキシドの形成を受け易い。
【0012】
酸化感受性活性物質を保護するために使用される抗酸化剤または安定剤はこの反応連鎖に介入し得る。抗酸化剤は遊離ラジカルスカベンジャーおよび酸素スカベンジャーに分類され得る。たとえばトコフェロールおよびその誘導体のような遊離ラジカルスカベンジャーはたとえば遊離ラジカルを除去または不活性化し、自動酸化の連鎖機構を中断させる。たとえばアスコルビルパルミテートのような酸素スカベンジャーはたとえば酸化剤と直接反応して連鎖反応の開始を妨害する。
【0013】
しかしながら、抗酸化剤/安定剤の添加は、出発原料自体が酸化作用を有するヒドロペルオキシドから構成されていない場合、および薬剤の形態がパッケージによって酸素の侵入に対して保護されている場合にのみ意味がある。
【0014】
驚くべきことに、経皮治療システムの製造に使用される原材料の、フィルム形態の材料を除くすべてのクラスで、供給時または短時間保存したのち既に、かなりの量のヒドロペルオキシドが負荷されていることが見出されたのである。とくにこれは、ポリマー、粘着樹脂、透過性増強剤および溶媒または可溶化剤が、酸化に感受性の活性物質の安定性をかなりの程度まで損なうことができるヒドロペルオキシド含量を有することを意味している。
【0015】
ペルオキシド含量は通常いわゆるペルオキシド数PONによって表され、これは物質1kgあたりの活性酸素のミリ当量での量を指示する。ペルオキシド数を測定するには様々な方法がある。最も慣用される方法は所定量の物質をクロロホルム/氷酢酸溶液中で過剰のヨウ素イオンと反応させ、ついで得られたヨウ素をチオ硫酸ナトリウムを用いて逆滴定する方法である。それ程一般的ではない方法には、水溶液に限定されるが、物質をチタニウム(IV)イオンと反応させ、得られたペルオキソ複合体を光度測定法によって測定する方法がある。とくに実施が容易なペルオキシドに対する半定量的試験法は市販の試験電極を用いて行われる。
【0016】
以下の表には、貯蔵部およびマトリックスシステムの製造に使用されるいくつかの例示的物質について約6カ月室温で保存後に測定されたペルオキシド数を列挙している。ペルオキシド数は最初に述べた2つの方法によって測定された。
【0017】
[表1]
原 材 料 機 能 PON
炭化水素樹脂 マトリックス成分 180
コリドン(Collidon) マトリックス成分 110
部分水添されたロジンのグリセロールエステル 粘着付与剤 190
水添されたロジンのグリセロールエステル 粘着付与剤 80
ポリ-β-ピネン 粘着付与剤 150
ジエチレングリコールモノエチルエーテル 溶媒/透過性増強剤 120
オレイルアルコール 溶媒/透過性増強剤 50
リモネン 透過性増強剤 15
【0018】
完成したパッチのペルオキシド数も同様の方法で測定することができる。しかしながら、十分な量のパッチを合理的な量のクロロホルムに溶解することは難しい。より容易な方法は個々の物質のペルオキシド負荷を測定し、以下の式に従いパッチの活性物質成分のペルオキシド数を計算する方法である。
【0019】
【数1】
ここで、nはシステムの活性物質成分の製剤構成成分の数、
Nはこのシステムの活性物質成分における製剤構成成分の%含量(数値)、
PONはシステムの活性物質成分の個々の成分のペルオキシド数である。
【0020】
原材料中に存在するヒドロペルオキシドはそれらが接触した活性物質と様々な様式で反応し得る。とくに感受性の高いことが見出されている活性物質は、以下のサブ構造の一つを有する活性物質である。
・二級または三級アミノ基
・C−C二重結合
・アリル位置中のC−H基
・ベンジル性C−H基
・三級C−H基
・スルフィドまたはスルホキシド基
【0021】
相当する反応生成物は次の通りである。
【化3】
【0022】
多くの場合、活性物質の相当する官能基におけるこれらの反応は以下の反応を伴う。
たとえば17−β−エストラジオールの場合、ベンジル位置(C9)における最初のヒドロキシル化に続き水の形態でのヒドロキシル基の脱離が起き、Δ9(11) 17−β−エストラジオールの形成を伴う。結果的に共役二重結合が形成されるのでこの反応は好ましい。
【0023】
【化4】
【0024】
アミン置換テトラヒドロナフトールフラグメントを有する活性物質(N-0923)の場合には、まずN−オキシドが形成され、これがついで以下に示す反応図に従いさらに脱離反応(コープ脱離)を受けてジヒドロナフトールおよびヒドロキシルアミンを形成する。
【化5】
【0025】
ジヒドロピリジン型のカルシウムアンタゴニストの場合には、以下の分解機構が見出されている。
【化6】
【0026】
最初の攻撃がジヒドロピリジン環の窒素または三級C−H結合のいずれに起こるかは明らかではない。いずれにしてもこの場合に再び行われるのは、芳香族状態の形成によりエネルギー的に好ましい水の脱離である。ジヒドロピリジン環の酸化に続いてN−オキシドに観察される次の反応は式5bによるt−ブチルヒドロペルオキシドとの反応のみである。パッチシステムにおいては、形成される量が少なすぎて低い変換では観察されない。
【0027】
上記の例では、反応生成物からはヒドロペルオキシドが分解反応に直接参加したかどうかを識別することは可能でない場合が多い。ヒドロペルオキシドによる酸化反応に対する活性物質の感受性を測定するため、容易に実行できる試験反応が開発された。この目的では、活性物質をクロロホルムまたは他の適当な溶媒中で還流下にt−ブチルヒドロペルオキシドと反応させる。活性物質の酸化分解生成物がこの反応生成物中に見出されたならば、それらはヒドロペルオキシドとの反応によるものと考えることができる。活性物質の分解はまた、試験溶液の変色によってきわめて簡単に証明される。試験反応における陽性の帰結から導かれる実際的な結論は、この活性物質を用いて経皮的システムを処方する場合は、使用する補助剤には実質的にヒドロペルオキシドを含まない補助剤のみ包含されるべきであるということになる。
【発明の開示】
【0028】
本発明の基盤となる目的は経皮治療システム(TTS)において上記TTSに含有される酸化感受性活性物質の酸化分解生成物の形成がTTSの保存時には低下しているTTSを提供することにある。この目的の達成は既に上述したように、1または2種以上の酸化感受性活性物質を含有するTTSの製造に際し、それらの製剤の構成成分として実質的にヒドロペルオキシドを含まない成分を用いることにある。本発明によれば、これらの製剤の構成成分は、TTSについての式により指示される分画を合わせたペルオキシド数(PON)の総計が、20以下、好ましくは10以下、とくに好ましくは5以下の成分である。
【0029】
製剤構成成分の語は、活性な医薬物質(単数または複数)を除く全ての物質を包含し、その中に活性物質が存在する。それらには、単一層もしくは多重層マトリックスおよび/または貯蔵システムの構築ブロックとして:たとえば、炭化水素のポリマーたとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリメタアクリレート、ポリウレタン、ポリイソブチレン、ポリビニルピロリドン;炭化水素樹脂;シリコン;ゴム;ビニルピロリドンと、アクリル酸、アクリル酸誘導体、エチレンおよび/または酢酸ビニルとのコポリマー;ロジン誘導体および/またはポリテルペンをベースとする樹脂が包含される。機能性添加物または補助剤として:たとえば可塑剤もしくは粘着付与剤、たとえばロジンエステル、たとえばロジンの水添もしくは部分水添グリセロールエステル、ポリテルペン;透過性増強剤たとえば、テルペンもしくはテルペン誘導体、不飽和脂肪酸もしくはそれらの誘導体、長鎖脂肪酸のエステル、ジエチレングルコールもしくはその誘導体;アルキルメチルスルホキシド、アゾーン(azone)およびリモネン;結晶化阻害剤たとえばポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸またはセルロース誘導体:溶媒たとえばポリエチレングリコール、ジエチレングリコールおよび/またはその誘導体、プロパノールまたはオレイルアルコールが包含される。
【0030】
酸化感受性活性物質から構成される経皮治療システムの製造を意図する製剤構成成分が、納入時にもかなりの量のヒドロペルオキシドを負荷されている場合には、使用前にこれらの物質から大部分のヒドロペルオキシドを除去することが必要である。これは強力な還元性物質を用いてヒドロペルオキシドを破壊することによって行われ得る。きわめて適当な還元剤および医薬的に許容される補助剤はたとえば重亜硫酸ナトリウムもしくは亜硫酸水素ナトリウムである。水溶液中または大部分が水の溶液中では、ペルオキシドはこの物質との急速な反応により、問題なく破壊される。しかしながら、残念なことに経皮的システムに使用される補助剤およびポリマーの大部分は水に不溶性であるか、そうでなければ水は使用される他の補助剤と適合性がない。
【0031】
驚くべきことに、また、ヒドロペルオキシドの破壊は固体物質が水混和性溶媒、好ましくはエタノールまたはメタノールに溶解させ、無機亜硫酸塩たとえば亜硫酸水素ナトリウムの水溶液を最初の溶液に撹拌しながら徐々に加えても可能であることが見出された。亜硫酸塩溶液を補助剤の溶液に加えた場合、沈殿がきわめて迅速に生じても、亜硫酸塩はなお十分な時間、還元によりヒドロペルオキシドを破壊する。
【0032】
亜硫酸水素塩の溶液が十分な濃度であれば少量の水の導入にも通常、問題なく耐えることができる。これはとくに水がコーティングおよび乾燥時に他の溶媒とともに除去される場合にいえる。液体の補助剤は付加的な溶媒を使わないでも、亜硫酸水素ナトリウムの水溶液と反応させることができる。
【0033】
この処理後には、材料は実際上ペルオキシドを含まず、かなり以前に負荷されていても問題なく使用することができる。安定性における更なる改善は、システムの保存時における新たなペルオキシドの形成を遅延させまたは抑制させる抗酸化剤の添加によっても達成され得る。
【0034】
活性物質と接触する構成成分のペルオキシド含量の耐えられる上限に関しては、ペルオキシド数の上限20、さらによくは10、好ましくは5を越えるべきでない。
【0035】
10の制限は、サイズ20cm2、コーティング重量100g/m2、活性物質濃度10%g/gを有する典型的な経皮治療マトリックスシステムについての以下の例示的計算の結果である。
【0036】
活性物質の分子量を200ダルトンと推定し、それに応じてシステムは20mgもしくは0.1ミリモルの活性物質およびペルオキシド数が10である、合計が0.2×10-2ミリモルの活性酸素を含むとする。これはシステム中に存在する活性物質の2%以下が酸化されていることを意味する。この反応が時間を要し、活性酸素の消費によって遅延することを考慮すれば、−ペルオキシド数10、および上限20のある種の環境下では−システムは、2年間は十分に安定であると見込まれる。
【0037】
改善された安定性はもちろんペルオキシド負荷をさらに(好ましくはPON:5またはそれ未満に)低下させること、すなわちペルオキシドが負荷された補助剤の上記方法による亜硫酸塩処理および/またはペルオキシドを形成する傾向のない補助剤の選択によって達成される。
【実施例】
【0038】
実施例1
80mLのクロロホルムと1gのt−ブチルヒドロペルオキシドを0.5gの活性物質に加え、このシステムを撹拌しながら還流下に6時間過熱する。ついで、反応混合物をその色調について評価し、形成した分解生成物について適当なクロマトグラフ法を用いて分析する。
【0039】
実施例2
ペルオキシド数38およびペルオキシド数2.6のマトリックス中N-0923 ベースの安定性
式4による分解では、酸化分解生成物:1,2−ジヒドロナフト−8−オールが同定された。
マトリックス2a:ペルオキシド数 38
スチレン/ポリイソブチレン/スチレンブロックポリマー 16%
オレイルアルコール 10%
炭化水素樹脂 22%
部分水添ロジンのグリセロールエステル 22%
ポリイソブチレン 7%
液体パラフィン 3%
N-0923ベース 20%
マトリックス2b:ペルオキシド数 2.6
接着性ポリアクリレート 60%
オレイルアルコール 10%
N-0923 ベース 30%
【0040】
初期含量100%をベースにした3カ月後の活性物質含量
マトリックス2a マトリックス2b
25℃ 85% 99.5%
40℃ 44% 89.9%
【0041】
HPLCクロマトグラムの酸化分解生成物:1,2−ジヒドロナフト−8−オールの面積%
マトリックス2a マトリックス2b
25℃ 8.1% 定量不能
40℃ 34.1% 0.4%
【0042】
実施例1によるt−ブチルヒドロペルオキシドを用いた反応において見出された、同定された分解生成物:1,2−ジヒドロナフト−8−オール
【0043】
実施例3
ペルオキシド数35およびペルオキシド数2のマトリックス中におけるエストラジオールの安定性
マトリックス3a:ペルオキシド数35
接着性ポリアクリレート 16%
グリセロール 10%
部分水添ロジンのグリセロールエステル 22%
エストラジオール 20%
【0044】
マトリックス3b:ペルオキシド数2〜3
重亜硫酸ナトリウム溶液で処理した部分水添ロジンのグリセロールエステルを用いたほかはマトリックス3aに相当する。
6カ月後のマトリックス中におけるΔ(11) 17−β−エストラジオール含量
HPLCクロマトグラム中の面積%
マトリックス3a マトリックス3b
25℃ 0.43% 検出不能
40℃ 0.75% 検出不能
【0045】
実施例4
高ペルオキシドおよび低ペルオキシドマトリックス中におけるボピンドロール(bopindolol)の安定性
マトリックス組成
ボピンドロール 15%
接着性ポリアクリレート 65%
部分水添ロジンのグリセロールエステル 20%
【0046】
マトリックス4a:
PON 160 を有する部分水添ロジンのグリセロールエステルを用いて調製
マトリックス4b:
重亜硫酸ナトリウム溶液で処理した部分水添ロジンのグリセロールエステルを用いて調製
マトリックス4a マトリックス4b
40℃に30日間 茶褐色に変色 変色なし
実施例1によるt−ブチルヒドロペルオキシドとの反応は急速に帯黄色の変色を生じ、これはついで強い茶褐色になる。
分解生成物の構造を明らかにすることはできなかった。
【0047】
実施例5
高ペルオキシドおよび低ペルオキシドマトリックス貯蔵部中におけるニフェジピンの安定性
t−ブチルヒドロペルオキシドによる酸化後の分解生成物
I)式5aによるジヒドロピリジン環の芳香族化
II)式5bによるN−オキシド形成
ニフェジピン 10%
ジエチレングリコールモノエチルエーテル 90%
【0048】
貯蔵部5a:
PON 150 を有するジエチレングリコールモノエチルエーテルにより調製
貯蔵部のPON:90
貯蔵部5b:
重亜硫酸ナトリウム溶液で処理したジエチレングリコールモノエチルエーテルにより調製
30日 貯蔵部5a(分解生成物1) 貯蔵部5b(分解生成物1)
25℃ 1.6% 定量不能
40℃ 4.5% 0.3%
式5bによる分解生成物はシステム中の低濃度によって見出されなかった。
【0049】
実施例6
高ペルオキシドおよび低ペルオキシドマトリックス中におけるペルゴリド(pergolide)の安定性
t−ブチルヒドロペルオキシドによる酸化後に同定された分解生成物:
スルフィド硫黄のスルホキシドへの酸化
マトリックス6a,PON:約32
ペルゴリド: 10%
接着性ポリアクリレート 70%
部分水添ロジンのグリセロールエステル 20%
マトリックス6b,PON:約2〜3
ペルゴリド: 10%
接着性ポリアクリレート 90%
【0050】
30日 マトリックス6a(スルホキシド) マトリックス6b(スルホキシド)
25℃ 0.8% 定量不能
40℃ 4.2% 定量不能
【0051】
実施例7
重亜硫酸ナトリウム溶液を使用するペルオキシドの破壊
処理する原材料を水混和性溶媒、好ましくはメタノールまたはエタノールに溶解し、この溶液を撹拌しながら、約10〜30%濃度の重亜硫酸ナトリウム(亜硫酸水素ナトリウム)溶液と混合する。重亜硫酸ナトリウム溶液の量は、化学量論的にすべてのペルオキシドまたは十分な程度まですべてのペルオキシドを破壊するような量とする。
【0052】
亜硫酸水素ナトリウムの沈殿した反応生成物、亜硫酸水素ナトリウムを所望によりまたは必要に応じて遠心分離もしくは沈降またはろ過によって分離することができる。