特許第5753657号(P5753657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5753657絶縁層形成用スラリー、電気化学素子用セパレータの製造方法、及び電気化学素子
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  • 特許5753657-絶縁層形成用スラリー、電気化学素子用セパレータの製造方法、及び電気化学素子 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5753657
(24)【登録日】2015年5月29日
(45)【発行日】2015年7月22日
(54)【発明の名称】絶縁層形成用スラリー、電気化学素子用セパレータの製造方法、及び電気化学素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20150702BHJP
【FI】
   H01M2/16 M
   H01M2/16 L
   H01M2/16 P
【請求項の数】17
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2009-551553(P2009-551553)
(86)(22)【出願日】2009年1月29日
(86)【国際出願番号】JP2009051429
(87)【国際公開番号】WO2009096451
(87)【国際公開日】20090806
【審査請求日】2009年10月5日
【審判番号】不服2013-24605(P2013-24605/J1)
【審判請求日】2013年12月13日
(31)【優先権主張番号】特願2008-17004(P2008-17004)
(32)【優先日】2008年1月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2008-40972(P2008-40972)
(32)【優先日】2008年2月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2008-205040(P2008-205040)
(32)【優先日】2008年8月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】日立マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】片山 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】阿部 浩史
(72)【発明者】
【氏名】松本 修明
(72)【発明者】
【氏名】阿部 敏浩
(72)【発明者】
【氏名】黒木 康好
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 松嶋 秀忠
【審判官】 小川 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−280911(JP,A)
【文献】 特開平10−162826(JP,A)
【文献】 特開2007−157723(JP,A)
【文献】 特開2006−066141(JP,A)
【文献】 特開2007−273443(JP,A)
【文献】 特開2008−016313(JP,A)
【文献】 特開平10−223195(JP,A)
【文献】 特開2005−063846(JP,A)
【文献】 特開平07−308563(JP,A)
【文献】 特開2006−169503(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/066768(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14− 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学素子用セパレータのイオン透過性および耐熱性を有する絶縁層の形成に用いる絶縁層形成用スラリーであって、
前記絶縁層形成用スラリーは、耐熱性を有する絶縁性微粒子と、増粘剤と、分散媒と、分散剤とを含み、
前記絶縁性微粒子は、前記分散媒に分散しており、
前記分散媒は、水を70質量%以上含有しており、
前記分散剤は、分子内にイオン解離性の酸基または酸塩基を複数含み、
前記絶縁層形成用スラリーにおける前記分散剤の含有量が、前記絶縁性微粒子100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であり、
前記絶縁層形成用スラリーの粘度が、5〜500mPa・sであり、
前記絶縁性微粒子に含まれる粒子の中で、粒径が1μm以下の粒子の割合が30体積%以上であり、かつ粒径が2μm以上の粒子の割合が10体積%以下であることを特徴とする絶縁層形成用スラリー。
【請求項2】
前記絶縁性微粒子が、アルミナ、シリカ、TiO2、BaTiO3、ZrO2、ベーマイト、ゼオライト、アパタイトおよびカオリンよりなる群から選択される少なくとも1種の微粒子である請求項1に記載の絶縁層形成用スラリー。
【請求項3】
前記絶縁性微粒子が、板状粒子を含む請求項1または2に記載の絶縁層形成用スラリー。
【請求項4】
前記絶縁性微粒子が、一次粒子が凝集した二次粒子を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁層形成用スラリー。
【請求項5】
前記増粘剤として、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体および天然多糖類よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の絶縁層形成用スラリー。
【請求項6】
前記分散剤が、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩およびポリメタクリル酸塩よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項に記載の絶縁層形成用スラリー。
【請求項7】
バインダを更に含む請求項1〜のいずれか1項に記載の絶縁層形成用スラリー。
【請求項8】
前記バインダとして、酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35モル%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体、(メタ)アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリN−ビニルアセトアミド、ポリウレタンおよびエポキシ樹脂より選択される少なくとも1種を含有する請求項に記載の絶縁層形成用スラリー。
【請求項9】
前記バインダの含有量が、前記絶縁性微粒子の体積を100とした場合の体積比で、1以上30以下である請求項またはに記載の絶縁層形成用スラリー。
【請求項10】
固形分含量が10〜80質量%である請求項1〜のいずれか1項に記載の絶縁層形成用スラリー。
【請求項11】
消泡剤を更に含む請求項1〜10のいずれか1項に記載の絶縁層形成用スラリー。
【請求項12】
前記絶縁性微粒子の平均粒径が、0.01μm以上、1.5μm以下である請求項1〜11のいずれか1項に記載の絶縁層形成用スラリー。
【請求項13】
前記絶縁性微粒子の平均粒径が、0.20μm以上である請求項12に記載の絶縁層形成用スラリー。
【請求項14】
耐熱性を有する多孔質の絶縁層を含む電気化学素子用セパレータの製造方法であって、
請求項1〜13のいずれか1項に記載の絶縁層形成用スラリーを、ポリフッ化ビニリデンをバインダとして含有する正極、ポリフッ化ビニリデンをバインダとして含有する負極および多孔質基材よりなる群から選択される少なくとも1種の基材に塗布する工程と、
前記基材に塗布された前記絶縁層形成用スラリーを乾燥する工程とを含むことを特徴とする電気化学素子用セパレータの製造方法。
【請求項15】
前記多孔質基材が、融点が100℃以上150℃以下の熱可塑性樹脂からなる微多孔膜、または、融点が100℃以上150℃以下の熱可塑性樹脂で構成された層と、融点が150℃を超える熱可塑性樹脂で構成された層とを積層した積層微多孔膜である請求項14に記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
【請求項16】
前記絶縁層の厚みを6μm以下とする請求項14又は15に記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
【請求項17】
正極、負極および請求項1416のいずれか1項に記載の電気化学素子用セパレータの製造方法により形成された電気化学素子用セパレータを含むことを特徴とする電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用セパレータを構成するのに好適な絶縁層を形成するためのスラリー、上記スラリーを用いて形成される絶縁層を有する電気化学素子用セパレータおよびその製造方法、並びに上記電気化学素子用セパレータを有する電気化学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気化学素子の一種であるリチウム二次電池は、エネルギー密度が高いという特徴から、携帯電話やノート型パーソナルコンピューターなどの携帯機器の電源として広く用いられている。携帯機器の高性能化に伴ってリチウム二次電池の高容量化が更に進む傾向にあり、その安全性の確保が重要となっている。
【0003】
現行のリチウム二次電池では、正極と負極の間に介在させるセパレータとして、例えば厚みが20〜30μm程度のポリオレフィン系の微多孔性フィルム(微多孔膜)が使用されている。また、セパレータには、電池の安全性を向上させるため、電池の異常発熱温度(熱暴走温度)以下でセパレータの構成樹脂を溶融させて空孔を閉塞させ、電池の内部抵抗を上昇させる機能、所謂シャットダウン機能が必要とされる場合がある。このため、セパレータの素材としては、融点の低いポリエチレンが好ましく用いられる。
【0004】
ところで、こうしたセパレータとしては、例えば、多孔化と強度向上のために一軸延伸または二軸延伸したフィルムが用いられている。このようなセパレータは、単独で存在する膜として供給されるため、作業性などの点で一定の強度が要求され、これを上記延伸によって確保している。しかし、このような延伸フィルムでは結晶化度が増大しており、シャットダウンが生じる温度(シャットダウン温度)も、電池の熱暴走温度に近い温度にまで高まっているため、電池の安全性確保のためのマージンが十分とは言い難い。
【0005】
また、上記延伸によってフィルムにはひずみが生じており、これが高温に曝されると、残留応力によって収縮が起こるという問題がある。収縮温度は、フィルム樹脂の融点、すなわちシャットダウン温度と非常に近いところに存在する。このため、ポリオレフィン系の微多孔性フィルムをセパレータとして使用するときには、充電異常などにより電池の温度がシャットダウン温度に達すると、電流を直ちに減少させて電池の温度上昇を防止しなければならない。空孔が十分に閉塞せず電流を直ちに減少できなかった場合には、電池の温度は容易にセパレータの収縮温度にまで上昇するため、内部短絡を生じることもある。
【0006】
このようなセパレータの熱収縮による短絡を防止し、電池の信頼性を高める技術として、例えば、耐熱性の良好な多孔質基体と、無機微粒子と、シャットダウン機能を確保するための樹脂成分とを有するセパレータにより電気化学素子を構成することが提案されている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2006/062153号公報
【特許文献2】国際公開第2007/066768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および2に開示の技術によれば、異常発熱した際にも熱暴走が生じ難い安全性に優れた電気化学素子を提供することができる。
【0009】
ところで、特許文献1および2には、無機微粒子を使用し、上記無機微粒子を分散させたスラリーを基材などに塗布する工程を経てセパレータを製造する方法も記載されている。
【0010】
ところが、無機微粒子は、水や有機溶媒といった媒体に比べて比重が大きいためにスラリー中で沈降しやすく、また、特に粒径が1μm以下の微粒子の場合には、微粒子同士が凝集しやすいことから、スラリー中での微粒子の分散状態を安定に保つことが困難な場合がある。
【0011】
スラリー中での微粒子の分散状態を安定に保つことができない場合には、スラリーの保管時に微粒子の凝集や沈降が生じてしまう。微粒子が凝集したり沈降したりしたスラリーを基材などに塗布すると、塗布ムラが生じやすい。また、スラリー中での微粒子の分散状態が特に不安定なものでは、基材などへの塗布後、乾燥するまでの間に微粒子が凝集したり沈降したりして、塗布面にムラが生じる場合もある。
【0012】
スラリーの塗布ムラが生じると、形成されるセパレータの均一性が低くなり、リチウム二次電池内において、セパレータ中のイオン伝導性にムラが生じ、特に高電流密度での充電時において、リチウムの析出などの不具合が生じる虞があり、また、析出したリチウムがデンドライト状の結晶となった場合には、かかるデンドライトによって短絡が発生する虞もある。
【0013】
このようなことから、セパレータ製造用のスラリーにおいては、製造されるセパレータの品質をより安定化するために、微粒子などの分散状態の安定性を高めることが好ましく、特許文献1および2に記載の技術は、このような点において未だ改善の余地を残している。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電気化学素子用セパレータに適用可能な、イオン透過性および耐熱性を有する絶縁層を形成するためのスラリーであって、微粒子が均一に分散し、分散状態を安定して維持することのできるスラリー、このスラリーを用いて製造される電気化学素子用セパレータおよびその製造方法、並びに上記電気化学素子用セパレータを有する電気化学素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の絶縁層形成用スラリーは、電気化学素子用セパレータのイオン透過性および耐熱性を有する絶縁層の形成に用いる絶縁層形成用スラリーであって、前記絶縁層形成用スラリーは、耐熱性を有する絶縁性微粒子と、増粘剤と、分散媒と、分散剤とを含み、前記絶縁性微粒子は、前記分散媒に分散しており、前記分散媒は、水を70質量%以上含有しており、前記分散剤は、分子内にイオン解離性の酸基または酸塩基を複数含み、前記絶縁層形成用スラリーにおける前記分散剤の含有量が、前記絶縁性微粒子100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であり、前記絶縁層形成用スラリーの粘度が、5〜500mPa・sであり、前記絶縁性微粒子に含まれる粒子の中で、粒径が1μm以下の粒子の割合が30体積%以上であり、かつ粒径が2μm以上の粒子の割合が10体積%以下であることを特徴とする。
【0017】
更に、本発明の電気化学素子用セパレータの製造方法は、耐熱性を有する多孔質の絶縁層を含む電気化学素子用セパレータの製造方法であって、上記本発明の絶縁層形成用スラリーを、ポリフッ化ビニリデンをバインダとして含有する正極、ポリフッ化ビニリデンをバインダとして含有する負極および多孔質基材よりなる群から選択される少なくとも1種の基材に塗布する工程と、前記基材に塗布された前記絶縁層形成用スラリーを乾燥する工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の電気化学素子は、正極、負極および上記本発明の電気化学素子用セパレータの製造方法により形成された電気化学素子用セパレータ(以下、単に「セパレータ」という場合がある。)を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、絶縁性微粒子が均一に分散し、その分散状態を安定して維持できる絶縁層形成用スラリーが提供できる。また、本発明の絶縁層形成用スラリーを用いて製造される本発明の電気化学素子用セパレータは、優れた耐熱性を有するものであり、上記電気化学素子用セパレータを有する本発明の電気化学素子は、優れた信頼性を有するものである。更に、本発明の電気化学素子用セパレータの製造方法によれば、セパレータを安定かつ連続的に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明のセパレータの製造に適用できる塗工装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施形態1)
先ず、本発明の絶縁層形成用スラリーの実施形態を説明する。本発明の絶縁層形成用スラリーは、電気化学素子用セパレータを構成可能な多孔質の絶縁層を形成するためのものであり、少なくとも、耐熱性を有する絶縁性微粒子(以下、単に「絶縁性微粒子」という場合がある。)および増粘剤を分散媒に分散させたものである。増粘剤は分散媒に溶解していてもよい。
【0022】
上記絶縁性微粒子は、本発明の絶縁層形成用スラリーにより製造される電気化学素子用セパレータにおいて、その耐熱性を高め、電気化学素子用セパレータの高温での寸法安定性を向上させたり、リチウムデンドライトに起因する微小短絡の発生を抑制する作用を有するものである。
【0023】
上記絶縁性微粒子は、電気絶縁性を有しており、電気化学的に安定で、電気化学素子の有する有機電解液(以下、「電解液」という場合がある。詳しくは後述する。)や、絶縁層形成用スラリーに用いる分散媒に対して安定であり、高温状態で電解液に溶解しないものであれば、特に制限はない。
【0024】
本明細書でいう「有機電解液に対して安定な絶縁性微粒子」とは、有機電解液(電気化学素子の電解液として使用される有機電解液)中で変形および化学的組成変化の起こらない絶縁性微粒子を意味している。また、本明細書でいう「高温状態」とは、具体的には150℃以上の温度であり、絶縁性微粒子は、このような温度の電解液中で変形および化学的組成変化の起こらない安定な粒子であればよい。すなわち、「耐熱性を有する絶縁性微粒子」における「耐熱性」とは、少なくとも150℃において、電解液中で変形および化学的組成変化が生じないことを意味している。更に、本明細書でいう「電気化学的に安定な」とは、電気化学素子の充放電の際に化学変化が生じないことを意味している。
【0025】
上記絶縁性微粒子の具体例としては、例えば、酸化鉄、Al23(アルミナ)、SiO2(シリカ)、TiO2、BaTiO3、ZrO2などの酸化物微粒子;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物微粒子;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶微粒子;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶微粒子;タルク、モンモリロナイトなどの粘土微粒子;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイトなどの鉱物資源由来物質またはそれらの人造物;などが挙げられる。また、金属微粒子;SnO2、スズ−インジウム酸化物(ITO)などの酸化物微粒子;カーボンブラック、グラファイトなどの炭素質微粒子;などの導電性微粒子の表面を、電気絶縁性を有する材料(例えば、上記絶縁性微粒子を構成する材料など)で表面被覆することで、電気絶縁性を持たせた微粒子であってもよい。これらの中でも、アルミナ、シリカおよびベーマイトよりなる群から選択される少なくとも1種の微粒子であることが好ましい。絶縁性微粒子には、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記絶縁性微粒子の形態としては、球状、多面体形状、板状などいずれの形態であってもよいが、絶縁性微粒子には板状粒子が含まれていることが好ましく、絶縁性微粒子の全てが板状粒子であってもよい。板状粒子としては、各種市販品が挙げられ、例えば、旭硝子エスアイテック社製のSiO2「サンラブリー(商品名)」、石原産業社製のTiO2「NST−B1(商品名)」の粉砕品、堺化学工業社製の板状硫酸バリウム「Hシリーズ(商品名)」、「HLシリーズ(商品名)」、林化成社製のタルク「ミクロンホワイト(商品名)」、林化成社製のベントナイト「ベンゲル(商品名)」、河合石灰社製のベーマイト「BMM(商品名)」、「BMT(商品名)」、河合石灰社製のアルミナ「セラシュールBMT−B(商品名)」、キンセイマテック社製のアルミナ「セラフ(商品名)」、斐川鉱業社製のセリサイト「斐川マイカ Z−20(商品名)」などが入手可能である。この他、SiO2、Al23、ZrO2、CeO2については、特開2003−206475号公報に開示の方法により作製することができる。
【0027】
上記絶縁性微粒子が板状である場合には、セパレータ中において、絶縁性微粒子を、その平板面がセパレータの面にほぼ平行となるように配向させることで、短絡の発生をより良好に抑制できる。これは、絶縁性微粒子を前記のように配向させることで、絶縁性微粒子同士が平板面の一部で重なるように配置されるため、セパレータの片面から他面に向かう空孔(貫通孔)が、直線ではなく曲折した形で形成される(すなわち、曲路率が大きくなる)と考えられ、これにより、リチウムデンドライトがセパレータを貫通することを防止できることから、短絡の発生がより良好に抑制されるものと推測される。
【0028】
上記絶縁性微粒子が板状粒子である場合の形態としては、例えば、アスペクト比(板状粒子の最大長さ/板状粒子の厚み)が、好ましくは5以上、より好ましくは10以上であって、好ましくは100以下、より好ましくは50以下である。また、板状粒子の平板面の長軸方向長さと短軸方向長さの比(短軸方向長さ/長軸方向長さ)の平均値は、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上であり、その平均値が1、すなわち、長軸方向長さと短軸方向長さとがほぼ同じであってもよい。板状の絶縁性微粒子が、前記のようなアスペクト比や平板面の長軸方向長さと短軸方向長さの比の平均値を有する場合には、前記の短絡防止作用がより有効に発揮される。
【0029】
上記絶縁性微粒子が板状である場合における前記の平板面の長軸方向長さと短軸方向長さの比の平均値は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影した画像を画像解析することにより求めることができる。更に、絶縁性微粒子が板状である場合における前記のアスペクト比も、SEMにより撮影した画像を、画像解析することにより求めることができる。
【0030】
また、上記絶縁性微粒子には、一次粒子が凝集した二次粒子が含まれていることが好ましく、絶縁性微粒子の全てが二次粒子構造の微粒子であってもよい。上記二次粒子には、通常の分散工程では一次粒子に分離し難い凝集体、例えば、一次粒子が互いに連晶を形成して繋がり合って二次粒子を形成したものなどを好ましく用いることができる。このような微粒子の例としては、大明化学社製のベーマイト「ベーマイト C06(商品名)」、「ベーマイト C20(商品名)」、米庄石灰工業社製のCaCO3「ED−1(商品名)」、J.M.Huber社製のクレイ「Zeolex 94HP(商品名)」などが挙げられる。
【0031】
上記絶縁性微粒子として一次粒子が凝集した二次粒子構造を有している微粒子を用いた場合には、凝集した二次粒子が粒子同士の最密充填を阻止するので、絶縁層の空孔をより大きくすることが可能であり、かかる絶縁層を有する電気化学素子用セパレータにより構成されるリチウム二次電池などの電気化学素子は、電気自動車、ハイブリッド式自動車、電動バイク、電動アシスト自転車、電動工具、シェーバーなどの、より高出力が要求される用途に好適なものとなる。
【0032】
上記絶縁性微粒子の平均分散粒径は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上であって、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは1μm以下である。
【0033】
本発明の絶縁層形成用スラリーに係る絶縁性微粒子は、分散媒に分散している状態で、全分散粒子中、粒径が1μm以下の粒子の割合が30体積%以上でかつ粒径が3μm以上の粒子の割合が10体積%以下である。このように絶縁性微粒子が微細な粒子を多く含む場合には、より耐熱性に優れた絶縁層を形成しやすくなるが、微粒子同士が凝集しやすく、スラリー中での微粒子の分散状態を安定に保つことが困難になりやすい。しかし、本発明のスラリーでは、前記のような微細な粒子を多く含んでいても、均一な分散状態を長時間保つことができる。また、粗大な粒子の割合が少ないほど、優れた耐熱性を維持しながら絶縁層の厚みを薄くすることができるので、分散媒に分散している状態の、絶縁性微粒子に含まれる粒径が3μm以上の粒子の割合を10体積%以下とし、粒径が2μm以上の粒子の割合を10体積%以下とすることが好ましい。
【0034】
本明細書でいう絶縁性微粒子の粒径は、例えば、レーザー散乱粒度分布計(例えば、日機装社製「MT−3000(商品名)」)を用い、絶縁性微粒子を溶解したり、絶縁性微粒子が膨潤したりしない媒体(例えば、スラリーに使用する分散媒)に、絶縁性微粒子を分散させて測定した体積基準での粒度分布から求めることができる。すなわち、体積基準で粒度分布を測定し、その累積頻度から、平均粒径、粒径が1μm以下の粒子の割合、および、粒径が3μm以上の粒子の割合をそれぞれ求めることができる。
【0035】
本発明の絶縁層形成用スラリーには増粘剤を使用する。増粘剤を使用することにより、絶縁層形成用スラリーの粘度を好適な範囲に調整し、絶縁性微粒子の分散を均一化し、優れた分散状態を安定して維持できるようになる。
【0036】
上記増粘剤としては、絶縁層形成用スラリー中において、絶縁性微粒子を凝集させるなどの副作用がなく、必要な粘度にスラリーを調整できる増粘剤であればよいが、少量の添加で高い増粘作用を有するものが好ましい。また、増粘剤は、スラリーに使用する分散媒に対して良好に溶解または分散し得るものであることが好ましい。増粘剤の未溶解分や凝集物がスラリー中に多数存在すると、絶縁性微粒子の分散が不均一になり、スラリーを基材などに塗布し、乾燥することにより形成される絶縁層において、絶縁性微粒子の分布が不均一となる。そのため、絶縁層の耐熱性が低下し、ひいては、電気化学素子の信頼性や耐熱性を低下させる虞が生じる。
【0037】
絶縁層形成用スラリー中に残存する増粘剤の未溶解分や凝集物の含有量の目安としては、スラリーを目開き30μmのメッシュフィルターに通したときに、フィルター上に残る残渣が、スラリー1L当たり1個以下であることが好ましく、スラリー5L当たり1個以下であることがより好ましい。
【0038】
上記増粘剤の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体などの合成高分子;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体;キサンタンガム、ウェランガム、ジェランガム、グアーガム、カラギーナンなどの天然多糖類;デキストリン、アルファー化でんぷんなどのでんぷん類;モンモリロナイト、ヘクトライトなどの粘土鉱物;ヒュームドシリカ、ヒュームドアルミナ、ヒュームドチタニアなどの無機酸化物類;などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記の粘土鉱物や無機酸化物類の場合には、絶縁性微粒子よりも一次粒子の粒径が小さいもの(例えば、数nm〜数十nm程度)を使用することが好ましく、また、一次粒子が多数繋がったストラクチャ構造を有するもの(ヒュームドシリカなど)が好ましい。
【0039】
上記例示の増粘剤のなかでも、絶縁層形成用スラリーに好適な分散媒である水に対する溶解性が高く、少量で増粘効果の高い、天然多糖類がより好ましく、キサンタンガム、ウェランガム、ジェランガムが更に好ましく、キサンタンガムが特に好ましい。また、絶縁層形成用スラリーにチクソ性を付与する場合には、ヒュームドシリカ、ヒュームドアルミナ、ヒュームドチタニアなどの無機酸化物類を添加することが好ましい。
【0040】
上記絶縁層形成用スラリーにおける増粘剤の含有量は、設定する絶縁層形成用スラリーの粘度に応じて変動するが、例えば、増粘剤としてスラリー塗布後の乾燥工程で揮発しないものを用いる場合には、絶縁層中に残留することになるため、多量に用いるのは好ましくなく、具体的には、スラリー中の固形分(分散媒を除く構成成分。以下、同じ。)の全体積中、10体積%以下であることが好ましく、5体積%以下であることがより好ましく、1体積%以下であることが更に好ましい。また、絶縁層形成用スラリーにおける増粘剤の含有量は、スラリー中の固形分の全体積中、0.1体積%以上であることが好ましい。
【0041】
また、本発明の絶縁層形成用スラリーには、分散剤を使用することが好ましい。分散剤の使用によって、例えば、分散剤が絶縁性微粒子の表面に付着することで、絶縁層形成用スラリー中での絶縁性微粒子の分散性がより向上し、これら絶縁性微粒子同士の凝集が防止されて、絶縁性微粒子の分散状態をより安定して維持できるようになる。
【0042】
更に、例えば、絶縁性微粒子が板状粒子の場合、その製造方法によっては、各粒子の板面が重なった状態で得られることがある(例えば、板状ベーマイトなど)。このように各粒子が積層状態で存在する絶縁層形成用スラリーを用いて絶縁層を形成すると、板状粒子の使用による前記の短絡防止効果が十分に得られないことがあるが、このような凝集した粒子と共に分散剤を用いて絶縁層形成用スラリーを調製すれば、個々の粒子を分離させ、スラリー中に均一に分散させることができる。そのため、分散剤を用いた絶縁層形成用スラリーによれば、板状粒子を用いた場合にも、その作用がより良好に発揮される絶縁層を形成することができる。
【0043】
上記分散剤の具体例としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の各種界面活性剤;ポリカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩などの高分子系分散剤;などを用いることができる。より具体的には、ADEKA社製の「アデカトール(商品名)シリーズ」、「アデカノール(商品名)シリーズ」、サンノプコ社製の「SNディスパーサント(商品名)シリーズ」、ライオン社製の「ポリティ(商品名)シリーズ」、「アーミン(商品名)シリーズ」、「デュオミン(商品名)シリーズ」、花王社製の「ホモゲノール(商品名)シリーズ」、「レオドール(商品名)シリーズ」、「アミート(商品名)シリーズ」、日油社製の「ファルバック(商品名)シリーズ」、「セラミゾール(商品名)シリーズ」、「ポリスター(商品名)シリーズ」、味の素ファインテクノ社製の「アジスパー(商品名)シリーズ」、東亞合成社製の「アロン分散剤(商品名)シリーズ」などが挙げられる。分散剤には、上記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
これらの分散剤の中でも、微粒子を分散させる作用が強いことから、イオン解離性の酸基(カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ酸基、マレイン酸基など)またはイオン解離性の酸塩基(カルボン酸塩基、スルホン酸塩基、マレイン酸塩基など)を複数含有するものが好ましく、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩がより好ましい。また、前記の高分子系分散剤が塩の場合(酸塩基を有する場合)、アンモニウム塩であることが好ましい。
【0045】
上記絶縁層形成用スラリーにおける分散剤の含有量は、その作用をより有効に発揮させる観点から、絶縁性微粒子100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.3質量部以上であることがより好ましい。絶縁層形成用スラリーにおける分散剤の量を多くしすぎると、その効果が飽和するのみならず、絶縁層における他の成分の比率が低下して、それらによる効果が小さくなる虞がある。よって、絶縁層形成用スラリーにおける分散剤の含有量は、絶縁性微粒子100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましい。
【0046】
また、本発明の絶縁層形成用スラリーには、形成される絶縁層において、絶縁性微粒子同士や、絶縁性微粒子と後述するその他の成分とを接着したり、絶縁層と基材とを接着したりする目的で、バインダを含有させることができる。バインダの種類は、電気化学素子内部で電気化学的に安定であり、電気化学素子の電解液に対して安定であるものであれば、特に制限はない。また、前記の増粘剤のうち、バインダとしての機能も有するものについては、増粘剤とバインダとを兼用させることもできる。
【0047】
上記バインダの具体例としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル由来の構造単位が20〜35モル%のもの);エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルメタクリレート共重合体などの(メタ)アクリル酸共重合体;フッ素系ゴム;スチレン−ブタジエンゴム(SBR);ポリビニルアルコール(PVA);ポリビニルブチラール(PVB);ポリビニルピロリドン(PVP);ポリN−ビニルアセトアミド;架橋アクリル樹脂;ポリウレタン;エポキシ樹脂;などが用いられる。これらのバインダは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
上記例示のバインダの中でも、150℃以上の耐熱性を有する耐熱樹脂が好ましく、特に、エチレン−アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、SBRなどの柔軟性の高い材料がより好ましい。これらの具体例としては、三井デュポンポリケミカル社製のEVA「エバフレックスシリーズ(商品名)」、日本ユニカー社製のEVA、三井デュポンポリケミカル社製のエチレン−アクリル酸共重合体「エバフレックス−EEAシリーズ(商品名)」、日本ユニカー社製のEEA、ダイキン工業社製のフッ素ゴム「ダイエルラテックスシリーズ(商品名)」、JSR社製のSBR「TRD−2001(商品名)」、日本ゼオン社製のSBR「EM−400B(商品名)」などが挙げられる。また、(メタ)アクリル酸類をモノマーの主成分とし、これを重合した構造を有する(メタ)アクリル酸共重合体も好ましい。本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の両者を意味している。
【0049】
これらの中でも、自己架橋性を有する(メタ)アクリル酸共重合体がより好ましく、自己架橋性を有し、かつガラス転移温度(Tg)が−20℃以下の(メタ)アクリル酸共重合体が更に好ましい。上記Tgを有するものの具体例としては、側鎖エステル基の末端が、炭素数2以上10以下のアルキル基であるものが好ましく、より具体的には、側鎖エステル基の末端の主体が、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、n−ヘキシル基である上記共重合体がより好ましい。側鎖エステル基の末端アルキル基の炭素数が少なすぎると、バインダのTgがより高くなって柔軟性が低下してしまう。また、側鎖エステル基の末端アルキル基の炭素数が多すぎると、側鎖同士が結晶化して、バインダの柔軟性が却って低下してしまう。
【0050】
詳しくは後述するが、本発明の絶縁層形成用スラリーにより得られる絶縁層は、絶縁層形成用スラリーを基材などに塗布し、乾燥により溶媒を除去する工程を経て得られるが、自己架橋性の(メタ)アクリル酸共重合体を上記スラリーに含有させて絶縁層を形成すれば、乾燥の段階で上記共重合体が自己架橋して架橋構造を形成する。そのため、バインダによる絶縁性微粒子同士や絶縁性微粒子と他の構成成分(微多孔膜など)との密着性を高めつつ、良好な耐電解液性を確保し、更に絶縁層形成用スラリーの安定性を高めることができる。
【0051】
すなわち、自己架橋性の(メタ)アクリル酸共重合体をバインダとして用いることにより、絶縁性微粒子が自己架橋性の(メタ)アクリル酸共重合体の架橋体により一体化し、自己架橋性を有しないバインダを用いた場合に比べ、形成される絶縁層の耐電解液性を向上させることができる。また、初めから架橋構造を有するバインダの場合は、バインダ粒子の形状が保持された状態でスラリーが乾燥し、絶縁性微粒子や基材とバインダとの接触面積が減少する場合があるが、自己架橋性の(メタ)アクリル酸共重合体では、乾燥の段階で上記共重合体が自己架橋して架橋構造を形成するため、初めから架橋構造を有するバインダに比べて絶縁層の結着性を向上させることができる。更に、主材である樹脂に架橋剤を添加して架橋構造を形成する所謂二液性のものを使用した場合には、耐電解液性や被接着物との密着性は良好となるものの、架橋剤により絶縁層形成用スラリーの安定性が低下する虞が生じるが、自己架橋性の(メタ)アクリル酸共重合体を用いれば、スラリーの安定性を維持することができる。
【0052】
上記自己架橋性の(メタ)アクリル酸共重合体を得るには、従来から知られている方法、例えば、自己架橋性を付与し得る単量体を用いて、常法に従って(メタ)アクリル酸共重合体を合成すればよい。自己架橋性を付与し得る単量体としては、例えば、自己架橋性の官能基を有する不飽和単量体;水酸基やカルボキシル基などの官能基を有する単量体(アクリレート、メタクリレート類を含む)と、水酸基やカルボキシル基などと反応する官能基を有する官能性単量体との組み合わせ;などが挙げられる。
【0053】
上記自己架橋性の官能基を有する不飽和単量体としては、例えば、N−メチロールメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−ブチロールメタクリルアミド、N−ブチロールアクリルアミドなどのメチロール基含有単量体;アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有単量体;メトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキル基含有単量体;2−アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、3−アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、4−アセトアセトキシブチル(メタ)アクリレートなどのアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレート誘導体;ビニルトリメトキシシラン、ビニルメトキシジメチルシラン、ビニルトリクロロシラン、アリルトリクロロシランなどの加水分解シリル基を有するビニル単量体;2−(1−アジリジニル)エチル(メタ)アクリレートなどのアジリジニル基含有単量体;などが挙げられる。本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの両者を意味している。
【0054】
上記水酸基やカルボキシル基などの官能基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、β−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、β−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、β−ヒドロキシエチルビニルエーテルなどが挙げられる。また、上記水酸基やカルボキシル基などと反応する官能基を有する官能性単量体としては、例えば、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミドなどのN−メチロール基含有単量体;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドなどのアミノ基含有単量体;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有単量体;などが挙げられる。
【0055】
上記自己架橋性の(メタ)アクリル酸共重合体の中でも、ブチルアクリレートをモノマーの主成分として得られた低Tgのアクリル酸共重合体が、特に好ましい。
【0056】
また、上記バインダの具体例以外にも、公知の樹脂にアミン化合物やポリアクリル酸樹脂などを混合して柔軟性を高めたり、Tgを下げたり、柔軟性付与添加剤として公知の可塑剤(フタル酸エステル類など)を配合したりするなどして、破断強度を向上させたものをバインダに用いることができる。また、カルボキシル基を導入することで、バインダの接着性を高めることもできる。樹脂のTgを高めるには、架橋構造を導入してその架橋密度を高めたり、剛直な分子構造(アリール基など)を導入したりするなどの公知の方法が採用でき、樹脂のTgを下げるには、架橋密度の低い架橋構造を導入したり、長鎖の側鎖を導入したりするなどの公知の方法が採用できる。
【0057】
上記絶縁層形成用スラリーにおけるバインダの含有量は、バインダの使用による作用をより有効に発揮させる観点から、絶縁性微粒子の体積を100とした場合の体積比で、1以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましい。また、絶縁層形成用スラリー中のバインダ量が多すぎると、形成される絶縁層において、その空孔が埋められてイオンの透過性が低下し、電気化学素子の特性に悪影響が出る虞があることから、その含有量は、絶縁性微粒子の体積を100とした場合の体積比で、30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。
【0058】
上記絶縁層形成用スラリーの分散媒としては、水を主成分とするものや有機溶媒(トルエンなどの芳香族炭化水素;テトラヒドロフランなどのフラン類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;など)が挙げられるが、水を主成分とするものが好ましい。本発明でいう「分散媒」とは、絶縁層形成用スラリー中において、絶縁層形成時の乾燥の際に残る固形分を除いた残りの部分を指す。また、「水を主成分とする」とは、分散媒の構成成分のうち、水を70質量%以上含有していることを指し、90質量%以上含有していることが好ましい。水を主成分とする場合のその他の分散媒としては、例えば、絶縁層形成用スラリーの界面張力制御のために添加される後述するアルコール類などが挙げられる。環境保護の観点からは、水のみを分散媒とすることが特に好ましい。
【0059】
上記絶縁層形成用スラリーの粘度は、絶縁性微粒子の沈降を抑制し、その分散の安定性を高める観点から、5mPa・s以上であり、10mPa・s以上であることが好ましく、20mPa・s以上であることがより好ましい。また、絶縁層形成用スラリーの粘度が高すぎると、必要な厚みに均一に塗布することが困難になることから、その粘度は、500mPa・s以下であり、300mPa・s以下であることが好ましく、200mPa・s以下であることがより好ましい。本発明の絶縁層形成用スラリーにおける粘度は、日本工業規格(JIS)R 1653に準じた方法でE型粘度計により測定された粘度であり、温度が23℃、せん断速度が1000/sの条件で測定されたものを指す。
【0060】
上記絶縁層形成用スラリーにおいて、例えば、増粘剤として天然多糖類などを用いた場合には、大気中のバクテリアなどによって増粘剤が分解される場合があることから、スラリーに適宜防腐剤や殺菌剤を添加して増粘剤の分解を抑制してもよく、これにより天然多糖類を含有するスラリーの貯蔵性を高めることができる。防腐剤や殺菌剤の具体例としては、安息香酸、パラヒドロキシ安息香酸エステル、アルコール類(エタノール、メタノールなど)、塩素類(次亜塩素酸ナトリウムなど)、過酸化水素、酸類(ホウ酸、酢酸など)、アルカリ類(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)などが挙げられる。
【0061】
また、上記絶縁層形成用スラリーが発泡しやすく、塗布性に影響する場合には、消泡剤を用いることができる。消泡剤としては、ミネラルオイル系、シリコン系、アクリル系、ポリエーテル系の各種消泡剤を用いることができる。消泡剤の具体例としては、日華化学社製の「フォームレックス(商品名)」、日信化学社製の「サーフィノール(商品名)シリーズ」、荏原エンジニアリング社製の「アワゼロン(商品名)シリーズ」、サンノプコ社製の「SNデフォーマー(商品名)シリーズ」などが挙げられる。
【0062】
更に、上記絶縁層形成用スラリーには、界面張力を制御する目的で、添加剤を加えることができる。添加剤としては、分散媒が有機溶媒である場合には、エチレングリコール、プロピレングリコールなど、または、モノメチルアセテートなどの各種プロピレンオキサイド系グリコールエーテルなど用いることができ、分散媒が水の場合には、アルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなど)を用いて界面張力を制御することもできる。
【0063】
本発明の絶縁層形成用スラリーでは、絶縁性微粒子、増粘剤、分散剤、バインダや、後述する熱溶融性微粒子などを含む固形分含量を、例えば10〜80質量%とすることが好ましい。
【0064】
絶縁層形成用スラリーの調製には従来から知られている方法を用いることが可能である。例えば、上記各種材料(絶縁性微粒子、増粘剤、分散剤、バインダ、防腐剤、殺菌剤、消泡剤、更には後述の熱溶融性微粒子など)を、市販の各種分散装置を用いて分散媒中に分散させることで、絶縁層形成用スラリーを調製することが可能である。また、一部の材料は分散媒中に溶解していてもよい。分散装置が強いシェアを発生する場合には、増粘剤やバインダなどの高分子物質の分子鎖が切断されるのを防ぐため、絶縁性微粒子および分散媒、更には必要に応じて分散剤などを添加し、ハイシェアの分散装置でまず絶縁性微粒子を分散媒中に分散させ、その後、増粘剤やバインダなどを添加し、シェアの弱い装置(プロペラ式攪拌装置など)を用いてスラリーを調製することが望ましい。
【0065】
上記分散装置の具体例としては、ビーズミル、ボールミル、遊星式ボールミル、サンドミルなどのメディア方式の分散機;ジェットミル、ロッドミル、ナノマイザー、ホモジナイザーなどのメディアレスの分散機;などが挙げられる。
【0066】
(実施形態2)
次に、本発明の電気化学素子用セパレータの実施形態について説明する。本発明の電気化学素子用セパレータは、多孔質の絶縁層を含み、上記絶縁層は、耐熱性を有する絶縁性微粒子とバインダとを含み、上記絶縁性微粒子に含まれ粒子の中で、粒径が1μm以下の粒子の割合が30体積%以上であり、かつ粒径が3μm以上の粒子の割合が10体積%以下であることを特徴とする。
【0067】
より具体的には、本発明の電気化学素子用セパレータは、実施形態1で説明した本発明の絶縁層形成用スラリーを、電気化学素子用正極、電気化学素子用負極および多孔質基材よりなる群から選択される少なくとも1種の基材に塗布し、乾燥する工程を経て形成されたイオン透過性および耐熱性を有する絶縁層を有するものである。
【0068】
本明細書でいう「耐熱性を有する絶縁層」とは、絶縁層の耐熱温度が150℃以上であること、すなわち、絶縁層が少なくとも150℃において実質的に変形しないことを意味しており、具体的には、150℃に加熱された絶縁層を目視観察した際に熱収縮が確認されないことをいう。
【0069】
上記絶縁層形成用スラリーを塗布する基材として多孔質基材を用いた場合には、絶縁層と多孔質基材とが別個の層を構成しつつ、これらが一体化した構造のセパレータや、絶縁層形成用スラリーの成分と多孔質基材とが一体となって絶縁層を構成した構造のセパレータを得ることができる。また、セパレータは、絶縁層と多孔質基材とが一体化した層と、別の多孔質層とでセパレータを構成していてもよい。この場合には、絶縁層と多孔質基材とが一体化した層と、多孔質層とが一体化していてもよく、多孔質層が、絶縁層と多孔質基材とが一体化した層とは別個の独立膜で、これらが電気化学素子内で重ねられてセパレータを構成していてもよい。
【0070】
他方、絶縁層形成用スラリーを塗布する基材として、電気化学素子用正極や電気化学素子用負極を用いた場合には、絶縁層と、電気化学素子用正極および電気化学素子用負極から選ばれる少なくとも一方とが一体化する。この場合、絶縁層のみでセパレータを構成していてもよく、かかる絶縁層と、別の多孔質層とでセパレータを構成してもよい。絶縁層と、別の多孔質層とでセパレータを構成する場合には、絶縁層と多孔質層とが一体化していてもよく、多孔質層が絶縁層とは別個の独立膜で、電気化学素子内で絶縁層と重ねられてセパレータを構成していてもよい。
【0071】
上記電気化学素子用正極および上記電気化学素子用負極としては、後述するリチウム二次電池などの本発明の電気化学素子を構成するための正極および負極が挙げられる。
【0072】
上記多孔質基材としては、材質が、電気絶縁性で、電気化学素子内部の電気化学反応に対し安定で、電解液に対し安定なものであればいずれでもよいが、織布、不織布または微多孔膜であることが好ましい。微多孔膜としては、通常のリチウム二次電池などのセパレータで使用されている微多孔膜(微多孔性フィルム)と同様の構造を有するものが挙げられる。
【0073】
上記多孔質基材の具体的な構成材料としては、例えば、セルロース、セルロース変成体(カルボキシメチルセルロースなど)、ポリオレフィン[ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、エチレン由来の構造単位が85モル%以上の共重合ポリオレフィンなど]、ポリエステル[ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)など]、ポリアクリロニトリル(PAN)、アラミド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの樹脂;ガラス、アルミナ、シリカなどの無機材料(無機酸化物);などが挙げられる。上記共重合ポリオレフィンとしては、エチレン−ビニルモノマー共重合体、より具体的には、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体、またはエチレン−エチルアクリレート共重合体が例示できる。多孔質基材は、これらの構成材料の1種を含有していてもよく、2種以上を含有していても構わない。また、多孔質基材は、構成成分として、上記構成材料の他に、必要に応じて、公知の各種添加剤(例えば、樹脂である場合には酸化防止剤など)を含有していても構わない。
【0074】
上記多孔質基材を用いてセパレータを構成するに当たり、セパレータの耐熱性をより重視する場合には、多孔質基材の構成材料として、上記例示の各種材料の中でも、耐熱性の高いもの(ポリエステル、アラミド、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの耐熱性樹脂や、無機材料)を用いるのが好ましい。
【0075】
他方、電気化学素子が高温になった場合に、多孔質基材の溶融によりセパレータの空孔を閉塞させ、イオンの伝導を阻害して電気化学素子の安全性を確保する所謂シャットダウン機能を付与する場合には、所定の温度で溶融、軟化する材料によって構成した多孔質基材を用いることが好ましい。多孔質基材の構成樹脂の溶融、軟化する温度としては、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であって、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下である。多孔質基材の構成樹脂の溶融、軟化する温度は、JIS K 7121の規定に準じて、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される融解温度で判断できる(後述する熱溶融性微粒子についても、同じである。)。このような構成材料としては、ポリオレフィンが好ましく、PEがより好ましい。そして、より良好なシャットダウン機能を得るためには、PE製の微多孔膜や、PEとPPとを2〜5層積層した積層微多孔膜などを用いてセパレータを構成することが特に好ましい。
【0076】
PEのように融点が80℃以上150℃以下の熱可塑性樹脂と、PPなどのように融点が150℃を超える熱可塑性樹脂とを併用して構成された多孔質基材を用いる場合(例えば、PEと、PPなどのPEよりも高融点の樹脂とを混合して構成された微多孔膜を多孔質基材として用いたり、PE層と、PP層などのPEよりも高融点の樹脂で構成された層とを積層して構成された積層微多孔膜を多孔質基材として用いたりする場合)には、多孔質基材を構成する熱可塑性樹脂中、融点が80℃以上150℃以下の樹脂(例えばPE)が、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
【0077】
また、上記多孔質基材には、絶縁性微粒子との接着性を高めるために、紫外線照射処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、界面活性剤処理などの表面処理を施してもよい。本発明の絶縁層形成用スラリーと多孔質基材の表面との濡れ性を高めることにより、上記スラリーのより均一な塗布が可能になり、より均質で耐熱性に優れた絶縁層を形成しやすくなる。また、上記表面処理は、多孔質基材の表面部分にのみ行うのが望ましい。すなわち、上記スラリーと多孔質基材の細孔内部との濡れ性は低い方がよい。多孔質基材の細孔内部に上記処理が施されなければ、多孔質基材の細孔内には上記スラリーが侵入しにくくなり、上記スラリーや上記スラリーに用いられている分散媒が、多孔質基材の細孔を通過して塗布面とは反対側の面に抜けるのを防ぐことができる。
【0078】
例えば、表面処理後の多孔質基材の室温における臨界表面張力(B)は、絶縁層形成用スラリーの表面張力(A)と同じか、またはそれより大きくするのが望ましく、その差〔(A)−(B)〕が0mN/m以下であるのが望ましく、−10mN/m以下であることがより望ましい。
【0079】
上記表面張力および上記臨界表面張力の測定には、従来から知られている測定方法を適用することが可能である。すなわち、絶縁層形成用スラリーについては、プレート法、ペンダントドロップ法、最大泡圧法などの従来公知の方法で表面張力を測定することができる。また、多孔質基材については、表面張力が既知の液体を数種類用いて、多孔質基材と液体との接触角(θ)を測定し、表面張力に対してcosθをプロットし、cosθ=1となる点から臨界表面張力を求めることができる。
【0080】
上記多孔質基材としては、表面処理前の臨界表面張力(B')が18.5mN/m以上のものが一般に用いられ、一方、50mN/m以下のものを用いることが好ましい。例えば、ポリオレフィンを主成分とする微多孔膜では、室温における臨界表面張力(B')が、ポリエチレンの場合およそ31mN/m、ポリプロピレンの場合およそ29mN/mである。これらの多孔質基材に上記表面処理を施すことにより、所望の臨界表面張力(B)になるよう調整すればよい。
【0081】
上記多孔質基材の表面処理の条件は、使用する装置、多孔質基材の表面処理前の臨界表面張力(B')および絶縁層形成用スラリーの表面張力(A)などに応じて変動するが、例えば、春日電機社製のコロナ処理装置により、金属電極を用いて表面処理を行う場合、放電量を25〜100W/min・m2とすることが好ましい。
【0082】
上記多孔質基材として織布または不織布を用いる場合には、その構成材料は繊維であるが、その繊維の直径は、セパレータの厚み以下であればよい。具体的には、上記繊維の直径は、例えば、0.01〜5μmであることが好ましい。上記繊維の直径が大きすぎると、繊維同士の絡み合いが不足して、これらで構成される多孔質基材の強度、ひいてはセパレータの強度が小さくなって取扱いが困難となることがある。また、上記繊維の直径が小さすぎると、セパレータの空孔が小さくなりすぎてイオン透過性が低下する傾向にあり、電気化学素子の負荷特性を低下させてしまうことがある。
【0083】
また、上記多孔質基材としての織布または不織布は、繊維同士を結着するために適宜バインダを用いてもよい。バインダとしては、例えば、絶縁層に含有させるバインダ(絶縁層形成用スラリーに含有させるバインダ)として先に例示した各種バインダが挙げられる。
【0084】
また、上記多孔質基材が、織布または不織布のように、繊維で構成されるものであって、特にその空孔の開口径が比較的大きい場合(例えば、空孔の開口径が5μm以上の場合)には、これが電気化学素子の短絡の要因となりやすい。よって、この場合には、絶縁性微粒子の一部または全部が多孔質基材の空孔内に存在する構造とすることが好ましい。また、絶縁性微粒子以外の微粒子(後述する熱溶融性微粒子など)の一部または全部が、多孔質基材の空孔内に存在する構造とすることがより好ましい。このような構造とすることで、絶縁性微粒子以外の微粒子を用いることによる作用(熱溶融性微粒子であればシャットダウン機能)がより有効に発揮されるようになる。多孔質基材の空孔内に絶縁性微粒子や熱溶融性微粒子などを存在させるには、例えば、絶縁層形成用スラリーを多孔質基材に含浸させた後、一定のギャップを通して余分なスラリーを除去し、その後乾燥するなどの工程を経ればよい。
【0085】
本発明のセパレータに用いる多孔質基材としては、厚みを薄くできるという点で、不織布や微多孔膜がより好ましい。不織布や微多孔膜は従来公知の方法によって製造したものを用いることができる。より具体的には、不織布については、スパンボンド法、メルトブロー法、湿式法、乾式法、エレクトロスピニング法などの方法によって製造したものを使用することができる。また、微多孔膜については、発泡法、溶剤抽出法、乾式延伸法、湿式延伸法などの各種公知の方法によって製造したものを使用することができる。
【0086】
上記絶縁層中にシャットダウン機能を付与するための材料を含有させたり、セパレータにシャットダウン機能を付与するための層を設けたりして、セパレータにシャットダウン機能を付与することもできる。特に、耐熱性の高い樹脂を用いて構成した多孔質基材を使用したり、多孔質基材を用いずにセパレータを構成したりする場合に、セパレータのシャットダウン機能を確保するには、上記のような方法が推奨される。
【0087】
セパレータにシャットダウン機能を付与するための層は、前述の、絶縁層と多孔質基材とが一体化した層と、別の多孔質層とで構成されるセパレータや、絶縁層と別の多孔質層とで構成されるセパレータにおける「別の多孔質層」に該当する。このような「別の多孔質層」としては、例えば、前述の、所定の温度で溶融、軟化する材料によって構成した多孔質基材(より好ましくは微多孔膜)が挙げられる。
【0088】
シャットダウン機能を付与するための層(特に微多孔膜)は、高温下で熱収縮を起こしやすいが、本発明のセパレータでは、絶縁性微粒子を含有する絶縁層の作用によって、セパレータ全体の熱収縮が抑制され、高温時のセパレータの寸法安定性を高めることができる。また、シャットダウン機能を付与するための層を別途設けない構成のセパレータであっても、絶縁層に係る絶縁性微粒子の作用によって、セパレータの熱収縮が抑制される。そのため、本発明のセパレータを用いた電気化学素子では、高温時におけるセパレータの収縮による内部短絡の発生を抑制して、その信頼性、安全性を高めることができる。
【0089】
上記絶縁層中にシャットダウン機能を付与するために添加する材料としては、電気化学素子内が高温になった際に溶融、軟化する熱溶融性微粒子が挙げられる。
【0090】
上記熱溶融性微粒子の溶融、軟化する温度としては、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であって、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下である。このような熱溶融性微粒子の構成材料の具体例としては、PE、エチレン由来の構造単位が85モル%以上の共重合ポリオレフィン、PP、またはポリオレフィン誘導体(塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなど)、ポリオレフィンワックス、石油ワックス、カルナバワックスなどが挙げられる。上記共重合ポリオレフィンとしては、エチレン−ビニルモノマー共重合体、より具体的には、EVA、エチレン−メチルアクリレート共重合体、またはエチレン−エチルアクリレート共重合体が例示できる。また、ポリシクロオレフィンなどを用いることもできる。上記熱溶融性微粒子は、これらの構成材料の1種のみから形成さていてもよく、2種以上から形成されていても構わない。これらの中でも、PE、ポリオレフィンワックス、またはエチレン由来の構造単位が85モル%以上のEVAが好適である。また、上記熱溶融性微粒子は、構成成分として、上記構成材料の他に、必要に応じて、樹脂に添加される公知の各種添加剤(例えば、酸化防止剤など)を含有していても構わない。
【0091】
上記熱溶融性微粒子の粒径としては、絶縁性微粒子と同じ測定法で測定される数平均粒子径で、例えば、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上であって、好ましくは15μm以下、より好ましくは1μm以下である。
【0092】
セパレータに係る前記のシャットダウン機能は、例えば、モデルセルの温度による抵抗上昇により評価することが可能である。すなわち、正極、負極、セパレータ、および電解液を備えたモデルセルを作製し、このモデルセルを高温槽中に保持し、5℃/分の速度で昇温しながらモデルセルの内部抵抗値を測定し、測定された内部抵抗値が、加熱前(室温で測定した抵抗値)の5倍以上となる温度を測定することで、この温度をセパレータの有するシャットダウン温度として評価することができる。
【0093】
セパレータは、絶縁層や多孔質基材からなる層を複数有していてもよい。例えば、絶縁層の両面に微多孔膜を配置してセパレータを構成したり、微多孔膜の両面に絶縁層を配置してセパレータを構成したりしてもよい。ただし、セパレータの有する層数が多くなりすぎると、セパレータの厚みが増えて電気化学素子の内部抵抗の増加やエネルギー密度の低下を招く虞があるので好ましくなく、セパレータ中の層数は5層以下であることが好ましい。
【0094】
本発明のセパレータにおける絶縁性微粒子の含有量は、絶縁性微粒子を使用することによる作用をより有効に発揮させる観点から、セパレータの構成成分の全体積中、10体積%以上であることが好ましく、30体積%以上であることがより好ましく、40体積%以上であることが更に好ましい。
【0095】
また、例えば上記多孔質基材を用いずに、電極表面に絶縁層を形成する場合、上記熱溶融性微粒子を含有させてシャットダウン機能も持たせるときには、セパレータ中の絶縁性微粒子の体積比率は、例えば80体積%以下であることが好ましい。他方、多孔質基材を用いず、かつシャットダウン機能を有しないセパレータとする場合には、セパレータ中の絶縁性微粒子の体積比率は、更に高い比率でもよく、例えば95体積%以下であれば問題ない。
【0096】
また、上記多孔質基材を用いてセパレータを構成する場合であって、絶縁層中に上記熱溶融性微粒子を含有させて、シャットダウン機能も持たせたセパレータとしたり、熱溶融性の樹脂で構成された多孔質基材(例えば微多孔膜)と絶縁層とでセパレータを構成したりするときには、セパレータ中の絶縁性微粒子の体積比率は、例えば60体積%以下であることが好ましい。他方、上記多孔質基材を用い、かつシャットダウン機能を必要としない場合には、セパレータ中の絶縁性微粒子の体積比率は、更に高い比率でもよく、例えば80体積%以下であることが好ましい。
【0097】
また、セパレータにおいて、良好なシャットダウン機能を確保する観点からは、セパレータ中における熱溶融性樹脂(熱溶融性樹脂で構成される多孔質基材または熱溶融性微粒子)の含有量は、セパレータの構成成分の全体積中、5〜70体積%であることが好ましい。セパレータ中における熱溶融性樹脂の含有量が少なすぎると、これらを含有させることによるシャットダウン効果が小さくなることがあり、多すぎると、セパレータ中における絶縁性微粒子などの含有量が減ることになるため、これらによって確保される効果が小さくなることがある。
【0098】
従って、本発明の絶縁層形成用スラリーにおいては、形成後の絶縁層における各構成成分の含有量が上記好適値を満足できるような量で、これら構成成分を配合することが好ましい。
【0099】
電気化学素子の短絡防止効果をより高め、セパレータの強度を確保して、その取り扱い性を良好とする観点から、セパレータの厚みは、例えば、3μm以上とすることが好ましく、5μm以上とすることがより好ましい。他方、電気化学素子のエネルギー密度をより高める観点からは、セパレータの厚みは、50μm以下とすることが好ましく、30μm以下とすることがより好ましい。例えば、絶縁層のみでセパレータを構成する場合には、絶縁層の厚みが、上記セパレータの好適厚みを満足するようにすればよい。
【0100】
また、例えば、絶縁層と多孔質基材とを有し、これらが別個の層を形成しているセパレータの場合(特に多孔質基材が微多孔膜の場合)には、絶縁層の厚みをX(μm)、多孔質基材の厚みをY(μm)としたとき、XとYとの比率Y/Xを1〜10としつつ、セパレータ全体の厚みが上記好適値を満足するようにすることが好ましい。Y/Xが大きすぎると、絶縁層が薄くなりすぎて、例えば、多孔質基材の高温時での寸法安定性が劣る場合に、その熱収縮を抑制する効果が小さくなる虞がある。また、Y/Xが小さすぎると、絶縁層が厚くなりすぎて、セパレータ全体の厚みを増大させ、負荷特性などの電気化学素子の特性の低下を引き起こす虞がある。セパレータが、絶縁層を複数有する場合には、厚みXはその総厚みであり、多孔質基材を複数有する場合には、厚みYはその総厚みである。
【0101】
具体的な値で表現すると、多孔質基材の厚み(セパレータが多孔質基材を複数有する場合には、その総厚み)は、5μm以上であることが好ましく、また、30μm以下であることが好ましい。そして、絶縁層の厚み(セパレータが絶縁層を複数有する場合には、その総厚み)は、1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましく、4μm以上であることが更に好ましく、また、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることがより好ましい。
【0102】
また、セパレータの空孔率は、電解液の保液量を確保してイオン透過性を良好にするために、乾燥した状態で、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。一方、セパレータ強度の確保と内部短絡の防止の観点から、セパレータの空孔率は、乾燥した状態で、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましい。セパレータの空孔率:P(%)は、セパレータの厚み、面積あたりの質量、構成成分の密度から、次式を用いて各成分iについての総和を求めることにより計算できる。
【0103】
P=Σaiρi/(m/t)
【0104】
ここで、上記式中、ai:質量%で表した成分iの比率、ρi:成分iの密度(g/cm3)、m:セパレータの単位面積あたりの質量(g/cm2)、t:セパレータの厚み(cm)である。
【0105】
また、本発明のセパレータは、JIS P 8117に準拠した方法で測定され、0.879g/mm2の圧力下で100mlの空気が膜を透過する秒数で示されるガーレー値により表される透気度が、10〜300secであることが望ましい。透気度が大きすぎると、イオン透過性が小さくなり、小さすぎるとセパレータの強度が小さくなることがある。上記透気度は、これまでに説明した構成のセパレータとすることで確保できる。
【0106】
次に、本発明の電気化学素子用セパレータの製造方法について説明する。本発明の電気化学素子用セパレータの製造方法は、実施形態1で説明した本発明の絶縁層形成用スラリーを、正極、負極および多孔質基材よりなる群から選択される少なくとも1種の基材に塗布する工程と、上記絶縁層形成用スラリーが塗布された上記基材を乾燥する工程とを含んでいる。
【0107】
上記絶縁層形成用スラリーを基材表面に塗布する際には、従来から知られている塗工機、例えば、ダイコーター、グラビアコーター、リバースロールコーター、スクイズロールコーター、カーテンコーター、ブレードコーター、ナイフコーターなどの塗工機を用いることができる。
【0108】
図1に、本発明のセパレータの製造に適用できる塗工装置の一例の概略図を示す。図1に示す塗工装置は、絶縁層形成用スラリーを塗布する前の多孔質基材1に表面処理を施す装置として、コロナ放電装置2を備えている。
【0109】
図1に示す塗工装置を用いて本発明のセパレータを製造する場合、まず、ロール状に巻き取られた樹脂製の多孔質基材1を引き出し、その表面にコロナ放電装置2によってコロナ放電2aによる表面処理を施し、引き続いて、表面処理後の多孔質基材1の表面に、ダイヘッド3により絶縁層形成用スラリーを塗布する。上記表面処理を多孔質基材1の表面部分にとどめることにより、絶縁層形成用スラリーやその分散媒が多孔質基材1の細孔内に侵入するのを防ぎ、塗布面とは反対側にあるバックロール4の表面や、塗布を終えた多孔質基材1を搬送するターンロール5の表面が汚染されるのを防止することができる。これにより、上記スラリーのより均一な塗布が可能になり、絶縁層の均質性を高めることができる。
【0110】
多孔質基材1の表面に形成された塗膜は、乾燥ゾーン6において乾燥エア6aなどにより乾燥され、樹脂多孔質膜と耐熱多孔質層とを有するセパレータが得られる。図1では、樹脂製の多孔質基材1の片面に耐熱性を有する多孔質の絶縁層が形成されたセパレータの製造例を示したが、本発明のセパレータは、上記絶縁層を多孔質基材の片面にのみ有する構成でもよく、両面に有する構成でもよい。また、多孔質基材を複数有する構成としてもよい。
【0111】
また、図1では、多孔質基材に表面処理を施す工程と、表面処理後の上記多孔質基材の表面に、絶縁層形成用スラリーを塗布して絶縁層を形成する工程とが連続して実施される態様を示したが、これらの工程はそれぞれ独立に実施されても構わない。
【0112】
また、セパレータ中において、絶縁性微粒子として板状粒子を用いた場合、その配向性を高めるには、絶縁層形成用スラリーを基材に塗布する際に、絶縁層形成用スラリーにシェアをかければよい。絶縁層形成用スラリーにシェアをかけるには、例えば、多孔質基材を用いてセパレータを製造する場合では、絶縁層形成用スラリーを多孔質基材に含浸させた後、一定のギャップを通して余分なスラリーを除去し、その後乾燥するなどの工程を経ればよい。
【0113】
また、セパレータ中において、板状の絶縁性微粒子の配向性をより高めるには、前記のシェアをかける方法以外にも、高固形分濃度(例えば50〜80質量%)の絶縁層形成用スラリーを使用する方法;絶縁性微粒子を溶媒に、ディスパー、アジター、ホモジナイザー、ボールミル、アトライター、ジェットミルなどの各種混合・攪拌装置、分散装置などを用いて分散させ、得られた分散体にバインダ(更に、必要に応じて熱溶融性微粒子など)を添加・混合して調製した絶縁層形成用スラリーを使用する方法;表面に油脂類、界面活性剤、シランカップリング剤などの分散性剤を作用させて、表面を改質した絶縁性微粒子を用いて調製した絶縁層形成用スラリーを使用する方法;形状、直径またはアスペクト比の異なる絶縁性微粒子を併用して調製した絶縁層形成用スラリーを使用する方法;絶縁層形成用スラリーを多孔質基材に塗布した後の乾燥条件を制御する方法;セパレータを加圧や加熱加圧によりプレスする方法;絶縁層形成用スラリーを基材に塗布した後、乾燥前に磁場をかける方法;などが採用でき、これらの方法をそれぞれ単独で実施してもよく、2種以上の方法を組み合わせて実施してもよい。
【0114】
本発明の製造方法では、セパレータを構成する絶縁層の形成に、絶縁性微粒子の分散の安定性が良好な本発明の絶縁層形成用スラリーを用いている。そのため、本発明の製造方法によれば、例えば、長期間貯蔵した絶縁層形成用スラリーを使用しても、均一性の高い絶縁層を有するセパレータを製造できる。また、本発明の製造方法によれば、長尺のセパレータを連続的に製造しても、製造初期と製造終期とで均一性が高い絶縁層を有し、品質が安定したセパレータとすることができる。
【0115】
(実施形態3)
続いて、本発明の電気化学素子について説明する。本発明の電気化学素子は、実施形態2で説明した耐熱性の良好な本発明のセパレータを有しており、電気化学素子内が高温になっても、セパレータの熱収縮に起因する内部短絡の発生が抑制でき、また、上記セパレータによってリチウムデンドライトの析出に起因する微小短絡の発生も抑制できることから、安全性および信頼性が優れている。
【0116】
本発明の電気化学素子の用途は特に限定されるものではなく、有機電解液を用いるリチウム電池(一次電池および二次電池)の他、スーパーキャパシタなど、高温での安全性が要求される用途であれば好ましく適用できる。すなわち、本発明の電気化学素子は、本発明の電気化学素子用セパレータを用いていれば、その他の構成、構造については特に制限はなく、従来から知られている有機電解液を有する各種電気化学素子(リチウム二次電池、リチウム一次電池、スーパーキャパシタなど)が備えている各種構成、構造を採用することができる。
【0117】
以下、本発明の電気化学素子の一例として、正極と、負極と、正極と負極との間に配置されたセパレータと、電解液とを備えたリチウム二次電池への適用について詳述する。リチウム二次電池の形態としては、スチール缶やアルミニウム缶などを外装缶として使用した筒形(角筒形や円筒形など)などが挙げられる。また、金属を蒸着したラミネートフィルムを外装体としたソフトパッケージ電池とすることもできる。
【0118】
上記正極としては、従来から知られているリチウム二次電池に用いられている正極、すなわち、Liイオンを吸蔵放出可能な活物質を含有する正極であれば特に制限はない。例えば、正極活物質として、Li1+xMO2(−0.1<x<0.1、M:Co、Ni、Mn、Mg、Al、Zr、Tiなど)で表されるリチウム含有遷移金属酸化物;LiMn24などのリチウムマンガン酸化物;LiMn24のMnの一部を他元素で置換したLiMnx(1-x)2;オリビン型LiMPO4(M:Co、Ni、Mn、Fe);LiMn0.5Ni0.52;Li(1+a)MnxCoyNi(1-x-y)2(−0.1<a<0.1、0<x<0.5、0<y<0.5);などを適用することが可能である。また、正極としては、これらの正極活物質に公知の導電助剤(カーボンブラックなどの炭素材料など)やポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのバインダなどを適宜添加した正極合剤を、集電体を芯材として成形体(正極合剤層)に仕上げたものなどを用いることができる。
【0119】
上記正極の集電体としては、アルミニウムなどの金属の、箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、厚みが10〜30μmのアルミニウム箔が好適に用いられる。
【0120】
正極側のリード部は、通常、正極作製時に、集電体の一部に正極合剤層を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。ただし、リード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体にアルミニウム製の箔などを後から接続することによって設けてもよい。
【0121】
上記負極としては、従来から知られているリチウム二次電池に用いられている負極、すなわち、Liイオンを吸蔵放出可能な活物質を含有する負極であれば特に制限はない。例えば、負極活物質として、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などの、リチウムを吸蔵、放出可能な炭素系材料の1種または2種以上の混合物が用いられる。また、Si、Sn、Ge、Bi、Sb、Inなどの元素およびその合金、リチウム含有窒化物などのリチウム金属に近い低電圧で充放電できる化合物、もしくはリチウム金属やリチウム/アルミニウム合金も負極活物質として用いることができる。また、負極としては、これらの負極活物質に導電助剤(カーボンブラックなどの炭素材料など)やPVDFなどのバインダなどを適宜添加した負極合剤を、集電体を芯材として成形体(負極合剤層)に仕上げたものや、上記各種合金やリチウム金属の箔を単独で用いたり、上記合金やリチウム金属の層を集電体に積層して形成した負極剤層を有するものなどが用いられる。
【0122】
上記負極に集電体を用いる場合には、集電体としては、銅製やニッケル製の、箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタルなどを用い得るが、通常、銅箔が用いられる。この負極集電体は、高エネルギー密度の電池を得るために負極全体の厚みを薄くする場合、厚みの上限は30μmであることが好ましく、また、下限は5μmであることが望ましい。
【0123】
負極側のリード部も、正極側のリード部と同様に、通常、負極作製時に、集電体の一部に負極剤層(負極活物質を有する層、負極合剤層を含む)を形成せずに集電体の露出部を残し、そこをリード部とすることによって設けられる。ただし、この負極側のリード部は必ずしも当初から集電体と一体化されたものであることは要求されず、集電体に銅製の箔などを後から接続することによって設けてもよい。
【0124】
正極と上記負極とは、本発明のセパレータを介して積層した積層構造の電極群や、更にこれを巻回した巻回構造の電極群の形態で用いることができる。
【0125】
上記電解液(有機電解液)としては、リチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液が用いられる。リチウム塩としては、溶媒中で解離してLi+イオンを形成し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こさないものであれば特に制限はない。例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6 、LiSbF6 などの無機リチウム塩;LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li224(SO32、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiCn2n+1SO3(2≦n≦5)、LiN(RfOSO22〔ここでRfはフルオロアルキル基〕などの有機リチウム塩;などを用いることができる。
【0126】
上記電解液に用いる有機溶媒としては、上記リチウム塩を溶解し、電池として使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こさないものであれば特に限定されない。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;プロピオン酸メチルなどの鎖状エステル;γ−ブチロラクトンといった環状エステル;ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、1,3−ジオキソラン、ジグライム、トリグライム、テトラグライムなどの鎖状エーテル;ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリルといったニトリル類;エチレングリコールサルファイトなどの亜硫酸エステル類;などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても構わない。より良好な特性の電池とするためには、エチレンカーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒など、高い誘電率を得ることができる組み合わせで用いることが望ましい。また、これらの電解液に安全性や充放電サイクル性、高温貯蔵性といった特性を向上させる目的で、ビニレンカーボネート類、1,3−プロパンサルトン、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、フルオロベンゼン、t−ブチルベンゼンなどの添加剤を適宜加えることもできる。
【0127】
上記このリチウム塩の電解液中の濃度としては、0.5〜1.5mol/lとすることが好ましく、0.9〜1.25mol/lとすることがより好ましい。
【0128】
また、上記有機溶媒の代わりに、エチル−メチルイミダゾリウムトリフルオロメチルスルホニウムイミド、へプチル−トリメチルアンモニウムトリフルオロメチルスルホニウムイミド、ピリジニウムトリフルオロメチルスルホニウムイミド、グアジニウムトリフルオロメチルスルホニウムイミドといった常温溶融塩を用いることもできる。
【0129】
更に、上記電解液を含有してゲル化するような高分子材料を添加して、電解液をゲル状にして電池に用いてもよい。電解液をゲル状とするための高分子材料としては、PVDF、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)、PAN、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、主鎖または側鎖にエチレンオキシド鎖を有する架橋ポリマー、架橋したポリ(メタ)アクリル酸エステルなど、公知のゲル状電解質形成可能なホストポリマーが挙げられる。
【0130】
本発明の電気化学素子は、携帯電話、ノート型パーソナルコンピューターなどの携帯機器、電気自動車、ハイブリッド式自動車、電動バイク、電動アシスト自転車、電動工具、シェーバーなどの各種機器の電源用途などを始めとして、従来から知られている電気化学素子が用いられている各種用途と同じ用途に適用することができる。
【実施例】
【0131】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。
【0132】
以下の実施例では、絶縁性微粒子の体積基準の粒度分布におけるメジアン径(d50)、累積分布10%の値(d10)、累積分布30%の値(d30)、累積分布90%の値(d90)をそれぞれ求め、メジアン径を絶縁性微粒子の平均粒径とした。また、d30から、粒径が1μm以下の粒子の割合が30体積%以上であることを、d90から、粒径が3μm以上の粒子の割合が10体積%以下であることを、それぞれ確認した。
【0133】
<絶縁層形成用スラリーの調製>
(実施例1)
アスペクト比が10の板状ベーマイト(絶縁性微粒子)1000gに、水(分散媒)1000gと、ベーマイト100質量部に対して1質量部のポリアクリル酸アンモニウム(分散剤)とを添加し、これを卓上ボールミルにて6日間混合して、板状ベーマイトを水に分散させた。得られた分散液中のベーマイトのd10、d30、d50およびd90は、それぞれ、0.40μm、0.68μm、0.98μmおよび1.86μmであり、平均粒径が0.98μmで、粒径が1μm以下の粒子の割合が50体積%以上であり、粒径が3μm以上の粒子の割合が10体積%以下であることが確認された。
【0134】
次に、上記分散液に、バインダとしてブチルアクリレートをモノマーの主成分として得られた自己架橋性のアクリル酸共重合体のエマルジョンを、ベーマイト100質量部に対して3質量部添加し、更に、増粘剤としてキサンタンガムを2g添加し、スリーワンモーターで1時間攪拌して分散させて、均一な絶縁層形成用スラリーを得た。
【0135】
得られた絶縁層形成用スラリーの粘度を、E型粘度計を用いて20℃で測定したところ、200mPa・sであった。
【0136】
また、上記絶縁層形成用スラリーの安定性を、タービスキャン(英弘精機社製の「MA−2000(商品名)」)を用いて、サンプル管中での沈降高さを測定することで評価した。すなわち、サンプル管に上記絶縁層形成用スラリーを高さ60mmに注入して後方散乱光強度を測定し、散乱光強度が1以上になる点までの高さを測定し、沈降高さとした。本実施例1での測定開始後1週間での沈降高さは54mmであった。
【0137】
(実施例2)
板状ベーマイトに代えて多面体形状のアルミナを用いた以外は、実施例1と同様にして絶縁層形成用スラリーを調製した。水に分散後のアルミナのd10、d30、d50およびd90は、それぞれ、0.40μm、0.47μm、0.54μmおよび1.15μmであり、平均粒径が0.54μmで、粒径が1μm以下の粒子の割合が50体積%以上であり、粒径が3μm以上の粒子の割合が10体積%以下であることが確認された。得られた絶縁層形成用スラリーについて実施例1と同様にして測定した結果、粘度が180mPa・s、1週間後の沈降高さが53mmであった。
【0138】
(実施例3)
板状ベーマイトに代えてアスペクト比が25の板状アルミナを用いた以外は、実施例1と同様にして絶縁層形成用スラリーを調製した。水に分散後のアルミナのd10、d30、d50およびd90は、それぞれ、0.43μm、0.78μm、1.05μmおよび1.20μmであり、平均粒径が1.05μmで、粒径が1μm以下の粒子の割合が30体積%以上であり、粒径が3μm以上の粒子の割合が10体積%以下であることが確認された。得られた絶縁層形成用スラリーについて実施例1と同様にして測定した結果、粘度が190mPa・s、1週間後の沈降高さが55mmであった。
【0139】
(実施例4)
板状ベーマイトに代えて二次粒子構造のベーマイトを用いた以外は、実施例1と同様にして絶縁層形成用スラリーを調製した。水に分散後のベーマイトのd10、d30、d50およびd90は、それぞれ、0.34μm、0.48μm、0.71μmおよび1.24μmであり、平均粒径が0.71μmで、粒径が1μm以下の粒子の割合が50体積%以上であり、粒径が3μm以上の粒子の割合が10体積%以下であることが確認された。得られた絶縁層形成用スラリーについて実施例1と同様にして測定した結果、粘度が220mPa・s、1週間後の沈降高さが56mmであった。
【0140】
(実施例5)
板状ベーマイトに代えて多面体形状のシリカを用い、増粘剤の添加量を10gに変更した以外は、実施例1と同様にして絶縁層形成用スラリーを調製した。水に分散後のシリカのd10、d30、d50およびd90は、それぞれ、0.11μm、0.16μm、0.20μmおよび0.39μmであり、平均粒径が0.20μmで、粒径が1μm以下の粒子の割合が90体積%以上であり、粒径が3μm以上の粒子の割合が10体積%以下であることが確認された。得られた絶縁層形成用スラリーについて実施例1と同様にして測定した結果、粘度が200mPa・s、1週間後の沈降高さが50mmであった。
【0141】
(実施例6)
実施例1の絶縁層形成用スラリーに、更に防腐剤であるパラオキシ安息香酸エステルを1g添加して絶縁層形成用スラリーを調製した。得られた絶縁層形成用スラリーについて実施例1と同様にして測定した結果、粘度および1週間後の沈降高さは、実施例1の絶縁層形成用スラリーと同じであった。
【0142】
(実施例7)
実施例1の絶縁層形成用スラリーに、更に消泡剤であるポリエーテル系の消泡剤(ポリエーテル変性オルガノポリシロキサン)を0.1g添加して絶縁層形成用スラリーを調製した。得られた絶縁層形成用スラリーについて実施例1と同様にして測定した結果、粘度および1週間後の沈降高さは、実施例1の絶縁層形成用スラリーと同じであった。
【0143】
(比較例1)
増粘剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして絶縁層形成用スラリーを調製した。得られた絶縁層形成用スラリーについて実施例1と同様にして測定した結果、粘度が3mPa・s、1週間後の沈降高さが34mmであった。
<セパレータの製造1>
【0144】
(実施例8〜14)
実施例1〜7の絶縁層形成用スラリーをそれぞれ均一に攪拌し、脱泡した後、上記スラリー中に厚みが15μmのPET製不織布(多孔質基材)を通し、引き上げ塗布により上記スラリーを塗布した後、所定の間隔を有するギャップの間を通し、乾燥して、厚みが20μmのセパレータを得た。但し、消泡剤を含有する実施例7の絶縁層形成用スラリーについては、脱泡処理を行う必要がなかった。
【0145】
実施例1〜7の絶縁層形成用スラリーは、いずれも安定性が高く、長時間連続して基材に均一に塗布することができた。そのため、実施例1〜7のスラリーを用いることにより、均一性の高い絶縁層を有するセパレータ(実施例8〜14)を長時間にわたり得ることができた。
【0146】
これに対し、増粘剤を含有しておらず、粘度が低い比較例1の絶縁層形成用スラリーを用い、前記と同様にしてセパレータを作製したところ、塗布開始直後には、比較的均一性の高い絶縁層を有するセパレータが得られた。しかし、時間の経過と共に、絶縁層形成用スラリーにおいて絶縁性微粒子の沈降が発生し、均一な絶縁層が形成されなくなった。このため、比較例1の絶縁層形成用スラリーでは、長時間の連続塗工ができなかった。
【0147】
<セパレータの製造2>
(実施例15〜21)
実施例1〜7および比較例1の絶縁層形成用スラリーをそれぞれ均一に攪拌し、脱泡した後、ダイコーターを用いて、厚さ16μmのPE製微多孔膜(多孔質基材)の片面に上記スラリーを塗布し、乾燥して、厚みが20μmのセパレータを得た。但し、消泡剤を含有する実施例7の絶縁層形成用スラリーについては、脱泡処理を行う必要がなかった。
【0148】
実施例1〜7の絶縁層形成用スラリーは、いずれも安定性が高く、長時間連続して基材に均一に塗布することができた。そのため、実施例1〜7のスラリーを用いることにより、均一性の高い絶縁層を有するセパレータ(実施例15〜21)を長時間にわたり得ることができた。
【0149】
これに対し、増粘剤を含有しておらず、粘度が低い比較例1の絶縁層形成用スラリーを用い、前記と同様にしてセパレータを作製したところ、塗布開始直後には、比較的均一性の高い絶縁層を有するセパレータが得られた。しかし、時間の経過と共に、ダイヘッド中で、絶縁層形成用スラリーにおいて絶縁性微粒子の沈降が発生し、スラリーの塗布膜にスジが生じるようになった。このため、比較例1の絶縁層形成用スラリーでは、長時間の連続塗工ができなかった。
【0150】
<セパレータの耐熱性の評価>
実施例1〜7のそれぞれの絶縁層形成用スラリーを、アプリケーターを用いて銅箔の表面に塗布して乾燥し、厚みが20μmの多孔質の絶縁層を形成した。更に、上記絶縁層を形成した銅箔を、150℃に加熱して熱収縮の有無を目視観察で調べたが、上記絶縁層に熱収縮は認められなかった。
【0151】
次に、以下の方法により、実施例8〜21のセパレータの耐熱性を評価した。先ず、厚み1mmの厚紙を9×9cmに切り出し、中央に3cm四方の穴を開けたものを2枚用意した。次に、1枚の厚紙の、中央の穴の周囲4辺に両面テープを貼り、試験に用いるセパレータを中央に置いて貼り付け、もう1枚の厚紙で挟み、固定した。続いて、厚紙で固定したセパレータを150℃の高温槽中に吊り下げて3時間放置し、その後取り出してセパレータの破膜の有無を観察した。比較として、リチウム二次電池用のPE微多孔膜(厚み20μm)についても、同様の評価を行った。
【0152】
実施例8〜21のセパレータは、上記試験後においても破膜が見られず、良好な耐熱性を示した。これに対し、PEのみで構成されている微多孔膜は、試験後に破膜が見られ、耐熱性に劣ることが判明した。
【0153】
<リチウム二次電池の製造>
(実施例22)
正極活物質であるLiCoO2:85質量部、導電助剤であるアセチレンブラック:10質量部、およびバインダであるPVDF:5質量部を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶剤として均一になるように混合して、正極合剤含有ペーストを調製した。このペーストを、集電体となる厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に、塗布長が表面320mm、裏面250mになるように間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って、全厚が150μmになるように正極合剤層の厚みを調整し、幅43mmになるように切断して、長さ340mm、幅43mmの正極を作製した。更に、この正極のアルミニウム箔の露出部にリード部を接続した。
【0154】
また、負極活物質である黒鉛:90質量部と、バインダであるPVDF:5質量部とを、NMPを溶剤として均一になるように混合して、負極合剤含有ペーストを調製した。このペーストを、集電体となる厚さ10μmの銅箔の両面に、塗布長が表面320mm、裏面260mmになるように間欠塗布し、乾燥した後、カレンダー処理を行って全厚が142μmになるように負極合剤層の厚みを調整し、幅45mmになるように切断して、長さ330mm、幅45mmの負極を作製した。更に、この負極の銅箔の露出部にリード部を接続した。
【0155】
上記のようにして得られた正極と負極とを、実施例8のセパレータを介して重ね合わせ、渦巻状に巻回して巻回構造の電極群とした。この電極群を直径14mm、高さ50mmの円筒状の電池ケース内に挿入した。その後、電解液として、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを1:2の体積比で混合した溶媒に、LiPF6を1.2mol/lの濃度で溶解させた溶液を、上記電池ケース内に注入し、電池ケースの開口部を定法に従って封止し、リチウム二次電池を製造した。
【0156】
(実施例23〜28)
実施例9〜14のセパレータをそれぞれ用いた以外は、実施例22と同様にして、実施例23〜28のリチウム二次電池を製造した。
【0157】
(実施例29〜35)
実施例15〜21のセパレータをそれぞれ用い、PE製微多孔膜が負極側に配置されるように、セパレータを正極と負極の間に介在させた以外は、実施例22と同様にして、実施例29〜35のリチウム二次電池を製造した。
【0158】
各実施例のリチウム二次電池に用いたセパレータおよび絶縁層形成用スラリーについて、表1にまとめて示す。
【0159】
【表1】
【0160】
<充放電特性の評価>
実施例22〜35で作製したリチウム二次電池について、予備充電(化成時充電)として、電池の定格容量750mAhに対して20%にあたる電気量となるように、150mAで4.2Vまで充電する定電流充電を行い、次いで、4.2Vでの定電圧充電を、上記定電流充電との合計で6時間行った。更に、充電後の電池に対して、電圧が3Vに低下するまで150mAで定電流放電を行い、電池の化成処理とした。
【0161】
次に、化成処理を行った実施例22〜35のリチウム二次電池について、電流150mAで4.2Vまでの定電流充電と4.2Vでの定電圧充電を、合わせて15時間行った後、150mAで3.0Vまでの放電を行ったところ、いずれの電池もほぼ定格容量となる放電容量が得られた。このときの充電電気量に対する放電容量の割合は、いずれの電池もほぼ100%となっており、良好な充放電特性および信頼性を有していることが確認された。
【0162】
絶縁層形成用スラリーに添加するバインダに、自己架橋性のアクリル樹脂を用いたことで、これらにより形成された絶縁層(セパレータ)の柔軟性が向上して、巻回構造の電極群の最内周部におけるセパレータのひび割れや絶縁性微粒子の剥離が抑制され、リチウムデンドライトの析出による微小な短絡の発生を充分に抑制できたため、より信頼性の高いセパレータを構成することができたと考えられる。
【0163】
<絶縁性微粒子の分散性の評価>
(比較例2)
分散剤であるポリアクリル酸アンモニウムを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして絶縁層形成用スラリーを調製した。水に分散後の板状ベーマイトのd10、d30、d50およびd90は、それぞれ、1.05μm、1.83μm、2.72μmおよび4.82μmであり、平均粒径が2.72μmで、粒径が1μm以下の粒子の割合が10体積%未満であり、粒径が3μm以上の粒子の割合が50体積%以上であった。
【0164】
(実施例36)
分散剤であるポリアクリル酸アンモニウムを使用しなかった以外は、実施例2と同様にして絶縁層形成用スラリーを調製した。水に分散後のアルミナのd10、d30、d50およびd90は、それぞれ、0.53μm、0.70μm、0.85μmおよび1.32μmであり、平均粒径が0.85μmで、粒径が1μm以下の粒子の割合が50体積%以上であり、粒径が3μm以上の粒子の割合が10体積%以下であることが確認された。
【0165】
(実施例37)
分散剤であるポリアクリル酸アンモニウムを使用しなかった以外は、実施例3と同様にして絶縁層形成用スラリーを調製した。水に分散後の板状アルミナのd10、d30、d50およびd90は、それぞれ、0.55μm、0.88μm、1.22μmおよび1.43μmであり、平均粒径が1.22μmで、粒径が1μm以下の粒子の割合が30体積%以上であり、粒径が3μm以上の粒子の割合が10体積%以下であることが確認された。
【0166】
実施例1〜3、36、37および比較例2の絶縁層形成用スラリー中での絶縁性微粒子の分散性を評価するために、これらの各スラリーを、アプリケーターを用いて銅箔表面に塗布して乾燥し、イオン透過性および耐熱性を有する多孔質の絶縁層(厚み20μm)を形成した。
【0167】
上記絶縁層を形成した銅箔の絶縁層側に金属リチウムを対向させ、これらを電解液中に含浸させて評価用セルを作製した。電解液には、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを1:2の体積比で混合した溶媒に、LiPF6を1mol/lの濃度で溶解させた溶液を用いた。
【0168】
上記各評価用セルに、1mA/cm2の電流密度で電流を1分間流し、その後電流値を0.1mA/cm2ずつ順次増大させ、短絡が発生した時点での電流値を、上記絶縁層の短絡電流とした。これらの結果を表2に示す。
【0169】
【表2】
【0170】
表2に示すように、分散剤を用いた実施例1〜3の絶縁層形成用スラリーにより形成された絶縁層は、分散剤を用いなかった実施例36、37および比較例2のスラリーにより形成された絶縁層と比べて、短絡電流が大きく、短絡の発生が抑制されていることが分かる。これは、実施例1〜3の絶縁層形成用スラリーでは、実施例36、37および比較例2のスラリーに比べて、絶縁性微粒子がより均一に分散していることから、より均一性の高い絶縁層が形成でき、これにより絶縁層内でのリチウムイオンの移動がより均一になり、電流集中によるデンドライト成長が抑制されたためと推測される。特に、板状の絶縁性微粒子を用いた場合に、分散剤の添加により短絡電流が大きく上昇し、分散剤による粒子の分散性向上の効果が大きいことが分かる。
【0171】
<電極とセパレータの一体化>
(実施例38〜44)
実施例1〜7の絶縁層形成用スラリーをそれぞれ均一に攪拌した後、脱泡し、ダイコーターを用いて、実施例22で作製したものと同じ負極の両面に塗布し、乾燥して、片面当たりの厚みが20μmの絶縁層からなるセパレータを負極の表面に形成した。但し、消泡剤を含有する実施例7の絶縁層形成用スラリーについては、脱泡処理を行う必要がなかった。
【0172】
更に、実施例22で使用したものと同じ正極と、上記セパレータと一体化した負極とを重ね、渦巻状に巻回して巻回構造の電極群とした。この電極群を用いた以外は、実施例22と同様にして、実施例38〜44のリチウム二次電池を製造した。実施例38〜44のリチウム二次電池の作製に用いた絶縁層形成用スラリーについて、表3にまとめて示す。
【0173】
【表3】
【0174】
実施例1〜7の絶縁層形成用スラリーから形成された絶縁層(セパレータ)と一体化された負極をそれぞれ有する実施例38〜44のリチウム二次電池についても、実施例22〜35のリチウム二次電池と同様にして充放電特性の評価を行った。いずれの電池もほぼ定格容量となる放電容量が得られ、良好な充放電特性および信頼性を有していることを確認した。
【0175】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、上記以外の形態としても実施が可能である。本出願に開示された実施形態は一例であって、これらに限定はされない。本発明の範囲は、上述の明細書の記載よりも、添付されている請求の範囲の記載を優先して解釈され、請求の範囲と均等の範囲内での全ての変更は、請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明によれば、絶縁性微粒子が均一に分散し、その分散状態を安定して維持できる絶縁層形成用スラリーが提供でき、この絶縁層形成用スラリーを用いて製造される電気化学素子用セパレータは、優れた耐熱性を有するものであり、上記電気化学素子用セパレータを用いることにより、優れた信頼性を有する電気化学素子を提供できる。
【0177】
【符号の説明】
1 多孔質基材
2 コロナ放電装置
2a コロナ放電
3 ダイヘッド
4 バックロール
5 ターンロール
6 乾燥ゾーン
6a 乾燥エア
図1